特許第6166988号(P6166988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特許6166988化合物、熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166988
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】化合物、熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シート
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/70 20060101AFI20170710BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20170710BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170710BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 381/12 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 53/134 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 61/135 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 63/08 20060101ALI20170710BHJP
   C07C 53/18 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C08G59/70
   C08K5/36
   C08L63/00 Z
   C08L71/12
   C07C381/12CSP
   C07C53/134
   C07C61/135
   C07C63/08
   C07C53/18
【請求項の数】9
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-182307(P2013-182307)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-48438(P2015-48438A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年5月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】西尾 健
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269713(JP,A)
【文献】 特開2010−205498(JP,A)
【文献】 特開2002−003581(JP,A)
【文献】 ネットワークポリマー,2012年,Vol.33,No.6,329−334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08G59、C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン硬化成分と、カチオン系硬化剤と、安定剤とを含有し、
前記安定剤が、スルホニウム塩であり、
前記スルホニウム塩が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
前記一般式(1)中、
は、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、
は、メチル基又はアラルキル基を表し、
nは、1〜3の整数であり、
は、カルボン酸のアニオンを表し、前記カルボン酸のアニオンの共役酸の水中25℃でのpKaが、−1以上である。
【請求項2】
一般式(1)におけるXが、安息香酸類のアニオン、ナフタレンカルボン酸類のアニオン、ナフタレン酢酸アニオン、ジフェニル酢酸アニオン、トリフェニル酢酸アニオン、及び1−アダマンタンカルボン酸アニオンのいずれかである請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
カチオン硬化成分が、エポキシ化合物である請求項1から2のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
カチオン硬化成分と、カチオン系硬化剤と、安定剤とを含有し、
前記安定剤が、スルホニウム塩であり、
前記スルホニウム塩におけるアニオンの共役酸の水中25℃でのpKaが、−1以上であり、
前記カチオン系硬化剤が、下記一般式(2)で表されるスルホニウムボレート錯体であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【化2】
前記一般式(2)中、Yは、スルホニウムカチオンを表し、Zは、ハロゲン原子を表す。
【請求項5】
一般式(2)におけるYが、下記一般式(3)で表されるスルホニウムカチオンである請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化3】
前記一般式(3)中、R11は、アラルキル基を表し、R12は、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、mは、1〜3の整数である。
【請求項6】
更にフェノキシ樹脂を含有する請求項1から5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする熱硬化性シート。
【請求項8】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。
【化4】
前記一般式(1)中、Rは、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、メチル基又はアラルキル基を表し、nは、1〜3の整数であり、Xは、共役酸の水中25℃でのpKaが−1以上であるカルボン酸アニオンを表す。
【請求項9】
一般式(1)におけるXが、安息香酸類のアニオン、ナフタレンカルボン酸アニオン、ナフタレン酢酸アニオン、ジフェニル酢酸アニオン、トリフェニル酢酸アニオン、及び1−アダマンタンカルボン酸アニオンのいずれかである請求項8に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シート、並びにそれらに使用可能な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品あるいは電子基板材料のコストダウン化が顕著であり、そのためにより安価な樹脂を材料とした部材設計が進められている。また、ディスプレイ関連材料においては、依然として軽薄短小を求められており、より薄く、より安価な部材の使用が必須となってきている。このため、必然として部材は耐熱性に劣るようになり、それら部材を接合するための接着剤はより低温で硬化できるものを要求されている。
【0003】
エポキシ樹脂系の熱硬化を低温で行う技術として、カチオン重合を用いることは広く知られている。
例えば、特許文献1には、六フッ化アンチモン、六フッ化リンなどを対アニオンとして使用したスルホニウム塩がエポキシ樹脂のカチオン硬化触媒として有用であることが開示されている。特に六フッ化アンチモンを使用したスルホニウム塩は低温硬化触媒として市販されている。
また、特許文献2には、六フッ化アンチモンと同等の活性を有するテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンを使用したカチオン硬化触媒が開示されている。
これらのカチオン硬化触媒は低温硬化の活性を有するものの、そのままではエポキシ樹脂と配合した場合の保存安定性は極めて不十分であるという問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献3には、特定の鉄芳香族化合物塩若しくは特定のオニウム塩を添加する技術が開示されている。また、特許文献4には、特定のホスフィンオキサイド誘導体を添加する技術が開示されている。
しかしながら、これらの技術は保存安定性を改善はするものの、カチオン硬化触媒が有する低温硬化活性を著しく低下させるため、低温硬化との両立としては不十分であるという問題がある。
【0005】
したがって、低温かつ短時間で硬化が可能で、かつ硬化前の保存安定性が確保できる熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シート、並びにそれらに使用可能で安定剤として有用な新規化合物の提供が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−1470号公報
【特許文献2】特開平9−176112号公報
【特許文献3】特開平5−5006号公報
【特許文献4】特許第3817620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、低温かつ短時間で硬化が可能で、かつ硬化前の保存安定性が確保できる熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シート、並びにそれらに使用可能で安定剤として有用な新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> カチオン硬化成分と、カチオン系硬化剤と、安定剤とを含有し、
前記安定剤が、スルホニウム塩であり、
前記スルホニウム塩におけるアニオンの共役酸の水中25℃でのpKaが、−1以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
<2> スルホニウム塩が、下記一般式(1)で表される化合物である前記<1>に記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【化1】
前記一般式(1)中、Rは、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、メチル基又はアラルキル基を表し、nは、1〜3の整数であり、Xは、アニオンを表す。
<3> 一般式(1)におけるXが、カルボン酸のアニオンである前記<2>に記載の熱硬化性樹脂組成物である。
<4> 一般式(1)におけるXが、安息香酸類のアニオン、ナフタレンカルボン酸類のアニオン、ナフタレン酢酸アニオン、ジフェニル酢酸アニオン、トリフェニル酢酸アニオン、及び1−アダマンタンカルボン酸アニオンのいずれかである前記<2>から<3>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物である。
<5> カチオン硬化成分が、エポキシ化合物である前記<1>から<4>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物である。
<6> カチオン系硬化剤が、下記一般式(2)で表されるスルホニウムボレート錯体である前記<1>から<5>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【化2】
前記一般式(2)中、Yは、スルホニウムカチオンを表し、Zは、ハロゲン原子を表す。
<7> 一般式(2)におけるYが、下記一般式(3)で表されるスルホニウムカチオンである前記<6>に記載の熱硬化性樹脂組成物である。
【化3】
前記一般式(3)中、R11は、アラルキル基を表し、R12は、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、mは、1〜3の整数である。
<8> 更にフェノキシ樹脂を含有する前記<1>から<7>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする熱硬化性シートである。
<10> 下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物である。
【化4】
前記一般式(1)中、Rは、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、メチル基又はアラルキル基を表し、nは、1〜3の整数であり、Xは、共役酸の水中25℃でのpKaが−1以上であるアニオンを表す。
<11> 一般式(1)におけるXが、安息香酸類のアニオン、ナフタレンカルボン酸類のアニオン、ナフタレン酢酸アニオン、ジフェニル酢酸アニオン、トリフェニル酢酸アニオン、及び1−アダマンタンカルボン酸アニオンのいずれかである前記<10>に記載の化合物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、低温かつ短時間で硬化が可能で、かつ硬化前の保存安定性が確保できる熱硬化性樹脂組成物、及び熱硬化性シート、並びにそれらに使用可能で安定剤として有用な新規化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、カチオン硬化成分と、カチオン系硬化剤と、安定剤とを少なくとも含有し、好ましくは膜形成樹脂を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0011】
<カチオン硬化成分>
前記カチオン硬化成分としては、前記カチオン系硬化剤の作用により硬化する成分であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物、及び環状エーテル化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
前記エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ポリグリシジルエーテル、ポリグリシジルエステル、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、グリシジルアミン系エポキシ化合物、グリシジルエステル系エポキシ化合物、ビフェニルジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレートと前記グリシジルメタクリレートと共重合可能なビニル単量体との共重合体などが挙げられる。
【0013】
前記脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、シクロヘキセンオキシド含有化合物、シクロペンテンオキシド含有化合物などが挙げられる。
【0014】
前記ビニルエーテル化合物としては、例えば、アルキルビニルエーテル化合物、アルケニルビニルエーテル化合物、アルキニルビニルエーテル化合物、アリールビニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0015】
前記オキセタン化合物としては、オキセタンアルコール、脂肪族オキセタン化合物、芳香族オキセタン化合物などが挙げられる。
【0016】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記カチオン硬化成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜98質量%が好ましく、20質量%〜90質量%がより好ましい。
【0017】
<カチオン系硬化剤>
前記カチオン系硬化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開平2−1470号公報に記載のスルホニウム塩化合物、特開平9−176112号公報に記載のスルホニウムボレート錯体、特開2008−308596号公報に記載のスルホニウムボレート錯体、特開2008−303167号公報に記載のスルホニウムボレート錯体などが挙げられる。
【0018】
これらの中でも、低温硬化性に優れる点で、下記一般式(2)で表されるスルホニウムボレート錯体が好ましい。また、六フッ化アンチモン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートをアニオンに有する化合物がカチオン硬化活性を得られるため好ましい。しかしながら、六フッ化アンチモンアニオンを有する硬化剤は熱硬化時に多量のフッ素イオンを発生させることから、金属部を有する部材の接合に用いる場合、その金属部を腐食させるという問題がある。この点で、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンを有するスルホニウム塩がより好ましい。
【化5】
前記一般式(2)中、Yは、スルホニウムカチオンを表し、Zは、ハロゲン原子を表す。
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0019】
前記一般式(2)におけるYとしては、下記一般式(3)で表されるスルホニウムカチオンであることが、原料が入手しやすい点、合成がしやすい点、及び結晶として取り出しやすく常温で安定である点から好ましい。
【化6】
前記一般式(3)中、R11は、アラルキル基を表し、R12は、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、mは、1〜3の整数である。
【0020】
前記R11のアラルキル基としては、例えば、炭素数7〜20のアラルキル基などが挙げられる。
前記アラルキル基におけるアリール基としては、例えば、芳香族炭化水素基などが挙げられる。前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などが挙げられる。
前記アラルキル基におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、o−メチルベンジル基、(1−ナフチル)メチル基、ピリジルメチル基、アントラセニルメチル基などが挙げられる。
これらの中でも、良好な速硬化性及び入手容易性の点で(1−ナフチル)メチル基が好ましい。
【0021】
前記R12の分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な速硬化性及び入手容易性の点でメチル基が好ましい。
【0022】
前記R12がメチル基であるとき、前記R11はベンジル基ではないことが好ましい。
【0023】
スルホニウム残基に結合しているフェニル基の水酸基の個数を表すmは1〜3の整数である。
そのようなフェニル基としては、mが1の場合、4−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。mが2の場合、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基などが挙げられる。mが3の場合、2,4,6−トリヒドロキシフェニル基、2,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2,3,4−トリヒドロキシフェニル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な速硬化性及び入手容易性の点で4−ヒドロキシフェニル基が好ましい。
【0024】
前記カチオン系硬化剤としてのスルホニウムボレート錯体としては、例えば、以下のスルホニウムボレート錯体などが挙げられる。
【化7】
【0025】
前記一般式(2)で表されるスルホニウムボレート錯体は、例えば、特開2008−303167号公報に記載の製造方法により製造することができる。
【0026】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記カチオン系硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5質量%〜20質量%が好ましく、2質量%〜15質量%がより好ましい。
【0027】
<安定剤>
前記安定剤は、スルホニウム塩である。
前記スルホニウム塩におけるアニオンの共役酸の水中25℃でのpKaは、−1以上である。
前記安定剤は、前記熱硬化性樹脂組成物の保存性を確保し、更に対アニオンの共役酸のpKaが−1以上であることにより、保存性と低温硬化性との両立が可能となる。
前記pKaの上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記pKaは、7以下であることが好ましい。
【0028】
前記pKaが−1以上である共役酸としては、例えば、電気化学便覧第5版(電気化学会編:丸善)のp.102〜p.104、または、以下のURLアドレスより水中におけるpKaデータを参照することができる。
http://www.chem.wisc.edu/areas/organic/index−chem.htm
【0029】
前記スルホニウム塩は、下記一般式(1)で表される化合物であることが、原料が入手しやすい点、合成がしやすい点、及び結晶として取り出しやすく常温で安定である点から好ましい。
【化8】
前記一般式(1)中、Rは、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、メチル基又はアラルキル基を表し、nは、1〜3の整数であり、Xは、アニオン(共役酸の水中25℃でのpKaが−1以上であるアニオン)を表す。
【0030】
前記Rの分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基が、熱安定性の点で好ましい。
【0031】
前記Rのアラルキル基としては、例えば、炭素数7〜15のアラルキル基などが挙げられる。
前記アラルキル基におけるアリール基としては、例えば、芳香族炭化水素基などが挙げられる。前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などが挙げられる。前記アリール基は、アルキル基などの置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。
前記アラルキル基におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、o−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、2,5−ジメチルベンジル基、(1−ナフチル)メチル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0032】
前記一般式(1)中のスルホニウム残基に結合しているフェニル基の水酸基の個数を表すnは1〜3の整数である。
そのようなフェニル基としては、nが1の場合、4−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。nが2の場合、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基などが挙げられる。nが3の場合、2,4,6−トリヒドロキシフェニル基、2,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2,3,4−トリヒドロキシフェニル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な速硬化性及び入手容易性の点で4−ヒドロキシフェニル基が好ましい。
【0033】
前記一般式(1)で表されるスルホニウム塩のカチオンとしては、例えば、下記構造式(1−1)〜(1−5)で表されるカチオンなどが挙げられる。
【化9】
【0034】
<<一般式(1)のX>>
前記一般式(1)におけるXは、共役酸の水中25℃でのpKaが−1以上であるアニオンである。
【0035】
前記Xとしては、カルボン酸アニオンが、原料が入手しやすい点、及び合成がしやすい点から好ましい。
【0036】
前記カルボン酸アニオンとしては、例えば、下記一般式(4)で表されるアニオンなどが挙げられる。
【化10】
前記一般式(4)中、R21は、炭化水素基を表す。
【0037】
前記炭化水素基は、ハロゲン原子を有していてもよい。前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子などが挙げられる。
【0038】
前記炭化水素基としては、例えば、環状構造を有する炭化水素基などが挙げられる。
【0039】
前記環状構造を有する炭化水素基としては、例えば、芳香族を有する炭化水素基、脂環構造を有する炭化水素基などが挙げられる。
【0040】
前記炭化水素基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜15が好ましく、6〜13がより好ましい。
【0041】
前記カルボン酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香環を有するカルボン酸、脂環構造を有するカルボン酸、アクリル酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられる。
【0042】
前記飽和脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、2−エチルヘキサン酸などが挙げられる。
前記不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。
前記脂環構造を有するカルボン酸としては、例えば、1−アダマンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。
前記芳香環を有するカルボン酸としては、例えば、安息香酸、2−メチルベンゼンカルボン酸、2−フェニルベンゼンカルボン酸、2,6−ジメチルベンゼンカルボン酸、2−ヒドロキシベンゼンカルボン酸等の置換、又は無置換の安息香酸類(置換基を有していてもよい安息香酸);1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸、2−ヒドロキシ−1−ナフタレンカルボン酸、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸等のナフタレンカルボン酸類;ナフタレン酢酸、フェニルプロピオン酸、ジフェニル酢酸、トリフェニル酢酸などが挙げられる。
【0043】
前記カルボン酸アニオンとしては、安息香酸類のアニオン、ナフタレンカルボン酸類のアニオン、ナフタレン酢酸アニオン、ジフェニル酢酸アニオン、トリフェニル酢酸アニオン、1−アダマンタンカルボン酸アニオンが、結晶が得られやすい点から好ましい。
【0044】
前記安定剤としては、例えば、以下の安定剤などが挙げられる。
【化11】
【0045】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記安定剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記カチオン系硬化剤1molに対して、1mol%〜10mol%が好ましく、2mol%〜5mol%がより好ましい。前記含有量が1mol%未満であると、安定化の効果を十分発現できない場合がある。前記含有量が、10mol%を超えると、低温での硬化を短時間で行うことが困難になる場合がある。
【0046】
<膜形成樹脂>
前記膜形成樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、製膜性、加工性の点からフェノキシ樹脂が特に好ましい。
【0047】
前記フェノキシ樹脂としては、例えば、2官能フェノール類とエピクロルヒドリンとを反応させ高分子量化したもの、あるいは2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール類とを重付加することにより得られる樹脂などが挙げられる。
使用される2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニルジグリシジルエーテル、メチル置換ビフェニルジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
また、2官能フェノール類としては、例えば、ハイドロキノン類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、メチル置換ビスフェノールフルオレン、ジヒドロキシビフェニル、メチル置換ジヒドロキシビフェニル等のビスフェノール類などが挙げられる。
【0048】
前記熱硬化性樹脂組成物における前記膜形成樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜90質量%が好ましく、20質量%〜80質量%がより好ましい。
【0049】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チキソトロピー剤、充填剤、レベリング剤、酸化防止剤、着色剤、導電性付与剤、接着付与剤などが挙げられる。
【0050】
(熱硬化性シート)
本発明の前記熱硬化性シートは、本発明の前記熱硬化性樹脂組成物を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0051】
前記熱硬化性シートは、例えば、基材フィルム(剥離基材)上に前記熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が形成されてなるものである。前記基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。
前記熱硬化性シートは、保管性、使用時のハンドリング性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等に必要に応じてシリコーン等で剥離処理した基材フィルムに、前記熱硬化性樹脂組成物からなる熱硬化性接着層が10μm〜50μmの平均厚みで形成されていることが好ましい。
【0052】
前記熱硬化性樹脂組成物、及び前記熱硬化性シートは、電子部品分野に好ましく適用できる。特に、前記熱硬化性シートは、フレキシブルプリント配線板の端子部等と、その裏打ちするためのポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ガラスエポキシ、ステンレス、アルミニウム等の厚み50μm〜2mmの補強用シートとを接着固定するために好ましく適用でき、その適用により、フレキシブルプリント配線板の端子部と補強用シートとが、本発明の熱硬化性シートの基材フィルムを除いた熱硬化性接着層の熱硬化物で接着固定されてなる補強フレキシブルプリント配線板が得られる。
【0053】
(化合物)
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される。前記化合物は、低温でカチオン硬化する熱硬化性樹脂組成物の保存安定性を向上させる安定剤として有用である。
【化12】
前記一般式(1)中、Rは、分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは、メチル基又はアラルキル基を表し、nは、1〜3の整数であり、Xは、共役酸の水中25℃でのpKaが−1以上であるアニオンを表す。
【0054】
前記pKaの上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記pKaは、7以下であることが好ましい。
前記pKaが−1以上である共役酸としては、、例えば、電気化学便覧第5版(電気化学会編:丸善)のp.102〜p.104、または、以下のURLアドレスより水中におけるpKaデータを参照することができる。
http://www.chem.wisc.edu/areas/organic/index−chem.htm
【0055】
前記Rの分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基が、熱安定性の点で好ましい。
【0056】
前記Rのアラルキル基としては、例えば、炭素数7〜15のアラルキル基などが挙げられる。
前記アラルキル基におけるアリール基としては、例えば、芳香族炭化水素基などが挙げられる。前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などが挙げられる。前記アリール基は、アルキル基などの置換基を有していてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。
前記アラルキル基におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、o−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、2,5−ジメチルベンジル基、(1−ナフチル)メチル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0057】
前記一般式(1)中のスルホニウム残基に結合しているフェニル基の水酸基の個数を表すnは1〜3の整数である。
そのようなフェニル基としては、nが1の場合、4−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。nが2の場合、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基などが挙げられる。nが3の場合、2,4,6−トリヒドロキシフェニル基、2,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2,3,4−トリヒドロキシフェニル基などが挙げられる。これらの中でも、良好な速硬化性及び入手容易性の点で4−ヒドロキシフェニル基が好ましい。
【0058】
前記一般式(1)で表されるスルホニウム塩のカチオンとしては、例えば、下記構造式(1−1)〜(1−4)で表されるカチオンなどが挙げられる。
【化13】
【0059】
<<一般式(1)のX>>
前記一般式(1)におけるXは、共役酸の水中25℃でのpKaが−1以上であるアニオンである。
【0060】
前記Xとしては、カルボン酸アニオンが、原料が入手しやすい点、及び合成がしやすい点から好ましい。
【0061】
前記カルボン酸アニオンとしては、例えば、下記一般式(4)で表されるアニオンなどが挙げられる。
【化14】
前記一般式(4)中、R21は、炭化水素基を表す。
【0062】
前記炭化水素基は、ハロゲン原子を有していてもよい。前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子などが挙げられる。
【0063】
前記炭化水素基としては、例えば、環状構造を有する炭化水素基などが挙げられる。
【0064】
前記環状構造を有する炭化水素基としては、例えば、芳香族を有する炭化水素基、脂環構造を有する炭化水素基などが挙げられる。
【0065】
前記炭化水素基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜15が好ましく、6〜13がより好ましい。
【0066】
前記カルボン酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香環を有するカルボン酸、脂環構造を有するカルボン酸、アクリル酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられる。
【0067】
前記飽和脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、2−エチルヘキサン酸などが挙げられる。
前記不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。
前記脂環構造を有するカルボン酸としては、例えば、1−アダマンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。
前記芳香環を有するカルボン酸としては、例えば、安息香酸、2−メチルベンゼンカルボン酸、2−フェニルベンゼンカルボン酸、2,6−ジメチルベンゼンカルボン酸、2−ヒドロキシベンゼンカルボン酸等の置換、又は無置換の安息香酸類(置換基を有していてもよい安息香酸);1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフタレンカルボン酸、2−ヒドロキシ−1−ナフタレンカルボン酸、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸等のナフタレンカルボン酸類;ナフタレン酢酸、フェニルプロピオン酸、ジフェニル酢酸、トリフェニル酢酸などが挙げられる。
【0068】
前記カルボン酸アニオンとしては、安息香酸類のアニオン、ナフタレンカルボン酸類のアニオン、ナフタレン酢酸アニオン、ジフェニル酢酸アニオン、トリフェニル酢酸アニオン、1−アダマンタンカルボン酸アニオンが、結晶が得られやすい点から好ましい。
【0069】
前記化合物としては、例えば、以下の化合物などが挙げられる。
【化15】
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
(合成例1)
<スルホニウム塩A1の合成>
攪拌器、冷却管、及び温度計を設置した100mL三口フラスコに4−メチルチオフェノール(東京化成工業株式会社製)5.0g(0.0357mol)、ベンジルクロライド(東京化成工業株式会社製)4.97g(0.0393mol)、メタノール35g、及びHO 15gを入れ、50℃にて24時間撹拌して反応させた。冷却後、減圧によりメタノールを留去することで含水結晶を析出させた。この含水結晶を24時間減圧乾燥し、アセトンで洗浄後、減圧濾過により結晶を取り出し、再度24時間減圧乾燥することで下記構造式(A1)で表されるスルホニウム塩の白色結晶6.86gを得た。
【化16】
【0072】
(合成例2)
<スルホニウム塩A2の合成>
合成例1において、ベンジルクロライドをα−クロロ−o−キシレン(東京化成工業株式会社製)5.53g(0.0393mol)に代えた以外は、合成例1と同様にして、下記構造式(A2)で表されるスルホニウム塩の白色結晶7.72gを得た。
【化17】
【0073】
(合成例3)
<スルホニウム塩A3の合成>
合成例1において、ベンジルクロライドを1−(クロロメチル)ナフタレン(東京化成工業株式会社製)6.94g(0.0393mol)に代えた以外は、合成例1と同様にして、下記構造式(A3)で表されるスルホニウム塩の白色結晶9.61gを得た。
【化18】
【0074】
(合成例4)
<スルホニウム塩A4の合成>
合成例1において、ベンジルクロライドをα−クロロ−p−キシレン(東京化成工業株式会社製)5.53g(0.0393mol)に代えた以外は、合成例1と同様にして、下記構造式(A4)で表されるスルホニウム塩の白色結晶6.82gを得た。
【化19】
【0075】
(合成例5)
<スルホニウム塩A5の合成>
攪拌器、冷却管、及び温度計を設置した100mL三口フラスコに、4−メチルチオフェノール(東京化成工業株式会社製)5.0g(0.0357mol)、ヨードメタン(東京化成工業株式会社製)5.067g(0.0357mol)、及びアセトニトリル20gを入れ、25℃にて10日間撹拌して反応させた。その後、析出した結晶を濾過により取り出し、ジエチルエーテルで洗浄後、24時間減圧乾燥することで下記構造式(A5)で表されるスルホニウム塩の白色結晶2.558gを得た。
【化20】
【0076】
(合成例6)
<ジフェニル酢酸銀の合成>
攪拌器、及び温度計を設置した500mL三口フラスコに水酸化ナトリウム 2.00g(0.050mol)とメタノール200gとを入れて撹拌後、さらにジフェニル酢酸10.61g(0.050mol)を入れ、室温にて固形分が無くなるまで撹拌した。そこに、別途調整した硝酸銀5質量%水溶液169.87g(硝酸銀として0.050mol)をフラスコを遮光状態にしてから室温にて撹拌しながら10分間で滴下した。滴下直後より白色の析出物が生成した。滴下終了後さらに30分間撹拌を行った後、析出物を濾別し、メタノールで洗浄を行った後、24時間減圧乾燥することでジフェニル酢酸銀の白色結晶15.72g(収率98.5%)を得た。
【0077】
(合成例7)
<1−アダマンタンカルボン酸銀の合成>
合成例6において、ジフェニル酢酸を1−アダマンタンカルボン酸 9.01g(0.050mol)に代えた以外は、合成例6と同様にして、1−アダマンタンカルボン酸銀の白色結晶14.04g(収率97.8%)を得た。
【0078】
(合成例8)
<安息香酸銀の合成>
合成例6において、ジフェニル酢酸を安息香酸 6.11g(0.050mol)に代えた以外は、合成例6と同様にして、安息香酸銀の白色結晶11.36g(収率99.2%)を得た。
【0079】
(実施例1)
<構造式(1)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の合成>
攪拌器を設置した100mL三口フラスコを遮光状態にしながら、合成例6で合成したジフェニル酢酸銀2g(0.00627mol)とアセトニトリル10gとを入れ、室温で撹拌し懸濁状態にしながら、合成例1で合成した構造式(A1)で表されるスルホニウム塩 1.673g(0.00627mol)を溶媒(アセトニトリル20g及びメタノール2g)に溶解させた液を添加した。添加後室温にて30分間撹拌した後、析出した塩化銀をフィルターにて除去し、濾液を減圧濃縮して透明粘調液を得た。これをさらに24時間減圧乾燥し、固化させた後、酢酸エチルで洗浄後、ろ過し、再度24時間減圧乾燥することで、下記構造式(1)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶2.08g(収率75.0%)を得た。
【化21】
【0080】
(実施例2)
<構造式(2)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の合成>
実施例1において、構造式(A1)で表されるスルホニウム塩を構造式(A2)で表されるスルホニウム塩 1.761g(0.00627mol)に代えた以外は、実施例1と同様にして、下記構造式(2)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶1.66g(収率58.0%)を得た。
【化22】
【0081】
(実施例3)
<構造式(3)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の合成>
実施例1において、構造式(A1)で表されるスルホニウム塩を構造式(A3)で表されるスルホニウム塩 1.986g(0.00627mol)に代えた以外は、実施例1と同様にして、下記構造式(3)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶2.11g(収率68.2%)を得た。
【化23】
【0082】
(実施例4)
<構造式(4)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の合成>
実施例1において、構造式(A1)で表されるスルホニウム塩を構造式(A4)で表されるスルホニウム塩 1.761g(0.00627mol)に代えた以外は、実施例1と同様にして、下記構造式(4)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶1.02g(収率58.1%)を得た。
【化24】
【0083】
(実施例5)
<構造式(5)のスルホニウム塩(安定剤)の合成>
実施例1において、ジフェニル酢酸銀を合成例7で合成した1−アダマンタンカルボン酸銀 1.80g(0.00627mol)に代えた以外は、実施例1と同様にして、下記構造式(5)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶1.06g(収率41.3%)を得た。
【化25】
【0084】
(実施例6)
<構造式(6)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の合成>
実施例1において、ジフェニル酢酸銀を合成例8で合成した安息香酸銀 1.436g(0.00627mol)に代えた以外は、実施例1と同様にして、下記構造式(6)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶1.01g(収率45.8%)を得た。
【化26】
【0085】
(実施例7)
<構造式(7)のスルホニウム塩(安定剤)の合成>
実施例1において、ジフェニル酢酸銀をトリフルオロ酢酸銀(東京化成工業株式会社製)1.385g(0.00627mol)に代えた以外は、実施例1と同様にして、下記構造式(7)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶1.933g(収率89.5%)を得た。
【化27】
【0086】
(実施例8)
<構造式(8)のスルホニウム塩(安定剤)の合成>
攪拌器を設置した100mL三口フラスコを遮光状態にしながら、合成例6で合成したジフェニル酢酸銀1g(0.00313mol)及びメタノール10gを入れ、室温で撹拌して懸濁状態にしながら合成例5で合成した構造式(A5)で表されるスルホニウム塩 0.8831g(0.00313mol)をメタノール10gに溶解させた液を添加した。添加後室温にて30分間撹拌した後、フィルターにて析出したヨウ化銀を除去し、濾液を減圧濃縮して透明粘調液を得た。これをさらに24時間減圧乾燥し、固化させた後、酢酸エチルで洗浄後、ろ過し、再度24時間減圧乾燥することで、下記構造式(8)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶0.8465g(収率73.8%)を得た。
【化28】
【0087】
(実施例9)
<構造式(9)のスルホニウム塩(安定剤)の合成>
攪拌器を設置した100mL三口フラスコを遮光状態にしながら、合成例6で合成したジフェニル酢酸銀1g(0.00313mol)及びメタノール10gを入れ、室温で撹拌して懸濁状態にしながらトリフェニルスルホニウムブロミド1.074g(0.00313mol)を添加した。添加後室温にて30分間撹拌した後、フィルターにて析出した臭化銀を除去し、濾液を減圧濃縮して白色結晶を得た。これを酢酸エチルで洗浄後、ろ過し、再度24時間減圧乾燥することで、下記構造式(9)で表されるスルホニウム塩(安定剤)の白色結晶1.251g(収率84.2%)を得た。
【化29】
【0088】
(比較例1)
攪拌器を設置した100mL三口フラスコに、メチル硫酸カリウム(関東化学株式会社製)1g(0.00666mol)、合成例1で合成したスルホニウム塩A1 1.776g(0.00666mol)及びメタノール4gを入れ、室温で30分間撹拌した。そこに、アセトン40gを30分間かけて滴下した。その後さらに30分間攪拌後濾過し、濾液を減圧濃縮して白色結晶を得た。これを酢酸エチルで洗浄後、再度ろ過し、24時間減圧乾燥することで、下記構造式(C1)で表される化合物の白色結晶0.8164g(収率35.8%)を得た。
【化30】
【0089】
ここで、下記化合物の水中25℃でのpKaは、それぞれ以下のとおりである。
安息香酸 :4.2
ジフェニル酢酸 :4.6
1−アダマンタンカルボン酸 :4.8
トリフルオロ酢酸 :0.3
メチル硫酸 :−2.6
塩酸 :−3.7
【0090】
(実施例10〜23及び比較例2〜7)
表1−1及び表1−2に示す配合にしたがって熱硬化性樹脂組成物を作製した。
作製した熱硬化性樹脂組成物をシリコーン系離型処理された剥離PET(ポリエチレンテレフタレート)にコーティングし、60℃に設定された熱風循環オーブン中で5分間乾燥することにより、平均厚み15μmの熱硬化性シートを作製した。
【0091】
【表1-1】
【0092】
【表1-2】
表1−1及び表1−2におけるフェノキシ樹脂の配合は、溶剤分を除いた配合量であり、単位は、質量部である。エポキシ樹脂及びカチオン系硬化剤の配合の単位は、質量部である。安定剤及び構造式(C1)〜(C3)の配合は、カチオン系硬化剤に対するmol%である。
なお、表1における各材料は、以下のとおりである。
YP70:新日鐵住金化学株式会社製、ビスフェノールA/ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂
FX−316:新日鐵住金化学株式会社製、ビスF型フェノキシ樹脂
YL980:三菱化学株式会社製、ビスAタイプエポキシ樹脂
YL983U:三菱化学株式会社製、ビスFタイプエポキシ樹脂
【化31】
【0093】
構造式(C2):東京化成工業株式会社製(特開平5−5006号公報中、実施例1〜5で安定剤として使用している化合物である)
【化32】
【化33】
【0094】
なお、配合する際、YP70及びFX−316は、メチルエチルケトンの45質量%固形分溶液を用いた。YL980及びYL983Uは、原液を用いた。構造式(1a)で表される化合物は、メチルエチルケトンの30質量%固形分溶液を用いた。また、構造式(1)〜(9)、(C1)〜(C3)で表される化合物は、メタノールに溶解し1質量%固形分としたものを用いた。
【0095】
(実施例10〜23及び比較例2〜7の熱硬化性シートの低温硬化性及び保存安定性評価)
作製した実施例10〜23及び比較例2〜7の熱硬化性シート(平均厚み15μm)の初期の低温硬化性及び保存安定性を、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の示差走査熱量測定装置DSC6200により評価した。
保存安定性は25℃/65%Rhの暗所環境下にて2週間放置前後のDSCにおける発熱量変化から減少率を算出することで評価した。
【0096】
当業界で良く知られているように、示差走査熱量測定による発熱挙動はエポキシ樹脂の硬化反応挙動を反映している。よってその結果による硬化開始温度及び硬化終了温度がより低いほど、その組成物が低温硬化性を有すると言える。
本発明では、硬化開始温度としてDSCチャートにおけるトータル発熱の2%に到達する温度、及び硬化終了温度はDSCチャートにおけるトータル発熱の95%に到達する温度を指標として低温硬化性を評価した。いずれも、より低温である方が低温硬化活性を有することになる。
また、放置前後の発熱量の変化量は放置中での反応進行量を反映する。放置前後で発熱量の変化が少ないほど保存安定性が高いと言える。エポキシ樹脂を用いた場合、具体的には放置前後の発熱量の変化量をトータル発熱の5%以下に抑えることで熱硬化性シートとしての機能は維持できる。
<測定条件>
昇温速度 10℃/min
ガス 100ml/min
サンプル重量 約10mg
【0097】
結果を表2−1及び表2−2に示した。
【0098】
【表2-1】
【0099】
【表2-2】
【0100】
(実施例10〜23及び比較例2〜7の短時間硬化性の評価)
作製した実施例10〜23及び比較例2〜7の熱硬化性シート(平均厚み15μm)の短時間硬化性を以下の方法により確認した。
<短時間硬化性の評価>
各熱硬化性シート1.5mgをエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の示差走査熱量測定装置DSC6200用の直径5mmのアルミ容器に入れ、クランプカバーをして、評価用サンプルを作製した。本サンプルをヒーター板に各々5秒間押し付けた後、示差走査熱量測定を行い、その発熱量と押し付ける前の発熱量から反応率を算出した。ヒーター板の温度は120℃及び130℃とした。
<測定条件>
昇温速度 10℃/min
ガス 100ml/min
サンプル重量 約1.5mg
【0101】
結果を表3−1及び表3−2に示した。
【0102】
【表3-1】
【0103】
【表3-2】
【0104】
表2−1、表2−2、表3−1、及び表3−2の結果より、実施例10〜23の熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性シートは、本発明の安定剤を添加をしていない比較例2に対し、放置前後の発熱減少率が十分抑えられており、保存安定性が図れているといえる。
さらに、実施例10〜18、及び比較例3〜5の結果より、本発明の安定剤を用いた本発明の熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性シートは、比較例(構造式(C1)〜C3))の熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性シートに対し、放置前後の発熱減少率が抑えられており、保存安定性が優れているといえる。
また、硬化開始及び硬化終了のいずれの温度も本発明の安定剤を添加したものが、より低温であることもわかる。
さらに、短時間硬化性の評価においては、本発明の安定剤を添加したものが反応率が高いこともわかる。
また、実施例10、19〜21、比較例3、6、7の結果より、本発明の熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性シートは、本発明の安定剤の添加量を変えても保存性と低温短時間硬化性とにおいて両立が図れるのに対し、比較例の熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性シートは両立が困難であることがわかる。
また、本発明の安定剤及び比較化合物のアニオンの共役酸のpKa値より、pKaが−1以上で本発明の効果が得られることがわかる。
以上のことより、本発明の有用性が証明された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、低温かつ短時間で硬化が可能で、かつ硬化前の保存安定性が確保できるため、電子部品を接合する接着剤として、好適に用いることができる。