(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166544
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】色素沈着症の予防又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/36 20060101AFI20170710BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20170710BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20170710BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20170710BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20170710BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K31/192
A61K31/195
A61P17/00
A61K8/44
A61Q19/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-25662(P2013-25662)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-152159(P2014-152159A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】北川 晶
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 泰貴
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−180379(JP,A)
【文献】
特開2013−001684(JP,A)
【文献】
特開2013−001642(JP,A)
【文献】
特開2013−014633(JP,A)
【文献】
特開2011−068575(JP,A)
【文献】
特開2010−083882(JP,A)
【文献】
特開2012−140410(JP,A)
【文献】
特開2006−206575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61K 1/00−90/00
A61K 31/00−31/327
A61P 17/00
A61P 17/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製剤全体に対する配合量が0.1〜15重量%であるロキソプロフェンナトリウム2水和物、及び、製剤全体に対する配合量が1〜5重量%であるトラネキサム酸を含有する、色素沈着症の予防又は治療用組成物。
【請求項2】
外用剤である、請求項1に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
【請求項3】
剤形が、軟膏、クリーム又はローションである、請求項1〜2のいずれか1項に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
【請求項4】
製剤全体に対する配合量が0.1〜15重量%であるロキソプロフェンナトリウム2水和物、及び、製剤全体に対する配合量が1〜5重量%であるトラネキサム酸を含有する、皮膚の色素沈着抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な色素沈着症の予防又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ(肝斑、老人性色素斑等を含む)、そばかす、日やけ、色黒やステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着症は、皮膚にメラニン色素が過剰に沈着して生じるものである。このように、皮膚にメラニン色素が過剰に沈着して生じる色素沈着症は、特に女性にとって美容上好ましくないものである。
【0003】
トラネキサム酸は、メラニンの産生を抑制し、色素沈着症の予防・治療効果や美白効果を有することが知られており、トラネキサム酸を配合した美白用の薬用化粧品(医薬部外品)が市販されている。
【0004】
ロキソプロフェンは、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、プロスタグランジンの産生を抑制することによる抗炎症作用、解熱作用、鎮痛作用が知られており(非特許文献1参照)、非ステロイド性解熱鎮痛薬として広く用いられている。
また、ロキソプロフェンが、ジクロフェナクナトリウム等と同様に、皮膚の沈着色素の排出を促進することが知られている。(特許文献1参照)
【0005】
トラネキサム酸とロキソプロフェンを配合した組成物は、消化管障害抑制や配合変化の防止用途として知られているが(特許文献2、3参照)、色素沈着症の予防又は治療用途や美白用途は知られておらず、また、皮膚外用剤として、両成分を配合したものは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開第2013−001642号公報
【特許文献2】特開第2010−083882号公報
【特許文献3】特開第2012−140410号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第16改正日本薬局方 C−5359頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、効果に優れた色素沈着症の予防又は治療用組成物を提供するのが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ロキソプロフェン又はその塩が色素沈着抑制作用を有することを見出した。さらに、色素沈着症に対する効果が知られている成分であるトラネキサム酸と、従来、色素沈着症に対する効果の知られていないロキソプロフェン又はその塩とを併用した場合、各々の単独の効果よりもさらに優れた色素沈着症の予防又は治療効果が得られることを新たに見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)に関する。
(1)ロキソプロフェン又はその塩、及びトラネキサム酸又はその塩を含有する、色素沈着症の予防又は治療用組成物。
(2)ロキソプロフェン又はその塩が、ロキソプロフェンナトリウム2水和物である、(1)に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
(3)トラネキサム酸又はその塩が、トラネキサム酸である、(1)又は(2)に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
(4) ロキソプロフェン又はその塩の配合量が、製剤全体の0.1〜15重量%である、(1)〜(3)のいずれか1に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
(5)トラネキサム酸又はその塩の配合量が、製剤全体の1〜5重量%である、(1)〜(4)のいずれか1に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
(6)外用剤である、(1)〜(5)のいずれか1に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
(7)剤形が、軟膏、クリーム又はローションである、(1)〜(6)のいずれか1に記載の色素沈着症の予防又は治療用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、実施例に記載したように優れた色素沈着抑制効果を示した。したがって、本発明は、特に、シミ(肝斑を含む)、そばかす、日やけ、色黒やステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着症の予防又は治療剤や、肌色をさらに白くしたいと希望する者に対する美白剤として有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかるロキソプロフェン又はその塩はロキソプロフェンのみならず、ロキソプロフェンの薬学上許容される塩、さらには水やアルコール等との溶媒和物が含まれる。これらは公知の化合物であり、公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いることができる。本発明において、ロキソプロフェン又はその塩としては、ロキソプロフェンナトリウム2水和物が好ましい。
【0013】
本発明におけるトラネキサム酸塩は、公知の化合物であり、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することもできる。本発明におけるトラネキサム酸又はその塩としては、トラネキサム酸が好ましい。
【0014】
本発明の組成物におけるロキソプロフェン又はその塩の配合量は、通常、ロキソプロフェン又はその塩の無水物換算で製剤全体の0.1〜20重量%であり、0.5〜15重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
本発明におけるトラネキサム酸又はその塩の配合量は、通常、製剤全体の0.1〜10重量%であり、0.5〜5重量%が好ましく、1〜3重量%がより好ましい。
また、本発明の組成物における、ロキソプロフェン又はその塩と、トラネキサム酸又はその塩との配合比は、適宜検討を行い、適当な配合比を決めればよいが、重量比として、1:0.01〜15が好ましく、1:0.1〜5がさらに好ましく、1:0.1〜2が特に好ましい。
【0015】
本発明の色素沈着症の予防又は治療用組成物は、経口的又は非経口的に投与(服用)すればよい。経口的に投与する製剤(経口投与製剤)としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤等の剤形を挙げることができる。非経口的に投与する製剤(非経口投与製剤)としては、エキス剤、硬膏剤、酒精剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、点眼剤、注射剤等の医薬品で使用される剤形のほか、クリーム、化粧水、乳液、フォーム剤、ファンデーション、パック剤、皮膚洗浄剤、シャンプー、リンス、コンディショナー等の化粧料組成物の形態の剤形を挙げることができる。本発明の非経口投与製剤としては、軟膏剤、クリーム、ローションが好ましい。また、本発明の組成物は、非経口的に投与する製剤(外用剤)が好ましく、皮膚に適用する外用剤(皮膚外用剤)がより好ましい。
【0016】
本発明の組成物の製剤化は、公知の製剤技術により行うことができ、製剤中には適当な製剤添加物を加えることができる。製剤添加物としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、保湿(湿潤)剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味剤、甘味剤、色素、香料、噴射剤等を挙げることができ、製剤添加物は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して、適当量を加えればよい。
【0017】
本発明の色素沈着症の予防又は治療剤は、シミ(肝斑を含む)、そばかす、日やけ、色黒やステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着症の予防又は治療を目的としている者や肌色をさらに白くしたいと希望する者に対する美白剤として投与するものである。
以下に、実施例を示して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらのみに限定されるべきものではない。
【実施例】
【0018】
1.色素沈着抑制効果の評価
1.1 試験方法
Weiser-Maples系褐色 モルモット(6週齢、オス;東京実験動物)の背部左右2箇所(計4箇所)を電気バリカン及び電気シェーバーで毛刈りを行った。翌日より1日1回週5日間(土日を除く)毛刈り部に検体を塗布した。塗布方法は、媒体又は被験物質溶液40μL[媒体は、エタノール、1,3-ブタンジオール、注射用水(1:1:8)混液]を塗布した後、3%アラキドン酸溶液(媒体はエタノール)40μLをマイクロピペットで塗布した。
塗布した被験物質、アラキドン酸塗布の有無、及び無処置群の6つの実験群[(1)〜(6)]を表1に示した。なお、ロキソプロフェンナトリウムは、第一三共プロファーマ(株)社製のロキソプロフェンナトリウム2水和物を、トラネキサム酸は第一三共プロファーマ(株)社製のものを、アラキドン酸はシグマアルドリッチ社製のものを使用し、表1に記載した被験物質濃度になるように媒体[エタノール、1,3-ブタンジオール、注射用水(1:1:8)混液]で希釈溶解し、当該溶液40μLをモルモットに塗布した。なお、以下の実験、製剤例に記載のロキソプロフェンナトリウムの使用量は、使用したロキソプロフェンナトリウム2水和物を無水物換算したものを示す。
【0019】
【表1】
【0020】
1.2 結果
投与開始日及び投与開始16日目に色彩色差計(CR-400、コニカミノルタ製)を用いて検体塗布部位のL値(明度)を測定し、ΔL値(観察日のL値−投与開始日のL値)を求め、結果を
図1に示した。(ΔL値の絶対値が小さいほど、色素沈着を抑制する効果が高いことを示す。)。
また、
図2は媒体群に対する抑制率(%)を示した図である。
【0021】
【数1】
【0022】
図1の(1)、(2)の比較からアラキドン酸溶液の塗布によりΔL値(観察日のL値−投与開始日のL値)が減少しており、色素沈着が起きたことが分かる。また、
図1(2)〜(4)及び
図2(3)及び(4)の結果からトラネキサム酸塗布により用量依存的なΔL値の減少作用抑制(色素沈着抑制作用)が見られた(3%トラネキサム酸塗布で抑制率10.86%)。一方、
図1(2)と(5)の比較及び
図2(5)の結果から10%ロキソプロフェンナトリウムの色素沈着抑制効果が確認できた(抑制率34.15%)。
図1の(5)と(6)、及び
図2の(6)の結果から、10%ロキソプロフェンナトリウムと3%トラネキサム酸の併用による抑制率は58.56%であり、ロキソプロフェンナトリウムとトラネキサム酸を併用することにより色素沈着抑制作用はより強まり、優れた効果を奏することが分かった。
【0023】
2.製剤例
2.1 ローション剤
(製剤例1)
下記(表2)の組成にて、第16改正日本薬局方製剤総則に準じてローション剤を製造した。
【0024】
【表2】
【0025】
(製剤例2)
下記(表3)の組成にて、第16改正日本薬局方製剤総則に準じてローション剤を製造した。
【0026】
【表3】
【0027】
(製剤例3)
下記(表4)の組成にて、第16改正日本薬局方製剤総則に準じてローション剤を製造した。
【0028】
【表4】
【0029】
(製剤例4)
下記(表5)の組成にて、第16改正日本薬局方製剤総則に準じてローション剤を製造した。
【0030】
【表5】
【0031】
2.2 クリーム剤
下記(表6)の組成(重量%)にて、第16改正日本薬局方製剤総則に準じてクリーム剤を製造した。
【0032】
【表6】
【0033】
2.3 化粧水
下記(表7)の組成(重量%)にて、常法に従って化粧水を製造した。
【0034】
【表7】
【0035】
2.4 クリーム
下記(表8)の組成(重量%)にて、常法に従ってクリームを製造した。
【0036】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の組成物は、優れた色素沈着抑制効果を示した。したがって、本発明の色素沈着症の予防又は治療剤、シミ(肝斑を含む)、そばかす、日やけ、色黒やステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着症の予防及び/又は治療剤として、又は美白剤として有用なものである。