(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、欠損した複数の歯牙を補綴するために排列された人工歯を口腔内に保持する歯科補綴法として、ブリッジによる方法と、床義歯による方法とがあった。これに対して近年、インプラント技術を用いた方法が提案され、広く普及されつつある。
【0003】
このようなインプラント技術によれば、ブリッジのように健全な天然歯を削る必要がなく、床義歯のように口腔粘膜を覆うことなく歯科用補綴物を固定することができる。従って、より自然な歯牙に近い使用感を得ることが可能となり患者の快適が図られる。
【0004】
人工歯が排列された歯科補綴物をインプラントフィクスチャー(人工歯根)で口腔内に保持する際には、当該人工歯が排列されるレジンとインプラントフィクスチャーとの間に骨子となるフレームを用いることがある。特許文献1、及び特許文献2にはフレームに関する技術が開示されている。
特許文献1、2からわかるように、フレームは外周をレジンで覆われ、このレジンに人工歯が排列される。一方、顎骨に埋設されたインプラントフィクスチャーには口腔内側に向けてアバットメント及びフレームシリンダーが取り付けられ、このフレームシリンダーがフレームに設けられた孔に挿入される。これによりフレームを介して、人工歯がインプラントフィクスチャーにより口腔内に維持できる。
【0005】
ここで、複数の欠損歯牙を補う歯科補綴物の場合、複数のインプラントフィクスチャーを顎堤に沿って所定の間隔で埋設し、それぞれにアバットメント及びフレームシリンダーを取り付け、これらを渡すようにフレームが取り付けられる。そのため、フレームにはこれに対応した複数の孔が設けられ、その各々にフレームシリンダーが挿入される。しかしながらフレームシリンダーとフレームの孔との位置精度が悪く、無理な力をかけてフレームシリンダーがフレームの孔に挿入されていると、フレームシリンダー、及びインプラントフィクスチャーに力がかかり、顎骨にも不具合を生じてしまう。これに対し特許文献1、2に記載の技術では、フレームの孔をフレームシリンダーに対して相当大きく形成し、生じた間隙は樹脂等により埋める構成としている。これにより上記したようなインプラントフィクスチャーにかかる力の発生を防止できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように特許文献1、2に記載のフレームによれば適切に口腔内に歯科補綴物を保持することができるが、次のような問題点があった。
【0008】
特許文献1に記載のフレームは、予め患者の顎堤に略沿った形状である剛性の高い構造を備えており、インプラントフィクスチャーの位置に対応する位置にフレームシリンダー挿入孔が2個以上予め形成されている決まった形状のものである。従って顎堤の形状が患者それぞれによって異なっているため患者の顎堤の形状に合わせることができないことがあった。また、インプラントフィクスチャーの本数や位置に応じて孔のパターンが異なる多種類のものを用意しておかなければならなかった。
【0009】
特許文献2に記載のフレームは、曲げることができ、略平行に配置される2つのプレートと、これを渡すように配置されて仕切り、孔(空間)を形成する板状コネクターとを備えてなるので、特許文献1に記載のフレームに対して自由度が高く上記問題は解消されている。しかしながら、複数の部材を都度組み立てる必要があり、作業が煩雑であった。
【0010】
そこで本発明は上記問題を鑑み、自由度が高く簡易に形状を形成することができる、インプラントフィクスチャーを用いた歯科補綴物用フレームを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明について説明する。ここでは分かり易さのため、図面に付した参照符号を括弧書きで併せて記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
請求項1に記載の発明は、インプラントフィクスチャー(21)を用いた歯科補綴物(20)用のフレーム(10)であって、長手方向に延び
、手の力により塑性変形可能な板状の基部(11)と、基部の長手方向を形成する縁の少なくとも一方から突出するように設けられる板状の片であり、板厚方向に孔(12a)が設けられている孔形成部(12)とを有し、孔形成部は基部の長手方向に沿って複数配列され
、複数の孔形成部は、インプラントフィクスチャーの位置に対応した一部の孔形成部にのみインプラントフィクスチャーが配置されるように配列されており、孔形成部は基部に繋がっている部位で折り曲げられている、歯科補綴物用フレームである。
【0014】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の歯科補綴物用フレーム(10)であって、基部(11)は孔形成部(12)が突出する側に凸となるように湾曲して形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、曲げる等して変形容易であるとともに、長手方向に並べられた多数の孔が設けられていることから、インプラントフィクスチャーの配置位置や患者の顎堤形状によらず、形状を合わせられるように自由度が高く簡易に変形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は1つの形態にかかるフレーム10の平面図である。
図2(a)には、
図1にIIaで示した範囲を拡大した図、
図2(b)には
図2(a)にIIb−IIbで示した線に沿った断面図を表した。
【0019】
図1、
図2(a)、
図2(b)からわかるように、歯科補綴物用フレーム10(「フレーム10」と記載することがある。)は全体として長手方向に延びる細長の板状であり、基部11及び基部11に配置される複数の孔形成部12を有している。
本形態で基部11は上記長手方向に延びる平面視矩形の細長の板状である。
一方、孔形成部12は、基部11の長手方向を形成する縁のうちの少なくとも一方に配置され、基部11から突出するように設けられる板状の小片である。そして複数の孔形成部12が基部11の長手方向に並べられるように配置されている。
【0020】
それぞれの孔形成部12には、板厚方向に貫通する孔12aが設けられている。この12aには後述するように歯科補綴物20を構成する1つの部材であるフレームシリンダー24が挿入されるが、フレームシリンダー24が確実に孔12aに挿入されるように、孔12aはフレームシリンダー24の直径よりも十分に大きい。
また、隣り合う孔形成部12は、後述するように基部11を湾曲させたときに板厚方向に反らないように独立している。本形態では
図1、
図2(a)に示した状態では隣接する孔形成部12同士は接しているが、切れ目12bが基部11にまで達しており、これにより独立している。
なお、本形態では孔形成部12は基部11とは反対側となる端部が半円状に形成されている。これにより口腔内に損傷を与えることを防止している。
【0021】
このようなフレーム10は、手やプライヤー等の器具を用いて変形させて形を整える際に塑性変形し易い部材であるとともに口腔内の一部に触れることもあるので生体親和性がよい材料により形成されていることが好ましい。また、フレーム10は歯科補綴物20の骨子となる部材でもあることからある程度以上の機械的な強度を備えている必要がある。かかる観点からフレーム10は金属により形成されることが好ましく、その中でもステンレス鋼、金合金、チタン合金が特に好ましい。
【0022】
フレーム10の板厚は0.2mm乃至1mmであることが好ましい。これにより手で湾曲させて形を整えやすくなる。また、長手方向に直交する方向の大きさは、基部11及び孔形成部12ともに5mm乃至10mmであることが好ましい。フレームが歯科補綴物の一部として口腔内に配置されることを鑑みると当該範囲が適切である。一方フレームの長手方向の大きさは、設置されるべき歯科補綴物の長さにより適宜調整されるべきであり、特に限定されるものではない。
【0023】
またフレーム10の表面は粗面化されていたり凹凸を有することが好ましい。これにより、フレーム10を人工歯肉26(
図4、
図6参照)に埋めたときに人工歯肉26を構成する樹脂との接着性を高めることができる。
【0024】
このようなフレーム10は、次のように変形することが可能である。
図3に説明のための図を示した。
図3(a)は変形したフレーム10の平面図、
図3(b)は
図3にIIIb−IIIbで示した線に沿った断面図である。
【0025】
特に
図3(b)からわかるように、フレーム10は基部11と孔形成部12とがその板面が所定の角度(
図3(a)、
図3(b)では90°)を成すように変形できる。これは基部11と孔形成部12とが繋がる部分から折り曲げるようにすればよい。孔形成部12は上記したように複数の孔形成部12がそれぞれ独立して設けられており、それぞれの孔形成部12が基部11との繋がり部位から折り曲げられる。
またこのような形態によりフレーム10自体の強度が上がり、安定した歯科補綴物を構成することができる。
【0026】
さらにフレーム10は
図3(a)からわかるように、孔形成部12が突出する側が凸となるように湾曲させて曲げることができる。すなわち、複数の孔形成部12が患者の顎堤に沿って並ぶように基部11を手などで変形させて調整できる。基部11は上記のように薄い板状の部材であるからこのような手による変形が可能である。これにより多くの孔12aを患者の顎堤に沿って配置できる。
【0027】
フレーム10は
図1に示したように湾曲等しておらず平面状の状態で提供されてもよく、患者への顎堤に合わせるために微調整のみで済むように予め
図3(a)、
図3(b)に示したようにある程度曲げられた状態で提供されてもよい。
【0028】
次にフレーム10が用いられた歯科補綴物20について説明する。
図4には歯科補綴物20が口腔内に装着された場面においてこれを平面視した図を表した。
図5には
図4に示した図と同じ視点で人工歯27及び人工歯肉26の樹脂を省略した図を示した。また
図6は、
図4にVI−VIで示した線に沿った断面図である。
【0029】
図4乃至
図6からわかるように、歯科補綴物20は、上記フレーム10の他、インプラントフィクスチャー21、アバットメント22、アバットメントスクリュー23、フレームシリンダー24、フレームスクリュー25、人工歯肉26、及び人工歯27を備えている。
【0030】
インプラントフィクスチャー21は、欠損した歯牙が存在していた顎骨内に埋入される公知のインプラントフィクスチャーである。本形態では、その外周面にスクリューが設けられており、顎骨への保持をより強固なものとしている。インプラントフィクスチャー21のうち口腔内側となる端部はアバットメント22が係合できるように形成されている。
本形態では
図6からわかるようにインプラントフィクスチャー21の口腔内側端部と顎骨の口腔内側面とが概ね一致するようにインプラントフィクスチャー21が埋設されている。
【0031】
アバットメント22は、公知のアバットメントと同様、インプラントフィクスチャー21と歯科補綴物の上部構造とを連結する部材である。従って、
図6からわかるようにアバットメント22のうちインプラントフィクスチャー21側の端部は該インプラントフィクスチャー21に係合している。一方、アバットメント22の口腔内側端部は歯肉から突出するように配置されている。
ここで、アバットメント22は、その内側に設けられた取付孔を通じてアバットメントスクリュー23によりインプラントフィクスチャー21に固定されている。
【0032】
上記説明したインプラントフィクスチャー21、及びアバットメント22は1つの例示であり、その他公知のものを適用することができる。
【0033】
フレームシリンダー24は、フレーム10とともに人工歯肉26、及び人工歯27をインプラントフィクスチャー21に固定してこれらを口腔内に保持する機能を有している。本形態でフレームシリンダー24は筒状の部材であり、その軸方向一端がアバットメント22の口腔内側端部に係合し、軸方向他端がフレーム10の孔12aを貫通して人工歯肉26内又は人工歯27内に埋設されている。
本形態ではフレームシリンダー24は
図6からもわかるように内側に取付孔が設けられ、これを通じてフレームスクリュー25によりアバットメントスクリュー23に固定されている。
また、本形態ではフレームシリンダー24のうちフレーム10の内側となる部位にはその外周部に切り欠き24a具備されている。ここに後述するように硬質の樹脂が充填され、引っ掛かりができるので、フレーム10とのより強固な接合が可能となる。
【0034】
フレーム10は上記フレームシリンダー24とともに人工歯肉26、及び人工歯27をインプラントフィクスチャー21に固定してこれらを口腔内に保持する。形状は上記した通りである。
フレーム10は、その孔形成部12の板面が歯肉に対向し、基部11が口腔内側に向けて立設するような姿勢で配置される。そして孔12aの内側をフレームシリンダー24が貫通する。ここで、孔12aは上記したようにフレームシリンダー24の直径に対して十分大きく形成されている。従って、孔12aの内側にはフレームシリンダー24の外周面との間に空間が生じる。ここに、樹脂28を充填して固化し、フレーム10とフレームシリンダー24とを強固に接合する。
ここで樹脂は特に限定されることはないが、性質上、取り扱いやすく接着性の高い歯科用常温重合樹脂であることが好ましい。
【0035】
人工歯肉26は、排列する人工歯27の土台となるとともに、歯肉を模した部位である。人工歯肉26は公知のものを用いることができ、これには例えば義歯床用の樹脂が挙げられる。人工歯肉26は
図6からわかるようにフレーム10を覆うように配置され、
図4のように顎堤に沿って形成される。
【0036】
ここで、フレーム10及び人工歯肉26と、歯肉との間には
図6にAで示したように間隙が設けられることが好ましい。これにより清掃が容易となり利便性の向上が図られる。
【0037】
人工歯27は
図4に表れているように、欠損した歯牙の機能を補填して、該欠損した歯牙と同様の機能及び外観を有する人工歯牙である。このような人工歯27が人工歯肉26に沿って咀嚼機能を回復するように排列されている。人工歯は公知のものを適用することができる。
【0038】
本形態では
図4、
図5からわかるように、顎堤に沿って5か所にインプラントフィクスチャー21、アバットメント22、フレームシリンダー24が配置されている。そして各々のフレームシリンダー24がフレーム10の孔12aに挿入され樹脂28により接合されている。
【0039】
本発明にかかる歯科補綴物用フレーム10によれば、顎堤に沿って多くの孔を並列しているので、いずれかの孔12aに無理なくフレームシリンダー24を挿入することができる。従ってインプラントフィクスチャー21が埋設された位置を問わず適切な保持が可能である。またこの際、孔12aの大きさはフレームシリンダー24より十分大きくされているので若干のずれは問題にならない。さらに、フレーム10はその変形が容易であるから、患者の顎堤に沿って孔12aの位置も細かく変形することができる。
従って自由度が高いフレーム10であるといえる。
【0040】
また、当該フレーム10は
図3(b)のように長手方向に直交する断面で2つの片が交差する形態を有しているので、軽量であるにもかかわらず構造的にも強度が高い。そして、フレーム10は1つの部材により形成されており、フレームを組み立てる必要がなく取り扱いが容易である。
【0041】
このような歯科補綴物20は例えば次のように作製することができる。
まず通常の手順に従って必要な位置の顎骨に埋入孔を形成し、この埋入孔にインプラントフィクスチャー21を埋入する。
【0042】
次いで、インプラントフィクスチャー21の口腔内側にインプレッションコーピングを装着して印象を採得し、通常の方法に従ってフィクスチャーアナログが埋設された石膏模型を作製する。そしてフィクスチャーアナログの口腔内側端部にアバットメント22を係合させ、このアバットメント22の中央を貫通している貫通穴を貫通させてアバットメントスクリュー23をフィクスチャーアナログの雌ねじ部に螺合させてアバットメント22をフィクスチャーアナログに固定する。その後フレームシリンダー24を石膏模型上のアバットメント22にそれぞれ装着する。ここで用いるフレームシリンダーは実際に適用する直径のものでもよいし、若干直径が大きくてもよい。若干直径が大きいフレームシリンダーを用いてこれに合わせておくことにより、最終的にこれより小さい直径のフレームシリンダーを用いたときにフレーム10の孔12aへの挿入が容易となる。
【0043】
次に、フレーム10について、
図1の状態から孔形成部12を折り曲げる。さらにこの状態から、石膏模型の顎堤部分に沿うとともに孔形成部12の孔12aにフレームシリンダー24が挿入できるように、フレーム10を変形させる。
これによりフレーム10の形状が石膏模型上で整えられて完成する。
【0044】
次に石膏模型上でフレームシリンダー24にフレーム10を装着する。このときフレーム10の形状を石膏模型上で再度調整することができる。そしてフレーム10の孔12a内のうちフレームシリンダー24の外側にできた空間に樹脂28を充填して固化させる。このとき、樹脂28の重合収縮等による影響を抑えるために仮に留め付けておき、石膏模型から一旦取り外して強固に付け、再度石膏模型に装着してもよい。
これによりフレーム10とフレームシリンダー24とが接合した状態となる。
【0045】
次に、通常の方法に従ってフレーム10を含み覆うように蝋義歯を作製し、蝋義歯に人工歯を排列した後、フラスコを用いて蝋材を流し、義歯床用のレジンと入れ替えて人工歯肉26及び人工歯27の部位が加わり、歯科補綴物20となる。
【0046】
図7は他の例にかかる歯科補綴物用フレーム10’を説明する図で、
図2(a)に相当する図である。
図7では、一点鎖線で折り曲げる。この例では隣り合う孔形成部12’間に間隙12’bが設けられている。このような歯科補綴物用フレーム10’でも上記と同様の効果を奏するものとなる。