【実施例】
【0038】
〔濃縮きび酢の製造および分析〕
下表の酢を原料として、濃縮きび酢(濃縮液体きび酢)および濃縮黒酢を製造した。
【0039】
【表1】
【0040】
濃縮は、大型ロータリーエバポレーターR-250(日本ビュッヒ株式会社)を用いて行った。詳細には、きび酢10kgをフラスコへ投入し、バス温度75℃、フラスコ回転数80rpmで120分減圧濃縮し、濃縮きび酢(brix 15.0)2.25kgを得た。また、黒酢10kgをフラスコへ投入し、バス温度75℃、フラスコ回転数80rpmで120分減圧濃縮し、濃縮黒酢(Brix 15.0)2.3kgを得た。
【0041】
得られた濃縮物を分析した(株式会社消費経済研究所による。)。結果を下表に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
〔脂肪細胞分化実験〕
材料および方法:
1. 細胞培養
脂肪細胞のモデルとしてヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入した、マウス胎児由来前駆脂肪細胞3T3-L1(JCRB9014)を使用した。細胞は10%Fetal Bovine Serum (FBS, Hyclone, Central, USA)添加ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM, Nissui, Tokyo, Japan)を用いて、37℃、5% CO2存在下で経代培養した。DMEM培地は、1LのMilli-Q水に対して、DMEM粉末10 gを溶解し、これに硫酸ストレプトマイシン(明治製菓、東京)0.1 g力価、ペニシリンGカリウム(明治製菓)10万U、1 M HEPES(オートクレーブで滅菌)5 mL、10% NaHCO3(オートクレーブで滅菌)10 mLを添加し、0.22μmフィルター滅菌したものをDMEM培地とし、4℃で保存した。
【0044】
2. 脂肪細胞への分化誘導
(1) 分化誘導試薬の調製
i) 25 mM IBMX: 12 mgの3-isobutyl-1-methylxanthine (IBMX, Wako, Osaka)に3.5 M KOH 25μLを加えて溶解し、これを2.5 mLのDMEMに加えて、0.22μmのフィルター滅菌した。IBMXは用事調製して使用した。
ii) 25μM Dex: 1.72 mgのDexamethasone (Dex, Wako)に99%エタノール1 mLを加えて溶解し、これを10 mLのDMEMに加えて、0.22μmフィルター滅菌したものを25μM Dexとして-20℃で凍結保存した。
iii) 10 mg/mL インスリン:100 mgのインスリン(Wako)に10N HClを加えて溶解し、これをMilli-Q水で10 mLになるようにメスアップした後、0.22 mmフィルター滅菌したものを10 mg/mL Insulinとして-80℃で凍結保存した。
【0045】
(2) 分化誘導処理
i) コラーゲンコート処理:分化誘導処理を行う際は、コラーゲンコート処理を施したディッシュに細胞を播種した。コラーゲンは、コラーゲンI(BD, NY, USA)を使用し、0.02 Mの酢酸を用いて50μg/mLに希釈した後、0.22μmフィルター滅菌したものを4℃で保存した。細胞を播種する前のディッシュにコラーゲンI溶液を5μg/cm
2になるようにコーティングし、37℃で1時間インキュベートした。コラーゲンI溶液を除去し、PBSで2回洗浄後、細胞を播種した。
【0046】
ii) 分化誘導処理:3T3-L1前駆脂肪細胞を2×10
5 cell/mLで96ウェルプレートに播種し、10%FBS-DMEMで1-2日間培養した後(a)、コンフルエントに達したことを確認し、0.5 mM IBMX、0.25μM DEX、10μg/mLインスリン添加培地で72時間培養した(b)。その後、10μg/mLインスリンのみを含む培地で48時間培養した(c)。その後、10%FSB-DMEMのみの培地に戻して培養を行うことにより分化誘導を行った。
iii) サンプル添加:前掲の濃縮きび酢または濃縮黒酢は、10%FBS-DMEM培地での培養時(a)、分化誘導培地(0.5 mM IBMX、0.25μM DEX、10μg/mLインスリン添加培地)での培養時(b)、インスリン培地(10μg/mLインスリンのみを含む培地)での培養時(c)において、適宜、終濃度が0.5%、1%または3%となるように添加した。
【0047】
(3) IN Cell Analyzer 1000を用いた脂肪細胞分化度合いの評価
i) 細胞内脂肪および核の染色:3T3-L1が脂肪細胞へと分化する際に細胞内に生じる脂肪滴を蛍光染色するためのBODIPY493/503 (D-3922, Invitrogen, San Diego, USA)を用いた。BODIPYは、細胞内の中性および非極性脂質を染色することが知られている。BODIPYは、エタノールで1 mg/mLに希釈し、-4℃で遮光保存した。使用する際は、PBSで25 ng/mLに希釈した。核の染色は、Hoechst33342 (Dojindo, Kumamoto, Japan)を使用した。Hoechst33342はDNA配列のAT選択的に結合するminor groove binderで、2本鎖DNA選択制を示し、細胞内の核を染色する。
【0048】
ii) IN Cell Analyzer 1000による測定および解析:細胞をPBS100μLで洗浄し、10%ホルマリンを100μL添加後、室温で10分間インキュベートし、細胞の固定を行った。PBS 100μLで洗浄し、25 ng/mL BODIPY溶液を100μL添加後、暗所、室温で20分インキュベートし、細胞内の脂肪滴の染色を行った。BODIPY溶液を除去し、10μM Hoechst33342溶液を100μL添加後、暗所、室温で20分インキュベートし、核の染色を行った。Hoechst33342溶液を除去した後、PBS 100μLを添加し、IN Cell Analyzer 1000 (GE Healthcare, UK)で測定した。IN Cell Analyzer 1000に付属のソフトウェア(WorkstationあるいはDeveloper)を用いることで、細胞数、1細胞当たりの脂肪滴数、1細胞当たりの脂肪滴面積の測定を行った。
【0049】
結果:
結果を
図1に示した。また、サンプルを添加しないもの(ctrl)、およびきび酢または黒酢の代わりに、同濃度の酢酸を添加したもの(図中、例えば、「酢酸 0.5%」は、「きび酢 0.5%」と酢酸濃度が同じになるように、酢酸を添加した実験区を表す。)も同様に評価した。(b)段階、または(b)および(c)段階できび酢を添加した場合、高い効果(脂肪細胞への分化抑制効果)が観察された。図中、エラーバーは標準偏差を示す。*: p>0.05, **: p>0.01, ***: p>0.001(コントロールとの比較。n=3。student’s t-test)
【0050】
〔脂肪肝抑制実験〕
材料および方法:
1. サンプル調整
(1) 各種サンプル調整
前掲濃縮黒酢および濃縮液体キビ酢、ならびに固体キビ酢(きび酢乾燥物。収率約3%。日宝泉力本舗株式会社から提供された。)を用いた。固体キビ酢は10 mg/mLとなるようにPBSで溶かしサンプル溶液とした。各種サンプルは4℃で保存し、適宜転倒混和を行い実験に使用した。また、濃縮液体キビ酢の酢酸含有量が全体の6.87%であることから、6.87%酢酸(和光純薬, 大阪)溶液を各種サンプルのコントロールとして用いた。
【0051】
(2) 各種サンプルのpHと浸透圧測定
3T3-L1細胞およびHepG2細胞に各種サンプルを添加する際、含まれる酢酸の細胞への影響をなくすため0.1もしくは1N NaOH溶液(和光純薬, 大阪)でpHを7.2付近にしたときの浸透圧を測定した。pHの測定にはCOMPACT pH METER twin pH(HORIBA, 京都)を、浸透圧測定にはOSMOMETER OM 802-D(VOGEL, BRD)を用いた。
【0052】
2. HepG2細胞における脂肪酸処理およびサンプル処理
(1) パルミチン酸ナトリウム溶液の作製
10%脂肪酸不含BSA(Albumin, Bovine Serum, Fatty Acid-Free(CRL, Wiltshire, UK))/ Phosphate Buffered Saline (PBS)に、パルミチン酸ナトリウム(Chem Service, Inc., West Chester, USA)が最終濃度8 mMとなるように添加した。ソニケーションにより溶解させ、0.22μm PVDFシリンジフィルター(日本ミリポア, 東京)にてフィルトレーションを行い滅菌した。
【0053】
(2) サンプル処理
前日に、96 well plate(μClear Fluorescence Black Plate(Greiner bio-one , BRD))にHepG2細胞を2.0×104 cells/wellで播種し、ディッシュ底面に接着させておく。24時間後、1.5 mLエッペンチューブに入れた10%FBS/DMEM培地に、酢酸、黒酢、液体キビ酢は最終濃度0.5, 3%となるように各サンプルを添加し、そのサンプル溶液を1.0N NaOH溶液(和光純薬, 大阪)でpH7.2付近となるよう調整した。固体キビ酢は0.1、1、10%(固形物としての重量%)となるように10%FBS/DMEM培地に添加した。96well plateの培地を除去した後、これらの作製したサンプル溶液を100μL/wellで添加し、37℃、5% CO
2存在下で24時間培養した。
また分画サンプルは、HepG2細胞を2.0×10
4 cells/wellで播種した24時間後、最終濃度10, 50μg/mLとなるようにサンプルを培地に添加した。
【0054】
(3) パルミチン酸処理
サンプル処理を施す際に、パルミチン酸処理も行う。最終濃度0.1 mMとなるようにパルミチン酸ナトリウム溶液をwellの培地に添加し、サンプルと同様37℃、5% CO
2存在下で24時間培養した。
【0055】
3. HepG2細胞へのBODIPY染色
以下の操作は全て遮光条件下で行った。前日にサンプルおよびパルミチン酸処理したHepG2細胞をPBS 100μL/wellで洗浄した。37% formaldehyde(和光純薬, 大阪)をPBSで希釈し、10% formaldehyde溶液とした。これを100μL/wellで添加し10分間室温にて放置し固定した。その間にBODIPY493/503(Life Technologies, CA, USA)0.3μL/PBS 5 mLの脂肪滴染色液を作製した。その後、PBS 100μL/wellで2回洗浄した後、先ほど作製した脂肪滴染色液を100μL/wellで添加し20分室温にて放置し染色した。その間に、Hoechst33342(同仁化学, 熊本)1μL/PBS 1 mLを混合し細胞核染色液を作製した。脂肪滴染色液を除去し、PBS 100μL/wellで1回洗浄した後、細胞核染色液を100μL/wellで添加し15分室温にて放置し染色した。染色後、細胞核染色液を除去し、PBS 100μL/wellで1回洗浄した。さらにPBSを100μL/wellで添加し、IN Cell Analyzer 1000 Imaging Cytometer(GE Healthcare, Amersham ,UK)にて画像を取得した。画像はDeveloperで解析後、Spotfire DecisionSite Client 8.2 software (Spotfire Japan KK)によりグラフ化した。
【0056】
結果:
細胞数の合計を
図2に、脂肪滴面積および脂肪滴数を
図3に、細胞当りの脂肪滴数の合計を
図4に、細胞当りの脂肪面積の合計を
図5に示した。
図4および5から明らかであるように、固体きび酢を用いた実験区では、細胞当りの脂肪滴数および脂肪面積が抑制された。
【0057】
〔製造例〕
1. きび酢エキス
前掲のきび酢1000mlを乾燥し、粉末化する。これに蒸留水を加え、再び乾燥処理する。この作業を数回繰り返し、酢酸を除去する。得られた粉末を蒸留水100mlに溶解し、10倍濃縮液とする。
【0058】
2. きび酢乾燥物
きび酢を減圧蒸留手段により乾燥させ、必要に応じ、殺菌して得る。
【0059】
3. きび酢飲料
きび酢に、同量の茶、および7〜10倍量の水を混合し、常法により加熱殺菌した後、これを200mLずつ紙容器に無菌的に充填して製品とする。
【0060】
4. 一般食品、健康食品
前掲のきび酢エキスまたはきび酢乾燥物を添加して、チューブ状食品、または前掲のきび酢エキスまたはきび酢乾燥物を内容物として、常法により軟カプセル剤または硬カプセル剤とする。