(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167111
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】電気外科器具とそのジョー部
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20170710BHJP
【FI】
A61B18/12
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-550685(P2014-550685)
(86)(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公表番号】特表2015-504734(P2015-504734A)
(43)【公表日】2015年2月16日
(86)【国際出願番号】EP2012076945
(87)【国際公開番号】WO2013102602
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】102012100040.9
(32)【優先日】2012年1月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502154016
【氏名又は名称】アエスキュラップ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロスワイラー クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルネア エウゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヒューバー クリスチャン
【審査官】
槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−018226(JP,A)
【文献】
特表2004−532676(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102008008309(DE,A1)
【文献】
特表2009−509706(JP,A)
【文献】
特開2009−297503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に動作可能な器具レッグ(4,6)から成るジョー部を含み、
前記器具レッグ(4,6)は、一つまたは複数の電極域(20)が配置/形成されている対向面をそれぞれ有し、
前記器具レッグ(4,6)の相対的動作は前記器具レッグ(4,6)の近位端部で作用する少なくとも一つの第1スペーサ(24;36;48,50,52,54)と、器具レッグ(4,6)の遠位端部で作用する少なくとも一つの第2スペーサ(22;32,34;32)によって制限されており、
少なくとも1つの電極(360)上にあるスペーサ(300)のうちの少なくとも1つは導電性物質で形成されており、通電可能に電極(360)に接続されており、非導電性物質で形成されるとともに少なくとも1つの対向する電極(370)に電気的に絶縁されて配置されているスペーサ当接面(350)と協働し、
前記スペーサ当接面(350)は、前記スペーサ(300)に向かって指向している凹面を有するか、または前記電極域に対してへこんでおり、
前記スペーサ当接面(350)を含む前記電極(370)は、その表面に少なくとも1つのくぼみ(372,374)を有するように形成されており、
前記くぼみ(372,374)にはパッドもしくはピン形状の前記スペーサ当接面(350)が挿入され、もしくは、固化後に前記スペーサ当接面(350)を形成する電気絶縁材料で鋳造されており、
前記くぼみ(372,374)は、長手方向断面においてきのこ形状もしくはT字形状であることを特徴とする、電気外科器具(2)。
【請求項2】
前記スペーサ当接面(350)は、全方位において電極面における面積が前記スペーサ(300)を超えて突出するパッド形状もしくはピン形状の構成物からなり、
前記スペーサ(300)が前記スペーサ当接面(350)を含む電極(370)と電気的接触しないように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の電気外科器具(2)。
【請求項3】
導電性スペーサとして作用する多くても1つの突出物(32,34;32,36;32,46)が、それぞれの電極域(20)に配置/固定されていることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の電気外科器具(2)。
【請求項4】
少なくとも一つのスペーサがスペーサモジュール(24)で形成されており、
前記スペーサモジュール(24)は、前記器具レッグ(4,6)から分離可能に形成されており、閉止位置において前記器具レッグ(4、6)の間に保持される少なくとも一つの非導電性の舌部(28)を含んでおり、
前記舌部(28)の高さ(H)が前記閉止位置における前記器具レッグ(4、6)間の所定の最小距離(S)と一致することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気外科器具(2)。
【請求項5】
前記スペーサモジュール(24)が、回動可能な器具レッグ(4)のスイベルジョイント(16)に回転可能に支持されており、
前記スペーサモジュール(24)のための収容キャビティを画定する、回動可能な前記器具レッグ(4)のフランジ形のジョイント部に囲まれていることを特徴とする、請求項4に記載の電気外科器具(2)。
【請求項6】
相互に動作可能な器具レッグ(4,6)から成るジョー部を含み、
前記器具レッグ(4,6)は、一つまたは複数の電極域(20)が配置/形成されている対向面をそれぞれ有し、
前記器具レッグ(4,6)の相対的動作は前記器具レッグ(4,6)の近位端部で作用する少なくとも一つの第1スペーサ(24;36;48,50,52,54)と、器具レッグ(4,6)の遠位端部で作用する少なくとも一つの第2スペーサ(22;32,34;32)によって制限されており、
スペーサとして作用する多くても1つの突出物(32,34;32,36;32,46)が、それぞれの電極域(20)に配置/固定されており、
少なくとも一つのスペーサがスペーサモジュール(24)で形成されており、
前記スペーサモジュール(24)は、前記器具レッグ(4,6)から分離可能に形成されており、閉止位置において前記器具レッグ(4,6)の間に保持される少なくとも一つの非導電性の舌部(28)を含んでおり、
前記舌部(28)の高さ(H)が前記閉止位置における前記器具レッグ(4,6)間の所定の最小距離(S)と一致し、
前記スペーサモジュール(24)が、
回動可能な器具レッグ(4)のスイベルジョイント(16)に回転可能に支持されており、
前記スペーサモジュール(24)のための収容キャビティを画定する、回動可能な前記器具レッグ(4)のフランジ形のジョイント部に囲まれていることを特徴とする、電気外科器具(2)。
【請求項7】
前記1つの器具レッグ(4)の近位端部が、径方向側において、前記他の器具レッグ(6)または前記他の器具レッグ(6)のキャリア部(18)に囲まれることで、前記1つの器具レッグ(4)は、前記1つの器具レッグ(4)の近位端部において、前記他の器具レッグ(6)の取付開口、または前記他の器具レッグ(6)のキャリア部(18)の取付開口に回動可能に案内され、
前記回動可能に案内されている器具レッグ(4)のフランジ形のジョイント部が、スペーサモジュール(24)と他の器具レッグ(6)の間に配置されるように、前記スペーサモジュール(24)の収容キャビティは、回動可能に案内されている前記1つの器具レッグ(4)に形成されている、請求項6に記載の電気外科器具(2)。
【請求項8】
前記スペーサ(22,24,32,34,48,50,52,54)は、組織処置のための領域の外側にのみ配置されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の電気外科器具(2)。
【請求項9】
少なくとも一つの前記器具レッグ(4,6)は、その他方の器具レッグ(6,4)の側面にあるスロット型のガイド(52,54)によって案内される回転制限ピン(48,50)を含んでおり、
前記回転制限ピン(48,50)と前記スロット型のガイド(52,54)との協働がスペーサを構成しており、
前記回転制限ピン(48,50)が前記スロット型のガイド(52,54)の端部に到達するときに、前記器具レッグ(4,6)が互いに対しての所定の最小限の距離(S)を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電気外科器具(2)。
【請求項10】
少なくとも一つの前記器具レッグ(4,6)の近位端と遠位端の間に、その他方の器具レッグ(6,4)に指向する一つ以上のリッジ(38,40,42,44)が等間隔に形成されており、
前記リッジ(38,40,42,44)の高さ(h)は、前記スペーサ(24,32,34,36,46;48,50,52,54)の高さ(H)よりも低く、前記スペーサ(24,32,34,36,46;48,50,52,54)の高さ(H)の10%から75%であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の電気外科器具(2)。
【請求項11】
スペーサは、前記器具レッグ(6)の2つの電極域(20−3,20−4)の間の前記器具レッグ(6)の遠位端部に配置されている突起物(22)によって形成されており、他の器具レッグ(4)に向かって指向している、
または、
スペーサは、電極域(20−3)に設けられている突起物、もしくは、それぞれ異なる電極域(20−3,20−4)に設けられている複数の突起物(32;32,34)によって形成されている、請求項6に記載の電気外科器具(2)。
【請求項12】
少なくとも1つの第3のスペーサは、前記器具レッグ(4、6)の中央部分で動作し、
前記第3のスペーサは、突起物として形成されており、1つの電極領域(20−2)に配置/形成されるスペーサの数が1を超えないように配置されている、請求項6に記載の電気外科器具(2)。
【請求項13】
少なくとも1つの前記器具レッグ(4,6)の近位端と遠位端の間において、他の器具レッグ(6,4)に向かって指向する一つ以上のリッジ(38,40,42,44)が等間隔に形成されており、
前記リッジの高さ(H)は、前記スペーサ(24,32,34,36,46;48,50,52,54)の高さ(H)よりも低く、前記スペーサ(24,32,34,36,46;48,50,52,54)の高さ(H)の10%から75%であり、
別体のスペーサモジュール(24)の舌部(28)は、非導電性材料で形成されている、請求項11または12に記載の電気外科器具(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の序文に記載されている電気外科器具であって、特に腹腔鏡下手術用の器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば腸に悪影響を及ぼしている腫瘍のため腸を切除した場合等の中空管部の外科的切除の後に、二つの中空管部はそれらの切開された端部において、連通した経路が形成されるような方法で再接続されなければならない。これは、端々吻合と呼ばれている。標準的に、二つの切開された端部はクリップ縫合装置でお互いに再接合される。
【0003】
特に小腸と大腸の手術において、縫合接続のリーク(不完全縫合)が発生することがあり、これは疾病の進行と高い死亡率にも関係している。
【0004】
中空管部を縫合する代案としては、熱溶融技術(TFT)がある。高周波技術(HF)による熱溶融は、多くの種類の組織に含まれているタンパク質の変性によってなる。これにより、コラーゲン含有組織が溶着することが可能となる。溶着過程において、組織はタンパク質変性温度以上に昇温され、これと共に、細胞内基質ならびに細胞間基質がゲル状化する。組織面の圧縮接合後に、液化された組織が冷えて融着された塊になることで、組織の結合性向上に効果がある。
【0005】
中空管部を溶着することを目的として2つのクランプジョーの間に挟まれる組織は、2つのクランプジョーに設けられた電極の間を流れる電流にさらされる。
【0006】
接合や溶着の失敗を防ぐために、組織に作用しているパラメータは検出および制御されていなければならない。このことを確実にするために、温度、圧力、組織インピーダンス、距離、位置の正確な制御が必要である。
【0007】
組織の全領域が確実に処置され、かつ過度に高い電流にさらされる領域が発生しないよう、クランプジョーの間に掴まれている組織に均一な処置を実行するのが望ましい。このため、HF電極が均一に一定間隔で互いに平行になるように配置されていることが確実になっていなければならない。
【0008】
先行文献は、前述したような中空管や組織の種類に使用するのに最適な大きさの器具については明らかにしていない。EP1747762A2に記載されている、よりサイズの小さい凝固用器具は、構造上クランプジョーが閉じている間のHF電極が非平行性を示すものである。
【0009】
電極間の距離は、クランプジョーに取付けられたスペーサで維持することができる。しかしながら、EP1656901B1や、EP1952777A1、US2004/122423A1に示されているように、クランプジョーに多数のスペーサが組みつけられている場合、組織への永久損傷が残るような方法でクランプジョーが閉じて組織がスペーサの下で圧縮されるために、処置されるべき組織にスペーサが穿孔してしまうことが避けられない。このことは、シーリング処理の結果に対して悪影響を及ぼす。
【0010】
組織への穿孔を避ける為にクランプジョーの接触圧力を減少させた場合において、組織がスペーサの下でのみ把持されているとき、クランプジョーの角度がゆがむ結果となる。
【0011】
さらにスペーサはHF電極間の短絡防止のために非導電性の材料で形成されているため、いわゆる凝固影(Koagulationsschatten)がスペーサの周辺で発生する。これは、組織部がスペーサの周辺もしくは下に封入されてしまうことを意味しており、組織部に電流が流れない、もしくは不十分にのみ流れることであり、管部の溶着が不十分な部分が生成されてしまうことである。さらに、この種の電気絶縁スペーサは、特に(例えば単なる接着によって)電極に付着されている場合に剥がれ落ち易く、気づかないうちに患者の体内に入り込む危険性があることが分かっている。それに加えて、前述した既定の電極の配置方法がもはや確保されなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この背景に対して、本発明は、熱溶融技術を用いて、小腸と大腸のような中空管の端々吻合の結果を向上させることや、一般的に組織結合の結果を向上させること、組織を傷つけることなくHF電極の平行配置を確実にし、機能的な信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
その目的は、請求項1に記載の特徴を含む包括的な医療用器具によって実現される。器具のより有利な改良は従属クレームの主題である。
【0014】
本発明は、簡易に上述してある新しい知識をベースにしている。その知識は、スペーサが、電域に直接配置もしくはそのものに固定されており、必然的に非導電性物質で形成されていなければならず、クランプされた組織への電流を局地的に制限/妨げているため、連続的な溶着接合が確実でないことを示している。これらの否定的な効果を減少させるため、スペーサを可能な限り小さくすることが、例えばマンドレルや針の形状のスペーサによって基本的に可能である。しかしながら、それらの方法で形成されたスペーサはレッグ間のクランプ力に耐えられず、それゆえに閉じた状態において、スペーサでレッグのスペースを安定的に維持することができないことが分かっている。その上、非導電性で突起形の突出物は使用中に容易に外れる可能性があり、例えば手術中に、患者の組織内に気付かないうちに残留してしまう危険がある。このため、本発明は、好ましくは導電性物質で作られた突起形のスペーサを製造し、例えば、対応する電極と一体化するか、もしくは、はんだ付け/溶着するように電極域に直接配置するかその上に固定することを提案している。そして、互いに対向する電極に非導電性スペーサを配置し、それらに導電性スペーサが置かれるように提案している。非導電性スペーサの当接面は、例えば接着、塗布、挿入もしくは注入されたパッド/小板/ピン形状であり、電極域とほぼ同じ高さを有しており、対応する電極域に対して突起がないか、もしくは小さい突起がある構成を有する。これにより、電極域から外れる/剥がれ落ちることができない、もしくは外れ/剥がれ落ちにくくなっている。従って、それぞれのスペーサ当接面は、従来公知の非導電性スペーサと比較して、面積に関しては、より小さいサイズで実現することができる。突出部が小さいもしくは無いことにより、スペーサ当接面が電極に剪断力を伝えなくてもよくなるからである。スペーサ自体は高い剪断力に耐えられる金属のような物質からなっていてもよく、それにより小さいサイズにすることもできる。全体として、このことが凝固影を回避することに貢献すると同時に機能的な信頼性を向上させる。
【0015】
パッドやピンの形のスペーサ当接面がそれぞれの電極面上にある対応するくぼみや凹部(へこみ)に挿入されて、それが電極とほぼ同じ高さの(突起部がない)面を画定することが好ましい。それぞれのスペーサ当接面が、その底面にマンドレル状の突起が取り付けられている平板部を含むピンの形に形成されていることが好ましい。前述のマンドレル状の突出物は電極の中の対応する穴に挿入され、電極の凹部に対するスペーサ当接面のより強い嵌合/把持をもたらす。
【0016】
既述の構成に加えて、凝固影の効果を減らすために、それぞれの電極域に固定される電極の数と、また、挿入される非導電性のスペーサ当接面の数とを、可能な限り少なく保つように構成することができる。
【0017】
従って、本発明の外科的な目的のための凝固器具および関連したタイプの凝固器具は、(好ましくは、ハサミやジョーの性質をもつ)相互に動作可能な器具レッグを含んでおり、それぞれの器具レッグは、それぞれに対向するレッグ面上に一つもしくはそれ以上の電極域を含んでおり、それぞれに対向するレッグ面の間に組織をクランプし、電熱的処置を行うことができる。互いに関連している器具レッグの動きは、器具レッグの近位端で作用し導電性物質と非導電性物質のパッド形もしくはピン形のスペーサ当接面とからなる少なくとも一つの第1のスペーサと、遠位端で作用し好ましくは非導電性物質で作られている少なくとも一つの第2のスペーサとによって制限される。本発明では、導電性物質で作られており、スペーサとして作用している1つ以下の突起が、例えばエンボスやスタンピングによって、好ましくは一体成形により電極に備えられるもしくは電極上に形成される、もしくは、例えば溶着やはんだ付けによって、それぞれの電極域上に固定される。反対側の電極には、非導電性物質で作られているパッドやピンが、一つの突起に対してスペーサ当接面を画定するために、対応するくぼみに挿入もしくはそこに付着/接着される。
【0018】
器具レッグの近位端で作用するスペーサとスペーサ当接面を備えることと、器具レッグの遠位端で作用する好ましくは非導電性のスペーサもしくはスペーサ当接面を備えることの組み合わせによって、電極がそれらの全体の長さにおいて、互いに所定の間隔を保つこととそれゆえに好ましくはお互いに平行に延伸していることが一般的に保証される。スペーサ間の間隔が広く、かつ、レッグの長手方向にそれらスペーサの接触点があることにより、器具レッグとその上に取り付けられている電極域の平行性は改善され、スペーサ形成中の製造公差が発生しても閉止位置におけるレッグの平行度に与える影響は少ない。この方法で調節できる閉止位置における二つの器具レッグ間の電極を均一な間隔の配置により、HFエネルギーの組織への均一な浸透とさらに組織内を流れる均一な電流密度が実現される。
【0019】
冒頭で記述してあるように、極端に多い数のスペーサは、特に電極域に直接配置/固定されている場合に、組織があまりにたくさんの損傷を受ける結果となる。さらに、対応する数の凝固影が生成される。
【0020】
本発明では、組織の損傷とHFエネルギーの不均一な組織への浸透は、一つ以下のスペーサがそれぞれの電極域に適用されることで、より最小化されている。それは、選択された電極域はその上に固定もしくは形成される(非伝導性物質の突起形の)突出物形状のスペーサを含まないことを意味し、その代りに、一つもしくは複数のスペーサは器具レッグの他の位置(すなわち電極域外)、もしくはほかの方法(例えば固定ではなく緩く取り付ける方法)で実現でき、それによって、組織への損傷はより小さくなり、凝固影の生成はさらに減らされる。
【0021】
従って、本発明における凝固クランプとその器具レッグは、一方ではレッグの閉止位置におけるHF電極の最も良い平行配列と、他方では組織の損傷を最小限に抑えながらの均一な組織融着の間の、最適なトレードオフを備える。これがクランプされた組織への過度な力の印加によってスペーサが起こす組織損傷を防止できている理由であり、個々の組織成分の確実な融着は、力と、電極の平行配置と、複数の電極間の明確に定められた間隔と、電極に沿った組織への電流の均一な分布との一貫した関係で保証されている。さらに、これらの特別なスペーサが導電性物質から構成されていたとしても、電極域外の一部のスペーサの特徴的な配置が、電極間の短絡およびシールされた組織層のリークを回避している。このことが、特に組織のインピーダンスに関してHF手術の一貫した必要条件となり、電気制御の観点から見てシールされた組織領域の質がよりよくモニターできるようになる。
【0022】
本発明の別態様、もしくは更なる追加的な様態において、(全ての)スペーサは組織処置のために備えられている領域の外側だけ、好ましくは器具レッグの近位端と遠位端にのみに配置される。スペーサがレッグの近位端と遠位端でだけ作用している場合において、(通常は組織の実際のもしくは実質的な処置領域として示されている)器具レッグの中間領域がスペーサを備えていない場合には、この主要箇所ではスペーサによる組織の損傷やスペーサによって引き起こされる凝固影は回避される。
【0023】
本発明の更なるもしくは他の様態によれば、例えば器具レッグの近位端部で作用しているスペーサは、器具レッグと別体形成されていて、閉止位置において器具レッグの間にクランプされる少なくとも一つの非導電性物質の舌部を有するスペーサモジュールである。従って、舌部の高さは、器具レッグ間に設定される所定の平行距離と一致する。
【0024】
この種の別体スペーサモジュールはいくつかの利点を有する。一方では、スペーサモジュールが使用されるそれぞれの器具レッグや凝固クランプからは独立して簡単に製造することができる。また、他方では、摩耗や破損の理由の為もしくは、それをより厚いもしくはより薄い舌部を含んだ他のスペーサモジュールと取り替える為に、いつでも交換することができる。これが閉止位置にある器具レッグ間の距離を変更することを可能にする。従って、器具レッグとスペーサの物理的な分離は、同じスペーサモジュールを異なる器具レッグに用いることができる、もしくは異なるスペーサモジュールを同じ器具レッグに用いることができるという利点がある。閉止位置にあるレッグの電極域の間にゆるく保持ならびにクランプされている舌部の場合は、たとえスペーサが導電性物質から構成されていて、非導電性物質から作られているスペーサ当接面と協働していても、電極域に固定されるスペーサを用いている場合より、凝固影の影響は小さくなる。
【0025】
スペーサモジュールは、例えば、二つの凝固電極面の間に配置される電気遮断用空白部を残存させるために、レッグに対して側面方向もしくは横方向に互いに離れている複数の(非導電性物質の)舌部を備えていてもよい。
【0026】
器具レッグを開閉するために、少なくとも片方の器具レッグは、例えば器具シャフトや対向する器具レッグ上に回動可能に支持することができ、レッグを互いの方に向かって、および、互いから離すように動かすために、少なくとも片方のレッグを(シャフト器具および/またはハンドル部に支持されている)操作メカニズムを介して動作させることができる。スペーサモジュールは操作可能な(支持されている)器具レッグのスイベルジョイントに回動可能に支持されていてもよい。特に、操作可能な器具レッグのジョイント部により、ハウジングの性質をもって包まれていてもよい。
【0027】
一つもしくは両方の器具レッグのスイベルジョイント内にスペーサモジュールを統合することで、器具レッグが閉じられるときに、器具やジョー部の内部にスペースを取らない方法で収容されるだけでなく、外科医による一切の追加動作無しでそのスペーサ機能を働かせる。
【0028】
前述の別体のスペーサモジュールの代替物もしくはそれの追加として、器具レッグの内の一つ、好ましくは回動可能なレッグが、それぞれの他方のレッグの側面のスロット型のガイドにガイドされる回転制限ピンを有していてもよい。回転制限ピンとスロット型のガイド間の協働が一種のスペーサ、特にレッグの近位端で作用するスペーサを確立もしくは模擬する。そして、少なくとも一つの回転制限ピンがスロット型のガイドの末端にまで到達した場合に、レッグは互いに対して所定の最小距離を持つことになる。両方の器具レッグが回動可能な方法もしくは他の方法で動けるように(例えば変位可能に)支持されている場合、それぞれの場合の両方のレッグの自由度は、各々のスロット型のガイドに案内されている回転制限ピンによって制限できる。
【0029】
この方法は、少なくともレッグの近位端のスペーサがレッグのクランプ領域の完全に外側、すなわち組織処置領域(導電領域)の外側に配置することができ、処置される組織とスペーサの間で接触がないことが特に有利な点である。これが、組織が損傷することを確実に回避する。
【0030】
スペーサ、例えばレッグの遠位端で作用しているスペーサは、二つの電極間に配置され、もう一方の器具レッグにむかって指向する(突起形の)突出物により形成してもよい。それゆえにスペーサが電極の上に配置されておらず、電極の傍もしくは電極の間に配置されている場合、その領域には凝固影は発生しない。特に、一つもしくは複数のスペーサが絶縁材で形成される必要がないからである。スペーサが電極域の間に配置されている場合で、特に一方のレッグの中心軸に、電極域に直接接触することなく配置されている場合、電極間の短絡はなくなる。さらに、これらが閉止位置において互いに押し合っていて、単にスペーサだけで離されている場合、レッグにはねじり荷重は加わらない。これにより、全体としてのスペーサの数を更に減少させることができる。
【0031】
代替もしくは追加で、一つ以上のスペーサ、特に器具レッグの近位端および/または遠位端で作用しているスペーサは、電極域に直接配置/固定されている一つのみの突出物もしくは異なる電極域に直接配置/固定されている複数の突出物により形成してもよい。これによって、一方では電極の長軸方向の平行配列は保証され、他方では電極域に固定されるスペーサの数を少なくすることができる。それによって、適切な処置、特に組織の均一な融着が可能になる。
【0032】
特に、とりわけ長い器具レッグ、もしくは振り子の性質で中央部分が、例えばシャフトの末端において支持されているような器具レッグについては、電極域が中央領域において望ましい距離を維持することを保証しなければならない。(特に二つのレッグが、それらの末端部で互いに押し合っている場合に)前述の距離は、曲げ応力によって減少してはいけない。これが、レッグの近位端と遠位端でそれぞれ作用している第1と第2のスペーサに加えて、器具レッグの中間部で作用する少なくとも一つの第3のスペーサを備えていてもよい理由である。この態様では、一つ以下のスペーサが、器具レッグの各電極域に固定/形成されるように、少なくとも3つのスペーサが原則として配置されていてもよい。特定のケースでは、第3のスペーサは第1および/または第2のスペーサが配置されている電極域以外の電極域、もしくは電極域の間に配置される。たとえ中央部で作用しているスペーサがここで組織に接触するようになっても、一方では上記の定義によるスペーサの特定の配置と数が組織に対する影響を最小限に保つことを保証しており、他方でHF電極とレッグ全体の長さにわたる電極間の均一な距離を保証している。
【0033】
少なくとも1つの器具レッグの近位端と遠位端の間に、対向するレッグに向かって指向し、高さがスペーサよりも低い、特にスペーサの高さの10〜75%である、1つ以上(突起形)のリッジが形成されてもよい。
【0034】
器具レッグに追加配置されるリッジやティースにより、特に1つもしくは両方のレッグの一つもしくは両方の電極域の上で、組織がお互いに融着する前に、処置される組織もしくは組織部が器具レッグから滑り落ちることを防止することができるように、組織をより確実に保持することができる。
【0035】
リッジが、閉止位置にあるスペーサによって定義される2つのレッグ間の最小間隔よりも、たとえば当該距離の10〜75%ほどに小さいので、これらが反対側のレッグに触れることは決してない。これが、リッジと反対側のレッグの間にある組織に穴が空かない、すなわち永久的に損傷しない理由である。さらに、リッジと反対側のレッグに保持される組織が実質的な程度にまで覆われていないので、これらのリッジは凝固影も全く引き起こさない。この方法によって、従来の器具を使ったときに発生する凝固影が回避される。これらのリッジは、どのような方法によっても反対側のレッグと接触することはないため、導電性物質で作られてもよい。この場合、反対側にある非導電性物質のパッド/ピンは省略してもよい。もちろん、互いの電極域にいくつかのそのようなリッジを配置することは可能である。それらは、一定間隔に配置されてもよい。
【0036】
上記に既に、部分的に示しているように、器具レッグは、突出部および/またはリッジが電極域の異なる組に形成されるような、二つもしくはそれ以上の対向する、例えば平行な電極域の組を含んでいても良い。特に、操作できない器具レッグは、振り子の態様によってある程度回転することができるように、閉止位置における操作可能なレッグに対する角度ずれを一様にすることができるように、中心部で、例えばシャフトの末端部で支持されていてもよい。凝固クランプやジョー部が、互いに分離可能もしくは互いに対して直動移行可能な二つのレッグを含んでいてもよいことは、言うまでもないことである。
【0037】
上述されている全ての様態と特徴は、個々に組み合わせることができるし、グループ方式で組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明に係る第1の実施形態の電気外科器具を示す。
【
図2】本発明に係る第1の実施形態の電気外科器具の2つの(ハサミ型の)相互に回動可能な器具レッグの斜視図を示す。
【
図3】本発明に係る第1の実施形態の電気外科器具のスペーサモジュールの拡大図を示す。
【
図4】開放位置にある
図2の2つの器具レッグの側面図を示す。
【
図5】閉止位置にある
図2の2つの器具レッグの側面図を示す。
【
図6A】
図4ならびに5のA,B,Cの詳細図を示す。
【
図6B】
図4ならびに5のA,B,Cの詳細図を示す。
【
図6C】
図4ならびに5のA,B,Cの詳細図を示す。
【
図7】本発明に係る第2の実施形態の電気外科器具の2つの相互に回動可能な器具レッグの斜視図を示す。
【
図8】本発明に係る第3の実施形態の電気外科器具の2つの相互に回動可能な器具レッグの斜視図を示す。
【
図9】開放位置にある
図8の2つの器具レッグの側面図を示す。
【
図11】閉止位置にある
図8の2つの器具レッグの側面図を示す。
【
図13】本発明に係る第4の実施形態の電気外科器具の2つの相互に回動可能な器具レッグの
斜視図を示す。
【
図14】本発明に係る第4の実施形態の電気外科器具の2つの相互に回動可能な器具レッグの
側面図を示す。
【
図15】本発明に係る第5の実施形態の電気外科器具の2つの相互に回動可能な器具レッグの斜視図を示す。
【
図16】本発明に係る第6の実施形態の電気外科器具を示す。
【
図17】本発明に係る第7の実施形態の電気外科器具を示す。
【
図18】本発明に係る第1の代表的な実施形態のスペーサならびにスペーサ当接面の詳細図を示す。
【
図19】本発明に係る第2の代表的な実施形態のスペーサならびにスペーサ当接面の詳細図を示す。
【
図20】本発明に係る第3の代表的な実施形態のスペーサならびにスペーサ当接面の詳細図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明に係る第1の実施形態の電気外科器具2の開放状態の斜視図である。電気外科器具2は、一対の器具レッグ4,6から成るジョー部を含み、ジョー部は好ましくはハサミやトングがとる方法で互いに対して動くものであり、手動操作可能なシャフト回転装置10を介してハンドル部もしくは操作部12に回転可能に固定されている器具シャフト8の遠位端に配置されている。シャフト回転装置10は、シャフト8(および、それに配置されている器具レッグ4,6)が操作部12に呼応して、シャフトの長手方向軸を中心として回動することを可能にしている。操作部12は手動操作可能なハンドルもしくは用心金14を含んでおり、そのハンドルもしくは用心金14は操作部12にしっかりと固定されているハンドルもしくはピストル型のグリップ15に対して軸支される方法で動作することができる。器具レッグ4,6もしくは少なくとも1つの手動操作可能な器具レッグ4は、(詳細は記載しないが)例えば器具シャフト8内の引きケーブルもしくはプッシュロッド等の作動機構を介してハンドル14に動作可能に接続されており、ハンドル14を手動操作することで開放位置から閉止位置に好ましくは連続的に移行することができる(その逆も然り)。(一部のみ記載する)配線もしくは
電線によって、器具レッグ4と6の間の組織に電熱処置のための(図示しない)HF電圧を印可するために、操作部12はHFのエネルギー源に接続されている。
【0040】
器具2の基本的な作動方法と機械的構造、特に作動機構については、例えば刊行物WO2011/097469A2に参照されている。
【0041】
図2、4は、シャフト8の遠位端もしくはシャフト8に接続されているジョー部を開放位置にある器具レッグ4と6と共に示した詳細図である。
図2、4で上側の第1器具レッグ4は、横軸Aを中心として旋回することができるように、シャフト8の遠位端の近位スイベルジョイントもしくはヒンジ16(
図4参照)によって支持されている。このため、シャフトの遠位端もしくはそこに接続されるジョー部は、中央に形成されるとともにシャフトに沿って伸びており、横方向の孔をそれぞれが有するサイドフランジを備える貫通穴もしくは縦方向のギャップ17を含んでいる。横方向の穴は、互いに対して同軸に整列しており、前述の横軸Aを画定する。貫通穴17は、第1器具レッグ4を動作可能/回動可能に挿入することができるスロット幅を有する。貫通穴17が遠位軸方向に延びる(片持ち梁部状になる)ことで、シャフトの遠位端もしくはジョー部は、回転可能な上側器具レッグとは反対側に、その遠位端部に横軸Aとほぼ平行に伸びる横方向の貫通穴を備えるシェルハーフもしくは半管形状の支持突出物もしくはキャリア18を形成する。
【0042】
シャフトの長手方向にみられるように、
図2もしくは4で下側にある第2器具レッグ6は、シェル状の支持突出部18に部分的にのみ支えられており、支持突出部18を遠位方向に超える残余の部分は軸支されてさらに突出している。さらに、下側器具レッグ6は遠位の横方向の貫通穴を介して支持突出部18に回動可能にジョイント接続されている(振り子方式)。(図示しない)ばね機構(特にWO2011/097469A2を参照)によって、下側器具レッグ6の前部ないし遠位の振り子部は、
図4によれば、トップもしくは上側器具レッグ4に向けてプレストレスされているため、長手方向に見られるように、下側のレッグ6はシャフト8もしくは支持突出部18と鋭角を形成する。このため、ジョー部がたたまれるもしくは閉じられるとき、鉗子のように2つのレッグ4,6の遠位端が最初にクランプ接触する。このことが組織の把持を容易にする。下側器具レッグ6は、横方向の貫通穴によって定められている軸Bを中心として振り子のように回動できるように、その部分もしくは支持突出部18によって支持されており、その回転範囲は、閉止位置において上側と下側のレッグ4と6の間の小さい角度ずれが同じになるようにもしくは器具レッグ4と6が平行に並ぶようになる範囲である。
【0043】
本発明の代表的な実施形態によると、各器具レッグ4と6はそれぞれに好ましくは、レッグの横方向に互いに離間するとともに実質的に平行にレッグの長手方向に伸びており、HF電圧を供給可能な2つの電極もしくは電極域20(20−1、20−2、20−3、20−4)を含んでいる。よって、閉止位置にあるときに、器具レッグ4と6の間に組織がある場合、外科医は電極域20によって、凝固、切断、あるいは溶着を行うことができる。さらに、電極域20から電気的に絶縁されるようにして、(図示しない)特別な電気メスもしくは適切な切断装置を電極域20間に配置することができる。
【0044】
器具レッグ4と6の電極域20間の短絡を避けるため、ならびに、電極全体の長さにわたる電極域20の間にクランプされた組織に均質の電気が流れることを確実にするために、電極域20は閉止位置においても均一の隙間を残していなければならない。このため、器具2には好ましくは突起形の突出物22が、下側器具レッグ6(および/または上側器具レッグ4)の遠位端において2つの電極域20−3と20−4の間に形成されており、電極域20間の望ましい間隔に一致する所定の長さ分、電極域20−3と20−4より突出している。そして、ジョー部材が閉じている間に突出物22が上側器具レッグ4(および/または下側器具レッグ6)と接触し、2つの器具レッグ4と6の遠位端のスペーサとして機能する。この代表的な実施形態では、2つの器具レッグ4と6の近位端の電極20間の間隔は別体の、すなわち電極20とレッグ4,6から分離できるよう自在に支持されているスペーサモジュール24によって確保されている。この場合、このスペーサモジュール24は近位の支持部を含むカム状の構成要素を含んでおり(すなわちカム部は横方向の貫通穴を備えており)、スイベルジョイント(スイベルピン)16で係合することができるように形成されており、レッグ4と6の間、つまりは、回転軸Aを中心に自由に回転することができる。スペースの都合上、本発明の場合には動作可能な上側の(および/または下側の)レッグ4は長手方向に回転軸A領域の近位端で中空になり、スペーサモジュール24を入れるのに十分な大きさの、一種の収容空間や縦方向の溝が形成される。これにより、スペーサモジュール24は少なくともジョー部の閉止位置において、少なくとも一つの操作可能な器具レッグ4の二つの溝フランジの間に受容される。
【0045】
図3は、スペーサモジュール24単体の拡大斜視図である。前述してあるように、モジュール24は近位の支持部を含む一種のカム状であり、カムに厚み/高さがある為に、レッグ4の中で動作可能にレッグ4の近位の長手方向の溝に挿込可能である。さらに、横方向の貫通穴26はモジュール24の支持部に形成されている。支持部から離れているモジュール24の遠位側の外の横辺に、回転軸Aに対して径方向に突出する二つの平らな舌部28が形成されており、それぞれの平らな側面がレッグ4、6に対向している。それら舌部28の厚さ/高さHは、閉止位置にあるレッグ4,6が対向する電極域間の間隔(20−1と20−3、20−2と20−4)で確保される最小限の距離S(隙間寸法)と一致しており、横方向(レッグの横方向)と幅は電極域20の平行距離と幅に一致しているため、舌部28は、少なくとも部分的には電極域と接触する。開口した長手方向のスリット30が、カム形モジュール24の遠位端にある舌部28の間に形成されて支持部まで延伸し、横方向の穴26の直前で終わっている。この代表的な実施形態において、スペーサモジュール24全体もしくは少なくとも舌部28は非導電性物質から作られる。
【0046】
図4と5はそれぞれジョー部もしくは器具レッグ4と6の開放位置と閉止位置における側面図である。
図6A,6Bと6Cは
図4と5内のジョー部の詳細図である。
【0047】
図6Aにおいて、ジョー部が開放位置にある時に、スペーサモジュール24の舌部28は下側レッグ6の電極域20−3と20−4の近位端においてゆるく接触していることが見て取れる。好ましくは上側のレッグ4を動作させて、器具レッグ4と6が閉止位置へ移行した場合(
図5参照)、別体のスペーサモジュール24の舌部28は2つの器具レッグ4と6の電極域20の近位端間でクランプされ(
図6B参照)、下側器具レッグ6の遠位端にある突出物22が上側のレッグ4の遠位端に支持される。この結果、近位端、遠位端そして電極域20全体に所定の隙間寸法Sのスペースが保持されたままになり、互いに実質的に平行なままである。
【0048】
上述のように、(突起形の)突出物22は電極間に配置されており、このために操作可能な上側のレッグ4と直接に接触する(そして上側のレッグ4の電極域には接触しない)。さらに、近位の舌部
28は電極域に直接固定されるのではなく、それらに置かれるだけである。したがって、第1の実施形態は、電極域20のうちの1つに直に(それに固定されるという意味において)に配置されるスペーサを含まない。これは先行技術よりも、凝固影効果を減らすことを可能にする。
【0049】
図7は第2の実施形態を表し、第1の実施形態の腹腔鏡下電気外科器具2に対して遠位のスペーサの配置が異なるのみであり、第1の代表的な実施形態との違いは以下に説明する。
【0050】
第2の実施形態では、電極域20−3と20−4の間に配置されている突出物22の代わりに、2つの(突起形の)突出物32、34が電極域20−3と20−4の遠位端に直接(すなわちしっかりと固定されて)備えられている。閉止位置において上側のレッグ4の電極域に近づく際の電極域間の短絡を防止するために、突出物32、34は導電性物質で形成され、好ましくは反対側の電極のそれぞれの突出物(点状/パッド形状)の領域(にのみ)に備えられている、非導電性物質で作られたスペーサ当接面に当接するよう構成される。突出物32、34ははんだ付けや射出成型で取付けられてもいいし、(エンボスやスタンピングのような方法で)一体的に形成されることもできる。スペーサ当接面は、硬化性物質を塊状に射出成型、塗布、充填することや、絶縁小板/パッド/ピンをそれぞれの電極のくぼみに接着もしくは挿入することで形成することができる。更なる詳細を下記に記述する。
【0051】
図8は、腹腔鏡下電気外科器具2の第3の実施形態の斜視図を示しており、第1、第2の実施形態とは、(突起形の)突出物32が1つだけ、下側(操作不可能)の器具レッグの遠位部、もしくは代替的に、上側の可動器具レッグの遠位部器具レッグにある、2つの電極域20−3と20−4の内の1つ(20−3)に配置(固定)されている点が異なっている。今まで使われていた別体のスペーサモジュール24の代わりに、(突起形の)突出物36が上側のレッグ4の2つの電極域20−1と20−2のうちの1つ(20−2)の近位端に、もしくは、同様の方法で代替的に下側器具レッグ上に配置(固定)される。二つの器具レッグ4と6が閉じていくとき、下側の電極域20−3に固定されている突出部32は、電極域20−1上に、すなわち上側の電極域の絶縁小板の上に当接するように構成され、上側の電極域20−2に固定されている突出部36は下側の電極域20−4もしくは下側の電極域の絶縁小板上に当接するよう構成される。このようにして、それぞれの電極域は多くても一つの固定された突起を備えることとなり、そのうち二つの電極域は固定された突起を有していない。
【0052】
図8、ならびに特に
図9と12から、スペーサとして利用されている突出物32と36に加えて、二つ(もしくは0よりも大きい数)のリッジ38と40、もしくは42と44がレッグ4と6の中間領域、例えば、電極域20−3と20−2上に配置されている。拡大
図9A、9Bと9Cから、好ましくは突起形のリッジ38と40は、前記レッグ6の突出物32よりも高さが低いことが分かる。同じことが、リッジ42、44と上側のレッグ4上の突出物36に対してもいえる。器具レッグ4と6が閉じられる際に、突出物32と36のみが、それぞれが対向する電極域20−1と20−4に対して当接するように構成されており(
図11のDと
図11のA参照)、リッジ38、40、42、44は依然としてそれらが対向する電極領域との間隔を維持している。このように、リッジ38,40,42、44は、スペーサとしては機能せずに、クランプしているレッグの間から組織が滑り落ちること防ぐための保持要素としてのみ機能する。
【0053】
図13は第4の実施形態であり、第1の実施形態の電気外科器具2とは遠位のスペーサの配置で異なっている一方、また、中央に配置されている第3スペーサを含んでいることを示している。電極域20−3と20−4の間に備えられる代わりに、遠位スペーサとして作用する(突起形の)突出物32は、電極域20−3に直接配置(固定)されている。既に第1の代表的な実施形態をもとに記述されているように、近位スペーサは再びスペーサモジュール24により形成される。それに加えて、突出物32および舌部28と同じ高さで中央に配置された(突起形の)突出物46は、電極域20−2に配置(固定)されている。この中央部の追加された突出物は、レッグの(凸状の)ゆがみを解消し、したがって電極域の中心部が接近することを防止する。
【0054】
図14は第5の実施形態であり、腹腔鏡下電気外科器具2の第1の実施形態とは器具レッグ4と6の近位部分で作用するスペーサを取り付ける点で異なるだけである。複数の器具レッグもしくは少なくとも可動な一つのレッグは、本実施形態においては、
スペーサモジュール24の代わりに近位部(端部)に回転制限ピン48と50を備える。回転制限ピン48と50は、レッグの横方向に伸びており、(好ましくは可動でない)反対側のレッグもしくはシャフト側面の縦方向貫通穴の側壁に備えられた、スロット型のガイド52と54に受容され、その中で案内される。スロット型のガイド52と54は、回転制限ピン48と50の自由度を制限し、それにゆえに少なくとも一つのレッグ4(および/または6)の回動範囲が制限される。回転制限ピン48,50がスロット型のガイド52と54のそれぞれの端に達したときに、器具レッグ4と6は互いに対して所定の望ましい最大開放距離および/または最大把持距離を有することになる。この方法によって、回転制限ピン48と50とスロット型のガイド52と54の協働が、第5の実施形態の近位のスペーサの代わりになるか、もしくは模擬する。
【0055】
図15は第5の実施形態の(開放状態の)ジョー部の斜視図であり、遠位スペーサが、第2の実施形態のように、下側の器具レッグ6の電極域20−3と20−4上にある二つの(突起形の)突出物32、34から形成されていることが分かる。
【0056】
図16は本発明の第6の実施形態(開放状態のジョー部)であり、第5の実施形態の腹腔鏡下電気外科器具2とは遠位のスペーサの配置が異なるだけである。第1の実施形態のように、遠位のスペーサは(突起形の)突出物22として下側のレッグ6の電極域20−3と20−4の間に配置されている。その他の点では、第6の実施形態は既述の第5の実施形態と同じである。
【0057】
図17は、第7の実施形態による電気外科器具102であり、前述の器具2とは器具の型について異なっており、特に操作装置ならびにハンドルの構造に関して異なる。既述の様々な実施形態は全て、細長いシャフト12と、遠位ジョー部として回動可能に分節化されている器具レッグ4と6とを含む、
図1に示す電気外科器具2を参照して記述されている。しかしながら、既述したスペーサ配置の変形例も、二つのレッグ104と106がスライド要素108、ならびに対応する作動機構(更に詳細には示されていない)とを介して接続されている電気外科器具102を利用しても実現することができる。この配置では、ハンドルもしくはハンドル部は、器具レッグが軸線に沿ってかつ遠位部から突き出る一種の収容ダクトを構成する。このダクトは、器具レッグがスライド要素108を介してダクト内に引っ込められるときに、器具レッグがダクトによって圧縮されるような寸法を有している。スライド要素108がダクト開口部にむかって押された場合、例えば、好ましくは自動的に、前もって弾力を付与されているばね式の手段により、器具レッグはダクトから外に出る。
【0058】
本発明は上述の実施形態に制限されない点にここで注目されたい。添付の請求項の保護の範囲内で様々な変更が可能である。
【0059】
一例として、電極域20−2の突出物36の代わりに、第3実施形態は第1もしくは第2の実施形態のスペーサモジュールを近位のスペーサとして使うこともできる。
【0060】
さらに、本発明の好ましい代表的な実施形態に準じてそれぞれの電極域に多くても一つの突出物が適用(固定)されている限り、全ての実施形態において突出物やリッジを他の電極域に配置することも可能である。
【0061】
全ての地点で電極間の距離が同じであるようにスペーサがお互いに構成されてさえいれば、スペーサの形状、大きさは異なっていてもよい。従って、スペーサはピラミッド、切頭状のピラミッド、円筒もしくは立方体の形状でもよい。最後に、スペーサモジュールは並べて配置され、それぞれ舌部を一つだけ持つ、独立した二つのモジュールに分割することもできる。
【0062】
以下において、スペーサ300ならびにスペーサ当接面350は、
図18から20に基づいてより詳細に図示されており、好ましくは電極域上のジョー部の全ての前述した代表的な実施形態に基本的に使われている。
【0063】
既に述べられているように、本発明におけるスペーサや突出物300は電気的に伝導性のある(すなわち導電性)物質から形成されており、代表的に示されている関連電極360に好ましくは一体的に接触する。対応する突出物300は、対応するスタンピングおよびベンディング加工、もしくは(局地的に)電極360自体をエンボス/押圧することで形成することができる。原則として、例えば
図18から20のコーン形もしくは半球状の突出物300を、電極360に溶着、はんだ付け、形成する方法などで固定する選択肢もある。それぞれの場合において、こうすることで突出物300と電極360を高強度に付着させ、ならびに突出物が備える剛性を高められ、その為このような方法で形成される突出物が意図せずはがれ落ちる、もしくは外れてしまうことは、可能な限りの範囲で避けられる。
【0064】
プレート型もしくはディスク形の凹部もしくはくぼみ372が、突出物300の領域内の(他方のレッグの)対向する電極370に形成される。さらに、これらのくぼみ372はさらに、電極370において中心止り穴や貫通穴374を含み、それは電極370の厚み方向に伸びている。このようにして、
図18から20の長手方向に見られるように、一種のきのこ形状の凹部がそれぞれの電極370に作られる。
【0065】
非導電性物質のピン、パッドもしくはプラグ350が前述の凹部に挿入され、その形は凹部に対しておおむね一致し、スペーサ当接面を画定する。この代案として、硬化性の非導電性物質の埋込用樹脂をくぼみに注入することも可能である。
【0066】
図18から、プラグ350は対応する電極370の表面とほぼ同一平面上にある、もしくは水平である。このようにして、プラグ350は、くぼみから抜けてしまうことに関して、外部からのきっかけとなるものを構成しない。さらに、プラグ350の外側の表面は、対向する突出物300にほぼ合わされており、二つのレッグがお互いを押し合っている間、突出物300がそれぞれの電極に直接触れることがなくプラグ350に適切に停止する程度の大きさである。
【0067】
図19と20はそれぞれ、プラグ350(スペーサ当接面)の他の構成を示している。
図19では、凹状の外側表面がプラグ350の上に形成されており、複数のレッグがお互いを押し合っているときに反対側の突出物300がより正確に中心に配置されるようになっている。
図20では、いかなる場合においても突出する部分が発生しないように、プラグ350は対応する電極の表面に対して(わずかに)へこんでいる。
【0068】
最後に、基本的にスペーサ当接面は、図示されるプラグ350の形状から異なる形状を有していてもよい。このため、スペーサ当接面を完全に平面、すなわち小板のように、形成することも可能である。プラグ350をピラミッド、円錐形にすることも可能である。スペーサ当接面の候補材料は、セラミックもしくは合成物質である。スペーサ当接面(特にプラグ350)と電極370の間に中間層を提供することも可能である。この中間層は、熱的に誘発される、電極370とスペーサ当接面とで異なってしまう材料膨張も補償し、この方法でスペーサ当接面が破損するかくぼみ372からにじみ出るのを回避する。
以下の項目は、国際出願時の特許請求の範囲に記載の要素である。
(項目1)
相互に動作可能な器具レッグ(4,6)から成るジョー部を含み、
前記器具レッグ(4,6)は、一つまたは複数の電極域(20)が配置/形成されている対向面をそれぞれ有し、
前記器具レッグ(4,6)の相対的動作は前記器具レッグ(4,6)の近位端部で作用する少なくとも一つの第1スペーサ(24;36;48,50,52,54)と、器具レッグ(4,6)の遠位端部で作用する少なくとも一つの第2スペーサ(22;32,34;32)によって制限され、
少なくとも1つの電極(360)上にあるスペーサ(300)のうちの少なくとも1つは導電性物質で形成されており、通電可能に電極(300)に接続されており、非導電性物質で形成されるとともに少なくとも1つの対向する電極(370)に電気的に絶縁されて配置されているスペーサ当接面(350)と協働することを特徴とする、電気外科器具(2)。
(項目2)
前記スペーサ当接面(350)は、全方位において電極面における面積が前記スペーサ(300)を超えて突出するパッド形状もしくはピン形状の構成物からなり、
前記スペーサ(300)が前記スペーサ当接面(250)を含む電極(370)と電気的接触しないように構成されていることを特徴とする、項目1に記載の電気外科器具(2)。
(項目3)
前記スペーサ当接面(350)を含む前記電極(370)は、その表面に少なくとも1つのくぼみ(372)を有するように形成されており、
前記くぼみ(372)にはパッドもしくはピン形状の前記スペーサ当接面(350)が挿入され、もしくは固化後に前記スペーサ当接面(350)を形成する電気絶縁材料で鋳造されることを特徴とする、項目1または2に記載の電気外科器具(2)。
(項目4)
前記スペーサ当接面(350)が、電極域に対して水平である、もしくは前記電極域に対して凹面を有するか、もしくはへこんでいることを特徴とする、項目3に記載の電気外科器具(2)。
(項目5)
前記くぼみ(372,374)は、長手方向断面においてきのこ形状もしくはT字形状であることを特徴とする、項目3または4に記載の電気外科器具(2)。
(項目6)
導電性スペーサとして作用する多くても1つの突出物(32,34;32,36;32,46)が、それぞれの電極域(20)に配置/固定されていることを特徴とする、項目1から5のいずれか一項に記載の電気外科器具(2)。
(項目7)
前記スペーサ(22,24,32,34,48,50,52,54)は、組織処置のための領域の外側にのみ配置されることを特徴とする、項目1から6のいずれかの項目に記載の電気外科器具(2)。
(項目8)
少なくとも一つのスペーサ、特に第1のスペーサがスペーサモジュール(24)で形成されており、
前記スペーサモジュール(24)は、前記器具レッグ(4,6)から分離可能に形成されており、閉止位置において前記器具レッグ(4、6)の間に保持される少なくとも一つの非導電性の舌部(28)を含んでおり、
前記舌部(28)の高さ(H)が前記閉止位置における前記器具レッグ(4、6)間の所定の最小距離(S)と一致することを特徴とする、項目1から7のいずれかの項目に記載の電気外科器具(2)。
(項目9)
前記スペーサモジュール(24)が、回動可能な器具レッグ(4)のスイベルジョイント(16)に回転可能に支持されており、
前記スペーサモジュール(24)のための収容キャビティを画定する、回動可能な前記器具レッグ(4)のフランジ形のジョイント部に特に囲まれていることを特徴とする、項目8に記載の電気外科器具(2)。
(項目10)
少なくとも一つの前記器具レッグ(4,6)は、好ましくはその他方の器具レッグ(6,4)の側面にあるスロット型のガイド(52,54)によって案内される回転制限ピン(48,50)を含んでおり、
前記回転制限ピン(48,50)と前記スロット型のガイド(52,54)との協働がスペーサ、特に第1のスペーサを構成もしくは模擬しており、
前記回転制限ピン(48,50)が前記スロット型のガイド(52,54)の端部に到達するときに、前記器具レッグ(4,6)が互いに対しての所定の最小限の距離(S)を有することを特徴とする、項目1から8のいずれかの項目に記載の電気外科器具(2)。
(項目11)
少なくとも一つの前記器具レッグ(4,6)の近位端と遠位端の間に、その他方の器具レッグ(6,4)に指向する一つ以上のリッジ(38,40,42,44)が好ましくは等間隔に形成されており、
前記リッジ(38,40,42,44)の高さ(h)は、前記スペーサ(24,32,34,36,46;48,50,52,54)の高さ(H)よりも低く、好ましくは前記スペーサ(24,32,34,36,46;48,50,52,54)の高さ(H)の10%から75%であることを特徴とする、項目1から10のいずれかの項目に記載の電気外科器具(2)。