特許第6166739号(P6166739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6166739女性性的機能不全の治療における薬学的製剤およびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166739
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】女性性的機能不全の治療における薬学的製剤およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20170710BHJP
   A61K 31/568 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 31/53 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20170710BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20170710BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K31/568
   A61K31/53
   A61K31/519
   A61K31/4985
   A61K47/40
   A61K9/48
   A61P15/00
【請求項の数】30
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-8375(P2015-8375)
(22)【出願日】2015年1月20日
(62)【分割の表示】特願2013-108887(P2013-108887)の分割
【原出願日】2005年5月11日
(65)【公開番号】特開2015-71650(P2015-71650A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2015年2月18日
(31)【優先権主張番号】04076402.9
(32)【優先日】2004年5月11日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】04078033.0
(32)【優先日】2004年11月4日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】04078380.5
(32)【優先日】2004年12月13日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】04078381.3
(32)【優先日】2004年12月13日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】04078455.5
(32)【優先日】2004年12月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515113190
【氏名又は名称】イービー アイピー ライブリド ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】トゥイテン ジャン ヨハン アドリアーン
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−530304(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/037262(WO,A1)
【文献】 Sipski ML, et al.,Sildenafil effects on sexual and cardiovascular responses in women with spinal cord injury,Urology,2000年,Vol.55, No.6,p.812-815
【文献】 Arch Gen Psychiatry,2000年,Vol.57,pp.149-53
【文献】 倉科 和子,バイアグラ錠,ファルマシア,1999年,第35巻,第8号,p.820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00−45/08
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
医中誌WEB
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDE5-阻害剤が経口で、およびテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが舌下で、女性性的機能不全を患う患者に、同時にまたは別々に投与されるように用いられることにより膣パルス振幅(VPA)の増加がもたらされることを特徴とする、PDE5-阻害剤、およびテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンを組み合わせてなる女性性的機能不全治療剤。
【請求項2】
該患者において、少なくとも0.010 nmol/lでの遊離型テストステロンの血液循環におけるピークレベルを提供するように、テストステロンの前駆体が該患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
テストステロン前駆体が、シクロデキストリンと共に製剤化されていることを特徴とする、請求項2記載の治療剤。
【請求項4】
シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンである、請求項3記載の治療剤。
【請求項5】
テストステロン前駆体またはジヒドロテストステロンが、投与後すぐの120秒の時間間隔以内に本質的に全てのテストステロン前駆体またはジヒドロテストステロンを放出するように製剤化されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項6】
テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンを含む薬学的組成物が舌下で、およびPDE-5阻害剤を含む薬学的組成物が経口で、該患者に別々に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項7】
テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが舌下で、およびPDE-5阻害剤が経口で、該患者に同時に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項8】
テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロン、およびPDE-5阻害剤がそれぞれ異なる放出特性を有するように製剤化されている一つのカプセルまたは製剤が該患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項7記載の治療剤。
【請求項9】
少なくとも0.3 mgのテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンおよび多くとも2.5 mgのテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが該患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項10】
PDE5-阻害剤が、少なくとも5 mgおよび多くとも20 mgの量で存在するバルデナフィルである、請求項1〜9のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項11】
PDE5-阻害剤が、少なくとも25 mgおよび多くとも100 mgの量で存在するシルデナフィルである、請求項1〜9のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項12】
PDE5-阻害剤が、少なくとも5 mgおよび多くとも20 mgの量で存在するタダラフィルである、請求項1〜9のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項13】
SHBG結合に対してテストステロンと競合する化合物と組み合わせて用いられることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項14】
ストステロンの前駆体が、性的活動より、3.5〜5.5時間に該前駆体がテストステロンに変換されるに要する時間を加えた時間先行して、該患者において放出され、かつPDE-5阻害剤が、性的活動に1〜2時間先行して該患者において放出されるように用いられるか、またはジヒドロテストステロンが、性的活動より、3〜5時間先行して、該患者において放出され、かつPDE-5阻害剤が、性的活動に1〜2時間先行して該患者において放出されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項15】
テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンを含む薬学的組成物およびPDE5-阻害剤を含む薬学的組成物を含むキットとして提供されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項記載の治療剤。
【請求項16】
女性性的機能不全治療剤の調製における、PDE5-阻害剤、およびテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンとの組み合わせの使用:
ここで、該治療剤は、PDE5-阻害剤が経口で、およびテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが舌下で、女性性的機能不全を患う患者に、同時にまたは別々に投与されるように用いられることにより膣パルス振幅(VPA)の増加がもたらされることを特徴とする。
【請求項17】
該治療剤が、該患者において、少なくとも0.010 nmol/lでの遊離型テストステロンの血液循環におけるピークレベルを提供するように、テストステロンの前駆体が該患者に投与されるように用いられることを特徴とする治療剤である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
テストステロン前駆体が、シクロデキストリンと共に製剤化されていることを特徴とする、請求項17記載の使用。
【請求項19】
シクロデキストリンが、ヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンである、請求項18記載の使用。
【請求項20】
テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが、投与後すぐの120秒の時間間隔以内に本質的に全てのテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンを放出するように製剤化されていることを特徴とする、請求項1619のいずれか一項記載の使用。
【請求項21】
該治療剤が、テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンを含む薬学的組成物が舌下で、およびPDE-5阻害剤を含む薬学的組成物が経口で、該患者に別々に投与されるように用いられることを特徴とする治療剤である、請求項1620のいずれか一項記載の使用。
【請求項22】
該治療剤が、テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが舌下で、およびPDE-5阻害剤が経口で、該患者に同時に投与されるように用いられることを特徴とする治療剤である、請求項1620のいずれか一項記載の使用。
【請求項23】
該治療剤が、テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロン、およびPDE-5阻害剤がそれぞれ異なる放出特性を有するように製剤化されている一つのカプセルまたは製剤が該患者に投与されるように用いられることを特徴とする治療剤である、請求項22記載の使用。
【請求項24】
該治療剤が、少なくとも0.3 mgのテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンおよび多くとも2.5 mgのテストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンが該患者に投与されるように用いられることを特徴とする治療剤である、請求項1623のいずれか一項記載の使用。
【請求項25】
PDE5-阻害剤が、少なくとも5 mgおよび多くとも20 mgの量で存在するバルデナフィルである、請求項1624のいずれか一項記載の使用。
【請求項26】
PDE5-阻害剤が、少なくとも25 mgおよび多くとも100 mgの量で存在するシルデナフィルである、請求項1624のいずれか一項記載の使用。
【請求項27】
PDE5-阻害剤が、少なくとも5 mgおよび多くとも20 mgの量で存在するタダラフィルである、請求項1624のいずれか一項記載の使用。
【請求項28】
該治療剤が、SHBG結合に対してテストステロンと競合する化合物と組み合わせて用いられることを特徴とする治療剤である、請求項1627のいずれか一項記載の使用。
【請求項29】
該治療剤が、ストステロンの前駆体が、性的活動より、3.5〜5.5時間に該前駆体がテストステロンに変換されるに要する時間を加えた時間先行して、該患者において放出され、かつPDE-5阻害剤が、性的活動に1〜2時間先行して該患者において放出されるように用いられるか、またはジヒドロテストステロンが、性的活動より、3〜5時間先行して、該患者において放出され、かつPDE-5阻害剤が、性的活動に1〜2時間先行して該患者において放出されるように用いられることを特徴とする治療剤である、請求項1627のいずれか一項記載の使用。
【請求項30】
該治療剤が、テストステロン前駆体若しくはジヒドロテストステロンを含む薬学的組成物およびPDE5-阻害剤を含む薬学的組成物を含むキットとして提供されることを特徴とする治療剤である、請求項1629のいずれか一項記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、女性性的機能不全の分野に関する。本発明は、具体的には、女性性的機能不全(女性性的興奮障害(FSAD)または女性性的欲求障害(FSDD)など)を伴う女性被験者における性的健康に対する、テストステロンまたはその類似体とPDE5阻害剤(シルデナフィル、バルデナフィル、またはタダラフィルなど)との組み合わせの影響に関する。
【背景技術】
【0002】
女性性的機能不全(FSD)は、性的活動における関心の欠乏、性的興奮に到達するまたは維持することの度重なる失敗、十分な興奮の後にオルガズムに到達することができないことを含む、性的機能の様々な妨害または機能障害を指す。最近の研究は、アメリカ合衆国において、女性の43%が性的機能不全を患うと推定した1。低い性的欲求(22%有病率)および性的興奮問題(14%有病率)は、女性の性的機能不全の最も一般的なカテゴリーに属する。これらのカテゴリーは、研究者およびセラピストのための仮の定義および許容される用語集を提供することにおいて便利である。しかしながら、これらの障害が、互いに完全に独立であると推測するのは、間違いである可能性がある。症例研究および疫学的研究の両方は、これらの障害が、重複し得、かつ相互依存し得るということを実証する。いくつかの症例においては、他方の障害をもたらした一次障害を同定することが可能であり得るが、多くの症例においては、これは不可能であり得る。
【0003】
女性性的障害の治療に対して、多くの異なる治療が、多かれ少なかれ成功を伴って、提案されかつ適用されている。これらの治療は、完全に成功してないか、または副作用がほとんど許容できない。本発明は、特定の投与量スキームにおいて与えられる、治療的物質の新しい組み合わせを提供し、組み合わせは、効果的でかつ重篤な副作用を有さない。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明は、女性性的機能不全の治療のための薬物の調製において、PDE5-阻害剤とテストステロンまたはその類似体との組み合わせの使用を提供する。本発明に従って、理論によって結び付けられるとは考えられないが、中枢神経系および末梢系に対する効果が要求され、中枢系へのシグナルが、テストステロンまたはその類似体(同じ種類の活性を有する)によって提供され、かつ末梢シグナルが、PDE5-阻害剤によって提供される。本発明に従って、遊離型テストステロンのレベルは、少なくとも約0.010 nmol/Lの遊離型テストステロンのピーク血漿レベルであるべきであり、典型的にはテストステロンの投与の約20分後に生じると思われる。本発明に従って、遊離型テストステロンの少なくとも0.010 nmol/lのピーク血漿レベルの効果は、PDE-5阻害剤の効果とほぼ同時に達っせられるべきである。最適な効果のために、両方の化合物のピーク効果が同時に起こることが望ましい。しかしながら、ピーク効果が部分的に重複するだけの場合、それでもこれは望ましい効果(FSDの治療)を引き起こす。テストステロン(または類似体)の効果に対して、約3〜6(より具体的には大体3〜4.5)時間、特に大体4時間の時間差がある。バルデナフィルおよびシルデナフィルなどのPDE5-阻害剤は、典型的には、投与の後約1時間後にそれらのピーク血漿濃度(シルデナフィルに対して少なくとも35 ng/ml、バルデナフィルに対して2μg/L、およびタダラフィルに対して40μg/Lであるべきである)に達し、したがって二つの調合薬は、好ましくは、投与に関する取扱説明書を伴うパーツのキットとして提示される、または二つの化合物に対する異なる放出特性を有する一つのカプセルもしくは製剤において包まれる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】健康な被験者におけるテストステロン投与とVPAとの間の遅延を描いたグラフ。
図2】PDE-5阻害剤と組み合わせられたプラセボ、またはテストステロンおよびPDE-5阻害剤(この最後の組み合わせは、「Lybrido」とも呼ばれる)を含む本発明に従う薬学的調製を受けた、FSDを患う女性におけるVPA測定の結果を示す。
図3】プラセボ、およびPDE-5阻害剤、テストステロン、または本発明に従う薬学的調製を受けた、FSDを患う女性におけるVPA測定の結果を示す。
図4】異なる治療のVPA測定を示す。
図5】性的虐待、注意バイアス、およびVPAを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
循環におけるテストステロンは、典型的には、SHBG(ステロイドホルモン結合グロブリン)によっておよびアルブミンによって結合されている。本発明において定義されるテストステロンのピーク血漿レベルが、遊離型テストステロン、つまりアルブミンおよびSHBGによって結合されていない画分として存在し計算されるということは重要である。したがって、与えられるテストステロンの用量は、アルブミンおよびSHBGを飽和させるのに十分なほど高くあるべきであり(すなわち、テストステロンの濃度は、SHBGまたはアルブミンによるテストステロンの完全な結合に打ち勝つのに十分なほど高くなければならない)、またはSHBG上のテストステロン結合部位に対する競合物の使用などの、アルブミンもしくはSHBGへの結合を避ける別の様式が、設計されなければならない。
【0007】
テストステロンは、好ましくは、投与される被験者の血液循環において短い高ピークがある製剤において与えられる。従って、本発明は、テストステロンまたはその類似体が、舌下製剤、好ましくは担体としてシクロデキストリンを含む舌下製剤の形態で提供される、使用を提供する。そのような製剤の典型的な例は、ヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンにおいて与えられるが、その他のβシクロデキストリンならびにその他の通常の賦形剤、希釈剤、および同類のものは、1回の短いバースト以内に本質的にテストステロンの全てを放出する、テストステロンまたはその類似体を含む製剤を調製するための当技術分野の技術の範囲内である。該バーストは、典型的には、投与後すぐの短い時間間隔以内(例えば、60〜120秒以内、より好ましくは60秒以内)であると思われ、約15〜20分後にテストステロンの血液ピークレベルをもたらす。好ましい態様において、調合薬は、舌下投与に対して設計され、さらに好ましくは、該組成物は、ヒドロキシプロピル-βシクロデキストリンなどのシクロデキストリンを含む。調製されるテストステロンサンプル(0.5 mgのテストステロンに対する)の典型的な例は、0.5 mgのテストステロン、5 mgのヒドロキシプロピル-βシクロデキストリン(担体)、5 mgのエタノール、および5 mlの水からなるが、これらの物質の量の各々は、より多くまたはより少なくてもよい。
【0008】
もちろん、PDE5-阻害剤を含む薬学的調製は、ほぼテストステロン効果が最大になる時に、ピーク血漿レベルを与えるように設計されるべきでもある。そのような組成物は、当技術分野の技術の範囲内であり、経口投与に対する典型的な例は、ピペラジン、1-[[3-(1,4-ジヒドロ-5-メチル-4-オキソ-7-プロピルイミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-4-エトキシフェニル]スルホニル]-4-エチル-,一塩酸塩として化学的に設計される、塩酸バルデナフィルにおいて与えられる。活性成分、塩酸バルデナフィルに加えて、各々の錠剤は、微結晶性セルロース、クロスポビドン、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、黄酸化鉄、および赤酸化鉄を含む。その他の例は、1-[[3-(6,7-ジヒドロ-1-メチル-7-オキソ-3-プロピル-1Hピラゾロ[4,3-d]ピリミジン-5-イル)-4-エトキシフェニル]スルホニル]-4-メチルピペラジンクエン酸塩として化学的に設計される、クエン酸シルデナフィルにおいて与えられる。活性成分、クエン酸シルデナフィルに加えて、各々の錠剤は、以下の成分を含む:微結晶性セルロース、無水第二リン酸カルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ラクトース、トリアセチン、およびFD & C Blue #2アルミニウムレーキ。その他の例は、ピラジノ[1',2':1,6]ピリド[3,4-b]インドール-1,4-ジオン,6-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2,3,6,7,12,12a-ヘキサヒドロ-2-メチル-,(6R,12aR)-として化学的に設計される、タダラフィルにおいて与えられる。活性成分、タダラフィルに加えて、各々の錠剤は、以下の成分を含む:クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、酸化鉄、ラクトース一水和物、ステアリン酸マグネシウム、微結晶性セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、滑石、二酸化チタン、およびトリアセチン。
【0009】
好ましくは、PDE5-阻害剤の(ピーク)効果ならびにテストステロンの(ピーク)効果が(完全に)同時に起こる、ということは明らかである。しかしながら、テストステロンおよびPDE5-阻害剤のピーク効果が部分的にのみ重複する場合、それでもこれは望ましい効果を引き起こすということが注目される。テストステロンが、女性被験者に対して1回の短いバースト以内にテストステロンの全てを本質的に放出するように提供される場合、PDE5-阻害剤は、好ましくは、テストステロンの投与の少なくとも3時間後にピーク血漿濃度を引き起こすように提供される。さらに好ましくは、PDE5-i効果は、テストステロンの摂取の3.5〜5.5時間後に存在する。PDE5-阻害剤投与の正確な時間が、使用される製剤の型に依存しているということは明らかである。PDE5-阻害剤製剤が、投与の直後に放出される場合、効果の任意の重複がほとんどないと思われるので、テストステロンが提供されるのと同時にそれを提供することは有用ではない。PDE5-阻害剤が使用される製剤から有効になる前にいくらか時間がかかる場合、例えば3〜4時間、それはテストステロンが投与されるのと同時に投与され得る/投与される。
【0010】
本発明に対して、最適な投与の経路は、最も侵襲的でないものである。性的行動に対する動機は、侵襲的な投与の経路によって悪影響を受けるべきではない。テストステロンの効果には時間差があるので、中枢効果および末梢効果に必要な二つの薬は、同時に投与され得ない(PDE5-阻害剤の投与が、薬が投与の後3.5〜5.5時間後に放出されるように設計されない場合)。従って、本発明は、テストステロンまたはその類似体を含む少なくとも一つの薬学的組成物、およびPDE5-阻害剤を含む少なくとも一つの薬学的組成物を含むパーツのキットを提供し、該テストステロンを含む組成物が、標的部位において本質的に即座に(例えば、60秒以内に)全てのテストステロンを放出するように設計される。該キットは、好ましくは、性的活動に3.5〜5.5時間先行してテストステロンを含む薬学的組成物を使用し、かつ性的活動に1〜2時間先行してPDE5-阻害剤を含む薬学的組成物を使用するための取扱説明書を含む。パーツのキットは、テストステロンまたはその類似体の舌下製剤およびPDE5-阻害剤を含む錠剤または別の製剤を含み得る。好ましいPDE-5阻害剤は、シルデナフィル、バルデナフィル、またはタダラフィルである。テストステロンを含む薬学的組成物あたりのテストステロンの量は、少なくとも0.3 mgのテストステロンおよび多くとも2.5 mgのテストステロンである。より多いまたはより少ない用量が、アルブミンおよびSHBGレベルならびに治療される被験者の体重に応じて必要であり得る。PDE5-阻害剤を含む薬学的組成物は、少なくとも25 mgのシルデナフィル(または5 mgのバルデナフィル、または5 mgのタダラフィル)および多くとも100 mgのシルデナフィル(または20 mgのバルデナフィル、または20 mgのタダラフィル)、またはその他のPDE5-阻害剤の同程度の投与量を含む。再度、これらの用量は、患者の体重とともに変化し得る。すでに上で述べた理由のため、本発明に従うキットは、SHBG結合に対してテストステロンまたはその類似体と競合することが可能な化合物をさらに含み得る。
【0011】
好ましい態様において、テストステロン類似体は、テストステロンの前駆体または代謝物である。テストステロンの前駆体が使用される場合、キットは、(必要であれば)前駆体をテストステロンに変換するのに必要な時間を付加することによって3.5〜5.5時間の期間を増やすための、取扱説明書をさらに含む。テストステロンの代謝物が使用される場合、3.5〜5.5時間の期間は短縮される。
【0012】
本発明のパーツのキットの効果をさらに高めるために、該キットは、認知診療および刺激に対する手法をさらに含み得る。そのような情報は、任意のデータ担体(紙、CD、DVD)上に存在し得、受動的もしくは相互作用的であり得、またはそれは該認知刺激の目的のために少なくとも部分的に設計されたウェブサイトへのリンクであり得る。無意識に、例えば潜在意識下に、該認知刺激情報を提示することが時には好ましい。
【0013】
本発明のキットの効果をさらに高めるために、被験者における中脳辺縁系ドーパミン作動性経路を刺激する物質が、該キットに付加され得る。この経路は、性的行動に関与する報酬探求における増加を提供するのに役立つ、相対的に異なる種類の報酬系に関係している。そのような化合物の例は、アポモルフィン、ドーパミンD2アゴニスト;アリピプラゾール、部分的ドーパミンD2アゴニスト;ペルゴリド、非選択的ドーパミン(DA)アゴニスト;プラミペキソール、D2およびD4受容体と比較してD3受容体に対する選択性を有する新しいドーパミン受容体アゴニスト;ブロモクリプチン、非選択的ドーパミン(DA)アゴニスト;塩酸ロピニロール、D2およびD3ドーパミン受容体サブタイプにおける相対的に高いインビトロ特異性および完全内因性活性を有する非エルゴリンドーパミンアゴニスト;それは、D2またはD4受容体サブタイプよりもD3受容体サブタイプに高い親和性を有して結合する;ロキシンドール、強力な(自己受容体)-「選択的」D3ドーパミンアゴニスト;カベルゴリン、ドーパミンD2アゴニスト;リスリド、非選択的ドーパミン(DA)アゴニスト、および自己受容体アンタゴニスト;(+)-AJ 76、D3選択性、ドーパミン(DA)自己受容体アンタゴニスト;(+)-UH232、ドーパミン伝達の刺激物、再取り込みブロッカーと同様に、選択的にドーパミン神経終末の自己受容体に拮抗し得る;ブプロピオン、ノルエピネフリン、セロトニン、およびドーパミンの神経への取り込みの阻害剤;アミネプチン、(相対的に)選択的ドーパミン再取り込み阻害剤;GBR 12909(バノキセリン)、ドーパミン再取り込み阻害剤;およびアマンタジン;NMDA受容体アンタゴニストおよびドーパミン再取り込み阻害剤である。
【0014】
本発明のキットの効果をさらに高めるために、中枢および末梢アドレナリン作動性緊張を阻害する、すなわち、中枢および末梢細胞外ノルエピネフリン濃度を阻害するまたは低下させる物質が、(任意で)付加される。中枢神経系に位置するα2-受容体の活性化は、交感神経緊張の阻害を引き起こす。そのような化合物の例は、クロニジン、α2アゴニスト;イミダゾリン、部分的α2アゴニスト;およびデクスメデトミジン、α2アゴニストである。
【0015】
パーツのキットは、心理学的もしくは生理学的原因またはその組み合わせのいずれを介するものでも、FSDの任意の型を患う任意の個人に対して有用である。したがって、SSRI類などのその他の医薬および/または薬が原因でFSDを有する被験者;性腺機能低下症などを患う被験者に対しても有用である。
【0016】
低性的欲求、性的興奮問題、および妨げられたオルガズムは、精神薬理学的治療に対する候補である。性的問題のこれらのカテゴリーはまた、相対的に独立した神経伝達物質機能によって調節される、ヒトの性的反応の3つの(移行および重複)フェーズ(性的欲求、性的興奮、およびオルガズム)にリンクされている。伝統的に、動機付けされた行動は、欲望および完了要素に分けられている。報酬および満足を獲得することを目的とする活動は、欲望要素に属する。基本的な欲望動機付けプロセスは内因性脳機能であり、報酬に対する刺激の予測値に特に関係する。動機付け関連情報のプロセシング(すなわち、刺激予測報酬)は、中脳-側坐核ドーパミン作動(DA)系(すなわち、側坐核(NAS)を神経支配する腹側被蓋領域(VTA)のDA神経)、中脳辺縁ドーパミン系の要素の活動における増加を引き起こす。この系の活動は、性交に関係する報酬を予想する際に、適応アプローチ行動の間に増加する2。これらのドーパミン作動性経路における増加した活動は、性的動機、特に予想性的行動を促進する3。アリピプラゾールは、その他の中でも、ドーパミン作動性経路に影響する薬の例であり、性的動機および行動に影響を及ぼすために、テストステロンまたはその類似体とPDE5-阻害剤との組み合わせにおいて使用され得る。アリピプラゾールは、ドーパミンD2受容体およびセロトニン5-HT1a受容体の高親和性部分的アゴニストであり、かつ5-HT2a受容体のアンタゴニストである。アリピプラゾールは、それがより高い親和性を有するD2受容体、特にプレシナプスD2受容体におけるその部分的アゴニスト作用のために、ドーパミン系安定剤として記載される。ドーパミン神経終末に位置する自己受容体の刺激は、ドーパミン合成および放出の阻害を引き起こす。したがって、中脳-側坐核DA系の低ドーパミン作動性状態においては、アリピプラゾールは、プレシナプスD2受容体に拮抗し、VTAにおけるNAS投射DA核を自己阻害から解放すると考えられる。内側前頭前皮質(mPFC)は、行動阻害を媒介する。mPFCにおけるドーパミンは、行動阻害において重要な役割を果たす。mPFC-DAの抑制性の役割の実例は、中脳-側坐核DA系の阻害である;mPFC-DAの高細胞外濃度が、中脳-側坐核DA活動を阻害し、かつmPFC-DAの低細胞外濃度が、脱抑制を介して中脳-側坐核DA活動を活性化する。従って、FSDにおけるドーパミン作動性の役割が、中脳-側坐核DAに制限されないが、mPFC-DAに拡張でき、FSDの症候が、側坐核DAの阻害またはFSADに関与するその他の認知もしくは情動因子の阻害を介してではあるが、mPFC-DAの高い活動を伴って高められると考えられる。次いで、アリピプラゾールの部分的アゴニスト作用は、mPFCにおけるプレシナプスD2受容体のアゴニズム(agonism)を介して、それによってこの領域におけるDA放出を阻害することによって、FSD(総体的症状)の緩和に対して陽性効果を有すると思われる。性的報酬を予想することは、性器の興奮を生み出すと思われ、少なくとも3つの主要な神経伝達物質が関与する:アセチルコリン、ノルエピネフリン、および一酸化窒素。アセチルコリンおよび一酸化窒素は、両方とも男性における勃起ならびに女性における潤滑および隆起を促す。ノルエピネフリンは、男性における勃起ならびに女性における潤滑および隆起を阻害する。オルガズム、ヒトの性的反応の完了フェーズは、下行脊髄ノルアドレナリン作動性線維および性器の神経支配によって促進され、かつ下行脊髄セロトニン作動性線維によって阻害される。
【0017】
女性におけるテストステロン
多くの哺乳動物種において、女性性ステロイドは、女性性的行動の発現に必要である。結果として、これらの動物における性交に対する能力は、排卵の時期に限定される4,5。高等霊長類-ヒトなど-は、排卵前後期以外での性交渉を示す。これらの動物に対して、テストステロンは、女性性的行動に関与することが示唆されている6。卵巣摘出および副腎摘出後のテストステロンの消失は、リビドーの完全な喪失を伴い7,8、このステロイドの代用は、外科的閉経後の性的欲求および幻想を維持する9
【0018】
正常な女性における、テストステロン、性的キューへの曝露および膣興奮
性的動機の重要な局面は、生理学的性的反応である。性的刺激によって誘発される膣血管鬱血における増加として測定されるように、この反応は、性交行動に対して準備的であると考えられる10。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の女性において、本発明者らは、8週間の間1日あたり経口で40 mgのテストステロンウンデカン酸塩での代用が、膣反応性を高めることを見出した10。この効果は、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症患者の別の群においては見出されなかった(未発表データ)。両方の研究において、被験者は、毎朝テストステロンを受けたが、第一の実験における患者は午後に検査され、第二の実験の患者は午前に検査された。これらの実験間での生理学的反応に関する異なる結末は、膣興奮に対するテストステロンの時間依存効果によって引き起こされる可能性がある。第三の実験において、本発明者らは、舌下でのテストステロンの単回投与量の投与が、プラセボと比較して、視覚的官能的刺激の提示の間に血管鬱血を増加させるかどうかを調査した11。治療日に、本発明者らは、8人の性的に機能的な女性を、1時間30分の間隔で、性交渉を描いた6つの官能的な映画に曝露した。テストステロンの摂取は、短期間のテストステロンの血漿レベルにおける激しい増加を引き起こした。このテストステロンピークの約3時間〜4時間30分後に、本発明者らは、被験者が視覚的性的刺激に曝露された際に、膣反応性における著しい増加を見出した(図1も参照されたい)。これらの発見は、性的に機能的な女性における性器興奮に対する、舌下で投与されるテストステロンの効果における時間差を実証する。
【0019】
上述の研究の結果は、テストステロンが、時間依存的な形で女性の性的動機に関与することを実証する。性ステロイドの性的行動に対する影響は、ステロイド反応性神経ネットワーク、脳における性ホルモン受容体含有神経の高度に相互接続された群によって説明され得るだろう12。このネットワークは、閉回路ではないが、外部感覚キュー、ホルモンプロセス、および生殖行動の間の統合および活性化する中枢として機能することによって、生殖目的を果たす。これは、性的行動を促進し得る感覚入力の選択的フィルタリングおよびシグナルの増幅によって、部分的に成し遂げられる。本発明者らは、性的刺激によって誘導される膣血管鬱血における増加が、性交行動に対して準備的であると推測する。傍観者の種の構成員の間での性交渉への視覚的曝露は、そのような準備的動機付け反応に対する強力な放出刺激である。男性および女性の両方は、性器反応を伴って官能的な映画に反応する際立った能力を有する13。テストステロンによって誘導された性的キューに対する増加した動機付け感受性は、おそらく、ドーパミン作動性、セロトニン作動性、およびノルアドレナリン作動性経路が関与する、変更した脳の状態に起因する。この変更した状態は、性的幻想によって誘発されるような、内部キューに対しても敏感であり得るだろう。
【0020】
別の実験において、本発明者らは、性器興奮における変更に向けられた注意が、性的興奮の生理学的および自覚的な徴候の間の一致を生み出すことを実証した14。性的欲求、性的興奮、ならびにオルガズムの能力および潜在力の間の相互関係がある。低下した性的欲求は、性的興奮に影響を及ぼすと思われ、その逆も同じである;性的機能の両方の徴候は、オルガズム潜在力に影響し得、その逆も同じである。
【0021】
ホスホジエステラーゼ5阻害剤および性的興奮
いくつかの研究において、選択的5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤が、勃起機能不全を伴う男性において、平均して正常な機能の近くまで、勃起機能を改善することが示されている15。陰茎において、神経および内皮細胞から放出される一酸化窒素(NO)が、サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)の産生を誘導する。cGMPは、勃起の誘導に必要な、平滑筋を弛緩させることにおける主要なメカニズムである。このヌクレオチドは、ホスホジエステラーゼによって加水分解され、陰茎海綿体における主な活性はPDE5によるものである。従って、性的刺激の間、勃起機能に対するNO/cGMPの作用は、PDE5-阻害剤によって高められると思われる16。両方の性の性器は、共通の発生起源を有する。最近では、クリトリスが、前膣壁を埋め込む勃起組織複合体からなることが示されている。クリトリス勃起および膣の前壁は、女性の性的興奮および反応に大いに関与する。最近では、シルデナフィル-PDE5-阻害剤-が、性的に機能的な女性において性的パフォーマンスを改善することが示されている17
【0022】
男性および女性の両方において、同様の特殊な血管メカニズムが、性器反応に関与するが、膣パルス振幅(VPA)における増加は、勃起の等価物とは考えられ得ない。勃起に対する必要だが十分ではない条件は、動脈の拡張および結果として生じる増加した血液流入である。陰茎には、小さな不規則な区画(血管空間)を含む体(corpora)(陰茎海綿体(2つ)および尿道海綿体(1つ))がある。海綿体類洞壁における平滑筋は、活動交感神経(アドレナリン作動性)緊張の制御下で、正常に緊張性(tonically)収縮する。体の海綿体平滑筋の弛緩は、血液を伴う区画の充填および拡大を引き起こし、勃起を伴うと思われる。明確なメカニズムは公知ではないが、交感神経支配および一酸化窒素は、両方とも体(corporeal)平滑筋の弛緩における主たるメディエーターであると信じられている。陰茎において、血管の交感神経支配はまばらであるが、平滑筋はこの系によって豊富に神経支配されている。それに対して、陰茎の血管は、副交感神経系によって豊富に神経支配されているが、この系による平滑筋の神経支配はまばらである。その結果として、勃起の発生に関与するプロセスに対する末梢神経系のこれらの2つの部分の相対的に独立した効果がある。陰茎動脈の拡張の開始およびそれに続く海綿体組織への血流の増加は、副交感神経系によって調節される(このコリン作動性活動における増加の開始は、脳によるシグナルに依存する)。しかしながら、平滑筋の弛緩なしに、勃起はないと思われる。交感神経緊張の軽減およびその結果として起こる平滑筋の弛緩は、勃起の開始に対して相対的な独立した必須条件のように見える。したがって、陰茎勃起は、仙骨副交感神経支配の増加した活動および交感神経経路の低下した活動に反応して生じる。陰茎において、神経および内皮細胞から放出される一酸化窒素(NO)は、サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)の産生を誘導する。cGMPは、勃起の誘導に必要な、平滑筋を弛緩させることにおける主要なメカニズムである。NOの産生および放出は、交感神経枝の活動における低下によって影響され得るだろう。
【0023】
抑制性および興奮性調節メカニズムを介して、性的行動および性的感情に対する心理社会的環境の影響を媒介する脳活動
ヒト脳の前頭前皮質は、行動の計画、実行、および制御に関与する認知機能にとって非常に大事である。これらの認知機能の重要な局面は、性的行動などの辺縁系誘導性情動反応の阻害である。心理学的プロセスは、ヒトの性的反応の3つの異なった(移行および重複)フェーズ、ならびに低性的欲求、性的興奮問題、および妨げられたオルガズムをもたらすこれらのフェーズにおける妨害にも関与する。したがって、阻害に関連する前頭前皮質の活動における増加は、性的欲求、性的興奮、およびオルガズム能力を軽減する可能性があるだろう。前頭前皮質における活動は、末梢神経系の交感神経および副交感神経枝の調節にも関与する。前頭前活動における増加は、副交感神経活動における低下および交換神経活動における増加を伴う。これらの枝における変更は、非対称に生じる。さらに、末梢神経系の交感神経枝は、心因性誘導性変更に対してより敏感であるように見える。したがって、前頭前皮質によって制御される心理学的プロセスは、勃起の誘導を調節する生理学的メカニズムに直接関与するように見える。同じ生理学的メカニズムが、女性の性的反応の異なる要素を調節していることが推測され得るだろう(すなわち、副交感神経支配が、VPAに対して調節的であり、交感神経支配が、一酸化窒素とともに、隆起および潤滑に関与する)。
【0024】
健康な性的に機能的な女性において最近実施された実験において(未発表)、本発明者らは、被験者がテストステロンの1回投与量(0.5 mg舌下で)またはプラセボを摂取し、4時間後にニュートラルなおよび官能的なビデオを見ながらfMRIを受けるという遅延測定設計を使用した。以後、被験者は、ニュートラルなおよび官能的なビデオに反応した彼らのVPAが測定された研究室に導かれた。期待されたように、プラセボ条件において、本発明者らは、官能的な刺激に反応した脳の活性化に関するその他のイメージング研究と同程度の、皮質および皮質下構造の活性化および背側前頭前野の不活性化を見出した。VPAを高めることに対するテストステロン遅延効果により、本発明者らは、このfMRI研究においてこれらの「官能的な」構造の高揚を期待した。しかしながら、その逆が真実である。テストステロンに接する女性は、正常な性的反応に関わる官能的な曝露の間、全ての脳構造の低下した活性化を示す。さらに、2つの構造が、非常に顕著な増加を示した:中隔、情動的オーバーシュートの制止部(restrainer)として機能する、および左背外側PFC、自動化/反射的反応の阻害部(inhibitor)として機能する。述べたように、通常は背側前頭前野の不活性化が観察される。
【0025】
環境および個人の差異に応じて、テストステロンは、性的行動の調節にテストステロンの機能的役割が与えられたという期待から、逸脱する効果を生み出し得る。中枢で調節される自律的性的反応のこの阻害はまた、VPAにおける相対的な変化において明白である。期待に反して、VPAは、プラセボと比較してテストステロン条件においてより小さく、おそらくfMRI処置の間、継続的な阻害メカニズムの結果が誘導された。
【0026】
女性性的障害を患う女性における膣興奮に対するテストステロンとPDE-5阻害剤との組み合わせの相乗効果
女性性的機能不全を患う女性において最近実施された実験において(実験部分を参照されたい)、本発明者らは、異なる時間間隔において、プラセボと比較して、膣興奮性(arousability)または性的欲求および性器興奮に対するテストステロンの1回投与量からまたはPDE5-阻害剤からの効果を見出さなかった。しかしながら、この実験において、本発明者らは、PDE5-阻害剤の投与(遊離型テストステロンピークの3.5〜5.5時間後にT最大値が生じるような様式で投薬される)と組み合わせられたテストステロンの1回投与量(0.5 mg舌下で)が、血漿テストステロンピークの4時間後に、官能的な刺激への曝露の間、有意に高い膣パルス振幅を引き起こすことを見出した。この効果は、幼児期の間に性的に虐待されていた女性の下位群においては、あまりはっきりしなかった。本発明者らは、性的欲求および自覚的性的興奮に対する効果を見出さなかった。テストステロンとPDE5阻害剤との組み合わせと同様に、テストステロンを伴う治療は、プラセボおよび/またはPDE5-阻害剤と比較して、性的キューに対する篏入機序(engagement)(または退薬症状(withdrawal))における増加を引き起こした。篏入機序は、正常なヒトの性に対する重要な機能である。PDE5-阻害剤と組み合わせられたテストステロンは、性器興奮における統計的に有意な増加を生み出した。
【0027】
その態様の一つにおいて、本発明は、女性性的機能不全の治療のための薬物の調製において、PDE5-阻害剤とテストステロンまたはその類似体との組み合わせの使用を提供する。
【0028】
テストステロンは、化学名17-β-ヒドロキシアンドロスト-4-エン-3-オンとして公知でもあり、様々な様式で獲得され得る:自然から単離され精製され得るか、または任意のやり方で合成的に産生され得る。「またはその類似体」という用語は、例えば、代謝物ジヒドロテストステロンなどの、任意の有用なテストステロンの代謝物または前駆体を含む。テストステロンの代謝物または前駆体が使用される場合、PDE-5阻害剤の投与の時間ポイントは、おそらく適合される必要があるということは、当業者にとって明らかである。例えば、ジヒドロテストステロンが使用される場合、PDE5-阻害剤の投与の時間は、およそ30分早くにある(これは、過剰のテストステロンがジヒドロテストステロンに変換されるのにかかるおよその時間である)。PDE5-阻害剤の量は、いまだに広がっており、非限定的な例は以下のとおりである:GF-196960/IC351(タダラフィル)、Bay-38-9456(バルデナフィル)、UK-103320(シルデナフィル)、E-4021、E-8010、E-4010、AWD-12-217(ザプリナスト)、AWD 12-210、UK-343,664、UK-369003、UK-357903、BMS-341400、BMS-223131、FR226807、FR-229934、EMR-6203、Sch-51866、IC485、TA-1790、DA-8159、NCX-911、またはKS-505a。その他の例は、国際公開広報第96/26940号において見出され得る。
【0029】
好ましくは、PDE5-阻害剤は、テストステロンの投与の少なくとも3時間後に提供され、さらに好ましくは、Cmaxが、血漿遊離型テストステロンピークの約3.5〜5.5時間後に生じるように提供される。すでに前述のように、かつ製剤に応じて、PDE5-阻害剤は、テストステロンが投与されるのと同時に与えられてもよい。
【0030】
性的反応の異なる様相の間の陽性関連の条件付け
PDE5-阻害剤と組み合わせられたテストステロンの投与量による治療は、性的刺激、性器興奮、および可能な自覚的経験の間の陽性関連の学習をなすと思われる、脳および体の機能における変更を生み出す。さらに、テストステロンとPDE5-阻害剤との組み合わせを伴うFSDの治療は、好ましくは、「アプローチ誘導」治療によって増強される。より恒久的な心理学的変化を作り出すために、性的関連刺激下でテストステロンおよびPDE5-阻害剤によって活性化された中枢および体のプロセスは、感知される必要があり、かつ陽性快楽緊張または行動的アプローチ系の活性化に関連するようになる必要がある。性器興奮に注意を集中することによる体の反応の感知は、テストステロンによって可能になり(性器興奮は、PDE5-阻害剤によって相乗的に高められる)、口頭指示によって強調され得る。陽性快楽緊張は、FSD患者の集団においては当たり前ではあり得ない。陽性緊張を達成するために、患者は、薬の効果的フェーズの間に(つまり、テストステロンの摂取の少なくとも3時間後に)、陽性刺激に曝露され得る。これらの陽性動機付け刺激は、おそらく配偶者の顔を含む、患者の性的に好ましい性別の人の幸せな顔の画像からなる。顔の画像は、控えめな様式で行動的アプローチ系が活性化されるように、潜在意識下に提示される。
【0031】
FSDの治療は、患者が性器興奮を陽性快楽緊張または行動的アプローチ系の活性化と関連付けることを学習する状況を作り出すことからなり得るだろう。これは、(性的刺激およびPDE5-阻害剤による)性器興奮の誘因、(テストステロンによって可能にされる)性的刺激および性器興奮への持続的注意、ならびに(幸せな顔の画像の潜在意識下への提示による)行動的アプローチ系の活性化を要求する。
【0032】
本発明は、女性性的機能不全を患う女性を、PDE5-阻害剤とテストステロンまたはその類似体との組み合わせを該女性に提供することによって、治療するための方法をさらに提供する。
【0033】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに詳細に説明されるだろう。
【実施例】
【0034】
実施例
参加者
研究登録に先行して少なくとも6ヶ月間FSD(すなわち、低性的欲求、低性的興奮、または低下したオルガズム潜在力)を経験している異性愛指向の14人の女性(平均年齢:40.6歳;標準偏差:10.4;閉経前n=8、閉経後n=6)が、本研究に参加した。繁殖年齢にある参加者は、避妊具(UID類、避妊手術、経口避妊薬、抗アンドロゲンを含む避妊薬以外)を使用した。妊娠検査は、処置の一部であった。被験者は、妊娠もしくは授乳、膣感染、膣および/もしくは外陰部への大手術、または原因不明の婦人科的病状を排除するために、産婦人科医によって面接され、かつ調査された。参加者は、内分泌学的、神経学的、または精神医学的治療の経歴を有さなかった。心臓血管状態が検査され、顕著な異常に対してECGがチェックされた。標準的な血液化学および血液学検査が行なわれた。参加者は、薬を乱用せず、かつ実験の前の晩およびその日にアルコールまたは向精神薬を使用しないように要求された。被験者は、彼らの生理の時期の間は予約をすることができなかった。
【0035】
処置
本研究は、オランダ医療倫理委員会(STEGMETC)によって承認された。実験試行は、スクリーニング訪問によって先行された。このスクリーニング訪問において、被験者は、FSDに対して診断するために、かつ研究参加に対する適格性を決定するために、心理学者/産婦人科医によって面接された。体重、身長、血圧(背臥位および立位)、心拍数、呼吸速度、および体温が測定された。背臥位12リードECGが、医師(および必要な場合は循環器専門医)によって、記録されかつ調査された。婦人科的調査および尿妊娠検査が行なわれた。クラミジアまたは淋菌感染を排除するために、培養物が採取された。
【0036】
適格な被験者は、スクリーニングの後に習熟試行を受けた。訓練された女性実験者が、研究要件および処置を被験者に習熟させた。これは、膣光電脈波計(タンポン型デバイス)の使用を含んだ。被験者は、5分の間ニュートラルな映画の断片を見た後に、5分の官能的な映画の断片を見た。以後、彼らは情動ストループ課題の短縮版を練習した。
【0037】
実験試行に対して、本発明者らは、4つの薬条件を伴う二重盲検の無作為割付プラセボ制御交差設計を使用した:
1)プラセボ
2)PDE5-阻害剤
3)テストステロン(0.5 mg舌下で)
4)テストステロン+PDE5-阻害剤(2つの化合物は同時に与えられたが、PDE5-阻害剤は、テストステロンの効果およびPDE5-阻害剤の効果が、少なくとも部分的に重複するように、投薬/製剤された)
各々の被験者は、4つの別々の実験日に、4つの異なる薬治療を受けた(すなわち、PDE5i、テストステロン、PDE5i+テストステロン、およびプラセボ)。4つの実験日は、(少なくとも)3日間隔てられた。
【0038】
薬操作の各々の日の間、被験者は以下の測定を受けた:
-1:00時間:情動ストループ課題
-0:15時間:試行1
0:00時間:薬の摂取
0:05時間:試行2
2:45時間:試行3
4:15時間:試行4
各々の日は、身体検査でスタートした(バイタルサイン、血圧、心拍数、体温、および呼吸速度の測定)。血液サンプル(8 ml)がホルモン分析のために採取された。次いで、被験者は、音減衰の、薄暗い明かりが灯った実験室に座った。この部屋をより「不毛」でなくするために、地理的なポスターが壁に貼られ、空気香水機(perfumer)が被験者の背後に置かれた。次いで、被験者は、情動ストループ課題を実行した(15分)。実験者は膣プローブを持って来て、被験者はプローブを挿入するために部屋に単独で残された。被験者は、映画の断片を見る間、できるだけ静かに座るように指示された。10分のニュートラルな断片の後に、5分の官能的な映画の断片が続いた。これらの基準測定の後、被験者は、薬剤投与を受けた:カプセルに隠された、担体としてのシクロデキストリンおよびバルデナフィル(10 mg、またはプラセボ)を伴う、舌下でのテストステロン(0.5 mg;またはプラセボ)。薬剤投与の後に、ニュートラルな(5分)および官能的な(5分)映画の断片の別のセットが続いた。被験者は、膣プローブを除去し、2時間の中断のために待機室に連れて行かれた。この中断の間、彼らは、彼らのランチを食べることができた。コーヒーおよび紅茶は、無制限に利用できた。この中断の後に、ニュートラルな(5分)および官能的な(5分)映画の断片の第三のセットが続いた。再度、被験者は、最後のVPA測定が薬剤投与の4時間後に行なわれるように、2時間待たなければならなかった。この最後の映画-試行(ニュートラルな、官能的な映画の断片)の後に、情動ストループの第二の提示が続いた。実験日は、血液サンプルの引き抜き(ホルモン分析のための8 ml)ならびにAEおよびSAEの収集を含む短い身体検査で終わった。
【0039】
図2は、FSDを患う女性におけるVPAに対する、プラセボ/PDE5-阻害剤と比較された、本発明に従う薬学的調製の効果を示す(p<0.035)。
【0040】
図3は、FSDを患う女性における、プラセボ、PDE5-阻害剤、およびテストステロンと比較された、本発明に従う薬学的調製の効果を示す(p<0.04)。
【0041】
情動ストループ課題:
ニュートラルなおよび官能的な言葉に関する色-ネーミング潜時を比較する、情動ストループ課題の非マスク化およびマスク化版が使用された。非マスク化およびマスク化条件の両方において、8つの官能的なおよびニュートラルな言葉が、異なる色で提示される(すなわち、赤、緑、青、および黄)。文字列からなる刺激の余分なセットは、練習試行のために使用された。被験者は、言葉の内容を無視するように、かつなるべく速く言葉の色をネーミングするように指示された(マスク化条件においては、マスクの色がネーミングされなければならない)。各々の試行は、750ミリ秒間示される固視点からなり、標的刺激(色付けされたニュートラルなまたは官能的な言葉)が後に続く。マスク化条件においては、言葉画像は、約24ミリ秒の間提示され、次いで、同じ色でランダムにカットされ再構築された文字によってマスク化された。音声レベル検出器に接続されたマイクロホンが、被験者の前に置かれた。音声反応の開始は、コンピュータの時計によって登録され、標的提示を終了した(反応がない場合、最大で3000ミリ秒)。32のニュートラルな言葉および32の官能的な言葉が、ブロックされて提示された。同じ言葉が各々の検査に対して使用されたが、しかしながら言葉および色の配列は、この課題が使用された全8回で異なった。
【0042】
結果
VPA測定
テストステロン条件の間、1人の被験者が官能的な映画を見ている時に吐き気を催し、その日はそれ以上参加しないことを決めた。精神生理学的評価に対して、VPA(膣パルス振幅)が使用される。VPAは、各々の心拍と一致する、血液量におけるフェーズ変化を反映する;より高いレベルは、血流のより高いレベルを示す。使用される従属変数は、パルス波の振幅である。平均VPAが計算される前に、生シグナル(サンプルレートは20 Hzであった)がバターワースフィルタ(-3 dBカットオフ周波数範囲0.7〜1.5 Hz;40 dB down/octave)によってデジタルバンドパスフィルタ処理された。動作アーチファクトは、シグナルの目視検査によって検出され、手動で除去された。以後、振幅は、パルス波の上端と下端との間の距離として測定された。平均VPAは、30秒間にわたるこれらの振幅の平均として計算された。
【0043】
VPA反応の大きさは、プローブの正確な配置にも依存する。条件を比較するために、ニュートラルなまたは官能的な条件において、絶対平均振幅値を調査することは意味がない。代わりに、本発明者らは、分析における評価項目として、各々の映画試行の間のニュートラルな条件における平均スコアによって割られた、ニュートラルな映画の断片から官能的な映画の断片への振幅における平均変化を使用する。
【0044】
結果として生じる差異スコアは、2 ステロイド(テストステロン有/無)×2 PDE5i(バルデナフィル有/無)×2 前-後(試行1対試行4)の反復測定ANOVAを受けた。交互作用効果は、試行にわたってステロイド条件に対して見出され(F(1,12)=5.75; p <0.04)、測定の前から後への増加が、ステロイドなしの薬条件(プラセボ+プラセボおよびプラセボ+バルデナフィル)に対してよりも、ステロイドを含む薬条件(テストステロン+プラセボおよびテストステロン+バルデナフィル)に対して有意に高かったことを結びつけている。薬剤投与後(試行4)反応に対する薬剤投与前(試行1)反応のさらなる分析は、ニュートラルなおよび官能的な映画の間のVPAにおける増加が、プラセボ条件またはバルデナフィルもしくはテストステロン条件において有意ではないことを示した(図4も参照されたい)。組み合わせられた治療条件(バルデナフィル+テストステロン)のみが、薬剤投与後と比較して薬剤投与前のVPAにおける統計的に有意な増加をもたらす(F(1,12)=3.229; p=0.007)。
【0045】
本発明者らは、性器反応への性的刺激および薬剤投与の効果が、中枢メカニズムにおける変化に関連していると仮定した。注意プロセスにおける変化との関連を検査するために、本発明者らは、測定ポイントとしてストループRTを使用した。ストループRTは、ニュートラルなおよび性的な言葉の色ネーミングに関する平均反応時間における差異である。
【0046】
データの目視検査の間、本発明者らは、本発明者らのサンプル内で2つの下位群を見出した:幼児期の間に性的に虐待された女性の群およびそのような虐待を報告しなかった女性の群。本発明者らは、分析における被験者間変数として、幼児期の間の性的虐待を含むことを決めた。
【0047】
非マスク化条件において、統計的に有意な結果は見出されなかった。これまで報告された分析は、ストループ課題のマスク化条件における結果を反映する。MANOVAは、ステロイド、試行、および幼児期における性的虐待の間の有意な交互作用を明らかにした(F(2,10)=13.6; p=0.001)。被験者内対比は、VPA(F(1,11)=10.97; p=0.007)およびストループRT(F(1,11)=5.85; p=0.034)の両方に対して有意な効果を裏付けた(図5)。
【0048】
幼児期の間に性的に虐待されている被験者は、官能的な刺激に対する減衰されたVPAを示し(虐待されていない被験者に対する増加>90%と比較して、ニュートラルな映画に比べて官能的な映画の間のVPAにおける薬剤投与前の増加は<60%)、かつテストステロンの有無での試行にわたる増加を示さない。しかしながら、これらの被験者は、テストステロンに対して鈍感ではない。テストステロンの影響下では、彼らは、注意バイアスを性的刺激から離すようにする(ストループRTが増加する)。虐待されていない被験者は、反対のパターンを示す:無テストステロン条件に対するテストステロン条件において、性的刺激に対する彼らの注意は増加し(ストループRTが減少する)、かつ平行に、官能的な映画に対する彼らのVPA反応は増加する。(単変量解析:VPA:VPAを被験者内従属尺度とし、かつ性的虐待を被験者間要因とする、2 ステロイド(テストステロン有/無)×2 試行(薬剤投与前-後)ANOVA:F(2,10)=5.9;p=<0.035;ストループRT:ストループRTを従属尺度とし、かつ性的虐待を被験者間要因とする、2 ステロイド(テストステロン有/無)×2 試行(前-後)ANOVA:F(2,10)=4.2;p<0.07)。
【0049】
FSDを患う女性のこの群において、バルデナフィルは、プラセボと比較して、性的刺激の条件下でVPAにおける有意差をもたらさなかった。明らかに、末梢操作は十分ではなく、中枢メカニズムが影響されることが必要である。本発明者らは、テストステロンが、そのような中枢に作用する性的メカニズムに対する影響であることを示す。しかしながら、本発明者らの被験者に対して、テストステロン単独は、プラセボと比較して、VPAにおける有意な増加に対して十分ではなかった。テストステロンとバルデナフィルとの組み合わせのみが、プラセボと比較して、VPAにおける有意な増加をもたらす。
【0050】
本発明者らは、本発明者らが被験者の下位群を識別し得ることを見出した。性的に虐待された女性の下位群に対して、テストステロンは、性的刺激に対する注意に対する効果を有した。これらの被験者が性的刺激に対するより大きな注意を有した際、彼らの性器反応は増加しなかった。虐待されていない、健康な女性およびFSDを伴う女性の両方は、彼らの注意が性的刺激に向けられる際、性器反応を伴って反応する。本発明者らは、本研究において、虐待の経歴のない患者に対しては、性的刺激のプロセシングならびにこれらの性的刺激に対する彼らの性器反応に割り当てられる両方のリソースを増加させるという点において、テストステロンとPDE5-阻害剤との組み合わせが有益であることを示した。観察された効果は、幼児期の間に性的に虐待された女性の下位群においては、あまりはっきりしなかった。これらの女性に対しては、テストステロンまたはその類似体およびPDE5-阻害剤は、任意で精神治療的な診療で補足される。
【0051】
小規模な研究において(N=4)、本発明者らは、4人の健康な女性において、テストステロンとPDE5-阻害剤との組み合わせの投与後の、官能的な映画クリップの間の、幸せな男性の顔の潜在意識下への提示の有効性をさらに調べた。女性は、官能的な映画の抜粋のみの条件と比較して、潜在意識下への幸せな男性の顔の提示の条件において、増加した自覚的性的興奮を報告した。
【0052】
参照
図1
図2
図3
図4
図5