(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166382
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】アニオン性薬理学的活性物質の徐放性脂質初期製剤およびこれを含む薬剤学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/26 20060101AFI20170710BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20170710BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20170710BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20170710BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20170710BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20170710BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20170710BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20170710BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20170710BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20170710BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20170710BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20170710BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K47/24
A61K47/02
A61K47/14
A61K47/22
A61K47/28
A61K47/08
A61K9/10
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/20
A61K9/48
【請求項の数】17
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-550322(P2015-550322)
(86)(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公表番号】特表2016-504352(P2016-504352A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】KR2013012265
(87)【国際公開番号】WO2014104788
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0157582
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514052597
【氏名又は名称】チョン クン ダン ファーマシューティカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ユン、サン フィル
(72)【発明者】
【氏名】コ、キ ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ユン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、スン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ソ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】キ、ミン ヒョ
【審査官】
鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−501676(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/139804(WO,A1)
【文献】
特表2005−505602(JP,A)
【文献】
米国特許第05939096(US,A)
【文献】
特表2008−528463(JP,A)
【文献】
特表2001−506541(JP,A)
【文献】
Biochim. Biophys. Acta,1995年,Vol.1239,pp.145-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/26
A61K 9/08
A61K 9/10
A61K 9/107
A61K 9/12
A61K 9/20
A61K 9/48
A61K 47/02
A61K 47/08
A61K 47/14
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 47/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)極性頭基に−OH(ヒドロキシル、hydroxyl)基が2つ以上存在する、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)と、
b)リン脂質(phospholipid)と、
c)イオン化基を有せず、疎水性部分は、炭素数15〜40のトリアシル基または炭素環構造を有する、液晶硬化剤(liquid crystal hardener)と、
d)2価以上の金属塩と、
を含み、
液晶硬化剤が、疎水性部分が炭素数15〜40のトリアシル基を有するトリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)、ユビキノン(ubiquinone)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものであり、および
水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶(liquid crystal)を形成する徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項2】
前記ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、セスキリノール酸ソルビタン(sorbitan sesquilinoleate)、セスキパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquipalmitoleate)、セスキミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquimyristoleate)、ジオレイン酸ソルビタン(sorbitan dioleate)、ジリノール酸ソルビタン(sorbitan dilinoleate)、ジパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan dipalmitoleate)、ジミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan dimyristoleate)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項3】
前記ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)は、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項4】
前記リン脂質(phospholipid)は、飽和または不飽和された炭素数4〜30のアルキルエステル基を有し、および、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)、ホスファチジルグリセリン(phosphatidylglycerine)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項5】
前記液晶硬化剤は、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項6】
前記2価以上の金属塩の金属は、アルミニウム(aluminum)、カルシウム(calcium)、鉄(iron)、マグネシウム(magnesium)、錫(tin)、チタン(titanium)および亜鉛(zinc)よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項7】
前記2価以上の金属塩は、アルミニウム(aluminum)、カルシウム(calcium)および亜鉛(zinc)よりなる群から選択されるものである請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項8】
a)およびb)の重量比が10:1〜1:10である請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項9】
a)+b)およびc)の重量比が1000:1〜1:1である請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項10】
a)+b)+c)およびd)の重量比が10000:1〜10:1である請求項1に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)。
【請求項11】
請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)と、
e)アニオン性薬理学的活性物質と、
を含み、
前記徐放性初期製剤の2価以上の金属塩が前記アニオン性薬理学的活性物質とイオン結合することにより、アニオン性薬理学的活性物質の徐放性が強化される薬剤学的組成物。
【請求項12】
前記アニオン性薬理学的活性物質は、少なくとも1つ以上のカルボン酸(carboxylic acid)、スルフィン酸(sulfinic acid)、スルホン酸(sulfonic acid)、ホスホン酸(phosphonic acid)、リン酸(phosphoric acid)、ボロン酸(boronic acid)、ボリン酸(borinic acid)、芳香族アルコール(aromatic alcohol)、イミド(imide)または4次アンモニウムのハロゲン塩(quaternary ammonium halide salts)構造を含む薬理学的活性物質、これらの薬剤学的に許容可能な塩およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項11に記載の薬剤学的組成物。
【請求項13】
前記アニオン性薬理学的活性物質は、ボルテゾミブ(bortezomib)、メトトレキサート(methotrexate)、オロパタジン(olopatadine)、リラグルチド(liraglutide)、エクセナチド(exenatide)、タスポグルチド(taspoglutide)、アルビグルチド(albiglutide)、リキシセナチド(lixisenatide)、インターフェロンアルファ(interferon alpha)、インターフェロンベータ(interferon beta)、インターフェロンガンマ(interferon gamma)、チオトロピウム(tiotropium)、イプラトロピウム(ipratropium)、グリコピロニウム(glycopyrronium)、アクリジニウム(aclidinium)、ウメクリジニウム(umeclidinium)、トロスピウム(trospium)、アレンドロン酸(alendronic acid)、イバンドロン酸(ibandronic acid)、インカドロン酸(incadronic acid)、パミドロン酸(pamidronic acid)、リセドロン酸(risedronic acid)、ゾレドロン酸(zoledronic acid)、エチドロン酸(etidronic acid)、クロドロン酸(clodronic acid)、チルドロン酸(tiludronic acid)、オルパドロン酸(olpadronic acid)、ネリドロン酸(neridronic acid)、グルカゴン 様ペプチド(glucagon-like peptids)、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone)、インシュリンおよびインシュリン様成長因子(insulin and insulin-like growth factors)、副甲状腺ホルモンおよびその断片(parathyroid hormone and its fragments)、ダルベポエチンアルファ(darbepoetin alpha)、エポエチンアルファ(epoetin alpha)、エポエチンベータ(epoetin beta)、エポエチンデルタ(epoetin delta)、ジクロフェナク(diclofenac)、レボカバスチン(levocabastine)、インドメタシン(indomethacin)、イブプロフェン(ibuprofen)、フルルビプロフェン(flurbiprofen)、フェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)、ジクロフェナク(diclofenac)、エトドラク(etodolac)、スリンダク(sulindac)、トルメチン(tolmetin)、サリチル酸(salicylic acid)、ジフルニサル(diflunisal)、オキサプロジン(oxaprozin)、チアガビン(tiagabine)、ガバペンチン(gabapentin)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、レボフロキサシン(levofloxacin)、フシジン酸(fusidic acid)、アミノレブリン酸(aminolevulinic acid)、これらの薬剤学的に許容可能な塩およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項11に記載の薬剤学的組成物。
【請求項14】
前記アニオン性薬理学的活性物質は、チオトロピウム(tiotropium)、イプラトロピウム(ipratropium)、グリコピロニウム(glycopyrronium)、アクリジニウム(aclidinium)、ウメクリジニウム(umeclidinium)、トロスピウム(trospium)、これらの薬剤学的に許容可能な塩およびこれらの混合物よりなる群から選択されるものである請求項11に記載の薬剤学的組成物。
【請求項15】
a)+b)+c)+d)およびe)の重量比が、10000:1〜2:1である請求項11に記載の薬剤学的組成物。
【請求項16】
前記薬剤学的組成物が、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、カプセル剤、錠剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、吸入剤、点眼剤、粘着剤、貼付剤の中から選択される剤形である請求項11に記載の薬剤学的組成物。
【請求項17】
前記剤形は、注射剤である請求項16に記載の薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性薬理学的活性物質の徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)およびこれを含む薬剤学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、長期に亘って投与しなければならない薬理学的活性物質を繰り返し投与する場合に発生する副作用の減少または投与回数の減少を図るための方法として、徐放性製剤(sustained release formulation)についての研究がなされている。徐放性製剤は、薬物伝達システム (drug delivery system;DDS)の一環であり、単回の投与で薬理学的活性物質が製剤から徐々に放出されるようにして、 一定の時間または一定の時間以上薬理学的活性物質の有効濃度範囲を維持する製剤である。
【0003】
現在使用されている代表的な徐放性素材は、合成高分子として米国食品医薬品局(FDA)の承認を得たPLGA[poly(lactic−co−glycolic acid)]である。PLGAは、様々な割合の乳酸(lactic acid)またはラクチド(lactide)およびグリコール酸(glycolic acid)またはグリコリド(glycolide)からなる共重合体であり、米国登録特許第5,480,656号には、PLGAが生体内で一定時間を経つと、乳酸とグリコール酸に分解されて薬理学的活性物質を持続的に放出させると記載されている。ところが、PLGAの分解産物である酸性物質は炎症反応を起こし、毒性物を産生して細胞増殖率を減少させると報告されており(K. Athanasiou、G. G. Niederauer、and C. M. Agrawal、Biomaterials、17、93(1996))、徐放のためには10〜100μmの粒径を有するのPLGA固体粒子に薬物を封入して注射しなければならないが、この場合、注射時の疼痛または炎症を伴うという問題がある。この理由から、薬理学的活性物質の有効濃度を一定の期間以上提供しながら患者の服薬順応性(compliance)を高めることのできる新規な徐放性製剤の開発が求められる。
【0004】
本発明において発明者らは、a)液晶形成剤と、b)リン脂質(phospholipid)およびc)液晶硬化剤を含み、水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶を形成する徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)を発明した。
【0005】
本発明者らは、上述した脂質初期製剤に中性または脂溶性の薬理学的活性物質を適用した場合に薬物が徐々に放出されて長期に亘って有効濃度範囲を維持することを確認した。しかしながら、アニオン性薬物または総電荷が陰電荷である薬物の場合、中性または脂溶性の薬物に比べて相対的に初期放出率が高くなり、しかも、有効濃度の維持期間が短くなる虞がある。
【0006】
活性物質の特性に応じてアニオン性薬物の生体内の有効濃度を一定の期間以上提供し、初期放出率を下げて徐放性をより一層増進させるための方法の導入が求められる。
【0007】
そこで、本発明者らは、a)液晶形成剤と、b)リン脂質と(phospholipid)、c)液晶硬化剤およびd)2価以上の金属塩を含み、水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶を形成する徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)を用いて安全性および生分解性の問題を解消し、e)アニオン性薬理学的活性物質の徐放を提供することのできる薬剤学的組成物の発明を完成した。
【0008】
以下、本発明に関連する先行技術を検討する。
【0009】
国際公開特許第WO2005/117830号は、少なくとも一つの中性ジアシル脂質および/またはトコフェロール、少なくとも一つのリン脂質、および少なくとも一つの生体適合性、酸素含有、低粘度の有機溶媒を含む非液晶混合物を含む初期製剤を開示しており、国際公開特許第WO2006/075124号は、少なくとも一つのジアシルグリセリド、少なくとも一つのホスファチジルコリン、少なくとも一つの酸素含有有機溶媒、および少なくとも一つのソマトスタチン類似体を含む初期製剤を開示している。これらの製剤はいずれも、薬理学的活性物質を生体内(in vivo)で2週以上持続的に放出した。しかしながら、これらの組成物の核心構成成分において、一部の薬物の活性低下を引き起こす有機溶媒を使用しなければならないという点と、本発明の薬理学的活性物質の徐放性を増進させるための2価以上の金属塩が核心構成成分ではないという点で本発明とは異なる。(H. Ljusberg−Wahre、F. S. Nielse、298、328−332(2005); H. Sah、Y. bahl、Journal of Controlled Release 106、51−61(2005))。
【0010】
米国登録特許第7,731,947号は、インターフェロン、スクロース、メチオニンおよびクエン酸緩衝液からなる固体粒子が安息香酸ベンジルなどの有機溶媒に分散した組成物を開示している。また、一部の実施形態では、ホスファチジルコリンをビタミンE(トコフェロール)と共に有機溶媒に溶解させて固体粒子の分散液として使用することができることを説明している。ところが、この特許の組成は、液晶が形成されないうえ、これらを固体粒子分散用途に使用するという点で、この組成物は本発明とは異なる。
【0011】
米国登録特許第7,871,642号は、リン脂質、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤、トリグリセリドおよびエタノールの組成の混合物を水に分散させ、薬理学的活性物質を伝達する分散体を製造する方法を開示しており、ここで、ポリオキシエチレンを有する界面活性剤の一つとしてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート, polysorbate)とポリオキシエチレンビタミンE誘導体が使用できることを説明している。ところが、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとポリオキシエチレンビタミンE誘導体は、ソルビタン脂肪酸エステルとビタミンEのそれぞれに親水性ポリマーとしてのポリオキシエチレンが結合した物質であって、元来のソルビタン脂肪酸エステルおよびビタミンEと構造が全く異なり、ポリオキシエチレンの特性を用いた親水性界面活性剤として使用される物質であるという点で、本発明の構成成分とは異なる。
【0012】
米国登録特許第5,888,533号は、インプラントを形成する流体組成物であって、非ポリマー性、水不溶性および生分解性を有する物質と、この物質を少なくとも部分的に溶解させ、水または生体液に混和または分散可能な溶媒とからなり、人体への適用の際に該溶媒が生体液に拡散しながら抜け出て非ポリマー性、水不溶性および生分解性を有する物質が凝集または沈殿することによりインプラントが形成される組成物を開示している。ここで、非ポリマー性、水不溶性および生分解性を有する物質として、ステロール、コレステリルエステル、脂肪酸、脂肪酸グリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪アルコール、脂肪アルコールと脂肪酸のエステル結合物、脂肪酸の脱水物、リン脂質、ラノリン、ラノリンアルコールなどを使用することができると説明し、溶媒としてエタノールなどが挙げられると説明している。ところが、前記特許は、液晶を形成することができないうえ、単なる凝集または沈殿によってインプラントを形成する組成物であるという点、および多量の有機溶媒を必須的に使用しなければならないという点で、本発明とは異なる。
【0013】
国際公開特許WO2010/139278号は、リン脂質であって、ホスファチジルコリンを有する界面活性剤、α−酢酸トコフェロールを有する抗酸化剤を含む薬物のロードされた水中油エマルジョンの製造方法を開示している。しかしながら、前記特許の組成は、水性流体上で液晶が形成されないだけではなく、ホスファチジルコリンを油相内に溶解されるか、または、水相内に分散されることを特徴とする界面活性剤として使用し、α−酢酸トコフェロールを抗酸化剤として使用したという点で、前記組成物は本発明とは異なる。
【0014】
大韓民国公開特許第10−2011−0056042号は、薬理学的活性物質として、抗癌剤、2価または3価の転移金属イオンまたはアルカリ土金属イオン、油およびヒアルロン酸またはその塩を含むナノ分散液状の標的志向のための薬学組成物を開示しており、前記油としてα−トコフェロールおよびその塩、界面活性剤としてモノオレイン酸ソルビタンが使用可能であるということを説明している。しかしながら、前記組成物は、ナノ分散液を乾燥させて得たナノ粒子形態が最終的な組成物形態であるという点で、液晶を形成する本発明の組成物とは異なり、前記2価または3価の転移金属イオンまたはアルカリ土金属イオンは、ナノ粒子の表面にヒアルロン酸またはその塩を結合する役割を果たすという点で、本発明とは異なる。
【0015】
国際公開特許WO2005/048930号は、界面活性剤と、溶媒および有益剤を含み、親水性環境に晒される場合に粘性ゲルを形成して有益剤を持続的に伝達するための注射可能な組成物を開示している。ここで、親水性環境で粘性ゲルを形成する界面活性剤としてリン脂質およびポリエチレングリコール(polyethyleneglycol;PEG)化されたリン脂質などが使用可能であり、疎水性溶媒としてエタノールおよびトコフェロールなどが使用可能であると説明している。しかしながら、前記特許の組成物は、親水性環境で粘性ゲルを形成するという点で、液晶が形成される本発明の組成物とは異なる。
【0016】
国際公開特許WO2010/108934号は、水性共同を内包する一つ以上のホスファチジルコリンである中性脂質を含む脂質二重層内に含有された一つ以上の短いリボ核酸(siRNA)および一つ以上の脂質二重層に埋め込まれた一つ以上の疎水性薬物物質を含む小嚢薬物伝達システムを開示しており、追加の製薬上に許容される賦形剤であって、コレステロール、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol, PEG)またはトコフェロールの中から選択されるものが使用可能であると説明している。しかしながら、前記特許の組成物のうちホスファチジルコリンおよび賦形剤として用いたトコフェロールは、水性流体上で液晶を形成することができないという点で、本発明とは異なる。
【0017】
国際公開特許WO2005/049069号は、生分解性(biodegradable)、生腐食性(bioerodible)重合体および水不混和性溶媒を含むゲルビヒクルに放出速度を調節し、有効成分を安定化させるための賦形剤を提供する注射型貯留槽ゲル組成物(injectable depot gel composition)を開示している。前記組成物の賦形剤において、pH調節剤は、無機塩、有機塩およびこれらの配合物よりなる群から選択され、抗酸化剤は、d−α−酢酸トコフェロールおよびdl−α−酢酸トコフェロールなどの中から選択されると説明している。しかしながら、前記組成物の核心成分である生腐食性、生体適合性重合体がPLGAなどの中から選択されるという点で、本発明とは異なり、金属塩がpH調節剤として使用されるという点および酢酸トコフェロールが抗酸化剤として使用されるという点で、本発明とは異なる。
【0018】
国際公開特許WO2005/110360号は、少なくとも一つ以上の薬理学的活性物質と、40℃以下で液晶を形成し且つリン脂質ホスファチジルコリンを含む一つ以上の膜脂質と、少なくとも一つ以上の薬学的に許容可能な水混和性有機溶媒と、薬学的に許容可能なキャリア流体(carrier liquid)、および注射に適用可能な追加剤を含む脂質組成物を開示しており、前記組成物は、水性環境に晒される場合に粘性を有する脂質体に切り換えられて液晶を形成する特性を有し、薬理学的活性物質を徐々に放出すると記載されている。しかしながら、前記組成物の核心成分が本発明の液晶形成剤とは異なる膜脂質であるという点で、本発明とは異なる。
【0019】
国際公開特許WO2008/139804号は、薬物の徐放化のために陰電荷基を有する低分子薬物を金属イオンで疎水化させ、これをPLGAと作用させることにより得られる陰電荷基を有する低分子薬物含有ナノ粒子を製造する方法を開示している。しかしながら、PLGAナノ粒子の製造のために過量の有機溶媒が使用され、金属イオンを薬物の疎水化の強化のために使用したという点で、本発明とは異なる。なお、技術の適用が低分子の陰電荷基の薬物に限られており、生体内の薬物の挙動については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開特許公報WO2005/117830号
【特許文献2】国際公開特許公報WO2006/075124号
【特許文献3】国際公開特許公報WO2010/139278号
【特許文献4】国際公開特許公報WO2005/048390号
【特許文献5】国際公開特許公報WO2010/108934号
【特許文献6】国際公開特許公報WO2005/049069号
【特許文献7】国際公開特許公報WO2005/110360号
【特許文献8】国際公開特許公報WO2008/139804号
【特許文献9】米国登録特許公報第7,731,947号
【特許文献10】米国登録特許公報第7,871,642号
【特許文献11】米国登録特許公報第5,888,533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、徐放性脂質初期製剤の内部に2価以上の金属塩を適用して液晶内のアニオン性薬理学的活性物質とイオン結合することにより、アニオン性薬物の徐放性を強化させる徐放性脂質初期製剤を提供するところにある。
【0022】
本発明の他の目的は、たとえ2価以上の金属塩を含んでいるとしても、安定性および生分解性が低下されない徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、a)液晶形成剤と、b)リン脂質と(phospholipid)、c)液晶硬化剤と、d)2価以上の金属塩と、を含み、水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶を形成する徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)を提供する。
【0024】
また、本発明は、前記徐放性脂質初期製剤およびe)アニオン性薬理学的活性物質を含み、前記徐放性初期製剤の2価以上の金属塩が前記アニオン性薬理学的活性物質とイオン結合することにより、アニオン性薬理学的活性物質の徐放性が強化される薬剤学的組成物を提供する。
【0025】
以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0026】
a)液晶形成剤
【0027】
本発明の液晶形成剤(liquid crystal former)は、非層状構造である液晶を形成する物質であり、ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(sorbitan unsaturated fatty acid ester)、モノアシルグリセロール(monoacyl glycerol)、ジアシルグリセロール(diacyl glycerol)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0028】
本発明の液晶形成剤であるソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、極性頭基に−OH(ヒドロキシル、hydroxyl)が2つ以上存在することが好ましい。このようなソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、下記の[化学式 1]の化合物を意味し、中でも、ソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)は、R1=R2=OH、R3=R、ソルビタンジエステル(sorbitan diester)は、R1=OH、R2=R3=R、ここで、Rは、炭素数が4〜30であり、二重結合を1つ以上含むアルキルエステル基(alkyl ester group)を意味する。
【0029】
【化1】
【0030】
具体的に、本発明のソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、植物性油、動物性脂肪および油だけではなく、鯨油および魚油から得られる。好適な植物性オイル類の例としては、カカオ脂、ルリチシャ油、玄米油、緑茶油、大豆油、麻実油、セサミ油、チェリー種油、菜種油、けし油、カボチャ種子油、ブドウ種子油、杏仁油、ココナッツ油、椿油、月見草油、なたね油、ひまわり油、カノーラ油、松実油、胡桃油、ヘーゼルナッツ油、アボカド油、アーモンド油、ピーナッツ油、ホホバ油、ヤシ油、ヒマシ油、オリーブ油、トウモロコシ油、胡麻油、綿実油、紅花種油、ボリジ油およびサクラソウ油などが挙げられ、好適な動物性脂肪および油類の例としては、乳脂肪、牛脂、哺乳類油、爬虫類油および鳥類油が挙げられ、好ましくは、鯨油および魚油から得られる脂肪酸に由来するソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)、ソルビタンセスキエステル(sorbitan sesquiester)、ソルビタンジエステル(sorbitan diester)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0031】
前記ソルビタンモノエステル(sorbitan monoester)は、ソルビタンに1つの脂肪酸基がエステル結合したものであり、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0032】
前記ソルビタンセスキエステル(sorbitan sesquiester)は、ソルビタンに平均1.5個の脂肪酸基がエステル結合したものであり、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)、セスキリノール酸ソルビタン(sorbitan sesquilinoleate)、セスキパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquipalmitoleate)、セスキミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquimyristoleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0033】
前記ソルビタンジエステル(sorbitan diester)は、ソルビタンに2つの脂肪酸基がエステル結合したものであり、ジオレイン酸ソルビタン(sorbitan dioleate)、ジリノール酸ソルビタン(sorbitan dilinoleate)、ジパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan dipalmitoleate)、ジミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan dimyristoleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0034】
本発明に係るソルビタン不飽和脂肪酸エステルは、モノオレイン酸ソルビタン(sorbitan monooleate)、モノリノール酸ソルビタン(sorbitan monolinoleate)、モノパルミトレイン酸ソルビタン(sorbitan monopalmitoleate)、モノミリストレイン酸ソルビタン(sorbitan monomyristoleate)、セスキオレイン酸ソルビタン(sorbitan sesquioleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択して用いることが好ましい。
【0035】
また、本発明の他の液晶形成剤であるモノアシルグリセロール(monoacyl glycerol)は、グリセリン(glycerine)からなる極性頭部(polar head)に1つの脂肪酸(fatty acid)基がエステル(ester)結合したものであり、ジアシルグリセロール(diacyl glycerol)は、グリセリンからなる極性頭部に同一または異なる2つの脂肪酸基がエステル結合したものである。
【0036】
本発明のモノアシルグリセロール(monoacyl glycerol)およびジアシルグリセロールにエステル(diacyl glycerol)結合する脂肪酸基は炭素数4〜30であり、互いに同一または異なる炭素数を有し、それぞれ独立して飽和または不飽和される。具体的に、前記脂肪酸基は、パルミチン酸(palmitic acid)、パルミトレイン酸(palmitoleic acid)、ラウリン酸(lauric acid)、酪酸(butyric acid)、吉草酸(valeric acid)、カプロン酸(caproic acid)、エナント酸(enanthic acid)、カプリル酸(caprylic acid)、ペラルゴン酸(pelargonic acid)、カプリン酸(capric acid)、ミリスチン酸(myristic acid)、ミリストレイン酸(myristoleic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、アラキジン酸(arachidic acid)、ベヘン酸(behenic acid)、リグノセリン酸(lignoceric acid)、セロチン酸(cerotic acid)、リノレン酸(linolenic acid、LA)、アルファリノレン酸(alpha−linolenic acid、ALA)、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid、EPA)、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid、DHA)、リノール酸(linoleic acid、LA)、ガンマリノール酸(gamma−linoleic acid、GLA)、ジホモガンマ−リノール酸(dihomo gamma−linoleic acid、DGLA)、アラキドン酸(arachidonic acid、AA)、オレイン酸(oleic acid)、バクセン酸(vaccenic acid)、エライジン酸(elaidic acid)、エイコサン酸(eicosanoic acid)、エルカ酸(erucic acid)、ネルボン酸(nervonic acid)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0037】
具体的に、本発明のモノアシルグリセロール(monoacyl glycerol)は、モノ酪酸グリセロール(glycerol monobutyrate)、モノベヘン酸グリセロール(glycerol monobehenate)、モノカプリル酸グリセロール(glycerol monocaprylate)、モノラウリン酸グリセロール(glycerol monolaurate)、モノメタクリル酸グリセロール(glycerol monomethacrylate)、モノパルミチン酸グリセロール(glycerol monopalmitate)、モノステアリン酸グリセロール(glycerol monostearate)、モノオレイン酸グリセロール(glycerol monooleate)、モノリノール酸グリセロール(glycerol monolinoleate)、モノアラキジン酸グリセロール(glycerol monoarachidate)、モノアラキドン酸グリセロール(glycerol monoarachidonate)、モノエルカ酸グリセロール(glycerol monoerucate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。好ましくは、下記の[化学式 2]のモノオレイン酸グリセロール(glycerol monooleate;GMO)が使用可能である。
【0038】
【化2】
【0039】
また、本発明のジアシルグリセロール(diacyl glycerol)は、ジベヘン酸グリセロール(glycerol dibehenate)、ジラウリン酸グリセロール(glycerol dilaurate)、ジメタクリル酸グリセロール(glycerol dimethacrylate)、ジパルミチン酸グリセロール(glycerol dipalmitate)、ジステアリン酸グリセロール(glycerol distearate)、ジオレイン酸グリセロール(glycerol dioleate)、ジリノール酸グリセロール(glycerol dilinoleate)、ジエルカ酸グリセロール(glycerol dierucate)、ジミリスチン酸グリセロール(glycerol dimyristate)、ジリシノレイン酸グリセロール(glycerol diricinoleate)、ジパルミトレイン酸グリセロール(glycerol dipalmitoleate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。好ましくは、下記の[化学式 3]のジオレイン酸グリセロール(glycerol dioleate;GDO)が使用可能である。
【0040】
【化3】
【0041】
b)リン脂質
【0042】
本発明のリン脂質(phospholipid)は、従来よりリポソーム(liposome)などの層状構造(lamellar structure)の製造に必須的に使用されてきた物質であるが、独自的には非層状構造(non−lamellar phase structure)の液晶を形成することはできない。ところが、本発明の液晶形成剤によって触発される非層状構造に参加して液晶を安定化させる役割を果たす。
【0043】
具体的に、本発明のリン脂質は、植物または動物に由来する形態であり、飽和または不飽和された炭素数4〜30のアルキルエステル基を有し、極性頭部の構造に応じてホスファチジルコリン(phosphatidylcholine)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine 、ホスファチジルグリセリン(phosphatidylglycerine)、ホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)、ホスファチジン酸(phosphatidic acid)、スフィンゴミエリン(sphingomyelin) およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。リン脂質に結合されるアルキルエステル基(alkyl ester group)としては、モノおよびジパルミトイル(mono- and dipalmitoyl)、モノおよびジミリストイル(mono- and dimyristoyl)、モノおよびジラウリル(mono- and dilauryl)、モノおよびジステアリル(mono- and distearyl) などの飽和脂肪酸エステルやモノおよびジリノレイル(mono- or dilinoleyl)、モノおよびジオレイル(mono- and dioleyl)、モノおよびジパルミトレイル(mono- and dipalmitoleyl)、モノおよびジミリストレイル(mono- and dimyristoleyl)などの不飽和脂肪酸エステルが挙げられ、飽和脂肪酸エステルおよび不飽和脂肪酸エステルが共存する形態であってもよい。
【0044】
c)液晶硬化剤
【0045】
本発明の液晶硬化剤(liquid crystal hardener)は、独自的には液晶形成剤のように非層状構造を形成することができないうえ、リン脂質のようにリポソームなどの層状構造を形成することもできない。ところが、本発明の液晶硬化剤は、液晶形成剤によって触発される非層状構造に参加して非層状構造の曲率(curvature、ねじれ)を高めて油水(oil、water)の規則的な混在程度をさらに高める結果をもたらす。また、分子構造の内部に極性が非常に制限的に存在すると同時に、非極性を示す部位の体積が大きい(bulky)ほど液晶硬化剤として好適に用いられる。
【0046】
ところが、本発明の液晶硬化剤は、実際には、非常に特異的に、直接かつ反復的な実験によってのみ、人体に投与可能で生体に適した物質が選択され、その結果、本発明の組成物に適した液晶硬化剤は、それぞれが異なる分子構造を持っており、1つの構造で説明することはできなかった。但し、本発明の組成物に適した液晶硬化剤を解明した後、これらの構造の特性を観察してみたところ、カルボキシル基やアミン基などのイオン化基を有せず、疎水性部分は全体炭素数15〜40のバルキーな(bulky)トリアシル基または炭素環構造を有する物質であることを確認することができた。
【0047】
本発明の液晶硬化剤は、好ましくは、カルボキシル基やアミン基などのイオン化基を有せず、弱い極性部分として水酸化基およびエステル構造を最大1個有し、相対的に疎水性部分は全体炭素数20〜40のバルキーなトリアシル基または炭素環構造を有する物質である。具体的に、トリグリセリド(triglyceride)、パルミチン酸レチニル(retinyl palmitate)、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)、安息香酸ベンジル(benzyl benzoate)
、ユビキノン(ubiquinone)およびこれらの混合物の中から選択されるが、これに限定されるものではない。好ましくは、酢酸トコフェロール(tocopherol acetate)、コレステロール(cholesterol)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0048】
d)2価以上の金属塩
【0049】
陽電荷を有する金属イオンは、リン脂質を含むリポソームまたは水相分散体などの構造でリン脂質のリン酸(phosphate)基の陰電荷と結合すると報告されている(Journal of Lipid Research 8(1967)227−233)。また、金属塩の存在は、構造内のリン酸基の陰電荷間の反発力を減らすことができて構造の強固性をさらに高める(Chemistry and Physics of Lipids 151(2008)1−9)。
【0050】
本発明において使用する2価以上の金属塩は、液晶の内部のリン脂質のリン酸基およびアニオン性薬理学的活性物質が全体的にまたは部分的にイオン結合することができて液晶内においてアニオン性活性物質が速やかに放出される現象を防ぐことができる。これにより、初期放出(initial burst)を下げて徐放性をさらに強化させることができる。[図 1]は、液晶の内部におけるアニオン性薬理学的活性物質と2価以上の金属塩との間の相互作用を図式化したものである。
【0051】
本発明の2価以上の金属塩において、薬学的に許容される金属は、アルミニウム(aluminum)、カルシウム(calcium)、鉄(iron)、マグネシウム(magnesium)、錫(tin)、チタン(titanium)および亜鉛(zinc)よりなる群から選択され、好ましくは、亜鉛、アルミニウムまたはカルシウムから選択される。
【0052】
具体的に、2価以上の金属塩は、炭酸アルミニウム(aluminum carbonate)、塩化アルミニウム(aluminum chloride)、水酸化アルミニウム(aluminum hydroxide)、酸化アルミニウム(aluminum oxide)、リン酸アルミニウム(aluminum phosphate)、硫酸アルミニウム(aluminum sulfate)、臭素化カルシウム(calcium bromide)、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、塩化カルシウム(calcium chloride)、水酸化カルシウム(calcium hydroxide)、硝酸カルシウム(calcium nitrate)、酸化カルシウム(calcium oxide)、リン酸カルシウム(calcium phosphate)、ケイ酸カルシウム(calcium silicate)、硫酸カルシウム(calcium sulfate)、酢酸カルシウム(calcium acetate)、塩化鉄(ferric chloride)、水酸化鉄(ferric hydroxide)、酸化鉄(ferric oxide)、硫酸鉄(ferric sulfate)、炭酸マグネシウム(magnesium carbonate)、塩化マグネシウム(magnesium chloride)、水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide)、硝酸マグネシウム(magnesium nitrate)、酸化マグネシウム(magnesium oxide)、リン酸マグネシウム(magnesium phosphate)、ケイ酸マグネシウム(magnesium silicate)、硫酸マグネシウム(magnesium sulfate)、塩化錫(stannous chloride)、フッ化錫(stannous fluoride)、水酸化錫(stannous hydroxide)、酸化錫(stannous oxide)、硫酸錫(stannous sulfate)、二酸化チタン(titanium dioxide)、炭酸亜鉛(zinc carbonate)、塩化亜鉛(zinc chloride)、水酸化亜鉛(zinc hydroxide)、ケイ酸亜鉛(zinc nitrate)、酸化亜鉛(zinc oxide)、リン酸亜鉛(zinc phosphate)、 硫酸亜鉛(zinc sulfate)、酢酸亜鉛(zinc acetate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択されるが、これに限定されない。
【0053】
好ましくは、塩化アルミニウム(aluminum chloride)、水酸化アルミニウム(aluminum hydroxide)、リン酸アルミニウム(aluminum phosphoate)、臭素化カルシウム(calcium bromide)、塩化カルシウム(calcium chloride)、水酸化カルシウム(calcium hydroxide)、酸化カルシウム(calcium oxide)、炭酸亜鉛(zinc carbonate)、塩化亜鉛(zinc chloride)、水酸化亜鉛(zinc hydroxide)、酢酸亜鉛(zinc acetate)およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0054】
e)アニオン性薬理学的活性物質
【0055】
本発明のアニオン性薬理学的活性物質とは、陰電荷を帯びるか、あるいは、総電荷(net charge)が陰電荷である薬理学的活性物質のことをいう。
【0056】
本発明のアニオン性薬理学的活性物質は、少なくとも1つ以上のカルボン酸(carboxylic acid)、スルフィン酸(sulfinic acid) 、スルホン酸 (sulfonic acid)、ホスホン酸(phosphonic acid)、リン酸(phosphoric acid)、ボロン酸(boronic acid)、ボリン酸(borinic acid) 、芳香族アルコール(aromatic alcohol)、イミド(imide)または4次アンモニウムのハロゲン塩(quaternary ammonium halide salts)構造を含む薬理学的活性物質およびこれらの混合物よりなる群から選択される。
【0057】
具体的に、前記アニオン性薬理学的活性物質は、ボルテゾミブ(bortezomib)、メトトレキサート(methotrexate)、オロパタジン(olopatadine)、チオトロピウム(tiotropium)、イプラトロピウム(ipratropium)、グリコピロニウム(glycopyrronium)、アクリジニウム(aclidinium)、ウメクリジニウム(umeclidinium)、トロスピウム(trospium)、アレンドロン酸(alendronic acid)、イバンドロン酸(ibandronic acid)、インカドロン酸(incadronic acid)、パミドロン酸(pamidronic acid)、リセドロン酸(risedronic acid)、ゾレドロン酸(zoledronic acid)、エチドロン酸(etidronic acid)、クロドロン酸(clodronic acid)、チルドロン酸(tiludronic acid)、オルパドロン酸(olpadronic acid)、ネリドロン酸(neridronic acid)、ジクロフェナク(diclofenac)、レボカバスチン(levocabastine)、インドメタシン(indomethacin)、イブプロフェン(ibuprofen)、フルルビプロフェン(flurbiprofen)、フェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)、ジクロフェナク(diclofenac)、エトドラク(etodolac)、スリンダク(sulindac)、トルメチン(tolmetin)、サリチル酸(salicylic acid)、 ジフルニサル(diflunisal)、オキサプロジン(oxaprozin)、チアガビン(tiagabine)、ガバペンチン(gabapentin)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、レボフロキサシン(levofloxacin)、フシジン酸(fusidic acid)、アミノレブリン酸(aminolevulinic acid)、アミノカプロン酸(aminocaproic acid)、ヨウ化イソプロパミド(isopropamide iodide)、塩化トリヘキセチル(trihexethyl chloride)、セファレキシン(cephalexin)、アスピリン(aspirin)、インドプロフェン(indoprofen)、レボドパ(levodopa)、メチルドパ(methyldopa)、ゾメピラク(zomepirac)、セファマンドール(cefamandole)、アルクロフェナク(alclofenac)、メフェナム酸(mefenamic acid)、フルフェナム酸(flufenamic acid)、リシノプリル(lisinopril)、エナラプリル(enalapril)、エナラプリラート(enalaprilat)、カプトプリル(captopril)、ラミプリル(ramipril)、フォシノプリル(fosinopril)、ベナゼプリル(benazepril)、キナプリル(quinapril)、テモカプリル(temocapril)、シラザプリル(cilazapril)、バルサルタン(valsartan)、バルプロ酸(valproic acid)、クロモグリク酸(cromoglicic acid)、トラニラスト(tranilast)、パントテン酸(pantothenic acid)、メチアジン酸(metiazinic acid)、フェンチアザク(fentiazac)、フェンブフェン(fenbufen)、プラノプロフェン(pranoprofen)、ロキソプロフェン(loxoprofen)、デクスイブプロフェン(dexibuprofen)、アルミノプロフェン(alminoprofen)、チアプロフェン酸(tiaprofenic acid)、アセクロフェナク(aceclofenac)、ナリジクス酸(nalidixic acid)、アゼライン酸(azelaic acid)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)、ロイコボリン(leucovorin)、エタクリン酸(ethacrynic acid)、トラネキサム酸(tranexamic acid)、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid)、葉酸(folic acid)、メクロフェナム酸(meclofenamic acid)、カルベニシリン(carbenicillin)、レバミピド(rebamipide)、セチリジン(cetirizine)、フェキソフェナジン(fexofenadine)、レトステイン(letosteine)、プロベネシド(probenecid)、ホパンテン酸(hopantenic acid)、バクロフェン(baclofen)、フロセミド(furosemide)、ピレタニド(piretanide)、メチルドパ(methyldopa)、プラバスタチン(pravastatin)、リオチロニン(liothyronine)、レボチロキシン(levothyroxine)、ミノドロン酸(minodronic acid)、パラアミノサリチル酸(P−aminosalicylic acid)、グルコン酸(gluconic acid)、ビオチン(biotin)、リラグルチド(liraglutide)、エクセナチド(exenatide)、タスポグルチド(taspoglutide)、アルビグルチド(albiglutide)、リキシセナチド(lixisenatide)、インターフェロンアルファ(interferon alpha)、インターフェロンベータ(interferon beta)、インターフェロンガンマ(interferon gamma)、グルカゴン様ペプチド(glucagon−like peptids)、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone)、インシュリンおよびインシュリン様成長因子(insulin and insulin−like growth factors)、副甲状腺ホルモンおよびその断片(parathyroid hormone and its fragments)、ダルベポエチンアルファ(darbepoetin alpha)、エポエチンアルファ(epoetin alpha)、エポエチンベータ(epoetin beta)、エポエチンデルタ(epoetin delta)、インフリキシマブ(infliximab)、インシュリン(insulin)、グルカゴン(glucagon)、グルカゴン様ペプチド(glucagon−like peptids)、甲状腺ホルモン(thyrotropin hormone)、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone)、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone)、カルシトニン(calcitonin)、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)、卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone)、絨毛膜の性腺刺激ホルモン(chorionic gonadotropin)、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone)、ソマトロピン(somatropin)、GRF、リプレシン(lypressin)、黄体形成ホルモン(luteinizing hormone)、インターロイキン(interleukin)、成長ホルモン(growth hormone)、プロスタグランジン(prostaglandin)、血小板由来成長因子(platelet−derived growth factors;PDGF)、ケラチノサイト成長因子(keratinocyte growth factors;KGF)、線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factors;FGF)、上皮成長因子(epidermal growth factors;EGF)、形質転換成長因子−α(transforming growth factors;TGF−α)、形質転換成長因子−β(transforming growth factors;TGF−β)、エリスロポエチン(erithropoietin;EPO)、インシュリン様成長因子−I(insulin−like growthfactor−I;IGF−I)、インシュリン様成長因子−II(insuin−like growth factor−II;IGF−II)、腫瘍壊死因子−α(tumor necrosis factor−α;TNF−α)、腫瘍壊死因子−β(tumor necrosis factor−β ;TNF−β)、コロニー刺激因子(colony stimulating factor;CSF)、血管細胞成長因子(vascular cell growth factor;VEGF)、トロンボポエチン(trombopoietin;TPO)、ストロマ細胞由来因子(stromal cell−derived factors;SDF)、胎盤成長因子(placenta growth factor;PIGF)、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony stimulating factor;GM−CSF)、グリア由来神経栄養因子(glial−derived neurotropin factor;GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor;G−CSF)、毛様体神経栄養因子(ciliary neurotropic factor;CNTF)、骨成長因子(bone growth factor)、骨形成たんぱく質(bone morphogeneic proteins;BMF)、凝固因子(coaqulation factors)、ヒト膵臓ホルモン分泌促進因子(human pancreas hormone releasing factor)、これらの類似体と誘導体または薬剤学的塩およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0058】
好ましくは、ボルテゾミブ(bortezomib)、メトトレキサート(methotrexate)、オロパタジン(olopatadine)、リラグルチド(liraglutide)、エクセナチド(exenatide)、タスポグルチド(taspoglutide)、アルビグルチド(albiglutide)、リキシセナチド(lixisenatide)、インターフェロンアルファ(interferon alpha)、インターフェロンベータ(interferon beta)、インターフェロンガンマ(interferon gamma)、チオトロピウム(tiotropium)、イプラトロピウム(ipratropium)、グリコピロニウム(glycopyrronium)、アクリジニウム(aclidinium)、ウメクリジニウム(umeclidinium)、トロスピウム(trospium)、アレンドロン酸(alendronic acid)、イバンドロン酸(ibandronic acid)、インカドロン酸(incadronic acid)、パミドロン酸(pamidronic acid)、リセドロン酸(risedronic acid)、ゾレドロン酸(zoledronic acid)、エチドロン酸(etidronic acid)、クロドロン酸(clodronic acid)、チルドロン酸(tiludroniac acid)、オルパドロン酸(olpadronic acid)、ネリドロン酸(neridronic acid)、グルカゴン様ペプチド(glucagon-like peptide)、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone)、インシュリンおよびインシュリン様成長因子(insulin and insulin-like growth factors)、副甲状腺ホルモンおよびその断片(parathyroid hormone and its fragments)、ダルベポエチンアルファ(darbepoetin alpha)、エポエチンアルファ(epoetin alpha)、エポエチンベータ(epoetin beta)、エポエチンデルタ(epoetin delta)、ジクロフェナク(diclofenac)、レボカバスチン(levocabastine)、インドメタシン(indomethacin)、イブプロフェン(ibuprofen)、フルルビプロフェン(flubiprofen)、フェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)、ジクロフェナク(diclofenac)、エトドラク(etodolac)、スリンダク(sulindac)、トルメチン(tolmetin)、サリチル酸(salicylic acid)、ジジフルニサル(diflunisal)、オキサプロジン(oxaprozin)、チアガビン(tiagabine)、ガバペンチン(gabapentin)、シプロフロキサシン(ciprofloxacin)、レボフロキサシン(levofloxacin)、フシジン酸(fusidic acid)、アミノレブリン酸(aminolevulinic acid)またはこれらの薬剤学的塩およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0059】
さらに好ましくは、チオトロピウム(tiotropium)、イプラトロピウム(ipratropium)、グリコピロニウム(glycopyrronium)、アクリジニウム(aclidinium)、ウメクリジニウム(umeclidinium)、トロスピウム(trospium)またはこれらの薬剤学的塩およびこれらの混合物の中から1種以上選択される。
【0060】
しかしながら、本発明の初期製剤に適用可能なアニオン性薬理学的活性物質は、前記薬物に限定されない。
【0061】
本発明の組成物のpHに関しては、通常生理学的に許容される範囲であれば、特に制限されず、必要に応じて、pH調節剤を添加してもよい。pH調節剤としては、塩酸(hydrochloric acid)、硫酸(sulfuric acid)、ホウ酸(boric acid)、リン酸(phosphoric acid)、酢酸(acetic acid)、水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)、エタノールアミン(ethanolamine)、ジエタノールアミン(diethanolamine)およびトリエタノールアミン(triethanolamine)の中から選択されるが、これに限定されない。
【0062】
本発明において、「水性流体」は、水を含んで生体粘膜液、涙、汗、唾、胃腸管液、血管外液、細胞外液、間質液(interstitial fluid)または血漿などの体液を意味する。よって、本発明の組成物は水性流体に晒されたときに液相から転換されて半固形の外観を示す液晶を形成する特徴を持つ。このように本発明の組成物は生体への適用前には脂質液相であるが、実際に生体への適用の際に徐放性を示す液晶に転換される初期製剤(pre-concentrate)である。
【0063】
本発明において、「液晶」は非常に制限された条件で油水(oil, water)が規則的に混在し、配列されて内相と外相が区分できない状態の非層状構造を有し、液相(liquid phase)と固相(solid phase)の中間相(mesophase)の性質を有する。従来より薬学的剤形の設計に広く使用されてきたミセル(micelle)、エマルジョン(emulsion)、マイクロエマルジョン(microemulsion)、リポソーム(liposome)および二重脂質膜(lipid bilayer)などはいずれも水中油(o/w、oil in water)または油中水(w/o、water in oil)の形で内相(inner phase)と外相(out phase)が区分されることにより形成される層状構造の特徴を共通的に有し、これは、本発明の液晶とは構造が異なる。
【0064】
よって、本発明の「液晶」を示す液晶化現象は、上述したような初期製剤から水性油体に晒されることにより、非層状構造(non-lamellar phase structure)の液晶(liquid crystal)が形成される現象を意味する。
【0065】
本発明の組成において目的とする液晶に適したa)およびb)の重量比は10:1〜1:10であり、好ましくは5:1〜1:5である。a)+b)およびc)の重量比は1000:1〜1:1であり、好ましくは50:1〜2:1である。a)+b)+c)およびd)の重量比は1000:1〜10:1であり、好ましくは500:1〜20:1である。上述の範囲内において、本発明で目的とする液晶による徐放性効果および2価以上の金属塩の徐放性の強化効果をよりさらに上手に発現することができる。
【0066】
また、本発明の組成において目的とする薬剤学的組成物に適したa)+b)+c)+d)およびe)の重量比は、一般に10000:1〜1:1であるが、薬理学的活性物質の種類、適用される製剤の種類、所望の徐放パターンおよび医療業界においてその薬理学的な活性物質に対して求められる含量に応じて異なる。
【0067】
本発明の徐放性脂質初期製剤は、a)液晶形成剤の中から選択された1種以上、b)リン脂質の中から選択された1種以上、c)液晶硬化剤の中から選択された1種以上、d)2価以上の金属塩1種以上を添加して室温で製造し、必要に応じて、熱を加えたりホモジナイザーを用いたりして製造する。このとき、ホモジナイザーは、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、破砕ホモジナイザーなどの中から選択されて用いられる。
【0068】
本発明の徐放性脂質初期製剤は、水性流体の不在下で脂質液相として存在し且つ水性流体上で液晶を形成し、アニオン性薬理学的活性物質の徐放性が強化される薬剤学的組成物である。本発明の初期製剤は、注射、塗布、滴下、パッド、経口、噴霧などの中から選択される方法により人体に適用されることを特徴とし、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、カプセル剤、錠剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、吸入剤、点眼剤、粘着剤、貼付剤の中から選択された剤形であることが好ましく、さらに好ましくは、注射剤である。
【0069】
特に、注射剤の投与経路としては、皮下注射および筋肉注射のいずれの投与形態も採用可能であり、投与形態は、それぞれの薬理学的活性物質の特性により選択される。
【0070】
本発明の薬剤学的組成物は、注射剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、カプセル剤、錠剤、液剤、懸濁剤、噴霧剤、吸入剤、点眼剤、粘着剤、貼付剤の中から選択された剤形であることが好ましく、注射剤であることがさらに好ましい。
【0071】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の初期製剤に薬理学的活性物質を室温で添加して製造し、必要に応じて、熱を加えたりホモジナイザーを用いたりして製造するが、本発明がこれに限定されない。
【0072】
本発明の薬剤学的組成物の投与量は、使用された薬理学的活性物質の公知の投与量と同量であり、患者の重症度、年齢、性別などに応じて異なり、薬理学的活性物質および薬剤の特性に応じて経口および非経口で投与可能である。
【0073】
本発明は、薬剤学的組成物を人間をはじめとする哺乳類に投与するときに薬理学的活性物質を徐放性で放出してこの薬理効果を持続する方法および用途をさらに提供する。
【発明の効果】
【0074】
本発明の徐放性脂質初期製剤および薬理学的組成物は、液晶の内部においてアニオン性薬理学的活性物質および2価以上の金属塩が全体的にまたは部分的にイオン結合することにより、優れた徐放性効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】徐放性脂質初期製剤内の2価以上の金属塩がアニオン性薬理学的活性物質と部分的にまたは全体的にイオン結合する模式図である。
【
図2】本発明に係る徐放性脂質初期製剤の実施例1および実施例3、薬剤学的組成物の実施例21および実施例27、および脂質初期製剤の比較例3および比較例5の生体内(in vivo)での生分解性を示す。
【
図3】本発明に係る薬剤学的組成物の実施例21、比較例21および比較例29の薬理学的活性物質(臭化チオトロピウム)の生体内(in vivo)での放出挙動を示す。
【
図4】本発明に係る薬剤学的組成物の実施例26および比較例22の薬理学的活性物質(ボルテゾミブ)の生体内(in vivo)での放出挙動を示す。
【
図5】本発明に係る脂質初期製剤の実施例4、薬剤学的組成物の実施例22および比較例27の水性流体上における相変化挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下、実施例および実験例によって本発明を具体的に説明する。但し、これらの実施例および実験例は本発明の例示に過ぎないものであり、本発明の範囲を限定するものでない。
【0077】
本発明における添加剤は、薬局方規格の賦形剤およびAldrich、Lipoid、CrodaおよびSEPPIC社から購入した試薬を使用した。
【0078】
[実施例1〜20] 本発明の2価以上の金属塩を含有する脂質初期製剤の製造
【0079】
下記[表1]に示す重量で、液晶形成剤、リン脂質、液晶硬化剤、2価以上の金属塩および適用溶媒を添加した。
【0080】
実施例1〜20では20〜75℃の湯煎環境でホモジナイザー(PowerGen model125,Fisher)で約1,000〜3,000rpmの条件下で約0.5〜3時間混合して均質化させた。その後、製造された脂質溶液を常温で放置して25℃の熱平衡状態にした後、1ccの使い捨て用注射器に充填し、水相(2gの3次蒸留水)に注入することにより、実施例1〜20の脂質溶液である本発明の金属塩含有徐放性初期製剤を製造した。
【0082】
[実施例21〜32]薬理学的活性物質を含有する本発明の薬剤学的組成物
下記[表2]に示す重量で、液晶形成剤、リン脂質、液晶硬化剤、2価以上の金属塩およびアニオン性薬理学的活性物質を適用溶媒に添加した。
【0083】
実施例21〜32では20〜75℃の湯煎環境でホモジナイザー(PowerGen model125,Fisher)で1,000〜3,000rpmの条件下で約0.5〜3時間混合して均質化させた。その後、製造された脂質溶液を常温で放置して25℃の熱平衡状態にした後、ここに薬理学的活性物質として臭化チオトロピウム、臭化イプラトロピウム、ボルテゾミブをそれぞれ添加し、約1〜5時間均質化させて溶液相である本発明の薬剤学的組成物を製造した。
【0085】
[比較例1〜20]2価以上の金属塩を含有しない脂質初期製剤の製造
【0086】
下記[表3]に示す重量で、液晶形成剤、リン脂質、液晶硬化剤および適用溶媒を添加した。
【0087】
比較例1〜20では20〜75℃の湯煎環境でホモジナイザー(PowerGen model125,Fisher)で1,000〜3,000rpmの条件下で約0.5〜3時間混合して均質化させた。その後、製造された脂質溶液を常温で放置して25℃の熱平衡状態にした後、1ccの使い捨て用の注射器に充填した後、水相(2gの3次蒸留水)に注入して、比較例1〜20の脂質初期製剤を製造した。
【0089】
[比較例21〜26]2価以上の金属塩を含有しない薬剤学的組成物の製造
【0090】
下記[表4]に示す重量で、液晶形成剤、リン脂質、液晶硬化剤、およびアニオン性薬理学的活性物質を適用溶媒に添加した。
【0091】
比較例21〜26では20〜75℃の湯煎環境でホモジナイザー(PowerGen model125,Fisher)で1,000〜3,000rpmの条件下で約0.5〜3時間混合して均質化させた。その後、製造された脂質溶液を常温で放置して25℃の熱平衡状態にした後、ここに薬理学的活性物質として臭化チオトロピウム、臭化イプラトロピウム、ボルテゾミブをそれぞれ添加し、約1〜5時間均質化させて溶液相である薬剤学的組成物を製造した。
【0093】
[比較例27および28] 液晶形成剤を含有しない脂質初期製剤の製造
【0094】
比較例27および28の製剤は、[表5]に示す重量で、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン、ホスファチジルコリンおよび酢酸トコフェロールを添加し、20〜75℃の湯煎環境でホモジナイザー(PowerGen model125,Fisher)で1,000〜3,000rpmの条件下で約0.5〜3時間混合して均質化させた。ここで、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタンは、ソルビタン極性頭基の−OH基がポリオキシエチレンに置換されたものであり、本発明の液晶形成剤のうち一つであるモノオレイン酸ソルビタンとは異なる物質であり、ポリオキシエチレンの特性を用いて親水性界面活性剤として用いられる物質である。
【0096】
[比較例29および30]脂質初期製剤に適用しないアニオン性薬理学的活性物質の製造
【0097】
比較例29の製剤は、2.2μgの臭化チオトロピウムを1mLの生理食塩水に添加し、室温で溶解させて製造した。
【0098】
比較例30の製剤は、5mgのボルテゾミブを7mLの生理食塩水および300μlのエタノールに添加し、室温で溶解させて製造した。
【0099】
[実験例1]生体外(in vitro )での安全性(safety)効果の確認
【0100】
次のようなExtraction Colony Assay細胞毒性実験によって、生体外(in vitro)での本発明の組成物の安全性効果を確認した。
【0101】
実施例1、実施例5、実施例21、実施例27、比較例3および比較例5の組成物それぞれ2gを、10%ウシ胎仔血清(FBS、fetal bovine serum)の含有されたEMEM(Eagle’s minimum essential medium)培地18mLで抽出した。1×102個のL929細胞(Mouse fibroblast、American Type Culture)を6wellに24時間37℃、5%二酸化炭素湿潤インキュベーターで安定化させた後、前記抽出培地をEMEM培地で希釈して(0、5、25、50%)2mLずつ安定化L929細胞に塗布した。
【0102】
その後、これを7日間37℃、5%二酸化炭素湿潤インキュベーターで培養した後、10%ホルマリン溶液(formalin solution)で固定させ、ギムザ染色液(Giemsa stain solution)で細胞染色を行ってコロニー(colony)数を測定し、その結果を[表6]に示す。
【0104】
[表6]の結果から抽出された培地の希釈比率を5%、25%、50%の比率に高めながら培養されたコロニー形成率(colony formation rates)を観察したとき、比較例3および比較例5の投与群は正常的な細胞成長率を示し、実施例1、実施例5、実施例21、実施例27の投与群もまた比較例3、比較例5の投与群と略同じ細胞成長率を示した。よって、本発明の脂質初期製剤および薬剤学的組成物が非常に優れた安全性を有することが確認された。
【0105】
[実験例2]生体内(in vivo)での生分解性効果の確認
【0106】
次のような実験によって、本発明の組成物の生分解性効果を確認した。
【0107】
300mgの実施例1、実施例3、実施例21、および実施例27の組成物を注射器に充填してSDラットの背に皮下注射した後、一定の時間観察した。生分解性の効果の比較のために比較例3〜5を同様の方法で行い、皮下注射してから1ヶ月後の写真結果は[
図2]の通りである。
【0108】
[
図2]の結果から明らかなように、比較例3および比較例5の投与群は、投与初期に比べて1ヶ月後に最初の大きさの約1/3〜2/3ほど残留しているため生分解されたものであり、目視された。
【0109】
また、実施例1、実施例3、実施例21、実施例27の投与群もまた投与初期に比べて1ヶ月後に最初の大きさの約1/3〜2/3ほど残留していることから、比較例3、比較例5の組成物と同様に優れた生分解性を示すことが観察された。
【0110】
参考までに、既存に主として用いられる徐放性製剤であるPLGA[poly(lactic−co−glycolic acid)]は2〜3ヶ月が経過しても生分解されずに存在することが知られている。
【0111】
よって、本発明の2価以上の金属塩を含有する脂質初期製剤は、2価以上の金属塩を含有しない脂質初期製剤と略同じ生分解性を有すると認められ、これは、薬物の放出が終わった後にも伝達体が体内に長期に亘って残存するという既存の徐放型製剤が有する欠点を避けることができるというメリットがある。
【0112】
[実験例3]生体内(in vivo)での臭化チオトロピウム徐放性効果の確認
【0113】
次のような実験によって、生体内(in vivo)での臭化チオトロピウムの放出挙動を確認した。
【0114】
実施例21の薬理学的活性物質が臭化チオトロピウムである組成物を0.4mg/kgの投与重量で使い捨て用の注射器を用いて平均300gの9週齢のSDラット(雄性)6匹の背に皮下注射した。
【0115】
SDラットの血漿サンプルにおけるチオトロピウムの濃度のPKプロファイル(pharmacokinetic profile)をLC−MS/MS(液体クロマトグラフィ−タンデム質量分析器)を用いて分析し、その結果を[
図3]に示す。
【0116】
一般注射剤のPKプロファイルの比較のための比較例29を臭化チオトロピウムの投与用量が0.01mg/kgとなるように背に皮下注射し、2価以上の金属塩を含有しない徐放性脂質初期製剤である比較例21を臭化チオトロピウムの投与用量が0.4mg/kgとなるように背に皮下注射した。比較例29は、1日につき1回の剤形であることを想定し、徐放性製剤の投与量よりも30倍低い用量で投与した。
【0117】
その結果、[
図3]に示すように、実施例21の組成物は2価以上の金属塩を含有しない徐放性脂質初期製剤である比較例21の組成物に比べて初期放出率が非常に低く、しかも、優れた徐放効果を示すことを確認した。
【0118】
[実験例4] 生体内(in vivo)でのボルテゾミブ徐放性効果の確認
【0119】
次のような実験によって、生体内(in vivo)でのボルテゾミブの放出挙動を確認した。実施例26の薬理学的活性成分がボルテゾミブである組成物を投与重量が0.6mg/kgとなるように使い捨て用の注射器を用いて平均300gの9週齢のSDラット(雄性)6匹の背に皮下注射した。
【0120】
SDラットの血漿サンプルにおけるボルテゾミブの濃度のPKプロファイル(pharmacokinetic profile)をLC−MS/MS(液体クロマトグラフィ−タンデム質量分析器)を用いて分析し、その結果を[
図4]に示す。2価以上の金属塩の徐放性増進効果を確認するために2価以上の金属塩を含有しない徐放性脂質初期製剤である比較例22をボルテゾミブの投与重量が0.6mg/kgとなるように背に皮下注射した。
【0121】
その結果、[
図4]に示すように、実施例26の組成物は、2価以上の金属塩を含有しない徐放性脂質初期製剤である比較例22の組成物に比べて初期放出率が非常に低く、有効な血中濃度が一定である優れた徐放効果を示すことを確認した。
【0122】
[実験例5]水性流体上における液晶(liquid crystal)の確認
【0123】
次のような実験によって、本発明の組成物が水性流体上で液晶(liquid crystal)が形成されることを確認した。
【0124】
液相の実施例4、実施例22および比較例27の組成物を注射器に充填して、2gのPBS(pH7.4)に注射し、その結果は[
図5]のとおりである。
【0125】
本発明の液晶形成剤を組成物とする実施例4および実施例22は、注射前の水性流体の不在下で脂質液相として存在し、注射後には水性流体上で液晶を形成し、ポリオキシエチレンソルビタン不飽和脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン)を組成物とする比較例27は、注射前の水性流体の不在下で脂質液相として存在し、注射後には水性流体上で液晶が全く形成されずに分散された。よって、本発明の徐放性組成物は、水性流体の不在下で液相として存在し且つ水性流体上である体内では優れた徐放性効果を示す液晶を速やかに形成するので、徐放性医薬品製剤に活用可能である。
【0126】
このような液晶の内部にはメビウスの帯のようにナノサイズ(20nm以下)直径の数多くの不連続な水路(water channel)が存在し、これらの水路は脂質層で取り囲まれた形態を取っている。よって、特定の脂質組成物が液晶を形成して半固形の性状を持つと、薬物が内部から放出されるためには数多くの水層と脂質層を通過しなければならないから、優れた徐放効果を示す。