(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
肌当接面側に配置された液透過性の表面層、非肌当接面側に配置された液難透過性の防漏層、及び前記表面層と前記防漏層との間に配置された液保持性の吸収層を有する吸収性物品であって、
前記吸収層は、熱融着繊維と親水性繊維とを有し、前記熱融着繊維が前記吸収層の肌当接面側に偏在しており、該熱融着繊維の繊度が1.2dtex以上7dtex以下であり、
前記表面層は、肌当接面側及び非肌当接面側を一体的に厚み方向に賦形させた複数の凸部及び凹部を有し、該凸部及び凹部が平面視交差する異なる方向において交互に隣接して配されて凹凸形状をなし、前記表面層の凸部の非肌当接面側はアーチをなし、前記吸収層との間に空間部が配されており、前記アーチとこれに隣接するアーチを繋いで平面視分散配置された前記凹部の非肌当接面側においてのみ、前記吸収層との接合部が配設されており、
前記接合部においては、前記熱融着繊維の熱融着性により前記表面層と前記吸収層とが融着固定されており、前記表面層は、前記凸部の頂部から前記凹部へ向かって繊維密度が高くなっており、
前記接合部において、前記表面層及び前記吸収層がともに繊維間空間を保持している吸収性物品。
前記表面層において、前記凸部の肌当接面側は頂部を有するドーム形状であり、前記凹部の肌当接面側は該凹部を囲む複数の前記凸部から底部頂部へと至る窪み形状である請求項1又は2記載の吸収性物品。
前記表面層と前記吸収層との接合部は、前記吸収性物品の長手方向に等間隔で配置された列をなし、該列が幅方向に複数列配置されており、前記接合部の列は隣り合う列と半ピッチずれた配置とされている請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の吸収性物品を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は本発明の吸収性物品の直交する2切断面で示した斜視図である。本実施形態の吸収性物品は、肌当接面側に配置された液透過性の表面層1、非肌当接面側に配置された液難透過性の防漏層3、及び前記表面層1と前記防漏層3との間に配置された液保持性の吸収層2を有する。
表面層1は、吸収層2の肌当接面側に配される凹凸形状を有するシート体であり、排泄液を吸収層2へと素早く透過させる。表面層1は、排泄された体液を速やかに透過させ、吸収層に伝達する観点と、肌触りのよさの観点から、親水性のエアスルー不織布からなる。防漏層3は、吸収層2の非肌当接面側の全面を覆って接合され、液漏れを防いでいる。防漏層3は、この観点から、液難透過性の部材からなり、例えば、通気性を有し液不透過性の透湿性フィルム等を用いて形成されたシート体である。前記液難透過性とは、液を透過させにくい性質を意味し、防水性、撥水性及び液不透過性を含む。なお、本発明においては、表面層1及び防漏層3は、本実施形態のシート体に限らず、複数の部材を組み合わせたものや厚みに変化を持たせたものなど、種々の態様のものを任意に採用できる。
【0011】
本発明においては、特に断らない限り、人体に接触する側を肌面側ないし肌当接面側あるいは表面側といい、これと反対側を非肌面側ないし非肌当接面側あるいは裏面側という。着用時に人体の前側に位置する方向を前方といいその端部を前端部とし、後側に位置する方向を後方といいその端部を後端部として説明する。吸収性物品の表面又は裏面の法線方向を厚み方向といいその量を厚みという。
【0012】
まず、
図1及び2を参照して、表面層1について以下に詳述する。
表面層1は、
図1に示すように、肌当接面側及び非肌当接面側が一体的に厚み方向に賦形された複数の凸部11及び凹部12が繰り返す、凹凸形状を有している。凸部11は、肌当接面側から見れば肌当接面側(Z1)方向に突出した表面凸部11aであり、非肌当接面側から見れば非肌当接面側(Z2)から肌当接面側(Z1)へと窪んだ裏面凹部11bである。一方、凹部12は、肌当接面側から見れば非肌当接面側(Z2)に窪んだ表面凹部12aであり、非肌当接面側から見れば肌当接面側(Z1)から非肌当接面側(Z2)へと突出した裏面凸部12bである。
これらの凹部11と凸部12とが、平面視交差する異なる方向(
図1におけるX方向、Y方向及びこれらと交差する異なる方向など)に交互に、隣接して周期的に複数配置されている。これにより、表面層1は、
図1に示すように、凹凸の周期的な繰り返しを平面方向のほぼ全域に亘って有する形状である。
【0013】
このような表面層1の肌当接面側は、
図2に示すように、表面凸部11aで着用者の肌と接触することとなり、接触面積を効果的に抑制できる。また、表面凹部12aは、肌との間に空間を形成し通気性に優れる。加えて表面凹部12aは、周囲の表面凸部11aから流れ落ちる排泄液の捕捉性が高く、表面層4の肌当接面側での液の拡散を効果的に抑制し得る。そのため、肌と排泄液との接触が好適に抑制され、着用者の肌の濡れた感じが抑制される。これらにより良好な着用感が奏される。
さらに、表面凸部11aは、肌との接触面積を低減する観点から、表面凹部12aから肌当接面側へと隆起して頂部11tを有するドーム形状であることが好ましい。また、表面凹部12aは、液捕捉性の観点から、その周辺の複数の表面凸部11aから底部頂部12tへと至る窪み形状であることが好ましい。例えば、円錐や円錐台、楕円錐、楕円錐台を逆さにした形状、すり鉢形状ないしお椀形状など凹部の広がりが底部頂部12tへと収束する形状であることが好ましい。
【0014】
一方、表面層1の非肌当接面側においては、
図3に示すように、表面凹部12aに対応する裏面凸部12bが、吸収層2と接合部5において接合固定されている。接合部5では、エンボス処理が施され、表面層1と吸収層2とが接合されている。本実施形態の接合部5においては、接着剤等を用いずに、吸収層2にある熱融着繊維25の熱融着により表面層1と吸収層2とが融着接合されている。この点は、後述の吸収層2の説明においてさらに詳述する。
また、表面凸部11aに対応する裏面凹部11bは、複数の接合部5に囲まれた領域で吸収層2と非接合であり、その断面形状が吸収層2に対してアーチ8を形成する。これにより、裏面凹部11bと吸収層2との間には、空間部4が形成されている。つまり、アーチ8とアーチ8とを繋いで平面視分散配置される前記凹部の非肌当接面側(裏面凸部12b)においてのみ、表面層1と吸収層2とが接合されている。
【0015】
空間部4の存在によって、凸部11と吸収層2とが分離した状態とされている。この部分において、表面層1は、吸収層2の厚みによる剛直性の影響を受けず、自在に変形可能とされている。つまり、表面層1の肌当接面側からの押圧に対し、表面凸部11aが吸収層2の制限を受けず圧縮仕事量が大きく、肌に触れたときのふんわりとした感触が増す。これによりやわらかなクッション感が得られる。
特に、本実施形態の表面層1及び吸収層2を組み込んだ吸収性物品は、複数の頂部11t付近で着用者の肌と接触することとなる。この場合、凸部11は、肌との接触面積を低減する一方で、体圧を直接受けることとなる。この体圧は、厚み方向の押圧(
図2の白矢印f1)に限らず、着用者の動きに合わせた多方向からの圧力(
図2の白矢印f2、f3)などとして加えられる。この場合でも、凸部11は、接合部5を基礎として、裏面凹部11bにおいて吸収層2に対しアーチ8が維持されつつ、空間部4の存在で表面凸部11aは、吸収層2とは分離して動きやすい(圧縮仕事量が大)。そして、多方向からの力に対しても柔軟に変形し、追従することができる。そのため表面凸部11aが弾けるようにして肌と擦れることが生じ難く、摩擦が少ない。その結果、肌に触れた感じが柔らかく、優しい肌触りとなる。これらのことが、後述の吸収層2の柔らかな風合いと相俟って、吸収性物品の着用感の向上をもたらす。加えて、凸部11は、空間部4の介在により吸収層2と密着せず、液を吸った後の吸収層2のヘタリの影響を受けず形状が維持され易い。
【0016】
次に、
図2を参照して、吸収層2について説明する。さらに表面層1と吸収層2との相互作用について説明する。
吸収層2は、熱融着繊維25を有する。また、排泄液を吸収保持する部材として親水性繊維を有する。吸収層2は、これらの構成繊維が積繊されてなる積繊体であるが、本実施形態では、積層体を熱処理することにより、熱融着繊維25が構成繊維に対して融着しているシート状吸収体である。本実施形態における吸収層2は、周囲を被覆するコアラップシートを有さず、表面層1及び防漏層3と直接接合固定されている。なお、吸収層2は、高吸水性ポリマーなど他の機能素材を含んでもよい。この場合、本実施形態のシート状吸収体である吸収層2は、高吸水性ポリマー等の粒子が脱落しにくく、また湿潤時の保形性に優れるので、好ましい。
【0017】
熱融着繊維25は、吸収層2の厚み方向(Z軸方向)にみて、肌当接面側に偏在している。この偏在というとき、肌当接面側における熱融着繊維25の含有率が、非肌当接面側よりも高いことをいい、含有率に相対的な差があることをいう。例えば、
図2に示す、接合部5が配設された領域M1において、接合部5付近の領域P4における熱融着繊維25の含有率(r4)が、非肌当接面付近の領域P5及びP6における熱融着繊維25の含有率(r5及びr6)よりも高い(r4>r5、r4>r6)(
図2においてこの部分の繊維の構成は図示せず)。この含有率の偏在においては、熱融着繊維25が領域P5及びP6に全くなく、肌当接面側の表面付近のみにある状態でもよい。この含有率は、後述の繊維密度の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0018】
次に、接合部5が配設された吸収層2の領域M1についてさらに詳述する。領域M1においては、吸収層2の肌当接面側の表面が、表面層1の凸部11の根元にあたる凹部12と、接合部5で接合固定されている。接合部5では、エンボスにより、吸収層2の肌当接面側にある熱融着繊維25の熱融着性が発現し、表面層1と吸収層2とが融着固定されている。
【0019】
熱融着繊維25の熱融着性による接合は、領域M2における表面層1の凸部のドーム、表面層1の吸収層2に対するアーチの良好な形成と空間部4の確保及び通液性と柔軟性の確保、並びにこれらの形態の保持性に好適である。これは、熱融着繊維25による融着接合の湿潤時の接合強度が高いことに加え、次の作用を奏することによる。また、接合部5の土台をなすシート状吸収体自体の湿潤時の優れた保形性が、前記のアーチの良好な形成等に好適である。
【0020】
熱融着繊維25の熱融着は、表面層2の凹部12、特に凹部12の底部頂部12t付近を的確に吸収層2に接合することができる。従来のホットメルト等の接着剤の場合は、必要箇所だけに塗布し必要箇所のみに接合部5を形成することは難しい。確実な接合のためには、吸収層の肌当接面側に、広い面積で接着剤を配置する必要があり、吸液性や柔軟性等に影響を与える。
これに対し、熱融着による接合では、凹凸賦形された表面層2の凹部12、特に底部頂部12t付近のみを吸収層2に押し当ててピンポイントに融着接合することができる。また、それ以外の部分で熱融着を生じさせないことが可能となる。そのため、表面層1の凸部11が押し潰されても吸収層2に接合されることはない。これにより領域M2において、凸部11つまり裏面凹部11bのアーチ8が好適に形成され易く、十分な空間部4の確保が可能となる。
また、吸収層2の肌当接面側において、接着剤の塗布と異なり、表面の硬化が接合部5のみと限定的である。しかも、表面層1の凹部12を吸収層2の熱融繊維25とピンポイントで融着させるので、それ以外の領域M2の表面層1及び吸収層2に張力が働き難く繊維は接合部5へ引きつられ難い。つまり、表面層1と吸収層2との接合による剛性が限定的である。これにより、表面層1及び吸収層2全体としても柔らかく、特に凸部11及び空間部4による前述の柔らかなクッション性がより効果的なものとなる。
【0021】
以上のとおり、表面層1のドーム状の凸部11ないしアーチ8の根元の接合部5として、湿潤時でも吸収層2から剥がれ難いものとするため、その接合強度は、乾燥時において、0.3N/10mm以上が好ましく、0.5N/10mm以上がより好ましい。また、湿潤時において、0.1N/10mm以上が好ましく、0.4N/10mm以上がより好ましい。一方、その上限は、接合部5における剛性を抑える観点から、乾燥時において、3N/10mm以下が好ましく、1N/10mm以下がより好ましい。
【0022】
・接合強度の測定方法
前述の接合強度の測定方法は、表面層1、吸収層2及び防漏層3の積層部分について幅30mm×長さ50mmで帯状に切り出して試験片とする。後述する所定の前処理を施した後、20℃、65%RHの環境下にて、オリエンテック(株)製のテンシロン引張試験機を用いて、前記試験片の長手方向の端部において、上部チャックに表面層1、下部チャックに吸収層2及び防漏層3をはさむ。その後、剥離速度300mm/分の速さで180°方向に引き剥がし、剥離強度を測定する。測定結果を試験片の幅(mm)で割って、単位幅当り接合強度(N/cm)とする。
また、乾燥状態の接着力は、切り出した試験片をそのまま測定に供し、一方湿潤状態の接着力は、試験片に生理食塩水を5cc流下して十分濡らして1分以上経過後、ペーパータオルを上面(ブロック状吸収部41)側から軽く押し付けて余分な水分を除去して、同様に強度測定を行う。測定はいずれもN=3平均とし、特に湿潤状態の測定は、濡らして1分後直ちに測定に入れるよう工夫する。
【0023】
さらに領域M1において、表面層1の凹部12は、前述のとおり高い捕集性により排泄液等が集まり易い。そのため、凹部12から排泄液等が素早く吸収層2の内部へと透過され、吸収保持される構造であることが好ましい。この液透過性の観点から、底部頂部12t付近に配される接合部5において、表面層1の凹部12及び吸収層2の繊維間の空間が保持されていることが好ましい。
この接合部5における繊維間の空間保持は、接着剤による接合ではなく、熱融着性繊維の熱融着性による繊維同士の接合により実現可能である。さらに言えば、フィルム化されない熱融着により実現可能である。つまり、接合部5において、熱融着で繊維間の距離が縮まる、つまり繊維密度が高まるとしても、繊維間の空間がなくなり膜状化しないことが好ましい。これにより、湿潤強度の高い確かな接合と良好な液透過性とが同時に達成され得る。また、確かな接合により、表面層の凹凸形状が維持され凹部の液捕集性が持続する。これがさらに前述の素早い液の透過性と相俟って、肌側での液残りが効果的に抑制される。さらに、接合部5における繊維間空間が保持されることで、フィルム化等に比して、その部分での剛性が適度に緩和されて、物品全体の柔らかさや柔軟性の向上に資する。
【0024】
さらにこの液の透過性について言えば、前述のとおり、接合部5における表面層1の凹部12の繊維密度が高められ、その毛管力で吸収層2へと液が積極的に引き込まれる。その結果、液の透過性がより効果的なものとなる。また、エンボスによる圧着で、凸部11の頂部11t付近よりも凹部12の底部頂部12t付近の繊維密度が高くされる。さらに言えば、頂部11tから底部頂部12tに向けて繊維密度が高められている。例えば、
図2に示すように、領域P1からP2を介してP3へと繊維密度が高められている。これにより表面層1において、凸部11で受けた液が凹部12へと引き込まれ易く、凹部12での捕集性がさらに高まる。この観点から、頂部11tに対する底部頂部12tの繊維密度の比は、1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。その上限は、特に制限はないが、風合いと液透過性を両立させる観点から、10 以下が好ましく、7以下がより好ましい。
【0025】
前述の液の透過性について、接合部5に加えて、接合部5の直下の吸収層2内部に、これと連接する繊維圧密融着部24が配設されていることが好ましい。この繊維圧密融着部24は、接合部5形成時のエンボス処理により吸収層2の繊維密度が高められ、かつ、熱融着繊維同士の交絡点ないしは熱融着繊維と親水性繊維との交絡点が融着して形成されたものである。吸収層2の内部で繊維が圧密化され繊維同士の交絡点が融着することで、押圧に対しても繊維間の空間が崩れることなく保持される。つまり、圧力下でも液の透過性に優れ、また高密度化による毛管力で、吸収層2の肌当接面側から液を下層へとより確実に素早く引き込むことができる。その結果、素早く吸収層2の下層等の内部で液を吸収保持させることができ、吸収層の肌当接面側に液を残し難くして液の表面層への液戻りを抑制できる。
【0026】
繊維密度は、例えば、以下の方法で測定することができる。
吸収層2の切断面を、走査電子顕微鏡を用いて拡大観察(繊維断面が30〜60本計測できる倍率(好ましくは150〜500倍)に調整し、繊維の断面数を測定し、一定面積あたりの前記切断面によって切断されている繊維の断面数を数え、1mm
2当たりの繊維の断面数に換算する。次に、得られた拡大画像から各繊維の断面積を測定し、各々の繊維を測定した断面積を有する柱状の構造体と仮定し、1mm
3当りの占有体積を算出する。各々の繊維の占有体積にその繊維の比重を乗じて1mm
3当りに含まれる全繊維重量を求めることで繊維密度(g/cm
3)を算出する。測定は3ヶ所行い、平均してそのサンプルの繊維密度とする。上記走査電子顕微鏡には、日本電子(株)社製のJCM−5100(商品名)を用いることができる。
【0027】
加えて液の透過性の観点から、領域M1において、表面層1の凹部12の繊維、吸収層2の肌当接面側の繊維、吸収層2の非肌当接面側の繊維の順に親水度が高められていることが好ましい。これにより、液は親水度の高い方へと引き込まれ、吸収層における液吸収の駆動力となる。その結果、液は吸収層のより深い下層側に到達しその位置から順に吸収保持される。また、そこから隣接する領域M2への液拡散により吸収層の広い範囲での吸収保持が可能となる。
吸収層2の肌当接面側の繊維とは、肌当接面付近、例えば、接合部5周辺の領域P4(
図2参照)の繊維であり、主としてこの部分に多く含まれる熱融着繊維の親水度として規定される。また、吸収層2の非肌当接面側の繊維とは、非肌当接面付近、例えば、領域P5及びP6(
図2参照)の繊維であり、主として液保持性の親水性繊維の親水度である。つまり、吸収層2においては、熱融着繊維25と親水繊維との含有量の比率により決められる。なお、表面層1の繊維の親水度と吸収層2の肌当接面側の熱融着繊維の親水度との差は、親水化剤の使い分けによって適宜設定することができる。例えば、親水性の低い非イオン親水化剤等を表面層1の繊維に付着させ、親水性の高い陰イオン親水化剤等を吸収層2の熱融着繊維25に付着させることで親水度に差をつけることができる。
さらに言えば、吸収層2の親水度は、単に肌当接面側の表面と非肌当接面側の表面とにおける高低差のみならず、吸収層2の層厚み内部においても、肌当接面側よりも非肌当接面側の方が相対的に親水度が高いことが好ましい。例えば、領域M1の吸収層2の厚みを3等分(T1,T2,T3)とした場合に、(T1)<(T2)<(T3)と高まる親水度の勾配があることが好ましい。前記勾配とは、連続的に高まる親水度の傾斜のみならず、断続的ないしは多段的にでも肌当接面側から非肌当接面側へと親水性が高められている状態を含む意味である。
【0028】
前記親水度の程度は、クレム吸水度で示され、クレム吸水度が大きいほど、親水度が高いことを示す。接合部5を介して接触する表面層と吸収層とにおいて、表面層1の凹部12に相当するクレム吸水度と吸収層2の肌当接面側の表面付近(領域P4など)のクレム吸水度との差は、25mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましい。また、吸収層2の肌当接面側の表面付近(領域P4など)のクレム吸水度と非肌当接面側の表面付近(領域P5など)のクレム吸水度との差は、10mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。クレム吸水度試験は、JIS P8141に準じた試験方法で測定し、サンプルを水に浸漬させてから10分後の吸水高さ(距離)をクレム吸水度とする。
【0029】
以上のとおり、表面層1において、複数の凸部11が排泄液を直接受けた後、凹凸形状におより凹部12へと排泄液が集まる。また、凸部11から凹部12へと繊維密度が高められた構造により、表面層1の内部においても凹部12の凹部底部12tへと排泄液が集まる(P1→P2→P3)。その結果、排泄液は、表面層1において肌から離間した位置に集まり易い。そして、凹部12の位置から接合部5における優れた液透過性、表面層1と吸収層2との親水度の差により、その位置で排泄液は吸収層へと素早く透過される。さらに、吸収層2内部にて、繊維圧密融着部24の毛管力や親水度勾配により、排泄液は下層側へと引き込まれる(P4→P5→P6)。その結果、吸収層2の内部奥深いところから順に排泄液を吸収保持することができる。また、隣接する領域M2への液拡散により、吸収層2の広い範囲で排泄液をしっかりと吸収保持することができる。この一連の作用は、湿潤強度の高い接合部5によって、吸収性物品の装着中において持続可能である。
このように、表面層1の凹凸形状及び繊維粗密構造、吸収層2の繊維粗密構造及び親水度勾配は、液引き込みの駆動力となって持続する。たとえ高粘性の液(経血やおりものなど)で透過され難い成分を含む場合でも、肌から離れた凹部12に集めて水分のみを引き抜く。そして、残った成分の粘度が高められて凹部12で固定化することができる。これにより、排泄液の肌への付着が生じ難く、肌のベタつきが抑制されて、良好なドライ感を得ることができる。
【0030】
熱融着繊維25は、高い湿潤強度を付与しフィルム化を防止する観点から、吸収層2全体における含有率が10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。また、その上限は、吸収層2本来の液保持性能の観点から、親水性繊維とのバランスを考慮して、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。さらに、吸収層2の厚みを3等分(T1,T2,T3)した場合に、肌当接面側の厚み(T1)における熱融着繊維25の含有率は、高い湿潤強度を付与しフィルム化を防止する観点から、接合部5や繊維圧密融着部24の圧密化された状態の部分を含めて、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。また、その上限は、吸収層2本来の液保持性能の観点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
【0031】
前述のとおり、接合部5における繊維の融着性を高め、吸収層2の繊維交絡点を確実に融着させる観点から、熱融着繊維の繊度は1.2dtex以上が好ましく、2dtex以上がより好ましい。またその上限は、剛性を抑えフィルム化を防止して繊維間の空間を確保する観点から、7dtex以下が好ましく、5dtex以下がより好ましい。同様の観点から、熱融着繊維の繊維長は30mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましい。その上限は70mm以下が好ましく、60mm以下がより好ましい。
【0032】
また、吸収層2における、領域M1の厚み(h3)に対する、接合部5から繊維圧縮融着部24までの厚み(h4)の厚みの比率(h4/h3)は、毛管力による液引き込み性を高める観点から、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。その上限は、液の吸収保持性を良好なものとする観点から、0.75以下が好ましく、0.65以下がより好ましい。なお、たとえ繊維圧縮融着部24が領域M1の厚み(h3)全体に及んでも(h4=h3)、繊維間の空間が保持されていれば、そこから領域M2への液拡散が可能である。
【0033】
次に、接合部5の平面形状について、
図3−1及び
図3−2を参照して説明する。
接合部5は、凹部12の底部頂部12tの配列に一致して形成されている。本実施形態においては、
図3−1に示すとおり、接合部5は、表面層1の凸部11の間に等間隔で配置されている。より具体的には、Y方向に等間隔で配置された列をなし、この列がX方向に複数等間隔で規則的に配置されている。そして、個々の接合部5は、いずれもX方向に長い長方向形状である。これにより、肌と接する凸部11の配置を変えることなく、接合部5の面積を広く確保でき好ましい。また周囲の凸部11からすべり落ち底部頂部12tへと集束される液(矢印s1)を吸収層へと透過させる面積をできるだけ広く確保でき好ましい。
通常、接合部5の広い面積の確保は、吸収性物品の剛性を高めかねない。しかし、本実施形態では、前述のとおり、湿潤強度の高い接合部5を繊維間の空間の確保などにより剛性を低減できるため、吸収性物品全体の剛性を抑えて広い面積の確保が可能となる。
この接合部5の長さ(d)は、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。その上限は、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。上記下限以上とすることで、表面層と吸収層を確実に熱融着し、着用中に表面層と吸収層が剥離しなくなる。上記上限以下とすることで繊維同士が互いに熱圧着される結合部の硬化による表面層の風合い低下を抑制できる。また、接合部5の幅(e)も上記同様の理由から、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。その上限は、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。
【0034】
図3−1において、接合部5の長さ(d)は全てX方向に揃っている。また、これに限らず、Y方向に揃うようにしてもよい。たとえば、X方向が吸収性物品の長手方向で、Y方向が吸収性物品の幅方向であるときに(
図4参照)、接合部5の長手方向が吸収性物品の長手方向(X方向)に一致していると、液の吸収とともに液の拡散も吸収性物品の長手方向(X方向)に誘導させ易く液の横漏れを抑制でき好ましい。他方、接合部5の長手方向が吸収性物品の幅方向(Y方向)に一致していると、吸収性物品を接合部5を基点に湾曲させ易く、装着時に着用者の股下から下腹部ないし臀部へと沿わせ易くなり好ましい。これらは用途に合わせ適宜設定可能である。
【0035】
また、接合部5の配置は、
図3−1に示すように、表面層1の凸部11の起立性を確実なものとするため、各列における接合部5のピッチを、隣り合う列同士で半ピッチすれた配列とすることが好ましい。
さらに、接合部5と重なる表面層1の凹部12の平面配置は、
図3−1に示すように、4つの凹部12が1つの凸部11を囲む配置に限らず、凹凸が繰り返す配置を任意に設定できる。例えば、
図3−2に示すように、1つの凸部の周囲を6つの凹部12及び接合部5が取り囲む配置などでもよい。この場合、幅方向に隣り合う2つの接合部を1組みとして接合部列の1構成要素とみなし、この構成要素が配置される列を接合部列ととらえることができる。つまり、
図3−1における横長の接合部を2つに分割した組み合わせと捉えることができる。また、接合部5自体の平面形状は、円形、三角形、方形、多角形、楕円形、星型等の図形など、接合部としてとり得る形状を任意に採用できる。
【0036】
加えて、
図3−1及び
図3−2に示すように、接合部5,5同士の間を区画して表面層1の凸部11,11同士を繋ぐ尾根部14が配設されている。尾根部14は、表面層1の凹部12を区画する高さを有する。そして、凸部11の内部における空間部4,4同士をつなぐ通路をなす。つまり、尾根部14によって、空間部4,4同士で液の移動が可能となり、表面層1と吸収層2との層間で液を素早く拡散させて、吸収層2の広い面積で素早く液を吸収保持することができる(
図3−1の矢印S2)。この尾根部14の存在により、後述する空間部4による液の調整弁機能ないし液拡散機能をより効果的なものとできる。また、尾根部14の存在により、空間部4,4同士で空気の移動が可能となり(
図3−1の矢印S2)、押し潰されても柔軟に変形し、かつ回復が容易となる。これにより良好なクッション感が持続し易い。
【0037】
一方、接合部5が配されない領域M2においても、吸収層2の肌当接面側に熱融着繊維25が配されていることが好ましい。そして、構成繊維の交絡点が融着された熱融着部23が配設されていることが好ましい。これにより、表面層2の凸部11が肌と接触し、強い押圧を受けた場合でも、繊維間の空間が安定化する。そして、領域M1と同様に、液の通液性がされ吸収層2の下層から順に液が吸収保持される。その結果、液の肌側への逆戻りを抑制できる。この観点から、領域M1と同様に、吸収層2内に繊維密度や親水度の勾配があることが好ましい。
また、前述のとおり、接合部5で接着剤を用いず、また繊維の引き攣れが限定的なので、吸収層2の剛性が抑えられ良好なクッション感が得られる。この領域M2における熱融着繊維25は、含有率を前述の領域M1と同様とし、肌当接面側に偏在されていることが好ましい。
【0038】
次に、領域M2における空間部4の液吸収性能に関する作用について説明する。
空間部4の配置により、表面凸部11aで直接受けた排泄液の一部は、裏面凹部11bにある空間部4に一旦取り込まれ、吸収層2へと引き渡される。空間部4が介在することで、排泄液の排泄量が一度に多量となった場合でも、空間部4が表面層1からの液を一時的に保持して液吸収の調整弁となり得る。そして、空間部4は、親水性繊維等からなる吸収層2とは違って保水力が低い。これにより、液を吸収層2へと素早く引き渡すことができる。このように空間部4は、液の調整弁として一時液を保持しつつもすぐに空間が回復し得るので、多量の排泄の場合のみならず、繰り返しの排泄の場合であっても、十分対応可能である。また、前述のとおり、吸収層2の肌当接面側の表面付近が繊維密度の粗な状態であれば、液透過性に優れ好ましい。
【0039】
また、空間部4に取り込まれた排泄液は、繊維密度の高い接合部5及び繊維圧密融着部24の周辺へも拡散して取り込まれる。つまり、空間部4は、表面層4と吸収層2との間で液を拡散し、吸収層2の広い面積で液を引き渡すことができる。また、前述の尾根部14が、空間部4同士を繋いで液をより効果的に拡散させることができる。
【0040】
一方、表面層4の肌当接面側での液拡散防止の観点では、表面層4の凹凸の繰り返しがさらに効果的な作用を奏する。
図1に示すように、表面層1の肌当接面側には、すり鉢状に窪んだ表面凹部12aが複数分散配置されている。そのため、凹凸が筋状に形成される場合に比べて、表面凸部11aから流れ落ちる排泄液の捕捉性が高く、表面層4の肌当接面側での液の拡散を効果的に抑制し得る。
そして、表面凹部12aで捕捉された排泄液の一部は、凸部11と凹部12とを繋ぐ壁部13などを介して、空間部4へと素早く透過される。また同時に、接合部5ないし繊維圧密融着部24周辺の繊維密度が高められた領域から積極的に引き抜かれる。
【0041】
このように、表面層1の凹凸形状、並びに吸収層2の領域M1における接合部5、及び領域M2における空間部4が相乗的に作用して、液の肌当接面側での液拡散を防止し、積極的に液を吸収層2へと取り込み、液残りや液戻りを防止して、液吸収性能の向上に貢献し得る。しかも、前述のとおり、湿潤時においても表面層1の凹凸形状が維持されるため、前記液吸収性能が持続可能である。その結果、表面層1の肌当接面側は、さらっとしたドライ感を呈し、良好な着用感が得られる。このように本発明の吸収性物品は、従来、サブレイヤやコアラップシートが担う機能までも備えるものである。つまり、本発明は、これらの従来からの部材の省略を可能とし、製造コストを抑制し、より薄型で軽量化された、吸収性能の良い吸収性物品の提供を可能とする。
【0042】
以上のとおり、凸部11が肌に柔らかく接触して優れたクッション性を得る観点から、凸部11の高さ(h6)は、1mm以上が好ましく、1.2mm以上がより好ましい。その上限は、10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましい。また、液吸収性能の向上させる空間部4を確保する観点から、裏面凹部11bのアーチ8の高さ(h7)は、0.9mm以上が好ましく、1.1mm以上がより好ましい。その上限は、クッション性凸部の形状安定性の観点から、8mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。液拡散性を効果的なものとするべく空間部4の面積を好適なものとする観点から、凸部11の底面積は、4mm
2以上が好ましく、9mm
2以上がより好ましい。その上限は、900mm
2以下が好ましく、625mm
2以下がより好ましい。
さらに、空間部4による液吸収性能の向上の観点から、凸部11の高さ(h6)とアーチ8の高さ(h7)との比率(h7/h6)は、9/10以上が好ましく、4/5以上がより好ましい。一方、優れたクッション性の凸部11の形状維持の観点から、1/10以下が好ましく、1/5以下がより好ましい。
なお、
図2に示すように、凸部11の高さ(h6)は、接合部5における凹部12の非肌当接面側(裏面凸部12b)から凸部11の頂部11aまでの高さである。また、アーチ8の高さ(h7)は、同じく裏面凸部12bから裏面凹部11bの最も肌当接面側へと窪んだ部分までの高さである。さらに、凸部11の底面積は、凸部11を囲む裏面凸部12bにおける接合部5で確定されるその内側の領域の広さである。
【0043】
次に、本実施形態の吸収性物品の全体構造について、その一実施形態としてのパンティライナー30を模式的に示す
図4により説明する(これを拡大して2辺を断面により示しした斜視図が
図1に相当する。)。ただし、本発明の吸収性物品はこの形態に限定して解釈されるものではない。本実施形態のパンティライナー30は、表面層1及び吸収層2からなる複合素材が防漏層3にホットメルト型接着剤による接合手段により接合されている。さらに吸収性物品の周辺部分においては、表面層1のみが延出され、防漏層3と熱シール、超音波シール等の接合手段、もしくは、ホットメルト型接着剤の併用により接合されている。また、着用者の排泄部に対向する排泄部対向部(縦横の中央部)を囲むように防漏溝38が形成されている。着用者に当接する表面には、凸部11が多数配設されている。これに加え、空間部4、接合部5及び繊維圧密融着部24については、既に
図1〜
図3を参照して詳しく説明した。
【0044】
次に、本発明の吸収性物品の製造方法として好ましい態様を、
図5〜7を参照しながら詳述する。ただし、本発明の製造方法はこれにより限定して解釈されるものではない。
図5は本発明の製造方法について、その工程の一部を模式的に示す工程説明図である。まず、原反ロール(図示せず)から表面層用シートである上層(不織布シート)42を矢印49aの方向に繰り出す。これとは別の原反ロール(図示せず)から吸収層前駆体である下層(繊維の積繊体)43を矢印49eの方向に繰り出す。下層43は、吸収層となるべく、熱融着性が発現する前の熱融着性繊維250と親水性繊維等とを積繊してなる。なお、下層43は、製造工程において搬送される前に、軽くプレスして上層42との接合面を平らに均しておくことが、後述の空間部4を良好に形成するために好ましい。
【0045】
次いで、繰り出された上層42を、周面が凹凸形状となっている第1ロール(凹凸パターンを有するエンボスロール)401と、第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2ロール402との噛み合わせ部に搬送する。この噛み合わせ部に上層42の不織布シートが噛み込まれて挟持され、凹部12と凸部11とが賦形される。
【0046】
図6には、第1ロール401の部分拡大斜視図を示した。第1ロール401は、所定の歯幅を有する平歯車401a,401b,・・・を複数枚組み合わせてロール状に形成したものである。各歯車の歯幅は、所望の液吸収透過性シートの凸部の間隔に応じて定めることが好ましい。この態様においては隣り合う歯車は、その歯のピッチが半ピッチずつずれるように組み合わされている。
第1ロール401における各歯車の歯溝部には吸引孔403が形成されている。この歯溝部は、第1ロール401の周面における凹凸形状のうちの凹部に相当するものである。吸引孔403は、ブロワや真空ポンプなどの吸引源(図示せず)に通じ、
図6に示すように、第1ロール401(回転方向:矢印49c)と第2ロール402(回転方向:矢印49b)との噛み合い部45から上層42と下層43との合流部46まで吸引されるように制御されている。したがって、第1ロールと第2ロールとの噛み合いによって凹凸賦形された上層42は、吸引孔403による吸引力によって第1ロール401周面に密着し、その凹凸賦形された状態が保持される。この場合、
図8に示すように、隣り合う歯車間に所定の空隙Gを設けておくと、上層42に無理な伸長力や、ロールの凹凸噛み合いによる切断効果を加えることなく上層42を第1ロール401の周面に密着させられる。空隙Gは歯車の全歯たけや上層42の坪量にもよるが、上層42に破断や損傷を与えることなく密着を行うことができるため、0.1〜50mmが好ましく、0.1〜5mm程度がより好ましい。
【0047】
次いで、
図5に示すように、上層42を第1のロール401の周面に引きつづき密着させた状態で、合流部46で別に繰り出されている下層43を重ね合わせ、その重ね合わせたものを第1ロール401とアンビルロール404(回転方向:矢印49d)との間で挟圧し、複合シートが矢印49fの方向に得られる。この合流部46の近辺を
図7に模式的に拡大した部分断面図として示した。
【0048】
図7に示すように、第1ロール401の凸部(各歯車の歯先)51において、凸部51の熱で、上層42と下層43とが圧縮され熱融着される。その際、下層の上面側に配された熱融着性繊維250の熱融着性が発現し、上層42の不織布繊維及び下層の親水性繊維等と融着し固定される。これにより、接合部5が形成される。また、凸部51による圧縮で、下層43内部において熱融着性繊維250の熱融着性が発現し、繊維圧密融着部24が形成される。一方、接合部5及び繊維圧密融着部24の形成されない領域では、第1ロール401の凹部52に沿って窪んだ上層42と、下層43との間に空間部4が形成され、両層が非接合とされている。
また、本実施形態においては、上層42及び下層43の接合工程と、下層43における繊維圧密融着部24の形成工程とを、1回の工程で行う。つまり、第1ロール401の凸部51による圧着だけで、必要な個所に対し好適に加熱できる。これにより、工程数の増加による煩雑さや、余計な繊維融着を防止でき、上層42及び下層43の風合いを阻害しない。この点において本実施形態の製造方法は好ましい。
【0049】
この繊維圧密融着部24を形成するにあたり、繊維圧密融着部24の確実な形成の観点から、第1ロール410の凸部分を吸収層前駆体(下層43)の表面から一定深さまでくい込ませて、表面層用シート(上層42)が吸収層前駆体(下層43)の表面から一定深さの位置で接触するようにすることが好ましい。
【0050】
次いで、図示しないが、上層42及び下層43が接合された複合体に対し、上層42側から熱風を吹き付けて、繊維の熱風回復処理を行う。この熱風回復処理においては、上層42の不織布の繊維の嵩高さが回復するとともに、下層43の接合部5以外の肌当接面側において、熱融着性繊維250の熱融着性が発現する。これにより、下層43の接合部5以外の部分において、繊維間の空間が安定化した繊維融着部23が形成される。そして、下層43は全体としてシート状吸収体となる。
【0051】
その後、本発明の吸収性物品の製造方法においては、上層(表面層用シート)42と下層(吸収層前駆体)43とを一体化した複合シート41に防漏シートを積層する。このとき防漏シートは、下層43の上層42を付されていない側に積層される。これにより例えば
図1に示したような、表面層、吸収層、及び防漏層の設けられた吸収性物品の構成が得られる。
このようにして、本発明の製造方法によれば、吸収性物品に用いられる複合素材に、優れた液体吸収機能と、柔らかなふんわり感とを与えることができる。具体的には例えば、
図1に示した実施形態のような優れた機能を発揮しうる吸収性物品を連続した工程で効率的に製造することができる。
【0052】
次に、本発明の吸収性物品に用いられる部材の好ましい形成素材について説明する。
【0053】
表面層1、吸収層2及び防漏層3の形成材料としては、この種の物品に採用されるものを特に制限なく用いることができる。
【0054】
例えば、表面層1は、排泄された体液を速やかに吸収し、吸収体に伝達する観点と肌触りのよさの観点とから親水性のサーマルボンド不織布が好ましく、特にエアスルー不織布が好ましい。表面層1には親水化処理された熱可塑性樹脂繊維であり、かつ、該繊維が2次クリンプ又は3次クリンプのような立体捲縮がなされた繊維が含まれることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、及びこれらの複合繊維を作成し、所定の長さにカットしてステープルを形成する前の段階で、各種親水化剤を塗工する。親水化剤としては、αオレフィンスルホン酸塩に代表される各種アルキルスルホン酸塩、アクリル酸塩、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、エステルアミド、エステルアミドの塩、ポリエチレングリコール及びその誘導物、水溶性ポリエステル樹脂、各種シリコーン誘導物、各種糖類誘導物、及びこれらの混合物など、当業者公知の親水化剤による親水化処理を用いることができる。
【0055】
防漏層3としては、防水性があり透湿性を有していれば特に限定されないが、例えば、疎水性の熱可塑性樹脂と、炭酸カルシウム等からなる微小な無機フィラー又は相溶性のない有機高分子等とを溶融混練してフィルムを形成し、該フィルムを一軸又は二軸延伸して得られる多孔性フィルムが挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが挙げられる。該ポリオレフィンとしては、高〜低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0056】
吸収層2における熱融着繊維としては、この種の物品に用いられるものを任意に作用できる。例えばポリエチレン系繊維やポリプロピレン系繊維、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリアミド系繊維が挙げられる。また、芯鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維を用いることもできる。
【0057】
熱融着繊維以外の吸収層2の構成素材としては、親水性繊維、該親水性繊維と高吸水性ポリマー粒子との混合物、または、親水性繊維と高吸水性ポリマー粒子と熱可塑性合成樹脂繊維との混合物などが挙げられる。親水性繊維としては、親水性表面を有する繊維を用いることができ、例えば天然パルプ繊維やレーヨン繊維等、合成繊維を必要に応じ界面活性剤等により親水化処理したものが挙げられる。具体的には、例えば、木材パルプ、木綿パルプ及びワラパルプ等の天然セルロース繊維、レーヨン及びキュプラ等の再生セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維及びポリアクリロニトリル繊維等の親水性合成繊維などが挙げられ、これらを複数と組み合わせてもよい。ポリマー粒子としては、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系のものを使用することができる。
本実施形態のように吸収層をシート状吸収体とする場合、親水性繊維がパルプ繊維からなるエアレイド吸収体であることが、湿潤時の保形性や圧力下での液吸収速度の観点から好ましい。
【0058】
本発明の吸収性物品は、上記の実施形態の生理用ナプキンのほか、失禁パッド、失禁ライナ、使い捨ておむつや尿とりパッド等に適応することができる。また、吸収性物品として適用される形態に併せて、前記の構成部材にその他の部材を組み合わせることもできる。例えば、使い捨ておむつにおいて、防漏層の外側に柔らかな不織布を配して肌触りを良くしたりしてもよい。また、生理用ナプキンや使い捨ておむつにおいて、表面層の両側にサイドシートを配して起立ギャザーを設けてもよい。
【0059】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の吸収性物品及びその製造方法を開示する。
【0060】
<1>肌当接面側に配置された液透過性の表面層、非肌当接面側に配置された液難透過性の防漏層、及び前記表面層と前記防漏層との間に配置された液保持性の吸収層を有する吸収性物品であって、前記吸収層は、熱融着繊維と親水性繊維とを有し、前記表面層は、肌当接面側及び非肌当接面側を一体的に厚み方向に賦形させた複数の凸部及び凹部を有し、該凸部及び凹部が平面視交差する異なる方向において交互に隣接して配されて凹凸形状をなし、前記表面層の凸部の非肌当接面側はアーチを形成し、前記吸収層との間に空間部が配されており、前記アーチとこれに隣接するアーチを繋いで平面視分散配置された前記凹部の非肌当接面側においてのみ、前記吸収層との接合部が配設されており、該接合部においては、前記熱融着繊維の熱融着性により前記表面層と前記吸収層とが融着固定されており、前記表面層は、前記凸部の頂部から前記凹部へ向かって繊維密度が高くなっている吸収性物品。
【0061】
<2>前記熱融着繊維が前記吸収層の肌当接面側に偏在している<1>記載の吸収性物品。
<3>前記表面層の繊維、前記吸収層の肌当接面側の繊維、該吸収層の非肌当接面側の繊維の順に親水度が高くなっている<1>又は<2>記載の吸収性物品。
<4>前記接合部において、前記表面層及び前記吸収層の構成繊維がともに繊維間空間を保持している<1>〜<3>の何れか1に記載の吸収性物品。
<5>前記表面層において、前記凸部の肌当接面側は頂部を有するドーム形状であり、前記凹部の肌当接面側は該凹部を囲む複数の前記凸部から底部頂部へと至る窪み形状である<1>〜<4>の何れか1に記載の吸収性物品。
<6>前記表面層の凸部は、アーチの高さが0.9〜8mmで、底面積が4〜900mm
2であり、前記個々の接合部は、長方形状で、その長手方向をいずれも吸収性物品の幅方向又は長手方向に揃えて配しており、該長方形状の長さが0.1〜20mmで、幅が0.1〜20mmである<1>〜<5>の何れか1に記載の吸収性物品。
<7>前記表面層と前記吸収層との接合部は、前記吸収性物品の長手方向に等間隔で配置された列をなし、該列が幅方向に複数列配置されており、前記接合部の列は隣り合う列と半ピッチずれた配置とされている<1>〜<6>の何れか1に記載の吸収性物品。
<8>前記接合部の直下に、熱融着繊維と親水性繊維の交絡部が熱融着された繊維圧密融着部が存在する、<1>〜<7>の何れか1に記載の吸収性物品。
<9>前記接合部は長方形形状である<1>〜<8>の何れか1に記載の吸収性物品。
<10>前記吸収層は、構成繊維である熱融着繊維に親水性繊維が融着接合されてなるシート体である<1>〜<9>の何れか1に記載の吸収性物品。
<11>前記シート体は、前記親水性繊維がパルプ繊維からなるエアレイド吸収体である<10>記載の吸収性物品。
<11>前記凸部の高さと前記アーチの高さとの比(前者/後者)が9/10以上、4/5以下である<1>〜<10>の何れか1に記載の吸収性物品。
<12>前記吸収層が熱収縮性繊維を含まない<1>〜<11>の何れか1に記載の吸収性物品。
<13>前記吸収層に、高吸水性ポリマーが含有されている<1>〜<12>の何れか1に記載の吸収性物品。
<14>前記表面層には親水化処理された熱可塑性樹脂繊維で、かつ該繊維が立体捲縮がなされた繊維が含まれて構成される、<1>〜<13>の何れか1に記載の吸収性物品。
<15>前記吸収性物品がパンティライナーである<1>〜<14>の何れか1に記載の吸収性物品。
<16>周面が凹凸形状となっている第1のロールと、該第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2のロールとの噛み合わせ部に、表面層用シートを搬送、挟持させて、該シートに凹部と凸部を賦形する工程と、
前記賦形後の表面層用シートを前記第1ロールの周面に密着させた状態で、該表面層用シートを、前記第1ロールの凸部においてのみ、熱融着繊維を含有する吸収層前駆体に接触させ、前記第1ロールの凸部の熱によって前記接触部分の前記表面層用シートと前記吸収層とを融着する工程と、を有する、表面層と吸収層とを備えた吸収性物品の製造方法。
<17>前記第1のロールの凸部分を前記吸収層前駆体の表面から一定深さまでくい込ませて、前記表面層用シートの前記凸部が吸収層前駆体の表面から一定深さの位置で接触するようにする<16>記載の製造方法。