(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3相モータの電機子鎖交磁束及びモータトルクがそれぞれ目標磁束及び目標トルクに追従するように、インバータによって前記3相モータに電圧ベクトルを印加するモータ制御装置であって、
前記目標磁束を特定する磁束振幅指令演算部と、
前記目標磁束と、推定された前記電機子鎖交磁束の位相とに基づいて、目標磁束ベクトルを特定する磁束指令演算部と、
前記目標磁束ベクトルと、推定された前記電機子鎖交磁束との差から、前記電圧ベクトルを特定する電圧指令演算部と、
を備え、
前記磁束振幅指令演算部は、(i)前記目標トルクから前記目標磁束としての第1の目標磁束を特定する第1の磁束振幅指令演算部と、(ii)前記第1の目標磁束と、前記3相モータの回転数又は推定された前記電機子鎖交磁束とから、前記磁束指令演算部に与えるべき第2の目標磁束を特定する第2の磁束振幅指令演算部とを有し、
前記第2の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相モータを流れる電流又は前記3相モータで発生する電力損失が、前記第2の目標磁束に代えて前記第1の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相モータを流れる電流又は前記3相モータで発生する電力損失を下回るように、前記第2の磁束振幅指令演算部が構成されており、
前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記3相モータを流れる電流に基づいて前記第1の目標磁束を再導出し、推定された前記電機子鎖交磁束と再導出された前記第1の目標磁束とを用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅と再導出された前記第1の目標磁束との差がゼロに収束するように、前記第2の目標磁束を特定する、モータ制御装置。
前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記回転数を用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅が前記第1の目標磁束に一致するように、前記第2の目標磁束を特定する請求項2に記載のモータ制御装置。
前記第2の磁束振幅指令演算部は、推定された前記電機子鎖交磁束と前記第1の磁束振幅指令演算部で特定された前記第1の目標磁束とを用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅と前記第1の目標磁束との差がゼロに収束するように、前記第2の目標磁束を特定する請求項2に記載のモータ制御装置。
前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記回転数が大きければ大きいほど前記第1の目標磁束と前記第2の目標磁束との差が増加するように、前記第2の目標磁束を特定する請求項1〜6のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
推定された前記電機子鎖交磁束及び前記3相モータを流れる電流に基づいて、前記モータトルクを推定し、前記3相モータを流れる電流及び前記回転数に基づいて、推定された前記モータトルクを補正する、トルク推定部をさらに備えた、請求項1〜7のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
3相発電機の電機子鎖交磁束及び発電機トルクがそれぞれ目標磁束及び目標トルクに追従するように、コンバータによって前記3相発電機に電圧ベクトルを印加する発電機制御装置であって、
前記目標磁束を特定する磁束振幅指令演算部と、
前記目標磁束と、推定された前記電機子鎖交磁束の位相とに基づいて、目標磁束ベクトルを特定する磁束指令演算部と、
前記目標磁束ベクトルと、推定された前記電機子鎖交磁束との差から、前記電圧ベクトルを特定する電圧指令演算部と、
を備え、
前記磁束振幅指令演算部は、(i)前記目標トルクから前記目標磁束としての第1の目標磁束を特定する第1の磁束振幅指令演算部と、(ii)前記第1の目標磁束と、前記3相発電機の回転数又は推定された前記電機子鎖交磁束とから、前記磁束指令演算部に与えるべき第2の目標磁束を特定する第2の磁束振幅指令演算部とを有し、
前記第2の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相発電機を流れる電流又は前記3相発電機で発生する電力損失が、前記第2の目標磁束に代えて前記第1の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相発電機を流れる電流又は前記3相発電機で発生する電力損失を下回るように、前記第2の磁束振幅指令演算部が構成されており、
前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記3相発電機を流れる電流に基づいて前記第1の目標磁束を再導出し、推定された前記電機子鎖交磁束と再導出された前記第1の目標磁束とを用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅と再導出された前記第1の目標磁束との差がゼロに収束するように、前記第2の目標磁束を特定する、発電機制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の第1態様は、
3相モータの電機子鎖交磁束及びモータトルクがそれぞれ目標磁束及び目標トルクに追従するように、インバータによって前記3相モータに電圧ベクトルを印加するモータ制御装置であって、
前記目標磁束を特定する磁束振幅指令演算部と、
前記目標磁束と、推定された前記電機子鎖交磁束の位相とに基づいて、目標磁束ベクトルを特定する磁束指令演算部と、
前記目標磁束ベクトルと、推定された前記電機子鎖交磁束との差から、前記電圧ベクトルを特定する電圧指令演算部と、
を備え、
前記磁束振幅指令演算部は、(i)前記目標トルクから前記目標磁束としての第1の目標磁束を特定する第1の磁束振幅指令演算部と、(ii)前記第1の目標磁束と、前記3相モータの回転数又は推定された前記電機子鎖交磁束とから、前記磁束指令演算部に与えるべき第2の目標磁束を特定する第2の磁束振幅指令演算部とを有し、
前記第2の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相モータを流れる電流又は前記3相モータで発生する電力損失が、前記第2の目標磁束に代えて前記第1の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相モータを流れる電流又は前記3相モータで発生する電力損失を下回るように、前記第2の磁束振幅指令演算部が構成されている、モータ制御装置を提供する。
【0017】
第1態様によれば、3相モータの高速化に伴うモータ電流の増加又は電力損失の増加を抑制できる。
【0018】
本開示の第2態様は、第1態様に加え、前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記第1の目標磁束よりも小さい前記第2の目標磁束を特定するモータ制御装置を提供する。第2態様の構成によれば、第2の目標磁束に基づいて特定される目標磁束ベクトルが、モータ電流又は電力損失を最小値とするためのベクトルに近づく。
【0019】
本開示の第3態様は、第1態様又は第2態様に加え、前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記回転数が大きければ大きいほど前記第1の目標磁束と前記第2の目標磁束との差が増加するように、前記第2の目標磁束を特定するモータ制御装置を提供する。第3態様の構成によれば、3相モータの回転数に応じた第2の目標磁束を特定できる。
【0020】
本開示の第4態様は、第1〜第3態様のいずれか1つに加え、前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記回転数を用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅が前記第1の目標磁束に一致するように、前記第2の目標磁束を特定するモータ制御装置を提供する。
【0021】
本開示の第5態様は、第1〜第3態様のいずれか1つに加え、前記第2の磁束振幅指令演算部は、推定された前記電機子鎖交磁束と前記第1の磁束振幅指令演算部で特定された前記第1の目標磁束とを用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅と前記第1の目標磁束との差がゼロに収束するように、前記第2の目標磁束を特定するモータ制御装置を提供する。
【0022】
本開示の第6態様は、第1〜第3態様のいずれか1つに加え、前記第2の磁束振幅指令演算部は、前記3相モータを流れる電流に基づいて前記第1の目標磁束を再導出し、推定された前記電機子鎖交磁束と再導出された前記第1の目標磁束とを用いて、推定された前記電機子鎖交磁束の振幅と再導出された前記第1の目標磁束との差がゼロに収束するように、前記第2の目標磁束を特定するモータ制御装置を提供する。
【0023】
第4態様の第2の磁束振幅指令演算部は、3相モータの回転数を用いるため、3相モータの回転数が変動する場合も、3相モータの回転数に適合した第2の目標磁束を特定できる。第5態様又は第6態様の第2の磁束振幅指令演算部は、電機子鎖交磁束の振幅と第1の目標磁束との差がゼロになるような制御(フィードバック制御)を行うので、3相モータの回転数が変動する場合も、3相モータの回転数に適合した第2の目標磁束を特定できる。
【0024】
本開示の第7態様は、第1〜第6態様のいずれか1つに加え、推定された前記電機子鎖交磁束及び前記3相モータを流れる電流に基づいて、前記モータトルクを推定し、前記3相モータを流れる電流及び前記回転数に基づいて、推定された前記モータトルクを補正する、トルク推定部をさらに備えたモータ制御装置を提供する。第7態様の構成によれば、トルク推定部が3相モータの回転数に基づいてモータトルクを補正する。従って、3相モータの回転数が変動する場合も、3相モータの回転数に適合するように、モータトルクを補正できる。
【0025】
本開示の第8態様は、
3相発電機の電機子鎖交磁束及び発電機トルクがそれぞれ目標磁束及び目標トルクに追従するように、コンバータによって前記3相発電機に電圧ベクトルを印加する発電機制御装置であって、
前記目標磁束を特定する磁束振幅指令演算部と、
前記目標磁束と、推定された前記電機子鎖交磁束の位相とに基づいて、目標磁束ベクトルを特定する磁束指令演算部と、
前記目標磁束ベクトルと、推定された前記電機子鎖交磁束との差から、前記電圧ベクトルを特定する電圧指令演算部と、
を備え、
前記磁束振幅指令演算部は、(i)前記目標トルクから前記目標磁束としての第1の目標磁束を特定する第1の磁束振幅指令演算部と、(ii)前記第1の目標磁束と、前記3相発電機の回転数又は推定された前記電機子鎖交磁束とから、前記磁束指令演算部に与えるべき第2の目標磁束を特定する第2の磁束振幅指令演算部とを有し、
前記第2の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相発電機を流れる電流又は前記3相発電機で発生する電力損失が、前記第2の目標磁束に代えて前記第1の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相発電機を流れる電流又は前記3相発電機で発生する電力損失を下回るように、前記第2の磁束振幅指令演算部が構成されている、発電機制御装置を提供する。
【0026】
このような発電機制御装置によれば、第1態様により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0027】
本開示の第9態様は、
3相モータの電機子鎖交磁束及びモータトルクがそれぞれ目標磁束及び目標トルクに追従するように、インバータによって前記3相モータに電圧ベクトルを印加するモータ制御方法であって、
前記目標磁束を特定する磁束振幅指令演算工程と、
前記目標磁束と、推定された前記電機子鎖交磁束の位相とに基づいて、目標磁束ベクトルを特定する磁束指令演算工程と、
前記目標磁束ベクトルと、推定された前記電機子鎖交磁束との差から、前記電圧ベクトルを特定する電圧指令演算工程と、
を備え、
前記磁束振幅指令演算工程は、(i)前記目標トルクから前記目標磁束としての第1の目標磁束を特定する第1の磁束振幅指令演算工程と、(ii)前記第1の目標磁束と、前記3相モータの回転数又は推定された前記電機子鎖交磁束とから、前記磁束指令演算部に与えるべき第2の目標磁束を特定する第2の磁束振幅指令演算工程とを有し、
前記第2の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相モータを流れる電流又は前記3相モータで発生する電力損失が、前記第2の目標磁束に代えて前記第1の目標磁束を前記磁束指令演算部に与えたときに前記3相モータを流れる電流又は前記3相モータで発生する電力損失を下回る、モータ制御方法を提供する。
【0028】
このようなモータ制御方法によれば、第1態様により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0029】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
図1に示すように、本発明の各実施形態に係るモータ制御装置3,103,203,303は、インバータ(電圧変換回路)2及び3相モータ1に接続されうる。
【0031】
(3相モータ1)
3相モータ1は、回転子と、固定子とを有している。回転子は、永久磁石を備えている。固定子は、3相分の電機子巻線を有している。3相モータ1のU相に対応する電機子巻線をU相巻線と称することがある。3相モータ1のV相に対応する電機子巻線をV相巻線と称することがある。3相モータ1のW相に対応する電機子巻線をW相巻線と称することがある。3相モータ1は、例えば3相永久磁石同期モータである。
【0032】
(インバータ2)
インバータ2は、具体的にはPWM(Pulse Width Modulation)インバータである。より具体的には、インバータ2は、直流電源と変換回路とを有している。直流電源は、直流電圧を出力する。変換回路は、PWM制御によって、直流電圧を電圧ベクトル(3相交流電圧)に変換する。インバータ2は、電圧ベクトルを3相モータ1に印加する。
【0033】
以下では、dq座標系に基づいてモータ制御装置を説明することがある。また、αβ座標系に基づいてモータ制御装置を説明することもある。dq座標系及びαβ座標系は、二次元の直交座標系である。dq座標系及びαβ座標系について、
図2を用いて説明する。
【0034】
図2Aに示すdq座標系は、回転座標系である。d軸及びq軸は、永久磁石1mが作る磁束の回転速度(回転数)と同じ速度で回転する。反時計回り方向が、位相の進み方向である。永久磁石1mは、3相モータ1の回転子に設けられた永久磁石を表す。d軸は、永久磁石1mが作る磁束の方向に延びる軸として設定されている。q軸は、d軸を進み方向に90度回転させた軸として設定されている。U軸は、U相巻線に対応する。V軸は、V相巻線に対応する。W軸は、W相巻線に対応する。U軸、V軸及びW軸は、回転子が回転しても、回転しない。つまり、U軸、V軸及びW軸は、固定軸である。角度(位相)θは、U軸からみたd軸の進み角である。角度θは、回転子位置又は磁極位置とも称される。回転数ωは、回転子の回転数を表す。本明細書では、特に断りが無い限り、角度は電気角を意味する。d軸とq軸との間の角度、角度θ及び回転数ωは、電気角に基づいた値である。
【0035】
図2Bに示すαβ座標系は、固定座標系である。α軸及びβ軸は、固定軸である。反時計回り方向が、位相の進み方向である。α軸は、U軸と同一方向に延びる軸として設定されている。β軸は、α軸を進み方向に90度回転させた軸として設定されている。
【0036】
図1に示すように、モータ制御装置3,103,203,303は、3相モータ1を流れる3相電流iを検出する。モータ制御装置3,103,203,303には、目標トルクT
*が入力される。モータ制御装置3,103,203,303は、3相電流iと目標トルクT
*とを用いて、インバータ2を介して3相モータ1を制御する。以下、各実施形態のモータ制御装置を順に説明する。
【0037】
(第1の実施形態)
図3に示すように、モータ制御装置3は、電流センサ5、3相2相座標変換部22、磁束・トルク推定部23、減算部24、第1の磁束振幅指令演算部25、第2の磁束振幅指令演算部31、磁束指令演算部26、電圧指令演算部29及び2相3相座標変換部30を備えている。
【0038】
モータ制御装置3の一部又は全部の要素は、DSP(Digital Signal Processor)又はマイクロコンピュータにおいて実行される制御アプリケーションによって提供され得る。DSP又はマイクロコンピュータは、コア、メモリ、A/D変換回路及び通信ポート等の周辺装置を含んでいてもよい。また、モータ制御装置3の一部又は全部の要素は、論理回路によって構成されていてもよい。
【0039】
(モータ制御装置3による制御の概要)
以下、モータ制御装置3の動作の概要を説明する。電流センサ5によって、U相電流i
u及びV相電流i
vが検出される。U相電流i
uは、3相電流iのU相成分である。V相電流i
vは、3相電流iのV相成分である。3相2相座標変換部22によって、U相電流i
u及びV相電流i
vが、2相電流i
αβに変換される。磁束・トルク推定部23によって、2相電流i
αβと、目標2相電圧v
αβ*とから、推定磁束ψ
αβと、推定磁束ψ
αβの位相θ
sと、推定トルクTとが求められる。つまり、磁束・トルク推定部23によって、モータトルク及び電機子鎖交磁束が推定される。減算部24によって、推定トルクTと目標トルクT
*との差(トルク誤差ΔT:T
*−T)が求められる。第1の磁束振幅指令演算部25によって、目標トルクT
*から、第1の目標磁束|ψ
S*|が特定される。第2の磁束振幅指令演算部31によって、第1の目標磁束|ψ
S*|と、回転数ωとから、第2の目標磁束|ψ
S**|が特定される。磁束指令演算部26によって、第2の目標磁束|ψ
S**|と、位相θ
sと、トルク誤差ΔTとから、目標磁束ベクトルψ
αβ*が特定される。電圧指令演算部29によって、目標磁束ベクトルψ
αβ*と、推定磁束ψ
αβと、2相電流i
αβとから、目標2相電圧v
αβ*が特定される。2相3相座標変換部30によって、目標2相電圧v
αβ*が、目標3相電圧v
uvw*に変換される。目標3相電圧v
uvw*は、インバータ2に参照される。このような制御により、3相モータ1は、電機子鎖交磁束の振幅及びモータトルクがそれぞれ第1の目標磁束|ψ
S*|及び目標トルク指令T
*に追従するように制御される。
【0040】
本明細書では、2相電流i
αβは、実際に3相モータ1を流れる電流ではなく、情報として伝達される電流値を意味する。同様に、目標2相電圧v
αβ*、推定磁束ψ
αβ、位相θ
s、推定トルクT、目標トルクT
*、第1の目標磁束|ψ
S*|、第2の目標磁束|ψ
S**|、目標磁束ベクトルψ
αβ*及び目標3相電圧v
uvw*も、情報として伝達される値を意味する。
【0041】
次に、モータ制御装置3の詳細を説明する。
【0042】
(電流センサ5)
電流センサ5は、3相電流iを検出する。本実施形態では、電流センサ5は、U相電流i
u及びV相電流i
vを検出する。電流センサ5は、U相電流i
u及びV相電流i
vを出力する。
【0043】
(3相2相座標変換部22)
3相2相変換部22は、3相電流iを2相電流i
αβに変換する。本実施形態では、3相2相変換部22は、U相電流i
u及びV相電流i
vを、α軸電流i
α及びβ軸電流i
βに変換する。α軸電流i
α及びβ軸電流i
βは、磁束・トルク推定部23及び電圧指令演算部29に与えられる。
【0044】
なお、U相及びV相の2相以外の組み合わせの2相の電流を測定するように電流センサ5が設けられていてもよい。この場合も、測定された電流に基づいてα軸電流i
α及びβ軸電流i
βが特定されるように、3相2相座標変換部22が構成されうる。
【0045】
(磁束・トルク推定部23)
磁束・トルク推定部23は、2相電流i
αβと、目標2相電圧v
αβ*とから、モータトルク及び電機子鎖交磁束を推定する。本実施形態では、磁束・トルク推定部23は、式(1−1)、(1−2)、(1−3)及び(1−4)を用いて、推定磁束ψ
αβ(推定磁束ψ
α,ψ
β)、推定磁束ψ
αβの位相θ
s及び推定トルクTを求める。式(1−1)及び(1−2)におけるR
aは、3相モータ1の1相当たりの巻線抵抗である。右辺の積分は、基準時刻(t=0)から現時点までの時間積分を表す。ψ
α|t=0は、t=0における推定磁束ψ
αの値(初期値)である。ψ
β|t=0は、t=0における推定磁束ψ
βの値(初期値)である。式(1−4)におけるP
nは、3相モータ1の極対数である。推定磁束ψ
αβは、電圧指令演算部29に与えられる。位相θ
sは、磁束指令演算部26に与えられる。推定トルクTは、減算部24に与えられる。
【0047】
なお、推定磁束ψ
αβ及び推定トルクTを、単一の推定部で求めることは必須でない。推定磁束ψ
αβを求める推定部として磁束推定部を設け、推定トルクTを求める推定部としてトルク推定部を設けてもよい。磁束推定部は、2相電流i
αβと、目標2相電圧v
αβ*とから、推定磁束ψ
αβを求めるように構成できる。つまり、磁束推定部は、3相モータ1を流れる電流と、電圧ベクトルとに基づいて、電機子鎖交磁束を推定するように構成できる。トルク推定部は、推定磁束ψ
αβと、2相電流i
αβとから推定トルクTを求めるように構成できる。つまり、トルク推定部は、推定された電機子鎖交磁束と、3相モータ1を流れる電流とに基づいて、モータトルクを推定するように構成できる。
【0048】
また、磁束・トルク推定部23は、目標2相電圧v
αβ*に代えて、3相モータ1に印加されている電圧の検出値を3相2相変換させて得た2相電圧を用いて、推定磁束を求めてもよい。
【0049】
(減算部24)
減算部24は、推定トルクTと目標トルクT
*との差(トルク誤差ΔT:T
*−T)を求める。減算部24としては、公知の演算子を用いればよい。
【0050】
(第1の磁束振幅指令演算部25)
第1の磁束振幅指令演算部25は、目標トルクT
*から目標磁束としての第1の目標磁束|ψ
S*|を特定する。目標磁束と第1の目標磁束|ψ
S*|とは同じスカラーを指す。本実施形態の第1の目標磁束|ψ
S*|は、モータ電流を最小とするためのものである。モータトルクを目標値としつつ、モータ電流の値に対するモータトルクの値の比率が最大となるように、3相モータを制御する制御は、最大トルク/電流(MTPA:Maximum Torque Per Ampere)制御として知られてる。最大トルク/電流制御は公知であるため、最大トルク/電流制御の詳細な説明は省略する。本実施形態では、第1の磁束振幅指令演算部25は、テーブルを用いて目標トルクT
*から第1の目標磁束|ψ
S*|を特定するように構成されている。テーブルにおける目標トルクT
*と第1の目標磁束|ψ
S*|との対応関係は、当業者であれば適切に設定できる。第1の磁束振幅指令演算部25は、演算により第1の目標磁束|ψ
S*|を特定するように構成されていてもよい。
【0051】
本実施形態では、第2の磁束振幅指令演算部31によって、第1の目標磁束|ψ
S*|を修正する。修正後の第1の目標磁束|ψ
S*|を第2の目標磁束|ψ
S**|と記載する。第2の磁束振幅指令演算部31の詳細については後述する。
【0052】
(磁束指令演算部26)
磁束指令演算部26は、第1の目標磁束|ψ
S*|と、位相θ
sとに基づいて、電機子鎖交磁束が追従するべき目標磁束ベクトルψ
αβ*を特定する。具体的に、磁束指令演算部26は、第2の目標磁束|ψ
S**|と、位相θ
sと、トルク誤差ΔTとから、電機子鎖交磁束が追従するべき目標磁束ベクトルψ
αβ*を特定する。本実施形態における磁束指令演算部26は、
図4に示すブロック図に従って、目標磁束ベクトルψ
αβ*を特定する。具体的に、磁束指令演算部26は、PI制御部35と、加算部36と、ベクトル生成部37とを有している。PI制御部35は、ΔTをゼロに収束させるための比例積分制御により、位相補正量Δθ
S*を特定する。加算部36は、位相θ
Sと位相補正量Δθ
S*との合計(θ
S*:θ
S+Δθ
S*)を求める。ベクトル生成部37は、第2の目標磁束|ψ
S**|と合計θ
S*とから、目標磁束ベクトルψ
αβ*を特定する。具体的に、ベクトル生成部37は、式(1−5)及び(1−6)を用いて目標磁束ベクトルψ
αβ*を求める。目標磁束ベクトルψ
αβ*は、電圧指令演算部29に与えられる。
【0054】
(電圧指令演算部29)
電圧指令演算部29は、目標磁束ベクトルψ
αβ*と推定磁束ψ
αβとの差と、2相電流i
αβとから、目標2相電圧v
αβ*を特定する。本実施形態では、電圧指令演算部29は、式(1−7)を用いて、目標α軸電圧v
α*及び目標β軸電圧v
β*を求める。式(1−7)におけるT
sは、制御周期(サンプリング周期)である。なお、3相モータ1が高速回転しているときは、巻線抵抗R
aに基づく電圧降下が非常に小さい。このため、電圧指令演算部29は、式(1−7)の右辺第2項を無視して、目標磁束ベクトルψ
αβ*と推定磁束ψ
αβとの差から、目標2相電圧v
αβ*を特定するように構成されていてもよい。目標2相電圧v
αβ*は、2相3相座標変換部30に与えられる。
【0056】
(2相3相座標変換部30)
2相3相座標変換部30は、目標2相電圧v
αβ*を、目標3相電圧v
uvw*に変換する。その後、目標3相電圧v
uvw*に対応する電圧ベクトルが、インバータ2によって生成され、3相モータ1に印加される。
【0057】
(第2の磁束振幅指令演算部31)
第2の磁束振幅指令演算部31は、第1の目標磁束|ψ
S*|と、回転数ωとから、磁束指令演算部26に与えるべき第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。第2の目標磁束|ψ
S**|はスカラーである。第2の磁束振幅指令演算部31は、第2の目標磁束|ψ
S**|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1を流れる電流が、第2の目標磁束|ψ
S**|に代えて第1の目標磁束|ψ
S*|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1を流れる電流を下回るように構成されている。本実施形態では、第2の目標磁束|ψ
S**|は、以下の理論に基づいて特定される。
【0058】
式(1−1)及び(1−2)の初期値を無視すると、式(1−1)及び(1−2)から、式(1−8)が得られる。式(1−8)におけるsは、ラプラス演算子である。
【0060】
式(1−7)における目標2相電圧v
αβ*は、式(1−8)における目標2相電圧v
αβ*よりも、1制御周期(=T
s)後のものである。つまり、厳密には、これらは同じものを表していない。式(1−7)を、式(1−8)における目標2相電圧v
αβ*を用いて表すと、式(1−9)となる。
【0062】
式(1−8)及び(1−9)から、式(1−10)が得られる。また、3相モータ1が高速回転しているときは、巻線抵抗R
aに基づく電圧降下が非常に小さい。これを考慮して式(1−10)の右辺第2項を無視すると、式(1−11)が得られる。
【0064】
本実施形態では、式(1−11)に示されているように、|ψ
αβ|と|ψ
αβ*|とが厳密には一致しないことを考慮して、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する第2の磁束振幅指令演算部31を設けている。具体的に、第2の磁束振幅指令演算部31は、(1−13)を用いて、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。なお、式(1−13)は、式(1−12)の近似式である。式(1−13)の演算は、式(1−12)の演算よりも簡易になされる点で、有利である。ただし、式(1−12)を用いて第2の目標磁束|ψ
S**|を特定するように、第2の磁束振幅指令演算部31を構成してもよい。式(1−12)又は(1−13)に基づく第2の目標磁束|ψ
S**|は、演算により特定されてもよく、テーブルを用いて特定されてもよい。
【0066】
図5〜7を用いて、本実施形態の効果を説明する。
図5〜7は、シミュレーションによって得られた結果を示すグラフである。
図5の曲線40は、目標磁束ベクトルψ
αβ*の振幅に対する推定磁束ψ
αβの振幅の比率(|ψ
αβ|/|ψ
αβ*|)を表す。
図5から、回転数ωが大きければ大きいほど、この比率が大きくなり、1から乖離していくことが分かる。第2の磁束振幅指令演算部31が存在しない場合は、目標磁束ベクトルψ
αβ*の振幅は、第1の目標磁束|ψ
S*|に一致する。従って、回転数ωが大きければ大きいほど、第1の目標磁束|ψ
S*|に対する推定磁束ψ
αβの振幅の比率(|ψ
αβ|/|ψ
S*|)も大きくなり、1から乖離していく。このことは、従来のモータ制御装置は、高速回転時には、推定磁束ψ
αβの振幅を、第1の目標磁束|ψ
S*|からずれた値に一致させてしまうことを意味する。従来のモータ制御装置は、このずれがゼロであるとの仮定のもとで設計されているため、最大トルク/電流制御用に第1の目標磁束|ψ
S*|を設定しても、モータ電流が最小値からずれる。回転数ωが大きければ大きいほど、推定磁束ψ
αβの振幅の第1の目標磁束|ψ
S*|からのずれは大きくなる。モータ電流の最小値からのずれも大きくなる。また、図示は省略するが、制御周期T
sが長い(電流のサンプリング周波数が低い)場合にも、同様の傾向が現れる。
【0067】
これに対し、本実施形態では、第2の磁束振幅指令演算部31が、第1の目標磁束|ψ
S*|に1よりも小さい係数(cos(ωT
s)を示す
図6の曲線41参照)を乗じることにより、第1の目標磁束|ψ
S*|よりも小さい第2の目標磁束|ψ
S**|を特定している。モータ制御装置3は、推定磁束ψ
αβの振幅を第2の目標磁束|ψ
S**|に一致させようとするが、上述の理由により、実際には推定磁束ψ
αβは第2の目標磁束|ψ
S**|からずれた値に一致することになる。具体的には、推定磁束ψ
αβは第2の目標磁束|ψ
S**|よりも大きな値に一致することになる。第1の目標磁束|ψ
S*|は第2の目標磁束|ψ
S**|よりも大きいので、結果として、従来のように第1の目標磁束|ψ
S*|を直接的に用いて目標磁束ベクトルψ
αβ*を特定する場合よりも、推定磁束ψ
αβの振幅の第1の目標磁束|ψ
S*|からの乖離量を縮小できる。つまり、モータ電流を最小値に近づけることができる。
【0068】
このように、第2の磁束振幅指令演算部31は、回転数ωを用いて、推定された電機子鎖交磁束の振幅が第1の目標磁束|ψ
S*|に一致するように、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。第2の磁束振幅指令演算部31は、3相モータ1の回転数ωを用いるため、3相モータ1の回転数ωが変動する場合も、3相モータ1の回転数ωに適合した第2の目標磁束|ψ
S**|を特定できる。
【0069】
詳細には、第2の磁束振幅指令演算部31は、回転数ωが大きければ大きいほど第1の目標磁束|ψ
S*|と第2の目標磁束|ψ
S**|との差が増加するように(cos(ωT
s)を示す
図6の曲線41参照)、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定している。従って、第2の磁束振幅指令演算部31は、回転数ωの増加に由来する制御精度の低下を防止できる。
【0070】
また、第2の磁束振幅指令演算部31は、電流のサンプリング周波数が低ければ低いほど(制御周期T
sが大きければ大きいほど)第1の目標磁束|ψ
S*|と第2の目標磁束|ψ
S**|との差が増加するように(cos(ωT
s)を示す
図6の曲線41参照)、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定している。従って、第2の磁束振幅指令演算部31によれば、電流のサンプリング周波数が低い場合にも、制御精度が維持される。従って、モータ制御装置3によれば、制御精度を維持しつつ、DSP、マイクロコンピュータ等のCPUの演算量を抑えることができる。つまり、比較的性能の低いDSP又はマイクロコンピュータを使用したとしても、精度を落とさずに3相モータ1を制御できる。このことは、コストの観点から有利である。従って、モータ制御装置3は、3相モータ1が低速回転する場合にも好適に使用できる。
【0071】
より詳細には、第2の磁束振幅指令演算部31は、第1の目標磁束|ψ
S*|にcos(ωT
s)を乗じることにより、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定している。この場合には、|ψ
αβ|/|ψ
S*|の曲線(
図7の曲線42)が、実質的に|ψ
αβ|/|ψ
S*|=1の直線となる。本実施形態によれば、電機子鎖交磁束の振幅の第1の目標磁束|ψ
S*|からの乖離量が、実質的にゼロになる。モータ電流の最小値からの乖離量も、実質的にゼロになる。
【0072】
モータ電流を最小値に調整できることは、3相モータ1における銅損を最小値に調整できることを意味する。また、第2の磁束振幅指令演算部31が存在する場合は、第2の磁束振幅指令演算部31が存在しない場合に比べると、推定磁束ψ
αβの振幅が小さい値に調整される。つまり、本実施形態によれば、3相モータ1に実際に印加される電機子鎖交磁束の振幅が小さくなるので、鉄損(渦電流損)も小さくなる。従って、本実施形態によれば、効率よく3相モータ1を駆動できる。
【0073】
本実施形態では、第1の磁束振幅指令演算部25と、第2の磁束振幅指令演算部31とが複数の要素で構成されている。しかし、第1の磁束振幅指令演算部25と、第2の磁束振幅指令演算部31とは、単一の要素で構成されていてもよい。つまり、磁束指令振幅演算部が第1の磁束振幅指令演算部25と第2の磁束振幅指令演算部31とを有すると表現したときに、この磁束指令振幅演算部は、複数の要素で構成されていてもよく、単一の要素で構成されていてもよい。この点は、後述の実施形態及び変形例についても同様である。
【0074】
また、第1の磁束振幅指令演算部25と第2の磁束振幅指令演算部31とが単一の要素で構成されている場合には、この単一の要素は、単一のテーブルを用いて第2の目標磁束|ψ
S**|を特定するものであってもよい。
【0075】
本実施形態の第1の磁束振幅指令演算部25は、モータ電流が最小となるように第1の目標磁束|ψ
S*|を定めている。しかし、第1の磁束振幅指令演算部25は、他の目的で、第1の目標磁束|ψ
S*|を定めるものであってもよい。例えば、インバータ2が出力できる電圧には上限がある。このため、インバータ2が出力できる電圧を所定値以下とするべき場合がある。この場合には、第1の磁束振幅指令演算部25を、式(1−14)を用いて第1の目標磁束|ψ
S*|を定めるように構成してもよい。つまり、第1の磁束振幅指令演算部25は、弱め界磁制御用の第1の目標磁束|ψ
S*|を特定するものであってもよい。この場合には、高い精度での弱め界磁制御が可能となる。なお、式(1−14)におけるV
omは、弱め界磁制御において3相モータ1に印加される電圧(電圧ベクトルの大きさ)の上限値である。ω
aは、3相モータ1の回転子の回転数(d軸の電気角速度)である。
【0077】
また、第1の磁束振幅指令演算部25は、銅損と鉄損との合計が最小となるように第1の目標磁束|ψ
S*|を定めるものであってもよい。この場合には、モータ制御装置3は、銅損と鉄損との合計を精度よく最小値に調整できる。要するに、第1の磁束振幅指令演算部25がいずれの制御量をいずれの目標値とするように第1の目標磁束|ψ
S*|を定めた場合であっても、モータ制御装置3は、制御量を目標値に精度良く調整できる。
【0078】
本実施形態においてモータ制御装置について説明した事項は、モータ制御方法にも適用できる。この点は、後述の変形例及び実施形態についても同様である。
【0079】
(変形例)
変形例に係るモータ制御装置は、第1の実施形態における第2の磁束振幅指令演算部31の代わりに、第2の磁束振幅指令演算部Aを備えている。
【0080】
変形例における第1の磁束振幅指令演算部25は、先に説明した実施形態における第1の磁束振幅指令演算部25と同様、モータ電流を最小とするための電機子鎖交磁束の振幅として、第1の目標磁束|ψ
S*|を特定する。第2の磁束振幅指令演算部Aは、銅損と鉄損との合計が最小値へと近づくように、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。具体的には、第2の磁束振幅指令演算部Aは、式(1−15)を用いて、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。変形例では、式(1−15)におけるKを、1よりも大きな任意の係数とする。
【0082】
式(1−15)に基づいて特定される第2の目標磁束|ψ
S**|は、式(1−13)に基づいて特定される第2の目標磁束|ψ
S**|よりも小さい。このため、変形例における目標磁束ベクトルψ
αβ*の振幅は、第1の実施形態における目標磁束ベクトルψ
αβ*の振幅よりも、小さい値に調整される。つまり、変形例に係るモータ制御装置は、第1の実施形態に係るモータ制御装置3よりも、電機子鎖交磁束の振幅を小さい値に調整する。これにより、変形例における鉄損は、第1の実施形態における鉄損よりも、小さい値に調整される。
【0083】
第1の実施形態における第2の磁束振幅指令演算部31に基づく効果と、変形例における第2の磁束振幅指令演算部Aに基づく効果とを、
図8を用いて対比する。
図8は、シミュレーションによって得られた結果を示すグラフである。曲線43は、相電流の実効値(単位:A)を表す。曲線44は、電力損失(単位:W)を表す。電力損失は、銅損と鉄損との合計値である。K=1のときに、相電流が最小となっている。このことから、第2の磁束振幅指令演算部31が式(1−13)に基づいて動作するときに、相電流が最小となることがわかる。一方、K>1のときに、電力損失が最小となっている。このことから、第2の磁束振幅指令演算部Aが、K(>1)が適切に設定された式(1−15)に基づいて動作するときに、電力損失が最小となることがわかる。つまり、Kが適切に設定されることにより、モータ制御装置が最大効率制御を実施できることがわかる。
【0084】
以上のように、変形例では、第2の磁束振幅指令演算部Aは、第1の目標磁束|ψ
S*|と、回転数ωとから、磁束指令演算部26に与えるべき第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。また、第2の磁束振幅指令演算部Aは、第2の目標磁束|ψ
S**|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1で発生する電力損失が、第2の目標磁束|ψ
S**|に代えて第1の目標磁束|ψ
S*|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1で発生する電力損失を下回るように構成されている。Kの操作(微調整)は容易であるため、このような第2の磁束振幅指令演算部Aを有するモータ制御装置3は、回転数ωに依存する鉄損を考慮に入れた最大効率制御を簡便に実施できる。また、Kの操作は容易であるため、Kを1以上の範囲で調整できるように第2の磁束振幅指令部を構成すれば、MTPA制御と最大効率制御とを容易に切り替えることができるモータ制御装置を構成できる。
【0085】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態のモータ制御装置について、
図9及び10を参照しながら説明する。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0086】
第2の実施形態のモータ制御装置103は、モータ制御装置3の第2の磁束振幅指令演算部31とは異なる第2の磁束振幅指令演算部50を有する。第2の磁束振幅指令演算部50は、第1の目標磁束|ψ
S*|と、推定磁束ψ
αβとから、磁束指令演算部26に与えるべき第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。また、第2の磁束振幅指令演算部50は、第2の目標磁束|ψ
S**|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1を流れる電流が、第2の目標磁束|ψ
S**|に代えて第1の目標磁束|ψ
S*|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1に流れる電流を下回るように構成されている。具体的に、第2の磁束振幅指令演算部50は、
図10に示すブロック図に従って、第2の目標磁束|ψ
S**|を求める。
【0087】
第2の磁束振幅指令演算部50は、振幅演算部51と、PI制御部52と、減算部53と、加算部54とを有している。振幅演算部51は、推定磁束ψ
αβから、推定磁束ψ
αβの振幅|ψ
αβ|を求める。減算部53は、第1の目標磁束|ψ
S*|と振幅|ψ
αβ|との差(|ψ
S*|−|ψ
αβ|)を求める。PI制御部52は、第1の目標磁束|ψ
S*|と振幅|ψ
αβ|との差をゼロに収束させる比例積分制御によって、磁束振幅補正量Δ|ψ
S*|を求める。加算部54は、第1の目標磁束|ψ
S*|と磁束振幅補正量Δ|ψ
S*|との和(|ψ
S*|+Δ|ψ
S*|)を求める。第2の磁束振幅指令演算部50は、この和を、第2の目標磁束|ψ
S**|として出力する。
【0088】
図5を用いて説明したとおり、第2の磁束振幅指令演算部を有さない従来のモータ制御装置を用いた場合、回転数ωが大きければ大きいほど、第1の目標磁束|ψ
S*|に対する推定磁束ψ
αβの絶対値の比率が大きくなり、1から乖離していく。第2の磁束振幅指令演算部50は、推定された電機子鎖交磁束と第1の磁束振幅指令演算部25で特定された第1の目標磁束|ψ
S*|とを用いて、推定された電機子鎖交磁束の振幅|ψ
αβ|と第1の目標磁束|ψ
S*|との差がゼロに収束するように、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。具体的に、本実施形態では、第2の磁束振幅指令演算部50は、PI制御部52を有しているため、第2の目標磁束|ψ
S**|を自動的に特定できる。このため、第2の磁束振幅指令演算部50は、回転数ωが大きければ大きいほど第1の目標磁束|ψ
S*|と第2の目標磁束|ψ
S**|との差が増加するように、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定できる。従って、第2の磁束振幅指令演算部50は、回転数ωに適合した第2の目標磁束|ψ
S**|を特定できる。
【0089】
また、上述のとおり、第2の磁束振幅指令演算部を有さない従来のモータ制御装置を用いた場合、電流のサンプリング周波数が低ければ低いほど、第1の目標磁束|ψ
S*|に対する推定磁束ψ
αβの絶対値の比率が大きくなり、1から乖離していく。第2の磁束振幅指令演算部50は、電流のサンプリング周波数が低ければ低いほど第1の目標磁束と第2の目標磁束との差が増加するように、第2の目標磁束を特定できる。従って、第2の磁束振幅指令演算部50によれば、電流のサンプリング周波数が低い場合にも、制御精度が維持される。
【0090】
第1の磁束振幅指令演算部25がいずれの制御量をいずれの目標値とするように第1の目標磁束|ψ
S*|を定めた場合であっても、モータ制御装置103は、制御量を目標値に精度良く調整できる。例えば、第1の磁束振幅指令演算部25が銅損と鉄損との合計が最小となるように第1の目標磁束|ψ
S*|が定めるものである場合、モータ制御装置103は、銅損と鉄損との合計を精度よく最小値に調整できる。
【0091】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態のモータ制御装置について、
図11及び12を参照しながら説明する。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0092】
第3の実施形態のモータ制御装置203は、モータ制御装置3の第2の磁束振幅指令演算部31とは異なる第2の磁束振幅指令演算部60を有する。第2の磁束振幅指令演算部60は、第1の目標磁束|ψ
S*|と、推定磁束ψ
αβと、2相電流i
αβとから、磁束指令演算部26に与えるべき第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。また、第2の磁束振幅指令演算部60は、第2の目標磁束|ψ
S**|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1を流れる電流が、第2の目標磁束|ψ
S**|に代えて第1の目標磁束|ψ
S*|を磁束指令演算部26に与えたときに3相モータ1に流れる電流を下回るように構成されている。具体的に、第2の磁束振幅指令演算部60は、
図12に示すブロック図に従って、第2の目標磁束|ψ
S**|を求める。
【0093】
第2の磁束振幅指令演算部60は、振幅演算部61と、PI制御部62と、減算部63と、加算部64と、MTPAブロック65とを有している。振幅演算部61は、推定磁束ψ
αβから、推定磁束ψ
αβの振幅|ψ
αβ|を求める。MTPAブロック65は、2相電流i
αβから、モータ電流を最小とするための電機子鎖交磁束の振幅として、仮想振幅(仮想磁束の振幅)|ψsi
*|を特定する。減算部63は、仮想振幅|ψsi
*|と振幅|ψ
αβ|との差(|ψsi
*|−|ψ
αβ|)を求める。PI制御部62は、仮想振幅|ψsi
*|と振幅|ψ
αβ|との差をゼロに収束させる比例積分制御によって、磁束振幅補正量Δ|ψ
S*|を求める。加算部64は、第1の目標磁束|ψ
S*|と磁束振幅補正量Δ|ψ
S*|との和(|ψ
S*|+Δ|ψ
S*|)を求める。第2の磁束振幅指令演算部60は、この和を、第2の目標磁束|ψ
S**|として出力する。
【0094】
MTPAブロック65は、2相電流i
αβを用いて、第1の目標磁束を再導出していると捉えることができる。このため、仮想振幅|ψsi
*|は再導出された第1の目標磁束であるといえる。
【0095】
第3の実施形態では、第2の磁束振幅指令演算部60は、3相モータ1を流れる電流に基づいて第1の目標磁束を再導出する。第2の磁束振幅指令演算部60は、さらに、推定された電機子鎖交磁束と再導出された第1の目標磁束とを用いて、推定された電機子鎖交磁束の振幅と再導出された第1の目標磁束との差がゼロに収束するように、第2の目標磁束|ψ
S**|を特定する。第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果が得られる。なお、本明細書では、「第1の目標磁束を再導出する」とは、第1の目標磁束|Ψ
s*|が、3相モータ1の所定の制御量(例えば相電流)が所定の目標値(例えば最小値)となるように定められている場合に、3相モータ1の所定の制御量を所定の目標値とするための電機子鎖交磁束の振幅を特定することを意味する。
【0096】
第1の磁束振幅指令演算部25がいずれの制御量をいずれの目標値とするように第1の目標磁束|ψ
S*|を定めた場合であっても、制御量を目標値に精度良く調整できるように、モータ制御装置203を構成できる。例えば、第1の磁束振幅指令演算部25が銅損と鉄損との合計が最小となるように第1の目標磁束|ψ
S*|が定めるものである場合、MTPAブロック65に代えて、2相電流i
αβから銅損と鉄損との合計を最小とするための電機子鎖交磁束の振幅として仮想振幅を特定するブロックを用いればよい。
【0097】
上述の仮想振幅を特定する(第1の目標磁束を再導出する)ための各種ブロックとしては、ルックアップテーブルを有するブロック、計算式(近似式)が格納された演算子を有するブロック等が挙げられる。ルックアップテーブルを有するブロックを用いる場合、2相電流等と仮想振幅との対応関係を表すルックアップテーブルを事前に準備すればよい。演算子を有するブロックにおける計算式も、事前に準備できる。このようなルックアップテーブル及び計算式は、予め行った測定データ又は理論に基づいて設定できる。仮想振幅の具体的な特定方法は、公知の文献(武田洋次、森本茂雄、松井信行、本田幸夫、「埋込磁石同期モータの設計と制御」、株式会社オーム社、2001年10月25日発行、等)を参照することにより理解され得る。一例では、MTPA制御用の仮想振幅|ψsi
*|は、I
a=√(i
α2+i
β2)としたときに、|ψsi
*|=√(Ψ
a2+(I
a×L
a)
2)として特定できる。Ψ
aは、3相モータ1における永久磁石による鎖交磁束である。L
aは、3相モータ1の電機子巻線の一相当たりのインダクタンスである。最大効率制御用の仮想振幅|ψsi
*|は、MTPA制御用の仮想振幅よりも若干小さな値とすればよい。ただし、最大効率制御用の仮想振幅|ψsi
*|を理論に基づいて正確に特定することも可能である。
【0098】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態のモータ制御装置について、
図13及び14を参照しながら説明する。なお、第4の実施形態では、第1の実施形態と同様の部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0099】
第4の実施形態のモータ制御装置303は、モータ制御装置3の磁束・トルク推定部23とは異なる磁束・トルク推定部70を有する。磁束・トルク推定部70は、磁束・トルク推定部23と同様、式(1−1)〜(1−3)を用いて、推定磁束ψ
αβを求める。ただし、磁束・トルク推定部70は、推定磁束ψ
αβと、2相電流i
αβと、回転数ωとから、推定トルクTを求める。具体的には、磁束・トルク推定部70は、式(4−1)を用いて、推定トルクTを求める。第4の実施形態では、式(4−1)におけるK
teを、ゼロよりも大きな値とする。K
teは、αP
nT
sL
aである。L
aは、3相モータ1の電機子巻線の一相当たりのインダクタンスである。αは補正係数であり、通常は−1以上1以下の範囲内の値である。
【0101】
一般的には、推定トルクTは、式(1−1)〜(1−4)を用いて計算される。式(1−1)及び(1−2)によれば、2相電流i
αβと目標2相電圧v
αβ*との位相差が十分に小さくゼロに近似できる場合には、推定磁束ψ
α,ψ
βを精度よく求めることができる。しかし、回転数ωが大きくなると、2相電流i
αβと目標2相電圧v
αβ*との位相差がゼロから乖離していく。この場合、式(1−1)及び(1−2)で求められた推定磁束ψ
α,ψ
βは、3相モータ1に実際に印加されている電機子鎖交磁束からずれる。このため、式(1−4)で求められる推定トルクTは、3相モータ1に実際に発生しているトルク(モータトルク)からずれる。目標トルクT
*は、モータ制御装置の外部において、推定トルクTに応じて(推定トルクTに一致するように)設定される。従って、推定トルクTが実際のモータトルクからずれている場合、適切な目標トルクT
*が設定されない。このような目標トルクT
*が設定される場合、第1の磁束振幅指令演算部が目標トルクT
*から最大トルク/電流制御用の第1の目標磁束を特定するように構成されていても、第1の磁束振幅指令演算部はモータ電流を最小にするための第1の目標磁束を特定できない。つまり、モータ電流は最小値からずれる。同様の現象は、電流のサンプリング周波数が低い場合にも現れる。
【0102】
以上を考慮し、本実施形態では、式(1−4)に代えて、式(4−1)を用いて推定トルクTを求める。磁束・トルク推定部23は、回転数ω及び/又は電流の制御周期(つまり、電流のサンプリング周波数)を参照することにより、回転数ω及び/又は電流のサンプリング周波数に応じた推定トルクTを求める。これにより、3相モータ1に実際に発生しているトルクに近い推定トルクTが求まる。
【0103】
式(4−1)を用いて推定トルクTを求める効果を、
図14に示すシミュレーション結果を参照しながら説明する。
図14の曲線71は、相電流の実効値(単位:A)を表す。
図14では、K
te>0のときに、相電流が最小となっている。このことから、磁束・トルク推定部70が、K
te(>0)が適切に設定された式(4−1)に基づいて動作するときに、相電流が最小となることがわかる。
【0104】
磁束・トルク推定部70は、式(4−1)の右辺第1項を求めるための第1部と、右辺第2項を求めるための第2部とを有するトルク推定部を備えていると捉えることもできる。つまり、磁束・トルク推定部70は、第1部によって、推定された電機子鎖交磁束及び3相モータ1を流れる電流に基づいて(推定磁束ψ
αβと、2相電流i
αβとから)、モータトルクを推定し、第2部によって、3相モータ1を流れる電流及び回転数に基づいて(2相電流i
αβと、回転数ωとから)、推定されたモータトルクを補正する、トルク推定部を備えていると捉えることもできる。第1部と第2部とは、複数の要素で構成されていてもよく、単一の要素で構成されていてもよい。
【0105】
なお、磁束・トルク推定部70が式(4−2)を用いる場合にも、式(4−1)を用いる場合と同様の効果を得ることができる。
【0107】
また、先に説明したモータ制御装置103,203,303の磁束・トルク推定部23を、磁束・トルク推定部70に置き換えてもよい。
【0108】
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態の発電機制御装置について説明する。
図15に示す発電機制御装置403は、コンバータ(電圧変換回路)2b及び3相発電機1bに接続されうる。発電機制御装置403の構成要素は、モータ制御装置3の構成要素と同じである。
【0109】
3相発電機1bは、3相永久磁石同期発電機である。3相永久磁石同期発電機としては、埋込磁石同期発電機が挙げられる。3相発電機1bは、3相モータ1の構成と同様の構成を有している。また、コンバータ2bは、インバータ2と同様の構成を有している。コンバータ2bは、PWMコンバータである。
【0110】
3相発電機1bは、例えばタービンに接続される。タービンとしては、小型ガスタービンが挙げられる。タービンが回転すると、タービンのトルクが、3相発電機1bの回転子に伝達される。これにより、回転子にトルクが加わる。つまり、回転子が回転する。回転子の回転によって、電圧が誘起される。3相発電機1bはコンバータ2bに接続されており、そのコンバータ2bは目標3相電圧v
uvw*を参照しているので、誘起電圧は、目標3相電圧v
uvw*に追従する。コンバータ2bはまた、PWM変調によって、誘起電圧を直流電圧に変換する。直流電圧(直流電圧に由来する直流電力)は、電圧出力部4bから出力される。
【0111】
第1の実施形態では、電源(不図示)から供給された電力が、3相モータ1でトルク(回転力)に変換される。これに対し、本実施形態では、3相発電機1bに加えられたトルクが、電力に変換される。両方の場合において、制御の態様は実質的に同じである。従って、モータ制御装置3について説明した事項は、発電機制御装置403にも適用できる。モータ制御装置103,203,303について説明した事項も同様である。ただし、モータ制御装置3,103,203,303の説明を発電機制御装置403の説明に援用する際には、用語の読み替えを行うべきことに留意されたい。このような読み替えは、当業者にとって自明であるため詳細には述べないが、例えば、モータ及びインバータを、発電機及びコンバータに、それぞれ読み替えるべきである。