【文献】
S.Toda, K.Ishiguro, et.al,Low temperature cubic garnet-type CO2-doped Li7La3Zr2O12,Solid State Ionics,2013年 2月21日,233,102-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有し、該結晶構造の少なくとも一部が結晶格子内にCを含んでなる、リチウムイオン伝導性固体電解質であって、前記固体電解質がMgをさらに含み、前記固体電解質の表面に、炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を有し、
前記固体電解質が、Cを結晶格子内に含まないこと以外は前記固体電解質と同様の組成を有する固体電解質と比較して、a軸の格子定数が0.08Å以上増大した結晶構造を有する、リチウムイオン伝導性固体電解質。
前記固体電解質が、Cを結晶格子内に含まないこと以外は前記固体電解質と同様の組成を有する固体電解質と比較して、X線回折における(422)面のピークが低角側に0<2θ<1°シフトした結晶構造を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体電解質。
【発明を実施するための形態】
【0012】
リチウムイオン伝導性固体電解質
本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質は、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造(以下、LLZ系結晶構造という)を有するものであり、この結晶構造の少なくとも一部が結晶格子内に炭素(C)を含んでなる。その上、この固体電解質は、その表面に、炭酸リチウム(Li
2CO
3)が実質的に存在しない領域を有する。このように、LLZ系結晶構造の少なくとも一部の結晶格子内にCを含有させ、かつ、固体電解質の表面に炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を確保することで、LLZ系固体電解質のリチウムイオン伝導度を有意に向上することができる。このような結晶格子内へのCの導入は、例えば、大気雰囲気等のCO
2含有雰囲気中に曝してエージング処理することにより、CO
2に由来するCを固体電解質の結晶格子内に含有させることにより行うことができる。そもそも、この結晶格子内におけるCの含有効果は、エアロゾルデポジション(AD)法等の成膜法により作製したLLZ系固体電解質膜や焼結により作製したLLZ系固体電解質焼結体を大気中に放置することで、リチウムイオン伝導性能が向上したという予想外の現象の知見に基づくものである。
【0013】
結晶格子内にCを含むことでリチウムイオン伝導度が向上するメカニズムの詳細は定かではないが、以下の二つの機構が考えられる。第一の機構としては、LLZ系結晶格子のOサイトにCO
32−又はCO
2が置換固溶して格子を拡張し、それにより結晶粒内のリチウムイオン移動度が向上することが考えられる。第二の機構としては、CO
32−又はCO
2の吸収により結晶格子の体積が膨張し、それにより粒子同士の密着性が向上して結晶粒界のリチウムイオン移動度を向上することが考えられる。
【0014】
もっとも、結晶格子内にCを含んでいても、それだけでリチウムイオン伝導度の向上が実現できるとは限らない。これは、LLZ系固体電解質は、雰囲気中にCO
2及びH
2Oが共存すると、その表面に炭酸リチウムを析出してしまい、この炭酸リチウムが高抵抗の層をもたらし、リチウムイオン伝導を阻害しうるためである。この高抵抗の層の形成を懸念して、従来は、LLZ系固体電解質を大気中に長時間放置することは避けるべきと信じられていた。それ故、本発明者らの知る限り、結晶格子内にCを含むことによる上記利点も今まで認識されていなかった。しかしながら、固体電解質の表面に炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を確保することで、結晶格子内におけるCの含有によって向上したLLZ系固体電解質のリチウムイオン伝導が高抵抗層によって阻害されるのを回避することができる。すなわち、結晶格子内におけるCの含有によるリチウムイオン伝導度向上効果を最大限に発揮させることができる。
【0015】
そのような炭酸リチウムが実質的に存在しない領域は、任意の手法によって確保すればよく、雰囲気を制御して炭酸リチウムを析出させないようにすること、あるいは炭酸リチウムが析出した表面を削り取ることにより行えばよい。例えば、このような領域の形成は、固体電解質を用意する工程(例えばAD成膜工程や焼結体作製工程)や固体電解質を電極と接合させる工程等といった、炭酸リチウムの析出が望まれない工程をCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下で行うことにより行われるのが好ましい。あるいは、固体電解質はCO
2及びH
2Oが共存する雰囲気に曝されてもよく、その場合にはその雰囲気に曝された表面を必要に応じて削り取ることにより炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を確保すればよい。もっとも、所定の工程をCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気で行う場合であっても、ある工程から別の工程に移す際にCO
2及びH
2Oが共存する雰囲気下を通過する又はそのような雰囲気下に一時的に放置される時点が存在してもよく、炭酸リチウムが実質的に析出しない又は析出するとしても伝導度の観点から実害の無いレベルであれば差し支えない(実害のあるレベルであればその雰囲気に曝された表面を削り取ることにより炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を確保すればよい)。固体電解質の表面を削り取る手法は特に限定されず、例えば、機械的な研磨や切断、水や酸又はアルカリ等の溶液による溶解洗浄、イオンミリングやスパッタ等によって、表面層を除去できればよい。中でも、機械的な研磨や切断は、プロセスが簡便である点及び副反応が起こりにくい点で好ましい。また、スパッタによる処理は、母材の結晶性低下や組成ズレなどのダメージを抑制できる点で好ましい。また、これらの工程は加熱しながら行ってもよい。
【0016】
本発明の固体電解質は、その表面に、炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を有する。「炭酸リチウムが実質的に存在しない」とはリチウムイオン伝導度の観点から実害の無いレベルの極微量の炭酸リチウムの存在は本発明の趣旨を逸脱するものではなく許容されることを意味する。もっとも、当該領域に炭酸リチウムが全く存在しないことが望ましいことは言うまでもない。炭酸リチウムが実質的に存在しない領域は固体電解質の表面全体であるのが最も好ましいが、リチウムイオン伝導経路の入口と出口を確保する観点からすれば、表面に炭酸リチウムが存在する形態の固体電解質であっても、炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を少なくとも2か所有していれば足りる。典型的には、固体電解質の表面に1か所が位置し、もう1か所が固体電解質の裏面に位置される。もっとも、固体電解質−電極複合体を構成する場合には電極との接合界面に炭酸リチウムが実質的に存在しない領域が位置しさえしていればよく、それ以外の部分に炭酸リチウムが存在するとしても他の部材と接合される際に必要に応じて適宜削り取ればよい。
【0017】
本発明の固体電解質は、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造の少なくとも一部が結晶格子内にCを含んでなり、好ましくは結晶構造の大半ないし概ね全体にわたって結晶格子内にCを含んでなる。結晶格子内におけるCの含有は、結晶格子内にCを含まないこと以外は同様の組成を有する参照固体電解質を用いて、X線回折における(422)面ピーク位置のシフト量及び/又はa軸の格子定数の増大量を測定することにより確認することができる。すなわち、固体電解質は、Cを結晶格子内に含まないこと以外は当該固体電解質と同様の組成を有する参照固体電解質と比較して、X線回折における(422)面のピークが低角側に好ましくは0<2θ<1°、より好ましくは0.1<2θ<1°シフトした結晶構造を有する。また、本発明の固体電解質は、Cを結晶格子内に含まないこと以外は当該固体電解質と同様の組成を有する参照固体電解質と比較して、a軸の格子定数が好ましくは0.01Å以上、より好ましくは0.05Å以上増大した結晶構造を有する。
【0018】
本発明の固体電解質は、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する。ガーネット系セラミックス材料には負極リチウムと直接接触しても反応が起きないとの利点があるが、とりわけ、Li、La、Zr及びOを含んで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有するものが、焼結性に優れて緻密化しやすく、かつ、イオン伝導率も高いことから好ましい。この種の組成のガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造はLLZ結晶構造と呼ばれ、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(Li
7La
3Zr
2O
12)に類似のXRDパターンを有する。なお、No.422259と比較すると構成元素が異なり、またセラミックス中のLi濃度などが異なる可能性があるため、回折角度や回折強度比が異なる場合もある。Laに対するLiのモル数の比Li/Laは2.0以上2.5以下であることが好ましく、Laに対するZrのモル比Zr/Laは0.5以上0.67以下であるのが好ましい。このガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造はNb及び/又はTaをさらに含んで構成されるものであってもよい。すなわち、LLZのZrの一部がNb及びTaのいずれか一方又は双方で置換されることにより、置換前に比べて伝導率を向上させることができる。ZrのNb及び/又はTaによる置換量(モル比)は、(Nb+Ta)/Laのモル比が0.03以上0.20以下となる量にすることが好ましい。また、この固体電解質はAl及び/又はMgをさらに含んでいるのが好ましく、これらの元素は結晶格子に存在してもよいし、結晶格子以外に存在していてもよい。Alの添加量は固体電解質の0.01〜1質量%とするのが好ましく、Laに対するAlのモル比Al/Laは、0.008〜0.12であるのが好ましい。Mgの添加量は固体電解質の0.01〜1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05〜0.30質量%である。Laに対するMgのモル比Mg/Laは、0.0016〜0.07であるのが好ましい。このようなLLZ系セラミックスの製造は、特許文献2〜4に記載されるような公知の手法に従って又はそれを適宜修正することにより行うことができる。
【0019】
本発明の固体電解質の形態は、膜状、板状又はその他のバルク状の形態を有するのが固体電解質−電極複合体を構成する上で好都合であるが、粒子状、粉末状等の他の形態であってもよく特に限定されない。
【0020】
固体電解質−電極複合体及び電池
本発明の一態様によれば、本発明の固体電解質を備えた固体電解質−電極複合体が提供される。また、本発明の別の一態様によれば、本発明の固体電解質−電極複合体と、対向電極とを備えた電池が提供される。この電池は全固体電池の構成を有してもよいし、固体電解質がセパレータであり、セパレータと対向電極との間に電解液をさらに備えた液系の電池であってもよい。前者の典型例としては全固体リチウムイオン二次電池が、後者の典型例としてはリチウム空気電池が挙げられる。
【0021】
図1Aに固体電解質−電極複合体10の一例の模式断面図が示される。
図1Aに示される固体電解質−電極複合体10は、本発明の固体電解質12と、固体電解質12に接合してなる電極14とを備えてなる。電極14は正極及び負極のいずれであってもよい。また、
図1Bに示されるように、固体電解質12の電極14と反対側に対向電極15を設け、一方の電極を正極とし、他方の電極を負極としてもよい。固体電解質12は上述した本発明のLLZ系固体電解質であり、炭酸リチウムが実質的に存在しない領域が、固体電解質12と電極14の間の界面13の少なくとも一部を構成する。この構成によれば、固体電解質12と電極14の間の接合界面13に炭酸リチウムが実質的に存在しない領域が位置するため、炭酸リチウムからなる高抵抗層を介在させることなく、固体電解質12と電極14との間でリチウムイオン伝導経路が確保される。その結果、結晶格子内におけるCの含有によるリチウムイオン伝導度向上効果をその固体電解質を備えた複合体又は電池において最大限に発揮させることができる。したがって、炭酸リチウムが実質的に存在しない領域が、固体電解質と電極の間の界面の全部を構成するのがより好ましいといえる。一方、固体電解質12における電極14との界面13以外の表面(例えば固体電解質12の側面12aや裏面12b)には炭酸リチウムが存在していてもよく、その場合には他の部材と接合される際に必要に応じて伝導性を確保した表面部位を適宜削り取ればよい。
【0022】
このように、固体電解質−電極複合体を構成するためには、固体電解質12及び電極14は、それぞれ、膜状、板状又はその他のバルク状の形態を有し、電極14が固体電解質12と一体化されてなるのが好ましい。
【0023】
電極14は正極及び負極のいずれでもあってもよい。例えば、リチウムイオン二次電池として構成する場合には電極14は正極であるのが好ましく、それにより固体電解質12を電解液代替物として機能させて全固体電池を構成することができる。また、リチウム空気電池として構成する場合には電極14は負極とされるのが好ましく、それにより固体電解質12を負極と電解液を隔離するセパレータとして機能させることができる。以下に、全固体リチウムイオン二次電池とリチウム空気電池の各々について、好ましい電極の態様を説明する。
【0024】
(1)全固体リチウムイオン二次電池
固体電解質−電極複合体10が全固体リチウムイオン二次電池用に構成される場合、電極14は正極として構成される。その形態は特に限定されないが、板状正極として構成されるのが好ましい。板状正極は、正極活物質を含むセラミックス焼結体からなるのが好ましい。正極活物質は全固体蓄電素子の正極において活物質として機能しうるものであれば特に限定されないが、リチウム−遷移金属系複合酸化物であるのが好ましい。正極活物質、特にリチウム−遷移金属系複合酸化物は、層状岩塩構造又はスピネル構造を有するのが好ましく、より好ましくは層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造は、リチウムイオンの吸蔵により酸化還元電位が低下し、リチウムイオンの脱離により酸化還元電位が上昇する性質があり、好ましく、中でもNiを多く含む組成は特に好ましい。ここで、層状岩塩構造とは、リチウム以外の遷移金属系層とリチウム層とが酸素原子の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、リチウム以外の遷移金属等のイオン層とリチウムイオン層とが酸化物イオンを挟んで交互に積層された結晶構造(典型的にはα−NaFeO
2型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。層状岩塩構造を有するリチウム−遷移金属系複合酸化物の典型例としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル・マンガン酸リチウム、ニッケル・コバルト酸リチウム、コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム、コバルト・マンガン酸リチウム等が挙げられ、これらの材料に、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi等の元素が1種以上更に含まれていてもよい。
【0025】
すなわち、リチウム−遷移金属系複合酸化物は、Li
xM1O
2又はLi
x(M1,M2)O
2(式中、0.5<x<1.10、M1はNi,Mn及びCoからなる群から選択される少なくとも一種の遷移金属元素、M2はMg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba及びBiからなる群から選択される少なくとも一種の元素である)で表される組成を有するのが好ましく、より好ましくはLi
xM1O
2で表され、M1がCoである組成、もしくはLi
x(M1,M2)O
2で表され、M1がNi及びCoであり、M2がAlである組成である。M1及びM2の合計量に占めるNiの割合が原子比で0.6以上であるのが好ましい。このような組成はいずれも層状岩塩構造を採ることができる。なお、M1がNi及びCoであり、M2がAlである、Li
x(Ni,Co,Al)O
2系組成のセラミックスはNCAセラミックスと称されることがある。特に好ましいNCAセラミックスは、一般式:Li
p(Ni
x,Co
y,Al
z)O
2(式中、0.9≦p≦1.3、0.6<x≦0.9、0.1<y≦0.3、0≦z≦0.2、x+y+z=1)で表され、層状岩塩構造を有するものである。
【0026】
典型的には、正極活物質は、複数の結晶粒子からなる多結晶体であり、これら複数の結晶粒子が配向されてなるのが好ましい。この配向は、層状岩塩構造の(003)面が板状正極の板面(主面(principal surface))と交差するように配向しているのが好ましく、より好ましくは(003)以外の面(例えば(104)面)が板状正極の板面と平行に配向しているのが好ましい。これにより、リチウムイオン等のイオンの挿脱が容易となり、蓄電素子を構成した場合におけるレート特性が向上する。このような板状正極における配向度は、板状正極の板面からのX線回折における、(104)面による回折強度に対する(003)面による回折強度(ピーク強度)の比率[003]/[104]で評価することができ、好ましい[003]/[104]比は2以下であり、より好ましくは1以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。なお、このような低い[003]/[104]比は、板状正極の板面や内部において板面と平行に(003)面が出現している割合が減っていることを意味する。
【0027】
板状正極は、正極活物質を含むセラミックス焼結体からなる。このセラミックス焼結体は正極活物質以外にも導電助剤、バインダー等の任意成分を含むものであってもよいが、このような任意成分を実質的に含まない構成とすることも可能である。例えば、結晶粒子が配向されてなる正極活物質を用いる場合には、導電助剤等を使用することなくイオン移動度を向上させることができるので、活物質充填率を最大限に高めることができる。したがって、板状正極は正極活物質のみから実質的になる(consisting essentially of)のが好ましく、より好ましくは正極活物質のみからなる(consisting of)。
【0028】
板状正極及びそれを構成する正極活物質は、気孔を有するのが好ましい。板状正極中に気孔が存在することで、充放電によるリチウムイオンの挿脱に伴う膨張ないし収縮によって生じうる応力を緩和することができる。さらに、接合時に生じる熱膨張係数の違い(例えば後述するLCOセラミックスでは8.0×10
−6、LLZセラミックスでは4.0×10
−6)に起因する割れやクラックの発生を抑制する。これにより、緻密な板同士の接合で起こりうる界面での剥離も効果的に防止することができる。正極活物質は3〜30%の空隙率を有するのが好ましく、より好ましくは5〜25%であり、さらに好ましくは10〜20%である。空隙率(voidage)は、板状正極おける気孔(開気孔及び閉気孔を含む)の体積比率であり、気孔率(porosity)と称されることもあり、板状正極の嵩密度と真密度とから算出可能である。
【0029】
このような気孔を有する正極活物質は、予め作製された正極活物質前駆体粒子から製造してもよい。この正極活物質前駆体粒子は、リチウムを導入することにより、層状岩塩構造を有するリチウム−遷移金属系複合酸化物を含有する正極活物質となり得る前駆体粒子であるのが好ましい。特に好ましい正極活物質前駆体粒子は、略球状に形成されるとともに内部に多数の空隙がほぼ均一に設けられ、平均粒径D50(体積基準)が0.5〜5μmであり、比表面積が3〜25m
2/gであり、タップ密度を理論密度で除した値である相対タップ密度が0.25〜0.4である。このような条件を満たすと、その後の成形工程及び焼成工程(リチウム導入工程)を経て正極活物質を生成させる際に、焼成環境が安定化されるとともにリチウム導入(拡散)状態が均一化され、それにより内部の微細構造が可及的に均一化される。また、最終目的物である正極活物質の形状安定性ならびに結晶学的な合成度が良好となる。
【0030】
好ましくは、正極活物質は、(a)リチウム複合酸化物の主原料を構成する遷移金属水酸化物の板状粒子が多数含まれるとともに内部に多数の空隙がほぼ均一に設けられた造粒体を形成する、造粒工程と、(b)造粒体を熱処理することで正極活物質前駆体粒子を形成する、熱処理工程と、(c)多数の正極活物質前駆体粒子を所定形状に成形することで成形体を得る、成形工程と、(d)成形体を焼成することでリチウム複合酸化物を生成させる、焼成工程とを有する方法によって製造される。造粒工程(a)は、遷移金属水酸化物を含む原料粉末を湿式で粉砕しつつ混合することにより調製されたスラリーを噴霧乾燥することで造粒体を形成する工程とするのが好ましい。特に、四流体ノズル方式の噴霧乾燥が好適に使用可能である。原料粉末には、ニッケル及びコバルトの水酸化物が遷移金属水酸化物として含まれていてもよい。また、原料粉末には、アルミニウム酸化物の水和物あるいはアルミニウム水酸化物等の遷移金属以外の金属化合物が含まれていてもよい。リチウム化合物は、成形時あるいは成形後焼成前に添加され得る。すなわち、例えば、リチウム化合物は、成形時に正極活物質前駆体粒子とともに上述の成形用スラリーに添加され得る。あるいは、リチウム化合物を含まない成形体を一旦仮焼成(成形体仮焼成)した後、かかる仮焼成成形体とリチウム化合物とが混合されたものを焼成する(本焼成)という二段階で焼成(リチウム導入)工程が行われてもよい。
【0031】
板状正極の寸法は特に限定されないが、厚さは単位面積当りの活物質容量の観点から、0.1〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは50〜100μmであり、板面の大きさは板面内の反り抑制と電極作製の容易さの観点から、0.2mm×0.2mm〜100mm×100mmが好ましく、より好ましくは5mm×5mm〜30mm×30mmである。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、板状正極が複数用意され、これら複数の板状正極が板状固体電解質上にタイル状に配列されてなる。これにより、電極内で活物質をより高密度に充填可能になるという利点がある。
【0033】
板状正極には固体電解質を介して負極が設けられていてもよい。例えば、前述したように、
図1Bに示される固体電解質−電極複合体10’の構成とすればよい。負極材料は、負極において活物質として機能しうるものであれば特に限定されないが、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、および炭素材料等を用いることができる。金属材料の例としては、金属リチウム、リチウムと合金を形成しうる金属(In、Sn、Si、Al、Ge、Sb、P)及びそれらの誘導体が挙げられる。合金材料の例としては、リチウム合金(LiM、式中、MはIn、Sn、Si、Al、Ge、Sb及びPの少なくとも1種である)及びそれらの誘導体が挙げられる。炭素材料の例としては、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの誘導体が挙げられる。また、カーボンとリチウムの複合体も用いることができる。集電体としては、金、銀、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス、カーボン等で形成された膜や箔であってよく、例えばスパッタリング法により形成される。また、積層方法や外装等の他の構成としては公知の構成を適宜採用すればよく特に限定されない。
【0034】
(2)リチウム空気電池
固体電解質−電極複合体10がリチウム空気電池用に構成される場合、電極14は負極として構成される。負極は、リチウムを含んで構成され、放電時に負極でリチウムがリチウムイオンに酸化されるものであれば特に限定されず、金属リチウム、リチウム合金、リチウム化合物等を含んで構成されることができる。リチウムは他の金属元素と比べて高い理論容量を有するとの点で負極材料として優れる一方、充電時にデンドライトを成長させてしまうことがある。しかし、固体電解質のセパレータでデンドライトの貫通を阻止し、正負極間の短絡を回避することができる。負極を構成する材料の好ましい例としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウム化合物等が挙げられ、リチウム合金の例としては、リチウムアルミニウム、リチウムシリコン、リチウムインジウム、リチウム錫などが挙げられ、リチウム化合物の例としては、窒化リチウム、リチウムカーボン等が挙げられるが、金属リチウムが大容量及びサイクル安定性の観点からより好ましい。負極には負極集電体を備えたものであってもよい。負極集電体の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅、ニッケル、白金、貴金属等の金属板や金属メッシュ、カーボンペーパー、酸化物導電体等が挙げられる。なお、空気極(正極)や電解液等の他の構成としては公知の構成を適宜採用すればよく特に限定されない。
【0035】
製造方法
本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質を用いた固体電解質−電極複合体の好ましい製造方法について以下に説明する。この製造方法は、固体電解質の準備工程、電極接合工程、及びエージング工程を含んでなる。固体電解質の準備工程は、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造(以下、LLZ系結晶構造という)を有するリチウムイオン伝導性固体電解質を用意する工程であって、CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下において行われる。電極接合工程は、固体電解質を電極と接合して固体電解質−電極複合体を得る工程であって、CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下で行われる。エージング工程は、電極接合工程の前又は後において、固体電解質又は固体電解質−電極複合体をCO
2含有雰囲気中に曝してエージング処理することにより、CO
2に由来するCを前記固体電解質の結晶格子内に含有させる工程である。このように、本発明の製造方法においては、固体電解質の準備工程及び電極接合工程がCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下で行われる一方、エージング工程はH
2Oが共存していてもよいCO
2含有雰囲気で行われる。それにより、リチウムイオン伝導度が有意に向上されたLLZ系固体電解質−電極複合体を製造することができる。
【0036】
(1)固体電解質の準備工程
本発明の方法は、CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下において、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導性固体電解質を用意する工程を含む。このようなリチウムイオン伝導性固体電解質は公知の手法に従って作製することができるが、高抵抗の層をもたらす炭酸リチウムの析出を回避すべくCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下を経て作製することが望まれる。CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気は、好ましくはAr等の不活性ガス雰囲気であるが、CO
2及びH
2Oのいずれかが存在していてもよい。このような雰囲気下でLLZ系固体電解質を用意することで高抵抗の層をもたらす炭酸リチウムの析出を防止することができる。なお、LLZ系固体電解質が、原料粉末が大気雰囲気との接触等に起因してCO
2及びH
2Oを含んでいる可能性がある場合には、CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気(好ましくはAr等の不活性ガス雰囲気)下で熱処理され、それにより固体電解質に含有されることがあるCO
2及びH
2Oが除去されるのが好ましい。そのような熱処理は好ましくは650℃以上、より好ましくは680℃以上、さらに好ましくは800℃以上の温度で、好ましくは10分間以上、より好ましくは1時間以上行われる。
【0037】
電極との接合前における固体電解質の形態は、粒子状、粉末状、膜状、板状又はその他のバルク状の形態の任意の形態であってよい。例えば、後続の電極接合工程をエアロゾルデポジション(AD)法により行う場合には、AD法用のLLZ系原料粉末の形態であるのが好ましい。一方、後続の電極接合工程をホットプレス等の接合により行う場合にはLLZ系焼結体の形態であるのが好ましく、より好ましくは板状の形態である。
【0038】
このようにして用意された固体電解質は、後続の(2)電極接合工程又は(3)エージング工程に付されることになる。これらの後続の工程、とりわけ同様にCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気が用いられる電極接合工程へ移行はCO
2及びH
2Oの共存下を経ずに行われるのが好ましい。もっとも、この工程移行時にCO
2及びH
2Oが共存する雰囲気下を通過する又はそのような雰囲気下に一時的に放置される時点が存在してもよく、炭酸リチウムが実質的に析出しない又は析出するとしても伝導度の観点から実害の無いレベルであれば差し支えない(実害のあるレベルであればその雰囲気に曝された表面を削り取ることにより炭酸リチウムが実質的に存在しない領域を確保すればよい)。
【0039】
(2)電極接合工程
本発明の方法は、CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下において、固体電解質を電極と接合して、固体電解質−電極複合体を得る工程を含む。固体電解質を電極と接合する手法は、最終的に所望の固体電解質−電極複合体が得られるかぎり特に限定されず、各種パーティクルジェットコーティング法、固相法、溶液法、気相法を用いることができる。パーティクルジェットコーティング法の例としては、エアロゾルデポジション(AD)法、ガスデポジション(GD)法、パウダージェットデポジション(PJD)法、コールドスプレー(CS)法、溶射法等が挙げられる。溶液法の例としては、水熱合成法、ゾルゲル法、沈殿法、マイクロエマルション法、溶媒蒸発法等が挙げられる。また、これらの方法を用いて合成した微結晶を、正極上に堆積させてもよいし、正極上に直接析出させてもよい。気相法の例としては、レーザー堆積(PLD)法、スパッタ法、蒸発凝縮(PVD)法、気相反応法(CVD)法、真空蒸着法、分子線エピタキシ(MBE)法等が挙げられる。また、焼結体(好ましくは板状焼結体)と固体電解質(好ましくは板状固体電解質)とを予め作製しておきホットプレス法や直接接合(ダイレクトボンディング)法等の公知の手法により接合してもよい。いずれにせよ、固体電解質及び電極の接合は、高抵抗の層をもたらす炭酸リチウムの析出を回避すべくCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下で行われることが望まれる。CO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気は、好ましくはAr等の不活性ガス雰囲気であるが、CO
2及びH
2Oのいずれかが存在していてもよい。このような雰囲気下で固体電解質を電極と接合することにより高抵抗の層をもたらす炭酸リチウムの析出を防止することができる。その結果、固体電解質と電極を界面に炭酸リチウムを存在させることなく接合することができ、それにより結晶格子内におけるCの含有によって向上されるリチウムイオン伝導性が高抵抗層によって阻害されるのを抑制又は防止することができる。
【0040】
電極は正極及び負極のいずれでもあってもよい。例えば、リチウムイオン二次電池として構成する場合には電極は正極であるのが好ましく、それにより固体電解質12を電解液代替物として機能させて全固体電池を構成することができる。また、リチウム空気電池として構成する場合には電極は負極とされるのが好ましく、それにより固体電解質を負極と電解液を隔離するセパレータとして機能させることができる。
【0041】
板状正極及び板状固体電解質がいずれもセラミックス焼結体の場合には、板状正極及び板状固体電解質を積層し、この積層体に加熱及び加圧を同時に施して固相反応により一体化させるのが好ましい。このセラミック焼結体同士の接合は、グリーンシートの積層で必要とされるような粉末同士の焼結を要しないので、高活性の異種粉末間で起こりうる高抵抗な反応層の生成を抑制することができる。その上、同時加熱及び加圧により、加熱のみで接合した場合に比べ、焼成温度を低温化する事が可能である。これにより、焼結温度の高い温度域において形成されうる高抵抗な反応層の生成を抑制することができる。また、同時加熱及び加圧により得られる複合体の接合界面の密着性は驚くほど高い。このように、本発明の方法によれば、比較的低温での接合を可能にして界面における高抵抗な反応層の生成を抑制するとともに、界面における板状正極及び板状固体電解質の密着性を高めて接合面積を最大化することができる。加熱及び加圧は同時に行われるのが好ましく、加熱しながら加圧している段階を含んでいればよく、加熱及び加圧のタイミングにずれがあってもよい。加熱及び加圧を同時に行う手法の例としては、ホットプレス法(HP)、熱間静水圧プレス法(HIP)、放電プラズマ焼結法(SPS)が挙げられるが、量産性が高く、製造コストを安く抑えることができることからホットプレス法(HP)が好ましい。加熱は600〜800℃の温度で行われるのが好ましく、より好ましくは650〜750℃であり、さらに好ましくは675〜725℃である。加圧は5〜3000kgf/cm
2の圧力で行われるのが好ましく、より好ましくは500〜2500kgf/cm
2、より好ましくは1000〜2000kgf/cm
2である。また、狙いの圧力への到達時間は、0.1〜10時間で行われるのが好ましく、より好ましくは1〜7時間であり、さらに好ましくは3〜5時間である。さらに、加圧開始のタイミングは、焼成プロファイルにおける昇温過程終了後であることが好ましい。加熱及び加圧は0.05〜10時間行われるのが好ましく、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは2〜5時間である。このような範囲内であると、界面における高抵抗な反応層の生成をより一層確実に抑制するとともに、界面における板状正極及び板状固体電解質の密着性をより一層高めることができる。このような加熱及び加圧による接合がCO
2及びH
2Oが実質的に共存しない雰囲気下で行われる。
【0042】
(3)エージング工程
本発明の方法は、固体電解質又は固体電解質−電極複合体をCO
2含有雰囲気中に曝すエージング処理する工程を含む。このエージング処理は、電極接合工程の後に行われてもよいし、電極接合工程の前に行われてもよい。エージング処理によりCO
2に由来するCを固体電解質の結晶格子内に含有させることができ、それによりリチウムイオン伝導度を向上させることができる。エージング処理は600℃以下の温度で行われるのが好ましく、より好ましくは0〜500℃、さらに好ましくは0〜400℃の温度で、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上、さらに好ましくは50時間以上行われる。
【0043】
エージング処理の諸条件は、LLZ系結晶構造の少なくとも一部が結晶格子内にCを含むように、好ましくは結晶構造の大半ないし概ね全体にわたって結晶格子内にCを含んでなるように、適宜決定すればよい。結晶格子内におけるCの含有は、エージング処理前の固体電解質を参照として用いて、X線回折における(422)面ピーク位置のシフト量及び/又はa軸の格子定数の増大量を測定することにより確認することができる。すなわち、エージング処理後の固体電解質が、エージング処理前の固体電解質と比較して、X線回折における(422)面のピークが低角側に好ましくは0<2θ<1°、より好ましくは0.1<2θ<1°シフトした結晶構造を有する。また、エージング処理後の固体電解質が、エージング処理前の固体電解質と比較して、a軸の格子定数が好ましくは0.01Å以上、より好ましくは0.05Å以上増大した結晶構造を有する。
【0044】
CO
2含有雰囲気は、CO
2を含む雰囲気であれば特に限定されず、最も簡便に入手可能なCO
2含有雰囲気である大気雰囲気を好ましく利用できる。固体電解質表面における炭酸リチウムの析出を回避することが望まれる場合(例えば電極接合工程の前にエージング処理が行われる場合)には、CO
2含有雰囲気は乾燥雰囲気であるのが好ましく、より好ましくは相対湿度1%以下の雰囲気、さらに好ましくはH
2Oを実質的に含まない。
【0045】
CO
2含有雰囲気はH
2Oを含んでいてもよい。これは、既に電極が接合された固体電解質の場合には、接合界面に炭酸リチウムを存在させることなく固体電解質と電極との間で有意に向上されたリチウムイオン伝導性が確保されているためである。もっとも、エージング処理が電極接合工程の前に行われる場合であっても、CO
2含有雰囲気はH
2Oを含んでよく、その場合には、CO
2含有雰囲気中に曝された固体電解質の表面における、少なくとも電極と接合されるべき部分を削り取る工程をさらに行うのが好ましい。CO
2含有雰囲気がH
2Oを含有する場合には高抵抗の層をもたらす炭酸リチウムが固体電解質表面に析出するためである。固体電解質の表面を削り取る手法は特に限定されず、例えば、機械的な研磨や切断、水や酸又はアルカリ等の溶液による溶解洗浄、イオンミリングやスパッタ等によって、表面層を除去できればよい。中でも、機械的な研磨や切断は、プロセスが簡便である点及び副反応が起こりにくい点で好ましい。また、スパッタによる処理は、母材の結晶性低下や組成ズレなどのダメージを抑制できる点で好ましい。また、これらの工程は加熱しながら行ってもよい。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例において使用されるAr雰囲気はCO
2及びH
2Oを実質的に含まない不活性雰囲気である。
【0047】
例A1:固体電解質AD膜の作製及び評価
(1)AD膜原料粉末の合成及び熱処理
焼成用原料調製のための各原料成分として、水酸化リチウム(関東化学株式会社)、水酸化ランタン(信越化学工業株式会社)、酸化ジルコニウム(東ソー株式会社)、酸化タンタルを用意した。これらの粉末をLiOH:La(OH)
3:ZrO
2:Ta
2O
5=7:3:1.625:0.1875になるように秤量及び配合し、ライカイ機にて混合して焼成用原料を得た。
【0048】
第一の焼成工程として、上記焼成用原料をアルミナ坩堝に入れて大気雰囲気で600℃/時間にて昇温し900℃にて6時間保持した。
【0049】
第二の焼成工程として、第一の焼成工程で得られた粉末に対しγ−Al
2O
3を0.6質量%の濃度となるように添加し、この粉末と玉石を混合し振動ミルを用いて3時間粉砕して、出発原料組成がLi
7.0La
3.0Zr
1.625Ta
0.375O
12Al
0.1の粉末を得た。なお、このγ−Al
2O
3の添加量は、一次焼成粉末が仕込み組成通りの組成を有しているものと想定した組成式Li
7.0La
3.0Zr
1.625Ta
0.375O
12に対するモル比で0.1のAlとなる量に相当している。得られた原料粉末をマグネシア製のサヤに入れ、Ar雰囲気中にて800℃で1時間熱処理して、原料粉末に含有されうるCO
2及びH
2Oを除去した。こうして得られた原料粉末は、Li及びOは焼成時の欠損等により仕込み組成のモル数である7及び12からずれている可能性があるものの、仕込み組成のLi
7.0La
3.0Zr
1.625Ta
0.375O
12Al
0.1に概ね基づく組成を有し、炭酸リチウムを含まない。
【0050】
(2)固体電解質AD膜の作製
熱処理後の原料粉末をAr雰囲気のグローブボックス中で、開口径75μmのナイロンメッシュを用いて解砕した後、キャリアガスとしてN
2ガスを用いてエアロゾルデポジション(AD)法により成膜を行った。このAD成膜は、
図2に示されるような成膜装置20を用いて行った。
図2に示される成膜装置20は、大気圧より低い気圧の雰囲気下で原料粉末を基板上に噴射するAD法に用いられる装置として構成されている。この成膜装置20は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部22と、原料粉末を基板21に噴射して原料成分を含む膜を形成する成膜部30とを備えている。エアロゾル生成部22は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからのキャリアガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室23と、生成したエアロゾルを成膜部30へ供給する原料供給管24と、エアロゾル生成室23及びその中のエアロゾルに10〜100Hzの振動数で振動が付与する加振器25とを備えている。成膜部30は、基板21にエアロゾルを噴射する成膜チャンバ32と、成膜チャンバ32の内部に配設され基板21を固定する基板ホルダ34と、基板ホルダ34をX軸−Y軸方向に移動するX−Yステージ33とを備えている。また、成膜部30は、先端にスリット37が形成されエアロゾルを基板21へ噴射する噴射ノズル36と、成膜チャンバ32を減圧する真空ポンプ38とを備えている。この成膜装置20は、成膜チャンバ32内に加熱装置や耐熱部材等を設けて原料粉末を加熱できるように構成されてもよい。例えば、原料粉末が単結晶化する温度での加熱処理を行えるように石英ガラスやセラミックス等の耐熱部材を用いてもよい。
【0051】
成膜装置20による固体電解質膜の作製条件は以下のとおりとした。基板としては、20mm平方で厚さ1mmのMgO板を用いた。また、キャリアガスとして流量2L/minの窒素ガスを使用し、成膜チャンバ内の圧力が0.1〜0.2kPa、エアロゾル化室の圧力を50〜70kPaになるように調整して、成膜を行った。その際、ノズルの開口サイズは10mm×1.8mmとし、ノズルの短辺方向に走査距離10mm、走査速度5mm/secで60往復分、成膜と同時に走査させた。こうして、固体電解質AD膜を得た。
【0052】
(3)評価用電極の作製
図3に示されるように、MgO基板40上成膜した固体電解質AD膜42の表面に、Ar雰囲気グローブボックス中でカーボンペースト44(日本電子株式会社製、ドータイトペーストXC−12)を塗布して、イオン伝導度評価用カーボン電極を形成した。
【0053】
(4)大気への暴露
こうして電極が形成された固体電解質AD膜を大気に暴露した。この暴露は、大気暴露時間による影響を確認するため、常温で16時間、58時間及び171時間行い、各時間経過後にその都度特性評価及び解析を行った。
【0054】
(5)XRD測定
XRD装置(株式会社リガク製、ガイガーフレックスRAD−IB)を用い、大気暴露前後のAD膜のXRD測定を行った。また、比較のため、大気暴露する前のAD膜についても、上記同様にして測定を行った。その結果、
図4に示される(422)面ピークが観察された。
図4に示されるように、大気暴露前におけるピークが、大気暴露後には低角度側に0.1<2θ<1シフトすることが確認された。この結果から、大気放置によりCが格子内に導入されて、格子定数が拡大したものと解される。実際に、大気暴露前における(422)面ピーク位置と5
8時間の大気暴露後における(422)面ピーク位置との差に基づいて、a軸の格子定数の増加量を算出したところ、0.08Åであった。
【0055】
(6)イオン伝導度の評価
大気暴露した固体電解質AD膜を、Ar雰囲気グローブボックス中で、4端子法を用いた交流インピーダンス法により100℃、150℃及び200℃の温度でLiイオン伝導度を評価した。具体的には、AD膜にAuスパッタを施し、更に110℃以上で5時間以上真空乾燥させ、そのままAr雰囲気のグローブボックス内に導入し、CR2032コインセルに組み込んだ。本コインセルを大気中に取り出し、ソーラトロン社製電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタッド,周波数応答アナライザ)を用い、周波数1MHz〜0.1Hz、電圧10mVにて交流インピーダンス測定を行った。また、比較のため、大気暴露する前のAD膜についても、上記同様にして測定を行った。その結果、
図5に示されるイオン伝導度が測定された。なお、
図5には参照のためAD膜と同じ組成の焼結体の大気暴露していないサンプルのイオン伝導度も示してある。
図5に示されるように、各測定温度において粒内伝導度が大気暴露前よりも向上することが確認された。
【0056】
例A2:固体電解質AD膜/正極複合体の作製及び評価
(1)正極活物質板の作製
(1A)スラリー調製
Co
3O
4粉末(粒径1〜5μm、D50=1.2、正同化学工業株式会社製)と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、500〜700cPの粘度に調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。
【0057】
(1D)成形
得られた成形用スラリーを用いて、ドクターブレード法により、厚さ50μmのシートを形成した。乾燥後のシートに対して打ち抜き加工を施すことによって、11mm平方のグリーンシート成形体を得た。
【0058】
(1E)焼成(リチウム導入)
上述のようにして得られた10mm平方のグリーンシート成形体を、大気雰囲気中で1000℃にて熱処理することで、成形体の脱脂及び仮焼成を行った。得られた仮焼成成形体の両面に対して、水酸化リチウムのエタノール分散液をエアブラシによって所定量スプレーしたものを、750℃で24時間(大気雰囲気)熱処理することで、LiCoO
2の組成を有する、10mm平方で厚さ50μmの正極活物質板を得た。
【0059】
なお、上述の水酸化リチウムのエタノール分散液は、以下のようにして調製したものである。まず、LiOH・H
2O粉末(和光純薬工業株式会社製)を、ジェットミルを用いて、電子顕微鏡観察による目視粒径で1〜5μmになるように粉砕した。この粉末をエタノール(片山化学株式会社製)100重量部に対し1重量部の割合で加えたものを、超音波により、粉末が目視によって確認することができなくなるまで分散させた。
【0060】
(2)AD膜原料粉末の合成及び熱処理
例A1と同様にして、CO
2及びH
2Oを除去されたAD膜原料粉末を得た。
【0061】
(3)固体電解質AD膜の作製
成膜用基板としてMgO板の代わりに、上記得られた正極活物質板を用いたこと以外は、例A1と同様にして、固体電解質AD膜の作製を行った。
【0062】
(4)評価用電極の作製
活物質板上に成膜した固体電解質AD膜の上面、及び活物質板の裏面にAr雰囲気グローブボックス中でカーボンペースト(日本電子株式会社 ドータイトペーストXC−12)を塗布して、イオン伝導度評価用カーボン電極を形成した。
【0063】
(5)大気への暴露
こうして電極が形成された固体電解質AD膜を大気に暴露した。この暴露は常温で171時間行った。
【0064】
(6)イオン伝導度の評価
大気暴露したAD膜を、Ar雰囲気グローブボックス中で、擬似4端子(2端子)法を用いた交流インピーダンス法によりLiイオン伝導度を評価した。4端子法の代わりに擬似4端子(2端子)法を用いたこと以外、評価方法の詳細は例A1と同様とした。その結果、例A1と同様に、粒内伝導度が処理前よりも向上することが分かった。
【0065】
例B1:固体電解質焼結体の作製及び評価
(1)固体電解質焼結体の作製
焼成用原料調製のための各原料成分として、水酸化リチウム(関東化学株式会社)、水酸化ランタン(信越化学工業株式会社)、酸化ジルコニウム(東ソー株式会社)、酸化タンタルを用意した。これらの粉末をLiOH:La(OH)
3:ZrO
2:Ta
2O
5=7:3:1.625:0.1875になるように秤量及び配合し、ライカイ機にて混合して焼成用原料を得た。
【0066】
第一の焼成工程として、上記焼成用原料をアルミナ坩堝に入れて大気雰囲気で600℃/時間にて昇温し900℃にて6時間保持した。
【0067】
第二の焼成工程として、第一の焼成工程で得られた粉末に対しγ−Al
2O
3を0.6質量%の濃度となるように添加し、この粉末と玉石を混合し振動ミルを用いて3時間粉砕して、Li
7.0La
3.0Zr
1.625Ta
0.375O
12Al
0.1の組成を有する粉砕粉を得た。なお、このγ−Al
2O
3の添加量は、一次焼成粉末が仕込み組成通りの組成を有しているものと想定した組成式Li
7.0La
3.0Zr
1.625Ta
0.375O
12に対するモル比で0.1のAlとなる量に相当している。この粉砕粉を篩通しした後、得られた粉末を、金型を用いて約100MPaにてプレス成形してペレット状にした。得られたペレットをマグネシア製セッター上に乗せ、セッターごとマグネシア製のサヤ内に入れて、Ar雰囲気にて200℃/時間で昇温し、1000℃で36時間保持することにより、55mm×55mmのサイズで厚さ10mmの焼結体を得て、そこから3mm×4mmのサイズで長さ40mmの棒状の固体電解質焼結体を機械加工により得た。なお、Ar雰囲気として、事前に容量約3Lの炉内を真空引きした後、純度99.99%以上のArガスを電気炉に2L/分で流した。こうして得られた焼結体は、Li及びOは焼成時の欠損等により仕込み組成のモル数である7及び12からずれている可能性があるものの、仕込み組成のLi
7.0La
3.0Zr
1.625Ta
0.375O
12Al
0.1に概ね基づく組成を有し、炭酸リチウムを含まない。
【0068】
(2)評価用電極の作製
図6に示されるように、Ar雰囲気グローブボックス中でカーボンペースト(日本電子株式会社製、ドータイトペーストXC−12)を塗布して、イオン伝導度評価用カーボン電極を作製し電圧測定用端子として形成した。
【0069】
(3)大気への暴露
こうして電極が形成された固体電解質焼結体を大気に暴露した。この暴露は200℃で24時間行った。
【0070】
(4)イオン伝導度の評価
大気暴露した固体電解質焼結体を、Ar雰囲気グローブボックス中で、作製した棒状の固体電解質焼結体の長手方向の両端に金属リチウム箔を密着させて電流通電用端子とした4端子法を用いた交流インピーダンス法でLiイオン伝導度評価した。測定はソーラトロン社製電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタッド,周波数応答アナライザ)を用い、周波数1MHz〜0.1Hz、電圧10mVにて交流インピーダンス測定を行った。また、比較のため、大気暴露する前の焼結体板についても、上記同様にして測定を行った。その結果、
図7に示されるイオン伝導度が測定された。図に示されるように、室温から200℃の範囲で測定温度を行い、粒内伝導度が大気暴露前よりも向上することが確認された。
【0071】
例B2:固体電解質焼結体/正極複合体の作製及び評価
(1)固体電解質焼結体の作製
例B1と同様にして、固体電解質焼結体を得た。
【0072】
(2)正極活物質板の作製
正極活物質板のサイズを変えたこと以外は例A2と同様にして、LiCoO
2の組成を有する、10mm平方で厚さ1mmの正極活物質板を得た。
【0073】
(3)正極形成
上記得られた固体電解質焼結体と、上記得られた正極活物質板をホットプレスを用いて接合した。具体的には、10mm平方に加工した厚さ1mmの固体電解質板上に、1mm平方の厚さ50μmの正極活物質板を3行3列となるように9枚配列した。この配列体の上下面を焼成冶具との癒着防止用Pt箔で挟み、焼成条件700℃で5時間、2000kgf/cm
2の圧力でホットプレスにより焼成して、固体電解質焼結体/正極複合体を得た。
【0074】
(4)評価用電極の作製
接合した正極活物質及び固体電解質の各表面に、Ar雰囲気グローブボックス中でカーボンペースト(日本電子株式会社製、ドータイトペーストXC−12)を塗布して、イオン伝導度評価用カーボン電極を形成した。
【0075】
(5)大気への暴露
こうして電極が形成された固体電解質焼結体を大気に暴露した。この暴露は常温で50時間行った。
【0076】
(6)XRD評価
XRD装置(株式会社リガク製 ガイガーフレックスRAD−IB)を用い、大気暴露前後の固体電解質焼結体のXRD測定を行った。大気放置により、XRD測定結果において格子定数が拡大した。
【0077】
(7)イオン伝導度の評価
大気暴露した膜を、Ar雰囲気グローブボックス中で、擬似4端子(2端子)法を用いた交流インピーダンス法でLiイオン伝導度評価した。4端子法の代わりに擬似4端子(2端子)法を用いたこと以外、評価方法の詳細は例B1と同様とした。その結果、例B1と同様に、粒内伝導度が処理前よりも向上することが分かった。
【0078】
例B3:CO
2及びH
2Oの共存下でエージング処理を行った例
例B1において、固体電解質焼結体の大気への暴露(すなわちエージング処理)を評価用電極の作製(すなわち接合工程)よりも前にCO
2及びH
2Oが共存下で行ったこと、及び大気雰囲気(CO
2含有雰囲気)に曝された固体電解質の電極と接触されるべき表面をAr雰囲気グローブボックス中で1200番のSiC研磨紙を用いて削り取ったこと以外、例B1と同様にして固体電解質焼結体/正極複合体を作製した。その際、マイクロメーターを用いて研磨前後の厚みを測定したところ、固体電解質層の厚みが20μm程度減少していることを確認した。