(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、はんだこて、はんだ除去器等のはんだ取扱装置に用いられる先端チップは、その先端作業部(はんだまたはリード線等の加熱対象と接触し、はんだめっきされる部位)が銅又は銅合金でできていた。例えば、はんだごてでは、先端チップとして、銅又は銅合金のこて先チップが用いられている。そのようなこて先チップがはんだによる銅の浸食を防止するため、こて先チップの先端作業部には、100〜500μm厚の鉄めっきが施されていた。鉄めっきの表面は、さらに溶融錫でコーティングされていた。こて先チップの残余の部分は、はんだがぬれないようにクロムめっき等が施されていた。
【0003】
ところで、従来のはんだの主成分は、錫および鉛(Sn−Pb系はんだであり、Sn−37Pb共晶はんだがその代表例である。)であることが一般的であった。Sn−37Pb共晶はんだは、流動性がよく、常にこて先の先端作業部を覆い、鉄めっきの酸化を防いでいたことが確認されてきた。しかしながら近年では、環境問題に対処するため、鉛成分を含んでいない、いわゆる鉛フリーはんだが使用されるようになっている。鉛フリーはんだの代表例としては、Sn−Cu系はんだ、Sn−Ag系はんだ、およびSn−Ag−Cu系はんだ等があげられる。
【0004】
Sn−Pb系はんだに比べると、鉛フリーはんだは、その取扱いが難しい。鉛フリーはんだは、Sn−37Pb共晶はんだに比べ、融点が20〜45℃も高く、はんだ拡がり性も大きく落ちる。
【0005】
はんだ拡がり性が低下すると、プリント基板のパターン面や部品のはんだ付け部にはんだがうまくのりにくくなる。そのため、活性力の強いフラックスを使ったり、はんだこてのこて先温度を上げたりすることもある。当然のことながら、そのようなフラックスや過剰な熱は、プリント基板や部品に悪影響を及ぼす。
【0006】
しかも、このはんだ拡がり性の低下は、プリント基板に対してだけでなく、先端チップの先端作業部にも影響を与える。先端作業部は、下地の鉄めっきを常に溶融錫やはんだが覆うことで高温酸化の防止が図られている。しかしながら、はんだ拡がり性が低下した場合、高温時に先端作業部の鉄めっきが露出しやすくなり、高温酸化が促進するおそれがある。先端作業部が高温酸化してはんだぬれ性を失うと、はんだが乗りにくくなり、はんだ付けそのものができなくなる。そのため、歩留まりが悪くなる。
【0007】
鉛フリーはんだは、金属を浸食する力も強い。鉛フリーはんだを用いた場合、こて先素材の鉄は、Sn−Pb系はんだに比べ3〜5倍早く浸食する。はんだによる先端作業部の浸食は、作業温度にも大きく依存する。また、鉛フリーはんだの融点は、Sn−37Pb共晶はんだに比べて20〜45℃も高いので、はんだ作業時の温度を高く設定しがちであることも、はんだによる先端作業部の耐浸食性に影響している。
【0008】
はんだこてメーカーは、この問題に対して、(1)こて先の鉄めっき厚さを厚くする、(2)こて先の設定温度を出来るだけ低くするため、温度特性の優れたはんだこてを開発する、(3)スリープ機能、オートシャットオフ機能を搭載して、こて先の負荷を低減する、等の対策を講じてきた。しかしながら、依然、抜本的な対策はとれていない。例えば、(1)の「こて先の鉄めっき厚さを厚くする」については、鉄めっきの厚さを厚くして
いくと、熱伝導が悪くなり、作業しづらくなるので限界がある。
【0009】
一方、鉛フリーはんだに対処するべく、はんだこてのこて先の長寿命化、耐浸食性の向上に関する特許は多数出願されている。
【0010】
特許文献1は、「Fe−18〜36%Cr−5〜18%Co」からなるはんだこて先用合金を開示している。銅基体に耐浸食性金属をめっきしたり、コーティングしたりするのではなく、「Fe−18〜36%Cr−5〜18%Co」となる合金そのものをこて先にしている。
【0011】
特許文献2は、先端部に「鉄−けい素合金」を配置したこて先を開示している。
【0012】
特許文献3、4は、本件出願人が先に提案したものである。
【0013】
特許文献3、4には、金属粒子体からなるこて先チップが提案されている。同こて先チップの実施例としては、「Fe−10%Co−5.5%Cu−1.3%Ag」、「Fe−0.8%C」等が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
長寿命のこて先に関する特許は多く出願されているものの、本特許出願人らが調査した範囲では、実用化された例は極めて少ない。
【0016】
例えば、本特許出願人らは、特許文献2の技術に関連して、「Fe−3%Si」材を試験した。「Fe−3%Si」材は、極めてはんだ拡がり性が悪く、400℃、5000回の試験の途中で3本中2本がはんだぬれ性を失ってしまい、実験を中止せざるを得なかった。Siははんだ付け性の悪い材料であり、耐浸食性の向上には効果があるが、その反作用としてはんだ付け性が低下し実用に耐えないのである。
【0017】
特許文献1に記載されているFe−Cr−Co系材料も同様である。クロムが入っているため、耐浸食性に優れても、はんだ付け性が低下してしまい、特許文献2の構成と同様に、実用に耐えないのである。
【0018】
一方、特許文献3、4に示されているように、鉄を主成分とし、炭素またはコバルトを含有する合金については、鉛フリーはんだに対しても、耐浸食性がある程度高まることが確認された。特に、鉄−炭素系合金については、実用に耐える優れた性能を発揮するものも、これら特許文献3、4には、開示されている。しかしながら、鉄−コバルト系合金については、鉄にどの程度コバルトを含有させるべきか、さらなる試行錯誤を必要としていた。
【0019】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、鉛フリーはんだに対し、より実用性の高いはんだ取扱装置の先端チップを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本件発明者は、鋭意研究の結果、純鉄にコバルトを0.5重量%〜5重量%含めた鉄−コバルト系合金を先端作業部に用いることで、はんだに対する耐浸食性を向上させ、同時にはんだ拡がり性を向上させることができることを見出し、本件発明を完成させるに至った。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明は、はんだ取扱装置の先端チップであって、加熱対象と接触する、焼結品、圧延品、或いは鋳造品からなる先端作業部を備え、前記先端作業部の材質は、0.5重量%〜5重量%のコバルトを含有し、残りを
95重量%以上の鉄及び炭素とする鉄−炭素−コバルト系合金であることを特徴とする先端チップである。この態様では、先端作業部は、所定量(0.5重量%〜5重量%)のコバルトを
含有する、鉄と炭素の両方を含有する鉄−炭素−コバルト系合金である。このような先端作業部を有する先端チップをはんだ取扱装置に用いることにより、当該先端作業部の耐浸食性が向上するとともに、はんだ拡がり性を高めることが可能となる。これまで、金属射出成形加工(MIM)の焼結品で鉄−コバルト系合金製の先端作業部を有する先端チップを製造した場合、コバルトの含有量が20重量%を越えると、耐食性が低下することが知られていた。しかしながら、現実には、コバルトの含有量が10重量%以上になると、耐浸食性、及びはんだ拡がり性がともに低下し、市場の要請に充分に応えることができなかった。これに対し、本態様では、コバルトの含有量を0.5重量%〜5重量%に限定することにより、高いはんだ拡がり性を発揮しつつ、耐浸食性が高く、寿命の長い先端チップを開発することに成功したのである。
【0022】
好ましい態様の先端チップにおいて、
前記先端作業部は、その材質に含有される炭素が、0.2重量%〜1.2重量%の焼結品、圧延品、或いは鋳造品である。この態様では、先端作業部の材質は、所定量(0.2重量%〜1.2重量%)の炭素ならびに所定量(0.5重量%〜5重量%)のコバルトを含有する鉄−炭素−コバルト系合金である。このような先端作業部を有する先端チップをはんだ取扱装置に用いることにより、当該先端作業部の耐浸食性を飛躍的に向上させ、同時にはんだ拡がり性を向上させることが可能となる。特に、本態様においては、0.2重量%〜1.2重量%の炭素が含有されているので、耐浸食性が格段に向上し、寿命が長くなる。0.2重量%〜1.2重量%の炭素が含有されている鉄−炭素−コバルト系合金で先端作業部を焼結または鋳造した場合、基材には、パーライト組織が生成される。パーライト組織は、炭素含有量がきわめて少ない(純鉄に近い)フェライト(α鉄)と、炭素を多く含むセメンタイト(Fe
3C)とがランダムな方向で交互に積層された構造になっている。フェライトは、軟質(ビッカース硬さHvが約90)ではあるが、はんだの濡れ性は、きわめて高い。一方、セメンタイトは、はんだの濡れ性は低いが、耐浸食性は、きわめて高い。上述のように炭素が0.2重量%〜1.2重量%の範囲で含有される鉄−炭素−コバルト系合金では、パーライト組織におけるフェライトによって、はんだの濡れ性が向上するとともに、セメンタイトによって耐浸食性が向上する。そのため、従来の濡れ性(はんだ拡がり面積)を維持しつつ、製品の寿命を格段に延ばすことができる。
【0023】
好ましい態様の先端チップにおいて、前記先端作業部の材質は、10体積%以下の酸化物と、10体積%以下の炭化物と、10体積%以下の窒化物と、10体積%以下のダイヤモンドと、10体積%以下の黒鉛と、10体積%以下のカーボンナノチューブとから選択される少なくとも1つを添加物として含有し、残りを鉄とする。この態様では、添加剤の効能により、はんだに対する先端作業部の耐浸食性を一層、向上させることが可能となる。
【0024】
好ましい態様の先端チップにおいて、前記酸化物は、Al
2O
3、SiO
2、TiO
2から選択される複合添加材である。この態様では、酸化物として、Al
2O
3、SiO
2、TiO
2から選択される複合添加材を分散添加することで、はんだに対する製品の耐浸食性を一層、向上させること可能となる。
【0025】
好ましい態様の先端チップにおいて、前記炭化物は、SiC、TiC、WCから選択される複合添加材である。この態様では、はんだに対する製品の耐浸食性を一層、向上させることが可能となる。
【0026】
好ましい態様の先端チップにおいて、前記窒化物は、AlN、またはTiNから選択される複合添加材である。この態様では、窒化物として、AlN、またはTiNから選択される複合添加材を分散添加することで、はんだに対する製品の耐浸食性を一層、向上させること可能となる。
【0027】
好ましい態様の先端チップにおいて、
前記先端作業部は、前記鉄−炭素−コバルト系合金からなるチップキャップの先端部に構成されている。この態様では、製造が容易になり、しかも先端側と基端側とで接続部分がないので、製造が容易になり、耐久性が高まるという利点がある。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、所定量(0.5重量%〜5重量%)の
鉄−炭素−コバルト系合金であるので、同材料で先端作業部が製造された先端チップをはんだ取扱装置に用いることにより、当該先端作業部の耐浸食性が向上するとともに、はんだ拡がり性を高め、もって、より実用性を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。まず、本発明に係る先端チップを採用したはんだごて10について説明する。
【0031】
図1を参照して、図示のはんだごて10の主要構成部材は、ハンドルベース11(はんだごて本体部)と、ハンドルベース11に連結されるヒータカートリッジ12と、ヒータカートリッジ12の先端に着脱可能に固定される先端チップ20とを備えている。以下の説明では、はんだごて10の先端チップ20が取り付けられる側を仮に前方とする。
【0032】
ハンドルベース11は、略円筒形状の構造体である。ハンドルベース11の内部には、電装品が実装されている。電装品は、コード111を含んでいる。コード111の自由端には、図略のコネクタが接続されている。上記コネクタは、はんだごて10の温度制御装置(図示せず)に接続される。
【0033】
ヒータカートリッジ12は、中空パイプ121を備えている。中空パイプ121の基端部は、ハンドルベース11の電装品に対し、電気的に接続される接続部を構成している。中空パイプ121の外周には、ハンドル124が堅固に固定されている。また、中空パイプ121の外周には、ハンドル124の先端部に連続するねじ部125が固定されている。
【0034】
中空パイプ121の先端部には、加熱コア128が同心に圧入し、一体化されている。加熱コア128は、円柱状の銅または銅合金製品である。また、加熱コア128の先端部は、テーパ状の円錐部128aが形成されている。図示の例において、加熱コア128は、円錐部128aのみを先端側に突出させた状態で中空パイプ121の先端側に圧入され、中空パイプ121と加熱コア128とが一体化されている。また、加熱コア128の基端面には、有底の穴が同芯に開口している。この穴には、加熱センサ122とヒータ123が、この順で同芯状に配置されている。これらセンサ122とヒータ123は、中空パイプ121の接続部を介して、ヒータカートリッジ12の電装品に電気的に接続されている。加熱センサ122は、加熱コア128の長手方向において、円錐部128aの中程まで入り込んでいる。
【0035】
図2を参照して、ねじ部125の前方には、中空パイプ121の外周を覆うスリーブ126が配置されている。このスリーブ126の基端部には、フランジ126aが形成されている。フランジ126aは、ねじ部125の前端面に当接している。さらにスリーブ126の外周には、袋ナット127が挿通している。袋ナット127は、前方からねじ部125に螺合している。袋ナット127の先端部には、内向きフランジ127aが形成されている。袋ナット127がねじ部125に螺合することにより、内向きフランジ127aは、スリーブ126のフランジ126aの前面をねじ部125の前端面との間で挟圧している。従って、袋ナット127は、スリーブ126を中空パイプ121と一体化する。一方、スリーブ126の先端部には、内向きフランジ126bが形成されている。内向きフランジ126bは、組付時に先端チップ20の適所(詳しくは後述)に前方から係合し、先端チップ20を加熱コア128の先端面(円錐部128aのテーパ部分)との間で挟圧
する。これにより、先端チップ20は、加熱コア128と一体化される。
【0036】
図示の実施形態において、先端チップ20は、チップコア201と、チップコア201の外周に設けられるチップキャップ202とを備えている。
【0037】
チップコア201は、銅または銅合金の中実体である。チップコア201の基端部には、テーパ状の窪み203が形成されている。窪み203は、チップコア201に対し同心に形成されているとともに、加熱コア128の円錐部128aのテーパ部分と面接合するように諸元が一致する円錐形状を呈している。組付時において、窪み203には、円錐部128aが面接合する。また、軸方向において、加熱センサ122の先端側は、窪み203内に入り込んでいる。
【0038】
チップキャップ202の先端部は、本発明の先端作業部Tの一例である。先端作業部Tは、はんだ取扱装置の種類にもよるが、はんだごての場合、例えば、チップキャップ202の1/5の長さの先端側部位である。チップキャップ202は、金属射出成形によってまたはプレス成形法によって作成できる。図示の例では、チップキャップ202は、略円錐形状に形成されている。また、チップキャップ202の先端には、はんだをのせる扁平部が形成されている。チップキャップ202の基端部には、フランジ202aが形成されている。上記スリーブ126の内向きフランジ126bは、このフランジ202aの前面に当接し、加熱コア128との間でチップキャップ202を挟圧する。これにより、先端チップ20は、堅固に、かつ交換可能に、ヒータカートリッジ12に固定される。
【0039】
チップキャップ202の材質は、
鉄と炭素の両方を含有する鉄−炭素−コバルト系合金である。
【0040】
以下に、チップキャップ202の基材について検討した過程について説明する。
【0041】
本件発明者は、チップキャップ202の素材として実用的な鉄材料について研究した。その過程で、コバルトを含有する鉄−コバルト系合金は、高温環境下においても、耐酸化特性に優れ、変色(黒変)しにくいことがわかった。耐酸化特性に優れた材料を用いた場合、チップキャップ202のはんだぬれ性が高くなり、はんだが乗りやすくなる。そのため、はんだ付けの作業性が向上する。
【0042】
そこで、鉄−コバルト系合金のはんだ拡がり性を確認した。確認方法としては、コバルトの含有量の異なる幅20mm×長さ20mm×1厚さmmの板に一定量の鉛フリーはんだを設置し、はんだ槽に浮かべた。この鉛フリーはんだを溶かし、そのはんだ拡がり面積を測定してはんだ拡がり性を調べた(表1の試料1から5)。損傷量についてはコバルト含有量の異なる材質からなるチップキャップ202を備えた先端チップ20(表1の試料1から5)を用意して調べた。
【0043】
以下の説明では、同一条件の試験を鉄めっきの板に対して施した場合の損傷量(本試験では、251.8μm)を1としたときの倍率を「耐浸食性」とも呼称する。また、はんだ拡がり性は、同一条件の試験を鉄めっきのチップキャップ202に対して施した場合のはんだ拡がり面積(本試験では、
0.42cm
2)を1としたときの倍率である。性能試験の条件は、400℃の温度条件で、φ1mmの鉛フリーはんだ(商品名:ECOSOLDER NEO)を一回につき5mmずつ先端チップ20に送り、5000回はんだ送りを繰り返した。
【0046】
表1、
図8から明らかなように、鉄めっきに比べ、コバルトの含有量が0.5重量%から増加するにつれて、耐浸食性とはんだ拡がり性は、それぞれ上昇し、Co=3重量%でピークとなる。コバルトの含有量が3重量%を越えると、その後は、はんだ拡がり性と耐浸食性は、ともに降下する。特に、コバルトの含有量が10重量%の場合は、耐浸食性が鉄めっきの1.21倍となり、本願発明で指向されている長寿命商品としては、実用性に欠けることが判明した。
【0047】
ところで、本件発明者は、鉄−炭素系合金にコバルトを加えた場合、はんだ拡がり性を低下させることなく、はんだによる浸食量低減に効果があることをつきとめた。
【0048】
表2、
図9に、鉄−炭素−コバルト系合金の試験例を示す。試験条件は、試料が異なる他は、表1、
図8の試験条件と同じである。
【0050】
表2、
図9から明らかなように、耐浸食性については、鉄めっき、さらには、鉄−コバルト系合金に比べ、格段に高まっていることが確認された。また、はんだ拡がり性についても、一部の鉄−コバルト系合金(たとえば、Co=3重量%のもの)に比べ、若干、低くなるものの、鉄めっきよりは、向上することが確認された。以上の知見から、実用的な範囲としては、耐浸食性よりもはんだ拡がり性が優先される商品については、鉄−コバルト系合金でチップキャップ202を製造することが好ましく、特に、Co=3重量%の鉄−コバルト系合金については、はんだ拡がり性は、格段に向上し、かつ、寿命も最も長くなることが確認された。
【0051】
一方、耐浸食性が優先される商品については、鉄−炭素−コバルト系合金でチップキャップ202を製造することが好ましいことが確認された。
【0053】
図3に示す実施形態では、先端チップ30は、チップコア301と、チップコア301の外周に設けられるチップキャップ302とを備えている。
【0054】
チップコア301の素材は、銅または銅合金である。チップコア301の先端側は、中実に形成されている。チップコア301の基端側には、有底の穴が形成されたスリーブ状に形成されている。先端チップ30の前記穴には、ヒータアセンブリ320が挿入されている。ヒータアセンブリ320は、センサ部322と、ヒータ部323とが一体になったものである。ヒータアセンブリ320とチップコア301とは、一体に組み込まれてこて先ヒーターユニットとなる。
【0055】
チップキャップ302は、金属射出成形によってまたはプレス成形法によって作成できる成型品である。チップキャップ302の材質は、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金である。
図3の実施形態において、チップキャップ302の先端部は、焼結品、圧延品、或いは鋳造品からなる先端作業部Tを構成している。
【0056】
図2、或いは
図3の実施形態では、先端作業部Tは、上述のような
鉄−炭素−コバルト系合金からなるチップキャップ202、302の先端部に構成されている。このため本実施形態では、製造が容易になり、しかも先端側と基端側とで接続部分がないので、製造が容易になり、耐久性が高まるという利点がある。
【0057】
一方、先端作業部Tの具体的な態様は、上述した
図2、
図3の構成に限定されない。
【0058】
例えば、
図4に示す先端チップ40は、先端作業部Tを構成する部位のみにチップキャップ402を設け、このチップキャップ402として、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金製の焼結品、圧延品、或いは鋳造品を用いた例である。チップキャップ402は、溶接などを用いて、予め成形された銅または銅合金製のチップコア401の端部に固着されている。
【0059】
また、本発明が適用可能なはんだこての先端チップとしては、チップキャップ202、302を採用した
図2〜
図4の例に限らず、例えば、ソリッドタイプのものであってもよい。その場合、先端作業部Tを構成する先端部全体が上述した
鉄−炭素−コバルト系合金の焼結品、圧延品、或いは鋳造品で構成される。
【0060】
図5にその一例を示す。同図に示す先端チップ50は、銅または銅合金製のチップコア501の先端部分に接合端を形成し、この接合端に中実の先端部502の基端面を接合した実施形態を例示したものである。
図5の実施形態では、先端部502の材質として、全体が
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金が用いられる。先端部502の外周面は、チップコア501の外周面と滑らかに連続するテーパ面を構成している。そして、この先端部502の外周部分が、加熱対象と接する先端作業部Tを構成している。
【0061】
また、さらなる実施形態として、はんだ取扱装置は、はんだごてに限らず、例えば、はんだを溶融して吸引するはんだ除去器であってもよい。その場合、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金を、当該はんだ除去装置に取り付けられるはんだこて部の先端チップに適用することができる。
【0062】
図6にその一例を示す。同図に示すはんだ除去器用の先端チップ60は、筒状のチップコア601と、このチップコア601の外周に設けられるチップキャップ602とを備えている。チップキャップ602は、チップコア601の内外周を囲繞し、加熱対象と接触して加熱対象を加熱する機能を奏する。このチップキャップ602の先端部分もまた、本発明の先端作業部Tを構成している。そして、この先端作業部Tを含むチップキャップ602全体が、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金で構成されている。はんだ除去装置の場合には、さらになる変形例に本発明を適用することが可能となる。
【0063】
図7に示すさらに別の例では、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金製のプレス板700をチップコア701の接合端に溶接したはんだ除去器用の先端チップ70(
図7(C)参照)を示している。
【0064】
先端チップ70の製造工程としては、まず、
図7(A)に示すように、先端側が細くなるテーパ状に形成されたチップコア701を予め製造する。チップコア701は、銅または銅合金であり、表面には、めっきが施されている。また、その先端部には、プレス板700を固着可能な面積を有する接合端が形成される。
【0065】
次に、
図7(B)に示すように、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金製のプレス板700をチップコア701の接合端に溶接などで固着する。プレス板700は、はんだ除去装置の先端作業部Tとして必要充分な厚み(例えば、1.5mm〜3.5mm)を有している。
【0066】
次いで、
図7(C)に示すように、チップコア701の内径に同心に連通する孔704をプレス板700に穿設する。
【0067】
以上の工程により、先端作業部Tの材質が、
図2の先端チップ20と同様の
鉄−炭素−コバルト系合金製の先端チップ70を製造することができる。
【0068】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0069】
以上の知見に基づき、本件発明者は、本願発明の種々の態様を作製した。
【0070】
以下に、本件発明者が開発した
参考例及び実施例と比較例の試験結果を表3並びに
図10に示す。試験方法は、上述した表1、
図8の試験条件と同じである。
【0071】
【表3】
【0072】
表3および
図10を参照して、
参考例1から9は、鉄−コバルト系合金の試験結果を示
している。これらのうち、
参考例1、3、5、7、9は、いわゆるMIM法で射出成形をした後、焼結したものである。これらは、脱炭により焼結後の炭素量がほぼ0重量%となった鉄−コバルト系材料である。一方、
参考例2、4、6、8は、焼結後に圧延した焼結後圧延品(以下、単に「圧延品」という)である。
【0073】
参考例1のように、コバルトを0.5重量%添加した鉄−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、180.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.4倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.42cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、同等の1倍の結果となった。
【0074】
参考例2のように、コバルトを0.5重量%添加した鉄−コバルト系圧延品の場合、表面の損傷量は、162.5μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.5倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.42cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、同等の1倍の結果となった。
【0075】
参考例3のように、コバルトを1重量%添加した鉄−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、175.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.4倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.5cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.19倍の結果となった。
【0076】
参考例4のように、コバルトを1重量%添加した鉄−コバルト系圧延品の場合、表面の損傷量は、220.5μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.1倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.5cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.19倍の結果となった。
【0077】
参考例5のように、コバルトを3重量%添加した鉄−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、170.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.5倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.53cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.26倍の結果となった。
【0078】
参考例6のように、コバルトを3重量%添加した鉄−コバルト系圧延品の場合、表面の損傷量は、108.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、2.3倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.54cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.29倍の結果となった。
【0079】
参考例7のように、コバルトを3重量%添加し、かつ、複合添加材として、窒化アルミニウム2.2重量%を分散添加した鉄−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、65.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、3.9倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.41cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、0.98倍の結果となった。
【0080】
参考例8のように、コバルトを5重量%添加した鉄−コバルト系圧延品の場合、表面の損傷量は、106.5μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、2.4倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.48cm
2であり、はんだ
拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.14倍の結果となった。
【0081】
参考例9のように、コバルトを5重量%添加した鉄−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、197.5μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.3倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.48cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.14倍の結果となった。
【0082】
一方、実施例
1から実施例
5は、鉄−炭素−コバルト系合金の試験結果を示している。これら実施例
1から実施例
5については、炭素含有量がそれぞれ表3に示す重量%となるように焼結雰囲気中のカーボンポテンシャルを変化させ、鉄−炭素―コバルト系焼結体とした。
【0083】
実施例
1のように、炭素を0.66重量%添加し、かつコバルトを0.5重量%添加した鉄−炭素−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、90.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、2.8倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.43cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.02倍の結果となった。
【0084】
実施例
2のように、炭素を0.65重量%添加し、かつコバルトを1重量%添加した鉄−炭素−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、95.0μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、2.7倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.44cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.05倍の結果となった。
【0085】
実施例
3のように、炭素を0.7重量%添加し、かつコバルトを3重量%添加した鉄−炭素−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、74.5μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、3.4倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.44cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.05倍の結果となった。
【0086】
実施例
4のように、炭素を0.79重量%添加し、かつコバルトを3重量%添加した鉄−炭素−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、65.3μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、3.9倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.44cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.05倍の結果となった。
【0087】
実施例
5のように、炭素を0.64重量%添加し、かつコバルトを5重量%添加した鉄−炭素−コバルト系焼結品の場合、表面の損傷量は、75.5μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、3.3倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.44cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.05倍の結果となった。
【0088】
これに対し、比較例では、純鉄でチップキャップ202を構成した例を試験した。比較例1は、損傷量については、186.5μm、182.5μmと、鉄めっきに比べ、幾分、改善が見られたものの、拡がり面積については、0.39cm
2、0.4cm
2と、何れも鉄めっきよりも下回る結果となった。
【0089】
以上の試験結果から、鉄−コバルト系合金では、焼結体、圧延品とも、耐浸食性が比較
的向上し、しかも、はんだ拡がり性は、格段に向上することが確認された。特に、コバルトの含有量が3重量%のもの(
参考例6、7)については、耐浸食性も格段に向上した。また、コバルトの含有量が3重量%の圧延品(
参考例6)については、耐浸食性が向上したばかりでなく、はんだ拡がり性も格段に向上した。
【0090】
また、鉄−炭素−コバルト系合金では、概して、鉄−コバルト系合金よりも耐浸食性が向上することが確認された。特に、コバルトの含有量が3重量%のもの(実施例
3、
4)については、耐浸食性が格段に向上した。また、試験した範囲では、はんだ拡がり性は、何れも鉄めっきを上回る良好な結果が得られた。
【0091】
次に、本件発明者は、鋳造品についても、試験を実施した。試験の条件は、本件発明者が開発した
参考例と実施例の試験結果を表4並びに
図11に示す。試験方法は、上述した表1、
図8の試験条件と同じである。
【0092】
【表4】
【0093】
参考例10のように、コバルトを3重量%添加した鉄−コバルト系鋳造品の場合、表面の損傷量は、190μmであり、耐浸食性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、1.3倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.43cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、1.02倍の結果となった。
【0094】
一方、実施例
6のように、炭素を0.8重量%添加し、かつコバルトを3重量%添加した鉄−炭素−コバルト系鋳造品の場合、表面の損傷量は、62.5μmであり、耐浸食
性は、鉄めっき(損傷量=251.8μm)に対し、4.0倍に向上した。また、はんだ拡がり面積は、0.42cm
2であり、はんだ拡がり性は、鉄めっき(拡がり面積=0.42cm
2)に対し、同等の1倍の結果となった。
【0095】
このように、合金化の方法としては鋳造法でも焼結法のいずれでもよく、同等の性能を得られ得ることが確認された。