特許第6167052号(P6167052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KDDI株式会社の特許一覧

特許6167052通信トラヒック予測装置およびプログラム
<>
  • 特許6167052-通信トラヒック予測装置およびプログラム 図000002
  • 特許6167052-通信トラヒック予測装置およびプログラム 図000003
  • 特許6167052-通信トラヒック予測装置およびプログラム 図000004
  • 特許6167052-通信トラヒック予測装置およびプログラム 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167052
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】通信トラヒック予測装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/30 20060101AFI20170710BHJP
   H04L 12/70 20130101ALI20170710BHJP
   H04W 24/00 20090101ALI20170710BHJP
【FI】
   G06F17/30 220Z
   H04L12/70 100Z
   H04W24/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-34197(P2014-34197)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-158861(P2015-158861A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小頭 秀行
(72)【発明者】
【氏名】泉川 晴紀
【審査官】 小太刀 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−080315(JP,A)
【文献】 特開2003−037553(JP,A)
【文献】 特開2000−069165(JP,A)
【文献】 米国特許第05555444(US,A)
【文献】 特開2011−055108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/30
H04L 12/70
H04W 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信端末のトラヒック量を予測する通信トラヒック予測装置において、
通信サービスの提供エリアを地理依存で分割した単位領域ごとにコール数を含むトラヒック特性を測定するトラヒック特性測定手段と、
前記コール数の時系列を所定の周期で統計的に分析する分析手段と、
前記コール数およびその分析結果に基づいて、将来のコール数を予測する予測モデルMcを単位領域ごとに構築する予測モデル構築手段と、
予測領域で測定されたコール数の分析結果をトラヒック傾向が適合する予測モデルMcに適用して将来のコール数を予測する予測手段とを具備したことを特徴とする通信トラヒック予測装置。
【請求項2】
前記コール数の予測結果および1コール数当たりのトラヒック量に基づいて前記予測領域の予測トラヒック総量を算出する予測トラヒック総量算出手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1に記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項3】
前記トラヒック特性測定手段が、1コール数当たりのトラヒック量を単位領域ごとに測定する手段をさらに具備し、
前記分析手段が、前記1コール数当たりのトラヒック量の時系列を所定の周期で統計的に分析する手段をさらに具備し、
前記予測モデル構築手段が、前記1コール数当たりのトラヒック量およびその分析結果に基づいて、将来の1コール数当たりのトラヒック量を予測する予測モデルMvpcを単位領域ごとに構築する手段をさらに具備し、
前記予測手段が、前記予測領域で測定された1コール数当たりのトラヒック量の分析結果をトラヒック傾向が適合する予測モデルMvpcに適用して将来の1コール数当たりのトラヒック量を予測する手段とをさらに具備したことを特徴とする請求項1または2に記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項4】
前記コール数の予測結果および1コール数当たりのトラヒック量の予測結果に基づいて予測トラヒック総量を算出する予測トラヒック総量算出手段をさらに具備したことを特徴とする請求項3に記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項5】
前記予測手段は、前記コール数の分析結果を適用する予測モデルMcと前記1コール数当たりのトラヒック量の分析結果を適用する予測モデルMvpcとを、同一の単位領域で測定されたトラヒック特性に基づいて構築された予測モデルペアに限定することを特徴とする請求項3または4に記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項6】
前記予測手段は、前記コール数の分析結果を適用する予測モデルMcと前記1コール数当たりのトラヒック量の分析結果を適用する予測モデルMvpcとを、同一の単位領域で測定されたトラヒック特性に基づいて構築された予測モデルペアに限定しないことを特徴とする請求項3または4に記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項7】
前記分析手段は、コール数の単位時間ごとの一次微分値および二次微分値を計算することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項8】
前記分析手段は、1コール数当たりのトラヒック量の単位時間ごとの一次微分値および二次微分値を計算することを特徴とする請求項3ないし6のいずれかに記載の通信トラヒック予測装置。
【請求項9】
通信端末のトラヒック量を予測する通信トラヒック予測プログラムにおいて、 通信サービスの提供エリアを地理依存で分割した単位領域ごとにコール数を含むトラヒック特性を測定する手順と、
前記コール数の時系列を所定の周期で統計的に分析する手順と、
前記コール数およびその分析結果に基づいて、将来のコール数を予測する予測モデルMcを単位領域ごとに構築する手順と、
予測領域で測定されたコール数の分析結果をトラヒック傾向が適合する予測モデルMcに適用して将来のコール数を予測する手順とを、コンピュータに実行させる通信トラヒック予測プログラム。
【請求項10】
1コール数当たりのトラヒック量を単位領域ごとに測定する手順と、
前記1コール数当たりのトラヒック量の時系列を所定の周期で統計的に分析する手順と、
前記1コール数当たりのトラヒック量およびその分析結果に基づいて、将来の1コール数当たりのトラヒック量を予測する予測モデルMvpcを単位領域ごとに構築する手順と、
前記予測領域で測定された1コール数当たりのトラヒック量の分析結果をトラヒック傾向が適合する予測モデルMvpcに適用して将来の1コール数当たりのトラヒック量を予測する手順とをさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の通信トラヒック予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信トラヒック予測装置およびプログラムに係り、特に、通信端末のコール数に基づいて将来の通信トラヒック量を予測する通信トラヒック予測装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
トラヒック特性の実績値に基づいて将来の通信トラヒックを算出する技術が特許文献1−4に開示されている。
【0003】
特許文献1には、日時によって変動する通信地域のトラヒック量を予測する方式として、移動体・携帯通信網における位置登録情報を監視・測定し、かつ発呼した移動体端末の発呼状況も監視・測定し、これらの過去の実績値に基づいて将来の日時および地域毎の発呼状況を予測する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、変動する通信地域のトラヒックを予測する方式として、電気通信設備におけるトラヒックおよび電気通信設備のサービス提供地域から地図上の各位置(単位領域)に依存したトラヒックを算出し、この位置依存トラヒックの実績値から将来の位置依存トラヒックを予測する技術が開示されている。各単位領域のトラヒック量は、電気通信設備のサービス提供地域と観測単位領域との面積比により、電気通信設備間のトラヒックを観測単位領域間のトラヒックとして算出される。
【0005】
特許文献3には、バックボーン回線やINET回線など固定網の通信トラヒック量を予測する方式として、ネットワーク上でパケットが流れた時間およびパケットのサイズを測定し、かつトラヒック量およびその変動に影響を与える外的要因(カレンダ情報やイベントの状況など)を管理し、これらの情報に統計解析手法を適用して将来のトラヒック量を予測する技術が開示されている。
【0006】
特許文献4には、新規サービス普及時に発生するであろう通信トラヒック量を予測する方式として、新規サービスのトラヒック量に影響を与えるサービス加入者数や、過去の同様サービス普及時のトラヒック量の傾向・実績等を管理・測定し、これらに基づいて将来の新規サービス普及時のトラヒック量を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-80315号公報
【特許文献2】特開2001-168985号公報
【特許文献3】特開2012-253445号公報
【特許文献4】特開2012-182677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、位置登録に関する信号情報、シグナリングを測定することで呼数を予測し、呼数の予測結果に基づいて通信トラヒックの量を予測する。したがって、端末ユーザが位置登録に関する在圏地域(位置登録で管理する地域・エリアの単位)の境界領域において移動を繰り返すと、必要以上に位置登録情報が発生して位置登録情報数がユーザ数に比例しなくなる。その結果、位置登録情報数とトラヒック量との相関関係も低くなり、トラヒック量の予測精度が低下してしまう。
【0009】
特許文献2−4は、トラヒック量の実績値に時系列予測方式を適用して予測トラヒック量を直接算出している。しかしながら、時系列予測の精度は通信トラヒックの総量や一通信当たりのトラヒック量の変動幅が大きくなるほど低下するため、今日のように一通信当たりのトラヒック量が多い通信と少ない通信とが混在するトラヒック環境下では予測精度が低下するという技術課題があった。
【0010】
さらに、特許文献2では単位領域ごとに地理依存トラヒックが測定されるものの、各単位領域のトラヒック量は、各地域が住宅街、商店街、オフィス街等のいずれであるかとは無関係に、総トラヒック量に対する面積比として算出される。しかしながら、各単位領域の面積比率とトラヒック比率とは等価とは限らないので、トラヒック量を高精度で予測することができなかった。
【0011】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、通信トラヒックに固有の地理依存性を考慮して、将来の通信トラヒック総量をコール数に基づいて精度よく予測できる通信トラヒック予測装置およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、通信端末による通信トラヒック量を予測する通信トラヒック予測装置において、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0013】
(1)トラヒックの予測対象エリアを地理依存で分割した単位領域ごとにコール数を含むトラヒック特性を測定するトラヒック特性測定手段と、コール数を所定の周期で統計分析する統計分析手段と、統計分析の結果およびその後のコール数の実績値に基づいて、統計分析結果から将来のコール数を予測する予測モデルを単位領域ごとに構築する予測モデル構築手段と、トラヒック特性の統計分析結果を、対応する予測モデルに適用して将来のコール数を単位領域ごとに予測するコール数予測手段とを具備した。
【0014】
(2)トラヒック特性測定手段が、1コール数当たりのトラヒック量を単位領域ごとに測定する手段をさらに具備し、分析手段が、1コール数当たりのトラヒック量の時系列を所定の周期で統計的に分析する手段をさらに具備し、予測モデル構築手段が、1コール数当たりのトラヒック量およびその分析結果に基づいて将来の1コール数当たりのトラヒック量を予測する予測モデルMvpcを単位領域ごとに構築する手段をさらに具備し、予測手段が、予測領域で測定された1コール数当たりのトラヒック量の分析結果をトラヒック傾向が適合する予測モデルMvpcに適用して将来の1コール数当たりのトラヒック量を予測する手段とをさらに具備した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1)コール数は、コンテンツやサービスといった通信内容の差異や変化の影響による突発的あるいは一時的な変動が少ない一方、地理的な依存性の高い端末普及率には大きく影響される。本発明によれば、単位領域ごとにコール数の統計値に基づいてコール数の予測モデルを構築し、各単位領域で観測されたコール数の実測値を予測モデルに適用して将来のコール数ひいてはトラヒック総量を予測するので、地理依存性を反映した正確な通信トラヒック予測が可能になる。
【0016】
(2)1コール数当たりのトラヒック量も通信トラヒックに固有の地理依存性を示すので、コール数のみならず1コール数当たりのトラヒック量についても単位領域ごとに予測モデルを構築することにより、通信トラヒックに固有の地理依存性を排除した正確なトラヒック予測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明が適用される通信トラヒック予測装置の第1実施形態の構成を示した機能ブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。
図3】本発明が適用される通信トラヒック予測装置の第2実施形態の構成を示した機能ブロック図である。
図4】本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る通信トラヒック予測装置の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0019】
本発明の通信トラヒック予測装置は、汎用のコンピュータやサーバに各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装して構成できる。あるいはアプリケーションの一部がハードウェア化またはROM化された専用機や単能機として構成しても良い。
【0020】
位置情報付き通信ログ収集部8は、各通信端末の通信ログとして、1コール(通信試行単位)ごとに時刻情報、送信元情報、宛先情報ならびに各通信端末が通信した際に見えた(通信可能であった)基地局および当該各基地局との間の通信遅延時間を含む各種の情報を収集し、さらに各通信遅延時間を利用した測位結果または各通信端末に搭載されたGPS機能により推定された位置を位置情報として記録する。
【0021】
位置情報付き通信ログDB1は、別途に与えられる分割情報に基づいて、通信サービスの提供エリアを仮想的にメッシュ状に分割することで地理依存の単位領域(たとえば、1km×1kmの矩形)を多数定義し、前記各通信ログを、その位置情報に基づいていずれかの単位領域と紐付けてデータベース化する。前記分割情報は、予測対象エリアと、たとえば国土地理院や総務省が規定するメッシュ基準・単位(サイズ)に関する情報とを含んでいる。
【0022】
トラヒック特性測定部2は、各単位領域と紐付けられた通信ログに基づいて、単位領域ごとにコール数Cおよび1コール当たりのトラヒック量を含むトラヒック特性を測定する。
【0023】
トラヒック傾向分析部3は、コール数Cの時系列データを統計的に処理してトラヒック傾向の指標値を計算する。本実施形態では、トラヒック傾向分析部3が一次微分値計算部3aおよび二次微分値計算部3bを具備し、コール数Cの時系列を対象に所定の単位時間τごとに一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]が計算される。
【0024】
トラヒック特性DB5には、単位領域ごとに測定されたコール数Cの時系列およびその単位時刻τiごとに計算された一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]が履歴情報として登録される。
【0025】
予測モデル構築部6は、前記トラヒック特性DB5に単位領域ごとに登録されているコール数Cの時系列ならびにその一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]に基づいて、任意のコール数Cおよび当該コール数Cから計算された一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]に基づいて将来のコール数Cを予測するための予測モデルMcを単位領域ごとに構築する。
【0026】
前記予測モデルMcは、コール数Cの時系列から求まる各単位時刻ごとの一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]と、当該単位時刻から所定期間経過後の各単位時刻におけるコール数との組み合わせを教師データとして、SVM(サポートベクターマシーン)やNN(ニューラルネットワーク)を適用することで構築できる。あるいは、遺伝アルゴリズムや機械学習アルゴリズムなどの予測手法を適用しても良いし、重回帰分析モデルやクラスタリング手法を用いても良い。
【0027】
なお、前記一次微分値ΔCおよび二次微分値Δ2Cは、コール数Cのピーク値や平均値で除算された正規化後の値として登録されるようにしても良い。また、コール数Cの時系列と共にコール数予測に用いるパラメータは、上記の一次微分値ΔCおよび二次微分値Δ2Cに限定されるものではなく、さらに日付、曜日などのカレンダ情報を併用するようにしても良い。
【0028】
トラヒック予測部4は、任意の予測領域で測定されたコール数Cの時系列ならびに前記トラヒック傾向分析部3において計算された当該時系列の一次微分値ΔCj[τi]および二次微分値Δ2Cj[τi]を、トラヒック傾向が適合(類似)する既登録の予測モデルMcに適用することで、当該予測領域における将来の任意時刻におけるコール数C(予測コール数Cf)を計算する。
【0029】
予測トラヒック総量算出部7は、前記予測コール数Cfと前記1コール当たりのトラヒック量VpCとを乗じることで、予測領域における将来の予測トラヒック総量Vf(=Cf×VpC)を単位時間τごとに算出する。なお、前記単位時間τは固定時間(例えば、1時間周期)であっても良いし、あるいはトラヒック量の多い単位領域はより短い時間周期とする一方、トラヒック量の少ない単位領域はより長い時間周期とするなど、各単位領域のトラヒック特性に応じて動的に変更するようにしても良い。加えて、単位領域毎のトラヒック特性について、1日毎の変動を時系列の実績値として用いても良い。
【0030】
図2は、本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、単位領域ごとに多数の予測モデルMcが前記予測モデル構築部6により構築されて予め登録済みであるものとして説明する。
【0031】
ステップS1では、前記トラヒック特性測定部2において、前記位置情報付き通信ログDB1に蓄積されている通信ログに基づいて、予測領域のコール数Cの時系列が測定され、さらに1コール当たりのトラヒック量VpCの統計値が算出される。ステップS2では、前記トラヒック傾向分析部3において、前記コール数Cの時系列を対象に、所定の単位時間τごとに一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]が計算される。
【0032】
ステップS3では、前記予測モデル構築部6により単位領域ごとに予め構築されている多数の予測モデルMcの中から、前記予測領域において測定されたコール数Cの時系列ならびにその一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]との適合度が最も高い一の予測モデルMcが探索される。
【0033】
ステップS4では、適合する予測モデルを探索できたか否かが判定され、探索できればステップS5へ進む。ステップS5では、前記予測モデルMcに、前記予測領域で測定されたコール数Cの時系列ならびのその一次微分値ΔCおよび二次微分値Δ2Cが適用されて当該予測領域における将来のコール数Cfが予測される。
【0034】
これに対して、前記ステップS4において適合する予測モデルが未登録と判定されればステップS6へ進む。ステップS6では、ロジスティック曲線あるいはゴンペルツ曲線などの汎用的な普及カーブや、ARIMA等の時系列予測モデルに前記コール数Cの時系列ならびのその一次微分値ΔCおよび二次微分値Δ2Cが適用されて当該予測領域における将来のコール数Cfが画一的に予測される。
【0035】
ステップS7では、前記予測トラヒック総量算出部4において、前記予測コール数Cfに1コール当たりのトラヒック量の統計値VpCを乗じて予測トラヒック総量Vfが算出される。このとき、コール数Cが1時間単位の予測値であれば、予測トラヒック総量Vfも単位領域かつ1時間ごとに算出される。また、前記統計値VpCに関しては、異常値やノイズ成分を除去するために、その平均や中央値、所定パーセント値(%ile、例えば99%ile)などを用いても良い。
【0036】
ステップS8では、前記予測領域の一次微分値ΔCおよび二次微分値Δ2Cがトラヒック特性DB5に登録され、予測モデルMcの新規構築あるいは既存モデルの再学習などに利用される。
【0037】
本実施形態によれば、単位領域ごとにコール数の統計値に基づいてコール数の予測モデルが構築Mcされ、予測領域で測定されたコール数の実測値および統計値を最も適合する予測モデルMcに適用して将来のコール数ひいてはトラヒック総量を予測するので、地理依存性を反映した正確な通信トラヒック予測が可能になる。
【0038】
ところで、上記の第1実施形態では、単位領域ごとに測定されたコール数Cの時系列およびその統計情報(一次微分値ΔCおよび二次微分値Δ2C)に基づいて予測モデルMcが構築されたが、発明者等の測定結果によれば、1コール当たりのトラヒック量VpCにも固有の地理依存性が認められ、コール数Cが同一の領域同士を比較してもVpCが大きく異なる場合がある。したがって、コール数Cを予測するだけでは単位トラヒック量VpCとの積であるトラヒック総量を正確に予測できないことがある。
【0039】
例えば、駅や繁華街ではWeb系コンテンツの利用が多いのでVpCは小さくなる傾向にあるのに対して、住宅街では動画や大容量コンテンツの利用が多いのでVpCが大きくなる傾向がある。したがって、駅や繁華街近傍の単位領域で観測されたコール数に基づいて構築された予測モデルMcに、住宅街で観測されたコール数を適用して将来のトラヒック量を予測してしまうと、本来よりも低めのVpCが適用されることになって予測結果が低くなってしまう。
【0040】
また、LTEに代表される高速通信に対応した高機能端末が普及した領域では、当該領域がWeb系コンテンツの利用が多い領域であればVpCの上昇が緩やかであるのに対して、大容量系サービスの利用が多い領域では、画像の高解像度表示や動画閲覧の増加により、閲覧ファイルの開始でVpCの上昇が急峻となる傾向にある。
【0041】
さらに、通信品質が良好でスループットが高い領域では、単位時間当たりにより多くの通信、データ転送が可能になるのでVpCも高くなる一方、コール数Cの時系列増加により、通信サービスやコンテンツの利用傾向が同じでも、混雑および輻輳によりVpCが低下する場合もある。そこで、次に説明する第2実施形態では、コール数Cに加えてVpCも予測モデルによる予測対象としている。
【0042】
図3は、本発明の第2実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、前記と同一の符号は同一又は同等部分を表しているので、その説明は省略する。
【0043】
トラヒック傾向分析部3において、一次微分値計算部3cは、1コール当たりのトラヒック量VpCの時系列を対象に所定の単位時間τごとに一次微分値ΔVpC[τi]を計算する。二次微分値計算部3dは、前記VpCの時系列を対象に所定の単位時間τごとに二次微分値Δ2VpC[τi]を計算する。
【0044】
予測モデル構築部6は、前記トラヒック特性DB5に単位領域ごとに登録されているVpCの時系列ならびにその一次微分値ΔVpC[τi]および二次微分値Δ2VpC[τi]に基づいて、任意の予測領域で測定されたVpCおよび当該コール数VpCから計算された一次微分値ΔVpC[τi]および二次微分値Δ2VpC[τi]に基づいて当該領域の将来のVpCを予測するための予測モデルMvpcを単位領域ごとに構築する。
【0045】
トラヒック予測部4は、予測領域で測定されたVpCの時系列ならびにその一次微分値ΔVpC[τi]および二次微分値Δ2VpC[τi]の分析結果を、トラヒック傾向の適合する予測モデルMvpcに適用することで、当該予測領域における将来の任意時刻におけるVpCfを計算する機能をさらに備える。
【0046】
予測トラヒック総量算出部7は、単位時間ごとに前記予測コール数Cfと前記1コール当たりの予測トラヒック量VpCfとを乗じることで、将来の予測トラヒック総量Vf(=Cf×VpCf)を単位時間τごとに算出する。
【0047】
図4は、本実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、前記各予測モデルMc,Mvpcが前記予測モデル構築部6により単位領域ごと予め構築されて登録済みであるものとして説明する。
【0048】
ステップS21では、前記トラヒック特性測定部2において、前記位置情報付き通信ログDB1に蓄積されている通信ログに基づいて、単位領域ごとにコール数Cの実績値が測定され、さらに1コール当たりのトラヒック量VpCの統計値が算出される。
【0049】
ステップS22では、前記トラヒック傾向分析部3において、前記コール数Cの時系列を対象に、所定の単位時間τごとに一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]が計算される。さらに、前記1コール当たりのトラヒック量VpCの時系列を対象に、所定の単位時間τごとに一次微分値ΔVpC[τi]および二次微分値Δ2VpC[τi]が計算される。
【0050】
ステップS23では、各予測モデルMcの構築に用いられたコール数Cの時系列ならびにその一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2Cと、予測対象のコール数Cの時系列ならびにその一次微分値ΔC[τi]および二次微分値Δ2C[τi]との適合度が適宜に計算される。さらに、各予測モデルMvpcの構築に用いられたVpCの時系列ならびにその一次微分値ΔVpC[τi]および二次微分値Δ2VpCと、予測対象のVpCの時系列ならびにその一次微分値ΔVpC[τi]および二次微分値Δ2VpC[τi]との適合度が計算される。
【0051】
ステップS24では、適合度が所定の閾値を超える予測モデルMc,Mvpcが存在するか否かが判定される。存在すればステップS25へ進み、適合度が最高の予測モデルペア(Mc,Mvpc)が決定される。
【0052】
前記予測モデルペア(Mc,Mvpc)は、各予測モデルMc,Mvpcが計算された単位領域とは無関係に適合度のみに基づいて決定しても良い。この場合、予測モデルMcが構築された単位領域と予測モデルMvpcが構築された単位領域とが同一になることは限らない。
【0053】
あるいは、単位領域ごとに各予測モデルMc,Mvpcの適合度を算出し、単純な算術平均値や重み付け平均値などの代表値が最高値を示す単位領域で構築された予測モデルペア(Mc,Mvpc)に決定されるようにしても良い。この場合は、各予測モデルMc,Mvpcの構築された単位領域が同一となるが、決定された各予測モデルMc,Mvpcが、それぞれ全Mc予測モデルまたは全Mvpc予測モデルの中で最も適合度が高くなるとは限らない。
【0054】
一方、前記ステップS24において、適合度が閾値を超える予測モデルMc,Mvpcが存在しないと判定されればステップS29へ進む。ステップS29では、ロジスティック曲線あるいはゴンペルツ曲線などの汎用的な普及カーブや、ARIMA等の時系列予測モデルに前記コール数C,VpCの時系列ならびのその一次微分値および二次微分値が適用されて将来のコール数C,VpCが画一的に予測される。
【0055】
ステップS27では、前記予測トラヒック総量算出部4において、前記予測コール数Cfに1コール当たりの予測トラヒック量VpCfを乗じて予測トラヒック総量Vfが算出される。ステップS28では、前記一次微分値ΔC,ΔVpCおよび二次微分値Δ2C,Δ2VpCがトラヒック特性DB5に登録され、予測モデルの新規構築あるいは既存モデルの再学習などに利用される。
【0056】
本実施形態によれば、通信トラヒックに固有の地理依存性を示す1コール数当たりのトラヒック量についても単位領域ごとに予測モデルを構築して予測するようにしたので、通信トラヒックに固有の地理依存性を排除した正確なトラヒック予測が可能になる。
【符号の説明】
【0057】
1…位置情報付き通信ログDB,2…トラヒック特性測定部,3…トラヒック傾向分析部,4…トラヒック予測部,5…トラヒック特性DB,6…予測モデル構築部,7…予測トラヒック総量算出部,8…位置情報付き通信ログ収集部
図1
図2
図3
図4