(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベルトアンカー取り付け部材が、前記サイドフレーム、前記ストリンガー及び前記後部サブストリンガーの3つの部材に跨って掛け渡されている請求項3記載の車両用シート。
前記前部ビームが、最も前寄りに配置される第1前部ビーム、前記第1前部ビームと前記中間ビームとの間に配置される第2前部ビーム、前記第1前部ビーム及び前記第2前部ビームの間であって、前記スライダのアッパーレールの前部付近に連結される第3前部ビームを少なくとも備えた複数本のビーム群からなる請求項6記載の車両用シート。
前記後方パッド部材の両側部にサイドパッド部材が一体に設けられており、前記各サイドパッド部材が、前記各サイドフレームに支持される構成である請求項8記載の車両用シート。
前記前方パッド部材及び後方パッド部材の裏面側に、両者に跨って一体発泡され、前記前方パッド部材の後側隣接部及び前記後方パッド部材の前側隣接部の変位量を規制する変位量規制用布帛が配設されている請求項8記載の車両用シート。
前記下方パッド部材及び上方パッド部材の裏面側に、両者に跨って一体発泡され、前記下方パッド部材の上側隣接部及び前記上方パッド部材の下側隣接部の変位量を規制する変位量規制用布帛が配設されている請求項13記載の車両用シート。
前記各スライダを構成するロアレール及びアッパーレールが、いずれも、所定の弾性を備えた薄板から形成され、所定以上の衝撃力の入力により、縦方向の断面係数が上がるように、前記ロアレール及びアッパーレールの形状が変化し、それにより、前記衝撃力を吸収する構造である請求項17記載の車両用シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、スポーツタイプの自動車は天井高が低く設定されるため、シートのヒップポイントも低く設定される(特許文献1参照)。従って、スポーツタイプの自動車で採用されるシートでは、臀部下を支持するビームを通常のシート(例えばセダンタイプの乗用車に搭載されるシート)と同様に配設すると、ヒップポイントが高くなってしまうため、エネルギー吸収機能を高めるための別の工夫が必要となる。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、ヒップポイントを低く設定することができる一方で高剛性で十分なエネルギー吸収機能を発揮することができ、スポーツタイプの自動車用のシートとして適する車両用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の車両用シートは、シートクッション部及びシートバック部を備えた車両用シートであって、前記シートクッション部は、シートクッション部用クッション部材を支持するクッションフレームを備えてなり、前記クッションフレームを構成する左右のサイドフレームの内側に、エネルギー吸収構造部が配設され、前記エネルギー吸収構造部が、左右に設けられる各スライダのアッパーレールに支持され、前記各サイドフレームの内側に、それぞれ前後方向に沿って配置される左右一対のストリンガーと、前記一対のストリンガーの前部間及び後部間にそれぞれ掛け渡される前部ビーム及び後部ビームとを備えた平面視で略四角形の枠状体であって、いずれか一方の前記ストリンガーにおける前記アッパーレールの後部付近との連結位置と前記後部ビームの連結位置との間に、ベルトアンカー取り付け部材が設けられ、所定以上の衝撃力による前記ベルトアンカー取り付け部材の上方への変位に伴う前記各ストリンガーの変形により前記衝撃力を吸収すると共に、前記各ストリンガーの変形によって、前記ベルトアンカー取り付け部材の配設位置、前記前部ビームの連結位置、並びに、前記アッパーレールの後部付近との連結位置とを結ぶトラスが形成され、このトラスが、少なくとも一時的に前記衝撃力にさらに対抗する構造であることを特徴とする。
【0007】
前記左右一対のストリンガーが、前記各スライダのアッパーレールと前記各サイドフレームとの間において、それぞれ前後方向に沿って配置されると共に、前記各スライダのアッパーレールの内側において、前記各ストリンガーの少なくとも前部付近及び後部付近に対応する位置に、それぞれ前後方向に沿って配置され、前記各アッパーレールの前部付近及び後部付近にそれぞれ連結される左右一対のサブストリンガーを有し、前記前部ビーム及び後部ビームが、前記一対のストリンガーの前部間及び後部間で、前記各サブストリンガーを貫通してそれぞれ掛け渡され、前記ベルトアンカー取り付け部材が、前記各サブストリンガーにおける前記各アッパーレールの後部付近との連結位置と前記後部ビームの連結位置との間における、前記各アッパーレールを介して対向する前記各ストリンガーと前記各サブストリンガーとに跨って両持ち構造となるように貫通配置されていることが好ましい。
前記左右一対のサブストリンガーは、前部サブストリンガー及び後部サブストリンガーを有してなり、前記前部サブストリンガーは、前記アッパーレールの前部付近に連結されると共に、前記前部ビームに連結され、前記後部サブストリンガーは、前記アッパーレールの後部付近に連結されると共に、前記後部ビームに連結され、前記ベルトアンカー取り付け部材が、前記アッパーレールの後部付近との連結位置と前記後部ビームとの連結位置との間であって、前記ストリンガーと前記後部サブストリンガーとに掛け渡されていることが好ましい。
前記ベルトアンカー取り付け部材が、前記サイドフレーム、前記ストリンガー及び前記後部サブストリンガーの3つの部材に跨って掛け渡されていることが好ましい。
前記ストリンガーが、上方向への変形に加えて、幅方向にも変形する構成であることが好ましい。
前記前部ビーム及び後部ビームの間に、幅方向に掛け渡され、前記クッション部材を支持する中間ビームをさらに備え、前記中間ビームが、前記前部ビーム及び後部ビームのいずれの配設位置よりも下方にオフセットされて配設されていることが好ましい。
前記前部ビームが、最も前寄りに配置される第1前部ビーム、前記第1前部ビームと前記中間ビームとの間に配置される第2前部ビーム、前記第1前部ビーム及び前記第2前部ビームの間であって、
前記スライダのアッパーレールの前部付近に連結される第3前部ビームを少なくとも備えた複数本のビーム群からなることが好ましい。
前記シートクッション部用クッション部材は、パッド部材及び前記パッド部材を被覆する表皮材を有して構成されており、前記パッド部材が、設計基準の決定に用いられる人体模型のヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までのいずれかのポイントを境として前方に位置する前方パッド部材と、後方に位置する後方パッド部材とを有してなり、前記中間ビームが、前記前方パッド部材の下方に位置する範囲に設けられ、着座時において、前記前方パッド部材は、前記第2前部ビームを支点として、その後側隣接部が前記中間ビームに当接するまでの間で回転しながら下方に変位し、前記後方パッド部材は、前記後部ビームを支点として、その前側隣接部が回転しながら下方に変位し、その反力が着座者の骨盤相当部に前後方向から支持圧を付与する構成であることが好ましい。
前記後方パッド部材の両側部にサイドパッド部材が一体に設けられており、前記各サイドパッド部材が、前記各サイドフレームに支持される構成であることが好ましい。
前記第2前部ビームは、前記ヒップポイントとニーポイントとを結ぶ直線上の距離で、前記ヒップポイントに対し、120〜180mm前方の範囲に設けられていることが好ましい。
前記第2前部ビームを中心とした前後20〜80mmの範囲における前記前方パッド部材に、他の部位よりも剛性を高める剛性部材が設けられていることが好ましい。
前記前方パッド部材及び後方パッド部材の裏面側に、両者に跨って一体発泡され、前記前方パッド部材の後側隣接部及び前記後方パッド部材の前側隣接部の変位量を規制する変位量規制用布帛が配設されていることが好ましい。
前記シートバック部のバックフレームに支持されるシートバック部用クッション部材は、パッド部材及び前記パッド部材を被覆する表皮材を有して構成されており、前記パッド部材が、設計基準の決定に用いられる人体模型のトルソラインに沿ってヒップポイントから250〜350mmの範囲のいずれかのポイントを境として下方に位置する下方パッド部材と、上方に位置する上方パッド部材とを有してなり、着座時において、
前記下方パッド部材は、前記バックフレームの下部フレームを支点として、その上側隣接部が回転しながら後方に変位し、前記上方パッド部材は、前記バックフレームの上部フレームを支点として、その下側隣接部が回転しながら後方に変位し、それらの反力が着座者の腰椎から胸椎のカーブに沿った支持圧を付与する構成であることが好ましい。
前記下方パッド部材及び上方パッド部材の裏面側に、両者に跨って一体発泡され、前記下方パッド部材の上側隣接部及び前記上方パッド部材の下側隣接部の変位量を規制する変位量規制用布帛が配設されていることが好ましい。
前記シートバック部のバックフレームの左右に配置される両サイドフレーム間には、腰部支持機構を設けることができ、前記腰部支持機構として、所定の長さを有する帯状のゴムと、前記ゴムの少なくとも前面を被覆する帯状布帛とを有し、前記両サイドフレーム間に張設される帯状腰部支持部材からなるものを用いることが好ましい。この場合、前記帯状腰部支持部材を構成する帯状布帛が、三次元立体編物からなり、前記帯状のゴムに縫製により一体化されたものであることがより好ましい。
前記クッションフレームのエネルギー吸収構造部を構成する一対のストリンガーが、左右一対配設されるスライダのアッパーレールに連結されており、設計基準の決定に用いられる人体模型のヒップポイントが前記スライダのロアレールの底面から100〜200mmの範囲となるように設計されていることが好ましい。
前記各スライダを構成するロアレール及びアッパーレールが、いずれも、所定の弾性を備えた薄板から形成され、所定以上の衝撃力の入力により、縦方向の断面係数が上がるように、前記ロアレール及びアッパーレールの形状が変化し、それにより、前記衝撃力を吸収する構造であることが好ましい。
【0008】
前記第3前部ビーム及び後部ビームのいずれか少なくとも一方がトーションバーからなり、前記トーションバーを介して弾性支持された面状支持部材をさらに備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用シートは、クッションフレームに設けられるエネルギー吸収構造部が、前部ビーム及び後部ビームと、それらの間に掛け渡され、サイドフレームとは別途に設けられたストリンガーとを備えた略四角形の枠状体から構成され、ベルトアンカー取り付け部材が、このストリンガーにおける、スライダのアッパーレールの後部付近との連結位置と後部ビームの連結位置との間に設けられた構造である。従って、所定以上の衝撃力が加わると、人体が前方に飛び出す力によってシートベルトに付勢されてベルトアンカー取り付け部材が少なくとも上方に変位し、この変位の間の各ストリンガーが変形して衝撃力を吸収する。その一方、ストリンガーは、衝撃力が加わった場合、上記のような変形をしつつ、ベルトアンカー取り付け部材が配設されている位置が上昇するため、その変位した際の配設位置、前部ビームの連結位置、並びに、スライダのアッパーレールの後部付近との連結位置とを結ぶトラスを形成することになる。すると、このトラス構造が所定の剛性を備えた新たな構造体として機能することになり、加わり続けるさらなる衝撃力に対して、今度はこのトラス構造で耐え、さらなる衝撃力を吸収する。
【0010】
従って、略四角形の枠状体におけるヒップポイントに相当する位置においては、幅方向に掛け渡されるビームを、前部ビームや後部ビームのようにストリンガーの配設高さで掛け渡さなくても、所定の剛性を発揮し、衝撃エネルギーを吸収することができる。そのため、ヒップポイントを低く設定することが可能となり、スポーツタイプの自動車などの車両用シートとして適している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1〜
図2は、本発明の一の実施形態に係る車両用シート1の外観を示した図であり、
図3はその分解斜視図、
図4はセンター断面図である。
【0013】
本実施形態の車両用シート1は、シートクッション部1Aを形成するクッションフレーム10と、シートバック部1Bを形成するバックフレーム30を有し、それらが、リクライニング機構50を介して連結されている。
【0014】
クッションフレーム10は、
図3及び
図6〜
図10に示したように、左右のサイドフレーム11,12と、エネルギー吸収構造部100を有して構成される。左右のサイドフレーム11,12は、本実施形態では、車両用シート1の前縁部からバックフレーム30の下部に至るように延びた金属製の板状体から構成され、軽量化のため、好ましくは厚さ0.5〜1.2mmの薄板材が用いられる。本実施形態の車両用シート1は、スポーツタイプの自動車用のシートとして適するように設計基準位置となるヒップポイント(設計基準を決定する際に用いる人体模型(例えば、JIS D 4607又はISO6549で規定した成人男子の50パーセンタイル人体模型)のヒップポイント(H.P.))の高さ(
図5の符号H1)を低く設定する。好ましくは、ヒップポイントは高さ(スライダ600,610のロアレール602,612の底面からの高さ)H1は、100〜200mmに設定される。サイドフレーム11,12の鉛直方向の高さによってはヒップポイントの高さH1を上記範囲内とすることができなくなるため、リクライニング機構50が配置される部分を除いたサイドフレーム11,12の鉛直方向の高さ(板状体の幅(
図5の符号H2))は20〜100mmの範囲で、ヒップポイントの高さH1未満であることが好ましい。
【0015】
エネルギー吸収構造部100は、左右のサイドフレーム11,12の内側に配設され、一対のストリンガー110,111、前部ビーム、後部ビーム113、中間ビーム114等を有して構成される。なお、本実施形態において、前部ビームは、第1前部ビーム112、第2前部ビーム115、第3前部ビーム116の3本のビーム群から構成される。
【0016】
一対のストリンガー110,111は、サイドフレーム11,12の内側にそれぞれ前後方向に沿って配設されている。各ストリンガー110,111は、サイドフレーム11,12よりも厚く剛性の高い厚さ0.8〜4.0mmの金属板から形成される。
【0017】
第1前部ビーム112は、一対のストリンガー110,111の前部間に掛け渡され、後部ビーム113は、一対のストリンガー110,111の後部間に掛け渡され、いずれもパイプ材からなる。
【0018】
一対のストリンガー110,111の前部付近には、各ストリンガー110,111の内側に位置し、ストリンガー110,111の1/4〜1/6程度の長さを有し、一部が下方に突出する略三角形状の前部サブストリンガー1101,1111が配設される。前部サブストリンガー1101,1111とストリンガー110,111との間には、左右に設けられるスライダ600,610のアッパーレール601,611が位置できるような間隔が設けられ、第1前部ビーム112が、一方側では前部サブストリンガー1101及びストリンガー110を貫通し、他方側では前部サブストリンガー1111及びストリンガー111を貫通して配置される。従って、第1前部ビーム112の各端部付近は、前部サブストリンガー1101とストリンガー110、並びに、前部サブストリンガー1111とストリンガー111により、それぞれ、両持ち支持されることになる。
【0019】
略三角形状の前部サブストリンガー1101,1111は、それぞれの前端付近に設けられ、上記した第1前部ビーム112が貫通する第1貫通孔1101a,1111aと、それぞれの後端付近に設けられる第2貫通孔1101b,1111bと、それらの中間であって下方に突出している部分に設けられる第3貫通孔1101c,1111cとを有している。そして、左右の前部ストリンガー1101,1111の対向する第3貫通孔1101c,1111cを各端部がそれぞれ貫通するように第3前部ビーム116が掛け渡され、第3前部ビーム116の各端部がスライダ600,610のアッパーレール601,611に連結固定される。これにより、一対のストリンガー110,111は、前部サブストリンガー1101,1111を介して、各アッパーレール601,611の前部取付孔601a,611aに連結支持されることになる。また、左右の前部ストリンガー1101,1111の対向する第2貫通孔1101b,1111b間には、それらの間隔を維持して剛性を高めるための第2前部ビーム115が掛け渡されている。従って、前部サブストリンガー1101,1111間には、3本のビーム群からなる前部ビーム112,115,116が掛け渡され、それにより、立体的なトラスが形成されている。この立体的なトラスにより、エネルギー吸収構造部100の前方付近の耐衝撃性を高めている。
【0020】
一方、一対のストリンガー110,111の後部付近には、各ストリンガー110,111の内側に位置する後部サブストリンガー1102,1112が配設されている。後部サブストリンガー1102,1112は、各ストリンガー110,111と略平行に前後方向に延び、ストリンガー110,111の1/4〜1/5程度の長さを有する第1プレート部1102a,1112aと、第1板状部1102a,1112aの前端から下方に延びる第2プレート部1102b,1112bとを備えた略L字状に形成されている。
【0021】
対向配置される一対の第1プレート部1102a,1112aの後部に形成された後部貫通孔1102c,1112cに、上記した後部ビーム113の各端部が貫通配設されると共に、該後部ビーム113の各端部は一対のストリンガー110,111の後部を貫通しており、これにより、該後部ビーム113は、一方側の端部が後部ストリンガー1102及びストリンガー110に、他方側の端部が後部ストリンガー1112及びストリンガー111に両持ち構造で支持されることになる。
【0022】
第1プレート部1102a,1112aと第2プレート部1102b,1112bとの角部がピン部材1102d,1112dによって、スライダ600,610のアッパーレール601,611の後部取付孔601b,611bに連結され、これにより、一対のストリンガー110,111は、後部サブストリンガー1102,1112を介して、各アッパーレール601,611の後部付近に連結支持されることになる。
【0023】
第2プレート部1102b,1112bの対向する各下端部間には、パイプ材からなる中間ビーム114が掛け渡されている。中間ビーム114は、このように、下方に延びる第2プレート部1102b,1112bの各下端部間に配設されていることから、第1前部ビーム112及び後部ビーム113のいずれの配設位置(配設高さ)よりも下方にオフセットされている。また、中間ビーム114は、上記したヒップポイントの直下付近、具体的には、ヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までのいずれかに位置するように設けられる。人の着座時においては、ヒップポイントを中心として荷重がパッド部材にかかることから、着座時の支持感を得るために、この範囲に設けられる。その一方、ヒップポイントを低くする必要があることから、上記のように中間ビーム114は下方にオフセットされている。オフセット量としては、ピン部材1102d,1112dから中間ビーム114までの中心間の長さで50〜150mmの範囲が好ましい。
【0024】
なお、第1前部ビーム112及び後部ビーム113の各端部は、本実施形態では、それぞれ、上記したように、前部サブストリンガー1101,1111及び後部サブストリンガー1102,1112と、ストリンガー110,111とによって両持ち支持されているだけでなく、さらに、サイドフレーム11,12の前部及び後部を厚み方向に貫通して配置され、それにより、略四角形の枠状体として構成されるエネルギー吸収構造部100の剛性をより高めた構造になっている。
【0025】
ここで、後部ビーム113とピン部材1102d,1112dとの間には、シートベルト15(
図6参照)の一端が連結されるベルトアンカーを固定するベルトアンカー取り付け部材(アンカーボルト)117,118が配置される。ベルトアンカー取り付け部材117,118は、サイドフレーム11,12、ストリンガー110,111、及び、後部サブストリンガー1102,1112の第1プレート部1102a,1112aの3つの部材を貫通して取り付けられる。
【0026】
クッションフレーム10には、シートクッション部用クッション部材20が支持される。シートクッション部用クッション部材20は、
図3及び
図4に示したように、パッド部材21と、該パッド部材21を被覆する表皮材22とを有してなる。パッド部材21は、ウレタンフォーム等からなり、さらに前方パッド部材211と後方パッド部材212とを有している。
【0027】
前方パッド部材211は、幅が、対向する前部サブストリンガー1101,1111間に収まり、前後方向の長さが、第1前部ビーム112から中間ビーム114に至るまでの長さを有する平面視で略四角形に形成されている。前方パッド部材211の前縁部211aは、その下面が下方に膨出する形状となっている。そして、前縁部211aの下方に膨出している部位に隣接する段差部211bを第1前部ビーム112上に位置させ、さらに、第2前部ビーム115上を通過して後側隣接部211cが中間ビーム114の上方に位置するように配設される。
【0028】
後方パッド部材212は、後縁部212aの下面が下方に膨出する形状となっており、それに隣接する段差部212bを後部ビーム113上に位置させて配設される。前方パッド部材211と後方パッド部材212は、非着座時の荷重がかかっていない状態(
図4の二点鎖線の状態)では、前方パッド部材211の後側隣接部211cと後方パッド部材212の前側隣接部212cとは、両者が接触する程度か、隙間が生じても僅かとなるように前後方向の長さが設定されている。また、前方パッド部材211の後側隣接部211cが、ヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までのいずれかの位置となるように設定される。なお、中間ビーム114は、上記したようにヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までに設けられるが、その範囲であって、かつ、前方パッド部材211の後側隣接部211cが下方に変位した際に、後側隣接部211cの下面が接することができる範囲に設定される。
【0029】
後方パッド部材212の各側面には、左右のサイドパッド部材213,214の後部が一体に設けられている。すなわち、後方パッド部材212及び左右のサイドパッド部材213,214は、平面視で略コ字状となるように一体成型されている。サイドパッド部材213,214は、上記した一対のストリンガー110,111(前部サブストリンガー1101,1111、後部サブストリンガー1102,1112を含む)とサイドフレーム11,12とを被覆して配設される。
前方パッド部材211と左右のサイドパッド部材213,214とが分割されているため、
図5に示したように、人が着座した際には、左右のサイドパッド部材213,214は、左右方向に圧縮される。すなわち、着座者に対して左右方向から圧縮による反力が作用し、前方パッド部材211とサイドパッド部材213,214とが一体になっている場合のように、斜め上方向の反力が作用しない。従って、臀部に対して斜め下方に位置する後部サブストリンガー1102,1112を異物感として感じにくい構造である。従って、ヒップポイントから各サイドパッド部材213,214までの距離dを通常よりも小さな距離とすることも可能であり、小型、軽量化に貢献できる。
【0030】
なお、第1前部ビーム112と後部ビーム113間には、二次元又は三次元の布帛からなる面状支持部材(図示せず)を掛け渡し、前方パッド部材211及び後方パッド部材212をその上方に配設するようにしてもよい。この場合、面状支持部材は、後述する前方パッド部材211及び後方パッド部材212の動きを妨げないように緩やかに掛け渡すことが好ましい。
【0031】
また、前部サブストリンガー1101,1111の後端付近に設けられる第2貫通孔1101b,1111b間に掛け渡される第2前部ビーム115は、上記した人体模型におけるヒップポイントとニーポイントとを結ぶ直線上の距離で、ヒップポイントに対し、120〜180mm前方の範囲(
図4の符号a)に設けられることが大腿部を支持する上で好ましい。また、大腿部の支持感を高めるために、第2前部ビーム115を中心とした前後20〜80mmの範囲(
図4の符号b)における前方パッド部材211の裏面に、ウレタンフォーム等からなる前方パッド部材211の他の部位よりも剛性を高める剛性部材(フェルトなど)211dを設けることがより好ましい。
【0032】
表皮材22は、前方パッド部材211、後方パッド部材212及びサイドパッド部材213,214を備えてなるパッド部材21を表面側から被覆して固定される。
【0033】
シートバック部1Bを構成するバックフレーム30は、リクライニング機構50を介してその下部がクッションフレーム10の後部に連結されている。
【0034】
バックフレーム30は、
図3、
図4及び
図6〜
図9に示したように、所定間隔をおいて配置される一対のサイドフレーム31,32と、該サイドフレーム31,32の上部間に位置する上部フレーム33と、該サイドフレーム31,32下部間に配置される下部フレーム34とを備えてなる。
【0035】
各サイドフレーム31,32は、薄肉の板状部材を用い、内向きフランジ31a,32aを有する構造とすると共に、下部付近では、内側に板状部材31b,32bを取り付け、それによって形成される空間にリクライニング機構50が配設されるようになっている。
【0036】
上部フレーム33は、両側部33a,33bが各サイドフレーム31,32に連結されると共に、中間部には上方に膨出するように曲成したヘッドレスト支持部33cが一体に設けられている。
【0037】
下部フレーム34は、各サイドフレーム31,32の下部間に配設されるが、本実施形態では、リクライニング機構50の回転軸が下部フレーム34として兼用されている。また、下部フレーム34のやや上方には、サイドフレーム31,32間に両者の間隔を保持し、形状を維持するための補強フレーム35が掛け渡されている。補強フレーム35の前側には、両サイドフレーム31,32間に掛け渡されるバネ部材36aが配設されると共に、このバネ部材36aには所定間隔をおいて2枚の支持プレート36bが取り付けられ、これにより、腰部支持機構36が形成されている。
【0038】
バックフレーム30に支持されるシートバック部用クッション部材40は、パッド部材41と、該パッド部材41を被覆する表皮材42とを有してなる。パッド部材41は、ウレタンフォーム等からなり、さらに下方パッド部材411と上方パッド部材412とを有している。
【0039】
下方パッド部材411は、人の背を支持する支持面部411aと該支持面部411aの下部から後方に突出する突出部411bとを有する断面略L字状に形成され、突出部411bを下部フレーム34と上記後方パッド部材212との間に差し込み、支持面部411aの腰部支持機構36の前面を覆うように配設される(
図4参照)。従って、下方パッド部材411は、腰部支持機構36のバネ部材36aの弾性支持されている。また、下方パッド部材411は、幅が、対向するサイドフレーム31,32間に収まり、上下方向に所定に長さを有している。好ましくは、支持面部411bの上下方向の長さ(下端面411cから上側隣接部411dまでの長さ(
図4の符号c))が、上記した設計基準の決定に用いられる人体模型のトルソラインに沿ってヒップポイントから250〜350mmの範囲となるように設定される。
【0040】
上方パッド部材412は、
図3及び
図4に示したように、本実施形態ではヘッドレスト部を形成するヘッドレスト用パッド部材413と一体に形成されており、ヘッドレスト用パッド部材413を上部フレーム33のヘッドレスト支持部33cに係合して配設される。上方パッド部材412は、人が着座していない状態(
図4の二点鎖線の状態)で、下側隣接部412aが下方パッド部材411の上側隣接部411dと接触する程度か、両者間に僅かな隙間が生じる程度となるように上下方向の長さが設定されている。ヘッドレスト用パッド部材413にはさらに、サイドパッド部材414,415も一体に形成されており、上記したように、ヘッドレスト用パッド部材413によってヘッドレスト支持部33cを被覆し、サイドパッド部材414,415によってサイドフレーム31,32の外面を被覆するようにして配設される。
【0041】
そして、上部パッド部材412,ヘッドレスト用パッド部材413及びサイドパッド部材414,415を覆って表皮材42が配設される。
【0042】
ここで、上記したクッションフレーム10を支持するスライダ600,610は、断面略コ字状のロアレール602,612を有し、このロアレール602,612に、略逆T字型のアッパーレール601,611がスライド可能に配設される(
図12(a)〜(g)参照)。そして、ロック機構603,613によって、アッパーレール601,611をロアレール602,612に対して任意の位置で固定できるものである。本実施形態では、ロック機構603,613が左右のスライダ600,601の両方に設けており、力が左右にバランスよく配分されるようになっている。ロック機構603,613が左右に設けられているため、これを同期して解除するために、両者を共に解除操作できる解除用ロッド620がロック機構603,613間に掛け渡されており、解除用ロッド620を操作することでロック解除できる。
【0043】
ロアレール602,612及びアッパーレール601,611は、共に、所定の弾性を備えた金属製の薄板から形成されている。そのため、所定以上の衝撃力により、ロアレール602,612は、断面略コ字状の底壁部602a,612aと側壁部602b,612bの角部、及び、側壁部602b,612bと上壁部602c,612cの角部が縦方向に伸びるように変形し、さらに、アッパーレール601,611の略逆T字型の横壁部601a,611aが横向きから縦向きとなるように、すなわち縦方向の断面係数が上がるように変形する。この変形により衝撃力を吸収できる。
【0044】
本実施形態の車両用シート1によれば、人が着座すると、シートクッション部1Aにおいては、座骨結節を中心として下方に荷重がかかる。このとき、前方パッド部材211の後側隣接部211cが、第2前部ビーム115を支点として下方に回転する方向に変位し、最も変位する場合で、第1前部ビーム112及び後部ビーム113の配設位置よりも下方にオフセットされた中間ビーム114に該後側隣接部211c付近の下面が当接するまで変位する。また、後方パッド部材212の前側隣接部212cも後部ビーム113を支点として下方に回転する方向に変位する(
図4の実線で示した状態)。それにより、着座時においては、前方パッド部材211及び後方パッド部材212の反力が着座者の骨盤相当部を前後からくさび状に押圧して支持する。また、前方パッド部材211は、上記のように、ヒップポイントに対し、120〜180mm前方の範囲に設けられた第2前部ビーム115を支点として回転し、かつ、その部位の前後20〜80mmの範囲に剛性部材211dが設けられている。このため、大腿部の支持も確実になされ、着座者の骨盤相当部の後転が抑制され、姿勢支持性に優れている。前方パッド部材211の変形の支点となる第2前部ビーム115の配設位置が上記した範囲を逸脱し、よりヒップポイントに近い場合には圧迫感を感じやすく、上記した範囲よりも離間している場合には支持感が乏しくなる。
【0045】
また、着座時において、臀部下付近に位置する中間ビーム114が上記したように下方にオフセットされている。このため、ヒップポイントが所定の高さ以下であっても、上記した前方パッド部材211及び後方パッド部材212の動きにより、所定のストローク感が得られる構造であり、低ヒップポイントであることが要件とされるスポーツタイプの自動車用シートとして好適である。
【0046】
一方、シートバック部1Bにおいては、下方パッド部材411の支持面部411aが腰部支持機構36の弾性によって、着座者の腰部付近を支持すると共に、着座者の体重が後方にかかることで、下部フレーム34を支点として、その上側隣接部411dが回転しながら後方に変位する。同様に、上方パッド部材412の下側隣接部412aが上部フレーム33を支点として回転しながら後方に変位する(
図4の実線で示した状態)。その結果、下方パッド部材411及び上方パッド部材412の支持面部(表面)の形状が、着座者の腰椎から胸椎のカーブに沿った形状となってフィットし、それらの変位に伴う反力が着座者の腰椎から胸椎のカーブに沿って支持圧を付与する。このため、着座者の円滑な呼吸を妨げることのないリラックスした姿勢を維持させやすい。
【0047】
かかる状態において所定以上の衝撃力が加わり、着座者が前方に飛び出ようとすると、シートベルトによってベルトアンカーを介してベルトアンカー取り付け部材117,118が同方向に、すなわち、斜め上前方に引っ張られる。そのため、各ストリンガー110,111は、その力によって、前部サブストリンガー1101,1111と共に固定連結されている第1〜第3前部ビーム112,115,116との連結位置付近を中心として、斜め上方に引き上げられる方向に変形する(
図13(a)の状態から(b)の状態に変形する)。前部サブストリンガー1101,1111間には、3本の第1〜第3前部ビーム112,115,116が掛け渡され、それにより、立体的なトラスが形成されているため、前部サブストリンガー1101,1111付近は変形しにくく、それよりも後方に位置する部位が変形しやすくなっている。また、変形の際には、通常、ストリンガー110,111は、外側に逃げるように広がる方向の変形も加わる(
図13(b)参照)。ストリンガー110,111におけるこのような変形により、付加された衝撃力は吸収されていく。
【0048】
ストリンガー110,111が上記のような変形を生じると、ストリンガー110,111を側方から見た場合に、
図13(b)に示したようにベルトアンカー取り付け部材117,118の配設位置が前部ビーム(本実施形態では第1〜第3前部ビーム112,115,116のいずれか少なくとも一つ)との連結位置に対して上昇した傾斜辺になる。また、ベルトアンカー取り付け部材117,118は、後部サブストリンガー1102,1112の第1プレート部1102a,1112aにおいて、ピン部材1102d,1112dと後部ビーム113の連結位置との間に設けられている。このため、ベルトアンカー取り付け部材117,118が上方に変位すると、後部サブストリンガー1102,1112は、第1プレート部1102a,1112aと第2プレート部1102b,1112bとの角部がピン部材1102d,1112dによってアッパーレール601,611の後部付近に連結されているため、後部サブストリンガー1102,1112は、このピン部材1102d,1112dを中心として、それよりも後部に位置するベルトアンカー取り付け部材117,118が上昇した位置となる傾斜辺になる。
【0049】
これにより、衝撃力を受けて所定の変形をした後は、ベルトアンカー取り付け部材1117,118の配設位置、前部ビーム(本実施形態では第1〜第3前部ビーム112,115,116のいずれか少なくとも一つ)との連結位置、並びに、アッパーレール601,611の後部付近との連結位置とを結ぶトラス(
図13(b)の太い実線で示した大きい三角形)が新たに形成されることになる。このようなトラスが形成されることで、変形後も加わり続ける衝撃力を、今度は、新たに形成されたトラスによって受け、耐えることになる。
【0050】
つまり、本実施形態では、衝撃力を受けた場合に、上記のようなストリンガー110,111を中心として部材の変形によって衝撃力を吸収するが、この際、ベルトアンカー取り付け部材117,118の配設位置が後部サブストリンガー1102,1112におけるピン部材1102d,1112dと後部ビーム113の連結位置との間であり、また、前部サブストリンガー1101,1111と共にストリンガー110,111が前部ビームに強固に取り付けられ(すなわち、前部サブストリンガー1101,1111間に3本のビーム112,115,116が掛け渡され、それにより、立体的なトラス(
図13(b)の太い実線で示した小さい三角形)が予め形成されて変形しにくくなっており)、後部サブストリンガー1102,1112がアッパーレール601,611に連結されていることから、ベルトアンカー取り付け部材117,118を斜め上前方に変位させる所定以上の衝撃力は、上記したトラス(
図13(b)の太い実線で示した大きい三角形)を形成するように変形させる。従って、上記した変形によってトラスが形成された後は、変形によってなお吸収しきれない衝撃力を今度は新たに形成されたトラスで耐えて吸収するという多段階のエネルギー吸収構造部100となっている。すなわち、衝撃力が入力された後のエネルギー吸収構造部100の上記した変形により、衝撃力が入力された後におけるクッションフレーム10が、通常の使用状態におけるクッションフレーム10とほぼ同等か若しくはそれ以上の剛性を発揮できる構造である。
【0051】
また、上記したように、本実施形態では、スライダ600,610として弾性を有する素材を用いている。そのため、衝撃力を受けた際には、縦方向断面係数が上昇するような変形を生じ、これによっても衝撃力を吸収することができる。
【0052】
本実施形態の車両用シート1は、スポーツタイプの自動車用として要求されるヒップポイントの低い構造であり、そのため、クッションフレーム10の臀部下付近に配設されるビーム本数が少なく、かつ、下方にオフセットさせた中間ビーム114しか有していない。すなわち、ビームを多数配設しての強度を向上させたものではないが、上記したエネルギー吸収構造部100の衝撃吸収メカニズムにより、ビーム本数が少ないながらも所定の衝撃吸収力を得ることができる。
【0053】
上記実施形態では、クッションフレーム10のサイドフレーム11,12として、バックフレーム30の下部から車両用シート1の前縁部に相当する位置まで延びるものを使用しているが、上記したようなエネルギー吸収構造部100を採用した場合には、さらなる軽量化と低コスト化を図るため、
図14及び
図15に示したように、サイドフレーム11A,12Aとしてバックフレーム30の下部から車両用シート1の前後方向中間付近までの長さしかないものとすることも可能である。すなわち、後部ビーム113及びベルトアンカー取り付け部材117,118を取り付けられる程度の長さのものである。なお、
図14及び
図15において、上記実施形態と同じ部材は同じ符号で示している。
【0054】
(試験例1)
図1〜
図12に示した、クッションフレーム10のサイドフレーム11,12が、車両用シート1の前縁部に相当する位置まで延びたもの(図中「一体フレーム」と表示)と、
図14及び
図15に示した、車両用シート1の前後方向中間付近までの長さしかないもの(図中「分割フレーム」と表示)について、後方モーメント強度の解析試験を行った。その結果を
図16に示す。後方モーメント強度は、シーティングリファレンスポイント(ヒップポイント)回りにバックパンを用いて負荷をかけることにより試験した。
【0055】
その結果、「一体フレーム」、「分割フレーム」のいずれも規定負荷を大幅に上回る結果であった。但し、「分割フレーム」のサイドフレーム11A,12Aが、「一体フレーム」のサイドフレーム11,12よりも短いため、両者を比較すると「一体フレーム」の後方モーメント強度の方が高かった。
また、「一体フレーム」では横軸の移動量45〜50mm付近で、「分割フレーム」では移動量55〜60mm付近で、グラフの傾きがそれらの手前よりも小さくなっている。これは、負荷トルクの上昇によってストリンガー110,111を含むエネルギー吸収構造部100に変形が生じたことを示すが、負荷トルクがさらに上昇すると、再びグラフの傾きが大きくなる。これは、ストリンガー110,111を含むエネルギー吸収構造部100において変形後のトラスが形成されて負荷トルクに耐えることを示している。なお、
図13は、前面衝突時におけるストリンガー110,111を含むエネルギー吸収構造部100の変形挙動を示しているが、後面衝突を想定した本試験例の場合には、後方モーメントがストリンガー110,111等を介して前側に伝達され、第1〜第3前部ビーム112,115,116側が上昇すると共に、スライダ600,610のロアレール602,612も縦方向に延びるような変形を生じる。従って、
図13の太い実線で示した大きな三角形とは線対称に近い三角形となるトラスが形成され、高い後方モーメント強度を発揮できる。
すなわち、本実施形態によれば、前面衝突時だけでなく、後面衝突時においてもエネルギー吸収構造部100の変形と、変形後に形成される新たなトラス構造によって、高い衝撃吸収能力を発揮できる構造である。
【0056】
また、
図16のグラフのうち、「一体フレーム(ストリンガー廃止)」と表示したものは、
図1〜
図12に示した車両用シート(一体フレーム)のエネルギー吸収構造部100の中から、
図17及び
図18に示したように、ストリンガー110,111、後部サブストリンガー1102,1112、中間ビーム114、第2前部ビーム115を廃止したフレーム構造を用いたものについて行った後方モーメント強度の試験結果である。なお、その他は
図1〜
図12に示した車両用シート(一体フレーム)と全く同様の構造としている。
図17及び
図18に示したフレーム構造を用いた「一体フレーム(ストリンガー廃止)」は、
図1〜
図12に示したストリンガー110,111を含むエネルギー吸収構造部100を有する車両用シート(図中、「一体フレーム」と表示)、並びに、
図13〜
図14に示した「分割フレーム」のいずれと比較しても、後方モーメント強度がそれらの半分程度であり、エネルギー吸収構造部100を構成するストリンガー110,111が剛性を高めるのに大きく寄与していることがわかる。
【0057】
(試験例2)
図1〜
図12に示した実施形態に係る車両用シート1のクッションフレーム10に、左右方向に衝撃入力を行って測定点に取り付けた加速度ピックアップの出力を用いて周波数解析を行い、クッションフレーム10の横方向の剛性を調べた。その結果を
図19に示す。
図19において、「AD2スポーツ」と表記したものが上記実施形態に係る車両用シート1の解析結果である。比較のため、上記実施形態に係る車両用シートのようなエネルギー吸収構造部を設けずに、左右のサイドフレーム間に掛け渡されるビームの配設数を増したもの(AD2)、クッションパン上にウレタンフォームを配置した構造のセダン系の一般的な自動車用シート(従来品)、鉄系フレームによって形成したスポーツタイプのシート(鉄系)、カーボン系フレームからなるスポーツタイプのシート(カーボン系)についても、入力点及び測定点を同様の位置に設定して測定した。
【0058】
図19から明らかなように、本実施形態の「AD2スポーツ」は、振動伝達率が極めて低く、剛性の高いものであった。
【0059】
図20〜
図24は、本発明のさらに他の実施形態を示している。この実施形態では、前部サブストリンガー1101,1111を貫通してスライダ600,610のアッパーレール601,611の前部付近に連結される上記実施形態の第3前部ビーム116及び後部ビーム113に代えて、トーションバーを採用している。すなわち、第3前部ビーム116が掛け渡されている位置に前部トーションバー116Aを、後部ビーム113が掛け渡されている位置に後部トーションバー113Aを配設したものである。
【0060】
前部トーションバー116A(第3前部ビーム116に相当)には、それぞれ幅方向に離間して斜め上前方に突出するブラケット116B,116Bが設けられ、このブラケット116B,116B間に、第1前部ビーム112Aが掛け渡されている。なお、本実施形態では、第1前部ビーム112Aの両端部が前部サブストリンガー1101,1111の第1貫通孔1101a,1111aには挿通されていないため、これに代えて、第1貫通孔1101a,1111aと、サイドフレーム11,12の前端部とに跨って貫通する固定部材112C,112Cが設けられる。
【0061】
後部トーションバー113A(後部ビーム113に相当)には、それぞれ幅方向に離間して斜め前下方に突出するブラケット113B,113Bが設けられ、このブラケット113B,113B間に、後部支持フレーム113Cが掛け渡されている。
【0062】
第1前部ビーム112A及び後部支持フレーム113C間には、それぞれ、断面略U字状の係合部材112B及び113Dが取り付けられており、この係合部材112B及び113Dにパッド部材21の下面を支持する面状支持部材150の各端部が係合されて配設される。なお、面状支持部材150は、好ましくは二次元又は三次元の布帛からなる。布帛の種類は限定されるものではなく、織物、編物、不織布のいずれも含み、例えば、二次元の布やネット状のもの、三次元立体編物、あるいは、それらに弾性糸を少なくとも一部に含む伸縮性の高めたもの等を用いることができる。そして、パッド部材21を構成する前方パッド部材211及び後方パッド部材212は、上記した面状支持部材150上に配置され、その表面が表皮材22により被覆される。
【0063】
本実施形態によれば、パッド部材21が、前部トーションバー116A及び後部トーションバー113Aにより弾性支持された面状支持部材150上に配置されているため、前部トーションバー116A及び後部トーションバー113Aを中心とした前後方向の回転運動が行われる構造である。従って、走行中に路面から入力される振動を、この回転運動によって効率よく吸収することができる。このように、前部トーションバー116A及び後部トーションバー113Aを設けた場合には、これらの弾性による振動吸収機能を作用させることができるため、パッド部材21としてはより厚みの薄いものを用いることができ。ウレタンフォームに代えて三次元立体編物をパッド部材として用いることも可能である。その他の構成は上記実施形態と同様であり、所定以上の衝撃力を受けた場合に、エネルギー吸収構造部100が変形して新たなトラス構造を形成し、さらなる衝撃力に耐えることができることも同様である。
【0064】
なお、本実施形態のように、前部及び後部の両方にトーションバー116A,113Aを採用するのではなく、いずれか少なくとも一方をトーションバーとしてもよい。但し、振動吸収性の点では、本実施形態のように前部及び後部の両方にトーションバー116A,113Aを採用する構成とすることが好ましい。
【0065】
図25及び
図26は、本発明のさらに他の実施形態を示した図である。本実施形態では、シートクッション部用クッション部材20のパッド部材21を構成する前方パッド部材211と後方パッド部材212とに跨って、及び、シートバック部用クッション部材40のパッド部材41を構成する下方パッド部材411と上方パッド部材412とに跨って、それぞれ、裏面側に変位量規制用布帛(二次元の布やネット、あるいは三次元立体編物等)250,450を一体発泡したものである。
【0066】
変位量規制用布帛250,450は、無負荷時において、前方パッド部材211と後方パッド部材212との間、あるいは、下方パッド部材411と上方パッド部材412との間で、それぞれ、弛み部250a,450aが生じるように設ける(
図26の二点鎖線)。これにより、人が着座すると、前方パッド部材211の後側隣接部211cと後方パッド部材212の前側隣接部212cが下方に動き、あるいは、下方パッド部材411の上側隣接部411d及び上方パッド部材412の下側隣接部412aが後方に動く。すると、一体発泡された変位量規制用布帛250,450の弛み部250a,450aが伸び、
図26の実線の位置となる。これにより、前方パッド部材211の後側隣接部211cと後方パッド部材212の前側隣接部212cの下方への変位量、下方パッド部材411の上側隣接部411d及び上方パッド部材412の下側隣接部412aの後方への変位量をそれぞれ規制できる。また、弛み部250a,450aの弛み長さ、一体発泡する布帛の素材の選択(弾性の高いもの、低いもの等)等を調整することにより、各隣接部の下方又は後方への変位量を調整し、ストローク感、フィット感の調整を行うこともできる。
【0067】
図25及び
図26では、変位量規制用布帛250,450を前方パッド部材211と後方パッド部材212との境界付近、あるいは、下方パッド部材411と上方パッド部材412との境界付近に配設しているのみであるが、
図27及び
図28のように、より広い面積でパッド部材21,41と一体発泡するようにしてもよい。変位量規制用布帛250,450の面積を変えることで、パッド部材21,41のストローク感等の調整もできる。また、
図27及び
図28に示したように、シートクッション部用クッション部材20側に配置した変位量規制用布帛250に、第2前部ビーム115の下面に設ける剛性部材(フェルトなど)211dを予め縫製などにより一体化しておき、その状態で、両者をパッド部材21に一体発泡する構成とすることもできる。これにより、製造工程の簡略化を図ることができる。なお、変位量規制用布帛250,450は、
図25〜
図28に示したように、シートクッション部側とシートバック部側の両方に設けているが、いずれか一方のみとすることももちろん可能である。
【0068】
図29及び
図30は、シートバック部に設けた変位量規制用布帛450の下方の腰部対応位置に設けられる腰部支持機構として、帯状腰部支持部材360を用いた実施形態を示している。上記実施形態では、
図4、
図6、
図9及び
図15等に示したように、腰部支持機構36として、バックフレーム30のサイドフレーム31,32間に掛け渡されるバネ部材(金属製のSバネ)36aと所定間隔をおいて設けられる2枚の支持プレート36bとからなるものを用いている。金属製のSバネからなるバネ部材36aだけでなく所定面積の合成樹脂製の支持プレート36bを併用しているため、Sバネのみからなる一般的な構造と比較すれば、
図4等に示した腰部支持機構36も腰部の支持面積が大きく好ましいが、
図29及び
図30に示した帯状腰部支持部材360を用いると、さらなる着座フィーリングの向上に寄与できる。
【0069】
すなわち、この帯状腰部支持部材360は、所定の長さと幅を有する帯状のゴム361と帯状布帛362との組み合わせからなる。帯状のゴム361は、バックフレーム30のサイドフレーム31,32間に跨る長さを有している。帯状布帛362は、所定の弾性を有する布帛、好ましくは三次元立体編物から形成され、
図30(b)に示したように、ゴム361よりも長く、ループ状に形成され、サイドフレーム31,32間に掛け回すことができる長さを有している。
【0070】
帯状布帛362は、ゴム361の少なくとも前面を被覆している。具体的には、
図30(a)に示したように、ゴム361の前面を被覆して裏面側の一部に積層するようにゴム361の幅方向に巻き付けられており、重なり合った範囲で糸363により縫製されて一体化されている。
【0071】
図29及び
図30に示した帯状のゴム361及び帯状布帛362より構成される帯状腰部支持部材360は、金属などの硬質の部材を用いずに、ゴム361及び帯状布帛362の両者の弾性の作用によって腰部を支持できるため、腰部をシートバック部に押し付けた際の異物感が少ない。また、帯状のゴム361及び帯状布帛362がいずれも所定幅(例えば5〜12cm程度)で、サイドフレーム31,32間に掛け渡されているため、腰部の支持面積が上記実施形態よりもさらに大きく、局部的な当たり感がより小さく、支持性に優れている。また、腰部を左右に動かした場合でも、確実に腰部支持機能を果たすことができる。従って、特に、トラックやバスの運転席など、長距離運行のケースが多い座席の腰部支持機構として適している。さらに、帯状であるため、サイドフレーム31,32間に掛け回すだけで配置でき、組み込み作業も容易である。