(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フラーレン薄膜のX線回折における(220)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が4°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の記録媒体。
前記記録媒体を回転させ、DFH(Dynamic Flying Height)ヘッドを用いて行うヘッド飛行試験において、前記フラーレン薄膜の表面で前記DFHヘッドをシークさせたときのAE(Acoustic Emission)出力電圧が0.1V以下であることを特徴とする請求項5に記載の記録媒体。
さらに、前記記録媒体を回転駆動させる媒体駆動部、前記記録媒体に対して情報の書き込み及び記録された情報の読み出しを電気的方法で行う読み出し/書き込みヘッド、前記読み出し/書き込みヘッドを前記記録媒体に対して相対的に移動させるヘッド駆動部、及び前記読み出し/書き込みヘッドで前記記録媒体に対して情報の読み出し/書き込みを行うための電気信号の処理を行う記録再生信号処理系を備える請求項15に記載の記録再生装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在デジタル信号は容量で見れば約8割が磁気記録を利用したハードディスクに保存されている。記録すべき情報は今後も増えていくことが確実である。今までは記録すべき情報量を上回るような速度でハードディスクの記録密度が向上してきたため、記録すべき情報量の増大に対して危惧する必要はなかった。ところがハードディスクの記録密度は直径65mm(2.5インチ)の場合、500GB/Platter(0.8Tbit/in
2)でほぼ限界に来ているとの認識が一般的であり、その先の技術についてはいろいろな提案がなされているが、有力な技術は出てきていない。高記録密度を達成する記録方法として分子や原子の一つ一つに信号を埋め込む方法が各種提案されている。
ハードディスクドライブの最大の特徴は情報を記録する記録層がベタ膜(連続膜、パターンなしの膜)でよいという点にある。これを可能にしたのは、円板を回転させてその円板の表面近傍でヘッドを飛ばすという機構を用いたことである。
ハードディスクのヘッドを飛ばして読み書きするという方式による高記録密度化が限界に来ているという認識があり、それとは異なる方法が様々提案されている。ハードディスクの記録密度が現在限界に来ているという認識において、実際に限界に来ているのは磁場の向きを変えることで読み書きするという機構である。すなわち、記録単位が小さくなるにしたがって保磁力を上げる必要があるので、書き込みにはより強い磁場が必要である。一方で、書き込みヘッドの大きさは記録密度が上がるにしたがって当然小さくする必要がある。従って、小さい場所に強力な磁場を閉じ込めることが必要とされるが、これが困難になってきている。そこで、読み書きする機構に技術的な新展開が求められることになる。
本発明は検討の結果、記録層として従来の磁性材料膜に代えて、ヘッドの飛行が可能なフラーレンC
60の単結晶薄膜を成膜したハードディスクメディア(媒体)を作製できたことにより完成に至った。
フラーレン単結晶薄膜を作製するためには異種物質の単結晶基板を用意し、その上にヘテロエピタキシャル成長させる方法がある。これまでマイカ、Si、高配向パイログラファイトなど様々な物質の上に分子線エピタキシ一法や真空蒸着法などを用いてC
60単結晶膜を成長させた例が数多く報告されている。その中でも最も結晶性の良いものはマイカ上にC
60単結晶薄膜を成長させたもの(非特許文献1)である。しかし、非特許文献1においては150nmという非常に厚い膜厚で漸く結晶性が評価できているに過ぎず、後述する本願発明により得られる3nm程度の薄いC
60単結晶薄膜は報告されていない。またデバイスを電圧で駆動させる場合、マイカのような絶縁性基板の上に直接フラーレン層を形成したものは電気的特性を取り出すことが出来ないため用いることが出来ない。特許文献1において導電性基板の表面にフラーレン分子多層膜を有する記録媒体が報告されているが、分子多層膜であってそれが単結晶膜になっているという証拠は示されていない。特許文献1では導電性基板としてSi基板を用い、Si上にAg層を形成して下地層にしているが、Agの耐食性の弱さから大気中での使用においては酸化・硫化するという問題点がある。また高配向パイログラファイトにおいては機械的剥離によって高品質の表面を部分的に出すことが出来るが、マイクロメートル程度の寸法の結晶しかできないために(非特許文献2参照)工業的生産に向くものではない。
【0006】
そこで、本発明は耐食性にも優れたフラーレン薄膜を大面積に作製することが出来る方法を提供することを課題とする。
また、本発明はフラーレン薄膜を情報記録層に用いる、記録媒体、フラーレン薄膜の製造方法、記録再生装置、情報記録方法、及び、情報読み出し方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の手段を含むものである。
【0008】
(1)基板と、該基板上に形成され、(111)面が優先配向した白金層と、該白金層上に形成された、記録層であるフラーレン単結晶薄膜と、を備え、前記フラーレン薄膜の表面において原子間力顕微鏡を用いて測定した平均表面粗さRaの4つ以上の視野についての平均値が0.5nm以下であることを特徴とする記録媒体。
【0009】
(2)前記フラーレン薄膜が単結晶薄膜であることを特徴とする(1)に記載の記録媒体。
【0010】
(3)前記白金層のX線回折における(111)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が0.1°以下であることを特徴とする(1)又は(2)のいずれかに記載の記録媒体。
【0011】
(4)前記フラーレン薄膜のX線回折における(220)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が4°以下であることを特徴とすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一つに記載の記録媒体。
【0012】
(5)前記基板が円板状であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一つに記載の記録媒体。
【0013】
(6)前記記録媒体を回転させ、DFH(Dynamic Flying Height)ヘッドを用いて行うヘッド飛行試験において、前記フラーレン薄膜の表面で前記DFHヘッドをシークさせたときのAE(Acoustic Emission)出力電圧が0.1V以下であることを特徴とする(5)に記載の記録媒体。
【0014】
(7)前記基板がサファイア基板であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか一つに記載の記録媒体。
【0015】
(8)基板上にスパッタリングで白金層を形成する工程と前記白金層上に真空蒸着でフラーレン層を形成する工程を備えるフラーレン薄膜の製造方法。
【0016】
(9)前記フラーレン層が単結晶薄膜であることを特徴とする(8)に記載のフラーレン薄膜の製造方法。
【0017】
(10)前記スパッタリングの工程中に基板温度を400℃〜900℃にする(8)または(9)のいずれかに記載のフラーレン薄膜の製造方法。
【0018】
(11)前記スパッタリングの工程後に基板温度を400℃〜900℃とし、アニールする(8)〜(10)のいずれか一つに記載のフラーレン薄膜の製造方法。
【0019】
(12)前記基板がサファイア基板である(8)〜(11)のいずれか一項に記載のフラーレン薄膜の製造方法。
【0020】
(13)前記フラーレン層を形成する工程中に基板温度を100℃〜200℃にする(8)〜(12)のいずれかひとつに記載のフラーレン薄膜の製造方法。
【0021】
(14)前記フラーレン層を形成する工程後に基板温度を100℃〜200℃とし、アニールする(8)〜(13)のいずれか一項に記載のフラーレン薄膜の製造方法。
【0022】
(15)(1)〜(7)のいずれか一項に記載の記録媒体を備える記録再生装置。
【0023】
(16)さらに、前記記録媒体を回転駆動させる媒体駆動部、前記記録媒体に対して情報の書き込み及び記録された情報の読み出しを電気的方法で行う読み出し/書き込みヘッド、前記読み出し/書き込みヘッドを前記記録媒体に対して相対的に移動させるヘッド駆動部、及び前記読み出し/書き込みヘッドで前記記録媒体に対して情報の読み出し/書き込みを行うための電気信号の処理を行う記録再生信号処理系を備える(15)に記載の記録再生装置。
【0024】
(17)(1)〜(7)のいずれか一つに記載の記録媒体であって、円板状の記録媒体を用い、前記フラーレン薄膜に情報を記録する方法であって、
前記記録媒体を回転させながら、前記記録媒体のフラーレン薄膜の表面に書き込みヘッドを近接させ、該書き込みヘッドを前記記録媒体の略半径方向を移動させて、同心円状の所望のトラックに位置決めし、前記書き込みヘッドにより前記フラーレン薄膜に対して所定強度の電圧を局所的に印加することにより前記フラーレン薄膜に情報を記録することを特徴とする情報記録方法。
【0025】
(18)(17)に記載の情報記録方法を用いて前記フラーレン薄膜に記録された情報を読み出す方法であって、
前記記録媒体を回転させながら、前記記録媒体のフラーレン薄膜の表面に読み出しヘッドを近接させ、該読み出しヘッドを前記記録媒体の略半径方向を移動させて、同心円状の所望のトラックに位置決めし、前記読み出しヘッドにより前記情報が記録された部位と前記情報が記録されていない部位の電流変化を前記読み出しヘッドにより検出することにより記録した情報を読み出すことを特徴とする情報読み出し方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、大面積で結晶性の良いフラーレン薄膜が得られる。
【0027】
本発明により、大面積で結晶性の良いフラーレン薄膜を情報記録層に用いる記録媒体、フラーレン薄膜の製造方法、記録再生装置、情報記録方法、及び、情報読み出し方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。一の実施形態で示した構成を他の実施形態に適用することもできる。
「層」、「薄膜」はいずれも薄い層あるいは薄い膜の意味で用いている。
【0030】
(記録媒体)
図1は、本発明の一実施形態に係る記録媒体の一例を示した断面模式図である。
本実施形態の記録媒体100は、基板1と、該基板1上に形成され、(111)面に優先配向した白金層2と、該白金層上に形成された、記録層であるフラーレン薄膜3と、を備え、フラーレン薄膜の表面3aにおいて原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した平均表面粗さRaの4つ以上の視野についての平均値が0.5nm以下である。
ここで、上記平均値の測定は以下のようにして行う。原子間力顕微鏡で平均表面粗さRaを測定する視野範囲は1μm×1μmとする。この測定をフラーレン薄膜の表面上の4つ以上の視野について行い、これらの平均値を求める。上記4つ以上の視野は、例えば円板形状の記録媒体の場合には、同一円周上で円周長さをほぼ等分する位置に設けられる。また、上記同一円周の半径方向の位置は、フラーレン薄膜が形成される領域の最大半径と最小半径のほぼ中間とする。上記の原子間力顕微鏡による平均表面粗さRaの4つ以上の視野についての平均値が0.5nm以下であると、現行のハードディスクのヘッド飛行試験に用いられるヘッドが飛行可能である。具体的には、上記記録媒体を回転させ、DFH(Dynamic Flying Height)ヘッドを用いて行うヘッド飛行試験において、フラーレン薄膜の表面でDFHヘッドを半径方向にシークさせたときのAE(Acoustic Emission)出力電圧が0.1V以下である。
【0031】
上記フラーレン薄膜は単結晶薄膜であることが好ましい。単結晶薄膜であることにより結晶粒界が存在せず、上記のヘッド飛行試験に用いられるヘッドが飛行可能な平坦度を容易に得ることができる。
【0032】
以下に、原子間力顕微鏡(製品名Nanoscope、Digital Instruments社製)を用いて、本発明の記録媒体のフラーレン薄膜の表面粗さを測定した結果の一例を示す。
測定した記録媒体は、基板はサファイア(直径65mm)、その上にスパッタリングにより白金層(膜厚:10nm)を形成し、その白金層上に真空蒸着によってC
60層(膜厚:3nm)を形成したものである。
記録媒体の作製条件は以下の通りである;
白金層の形成におけるスパッタリングは、100W、20秒、Arガス 0.27Pa、基板温度 500℃、の条件で行った。また、C
60層の形成における真空蒸着は、400℃、20秒、基板温度190℃、の条件で行った。
【0033】
作製した記録媒体の表面において直径約40mmの円周を4等分する位置にある4か所の視野(1μm×1μm)について平均表面粗さRaを測定したところ、それぞれ0.38nm、0.44nm、0.40nm、0.50nmであり、平均値は0.43nmであった。
【0034】
(基板)
基板は、例えば、サファイア、シリコン、MgO(111)、SrTiO
3(111)、LaAlO
3(111)などの単結晶基板を用いることができる。フラーレン単結晶薄膜の結晶性を高めるためにはサファイアの方が好ましい。
単結晶のサファイア基板の上に白金を成膜すると(111)面が優先配向した白金薄膜(白金層)が形成される。この薄膜が全面にわたって単結晶であることが重要である。単結晶基板であれば白金(111)層の単結晶を成長させることが可能ではあるが、格子整合性の観点からサファイアが好ましい。
白金(111)層をエピタキシャルに成長させるという観点でサファイアの(0006)面が表面に出ている単結晶基板がより好ましい。
サファイア単結晶基板の上に直接C
60を蒸着するとC
60が基板上を移動して、容易に島状構造が形成される。しかし、白金上であればC
60と強い相互作用を持つため、C
60は層状成長することが出来る。
白金層が単結晶薄膜であるとその上に形成されるC
60膜を単結晶薄膜に形成することができる。大きな粒界があるとそこが段差になり、記録媒体の記録層にC
60膜を用いた場合にヘッドの飛行が阻害されることがある。
【0035】
基板の形状は限定されるものではないが、現状の磁気記録媒体の代替として用いる場合には、回転して使うため円板状であることが必要であり、また円板の中心部にはスピンドルに固定するための穴を有する。
【0036】
図2に、現行の回転円板式の磁気記録媒体のヘッド飛行試験で一般的に用いられるヘッド/ディスク浮上特性評価装置(製品名:HDFテスター、株式会社クボタ製)を用いて、サファイア基板/Pt層(膜厚:10nm)/C
60層(膜厚:3nm)の本発明の実施例である円盤状の記録媒体(直径:65mm)について、ヘッド飛行試験を行った結果を示す。すなわち、記録媒体をスピンドルに固定し、5400回転で回転させながら、DFH(Dynamic Flying Height)ヘッドによって、記録媒体のC
60単結晶薄膜の表面において中心から半径方向に15mm〜27mmの範囲を1秒ごとに0.2mmずつシークさせたときのAE(Acoustic Emission)出力電圧(V)をグラフに示す。
Pt層はX線回折によって、サファイア上に(111)面が優先配向して成長していることを確認した。
図2には比較例として、白金層がない、ガラス基板/CrTi層(膜厚:10nm)/C
60層(膜厚:3nm)の構成の円板状記録媒体について同様のヘッド飛行試験を行った結果も示す。
【0037】
図3(a)及び
図3(b)はそれぞれ、実施例、比較例の上述のヘッド飛行試験を行った後の円板状記録媒体の写真を示す。
【0038】
図3(b)の写真から、(111)面が優先配向した白金層がない比較例では表面のC
60単結晶薄膜が同心円状に剥がれていることがわかる。これは、
図2のグラフでも示されている通り、(111)面が優先配向した白金層がない比較例ではDFHヘッドがディスク表面と接触していることによる結果である。
これに対して、実施例の方は
図3(a)の写真でも剥がれ落ちている部分はなく、
図2のグラフでもAE出力電圧(V)が0.1V以下であることからわかるように、DFHヘッドがC
60単結晶薄膜の表面に衝突することなく安定的に浮上してシークできていた。
この結果は、(111)面が優先配向した白金層上に形成されたC
60単結晶薄膜の表面が、内径15mmから外径27mmのリング状領域という広範囲で、(111)面が優先配向した白金層を有さずCrTi層上に形成されたC
60単結晶薄膜に比べて、DFHヘッドによる飛行試験でも表面に衝突しないほど平坦であることを示すものである。
【0039】
現行の回転円板状の磁気記録媒体に用いられるヘッドが本発明記録媒体上を安定飛行したということは、本発明の記録媒体が、現行の回転円板状の磁気記録媒体と同様の記録(書き込み)・再生(読み出し)の手段を用いることが可能であることを示している。すなわち、スピンドルモータを用いて円板状の記録媒体を回転させながら、スイングアームの先端に取り付けられたヘッドを記録媒体の表面上をほぼ半径方向に移動させて、記録媒体表面の同心円状に形成されたトラック群の所望のトラックに位置決めし、情報を記録し、そしてその情報を読み出すことが可能であることを示している。
【0040】
(白金層)
白金層は、基板上に(111)面が優先配向して(すなわち、〔111〕軸を基板の表面の法線方向に平行にするように)成長した層である。
白金は、空気中で極めて安定であり、極性もない。
白金層の(111)面上に、フラーレン薄膜が10mmオーダーの広範囲でDFHヘッドによる飛行試験でも表面に衝突しないほど(AE出力電圧が0.1V以下)、平坦に形成される。フラーレン薄膜に大きな粒界が存在するとヘッドの安定飛行は難しくなる。したがって、フラーレン薄膜は大きな粒界が存在しないことが必要であり、単結晶膜(単結晶薄膜)であることが好ましい。ここでフラーレン単結晶薄膜における「単結晶薄膜)」とは、実質的に結晶粒界が存在しないことを意味し、これは後述のように薄膜のX線回折解析における面内方向のロッキングカーブの半値幅で評価できる。
【0041】
白金層は、膜厚が5nm〜30nmであることが好ましい。その理由は、薄過ぎても厚過ぎても結晶性と平坦性を両立させる薄膜を作製することは困難だからである。
【0042】
また、白金層は、X線回折における(111)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が0.1°以下であることが好ましく、0.01°以下であることがより好ましい。
【0043】
また、白金層は、X線回折における低角側の鏡面振動が10°以上にわたって観察できることが好ましく、15°以上にわたって観察できることがより好ましく、20°以上にわたって観察できることがさらに好ましい。低角側の鏡面振動が観察できることは膜厚が非常に均一であることを示している。
【0044】
(フラーレン薄膜)
フラーレン薄膜としては、C
60以外に、C
70、C
76、C
78、C
82等の高次のフラーレンも用いることができるが、特にC
60は球状であるため高い結晶性が得られやすく好ましい。また、C
60薄膜を用いる場合、C
60の純度はできるだけ高いことが好ましいが、本発明の効果を奏する範囲で、C
60薄膜にC
60以外のフラーレンが含まれてもよい。フラーレン薄膜は単結晶薄膜であることが好ましい。
【0045】
また、フラーレン薄膜が単結晶薄膜と見なせるためには、X線回折における(220)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が4°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
【0046】
フラーレン薄膜は、膜厚が2nm〜5nmであることが好ましい。その理由は、重合反応を用いた記録であるため、C
602分子分以上の厚さが必要であり、また膜厚が厚過ぎると絶縁化し、電圧を印加してもトンネル電流が流れにくくなるためである。
【0047】
(フラーレン薄膜の製造方法)
本発明のフラーレン薄膜の製造方法では基板上にスパッタリングで白金層を形成し、前記白金層上にフラーレンを真空蒸着法で成膜することによりフラーレン薄膜を製造する。
【0048】
基板は上記のものを用いることができる。
【0049】
(白金層の形成)
まず、基板上に白金層を形成する。白金層は、スパッタリング法を用いて前記基板上に形成する。好ましくは、前記スパッタリングの工程中の基板温度を400℃〜900℃、より好ましくは750℃〜850℃の間で適宜制御する。この範囲であれば、結晶性の良い白金層が形成できる。すなわち、スパッタリングの工程中の基板温度を400℃〜900℃にすると、X線回折における(111)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が0.1°以下の(111)面が優先配向した白金層が形成でき、750℃〜850℃にすると、X線回折における(111)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が0.01°以下の(111)面が優先配向した白金層が形成できる(
図6参照)。
【0050】
前記工程後、結晶性の良い白金層を形成するために、アニールを行うことが好ましい。
前記アニールは基板温度を400℃〜900℃、より好ましくは750℃〜850℃に適宜制御して行う。アニールの時間は5分〜30分が好ましい。
【0051】
(ブラーレン薄膜の形成)
フラーレン薄膜はフラーレンを蒸着源として真空蒸着法で、前記白金層上に形成する。
【0052】
より良い結晶性のフラーレン単結晶薄膜を形成するために、前記フラーレン薄膜形成工程中の基板温度を好ましくは100℃〜200℃、より好ましくは160℃〜200℃で適宜制御する。すなわち、フラーレン薄膜形成工程中の基板温度を100℃〜200℃にすると、X線回折における(220)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が4°以下のフラーレン単結晶薄膜が形成でき、160℃〜200℃にすると、X線回折における(220)回折ピークのロッキングカーブ半値幅が3°以下のフラーレン単結晶薄膜が形成できる(
図7参照)。
【0053】
前記工程後、さらに良い結晶性のフラーレン薄膜を形成するためにアニールを行うことが好ましい。前記アニールは、基板温度を100℃〜200℃、より好ましくは160℃〜200℃に適宜制御して行う。アニールの時間は5分〜30分が好ましい。
【0054】
(記録媒体の製造方法)
本発明の記録媒体を製造するには、上述の本発明のフラーレン薄膜の製造方法を用いて行うことができる。
【0055】
(記録装置)
本発明の記録再生装置は、本発明の記録媒体を備えるものである。
【0056】
図8は、本発明の一実施形態の記録再生装置の一例を示すものである。
本実施形態の記録再生装置100は、本発明の記録媒体11、記録媒体11を回転駆動させる媒体駆動部12、記録媒体11に対して情報の書き込み及び記録された情報の読み出しを電気的方法で行う読み出し/書き込みヘッド(フライングヘッド)13、読み出し/書き込みヘッド13を記録媒体11に対して相対的に移動させるヘッド駆動部14、及び前記読み出し/書き込みヘッド13で前記記録媒体11に対して情報の読み出し/書き込みを行うための電気信号の処理を行う記録再生信号処理系15を備えている。
【0057】
また、記録再生信号処理系15は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を読み出し/書き込みヘッド13に送り、読み出し/書き込みヘッド13からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。
ここで、上記読み出し/書き込みヘッドは読み出しヘッドと書き込みヘッドが一体化されたヘッドである。また、上記読み出し/書き込みヘッドは熱膨張によるヘッド浮上量の制御機能を有するDFH(Dynamic Flying Height)方式のヘッドであることが好ましい。
【0058】
(情報記録方法)
本発明の情報記録方法は、本発明の記録媒体であって、円板状の記録媒体を用い、前記フラーレン薄膜に情報を記録する方法であって、前記記録媒体を回転させながら、前記記録媒体のフラーレン薄膜の表面に書き込みヘッドを近接させ、該書き込みヘッドを前記記録媒体の略半径方向を移動させて、同心円状の所望のトラックに位置決めし、前記書き込みヘッドにより前記フラーレン薄膜に対して所定強度の電圧を局所的に印加することにより前記フラーレン薄膜に情報を記録するものである。
本発明の情報記録方法において、情報の記録の原理の一例として特許文献1の方法を用いることができる。
【0059】
(情報読み出し方法)
本発明の情報読み出し方法は、本発明の情報記録方法を用いて前記フラーレン薄膜に記録された情報を読み出す方法であって、前記記録媒体を回転させながら、前記記録媒体のフラーレン薄膜の表面に読み出しヘッドを近接させ、該読み出しヘッドを前記記録媒体の略半径方向を移動させて、同心円状の所望のトラックに位置決めし、前記読み出しヘッドにより前記情報が記録された部位と前記情報が記録されていない部位の電流変化を前記読み出しヘッドにより検出することにより記録した情報を読み出すものである。
本発明の情報読み出し方法において、情報の読み出しの原理の一例として特許文献1の方法を用いることができる。
【0060】
情報の記録(書き込み)は、電圧をかけてトンネル電流を流すことにより可能である。フラーレン単結晶薄膜は絶縁体であるため電流は流れない。ところが一定以上の電圧がかかるとトンネル効果でトンネル電流が流れる。その際、フラーレン分子同士が重合してポリマーを形成し、金属的な電気伝導性を持つ。ここで、重合した場所と重合していない場所のトンネル抵抗を測定すれば差異が検出されるため、トンネル電流により情報の記録を行うことが出来る。フラーレン単結晶薄膜はトンネル電流が流れた場所を流れなかった場所と区別することができる。すなわち一度トンネル電流が流れた場所にもう一度同じ電圧をかけると一回目より多くのトンネル電流が流れる。このように電圧をかけてトンネル電流を流すことにより、流れるトンネル電流の大きさに差異を付けることにより情報の記録を行うことができる。
一方、流れるトンネル電流の大きさの違いを検出することにより、記録された情報を読み取る(再生)することが可能となる。さらに逆方向に電圧をかけると一回目に流れたトンネル電流の値に戻る。したがって消去が可能である。
【0061】
この原理をハードディスク方式の書き込み、読み出し、消去に使うためには、記録媒体の表面から一定の飛行高さに常にヘッド先端が制御されている必要がある。また、トンネル電流は微小であるのでその変化を読み取る機構をヘッドに内蔵しておく必要がある。絶縁層であるフラーレン単結晶薄膜を流れた電流は白金層を面内方向に流れ、スピンドルを通じていったん外部の回路を通過後、ヘッドに戻ることになる。なお、例えば、サファイア基板/白金層/フラーレン単結晶薄膜の記録媒体の場合、サファイア基板およびフラーレン単結晶薄膜もスピンドルに接触しているが、これらは白金層に比べて抵抗が大きいので面内方向に電流が流れることはない。ハードディスク方式で記録媒体に対して書き込み、読み出しを行うためにはヘッドにトンネル電流を検出するセンサーを組み込む必要がある。ヘッドを飛行させるための機構は現行のハードディスクヘッドに使われているものと同類のものが使用できる。現行のハードディスクは読み書きの時にDFHを使って既に飛行高さ10Å(特許文献1のSTMの探針を利用した情報記録における記録媒体と探針間の距離にほぼ同じ)を達成しているので、これと同じ機構を使うことができる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例によって何等の制約を受けるものではない。
【0063】
(白金層の形成)
(0001)表面が平坦に研磨された直径2インチ(約50mm)のサファイア基板を用意し、基板温度を800℃で約10分保った。これにより不純物を除去し、清浄表面を出すことが出来る。
【0064】
次に前記基板にスパッタリングで白金を基板温度800℃で成膜した。スパッタリングの条件はチャンパー到達真空度1×10
−5Pa、成膜Ar圧力0.2Pa、成膜電力80W、成膜時間20秒であった。次に、基板温度を800℃に保ち、10分間真空中でのアニールを行った。スパッタリングはDCマグネトロンスパッタ装置で行った。
【0065】
(フラーレン単結晶層の形成)
次に、フラーレンC
60を抵抗加熱型の蒸着源るつぼ内に入れ、るつぼを加熱し、C
60を昇華させて、前記白金層上に真空蒸着でC
60単結晶薄膜を成膜した。成膜時の真空度は1×10
−5Pa、蒸発源の温度は約380℃、成膜時間は30秒、基板は180℃とした。
【0066】
次に基板温度を180℃で5分間保ち、真空中でのアニールを行った。このアニールによりC
60の結品性が向上した。
【0067】
C
60単結晶薄膜の面間方向のX線回折の結果を
図4に示す。X線回折結果には白金(111)、サファイア(0006)回折ピークのみ確認された。また、低角側で鏡面振動と白金(111)回折ピークの周りにラウエ振動が観察されているが、これは白金とサファイアの界面が極めて明瞭に定義されており、白金の膜厚が均一であること、また白金がサファイア上で、エピタキシャル成長していることを示している。
【0068】
なお、
図5に上記単結晶薄膜の、白金(111)、サファイア(0006)回折ピークのロッキングカーブを示す。ロッキングカーブの半値幅(FWHM)が白金の結晶性の情報を与える。実施条件では単結晶サファイア基板とほぼ同じ結晶性で白金が成長しており、非常に良い結晶性が実現出来ていることが分かつた。なお、2インチサファイア基板上の任意の測定箇所の9割以上で、白金(111)の半値幅が0.01°以下である結果を得たことから、大面積で結晶性が良い薄膜が形成されていることが分かった。
【0069】
図6に白金(111)のロッキングカーブの半値幅とスバッタ時の基板温度の関係を示す。特に、400℃〜900℃の間で半値幅が狭く、さらに750℃〜850℃の間では半値幅が0.01°以下になっており、面間の配向性が良いことが分かる。
【0070】
C
60(111)の回折ピークは白金層の鏡面振動に埋もれてしまうために、C
60の結晶性の温度依存性は(220)のロッキングカーブで評価を行った。
図7にC
60(220)のロッキングカーブの半値幅とスパッタ時の基板温度の関係を示す。100℃〜200℃の問で半値幅が狭く、160℃〜200℃の問で半値幅がさらに狭まっており、面内の配向性が良いことが分かつた。
【0071】
図9は、サファイア基板/白金層/C
60単結晶薄膜からなる本発明の記録媒体について、走査トンネル顕微鏡(STM:シエンタオミクロン社製)によって、そのC
60単結晶薄膜に電圧を印加した前後のSTM像である。(a)は電圧印加前、(b)は電圧印加後である。丸状の各輝点が表面のC
60分子像である。
【0072】
記録媒体の作製条件は以下の通りである;
基板:サファイア 2.5インチ、面方位(0001)
Ptスパッタ:100W、20秒、Arガス0.27Pa、基板温度 500℃
C60蒸着:400℃、20秒、基板温度190℃
また、STMの探針はタングステン製のものを用い、観察のための走査条件、および、記録のための印加電圧条件は以下の通りである;
通常走査条件 : 2V、 0.2nA
記録電圧条件 : −3.5V、1nA(定電流モード)、1秒
【0073】
図9(a)及び(b)のそれぞれにおいて、符号Aおよび符号Bで示した欠陥の位置から、電圧を印加したC
60分子、および、分子像が変化した(トンネル電流が変化した)C
60分子が識別できる。
図9(a)における矢印で示したC
60分子像の直上で記録のための電圧を印加した。
図9(b)における2つの矢印のうち、左側の矢印で示したC
60分子像は(a)において矢印で示したC
60分子像である。
左側の矢印で示したC
60分子像の直上で記録のための電圧を印加したところ、そのC
60分子像の隣のC
60分子像の輝点が薄くなっていることがわかる。
【0074】
図9で示したSTM像の観察は、記録媒体を作製後、24時間程度、大気に曝した記録媒体について行ったものであり、本発明の記録媒体が大気中で非常に安定であることがわかった。