【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [公開内容]山本太郎、外3名:平成27年度土木学会北海道支部論文報告集第72号「破堤時の締切での投入ブロック流失防止に用いる鋼製補助工に関する実験」[掲載日]平成28年1月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [公開内容]山本太郎が土木学会北海道支部平成27年度年次技術研究発表会にて「破堤時の締切での投入ブロック流失防止に用いる鋼製補助工に関する実験」の公開を行った。[開催日]平成28年1月30日
【文献】
山本太郎 外5名,洪水の流水中にブロックを投入した際の転動しやすさに関する水理実験と力学的考察,土木学会論文集B1(水工学),日本,公益社団法人土木学会,2016年 1月29日,Vol.71、No.4、2015,第517−522頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、堤防の決壊部における締切作業においては、投入したブロックが水底の何かに偶然引っ掛かることを足がかりにして、それ以降に投入するブロックが止まっていると考えた。そして、鋭意研究の結果、投入したブロックが偶然何かに引っかかるのを期待するのではなく、予めブロック等が引っ掛かり易い構造物を意図的に投入することにより、締切作業を効率化できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
以下、本発明に係る堤防締切用補助構造物およびこれを用いた堤防締切工法の第1実施形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
本発明に係る堤防締切用補助構造物は、堤防の決壊部を締め切るための締切用部材を受け止めて締切作業を補助するものである。具体的には、
図1に示すように、本第1実施形態の堤防締切用補助構造物1Aは、主として、水中での転動を防止する一対の転動防止材2,2と、これら転動防止材2,2を連結する横軸材3とによって構成されている。以下、各構成部材について詳細に説明する。
【0018】
なお、本発明において、決壊部とは、堤防が完全に決壊している部分に限られるものではなく、決壊の危険性がある部分を含む概念である。また、本発明において、締切用部材とは、コンクリートブロック、大型土のう、砕石等のように、堤防の決壊部から流出する流れを堰き止めて決壊部を締め切るための全ての部材を含む概念である。
【0019】
まず、一対の転動防止材2,2は、堤防締切用補助構造物1Aが水中で転動するのを防止するためのものである。本第1実施形態において、各転動防止材2,2は、略十字架形状に形成されており、
図1に示すように、水底に接地する短脚部21と、当該短脚部21より長い長脚部22とが直交するように接合されている。そして、これら転動防止材2,2のそれぞれが、所定の長さを有する横軸材3の両端部近傍に固定されることにより連結されている。
【0020】
なお、堤防締切用補助構造物1Aの構成は、上記構成に限定されるものではなく、短脚部21と長脚部22とは所定の角度で接合されていればよい。例えば、短脚部21と長脚部22と水底とによって形成される三角形が鈍角三角形になるように、前記短脚部21と前記長脚部22とで構成される角度が90°以上をなすように接合してもよい。この場合、堤防締切用補助構造物1Aの重心位置が低くなり、流水中での安定性がさらに向上することとなる。
【0021】
また、各転動防止材2,2は、略十字架形状に限定されるものではなく、短脚部21と長脚部22とを有する限り、
図2に示すように、略L字形状に形成されていてもよい。さらに、横軸材3の長さは、使用する締切用部材が引っ掛かり易く、かつ、通常の重機で施工できる程度の長さに形成することが好ましい。
【0022】
また、
図1では、一対の転動防止材2,2および横軸材3が、角形鋼管(正方形)で図示されているが、この構成に限定されるものではない。例えば、汎用性や製造コストを考慮すると、横断面略H形に形成された鋼材(H形鋼)によって形成することが好ましく、他の一般的な鋼材を適宜選択してもよい。また、接合方法は、ボルト等で固定してもよく、溶接等で接合してもよく、各転動防止材2,2と横軸材3とを一体的に形成してもよい。
【0023】
以上の構成において、長脚部22は、決壊部の流れによって堤防締切用補助構造物1Aが転動するのを防止する長さを有している。以下、当該長さについて具体的に説明する。
【0024】
まず、
図3に示すように、堤防締切用補助構造物1Aが、横軸材3の長手方向が決壊部における流れ方向に対して略垂直であって、長脚部22が下流側に接地している場合、堤防締切用補助構造物1Aには、流れの抗力DによるモーメントM1と、堤防締切用補助構造物1Aに作用する重力WによるモーメントM2とが作用する。
【0025】
ここで、モーメントM1は、長脚部22の接地点を回転の支点として、堤防締切用補助構造物1Aを転動させる方向(
図3の時計回り方向)に作用する。一方、モーメントM2は、長脚部22の接地点を回転の支点として、転動を抑制する方向(
図3の反時計回り方向)に作用する。このため、M1>M2の場合に、堤防締切用補助構造物1Aが流れ方向に転動し、M1≦M2の場合に、当該転動が防止されると考えることができる。
【0026】
なお、堤防締切用補助構造物1Aには、上述した抗力Dおよび重力Wの他に、揚力が作用する。しかしながら、水中の物体に作用する揚力は、抗力Dに対して1オーダー程度小さいことが知られている。よって、本第1実施形態では、堤防締切用補助構造物1Aに作用する揚力は考慮しないこととした。また、本第1実施形態において、重力Wは、堤防締切用補助構造物1Aの単体質量に、堤防締切用補助構造物1Aに作用する浮力を考慮して算出されている。
【0027】
以上において、堤防締切用補助構造物1Aに作用する前記モーメントM1は、下記式(2)によって表される。
M1=D×L1=ρ
w/2・C
D・A・V
2×L1 …式(2)
ただし、各符号は以下を表す。
ρ
w:水の密度
C
D:抗力係数
A:堤防締切用補助構造物の流下方向の投影面積
V:決壊部における流れの代表流速
L1:流れの抗力が作用する位置の水底からの高さ
【0028】
なお、本第1実施形態において、上記抗力係数C
Dは、後述する実施例2において、任意の縮尺で作成した堤防締切用補助構造物1Aの模型を用いて行った実験により求めた下記計測値D、ρ
w、A
d、V
dと、下記の式(3)とを用いて算出した値である0.81を用いている。
C
D=2D/(ρ
w・A
d・V
d2) …式(3)
ただし、各符号は以下を表す。
D:模型に作用する抗力
ρ
w:水の密度
A
d:模型の流下方向の投影面積
V
d:模型の近傍流速
【0029】
ただし、上記抗力係数C
Dの算出方法は、上述した方法に限られるものではなく、堤防締切用補助構造物1Aの抗力係数を算出する方法であれば、特に限定されるものではない。
【0030】
一方、堤防締切用補助構造物1Aに作用する前記モーメントM2は、下記式(4)によって表される。
M2=W×L2 …式(4)
ただし、各符号は以下を表す。
W:堤防締切用補助構造物に作用する重力
L2:長脚部の接地点から重心位置までの水平距離
【0031】
ここで、上記のとおり、M1≦M2を満たす場合に、堤防締切用補助構造物1Aの転動流失が防止され水底にとどまると考えられる。よって、上記式(2)のM1および上記式(4)のM2をそれぞれ代入すると、下記式(1)が導出される。
L2/L1≧ρ
w・C
D・A・V
2/2W …式(1)
【0032】
すなわち、本第1実施形態では、短脚部21および長脚部22が、決壊部における流れの代表流速Vに応じて、上記式(1)を満たすように形成されている。これにより、長脚部22は堤防締切用補助構造物1Aの転動を防止する長さを有することとなる。
【0033】
なお、L2/L1の値は、大きいほど安定性が増すため、堤防締切用補助構造物1Aの重量が大きくなり過ぎない程度に大きな値に設定することが好ましい。
【0034】
つぎに、本第1実施形態の堤防締切用補助構造物1Aの作用、および当該堤防締切用補助構造物1Aを用いた堤防締切方法について説明する。
【0035】
まず、本第1実施形態の堤防締切用補助構造物1Aを用いて、堤防の決壊部を締め切る締切工事を行う場合、コンクリートブロック等の締切用部材とともに、本第1実施形態の堤防締切用補助構造物1Aを現場へ運搬する。このとき、堤防締切用補助構造物1Aは、5本の鋼材からなる単純な構造であるため、軽重量で運搬しやすく緊急時の施工性に優れている。
【0036】
また、本第1実施形態において、堤防締切用補助構造物1Aは、転動防止材2,2および横軸材3としてH形鋼等を用いることにより、材料の汎用性や備蓄性に優れるとともに、低コストで製造することが可能である。さらに、堤防締切用補助構造物1Aは、鋼材製とすることで、ある程度の自重を持つため、流水中での転動が抑制されることとなる。さらに、断面積が小さいため、流水から抗力を受けにくくなる。
【0037】
つぎに、堤防の決壊部の締切法線上に、堤防締切用補助構造物1Aを投入する。このとき、堤防締切用補助構造物1Aは、従来の巨大ブロック等と比較して極めて軽量であるため、一般的な重機等により投入可能である。このため、締切作業の施工性が向上するとともに、作業時間が短縮される。なお、上記締切法線は、堤防の在来法線上、堤外または堤内に、適宜決定される。また、堤防締切用補助構造物1Aを投入する方法として、クレーン等の重機を用いてもよく、上空からヘリコプター等を用いて投下してもよい。
【0038】
本第1実施形態において、堤防締切用補助構造物1Aは、横軸材3の長手方向が決壊部の流れ方向に対して略垂直であって、長脚部22が流れの下流側に接地されるような向きで投入される。これにより、堤防締切用補助構造物1Aは、流木等の異物に衝突しない限り、横軸材3の長手方向が流れ方向に対して略垂直のまま沈下し、長脚部22が下流側に接地するとともに、短脚部21が上流側に接地する。このため、堤防締切用補助構造物1Aは、機能しやすい姿勢で水底に止まることとなる。なお、本発明において、略垂直とは、流れ方向と横軸材3のなす角度が90°の状態のみならず、本発明の作用効果を奏する範囲で90°前後を含む概念である。
【0039】
水底に接地した堤防締切用補助構造物1Aには、
図3に示すように、長脚部22の接地点を回転の支点として、転動させる向きのモーメント(M1)と、転動を抑制する向きのモーメント(M2)とが作用する。このとき、本第1実施形態では、長脚部22が堤防締切用補助構造物1Aの転動を防止する長さを有しているため、常にM1≦M2の状態を保持する。したがって、堤防締切用補助構造物1Aは、水底で転動することなく安定的に決壊部近傍にとどまる可能性が高くなる。
【0040】
また、堤防締切用補助構造物1Aを決壊部に投入した後、
図4に示すように、当該堤防締切用補助構造物1Aの上流側に締切用部材をさらに投入する。これにより、締切用部材が水底を転動しても、水底に止まっている堤防締切用補助構造物1Aが、当該締切用部材を受け止めて停止させる。したがって、決壊部近傍に締切用部材が留置されて締め切り作業が補助される。
【0041】
締切用部材が堤防締切用補助構造物1Aに捕捉されて一体化すると、重量が増して転動が一層抑制される。このため、コンクリートブロックや砕石等の締切用部材を次々に投入することにより、速やかに堰が形成されて締め切られる。以上のように、決壊部が多数の締切用部材によって締め切られると、流れが消失または大幅に弱められ、本第1実施形態の堤防締切方法による締切工事が完了する。
【0042】
以上のような本第1実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.堤防の決壊部における流れの中に投入されても転動しにくく、水底に安定的にとどまり、締切用部材を受け止めて締切作業を補助することができる。
2.単純かつ軽量な構成でありながら締切用部材を効果的に捕捉するため、緊急時の施工性に優れており、作業時間を短縮することができる。
3.簡単に組み立て可能であるため、分解することにより、多数の堤防締切用補助構造物1Aを一度に運搬することができる。
4.締切用部材が流失することを抑制し、作業コストを低減することができる。
5.決壊部における流れの代表流速に応じて、堤防締切用補助構造物1Aの転動を防止する長脚部22の長さを簡単に特定することができる。
6.決壊部から流出する流れを迅速に締め切り、浸水等の被害が拡大するのを防止することができる。
【0043】
つぎに、本発明に係る堤防締切用補助構造物1Bおよびこれを用いた堤防締切工法の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態における構成のうち、上述した第1実施形態と同一もしくは相当する構成については同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0044】
本第2実施形態の堤防締切用補助構造物1Bの特徴は、
図5に示すとおり、一対の転動防止材2,2の連結方向に沿って、転動防止材2が横軸材3(第1の横軸材31)にさらに連結されている点にある。また、堤防締切用補助構造物1Bは、第1の横軸材31と平行であって、各長脚部22の先端部同士を連結する第2の横軸材32を備えている。なお、本第2実施形態において、第1の横軸材31と第2の横軸材32は、同じ長さになっている。
【0045】
以上の構成により、各横軸材31,32の連結方向にさらなる転動防止材2を備えることで、堤防締切用補助構造物1Bの横幅(横軸材3の長手方向長さ)を延伸することが可能となる。このため、後述する実施例7で示すとおり、横軸材3の向きが流下方向と略平行になるように水底に設置されても、回転の支点から重力が作用する点までの水平距離が長くなり、転動を抑制するモーメントM2が大きくなる。
【0046】
すなわち、本第2実施形態の堤防締切用補助構造物1Bおよびこれを用いた堤防締切工法によれば、投入される際の向きに関わらず、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。ただし、構造の複雑化および重量の増大化が伴うため、ケースバイケースで第1実施形態の堤防締切用補助構造物1Aと使い分けることが好ましい。
【0047】
つぎに、本発明に係る堤防締切用補助構造物およびこれを用いた堤防締切工法の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0048】
本実施例1では、実際の洪水時における河川の流速を想定して、長脚部22および短脚部21の現実的な長さ比を求める実験を行った。具体的には、第1実施形態の堤防締切用補助構造物1Aの1/20スケールの模型を作成し、
図6に示すような流速を調節可能な実験水路に当該模型を沈めて各種のデータを測定した。
【0049】
なお、実験水路は、幅0.7mであり、長さ10mの水路である。洪水時の移動床を再現するために、実験水路縦断方向5mの範囲で中央粒径d50(0.943mm)の混合粒径の砂が敷き詰められている。実験水路に勾配はなく水平であり、ポンプ41によって給水された水が実験水路の上端のタンク42からそのまま流れ出るようにした。また、実験水路の上端には整流板43を設け、流れが層流になるようにした。また、下流端の堰上げ44により水深を確保することで、模型の配置箇所での流れが等流状態となるように配慮した。
【0050】
以上の実験系において、本実施例1では、河川の流速Vを0.8m/s、1.0m/s、および1.2m/sと想定し、各場合において、上記式(2)と上記式(4)を用いて、L2/L1を変化させた場合の、M1に対するM2の比(M2/M1)を評価した。その結果を
図7に示す。なお、上記式(2)のL1は、短脚部21の長さとし、上記式(4)のL2は、長脚部22の長さとした。
【0051】
上記のとおり、M2/M1≧1の場合、堤防締切用補助構造物1Aは流水中で転動しないと考えられる。そこで、
図7の結果より、各流速において、M2/M1≧1を満たす条件を特定した。具体的には、流速Vが0.8m/sの場合、L2/L1≧1.375であった。また、流速Vが1.0m/sの場合、L2/L1≧2であった。さらに、流速V=1.2m/sの場合、L2/L1≧2.625であった。
【0052】
以上の本実施例1によれば、実際の洪水時における河川の流速を想定した場合において、堤防締切用補助構造物1Aの転動を防止しうる長脚部22および短脚部21の現実的な長さ比は、1.375から2.625の範囲内であることが示された。
【実施例2】
【0053】
本実施例2では、上述した実施例1と同様の模型および実験水路を用いて、堤防締切用補助構造物1Aの抗力係数を算出する実験を行った。本実施例2では、横軸材3の長さが2mであり、水平面に配置した際の全体長さが3.807mであり、全体高さが1.934mである堤防締切用補助構造物1Aの抗力係数を求めることとした。また、実験水路では、代表流速が0.25m/sになるように水の流量を調整した。そして、水路中央の水底に模型を置き、流水の流下方向の鉛直方向流速分布を測定して、模型の全体高さ(ha:0.097m)における流速(近傍流速)を導出した。模型の近傍流速(V
d)は、0.875m/sであった。
【0054】
また、本実験におけるフルード数(Fr)は、下記の式(5)によって算出される。
Fr=V
m/(g・Hd)
1/2 …式(5)
V
m:鉛直方向流速分布の平均値
g:重力加速度
Hd:水路の平均水深
本実施例2において、V
mは0.896m/sであり、Hdは0.325mであった。したがって、上記式(5)から算出されるFrは0.502であった。これにより、流水が常流になっていることが確認できた。
【0055】
さらに、本実験におけるレイノルズ数(Re)は、下記の式(6)によって算出される。
Re=V
d・ha/ν …式(6)
V
d:模型の近傍流速
ha:模型の全体高さ
ν:水の動粘性係数
本実施例2において、V
dは0.875m/sであり、haは0.097mであり、νは1.31E−06m
2/sであった。したがって、上記式(6)から算出されるReは64800であった。これにより、実験水路は実河道でのレイノルズ数を再現できていることが確認できた。
【0056】
本実施例2において、上記模型の近傍流速V
dは、模型を水平な水底に置いた状態での全体高さにおける流速である。具体的には、模型単体を水路に設置した状態で、模型周辺部の鉛直流速分布を計測し、計測した鉛直流速分布から全体高さにおける流速を算出している。なお、近傍流速の算出方法は、上記の方法に限られず、例えば、計測した鉛直流速分布の積分から流速の平均値を算出する方法であってもよい。また、上記Dは、上記V
dを測定するのと同時に、分力計を用いて計測された抗力である。
【0057】
以上の実験系において、分力計を用いて所定の振動数で流水の抗力を測定して、平均抗力を算出した。その結果、平均抗力は、0.766Nであり、これを模型に作用する抗力Dとした。また、水の密度ρ
wは、999.7kg/m
3であり、模型の流下方向の投影面積A
dは、0.0024m
2であった。以上の結果を、上記式(3)の各パラメータに代入して得られた抗力係数C
Dは、0.81であった。同様の方法により、代表流速が0.30m/sと0.35m/sの場合においても、抗力係数を算出したところ、3つのケースで算出された抗力係数が、レイノルズ数に対して一定値に収束にすることが確認された。
【0058】
以上の本実施例2によれば、短脚部21および長脚部22の長さを特定するための上記式(1)に必要な抗力係数が、実験によって別途算出できることが示された。
【実施例3】
【0059】
本実施例3では、短脚部21と長脚部22の長さが等しい構造物(タイプA)と、第1実施形態に係る堤防締切用補助構造物1A(タイプB)と、従来のコンクリートブロック(ブロックA)の各簡易モデルについて、転動限界流速uを算出するシミュレーション計算を行った。本実施例2では、M1とM2の値が一致する状態を堤防締切用補助構造物1Aが転動する限界状態とみなしている。また、転動限界流速uは、当該限界状態における流速であり、上記式(2)、上記式(4)および各式のパラメータ値を用いて算出した。
【0060】
本実施例2において、タイプAの短脚部21の長さと長脚部22の長さは、いずれも0.05mであった。これに対し、タイプBの短脚部21の長さは0.05mであり、長脚部22の長さは0.15mであった。タイプAおよびタイプBの横軸材3の寸法は、いずれも0.15mであった。タイプAおよびタイプBの重力(W)は、実際に測定された重量と総体積から算出されたものである。なお、タイプAおよびタイプBを構成する各部材の寸法は、実際に想定する構造物を1/20に縮尺して算出されたものである。ブロックAは、従来の2トン型のコンクリートブロックの縮尺モデルであり、ブロックAの寸法および重力は、実際の寸法および重力を1/20に縮尺して算出されたものである。
【0061】
各簡易モデルの転動限界流速uの計算値、転動限界流速uにおける抗力D、M1およびM2、パラメータ値を
図8に示す。なお、各簡易モデルの抗力係数CDは、実施例2に示す実験方法によって得られた値を用いた。タイプBの転動限界流速uは、1.05m/sであったのに対し、タイプAの転動限界流速uは、0.53m/sであった。タイプAとタイプBの形状は、長脚部22の長さが異なるのみで、他の形状は同一であり、抗力係数も同程度である。したがって、長脚部22を短脚部21の3倍にすることで、転動限界流速uが約2倍近くになり、本発明に係る作用効果が得られることが確認できた。なお、ブロックAの転動限界流速uは、0.48m/sであった。
【0062】
以上の本実施例3によれば、本発明に係る堤防締切用補助構造物1A(タイプB)は、計算上、構造物(タイプA)および従来のコンクリートブロック(ブロックA)と比較して、転動限界流速uが大幅に増大することが示された。
【実施例4】
【0063】
本実施例4では、上述した実施例1で用いた実験水路に、上述した実施例3で想定した各簡易モデルを水中に投入または配置させた場合における、転動限界流速を実際に確認する実験を行った。本実施例4では、
図9に示すように、短脚部21と長脚部22の長さが等しい構造物(タイプa)と、第1実施形態に係る堤防締切用補助構造物1A(タイプb)と、従来のコンクリートブロック(ブロックA)の各簡易モデルを用いた。
【0064】
なお、
図9に示す括弧外の数値は実際の構造物の寸法を示し、括弧内の数値は実験に使用した簡易モデルの寸法を示す。簡易モデルの寸法は、実際の寸法の1/20の縮尺値を用いており、単位はミリメートルである。また、タイプaおよびタイプbは、H150×H150のH形鋼の使用を想定した場合、実際の重量は、タイプaは約350kgであり、タイプbは約500kgである。
【0065】
実験は、各簡易モデルを単体で、水中に投入または水底に配置させて、転動するかを目視で確認する方法で行った。各簡易モデルを投入させる際は、横軸材3の長手方向が流下方向に垂直かつ水面と平行であって、長脚部22の端点が下流側になるように、水面直上位置から自由落下させた。そして、流量を段階的に増加させて転動するかを確認した。
【0066】
各簡易モデルを水底に配置させた状態での実験は、あらかじめ通水している流れのなかに各簡易モデルを手に持って沈めて水底にできるだけ静かに配置し、手を離し転動するかを確認する方法で行った。転動するかの指標となる流速は、簡易モデルの横軸材3の高さ付近の位置でプロペラ流速計で計測した。投入実験および配置実験は各流量段階で3回繰り返して行った。その結果を
図10に示す。なお、流速における括弧内の値は実物大換算流速である。
【0067】
図10に示すように、本発明に係る堤防締切用補助構造物1Aに相当するタイプbは、流速0.8m/s程度(フルード則換算による参考値で3.6m/s相当、以下実物大換算は全てフルード則による)まで転動せずに水底にとどまった。また、投入実験と配置実験の結果を比較すると、配置実験のほうが転動限界流速が高い結果となった。
【0068】
一方、比較例であるタイプaは、投入・配置いずれの場合も流速0.4m/s程度(実物大1.8m/s相当)で転動流失した。タイプaとタイプbの形状は、長脚部22の長さが異なるのみで、他の形状は同一である。これにより、長脚部22を短脚部21の3倍にすることで、転動限界流速uが約2倍近くになり、本発明に係る作用効果が得られることが確認できた。なお、ブロックAは、投入の場合、流速0.4m/sを越えると転動流失した。
【0069】
以上の本実施例4によれば、本発明に係る堤防締切用補助構造物1A(タイプb)は、実験上においても、構造物(タイプa)および従来のコンクリートブロック(ブロックA)と比較して、転動限界流速uが大幅に増大することが示された。
【実施例5】
【0070】
本実施例5では、上述した実施例1で用いた実験水路において、上述した実施例4で用いたタイプbが、水中で転動するブロックAを受け止めることを確認する実験を行った。実験は、異なる流速下で、タイプbを先に水底に配置し、その上流側にブロックAを投入して転動させて、ブロックAがタイプbと衝突して停止することを目視で確認する方法で行った。その結果を
図11に示す。
【0071】
図11に示すとおり、流速を0.66m/s(実物大3.0m/s相当)から0.85m/s(実物大3.8m/s相当)まで増加させても、1〜3回目の全実験において、水中を転動するブロックAはタイプbと衝突して停止した。
【0072】
以上のような本実施例5によれば、本発明に係る堤防締切用補助構造物1Aは、流水中を転動しているブロック受け止めて停止させることが示された。
【実施例6】
【0073】
本実施例6では、上述した実施例1で用いた実験水路において、上述した実施例4で用いたタイプbがブロックAを受け止めて一体となった状態で、タイプbがブロックAの転動流失を抑制することを確認する実験を行った。実験は、ブロックAがタイプbに捕捉されて一体となった状態で流速を増加させて、ブロックAおよびタイプbが水底にとどまり続けることを目視で確認する方法で行った。その結果を
図12に示す。
【0074】
図12に示すとおり、流速を0.75m/s(実物大3.4m/s相当)から0.92m/s(実物大4.1m/s相当)まで増加させても、タイプbおよびブロックAは流失しなかった。
【0075】
以上のような本実施例6によれば、ブロックが単体では転動流失してしまうような流速下であっても、本発明に係る堤防締切用補助構造物1Aに捕捉されて一体の状態になることで転動流失が抑制されることが確かめられた。
【実施例7】
【0076】
本実施例7では、上述した実施例1で用いた実験水路において、
図13に示すように、上述した第2実施形態に係る堤防締切用補助構造物1Bの簡易モデル(タイプc)を水中に配置させた場合における転動限界流速を実際に確認する実験を行った。タイプcを構成する各部材の寸法は、
図13に示す通りであり、配置実験は、実施例4と同様の方法で行った。なお、比較のため、実施例4で用いたタイプb単体の転動限界流速も同時に測定した。その結果、
図14(a)に示すとおり、タイプbとタイプcの転動限界流速は、同程度であった。
【0077】
つづいて、横軸材3の向きを流下方向に平行となるように簡易モデルを水底に横置きして、タイプbとタイプcそれぞれの転動限界流速を確認した。その結果、
図14(b)に示すとおり、タイプbは、流速0.62m/s程度(実物大2.8m/s相当)で転動流失したのに対し、タイプcは、流速0.69m/s程度(実物大3.1m/s相当)まで転動せずに水底にとどまった。
【0078】
以上のような本実施例7によれば、横軸材3の中央部に転動防止材2を追加し、横軸材3を長手方向に延伸させることで、横置き状態の転動限界流速が向上することが示された。
【0079】
なお、本発明に係る堤防締切用補助構造物およびこれを用いた堤防締切工法は、前述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、堤防締切用補助構造物が水底で止まった場所を推定するために、長いロープ等によって堤防締切用補助構造物にブイを結び付けておいてもよい。これにより、当該ブイの動きによって、堤防締切用補助構造物1Aが水底に停止したことを目視で確認した後、締切用部材の投入を開始することができる。
【0080】
また、各転動防止材2,2および横軸材3には、互いに接触する面のいずれか一方に切り欠き部を形成してもよい。これにより、当該切り欠き部に他方の面を嵌合するだけで、簡単に位置合わせされ、迅速かつ容易に組み立て可能であるから、現場までは分解した状態で運搬することができる。
【課題】 堤防の決壊部における流れの中に投入されても転動しにくく、締切作業の施工性を向上させるとともに作業時間を短縮することができる堤防締切用補助構造物と、それを用いた堤防締切工法を提供する。
【解決手段】 堤防の決壊部を締め切るための締切用部材を受け止めて締切作業を補助する堤防締切用補助構造物1Aであって、水底に接地する短脚部21と短脚部21より長い長脚部22とが所定の角度で接合されてなる一対の転動防止材2が、所定の長さを有する横軸材3によって連結されており、長脚部22は堤防締切用補助構造物1の転動を防止する長さを有している。