(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の排気通路に装着される排気ガス浄化用の触媒の上流側の空燃比が変動してから下流側の空燃比が変動するまでの間の経過時間を計測することを通じて、触媒の酸素吸蔵能力を推測するダイアグノーシスを実施するものであって、
少なくとも気筒に充填される新気の量が上限値以下であることを前記ダイアグノーシスの実行開始条件としており、
排気通路から吸気通路に排気ガスを還流させるEGR中にダイアグノーシスを実行しようとする場合、EGRを停止するとともに、その停止直前のEGRガス量からEGRを停止することにより増加する新気の量を推算して、その増加量分だけ前記上限値を嵩上げして前記ダイアグノーシスの実行開始の可否を判断する内燃機関の制御装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関の排気通路には、内燃機関の気筒から排出される排気ガス中に含まれる有害物質HC、CO、NO
xを酸化/還元して無害化する三元触媒が装着されている。
【0003】
触媒の酸素吸蔵能力(OSC:O
2 Storage Capacity)は、経年劣化により減退する。触媒による排気ガスの浄化率は、触媒内に吸着できる酸素量に依存する。触媒の劣化が進行すると、排出される有害物質の量も増大する。一方で、触媒の劣化は、車両自体の運転性能にはほとんど影響を与えない。それ故、異常な排出ガス車が長期間、無意識に使用され続けるおそれがある。
【0004】
そのような事象に対処するべく、触媒の経年劣化の度合いを自己診断するダイアグノーシス機能を車両に実装することが通例となっている(例えば、下記特許文献を参照)。具体的には、触媒から酸素を完全に放出した状態で、触媒に流入するガスの空燃比を強制的にリーンに操作し、触媒上流の空燃比センサの出力信号がリーンに切り替わってから触媒下流の空燃比センサの出力信号がリーンに切り替わるまでの間の経過時間を計測することにより、現在触媒に吸蔵している酸素量を推算する。下流側センサ出力がリーンに反転した瞬間の酸素吸蔵量が、当該触媒の最大酸素吸蔵能力となる。
【0005】
また、触媒に酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵した状態で、触媒に流入するガスの空燃比を強制的にリッチに操作し、上流側センサ出力がリーンに切り替わってから下流側センサ出力がリッチに切り替わるまでの間の経過時間を計測することにより、触媒が放出した酸素の量、即ち酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵した状態を基準とした酸素吸蔵量を推算することもできる。下流側センサ出力がリッチに反転した瞬間の酸素吸蔵量が、当該触媒の最大酸素放出能力、換言すれば最大酸素吸蔵能力ということになる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0016】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0017】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させたことで生じる排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0018】
排気通路4における触媒41の上流及び下流には、排気通路を流通する排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ43、44を設置する。空燃比センサ43、44はそれぞれ、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO
2センサであってもよく、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよい。本実施形態では、触媒41の上流側及び下流側の各空燃比センサ43、44について、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力するO
2センサを想定している。O
2センサ43、44の出力特性は、理論空燃比近傍の範囲では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比が大きいリーン領域では低位飽和値に漸近し、空燃比が小さいリッチ領域では高位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。
【0019】
本実施形態の内燃機関には、外部EGR装置2が付帯している。EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものであり、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通するEGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク33に接続している。
【0020】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0021】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、触媒41の上流側における排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ43から出力される空燃比信号f、触媒41の下流側における排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ44から出力される空燃比信号g、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号h等が入力される。
【0022】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0023】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、要求EGR量(または、EGR率)等といった運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0024】
また、ECU0は、触媒41の最大酸素吸蔵能力を推定するとともに、推定した最大酸素吸蔵能力値を劣化判定値と比較して、当該触媒41が正常であるか異常であるかを判定するダイアグノーシスを行う。
【0025】
触媒41の酸素吸蔵能力は既知の任意の手法を採用して推算することができるが、ここではその一典型例を示す。内燃機関の気筒1に空燃比リーンの混合気を供給して触媒41の酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵している状態から、気筒1に供給する混合気を意図的に空燃比リッチに操作するアクティブ制御を実行する。すると、フロントO
2センサ43の出力信号fは即座に空燃比リッチを示す。これに対し、リアO
2センサ44の出力信号gは、フロントO
2センサ43の出力信号fに遅れて空燃比リッチを示す。フロントO
2センサ43の出力信号fが空燃比リッチを示してから(または、混合気を空燃比リッチに操作してから)リアO
2センサ44の出力信号gが空燃比リッチを示すまでの間、触媒41に吸蔵していた酸素が放出されて酸素の不足が補われるためである。
【0026】
フロントO
2センサ43の出力信号fが空燃比リッチを示してから、リアO
2センサ44の出力信号gが空燃比リッチを示すまでの間に経過した時間をT
Rとおき、このT
Rの間に供給した燃料の総重量をG
F、理論空燃比とリッチ時の空燃比との差分をΔA/F
Rとおくと、T
Rの間に触媒41中で不足した酸素量は、
(α・ΔA/F
R・G
F)
となる。αは、空気中に占める酸素の重量割合(≒0.23)である。
【0027】
上式は、T
Rの時点までに触媒41が放出した酸素の量を表している。供給した燃料の総重量G
Fは、ECU0において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリッチな(14.6よりも小さい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数(エンジン回転数に比例)を乗じれば、単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間T
Rを乗じれば、供給した燃料の総重量G
Fとなる。要するに、リアO
2センサ44の出力信号gが空燃比リッチを示した時点での経過時間T
Rに基づいて、触媒41の最大酸素放出能力を算出することが可能である。この最大酸素放出能力は、最大酸素吸蔵能力と同義である。
【0028】
あるいは、内燃機関の気筒1に空燃比リッチの混合気を供給して触媒41に酸素を全く吸蔵していない状態から、気筒1に供給する混合気を意図的に空燃比リーンに操作するアクティブ制御を実行する。すると、フロントO
2センサ43の出力信号fは即座に空燃比リーンを示す。これに対し、リアO
2センサ44の出力信号gは、フロントO
2センサ43の出力信号fに遅れて空燃比リーンを示す。フロントO
2センサ43の出力信号fが空燃比リーンを示してから(または、混合気を空燃比リーンに操作してから)リアO
2センサ44の出力信号gが空燃比リーンを示すまでの間、過剰な酸素が触媒41に吸着するためである。
【0029】
フロントO
2センサ43の出力信号fが空燃比リーンを示してから、リアO
2センサ44の出力信号gが空燃比リーンを示すまでの間に経過した時間をT
Lとおき、このT
Lの間に供給した燃料の総重量をG
F、リーン時の空燃比と理論空燃比との差分をΔA/F
Lとおくと、T
Lの間に触媒41中で過剰となった酸素量は、
(α・ΔA/F
L・G
F)
となる。
【0030】
上式は、T
Lの時点で触媒41が吸蔵している酸素の量を表している。供給した燃料の総重量G
Fはやはり、ECU0において演算することができる。即ち、一回の燃料噴射機会における燃料噴射量は、空燃比を理論空燃比よりもリーンな(14.6よりも大きい)所定値とするために必要な量であり、その噴射量に単位時間当たりの膨張行程回数を乗じれば単位時間当たりの燃料供給量となる。そして、単位時間当たりの燃料供給量に経過時間T
Lを乗じれば、供給した燃料の総重量G
Fとなる。要するに、リアO
2センサ44の出力信号が空燃比リーンを示した時点での経過時間T
Lに基づいて、触媒41の最大酸素吸蔵能力を算出することが可能である。
【0031】
図2に示しているように、アクティブ制御では、リアO
2センサ44の出力電圧gが所定のリッチ判定値に到達した、即ち出力gがリーンからリッチへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリーン側の所定空燃比に設定し、フロントO
2センサ43の出力電圧fが当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒41に流入するガスの空燃比を強制的にリーン化する。そして、フロントO
2センサ43の出力電圧fが前記制御目標に対応した値に到達してから、リアO
2センサ44の出力電圧gが所定のリーン判定値に到達するまでの間の経過時間T
L、即ち出力gが再度リーンへと切り替わるまでの経過時間T
Lを計測する。リッチ判定値とリーン判定値とは、相異なる値であってもよく、同一の値であってもよい。
【0032】
並びに、リアO
2センサ44の出力gがリッチからリーンへと切り替わったタイミングで、制御目標空燃比をリッチ側の所定空燃比に設定し、フロントO
2センサ43の出力電圧fが当該制御目標に対応した値をとるように燃料噴射量を補正する。これにより、触媒41に流入するガスの空燃比を強制的にリッチ化する。そして、フロントO
2センサ43の出力電圧fが前記制御目標に対応した値に到達してから、リアO
2センサ44の出力電圧gが所定のリーン判定値に到達するまでの間の経過時間T
R、即ち出力gが再度リッチへと切り替わるまでの経過時間T
Rを計測する。
【0033】
ECU0は、酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵していた触媒41がその酸素の全てを放出するのに要した時間T
R、及び、酸素を吸蔵していない触媒41が酸素吸蔵能力一杯まで酸素を吸蔵するのに要した時間T
Lをそれぞれ一回以上計測し、計測したT
R、T
Lを基に最大酸素吸蔵能力(α・ΔA/F
R・G
F)、(α・ΔA/F
L・G
F)を算出して、それらの平均値を求める。
【0034】
しかる後、ECU0は、算出した上記の最大酸素吸蔵能力の平均値を劣化判定値と比較し、その値が劣化判定値を下回っているならば、触媒41が異常である旨の情報をRAMに書き込み記録するとともに、運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で報知、例えばコックピット内のエンジンチェックランプを点灯させて、触媒41の点検及び交換を促す。
【0035】
以上に述べた触媒41のダイアグノーシスは、触媒41の劣化の兆候を感知したことを契機として実施する。その兆候の例としては、内燃機関の運転中に刻々と変動するリアO
2センサ44の出力電圧gの振動の周波数が閾値よりも高く(または、振動の周期が閾値よりも短く)なったことや、フロントO
2センサ43の出力電圧fの変動とリアO
2センサ44の出力電圧gの変動との時間差が閾値よりも短くなったこと等が挙げられる。
【0036】
触媒41のダイアグノーシスを目的とするアクティブ制御を実行開始するためには、少なくとも、気筒1に充填される新気の量が上限値以下であることを必要とする。ECU0は、アクティブ制御を実行するにあたり、EGRバルブ23を全閉してEGRを停止する。
【0037】
その上で、本実施形態のECU0は、EGRの停止直前のEGRガス量から、EGRを停止することにより増加する新気の量を推算し、その増加量分だけ前記上限値を嵩上げして、アクティブ制御の実行を開始するか否かの判断を下す。つまり、アクティブ制御の実行の可否の判断の基準となる上限値が、その実行開始前にEGRを行っていたか、行っていなかったかによって変化する。
【0038】
EGRの停止直前における、気筒1に充填される吸気に占めるEGRガス量(または、その割合であるEGR率)は、気筒1に充填される吸気中のEGRガスの分圧から把握される。EGRガスの分圧は、内燃機関の適合(試験)時に、EGRを実行したときと実行しないときとのそれぞれのサージタンク33内吸気圧を計測し、両者の差をとることで求められる。ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域[エンジン回転数,要求負荷(または、吸気圧、吸気量)]、吸気温及びEGRバルブ23の開度等と、これに対応するEGRガス分圧との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、EGRの停止直前における運転領域、吸気温及びEGRバルブ23開度等をキーとして当該マップを検索して、そのときのEGRガス分圧を知得する。
【0039】
しかして、ECU0は、EGRガス分圧の大きさに比例した量の新気が、EGRの停止によって気筒1に流入するようになるとの推定の下、この新気量の増加分を以て上限値を嵩上げする。即ち、
図3に示しているように、EGRを実行していない場合における上限値に、新気量の増加分を加算して新たな上限値とする。なお、
図3中、上限値を一点鎖線にて表している。そして、EGRの停止後において、気筒1に充填される吸気量の推算値(≒新気量)と、嵩上げされた新たな上限値とを比較する。前者が後者以下であるならば、アクティブ制御の実行を開始する。アクティブ制御中、EGRは停止したままとする。
【0040】
翻って、前者が後者を上回るならば、アクティブ制御の実行を開始せず、可及的速やかにEGRを再開する。
【0041】
本実施形態では、内燃機関の排気通路4に装着される排気ガス浄化用の触媒41の上流側の空燃比が変動してから下流側の空燃比が変動するまでの間の経過時間T
R、T
Lを計測することを通じて、触媒41の酸素吸蔵能力を推測するダイアグノーシスを実施するものであって、少なくとも気筒1に充填される新気の量が上限値以下であることを前記ダイアグノーシスの実行開始条件としており、排気通路4から吸気通路3に排気ガスを還流させるEGR中にダイアグノーシスを実行しようとする場合、EGRを停止するとともに、その停止直前のEGRガス量からEGRを停止することにより増加する新気の量を推算して、その増加量分だけ前記上限値を嵩上げして前記ダイアグノーシスの実行開始の可否を判断する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0042】
本実施形態によれば、EGR装置2が付帯した内燃機関について、触媒41のダイアグノーシスの実行機会を確保でき、触媒41の劣化を適時に検出できるようになる。加えて、EGRの停止と再開とが繰り返されることも防止され、ドライバビリティの悪化を招かずに済む。
【0043】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態には限られない。各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。