(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6166996
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ヒドラジノアリールカルボン酸類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 241/02 20060101AFI20170710BHJP
C07C 243/22 20060101ALI20170710BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170710BHJP
【FI】
C07C241/02
C07C243/22
!C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-201924(P2013-201924)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67561(P2015-67561A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229656
【氏名又は名称】株式会社日本ファインケム
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】合歓垣 修一
(72)【発明者】
【氏名】飯島 大樹
【審査官】
山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−513562(JP,A)
【文献】
特表2006−514987(JP,A)
【文献】
特表2002−504535(JP,A)
【文献】
特表2008−509128(JP,A)
【文献】
Dalton Transactions,2011年,Vol.40, No.23,p.6260-6267
【文献】
Science of Synthesis,2007年,Vol.31b,p.1791-1792,1814
【文献】
DATABASE REGISTRY (STN) RN 169739-72-4, [online],1995年11月 7日,[Retrieved on 2017.03.27]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 241/00−243/42
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Arは、ヘテロ原子で構成されることがあり、かつ電子吸引性置換基及び/又は電子供与性置換基を有することのあるアリール基であり、R
1からR
3は何れも、水素原子、置換基を有することのある炭素数1から20迄のアルキル基、又はヘテロ原子で構成されることがあり、かつ電子吸引性置換基及び/又は電子供与性置換基を有することのあるアリール基を表し、nは1以上の整数を表す。)
で示されるヒドラジノアリールカルボン酸類を製造する方法であって、
一般式(2)で示されるヒドラジン類と、
【化2】
(式中、R
1からR
3は水素原子、アルキル基又はアリール基であり、式(1)のR
1からR
3と同じ意味を表す。)
一般式(3)で示される
【化3】
(式中、Arは式(1)と同じ意味を表し、Xはハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、メシル基、トシル基、スルホニル基、スルフリル基、スルホニルアミノ基、アミノスルホニル基又はトリフルオロメタンスルホニル基を表し、複数個有っても良い。)
カルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類とを、銅、銅塩類、及び/又は、パラジウム、パラジウム塩類及び塩基類を用い
、かつ溶媒として水を用いて水溶媒中で反応させた後、酸析してヒドラジノアリールカルボン酸類を取得することを特徴とするヒドラジノアリールカルボン酸類の製造方法。
【請求項2】
塩基類が炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、ピリジンからなる群から選ばれる一種類以上の化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
銅又は銅塩類を用いて、該反応を実施する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(2)で示される化合物が水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン及びフェニルヒドラジンから選ばれる一種類以上の化合物である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
一般式(3)で示される化合物がカルボキシアリールハライド類である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
一般式(1)で示される化合物が4−ヒドラジノ安息香酸、又は4−ヒドラジノフタル酸である請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬分野等に於ける機能中間体として有用なヒドラジノアリールカルボン酸類の製造方法に関する。更に詳しくは、ヒドラジノ安息香酸類及びヒドラジノフタル酸類の簡便な工業的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
置換アリール化合物とヒドラジン類との反応によるアリールヒドラジン化合物の製造方法として、特開2005−60367号公報(特許文献1)及び特開平9−176101号公報(特許文献2)に記載された方法が知られている。しかしながら、これらの方法ではニトロ基やハロゲン等の強い電子吸引性基を持つアリール化合物に限定され、その他の置換基や置換基を持たない化合物に於いては反応しないか、若しくは非常に低収率である。また、本発明のヒドラジノ基やカルボキシル基のような水親和性の高い置換基をもった化合物では、特許文献に記載されているような水分散により沈殿させる取り出し方法を行っても、結晶が析出しないか、微量しか析出せず、実際の製造に於いて実用的な方法とは言えない。
【0003】
特表2002−504535号公報(特許文献3)及びTetrahedron 69(2013)613(非特許文献1)には、上記と同様な反応に於いてパラジウム又は銅触媒を用いることで、強い電子吸引性基を持たないアリール化合物に於いても好収率で対応するヒドラジン化合物が得られることが記載されている。しかしながら、その取り出しには多量の有機溶剤を用いた抽出、濃縮等の煩雑な操作に加え、工業的規模での実施には不向きなカラムクロマトグラフィーによる手法を用いており、到底実用には耐えない。また、ヒドラジノアリールカルボン酸類についての具体的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−60367号公報
【特許文献2】特開平9−176101号公報
【特許文献3】特表2002−504535号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tetrahedron、69(2013)、613
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は医薬、農薬原料あるいは中間体として有用なヒドラジノアリールカルボン酸化合物の従来よりも有利な工業的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類とヒドラジン類とを、銅及び/又はパラジウム触媒と塩基を用い、水の共存下に反応させることで円滑に反応が進行することを見出した。更に、この反応液に酸類を添加して酸析し、結晶として析出させて濾取することで、ヒドラジノアリールカルボン酸類が簡便に製造出来ることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、一般式(1)
【化1】
(式中、Arは、ヘテロ原子で構成されることがあり、かつ電子吸引性置換基及び/又は電子供与性置換基を有することのあるアリール基であり、R
1からR
3は何れも、水素原子、置換基を有することのある炭素数1から20迄のアルキル基、又はヘテロ原子で構成されることがあり、かつ電子吸引性置換基及び/又は電子供与性置換基を有することのあるアリール基を表し、nは1以上の整数を示す。)
で示されるヒドラジノアリールカルボン酸類を製造する方法であって、
一般式(2)で示されるヒドラジン類と
【化2】
(式中、R
1からR
4は水素原子、アルキル基又はアリール基であり、式(1)のR
1からR
3と同じ意味を表す。)
一般式(3)で示される
【化3】
(式中、Arは式(1)と同じ意味を表し、Xはハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、メシル基、トシル基、スルホニル基、スルフリル基、スルホニルアミノ基、アミノスルホニル基又はトリフルオロメタンスルホニル基を表し、複数個有っても良い。)
カルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類とを、銅、銅塩類、及び/又は、パラジウム、パラジウム塩類及び塩基類を用いて、水の共存下反応させた後、酸析してヒドラジノアリールカルボン酸類を取得することを特徴とするヒドラジノアリールカルボン酸類の製造方法に関するものである。
なお、一般式(1)や一般式(3)で示されている置換基Arに於いて、ヘテロ原子で構成されることがあり、かつ電子吸引性置換基及び/又は電子供与性置換基を有することのあるアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ピリジル基、オキサゾリル基、チアゾリル基等が挙げられ、かかるアリール基が有していてもよい電子吸引性置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基等が、また、電子供与性置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基等が挙げられる。一方、一般式(1)や一般式(2)で示されている置換基R
1からR
3における置換基を有することのあるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロペンチル基等のアルキル基やシクロアルキル基が挙げられ、かかるアルキル基やシクロアルキル基が有することのある置換基としては、例えばハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、カルボニル基、ビニル基等があり、また、置換基を有することのあるアリール基としては、上記置換基Arに於いて例示したアリール基と同様の基が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒドラジノアリールカルボン酸類の製造方法によると、水溶媒あるいは水混合溶媒中で反応を円滑に進行させることが出来、その後、酸析することにより目的物を水溶媒あるいは水混合溶媒中から簡便な操作で濾取することが出来る。これにより従来技術で見られる様な煩雑な取り出し操作を必要としないため、工業的により有利に目的物を製造することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の製造方法について更に詳細に説明する。
本発明の方法ではカルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類とヒドラジン類とを、触媒と塩基を用い、水の存在下に反応することによって、ヒドラジノアリールカルボン酸類を製造する。
【0011】
本発明で出発原料として用いる一般式(3)で表されるカルボキシアリールハライド類(3)、又はカルボキシアリールスルホン類(3)の具体例としては、4−クロロ安息香酸、4−ブロモ安息香酸、4−フルオロ安息香酸、4−ヨード安息香酸、4−トシル安息香酸、4−スルホ安息香酸、3−クロロ安息香酸、3−ブロモ安息香酸、3−フルオロ安息香酸、3−ヨード安息香酸、3−トシル安息香酸、3−スルホ安息香酸、2−クロロ安息香酸、2−ブロモ安息香酸、2−フルオロ安息香酸、2−ヨード安息香酸、2−トシル安息香酸、2−スルホ安息香酸、4−クロロフタル酸、4−ブロモフタル酸、4−フルオロフタル酸、4−ヨードフタル酸、4−トシルフタル酸、4−スルホフタル酸、3−クロロフタル酸、3−ブロモフタル酸、3−フルオロフタル酸、3−ヨードフタル酸、3−トシルフタル酸、3−スルホフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−ブロモテレフタル酸、2−フルオロテレフタル酸、2−ヨードテレフタル酸、2−トシルテレフタル酸、2−スルホテレフタル酸、4−クロロイソフタル酸、4−ブロモイソフタル酸、4−フルオロイソフタル酸、4−ヨードイソフタル酸、4−トシルイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、5−クロロイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、5−ヨードイソフタル酸、4−トシルイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸、6−クロロ−2−ピリジンカルボン酸、6−ブロモ−2−ピリジンカルボン酸、6−フルオロ−2−ピリジンカルボン酸、6−ヨード−2−ピリジンカルボン酸、6−トシル−2−ピリジンカルボン酸、6−スルホ−2−ピリジンカルボン酸等が挙げられる。
これらのうち、副生する臭化カリウム等の無機塩が水溶媒中に溶解しやすい点でカルボキシアリールハライド類が好ましく、塩素化物又は臭素化物が原料入手の容易性及び経済性の点で、さらに好ましい。
【0012】
反応に用いるヒドラジン類(2)は、無水物、水和物、塩類或いは水溶液又は溶液のいずれでも使用することが出来る。ヒドラジン類(2)の具体例としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、tert−ブチルヒドラジン、フェニルヒドラジン等が挙げられる。また、これらのヒドラジン類は、市販品として、例えば、(株)日本ファインケム等から入手することが出来る。
【0013】
ヒドラジン類(2)の使用量としては、カルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類(3)に対するモル比で1.0から20.0が良く、より好ましくは1.5から3.0の範囲である。多量に用いると生産性に支障をきたし、逆に少なすぎると収率が低下する傾向が見られる。
【0014】
反応に用いる触媒としては銅、銅塩類、及び/又は、パラジウム、パラジウム塩類等が挙げられ、反応液に溶解出来るという点で、銅塩類やパラジウム塩類が好ましい。また、安価であり、収率の面でも満足出来る範囲であるという点で、銅又は銅塩類が好ましい。
【0015】
銅としては、銅粉末、銅担持触媒及び酸化銅等の銅化合物等が挙げられ、また、パラジウムとしては、パラジウム粉末、パラジウムカーボン等が挙げられる。このような金属や銅化合物などの形態としては粉末状のものが反応を効率的に行う観点から好ましい。
一方、銅塩類の具体例としては、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、フッ化銅、硝酸銅等が挙げられ、パラジウム塩類の具体例としては、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、フェニルアリルクロロ[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン]パラジウム(II)(ユミコア社製 商品名:Umicore CX31)、フェニルアリルクロロ[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]パラジウム(II)(ユミコア社製 商品名:Umicore CX32)等が挙げられる。
これらのうち、反応液に溶解し、目的物の収率が良く、安価である点でヨウ化銅や塩化銅が好ましい。これら触媒は、一種のみ或いは二種以上を用いても良い。
【0016】
触媒使用量は特に制限されないが、反応基質であるカルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類に対するモル比で0.0001から1が良く、より好ましくは0.01から0.4の範囲とすることにより、収率良く目的物を得ることが出来る。
【0017】
上記の触媒とともに用いる塩基としては、例えば炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩、或いはピリジン、モルホリン等の有機塩基を使用することが出来る。これらのうちでも、水への溶解性や反応性の点で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩が好ましく、中でも、目的物の収率が良く、安価である炭酸カリウム又は炭酸ナトリウムが特に好ましい。
塩基の使用モル比はカルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類(3)に対して0.1から10.0であることが好ましく、0.2から5.0であることが更に好ましく、0.5から2.0の範囲であることが収率の面で特に好ましい。
【0018】
反応はヒドラジン類等の反応原料に溶媒を兼ねさせれば無溶媒でも可能であるが、反応系の攪拌性等の観点から水を含む溶媒を用いるのが好ましい。水を含む溶媒としては水単独或いは、水と有機溶媒との混合溶媒であっても良い。有機溶媒としては例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族アルコール、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド、及びトルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
これら溶媒は必要に応じて二種以上を用いることも出来、これらの有機溶媒と水とを混合して用いることが出来る。水に対する有機溶媒の混合量に特に制限はないが、水の量に対して1倍量(質量)以下程度が、無機塩の除去と 攪拌性の点で好ましい。
なお、ヒドラジン類が水和物であるとか、水溶液で供給されている等、水を含む場合には、改めて、溶媒として水を用いることはせずに、有機溶媒のみを用いて反応させることも出来る。
溶媒の種類は、反応させるカルボキシアリールハライド類又はカルボキシアリールスルホン類とヒドラジン類との種類や得られるヒドラジノアリールカルボン酸類の特性等により、水単独の溶媒とするか、あるいは上記のような水混合溶媒を用いて反応させることになるが、一般に、水単独で反応することが好ましい。水溶媒を用いることで反応が円滑に進行し、有機溶剤を用いない分コスト的にも有利である。また、反応後には目的物を結晶で析出させて濾取することで、母液中に無機塩が除去され、高品質なヒドラジノアリールカルボン酸類を得ることが出来る。
【0019】
溶媒の使用量は特に限定されないが、反応原料に応じて適宜選択することが出来る。通常は式(3)で表されるカルボキシアリールハライド類、又はカルボキシアリールスルホン類に対する質量比で1から20倍が良く、特に好ましくは2から10倍の範囲である。
【0020】
合成時の反応温度は50から180℃が好ましく、より好ましくは80から120℃の範囲である。上記反応温度条件下に於いて反応時間は特に制限されないが、副生物抑制の観点等から、好ましくは1から20時間の範囲が適当である。
【0021】
反応により得られたヒドラジノアリールカルボン酸類の溶液は、使用した塩基類によってカルボン酸と塩基に由来する金属の塩(例えば、カリウムやナトリウム等の塩)か、アミン塩(例えば、ピリジン塩)となっており、水溶媒を用いた反応液に溶解している。しかし、この反応液に酸類を添加してpHを4付近に調整することで、水への溶解度が下がり、目的物を結晶として析出させることが出来る。これにより抽出や、濃縮等の煩雑な操作を行うことなく、ろ過により結晶として取り出しが可能であり、工業的な製造にも好適である。
【0022】
酸析に使用する酸類の具体例としては、塩酸、硫酸等の無機酸類やスルホン酸、カルボン酸等の有機酸類等が挙げられる。使用する酸類としては、副生する無機塩の溶解性と安価な点から、塩酸が特に好ましい。
【0023】
適切なpHとしては2.0から6.0であり、特に3.0から5.0の範囲であることが収率の面で好ましい。pHがより酸側ではヒドラジノ基との塩が生じ、また、アルカリ側ではカルボン酸基との塩が生じるため、水への溶解度が増し、結晶での取り出しが困難となる。
【0024】
以上の方法により、ヒドラジノアリールカルボン酸類のように水溶性が高く、水分散等による取り出しが困難な化合物も水溶媒中から簡便に濾取することが出来、同時に水溶媒により無機塩等の不純物混入を抑えることも可能となった。これにより従来技術に見られる様な煩雑取り出し操作と多量の有機溶媒の消費も必要とせず、工業的により有利に目的物を製造することが可能となった。
【0025】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってその範囲が限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例等に於いて、ヒドラジノアリールカルボン酸類は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。
【実施例】
【0026】
実施例1
4−ブロモフタル酸25.0g(0.10モル)、炭酸カリウム29.0g(0.21モル)、ヨウ化銅1.0g(0.005モル)、水75.6g、100%水加ヒドラジン11.1g(0.22モル)を混合し、これを90℃まで昇温して、9時間加熱攪拌した。室温まで冷却後、沈殿していた銅を含む不溶分を濾別し、水21.2gで洗浄した。得られた濾液のpHは9.0となっており、この段階では目的物は完全に溶解していた。この濾液に36%塩酸47.3g(0.47モル)を20分間かけて添加すると淡黄色の粉状結晶が析出し、添加後のpHは3.5であった。析出した結晶を濾取し、水30.2gで洗浄後、40℃、真空(1Torr)で10時間乾燥して4−ヒドラジノフタル酸17.6gを得た。HPLC分析の絶対検量線法により求めた純度は96%で、収率は84%であった。この方法により水溶媒中でも反応が円滑に進行し、酸析と濾過という簡便な操作でヒドラジノアリールカルボン酸が得られ、下記比較例1及び2に比べても良好な結果であった。
【0027】
比較例1
4−ブロモフタル酸5.1g(0.02モル)、100%水加ヒドラジン20.8g(0.42モル)を混合し、これを100℃まで昇温して24時間加熱・攪拌した。反応液をHPLCで定量分析した結果、反応収率は6.2%に止まった。
【0028】
比較例2
4−ブロモフタル酸5.1g(0.02モル)、炭酸カリウム3.0g(0.02モル)、ヨウ化銅0.2g(0.001モル)、1,3−ブタンジオール20.0g、100%水加ヒドラジン2.3g(0.05モル)を混合し、これを120℃まで昇温して8時間加熱・攪拌した。室温まで冷却後、析出した結晶を濾取し、水79gで洗浄後、50℃、真空で4時間乾燥して4−ヒドラジノフタル酸8.1gを得た。HPLC分析の絶対検量線法により求めた純度は29%で、収率は57%に止まった。
【0029】
実施例2
4−ブロモ安息香酸4.2g(0.02モル)、炭酸カリウム1.5g(0.01モル)、ヨウ化銅0.4g(0.002モル)、水30.0g、100%水加ヒドラジン3.2g(0.06モル)を混合し、これを90℃まで昇温して8時間加熱・攪拌した。室温まで冷却後、沈殿していた銅を含む不溶分0.2gを濾別し、水5.2gで洗浄した。得られた濾液のpHは7.9となっており、この段階では目的物は完全に溶解していた。この濾液に36%塩酸3.9g(0.04モル)を添加すると淡黄色の粉状結晶が析出し、添加後のpHは4.0であった。析出した結晶を濾取し、水2.1gで洗浄後、40℃、真空(1Torr)で18時間乾燥して4−ヒドラジノ安息香酸2.7gを得た。HPLC分析の絶対検量線法により求めた純度は91%で、収率は77%であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、医農薬中間体として用いられるヒドラジノアリールカルボン酸を簡便な操作で得ることが可能である。また、大量生産を行う際に問題となる有機溶剤による抽出等の煩雑な操作を必要としないので、簡便かつ経済的な製造方法を提供することが出来、医薬及び農薬分野に於いて本発明の意義は高い。