【文献】
Sheng Shui ZHANG,Journal of Power Source,2007年,164(1),pp.351-364
【文献】
YANG, Min et al.,Membranes in Lithium Ion Batteries,Membranes,2012年 7月 4日,2(3),pp.367-383,ISSN:2077-0375
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルム状電極の少なくとも片面に、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層が湿式相転換法により前記フィルム状電極と一体に形成された電極−多孔質層積層体により構成されており、前記多孔質層の内部の空孔率が60〜80%であり、前記多孔質層のガーレー式デンソメーターを用い、JIS P8117に準じて測定した透気度が5〜60秒であり、前記多孔質層が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を含む電極一体型セパレータ。
前記多孔質層が、該多孔質層を構成すべき高分子を含む溶液を前記フィルム状電極の表面へフィルム状に流延した後、凝固液中に導き、次いで乾燥に付すことにより、前記フィルム状電極の少なくとも片面に該フィルム状電極と一体に形成されている請求項1又は2記載の電極一体型セパレータ。
前記多孔質層が、該多孔質層を構成すべき高分子を含む溶液を基板の表面へフィルム状に流延した後、凝固液中に導いて多孔質フィルムを作製し、基板から剥離した該多孔質フィルムを濡れた状態で前記フィルム状電極の表面へ転写し、次いで乾燥に付すことにより、前記フィルム状電極の少なくとも片面に該フィルム状電極と一体に形成されている請求項1又は2記載の電極一体型セパレータ。
前記高分子を含む溶液が、高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー5〜50重量%、水0〜10重量%、及び水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液である請求項3又は4記載の電極一体型セパレータ。
フィルム状電極の少なくとも片面に、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を湿式相転換法により前記フィルム状電極と一体に形成され、前記多孔質層の内部の空孔率が60〜80%であり、前記多孔質層のガーレー式デンソメーターを用い、JIS P8117に準じて測定した透気度が5〜60秒であり、前記多孔質層が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする電極一体型セパレータの製造方法。
前記多孔質層を構成すべき高分子を含む溶液をフィルム状電極の表面へフィルム状に流延した後、凝固液中に導き、次いで乾燥に付して前記フィルム状電極の少なくとも片面に多孔質層を前記フィルム状電極と一体に形成する工程を含む請求項10記載の電極一体型セパレータの製造方法。
前記多孔質層を構成すべき高分子を含む溶液を基板の表面へフィルム状に流延した後、凝固液中に導いて多孔質フィルムを作製し、基板から剥離した該多孔質フィルムを濡れた状態で前記フィルム状電極の表面へ転写し、次いで乾燥に付して前記フィルム状電極の少なくとも片面に多孔質層を前記フィルム状電極と一体に形成する工程を含む請求項10記載の電極一体型セパレータの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の電極一体型セパレータ(「電極一体型セパレータ積層体」と称する場合がある)は、フィルム状電極の少なくとも片面に多孔質層が該フィルム状電極と一体に形成された電極−多孔質層積層体により構成されている。前記多孔質層は、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである。
【0034】
本発明の電極一体型セパレータは、一次電池、二次電池、キャパシタ用の部材として使用することが可能である。一次電池としては、例えば、ボルタ電池、アルカリ電池、マンガン電池、アルカリマンガン電池、二酸化マンガン−リチウム電池やフッ化黒鉛−リチウム電池等が挙げられる。また、二次電池としては、例えば、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池や、ニッケル水素電池や、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー電池等が挙げられる。キャパシタとしては、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。
【0035】
[フィルム状電極]
本発明の電極一体型セパレータは、フィルム状電極の少なくとも片面に多孔質層が積層されている構成を有している。前記フィルム状電極は一次電池、二次電池用電極及びキャパシタ用電極から選択された少なくとも1種を含んでいればよく、その他の点では特に制限されない。
【0036】
前記フィルム状電極は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなってもよい。電極は、正極(陽極)と負極(陰極)に分けられ、電池によって適正な組み合わせで使用される。電極は、ボルタ電池のように、二種類の金属箔や金属板をそれぞれ正極と負極として用いることが可能である。例えば、銅箔と亜鉛箔、銅箔とアルミ箔などが例示される。一方、リチウムイオン電池のように、集電体上に正極活物質を積層したものや、集電体上に負極活物質を積層したものを電極として用いる場合もある。
【0037】
本発明の電極一体型セパレータが一次電池に使用される場合には、正極、負極及び電解質には公知のものを用いることができる。例えば、本発明の電極一体型セパレータが使用される電池が二酸化マンガン−リチウム電池である場合には、正極に二酸化マンガン、負極にリチウム金属、電解質として有機溶媒にリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。本発明の電極一体型セパレータが使用される電池がフッ化黒鉛−リチウム電池である場合には、正極にフッ化黒鉛、負極及び電解質としては上記の二酸化マンガン−リチウム電池と同様のものを用いることができる。
【0038】
本発明の電極一体型セパレータが使用される電池が二次電池である場合にも、正極、負極及び電解質には公知のものを用いることができる。例えば、本発明の電極一体型セパレータが使用される電池が鉛蓄電池である場合は、正極活物質にPbO
2、負極活物質にPb、電解液にはH
2SO
4水溶液を用いることができる。本発明の電極一体型セパレータが使用される電池がニッケル−カドミウム電池である場合は、正極活物質にNiOOH、負極活物質にCd、電解質にはKOHを主体としてLiOHやNaOHを添加した水溶液を用いることができる。また、本発明の電極一体型セパレータが使用される電池がニッケル−水素電池である場合は、負極活物質に水素(水素吸蔵合金)を用いることができ、正極活物質および電解液にはニッケル−カドミウム電池と同様なものを用いることができる。
【0039】
また、本発明の電極一体型セパレータが使用される電池がリチウムイオン二次電池である場合の正極活物質、負極活物質及び電解質については下記に詳述する。なお、正極用集電体箔としては、例えば、アルミニウム、チタンおよびステンレススチール等の金属箔を用いることができ、アルミニウム箔を用いることが好ましい。負極用集電体箔としては、例えば、銅、ニッケルおよびステンレススチール等の金属箔を用いることができ、銅箔を用いることが好ましい。
【0040】
リチウムイオン二次電池の場合の正極活物質としては、LiとCo、Ni、Mn、Fe等の遷移金属との複合金属酸化物、又はLiと遷移金属と非遷移金属との複合金属酸化物を用いることができる。例えば、層状構造を有し電気化学的にリチウムイオンがインターカレート(intercalate)、ディインターカレート(deintercalate)し得るリチウム複合金属酸化物等を挙げることができる。リチウム複合金属酸化物の具体例としては、特開昭55−136131号公報(米国特許第4357215号に対応)に開示されているLiCoO
2、特開平3−49155号公報に開示されているLi
xNi
yCo
(1-y)O
2(但し、0≦x≦1、0≦y≦1)、及びLi
xMn
2O
4(但し、0≦x≦1)等が挙げられる。
【0041】
このような化合物を得るには、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム等のリチウム化合物と金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属硝酸塩等と、さらに、もし望まれるならば、他の金属化合物との焼成反応により容易に得ることができる。
【0042】
また、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、コークス、グラファイト、非晶質カーボン等の炭素質材料を用いることができ、その形状としては破砕状、鱗片状、球状いずれの形状であってもよい。上記の炭素質材料は、特に限定されるものではないが、例えば、特開昭58−35881号公報(米国特許第4617243号に対応)に記載の高表面積炭素材料、グラファイト、特開昭58−209864号公報に記載のフェノール系樹脂等の焼成炭化物、また特開昭61−111907号公報(米国特許第4725422号に対応)に記載の縮合多環炭化水素系化合物の焼成炭化物等が挙げられる。その他に、Si系材料、Ge系材料も挙げられる。
【0043】
前記電極の厚みは、特に限定されないが、それぞれ、例えば、5〜500μm、好ましくは8〜400μm、さらに好ましくは10〜300μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になる一方で、厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。
【0044】
前記電極と前記多孔質層との密着性を向上させる観点から、前記電極における前記多孔質層を積層する側の表面には、例えば、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、シランカップリング剤処理等の適宜な表面処理を施すことが好ましい。前記表面処理は、複数を組み合わせて施されてもよい。
【0045】
[多孔質層]
前記多孔質層(多孔質膜ともいう)は、主成分が例えば高分子成分で構成されている。前記高分子成分としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂等のプラスチック等が挙げられる。これらの高分子成分は単独で又は2種以上混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体(グラフト重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等)を単独で又は組み合わせて用いることも可能である。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含む重合物を用いることも可能である。このような重合物の具体例として、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等が挙げられる。
【0046】
なかでも、前記高分子成分の好ましい例として、耐熱性があり、機械的強度、耐薬品性、電気特性に優れているポリアミドイミド系樹脂又はポリイミド系樹脂を主成分とするものが挙げられる。ポリアミドイミド系樹脂は、通常、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、又は無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することによって製造することができる。ポリイミド系樹脂は、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応によりポリアミック酸を得て、それをさらにイミド化することにより製造することができる。多孔質層をポリイミド系樹脂で構成する場合には、イミド化すると溶解性が悪くなるために、まずポリアミック酸の段階で多孔膜を形成してからイミド化(熱イミド化、化学イミド化等)されることが多い。前記高分子成分の他の好ましい例として、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂を主成分とするものが挙げられる。なお、本明細書において、主成分とは全体に対して50重量%以上であるものを意味する。
【0047】
前記多孔質層(膜)の厚みは、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは1〜30μm、特に好ましくは1〜20μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には透気性(イオン通過性)が悪くなるという問題が生じやすい。
【0048】
前記多孔質層は、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径(=フィルム内部の平均孔径)が0.01〜10μmであるが、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.05〜3μm、さらに好ましくは0.05〜2μmである。平均孔径が上記範囲外である場合には、用途に応じた所望の効果が得られにくい点で空孔特性に劣り、例えばサイズが小さすぎる場合には、透気性(イオン通過性)の低下、クッション性能の低下、溶剤の浸透性の低下等を引き起こす場合があり、大きすぎる場合には絶縁性が低下したり、充放電に伴う金属デンドライトが発生した場合ショートしやすくなったり、イオンの通路の集中が起こったりする場合がある。
【0049】
ただ、従来のポリオレフィン系セパレータは延伸により引き裂き孔を開けられているため、孔構造が単純な傾向があり、樹枝状結晶である金属デンドライトによるショートが起こりやすい傾向にあるが、本発明の多孔質層の多孔構造は複雑なスポンジ状構造となっており、樹枝状結晶が貫通しにくい構造であり、本質的にショートが起こりにくいと言える。
【0050】
前記多孔質層(膜)の内部の平均開孔率(空孔率)は、例えば30〜80%、好ましくは40〜80%、さらに好ましくは45〜80%、特に好ましくは60〜80%である。空孔率が上記範囲外である場合には、用途に対応する所望の空孔特性が得られにくく、空孔率が低すぎると、透気性(イオン通過性)が低下したり、溶剤の浸透性の低下を引き起こしたりする場合があり、空孔率が高すぎると、強度や耐折性に劣る可能性がある。
【0051】
前記多孔質層(膜)の表面の開孔率(表面開孔率)は、例えば48%以上(例えば48〜80%)であり、好ましくは60〜80%程度である。表面開孔率が低すぎると透過性能(イオン通過性)が充分でない場合が生じることがあり、高すぎると強度、耐折性が低下しやすくなる。
【0052】
前記多孔質層(膜)は、前記電極の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成されていてもよい。
【0053】
前記多孔質層(膜)には、耐薬品性の付与処理が施されていてもよい。その結果、多孔膜積層体に耐薬品性を付与され、多孔膜積層体の多様な利用形態において、溶剤、酸、アルカリ等に接触した場合に、層間剥離、膨潤、溶解、変質等の不具合を避けることができる点で有利である。耐薬品性の付与処理としては、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線等による物理的処理;多孔質層(膜)に耐薬品性高分子等を被覆する化学的処理等が挙げられる。
【0054】
前記多孔質層(膜)は、耐薬品性高分子により被覆されていてもよい。このような多孔膜積層体は、例えば多孔質層(膜)の表面や内部の微小孔の表面に耐薬品性の被膜が形成され、耐薬品性を有する積層体を構成しうる。ここで、薬品とは、従来の多孔性フィルムを構成する樹脂を溶解、膨潤、収縮、分解して、多孔性フィルムとしての機能を低下させるものとして公知のものが挙げられ、多孔質層及び電極の構成樹脂の種類によって異なり一概に言うことはできないが、このような薬品の具体例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)等の強い極性溶媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩;トリエチルアミン等のアミン類;アンモニア等のアルカリを溶解した水溶液や有機溶媒等のアルカリ溶液;塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸、フタル酸等のカルボン酸を持つ有機酸等の酸を溶解した水溶液や有機溶媒等の酸性溶液;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0055】
前記耐薬品性高分子化合物は、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品に優れた耐性を有していても良く、例えば、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、アルキド系樹脂、トリアジン系樹脂、フラン系樹脂、不飽ポリエステル、エポキシ系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂等の熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂;ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、フタル酸系樹脂、マレイン酸系樹脂、飽和ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、キチン、キトサン等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらの高分子化合物は、一種または二種以上混合して使用することができる。また、高分子化合物は、共重合物でもよく、グラフト重合物であってもよい。
【0056】
このような耐薬品性高分子により被覆された多孔質層(膜)で構成されている多孔膜積層体は、前記強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触した場合にも、多孔質層(膜)が溶解したり、膨潤して変形したりする等の変質が全く生じないか、使用環境において影響のない程度に変質を抑制することができる。
【0057】
なお、前記耐薬品性高分子化合物は、同時に耐熱性を有する場合が多いため、前記多孔質層が前記耐薬品性高分子化合物で被覆される前と比較して耐熱性が低下するおそれは少ない。
【0058】
[電極−多孔質層積層体]
本発明の電極一体型セパレータは、フィルム状電極と多孔質層とが一体化した構造を有する電極−多孔質層積層体により構成されているため、高い機械的強度を備えている。そのため、該積層体の総厚みが、例えば100μm未満程度の薄い場合にも十分な強度を発揮できる点で有利である。また、フィルム状電極の表面に多孔質層が湿式相転換法により形成されているので、優れた空孔特性を有する。
【0059】
前記電極−多孔質層積層体の好ましい形態は、電極の片面又は両面が多孔質層により被覆されており、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を有する積層体であり、その多孔質層の厚みが1〜100μmであり、空孔率が30〜80%であって、電極の厚みが5〜500μmである。このような積層体は、多孔質層及び電極を構成する材料や厚み、製造条件等を適宜設定することにより製造できる。
【0060】
本発明においては、フィルム状電極の少なくとも片面に多孔質層が積層されていればよく、電極の両面に多孔質層を有していてもよい。また、多孔質層は、電極表面のうち少なくとも活物質(正極活物質、負極活物質)部を被覆するように形成されていればよい。
【0061】
前記電極−多孔質層積層体は、前記多孔質層が有する空孔特性をそのまま利用することにより、電池用やキャパシタ用部材として、またはその一部として利用可能である。また、前記電極−多孔質層積層体には、所望の特性を付与するため、必要に応じて熱処理や被膜形成処理を施されていてもよい。
【0062】
前記電極−多孔質層積層体は、上記構成を有するため、広範な電池またはキャパシタの用途に適用できる。特に耐熱性(安全性)に優れた電池又はキャパシタ材料として利用可能である。
【0063】
本発明の電極一体型セパレータ(電極−多孔質層積層体)においては、下記テープ剥離試験により、前記フィルム状電極と前記多孔質層との間で界面剥離を起こさないことが好ましい。すなわち、電極と多孔質層が下記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で積層されていることが好ましい。
(テープ剥離試験)
電極一体型セパレータの多孔質層表面にマスキングテープ[寺岡製作所社製、商品名「フィルムマスキングテープNo.603(#25)」、幅24mm]を貼り、直径30mm、200gf荷重のローラーで圧着した後、引張試験機を用いて剥離速度50mm/分でT型剥離を行う
【0064】
このような層間密着強度を有する電極一体型セパレータ(電極−多孔質層積層体)は後述する製造法により得ることができる。
【0065】
本発明の電極一体型セパレータの多孔質層の透気度は、0.5〜120秒であることが好ましく、0.5〜80秒であることがさらに好ましく、0.5〜60秒であることが特に好ましい。
【0066】
さらに、本発明の電極一体型セパレータは、下記高温放置試験における形状変化率が3%以内であることが好ましい。
(高温放置試験)
電極一体型セパレータ(電極−多孔質層積層体)を約6cm×10cmの概略長方形に整形し、前記概略長方形の直交する2辺の長さa1、b1を測定し、200℃に調温した恒温槽内に前記積層体を投入し30分間放置してから、前記積層体を取り出し、室温になるまで放冷した後に、前記概略長方形の直交する2辺の長さa2、b2を測定し、下記式を用いて形状変化率を計算した。
a1、a2による形状変化率(%)={|a2−a1|/a1}×100
b1、b2による形状変化率(%)も同様にして求め、これらの値の平均値を、本高温放置試験における形状変化率とした。
【0067】
本発明の電極一体型セパレータは、電極に耐熱多孔質層を積層できるので、耐熱性を高くすることができ、このため耐熱性や安全性が要求される電池やキャパシタ用途に用いることができる。本発明の電極一体型セパレータは、例えば200℃程度の高温下での使用が可能であるが、それ以下の温度下でも当然使用できる。
【0068】
また、本発明の電極一体型セパレータにおいては、セパレータ機能を有する多孔質層(膜)が電極と一体化しているため、電極により十分な強度を確保できる。多孔性フィルムは一般に空孔率が高いため、多孔性フィルム単体では強度が十分でない場合もあるが、セパレータと電極とを積層、一体化することで、セパレータに要求される強度要求が圧倒的に小さくできる。
【0069】
従来の電池でセパレータとして使用されている樹脂フィルム製の微多孔膜は、単体で取り扱う必要性から機械的強度を持たせるために25μmより薄くすることは困難であった。しかし、本発明のような電極一体型セパレータでは、セパレータ単体で扱う必要がないため製造及びその後の加工が容易となる。また、セパレータを極端に薄くすることが可能であり、電池の単位体積あたりに収容可能な活物質の量を増やすことができるだけでなく、内部抵抗を低減できるため、入出力特性を著しく向上させることが可能である。
【0070】
さらに、電極一体型セパレータは柔軟性があり、電極とセパレータが一体化しているため、ずれが生じることは無い。従来の電池の製造工程で起きる可能性のある、セパレータのずれや皺の発生などは起こり難く、非常に有利となる。もし、ずれが発生すれば正極と負極の接触が起こったり、接触が起こりやすくなったりし、電池として機能しなくなったり、発熱を起こし安全性の問題を引き起こすことになるため、ずれが発生しないことには、大きなメリットがある。
【0071】
また、皺が発生するとその部分が切断され、上記と同様の問題が発生する可能性があり、皺が発生しないことも大きなメリットとなる。さらに、皺の発生は、その部分が厚みを増すため、電池の厚みや大きさが増したり、電池の容器に入らなかったりするほか、体積あたりの電池の容量を下げることにも繋がってしまう。
【0072】
図9は従来型セパレータ(ポリオレフィン系セパレータ)を用いた電池の構造である。正極1と負極2を対向させ、その間にセパレータ3が配置されている。
【0073】
次に、本発明の電極一体型セパレータを使用した電池の具体的構成例を説明する。
図2は、正極11の片面に多孔質層(セパレータ)12を形成して電極(正極)一体型セパレータ10を作製し、該電極(正極)一体型セパレータ10と負極2が対向するように配置させた例である。
図3は、負極21の片面に多孔質層(セパレータ)22を形成して電極(負極)一体型セパレータ20を作製し、該電極(負極)一体型セパレータ20と正極1が対向するように配置させた例である。
【0074】
図4は、正極11、負極21それぞれの片面に多孔質層(セパレータ)12、多孔質層(セパレータ)22を形成して、電極一体型セパレータ10、20を作製し、これらを、電極と一体化されたセパレータ12、22が対向するように配置させた例である。このような構造とすることにより、仮にセパレータにピンホールのような欠陥が発生した場合でも、正極・負極両側の一体化したセパレータの全く同じ位置にピンホールのような欠陥が発生する可能性は限りなく少ないため、ショートが発生する確率は非常に小さくなり、安全性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0075】
図5は、正極11、負極21それぞれの片面に多孔質層(セパレータ)12、多孔質層(セパレータ)22を形成して、電極一体型セパレータ10、20を作製し、これらを、電極と一体化されたセパレータ12、22が対向するように配置し、さらに従来型のセパレータ(ポリオレフィン系セパレータ)3を、該電極一体型セパレータ10、20の間に配置させた例である。従来型のセパレータ(ポリオレフィン系セパレータ)3を併用することでシャットダウン機能も付与することができ、さらなる安全性を付与することが可能である。
【0076】
上述したように、リチウムイオン電池などの電極は、集電体上に活物質を積層させたものが用いられている。
図6の構成は基本的に
図2の構成と同じであるが、リチウムイオン電池などの構成を詳細に示したものである。すなわち、
図6は、正極集電体13上に正極活物質14を積層させた正極の前記正極活物質14の表面に多孔質層(セパレータ)12を形成して、電極(正極)一体型セパレータ100を作製し、該電極(正極)一体型セパレータ100と、負極集電体23上に負極活物質24を積層させた負極200とを、前記多孔質層(セパレータ)12と負極活物質24の面とが対向するように配置させた例である。
【0077】
図3〜
図5においても、
図6のように電極を集電体上に活物質を積層させたものとして応用した構成とすることも可能である。
図2〜
図6は電池の最も基本的な構造を示したものである。
【0078】
図7は、正極集電体13の両面に正極活物質14を積層させた正極の両面に、さらに多孔質層(セパレータ)12を形成させて得られる電極(正極)一体型セパレータ101と、負極集電体23の両面に負極活物質24を積層させた負極201とを、前記多孔質層(セパレータ)12と負極活物質24の面が対向するように配置させた例である。これは、この単位電池層を多数積層するか、又は捲回するときに用いられる構造である。
【0079】
図8は、正極集電体13の両面に正極活物質14を積層させた正極の片面に、さらに多孔質層(セパレータ)12を形成させて得られる電極(正極)一体型セパレータ102と、負極集電体23の両面に負極活物質24を積層させた負極の片面に、さらに多孔質層(セパレータ)22を形成させて得られる電極(負極)一体型セパレータ202とを、前記正極に設けられた多孔質層(セパレータ)12と負極活物質24の面が対向するように配置させた例である。これは、この単位電池層を多数積層するか、又は捲回するときに用いられる構造である。
図7における正極側の一体化された多孔質層(セパレータ)の一つを負極側に移動させたパターンである。
【0080】
基本的に、電極表面(又は活物質表面)がもう一方の電極表面(又は活物質表面)と直接接触しないように一体型セパレータを配置するような構造となればよいため、さらなるバリエーションを考えることが可能である。ここに挙げた組み合わせが利用可能な全てではない。
【0081】
また、従来型のセパレータ(ポリオレフィン系セパレータ)が持つシャットダウン機能を併用した場合として、
図5に例を示したが、この例に限定されない。
図2〜3、
図6〜8においても、電極一体型セパレータと電極の間、又は電極一体型セパレータと電極一体型セパレータの間の空間に、従来型のセパレータ(ポリオレフィン系セパレータ)を挿入することによりシャットダウン機能の付与が可能となる。そして、前記特許文献2(特開2011−181459号公報)に開示されている耐熱性が若干改善されているセパレータを用いることも可能である。これらについても、ここに挙げた組み合わせが利用可能な全てではない。
【0082】
本発明の電極一体型セパレータは、セパレータの薄膜化が可能であり、耐熱性(安全性)が向上でき、しかも取扱性及び成形加工性に優れている。また、空孔特性(高い空孔率、連通性、均質性等)にも優れている。このため、一次電池、二次電池用部材、キャパシタ部材として好適に使用できる。
【0083】
[電極一体型セパレータの製造方法]
本発明の電極一体型セパレータ(電極一体型セパレータ積層体)は、フィルム状電極の表面に多孔質層を湿式相転換法を用いて形成することにより製造できる。湿式相転換法とは、多孔質層(膜)を構成すべき高分子を含む溶液(高分子溶液)を表面が平らな物体(フィルム状電極、基板、基材等)上にフィルム状に流延し、その後、これを凝固液中に導き、多孔質層(膜)を得る方法である。
【0084】
本発明の電極一体型セパレータは、例えば、前記高分子溶液を電極上へフィルム状に流延した後、凝固液中に導き、次いで乾燥に付して前記電極の少なくとも片面に多孔質層を積層する工程(電極−多孔質層積層体の製造工程1)により製造できる。また、本発明の前記電極一体型セパレータ積層体は、前記高分子溶液を基板上へフィルム状に流延した後、凝固液中に導いて多孔質フィルムを作製し、基板から剥離した該多孔質フィルムを濡れた状態で前記フィルム状電極の表面へ転写し、次いで乾燥に付して前記電極の少なくとも片面に多孔質層を積層する工程(電極−多孔質層積層体の製造工程2)により製造できる。以下、電極一体型セパレータ積層体の製造方法について説明する。
【0085】
(電極−多孔質層積層体の製造工程)
前記電極−多孔質層積層体(本発明の電極一体型セパレータ積層体の構成部材)は、例えば、高分子溶液を電極上へフィルム状に流延し、凝固液に接触させて多孔化処理を施した後、そのまま乾燥に付して電極と多孔質層との積層体を得る方法(電極−多孔質層積層体の製造工程1)または、高分子溶液を基板上へフィルム状に流延した後、凝固液に導いて多孔質フィルムを作製し、基板から剥離した該多孔質フィルムを濡れた状態で前記フィルム状電極の表面へ転写し、次いで乾燥に付すことにより多孔性フィルムが電極上に積層した積層体を得る方法(電極−多孔質層積層体の製造工程2)等により製造できるが、前者の方法がプロセスも簡単であり好ましく用いられる。なお、湿式相転換法によりフィルムを得る方法として、例えば、特開2001−145826号公報等を参照できる。
【0086】
前者の方法によれば、湿式相転換法を用いて電極上に多孔質層を形成した後、そのまま乾燥に付すため、多孔質層の形成と同時に電極表面に密着して積層することができ、製造効率を向上することができる。また、多数の微小孔を有する多孔質層は柔軟なため、多孔質層を構成するフィルム単体では取扱いにくく積層工程が困難であるが、製膜と同時に積層する製造方法によれば、このような問題を回避でき、優れた空孔特性を有する多孔質層と電極とが直接積層された電極−多孔質層積層体を容易に得ることができる。
【0087】
流延に付す高分子溶液としては、例えば、多孔質層を構成する素材となる高分子成分、水溶性ポリマー、水溶性極性溶媒、必要に応じて水からなる混合溶液等を用いることができる。
【0088】
前記多孔質層を構成する素材となる高分子成分としては、水溶性極性溶媒に溶解性を有し相転換法によりフィルムを形成しうるものが好ましく、上記に例示のものを一種又は二種以上混合して利用できる。また、前記多孔質層を構成する高分子成分の代わりに、該高分子成分の単量体成分(原料)や、そのオリゴマー、イミド化や環化等の前の前駆体等を用いてもよい。
【0089】
流延に付す高分子溶液への水溶性ポリマーや水の添加は、膜構造をスポンジ状に多孔化するために効果的である。前記水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、多糖類等やその誘導体、及びこれらの混合物等が挙げられる。なかでもポリビニルピロリドンは、フィルム内部におけるボイドの形成を抑制し、フィルムの機械的強度を向上しうる点で好ましい。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。多孔化の観点から、前記水溶性ポリマーの分子量は200以上が良く、好ましくは300以上、特に好ましくは400以上(例えば、400〜20万程度)であり、特に分子量1000以上であってもよい。水の添加によりボイド径を調整でき、例えばポリマー溶液への水の添加量を増やすとボイド径を大きくすることが可能となる。
【0090】
前記水溶性ポリマーは、膜構造をスポンジ状にするのに非常に有効であり、前記水溶性ポリマーの種類と量を変更する事により多様な構造を得ることが可能である。このため、前記水溶性ポリマーは、所望の空孔特性を付与する目的で、多孔質層を形成する際の添加剤として極めて好適に用いられる。一方、前記水溶性ポリマーは、最終的には多孔質層を構成しない、除去すべき不要な成分である。湿式相転換法を利用する方法においては、前記水溶性ポリマーは水等の凝固液に浸漬して相転換する工程において容易に洗浄除去される。これに対し、乾式相転換法においては、多孔質層を構成しない成分(不要な成分)は加熱により除去され、水溶性ポリマーを加熱によって除去することは、湿式相転換法を利用した場合ほど容易ではない。このように、乾式層転換法を利用した場合よりも、湿式相転換法を利用する製造方法は、所望の空孔特性を有する電極−多孔質層積層体を容易に製造できる点で有利である。
【0091】
前記水溶性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン及びこれらの混合物等が挙げられ、前記高分子成分として使用する樹脂の化学骨格に応じて溶解性を有するもの(高分子成分の良溶媒)を使用することができる。
【0092】
流延に付すポリマー溶液としては、多孔性フィルムを構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー5〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液等が好ましい。この際に、高分子成分の濃度が低すぎると多孔質層の厚みが不十分となったり、所望の空孔特性が得られにくくなったりする。また、高分子成分の濃度が高すぎると空孔率が小さくなる傾向にある。水溶性ポリマーは、フィルム内部を均質なスポンジ状の多孔構造にするために添加するが、この際に濃度が低すぎるとフィルム内部に10μmを超えるような巨大ボイドが発生し均質性が低下する。また水溶性ポリマーの濃度が高すぎると溶解性が悪くなる他、50重量%を超える場合には、フィルム強度が弱くなる等の不具合が生じやすい。水の添加量はボイド径の調整に用いることができ、添加量を増やすことで径を大きくすることが可能となる。
【0093】
高分子溶液をフィルム状に流延する際に、該フィルムを相対湿度70〜100%、温度15〜90℃からなる雰囲気下に0.2〜15分間保持した後、高分子成分の非溶剤からなる凝固液に導くのが望ましい。流延後のフィルム状物を上記条件におくことにより、多孔質層を均質で連通性の高い状態にすることができる。この理由としては、加湿下に置くことにより水分がフィルム表面から内部へと侵入し、高分子溶液の相分離を効率的に促進するためと考えられる。特に好ましい条件は、相対湿度90〜100%、温度30〜80℃であり、相対湿度約100%(例えば、95〜100%)、温度40〜70℃である。空気中の水分量がこれよりも少ない場合は、表面の開孔率が充分でなくなる不具合が発生する場合がある。
【0094】
前記電極−多孔質層積層体の製造工程によれば、例えば、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を容易に成形することができる。本発明における多孔膜積層体を構成する多孔質層の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、高分子溶液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間等を適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0095】
相転換法に用いる凝固液としては、高分子成分を凝固させる溶剤であればよく、高分子成分として使用する高分子の種類によって適宜選択されるが、例えば、ポリアミドイミド系樹脂又はポリアミック酸を凝固させる溶剤であればよく、例えば、水;メタノール、エタノール等の1価アルコール、グリセリン等の多価アルコール等のアルコール;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;これらの混合物等の水溶性凝固液等が使用できる。
【0096】
前記電極−多孔質層積層体の製造工程においては、凝固液に導いて電極の表面に多孔質層を成形した後、そのまま乾燥に付すことにより、電極の表面に多孔質層が直接積層された構成を有する多孔膜積層体が製造される。乾燥は、凝固液等の溶剤成分を除去しうる方法であれば特に限定されず、加熱下でもよく、室温による自然乾燥であってもよい。加熱処理の方法は特に制限されず、熱風処理、熱ロール処理、あるいは、恒温槽やオーブン等に投入する方法でもよく、電極−多孔質層積層体を所定の温度にコントロールできるものであればよい。加熱温度は、例えば室温〜600℃程度の広範囲から選択することができる。加熱処理時の雰囲気は、空気、窒素、不活性ガスの何れでもよい。空気を使用する場合が最も安価であるが、酸化反応を伴う可能性がある。これを避ける場合は、窒素や不活性ガスを使用するのがよく、コスト面からは窒素が好適である。加熱条件は、生産性、多孔質層及び電極の物性等を考慮して適宜設定される。乾燥に付すことにより、電極表面に多孔質層が直接成形された電極−多孔質層積層体を得ることができる。
【0097】
こうして得られた電極−多孔質層積層体には、さらに、熱、可視光線、紫外線、電子線、放射線等を用いて架橋処理を施してもよい。前記処理により、多孔質層を構成する前駆体の重合、架橋、硬化等が進行して高分子化合物を形成し、多孔質層が高分子化合物で構成されている場合には架橋や硬化等が進行し、剛性や耐薬品性等の特性が一層向上した多孔質層を有する電極−多孔質層積層体を得ることができる。例えば、ポリイミド系前駆体を用いて成形した多孔質層には、さらに熱イミド化あるいは化学イミド化等を施すことによりポリイミド多孔質層を得ることができる。ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形された多孔質層には熱架橋を施すことができる。なお、熱架橋は、凝固液に導いた後、乾燥に付すための加熱処理と同時に施すことも可能である。
【0098】
前記電極−多孔質層積層体の製造工程によれば、前記電極の片面、又は両面が前記多孔質層により被覆されており、前記多孔質層は連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜80%であり、厚みが例えば1〜100μmである多孔質層を有する積層体を容易に得ることができる。多孔質層の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、前記高分子溶液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0099】
前記電極−多孔質層積層体の製造工程2の工程で用いる基板としては、例えば、ガラス板;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、塩化ビニル樹脂、その他の樹脂からなるプラスチックシート;ステンレス板、アルミニウム板等の金属板などが挙げられる。なお、表面素材と内部素材とを違うもので組み合わせた複合板でもよい。基板の表面には剥離処理(離型処理)が施されていてもよい。
【0100】
電極−多孔質層積層体の製造工程2においてフィルム状多孔質層を形成する方法は、前記電極−多孔質層積層積層体の製造工程1における湿式相転換法と同様である。電極−多孔質層積層体の製造工程2が電極−多孔質層積層体の製造工程1と異なる点は、電極の代わりに前記基板を用いる点と、形成されたフィルム状多孔質層を基板から剥離して転写する点である。流延に付す高分子溶液、流延の方法、凝固液、乾燥の方法等は前記と同じである。
【0101】
フィルム状多孔質層の基板からの剥離方法としては、該フィルム状多孔質層を基板から強制的に剥離してもよいし、あるいは、多孔質膜を構成する高分子成分と基板材料との組合せを選択して、凝固液中に浸漬すると自然に該フィルム状多孔質層が基板から剥離するようにしてもよい。
【0102】
強制的な剥離は、多孔質膜の厚みを均一にできる傾向があるが、強く引っ張ると多孔質膜を破損するおそれがあるので注意が必要となる。
【0103】
自然と剥離するようにした方が、製造は容易であるが、多孔質膜の厚みに若干の厚みむらが生じる傾向がある。フィルム状多孔質層と基板が凝固液に導かれると自然と剥離するようにするためには、基板として撥水性の高いものを使用することが好ましい。例えば、フッ素系フィルム[例えば、テフロン(登録商標)フィルムなど]や、表面にフッ素系樹脂を貼り合わせたりコーティングしたフィルム等を用いることができる。
【0104】
上記方法によれば、多数の微小孔を有し、前記微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜80%であり、厚みが例えば1〜100μmの多孔質膜を容易に成形することができる。多孔質膜の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、前記高分子溶液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間などを適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0106】
テープ剥離試験、平均孔径の測定、空孔率の測定、透気度試験、高温放置試験は以下の方法で行った。
【0107】
(テープ剥離試験)
(i)電極−多孔質層積層体(電極フィルム−多孔質層積層体)の多孔質層表面に下記のテープを貼り、下記のローラーで接着部分をなぞり、テープを圧着する。
(ii)下記の万能引張試験機を用いて50mm/分の条件でT型剥離を行う。
(iii)多孔質層と電極の界面剥離の有無を観察する。
・テープ:寺岡製作所製、(商品名「フィルムマスキングテープNo.603(#25)」、24mm幅)
・ローラー:直径30mm、200gf荷重
・万能引張試験機:(株)オリエンテック社製、(商品名「TENSILON RTA−500」)
【0108】
実施例等で得られた電極−多孔質層積層体の多孔質層の平均孔径及び空孔率は以下の方法で算出した。これらの平均孔径及び空孔率は、電子顕微鏡写真の最も手前に見えている微小孔のみを対象として求められており、写真奥に見えている微小孔は対象外とした。
【0109】
(平均孔径の測定)
電子顕微鏡(SEM )写真から、電極−多孔質層積層体の多孔質層の表面又は断面の任意の30点以上の孔についてその面積を測定し、その平均値を平均孔面積S
aveとした。孔が真円であると仮定し、下記式を用いて平均孔面積から孔径に換算した値を平均孔径とした。ここでπは円周率を表す。
表面又は内部の平均孔径[μm]=2×(S
ave/π)
1/2
【0110】
(空孔率の測定)
多孔質層が電極と一体化しているものは、そのままでは多孔質層内部の空孔率の測定は困難である。よって、電極の代わりにPETフィルム(帝人デュポン社製、製品名「Sタイプ」)を用い、原液をPETフィルム上にキャスト後、水中に浸積して凝固させ、次いでPETフィルムから剥離して乾燥させて得た多孔性フィルムを用いて測定し、内部の空孔率を下記式より算出した。
Vはフィルムの体積[cm
3]、Wは多孔質層の重量[g]、ρは多孔質層素材の密度[g/cm
3]を示す。ポリアミドイミドの密度は1.45[g/cm
3]、ポリエーテルイミドの密度は1.27[g/cm
3]とした。
空孔率[%]=100−100×W/(ρ・V)
【0111】
(透気度試験)
多孔質層が電極と一体化しているものは、そのままでは多孔質層の透気度の測定はできない。よって、電極の代わりにPETフィルム(帝人デュポン社製、製品名「Sタイプ」)を用い、原液をPETフィルム上にキャスト後、水中に浸積して凝固させ、次いでPETフィルムから剥離して乾燥させて得た多孔性フィルムを用いて測定した。透気度は、テスター産業株式会社製のガーレー式デンソメーターB型を用い、JIS P8117に準じて測定した。秒数はデジタルオートカウンターで測定した。透気度(ガーレー値)の値が小さいほど空気の透過性が高いこと、つまり多孔質膜等における微小孔の連通性が高いことを意味する。
【0112】
(高温放置試験)
電極−多孔質層積層体、多孔質層(上記空孔率の測定に項に記載した方法と同様の方法で得られた多孔性フィルムで代用)を約6cm×10cmの概略長方形に整形し、直交する2辺a、bの距離を測定することによりサンプルの形状の変化を評価した。まず、初期の距離a1、b1を測定した。次に、200℃に調温した恒温槽内にサンプルを投入し30分間放置した。次にサンプルを取り出し、室温になるまで放冷した後に距離a2、b2を測定した。下記式を用いて、a、bのそれぞれの変化率を計算した。
高温放置後のaの変化率(%)={|a2−a1|/a1}×100
bの変化率も同様の方法で算出した。
【0113】
[実施例1]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5.5万)30重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上にパイオトレック社製の電極フィルム(正極用、容量1.5mAh/cm
2、約15μm厚のアルミ箔基材上に約64μm厚のLiCoO
2層が積層されたもの)を置き、該電極フィルム上に25℃に保持した原液をフィルムアプリケーターを使用してキャストした。キャスト時のフィルムアプリケーターとアルミ箔とのギャップは102μmで行った。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固・洗浄し、次いで電極フィルムから剥離させることなく水中から取り出し、ポリオレフィン製不織布に載せ、室温下で自然乾燥することによって電極フィルムと多孔質層とが一体化した積層体(電極フィルム−多孔質層積層体)を得た。多孔質層の厚みは約33μmであり、積層体の総厚みは約111μmであった。
【0114】
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、電極フィルムと多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層が電極フィルムに密着しており、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約1μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は73%であった。多孔質層の透気度を測定したところ10秒であった。電極フィルム−多孔質層積層体の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。また、多孔質層の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
図1に、実施例1で得られた電極フィルム−多孔質層積層体における多孔質層表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0115】
[実施例2]
実施例1において、電極フィルムとして、パイオトレック社製の電極フィルム(負極用、容量1.6mAh/cm
2、約10μm厚の銅箔基材上に約53μm厚のグラファイト層が積層されたもの)を用い、キャスト時のフィルムアプリケーターと銅箔とのギャップは102μmで行った点以外は実施例1と同様の操作を行って、電極フィルムと多孔質層が一体化した積層体(電極フィルム−多孔質層積層体)を得た。多孔質層の厚みは約28μmであり、積層体の総厚みは約91μmであった。
【0116】
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、電極フィルムと多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層が電極フィルムに密着しており、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約1μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。多孔質層の透気度を測定したところ5秒であった。電極フィルム−多孔質層積層体の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。また、多孔質層の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0117】
[比較例1]
市販のポリオレフィン系セパレータとして、セルガード社製のセパレータ(厚み約25μm、品番2500)の透気度を前記方法で測定したところ237秒であった。このセパレータの高温放置試験を行ったところ、試験後にはセパレータは溶融して無孔の樹脂の塊になっておりフィルムとしての形状を保持していなかった(概略形状約52mm×約4mm、厚さ約0.5mm)。よって、高温放置後の変化率を計算するのは不可能であった。ポリオレフィン系セパレータの高温下での形状安定性が劣っていることが確認された。
【0118】
[実施例3]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスN−100H」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度60dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5.5万)15重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に、電極フィルムとして三井金属鉱業株式会社製銅箔(商品名「3EC−HTE」、厚み18μm)の粗面を上にして置き、該電極フィルム上に25℃に保持した原液をフィルムアプリケーターを使用してキャストした。キャスト時のフィルムアプリケーターと銅箔とのギャップは89μmで行った。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固・洗浄し、次いで銅箔から剥離させることなく水中から取り出し、ポリオレフィン製不織布に載せ、室温下で自然乾燥することによって銅箔と多孔質層とが一体化した積層体(銅箔−多孔質層積層体)を得た。多孔質層の厚みは約14μmであり、積層体の総厚みは約32μmであった。
【0119】
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、銅箔と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層が銅箔に密着しており、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約1μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。多孔質層の透気度を測定したところ5秒であった。電極フィルム−多孔質層積層体の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。また、多孔質層の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0120】
[実施例4]
宝泉社製リチウムイオン電池評価用セル(HSセル)を用いてリチウムイオン電池を作製した。
実施例1で作製した正極上にセパレータの機能を有する多孔質層が積層された積層体(セパレータ付き正極)を直径22mmの円形に打ち抜いた。次にパイオトレック社製の電極フィルム(負極用、容量1.6mAh/cm
2、約10μm厚の銅箔基材上に約53μm厚のグラファイト層が積層されたもの)を直径16mmの円形に打ち抜いた。電極同士が短絡しないように多孔質積層体の方を一回り大きくした。各電極は80℃で30分間、真空乾燥を行った後に使用した。
窒素置換されたグローブボックス内で評価用セルを組み立てた。評価用セルは耐有機電解液性のステンレス鋼製で、下ボディの内側中央に、セパレータ面を上にしてセパレータ付き正極を配置した。このセパレータ付き正極の上面には、グラファイト面を下にして負極を配置し、その上に上ボディを被せて電解液を注入した後、ネジで締め付け、電池を密封した。電解液はキシダ化学社製の、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)を1:1体積混合したものを溶媒とし、これに溶質としてLiBF
4を1mol/L溶解させたものを用いた。
上記の如く作製した電池に、0.2mAの定電流でセルの電圧が4Vになるまで充電を行った。
このように充電された電池にLEDを接続したところ発光し、リチウムイオン電池として機能していることが確かめられた。
【0121】
[実施例5]
実施例4において、実施例2で作製した負極上にセパレータの機能を有する多孔質層が積層された積層体(セパレータ付き負極)を用い、正極にパイオトレック社製の電極フィルム(正極用、容量1.5mAh/cm
2、約15μm厚のアルミ箔基材上に約64μm厚のLiCoO
2層が積層されたもの)を用いた点以外は実施例4と同様の操作を行って、リチウムイオン電池を作製後、充電し、LEDを接続したところ発光し、リチウムイオン電池として機能していることが確かめられた。
【0122】
[実施例6]
実施例4において、実施例1で作製した正極上にセパレータの機能を有する多孔質層が積層された積層体(セパレータ付き正極)を用い、パイオトレック社製の負極用の電極フィルムの代わりに実施例2で作製した負極上にセパレータの機能を有する多孔質層が積層された積層体(セパレータ付き負極)を用いた点以外は実施例4と同様の操作を行って、リチウムイオン電池を作製後、充電し、LEDを接続したところ発光し、リチウムイオン電池として機能していることが確かめられた。
【0123】
[実施例7]
実施例4において、セパレータ付き正極と負極の間に、ポリオレフィン系セパレータのセルガード社製のセパレータ(厚み約25μm、品番2500)を配置した点以外は実施例4と同様の操作を行って、リチウムイオン電池を作製後、充電し、LEDを接続したところ発光し、リチウムイオン電池として機能していることが確かめられた。耐熱セパレータが有する耐熱性に加え、ポリオレフィン系セパレータのシャットダウン特性を付与することができた。
【0124】
[実施例8]
実施例3で作製したセパレータ付き銅箔を正極(35mm×45mmに成形)とし、アルミ箔(三菱アルミニウム社製ニッパクホイル、厚さ12μm)を負極(33mm×45mmに成形)としボルタ電池を作製した。電極同士が短絡しないように多孔質積層体の方を一回り大きくした。
このセパレータ付き正極のセパレータ面上にアルミ箔の負極を配置し、その両外側にPP板(35mm×40mmに成形)を配置しクリップで押さえつけた。これを電解液中に浸漬した。電解液は飽和食塩水(100gの水に食塩40gを加え、よく攪拌したもの)を用いた。上記の如く作製したボルタ電池の正極・負極間の電圧をテスターで測定したところ、0.48Vを示し、ボルタ電池として機能していることが確かめられた。
【0125】
[実施例9]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5.5万)30重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に基材として、帝人・デュポン社製のPETフィルム(厚み100μm:商品名「HS74AS」)を易接着面を上にしておき、該PETフィルム上に25℃に保持した原液をフィルムアプリケーターを使用してキャストした。キャスト時のフィルムアプリケーターとPETフィルムとのギャップは51μmで行った。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固・洗浄していると、自然とPETフィルムから多孔質層が剥離した。次いでこの剥離した多孔質層を濡れたままパイオトレック社製の電極フィルム(正極用、容量1.5mAh/cm
2、約15μm厚のアルミ箔基材上に約64μm厚のLiCoO
2層が積層されたもの)に転写した後、ポリオレフィン製不織布に載せ、室温下で自然乾燥することによって電極フィルムと多孔質層とが一体化した積層体(電極フィルム−多孔質層積層体)を得た。多孔質層の厚みは約30μmであり、積層体の総厚みは約108μmであった。
【0126】
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、電極フィルムと多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層が電極フィルムに密着しており、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約1μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は73%であった。多孔質層の透気度を測定したところ10秒であった。電極フィルム−多孔質層積層体の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。また、多孔質層の高温放置後の変化率はa、bとも0%であり、積層体の高温放置による形状の変化は見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0127】
[実施例10]
実施例4において、実施例9で作製した正極上にセパレータの機能を有する多孔質層が積層された積層体(セパレータ付き正極)を用い、負極にパイオトレック社製の電極フィルム(負極用、容量1.6mAh/cm
2、約10μm厚の銅箔基材上に約53μm厚のグラファイト層が積層されたもの)を用いた点以外は実施例4と同様の操作を行って、リチウムイオン電池を作製後、充電し、LEDを接続したところ発光し、リチウムイオン電池として機能していることが確かめられた。