特許第6167135号(P6167135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167135三次元位置計測方法、測量方法、三次元位置計測装置及び三次元位置計測プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167135
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】三次元位置計測方法、測量方法、三次元位置計測装置及び三次元位置計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20170710BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20170710BHJP
   G01B 11/03 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   G01B11/00 H
   G06T1/00 315
   G01B11/00 A
   G01B11/03 H
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-113709(P2015-113709)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2016-224015(P2016-224015A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】504454060
【氏名又は名称】株式会社アプライド・ビジョン・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】坂上 肇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕信
(72)【発明者】
【氏名】水口 祐司
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−242485(JP,A)
【文献】 特開2002−202124(JP,A)
【文献】 特開2011−145143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01C 3/00− 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置によって異なる2箇所の撮影点で撮像された2枚のパノラマ画像を利用して、三次元空間中の計測点の三次元位置を計測する三次元位置計測方法であって、
前記三次元空間中の複数の基準点が写る2枚の前記パノラマ画像を前記撮像装置によって撮像する撮像工程と、
前記パノラマ画像に設定された画像座標系における前記基準点の二次元位置を取得する基準点二次元位置取得工程と、
前記基準点二次元位置取得工程によって取得された前記画像座標系における前記基準点の二次元位置を、前記撮影点を基準として前記三次元空間に設定されたカメラ座標系における前記基準点の三次元位置に展開する展開工程と、
前記展開工程によって展開された前記カメラ座標系における前記基準点の三次元位置と、前記三次元空間中の前記基準点を基準として設定されたワールド座標系における前記基準点の三次元位置とに基づいて、前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置を算出する三次元位置算出工程と、
前記画像座標系における前記計測点の二次元位置を前記パノラマ画像上での前記計測点の二次元位置として取得する取得工程と、
前記三次元位置算出工程によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離と、前記撮像装置の焦点距離と、前記取得工程によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置とに基づいて、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出する計測点三次元位置算出工程と、を備えることを特徴とする三次元位置計測方法。
【請求項2】
前記撮像装置によって撮像される前記パノラマ画像が全方位のパノラマ画像であることを特徴とする請求項1に記載の三次元位置計測方法。
【請求項3】
前記撮像工程において、前記基準点が前記三次元空間中で同一平面上に配置された状態でこれら基準点を前記パノラマ画像に写すことを特徴とする請求項1又は2に記載の三次元位置計測方法。
【請求項4】
前記撮像工程において、前記基準点がマーカーとして平板に記された状態でこれら基準点を前記パノラマ画像に写すことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の三次元位置計測方法。
【請求項5】
前記撮像工程において、寸法と形状が既知の部材上に定められた点を前記基準点として、これら基準点を前記パノラマ画像に写すことを特徴とする請求項1又は2に記載の三次元位置計測方法。
【請求項6】
前記三次元位置算出工程によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離をLLRとし、前記撮像装置の焦点距離をfとし、前記取得工程によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置の座標を(XLS,YLS)、(XRS,YRS)とし、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を(X,Y,Z)とすると、前記計測点三次元位置算出工程において次式に従って、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の三次元位置計測方法。
【数1】
【請求項7】
請求項1からの何れか一項に記載された三次元位置計測方法によって複数の計測点の三次元位置を計測し、これら計測点の三次元位置からこれら計測点間の距離、平面形状の面積又は立体形状の体積を算出することを特徴とする測量方法。
【請求項8】
演算処理装置を備え、三次元空間中の複数の基準点が写るように撮像装置によって異なる2箇所の撮影点で撮像された2枚のパノラマ画像を利用して、前記三次元空間中の計測点の三次元位置を計測する三次元位置計測装置であって、
前記演算処理装置が、
前記パノラマ画像に設定された画像座標系における前記基準点の二次元位置を取得する基準点二次元位置取得処理と、
前記基準点二次元位置取得処理によって取得された前記画像座標系における前記基準点の二次元位置を、前記撮影点を基準として前記三次元空間に設定されたカメラ座標系における前記基準点の三次元位置に展開する展開処理と、
前記展開処理によって展開された前記カメラ座標系における前記基準点の三次元位置と、前記三次元空間中の前記基準点を基準として設定されたワールド座標系における前記基準点の三次元位置とに基づいて、前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置を算出する三次元位置算出処理と、
前記画像座標系における前記計測点の二次元位置を前記パノラマ画像上での前記計測点の二次元位置として取得する取得処理と、
前記三次元位置算出処理によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離と、前記撮像装置の焦点距離と、前記取得処理によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置とに基づいて、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出する計測点三次元位置算出処理と、を実行することを特徴とする三次元位置計測装置。
【請求項9】
三次元空間中の計測点の三次元位置を計測するための三次元位置計測プログラムであって、
コンピュータに、
前記三次元空間中の複数の基準点が写るように撮像装置によって異なる2箇所の撮影点で撮像された2枚のパノラマ画像に設定された画像座標系における前記基準点の二次元位置を取得する基準点二次元位置取得処理と、
前記基準点二次元位置取得処理によって取得された前記画像座標系における前記基準点の二次元位置を、前記撮影点を基準として前記三次元空間に設定されたカメラ座標系における前記基準点の三次元位置に展開する展開処理と、
前記展開処理によって展開された前記カメラ座標系における前記基準点の三次元位置と、前記三次元空間中の前記基準点を基準として設定されたワールド座標系における前記基準点の三次元位置とに基づいて、前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置を算出する三次元位置算出処理と、
前記画像座標系における前記計測点の二次元位置を前記パノラマ画像上での前記計測点の二次元位置として取得する取得処理と、
前記三次元位置算出処理によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離と、前記撮像装置の焦点距離と、前記取得処理によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置とに基づいて、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出する計測点三次元位置算出処理と、を実行させるための三次元位置計測プログラム。
【請求項10】
前記三次元位置算出処理によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離をLLRとし、前記撮像装置の焦点距離をfとし、前記取得処理によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置の座標を(XLS,YLS)、(XRS,YRS)とし、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を(X,Y,Z)とすると、前記計測点三次元位置算出処理において次式に従って、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出することを特徴とする請求項9に記載の三次元位置計測プログラム。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元位置計測方法、測量方法、三次元位置計測装置及び三次元位置計測プログラムに関し、特に三次元空間中の計測点の位置を計測するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物、構造物等の製造、改築、改良、修理等にあたって、三次元空間中の計測対象の寸法(二点間の距離)を事前に計測する必要がある。寸法の計測には、コンベックス、光波測距儀等の計測機器を利用するのが一般的である。
【0003】
また、いわゆるステレオカメラの原理を利用して、三次元空間中の任意の位置を計測することもある。例えば特許文献1には、上下2箇所で撮影した2枚のパノラマ画像の間で互いに対応する点を画像処理技術により特定し、これら対応点に相当する三次元空間中の計測点を計算する技術が開示されている。なお、特許文献1には、一方のパノラマ画像中の対応点と他方のパノラマ画像中の対応点を対応付ける点は詳細に記載されているが、それ以外については詳細には開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−325895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンベックスを利用して寸法を計測する場合、手作業によってコンベックスを計測箇所に固定しなければならない。また、光波測距儀を利用して寸法を計測する場合も、手作業によって光波測距儀を設置し、その設置箇所と所定の箇所までの距離を光波測距儀によって計測しなければならない。よって、コンベックス及び光波測距儀では、作業者の手が届かない範囲にある計測対象の寸法を測定することができない。
【0006】
画像によって計測する場合は、計測対象の付近に基準となる大きさや形状が既知である基準点を含む治具を設置して、計測点の位置をその治具と比較して計測する手段があるが、手が届かない場所では治具を設置すること自体が困難な場合が多く測定することができない。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。本発明が解決しようとする課題は、作業者の手が届かない範囲にある測定対象の位置を特定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するべく、撮像装置によって異なる2箇所の撮影点で撮像された2枚のパノラマ画像を利用して、三次元空間中の計測点の三次元位置を計測する三次元位置計測方法であって、前記三次元空間中の複数の基準点が写る2枚の前記パノラマ画像を前記撮像装置によって撮像する撮像工程と、前記パノラマ画像に設定された画像座標系における前記基準点の二次元位置を取得する基準点二次元位置取得工程と、前記基準点二次元位置取得工程によって取得された前記画像座標系における前記基準点の二次元位置を、前記撮影点を基準として前記三次元空間に設定されたカメラ座標系における前記基準点の三次元位置に展開する展開工程と、前記展開工程によって展開された前記カメラ座標系における前記基準点の三次元位置と、前記三次元空間中の前記基準点を基準として設定されたワールド座標系における前記基準点の三次元位置とに基づいて、前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置を算出する三次元位置算出工程と、前記画像座標系における前記計測点の二次元位置を前記パノラマ画像上での前記計測点の二次元位置として取得する取得工程と、前記三次元位置算出工程によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離と、前記撮像装置の焦点距離と、前記取得工程によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置とに基づいて、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出する計測点三次元位置算出工程と、を備える。
【0009】
以上の課題を解決するべく、演算処理装置を備え、三次元空間中の複数の基準点が写るように撮像装置によって異なる2箇所の撮影点で撮像された2枚のパノラマ画像を利用して、前記三次元空間中の計測点の三次元位置を計測する三次元位置計測装置であって、前記演算処理装置が、前記パノラマ画像に設定された画像座標系における前記基準点の二次元位置を取得する基準点二次元位置取得処理と、前記基準点二次元位置取得処理によって取得された前記画像座標系における前記基準点の二次元位置を、前記撮影点を基準として前記三次元空間に設定されたカメラ座標系における前記基準点の三次元位置に展開する展開処理と、前記展開処理によって展開された前記カメラ座標系における前記基準点の三次元位置と、前記三次元空間中の前記基準点を基準として設定されたワールド座標系における前記基準点の三次元位置とに基づいて、前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置を算出する三次元位置算出処理と、前記画像座標系における前記計測点の二次元位置を前記パノラマ画像上での前記計測点の二次元位置として取得する取得処理と、前記三次元位置算出処理によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離と、前記撮像装置の焦点距離と、前記取得処理によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置とに基づいて、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出する計測点三次元位置算出処理と、を実行する。
【0010】
以上の課題を解決するために、三次元空間中の計測点の三次元位置を計測するための三次元位置計測プログラムは、コンピュータに、前記三次元空間中の複数の基準点が写るように撮像装置によって異なる2箇所の撮影点で撮像された2枚のパノラマ画像に設定された画像座標系における前記基準点の二次元位置を取得する基準点二次元位置取得処理と、前記基準点二次元位置取得処理によって取得された前記画像座標系における前記基準点の二次元位置を、前記撮影点を基準として前記三次元空間に設定されたカメラ座標系における前記基準点の三次元位置に展開する展開処理と、前記展開処理によって展開された前記カメラ座標系における前記基準点の三次元位置と、前記三次元空間中の前記基準点を基準として設定されたワールド座標系における前記基準点の三次元位置とに基づいて、前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置を算出する三次元位置算出処理と、前記画像座標系における前記計測点の二次元位置を前記パノラマ画像上での前記計測点の二次元位置として取得する取得処理と、前記三次元位置算出処理によって算出された前記ワールド座標系における前記撮影点の三次元位置から定まる前記撮影点間の距離と、前記撮像装置の焦点距離と、前記取得処理によって取得された前記画像座標系における前記計測点の二次元位置とに基づいて、前記カメラ座標系における前記計測点の三次元位置を算出する計測点三次元位置算出処理と、を実行させるためのものである。
【0011】
以上によれば、三次元空間中の計測点に作業者の手が届かなくても、パノラマ画像は広い範囲(例えば全方位)を同時に撮影したものであるので、計測点とは全く異なる場所にある基準点(例えば、寸法や形状が既知の部材上に定められた点やマーカー等)をパノラマ画像に含めるようにして、異なる2箇所の撮影点でパノラマ画像を撮影すれば、作業者の手が届かない範囲内にある計測点の三次元位置を算出して特定することができる。もちろん、作業者の手が届かない範囲のみならず、作業者の手が届く範囲内に計測点があっても、その計測点の三次元位置を算出して特定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、手の届く範囲にある計測点のみならず、手の届かない範囲にある計測点の位置も計測することができるとともに、複数の計測点の位置から線の距離、平面形状の面積及び立体形状の体積を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】三次元空間中の計測点の位置を計測する様子を示した図面である。
図2】計測点の位置の計測に利用する基準盤の斜視図である。
図3】全方位撮像装置の側面図である。
図4】パノラマ画像を示した図面である。
図5】三次元計測装置のブロック図である。
図6】計測方法の工程図である。
図7】撮影点の位置を算出する処理のフローチャートである。
図8】ワールド座標系における左側撮影点の座標を算出する処理のフローチャートである。
図9】カメラ座標系における計測点の座標を算出する処理のフローチャートである。
図10】カメラ座標系における計測点の座標を算出する原理を示した図面である。
図11】変形例における撮像装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているので、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
・三次元位置計測方法の概要について
図1は、基準盤10、全方位撮像装置30及び三次元位置計測装置50を用いて、現実の三次元空間の中の計測点P,Qの位置を計測する様子を示している。この三次元位置計測方法では、三次元空間中の基準盤10を画像に写(映)すようにして全方位撮像装置30によって異なる二箇所で全方位(例えば水平方向に360°、垂直方向に180°)の撮影をし、取得した2個の全方位画像(全天球画像)及びそれらを展開したパノラマ画像(正距円筒画像)を利用して二箇所の撮影点間の距離を三次元位置計測装置50によって算出し、それらパノラマ画像の中の計測点P,Qの位置から三次元空間中の計測点P,Qの位置を三次元位置計測装置50によって算出する。
【0016】
また、三次元位置計測方法は、各種の測量に利用することができる。つまり、計測した2点以上の計測点(少なくとも計測点P,Q)の位置を利用して、線の長さ(2点の計測点間の距離)、平面形状(例えば、正三角形、直角三角形、二等辺三角形、三角形、正方形、長方形、台形、四角形、多角形、円形、楕円形等)の面積及び立体形状(例えば、三面体、立方体、直方体、四面体、球体等)の体積を公知の公式・定理により計算することもできる。例えば、計測した2点以上の計測点の位置を利用して、部屋90の天井高、長さ、幅、奥行き等を計測したり、部屋90の壁面93、窓枠94、ドア枠95等の高さ、幅などを計測したり、部屋90の床面91、天井面92、壁面93、窓枠94、ドア枠95等の面積を計測したり、部屋90の体積を計測したりすることができる。
ここで、基準盤10、全方位撮像装置30及び三次元位置計測装置50のセットが三次元位置計測システムである。
【0017】
・基準盤及びワールド座標系について
図2は基準盤10の斜視図である。
図2に示すように、基準盤10は平板11及び4個のマーカーA〜Dを備える。平板11が矩形状の板材であり、平板11の一方の平面にマーカーA〜Dが記されているので、これらマーカーA〜Dが同一平面上にある。マーカーA〜Dは基準点であって、マーカーA〜Dの位置及びこれらの相対的な位置関係(各マーカーA〜D間の距離)が既知である。つまり、三次元空間中の任意の三次元位置を表す直交座標系X(以下、ワールド座標系Xという。)におけるマーカーAの座標(XWA,YWA,ZWA)、マーカーBの座標(XWB,YWB,ZWB)、マーカーCの座標(XWC,YWC,ZWC)及びマーカーDの座標(XWD,YWD,ZWD)が定数として設定されている。例えば、これらマーカーA〜Dを頂点とした四角形が長方形に設計され、ワールド座標系Xの原点がその長方形の重心に設定され、ワールド座標系XのX軸及びY軸が平板11に対して平行に設定され、ワールド座標系XのZ軸が平板11に対して直角に設定され、ワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標がそれぞれ(−a,b,0)、(−a,−b,0)、(a,−b,0)、(a,b,0)に設定されている(但し、a,bともに正数である)。
【0018】
マーカーA〜Dの座標が定数として設定されているので、ワールド座標系XがマーカーA〜Dの位置を基準として三次元空間に設定されたものである。そして、ワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標が三次元位置計測装置50による計測点P,Qの位置の計測・算出(詳細には後述)に利用される。ここで、マーカーA〜Dが面積を有するので、マーカーA〜Dの座標(基準点の座標)とは、マーカーA〜Dに設定された所定の代表点(例えば、中心点)の座標のことをいう。なお、平板11に対してワールド座標系Xの原点の位置及び座標軸の向きは適宜変更してもよいが、原点の位置及び座標軸の向きが変更されることで、マーカーA〜Dの座標(定数)も適宜変更される。
【0019】
マーカーA〜Dのサイズ(寸法)は既知である。例えば、マーカーA〜Dが円環状であり、これらの直径RA1,RB1,RC1,RD1 [mm]が既知の定数として設定されている。なお、マーカーA〜Dの形状は円環状に限らず、例えば四角形(例えば長方形又は正方形)であってもよい。
【0020】
基準盤10の向きの識別が可能なように、マーカーA〜Dを頂点とした四角形は長方形であることが好ましいが、他の四角形(例えば、正方形、台形)であってもよい。マーカーA〜Dの識別が可能なように、マーカーA〜Dの色彩、模様、形状等が異なることが好ましい。
【0021】
・全方位撮像装置について
図3は全方位撮像装置30の側面図である。
図3に示すように全方位撮像装置30は筐体31、レンズ光学系32,33、固体撮像素子34,35、シャッターボタン36、コントローラユニット37及び記録媒体38を備える。
【0022】
レンズ光学系32,33は広角レンズ、超広角レンズ又は魚眼レンズであり、好ましくは、画角が180°以上の円周魚眼レンズである。レンズ光学系32,33は、光学的特性が同じものである。レンズ光学系32が筐体31の前面側に設けられ、レンズ光学系33が筐体31の後面側に設けられている。レンズ光学系32,33は、互いに逆向きとなるように且つそれぞれの光軸が合致するように、筐体31に組み付けられている。
【0023】
固体撮像素子34,35はエリア型の撮像素子であり、例えばCCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサである。固体撮像素子34,35が筐体31の内部に組み付けられ、固体撮像素子34がレンズ光学系32の結像面に配置され、固体撮像素子35がレンズ光学系32の結像面に配置される。
【0024】
コントローラユニット37が筐体31の内部に組み付けられ、シャッターボタン36が筐体31の後面に設けられている。記録媒体38は外部半導体メモリであり、筐体31に対して着脱可能である。なお、記録媒体38がコントローラユニット37に組み込まれた内蔵メモリであってもよい。
【0025】
作業者がシャッターボタン36を押下すると、コントローラユニット37によって固体撮像素子34,35が駆動されて、固体撮像素子34,35によって撮像(光電変換)された画像が固体撮像素子34,35からコントローラユニット37に転送される。コントローラユニット37は、固体撮像素子34,35から入力した撮像画像を合成するとともに各種補正処理(例えば、傾き補正や歪み補正等)をすることによって、全方位(例えば立体角が4π [sr])の画像を生成する。更に、コントローラユニット37は、全方位画像を平面の直交座標系(以下、画像座標系Xという。)に座標変換(マッピング)することによって、パノラマ画像を生成する。そして、コントローラユニット37は、生成した全方位画像及びパノラマ画像を記録媒体38に記録する。ここで、パノラマ画像とは、水平方向に広い画像をいい、コントローラユニット37によって生成されたパノラマ画像は、水平方向に360°の範囲、垂直方向に180°の範囲の全方位の画像である。
【0026】
全方位撮像装置30としては、例えば株式会社リコー製の全天球カメラ(登録商標:THETA)を利用することができる。
【0027】
・画像座標系及びカメラ座標系について
図4は、全方位撮像装置30によって生成されたパノラマ画像の概略図である。
パノラマ画像には画像座標系Xが設定されており、パノラマ画像中の任意のピクセルの二次元位置が画像座標系Xの座標で表される。ここで、画像座標系XのX軸がパノラマ画像の横方向に対して平行に設定され、画像座標系XのY軸がパノラマ画像の縦方向に対して平行に設定される。また、コントローラユニット37には傾斜センサーが設けられており、全方位撮像装置30が傾いた状態で全方位画像を撮影しても、全方位撮像装置30を中心として俯仰角0°の全周像がX軸に平行な中心線に沿ってパノラマ画像に写るように、コントローラユニット37によって傾き補正処理が実行される。従って、三次元空間における俯仰角はパノラマ画像のY座標から換算され、三次元空間における水平角はパノラマ画像のX座標から換算される。
【0028】
上述のように全方位撮像装置30によって異なる二箇所で撮影するが、二箇所の撮影点のうち左側(レンズ光学系32の光軸方向に見て左側をいう。)の撮影点(以下、左側撮影点という。)での撮影によって生成された左側パノラマ画像に設定される画像座標系Xを左側画像座標系XLSLSと表記し、左側画像座標系XLSLSのX軸、Y軸をそれぞれXLS軸、YLS軸と表記する。また、他方の撮影点(以下、右側撮影点という。)での撮影によって生成された右側パノラマ画像に設定される画像座標系Xを右側画像座標系XRSRSと表記し、右側画像座標系XRSRSのX軸、Y軸をそれぞれXRS軸、YRS軸と表記する。
【0029】
図1に示すように、三次元空間中の任意の三次元位置は、ワールド座標系Xのほかに、左側撮影点を原点とした直交座標系(以下、左側カメラ座標系XLCLCLCという)の座標によっても表される。同様に、三次元空間中の任意の三次元位置は、右側撮影点を原点とした直交座標系(以下、右側カメラ座標系XRCRCRCという)によっても表される。
【0030】
左側カメラ座標系XLCLCLCのXLC軸が左側画像座標系XLSLSのXLS軸に対して平行に設定され、左側カメラ座標系XLCLCLCのYLC軸が左側画像座標系XLSLSのYLS軸に対して平行に設定され、左側カメラ座標系XLCLCLCのZLC軸が左側パノラマ画像に対して平行に設定される。右側カメラ座標系XRCRCRCのXRC軸・YRC軸・ZRC軸、右側画像座標系XRSRSのXRS軸・YRS軸及び右側パノラマ画像の関係についても同様である。
【0031】
また、上述のようにコントローラユニット37によって傾き補正が行われるので、左側カメラ座標系XLCLCLCのXLC軸・ZLC軸及び右側カメラ座標系XRCRCRCのXRC軸・ZRC軸は三次元空間における水平面に対して平行である。
【0032】
・三次元位置計測装置について
三次元位置計測装置50は、デスクトップ型、ノートブック型又はタブレット型のパーソナルコンピュータである。図5に示すように、三次元位置計測装置50は演算処理装置51、記憶部52、入力部53、表示部54、リーダライタ55及びインターフェース58等を備える。演算処理装置51は、CPU、GPU、ROM、RAM及びハードウェアインタフェース等を有するコンピュータである。記憶部52は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。入力部53は、スイッチ、キーボード、ポインティングデバイス等の入力装置である。表示部54は、画面表示を行うディスプレイである。
【0033】
インターフェース58は、有線又は無線によって全方位撮像装置30とデータの送受を行うためのインターフェースである。例えば、インターフェース58は、USBインターフェース、Bluetooth(登録商標)インターフェース又は無線LANインターフェースである。
【0034】
リーダライタ55には、全方位撮像装置30から取り外された記録媒体38が接続可能である。リーダライタ55は、接続された記録媒体38の読み書きが可能なものである。具体的には、リーダライタ55は、記録媒体38に記録された全方位画像及びパノラマ画像を読み取って、それら全方位画像及びパノラマ画像を演算処理装置51に転送する。演算処理装置51は、転送された全方位画像及びパノラマ画像を記憶部52に記録する。ここで、記憶部52に記録された左側全方位画像56L、左側パノラマ画像57Lは、それぞれ、左側撮影点における撮影によって生成された全方位画像、パノラマ画像である。記憶部52に記録された右側全方位画像56R、右側パノラマ画像57Rは、それぞれ、右側撮影点における撮影によって生成された全方位画像、パノラマ画像である。
【0035】
記憶部52には、演算処理装置51によって実行可能なプログラム52aが格納されている。このプログラム52aには、ワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標が定数として組み込まれている。更に、マーカーA〜Dのサイズ(直径RA1,RB1,RC1,RD1)もプログラム52aに組み込まれている。更に、全方位撮像装置30の焦点距離f [mm]もプログラム52aに組み込まれている。なお、プログラム52aは、演算処理装置51のROMに格納されていてもよい。
【0036】
・計測方法の詳細及び演算処理装置の処理について
図6を参照して、計測点P,Qの位置の計測方法及び演算処理装置51の処理の流れについて説明する。ここで、図6は、計測点P,Qの位置の計測工程を示したものである。
まず、作業者が三次元空間中に基準盤10を配置する(ステップS1)。マーカーA〜Dの位置がワールド座標系Xの座標として設定されているので、基準盤10が三次元空間中に配置されることによって、ワールド座標系Xが三次元空間に定義される。
【0037】
次に、作業者が基準盤10から離れた位置に全方位撮像装置30を配置するとともに、全方位撮像装置30のレンズ光学系32を基準盤10のマーカーA〜Dに向ける。そして、シャッターボタン36を押下することにより全方位撮像装置30によって基準盤10のマーカーA〜Dを撮影する(ステップS2)。そうすると、全方位撮像装置30の固体撮像素子34,35によって撮像画像が生成され、コントローラユニット37によって全方位画像及びパノラマ画像が生成され、全方位画像及びパノラマ画像が記録媒体38に記録される。
【0038】
次に、作業者が全方位撮像装置30の位置を変更して、全方位撮像装置30のレンズ光学系32を基準盤10のマーカーA〜Dに向けた状態でマーカーA〜Dを全方位撮像装置30によって再度撮影する(ステップS3)。これにより、新たな全方位画像及びパノラマ画像が記録媒体38に記録される。ここで、2回の撮影にわたって、基準盤10の位置及び向きを変更しない。なお、2台の全方位撮像装置30を用いて、ステップS2,ステップS3の撮影を別々の全方位撮像装置30によって行ってもよい。
【0039】
1回目の撮影の際のレンズ光学系32の光軸と、2回目の撮影の際のレンズ光学系32の光軸を互いに平行することが好ましいが、必ずしも平行にする必要はない。また、1回目の撮影点と2回目の撮影点を同一水平面上に配置することが好ましいが、これら撮影点が上下にずれていてもよい。
【0040】
次に、全方位撮像装置30から取り外した記録媒体38をリーダライタ55に接続して、2回の撮影によって生成された全方位画像及びパノラマ画像を記録媒体38から演算処理装置51の記憶部52に保存する(ステップS4)。こうして、画像56L,57L,56R,57L(図5参照)が記憶部52に記録される。なお、これら画像56R,57R,56L,57Lがインターフェース58を通じて全方位撮像装置30から演算処理装置51に転送されて、演算処理装置51によって記憶部52に記録されてもよい。
【0041】
次に、作業者が入力部53を操作すると、撮影点三次元位置算出処理がプログラム52aに基づいて演算処理装置51によって実行される(ステップS5)。撮影点三次元位置算出処理は、左側撮影点及び右側撮影点の三次元位置を算出処理である。撮影点三次元位置算出処理により算出される左側撮影点の三次元位置は、ワールド座標系Xにより表された座標(XWL,YWL,ZWL)であり、撮影点三次元位置算出処理により算出される右側撮影点の三次元位置は、ワールド座標系Xにより表された座標(XWR,YWR,ZWR)である。撮影点三次元位置算出処理の詳細については後述する(図7及び図8参照)。
【0042】
次に、作業者が入力部53を操作すると、計測点座標算出処理がプログラム52aに基づいて演算処理装置51によって実行される(ステップS6)。計測点座標算出処理は、左側カメラ座標系XLCLCLC又は右側カメラ座標系XRCRCRCにおける計測点の座標を算出する処理である。計測点座標算出処理の詳細については後述する(図9及び図10参照)。
【0043】
次に、長さ・面積・体積の算出処理がプログラム52aに基づいて演算処理装置51によって実行される(ステップS7)。この算出処理は、ステップS6で算出された複数の計測点の座標を利用して、線の長さ、平面形状の面積及び立体形状の体積を公知の公式・定理により算出する処理である。
【0044】
次に、結果出力処理がプログラム52aに基づいて演算処理装置51によって実行される(ステップS8)。この結果出力処理は、ステップS6やステップS7の算出結果を表示部54に出力する処理である。なお、ステップS6やステップS7の算出結果が演算処理装置51によって記憶部52に記録されてもよい。
【0045】
続いて、ステップS5における左側撮影点の三次元位置(ワールド座標系Xにより表された座標)の算出処理について、図7を参照して具体的に説明する。なお、右側撮影点の三次元位置(ワールド座標系Xにより表された座標)の算出処理は左側撮影点の座標の計算処理と同様であるので、その説明は省略する。
【0046】
まず、演算処理装置51が記憶部52から左側パノラマ画像57Lを読み込む(ステップS11)。なお、演算処理装置51がリーダライタ55を通じて記録媒体38から左側パノラマ画像57Lを読み込んでもよい。
【0047】
次に、演算処理装置51が公知の画像処理(例えば、エッジ検出処理等の特徴抽出処理)によって左側パノラマ画像57L中のマーカーA〜Dを認識する。そして、演算処理装置51が、左側パノラマ画像57L中のマーカーA〜Dのサイズ、より具体的には最大直径RAS,RBS,RCS,RDS[pixel]を検出して取得する(ステップS12)。ここで、基準盤10がレンズ光学系32の光軸に直交しない場合、マーカーA〜Dが扁平した状態で左側パノラマ画像57Lに写っている。
【0048】
次に、演算処理装置51が左側パノラマ画像57L上でのマーカーA〜Dの二次元位置を検出して取得する(ステップS13:基準点二次元位置取得処理)。ここで、検出されたマーカーA〜Dの二次元位置は左側画像座標系XLSLSで表され、それぞれの座標を(XLSA,YLSA)、(XLSB,YLSB)、(XLSC,YLSC)、(XLSD,YLSD)とする。
【0049】
なお、マーカーA〜Dの最大直径RAS,RBS,RCS,RDS及び座標(XLSA,YLSA)、(XLSB,YLSB)、(XLSC,YLSC)、(XLSD,YLSD)の取得(ステップS12,S13)は、画像処理によるものではなく、手動入力によるものでもよい。つまり、左側パノラマ画像57Lが表示部54に表示された状態で、作業者が入力部53を操作して、表示部54に表示されたマーカーA〜Dを指定することによって、演算処理装置51がマーカーA〜Dの座標(XLSA,YLSA)、(XLSB,YLSB)、(XLSC,YLSC)、(XLSD,YLSD)を取得する(ステップS13)。また、作業者が入力部53を操作して、マーカーA〜Dの最大直径RAS,RBS,RCS,RDSを入力することによって、演算処理装置51がそれら最大直径RAS,RBS,RCS,RDSを取得する(ステップS12)。
【0050】
次に、演算処理装置51が、左側画像座標系XLSLSにおけるマーカーAの座標(XLSA,YLSA)を左側カメラ座標系XLCLCLCにおけるマーカーAの座標(XLCA,YLCA,ZLCA)に展開する(展開処理)。具体的には、演算処理装置51が、マーカーAの座標(XLSA,YLSA)、直径RA1及び最大直径RAS並びに焦点距離fから、左側カメラ座標系XLCLCLCにおけるマーカーAの座標(XLCA,YLCA,ZLCA)を算出する(ステップS14)。
【0051】
ここで、左側カメラ座標系XLCLCLCで表された三次元空間における水平角は左側画像座標系XLSLSのXLS座標から換算され、左側カメラ座標系XLCLCLCで表された三次元空間における俯仰角は左側画像座標系XLSLSのYLS座標から換算されるので、左側カメラ座標系XLCLCLCにおけるマーカーAの座標(XLCA,YLCA,ZLCA)は次式の通りである。
【0052】
【数1】
【0053】
同様にして、演算処理装置51が、左側カメラ座標系XLCLCLCにおけるマーカーBの座標(XLCB,YLCB,ZLCB)、マーカーCの座標(XLCC,YLCC,ZLCC)及びマーカーDの座標(XLCD,YLCD,ZLCD)を算出する(ステップS14)。
【0054】
ここで、マーカーA〜Dの直径RA1,RB1,RC1,RD1及び全方位撮像装置30の焦点距離fが定数としてプログラム52aに組み込まれ、ステップS14の算出に際して、演算処理装置51がプログラム52aから直径RA1,RB1,RC1,RD1及び焦点距離fを取得する。それに対して、作業者が入力部53を操作することによって直径RA1,RB1,RC1,RD1及び焦点距離fを入力し、これにより演算処理装置51が直径RA1,RB1,RC1,RD1及び焦点距離fを取得するものとしてもよい。また、焦点距離fが画像56L,57L,56R,57Lのメタデータとして画像56L,57L,56R,57Lに含まれ、演算処理装置51が画像56L,57L,56R,57Lから焦点距離fを取得するものとしてもよい。
【0055】
ステップS14の後、演算処理装置51が、左側カメラ座標系XLCLCLCにおけるマーカーAの座標(XLCA,YLCA,ZLCA)、マーカーBの座標(XLCB,YLCB,ZLCB)、マーカーCの座標(XLCC,YLCC,ZLCC)及びマーカーDの座標(XLCD,YLCD,ZLCD)と、ワールド座標系XにおけるマーカーAの座標(XWA,YWA,ZWA)、マーカーBの座標(XWB,YWB,ZWB)、マーカーCの座標(XWC,YWC,ZWC)及びマーカーDの座標(XWD,YWD,ZWD)とを利用して、ワールド座標系Xにおける左側撮影点の座標及び撮影向き(但し、傾き補正されたもの)を算出する(ステップS15:三次元位置算出処理)。ここで、ワールド座標系Xを左側カメラ座標系XLCLCLCに座標変換するための座標系変換行列の各要素がワールド座標系Xにおける左側撮影点の座標及び撮影向きによって定められるので、演算処理装置51が次の座標系変換式(1)を利用して左側撮影点の位置及び撮影向きを総当り的に算出する。
【0056】
【数2】
【0057】
詳細には、ステップS15の処理の流れを示したフローチャート(図8)を参照して説明する。まず、演算処理装置51が、左側撮影点の座標についての複数の候補(以下、撮影点候補という)の座標をワールド座標系Xにより所定間隔で指定する(ステップS21)。撮影点候補の座標は座標系変換行列の要素を構成する。
【0058】
次に、演算処理装置51が、撮影点候補ごとに、撮影向きについての候補のベクトル(以下、撮影向き候補ベクトルという)を算出する。つまり、撮影点候補ごとに、左側カメラ座標系XLCLCLCにおけるマーカーA〜Dの座標とワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標と撮影点候補の座標を変換式(1)に当てはめることによって、座標系変換行列の要素を構成する撮影向き候補ベクトルを算出する(ステップS22)。ここで、ワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標はプログラム52aに定数として組み込まれたものである。但し、作業者が入力部53を操作して、ワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標を入力するものとしてもよいし、マーカーA〜D間の距離を入力することによってマーカーA〜Dの座標が演算処理装置51によって算出されてもよい。
【0059】
なお、ワールド座標系XにおけるマーカーA〜Dの座標と、撮影点候補の座標とから撮影向き候補ベクトルを算出する計算方法については、参考文献(金谷健一 『画像理解 −3次元認識の数理−』 森北出版, 1990年, pp. 40-78. )に詳細に記載されている。
【0060】
次に、演算処理装置51が、撮影点候補ごとに、撮影点候補からマーカーAまでのベクトルと撮影向き候補ベクトルの外積と、撮影点候補からマーカーBまでのベクトルと撮影向き候補ベクトルの外積と、撮影点候補からマーカーCまでのベクトルと撮影向き候補ベクトルの外積と、撮影点候補からマーカーDまでのベクトルと撮影向き候補ベクトルの外積とを算出し、これら外積の絶対値の総和(以下、評価値という。)を算出する(ステップS23)。ここで挙げたベクトルは何れもワールド座標系Xにおけるものである。
【0061】
次に、演算処理装置51は、撮影点候補ごとの評価値を比較し、最小の評価値をとる撮影点候補を選択する(ステップS24)。その選択した撮影点候補の座標とそれに対応する撮影向き候補ベクトルがワールド座標系Xにおける左側撮影点の座標(XWL,YWL,ZWL)及び撮影向きのベクトルである。
【0062】
なお、上述のステップS21〜ステップS24の処理を複数回繰り返し実行し、最後のステップS24の処理で選択された撮影点候補及び撮影向き候補ベクトルがワールド座標系Xにおける左側撮影点の座標及び撮影向きとしてもよい。この場合、次の回のステップS21において指定される撮影点候補の間隔は前の回のステップS21において指定される撮影点候補の間隔よりも狭く設定され、次の回のステップS21において指定される撮影点候補は前の回のステップS24において選択された撮影点候補の周辺のものである。ステップS21〜ステップS24の処理を複数回繰り返し実行することによって、左側撮影点の座標及び撮影向きのベクトルをより正確に求めることができるとともに、撮影点候補の総数の削減を図ることができる(ステップS21〜ステップS24の処理を1回のみで左側撮影点の座標及び撮影向きのベクトルをより正確に求めるには、これら撮影点候補の間隔を短く設定して、広範に多くの撮影点候補を設定する必要があるので、結果として撮影点候補の総数が増えてしまう)。
【0063】
続いて、図9及び図10を参照して、図6に示すステップS2の計測点座標算出処理について詳細に説明する。ここで、図9は計測点座標算出処理のフローチャートであり、図10は計測点算出処理の原理の説明図である。
【0064】
図10に示すように、左側カメラ座標系XLCLCLCで表された三次元空間中の任意の点Mの座標を(XLC,YLC,ZLC)とする。また、任意点Mが左側パノラマ画像57Lに写った場合、左側画像座標系XLSLSにおける任意点Mの座標を(XLS,YLS)とする。また、任意点Mが右側パノラマ画像57Rに写った場合、右側画像座標系XRSRSにおける任意点Mの座標を(XRS,YRS)とする。そして、左側撮影点から右側撮影点までの距離をLLRとすると、距離LLRはこれらの座標(XWL,YWL,ZWL)、(XWR,YWR,ZWR)から求まる(式(2)参照)。
【0065】
【数3】
【0066】
こうした場合、左側カメラ座標系XLCLCLCにおける任意点Mの座標(XLC,YLC,ZLC)は次式(3)〜(5)により求まる。
【0067】
【数4】
【0068】
従って、左側画像座標系XLSLS及び右側画像座標系XRSRSにおける計測点P,Qの座標を特定すれば、左側カメラ座標系XLCLCLCで表された三次元空間中の計測点P,Qの座標を式(3)〜(5)により算出することができる。そこで、演算処理装置51が図9に示すような計測点座標算出処理を実行する。
【0069】
まず、演算処理装置51が左側パノラマ画像57L及び右側パノラマ画像57Rを表示部54に表示する(ステップS31)。
次に、作業者が入力部53を操作して、表示部54に表示された左側パノラマ画像57L上での任意の位置を指定することによって計測点Pの座標を入力すると、演算処理装置51が左側パノラマ画像57L上の計測点Pの二次元位置(左側画像座標系XLSLSにより表された座標)を取得する(ステップS32:取得処理)。同様に、作業者が右側パノラマ画像57R上での任意の位置を指定することによって計測点Pの座標を入力すると、演算処理装置51が右側パノラマ画像57R上の計測点Pの二次元位置(右側画像座標系XRSRSにより表された座標)を取得する(ステップS33:取得処理)。
次に、演算処理装置51が式(3)〜(5)を利用して左側カメラ座標系XLCLCLCにおける計測点Pの座標を算出する(ステップS34:計測点位置算出処理)。なお、右側カメラ座標系XRCRCRCにおける計測点Pの座標を算出するものとしてもよい。
【0070】
同様にして、作業者がパノラマ画像57L,57R上での計測点Qの座標を入力すると、左側カメラ座標系XLCLCLCにおける計測点Qの座標が演算処理装置51によって算出される。そして、次式(6)のように、左側カメラ座標系XLCLCLCにおける計測点Pの座標(XLCP,YLCP,ZLCP)及び計測点Qの座標(XLCQ,YLCQ,ZLCQ)から計測点P,Q間の距離LPQが演算処理装置51によって算出される(図6のステップS7参照)。
【0071】
【数5】
【0072】
また、計測点P,Qの座標(XLCP,YLCP,ZLCP),(XLCQ,YLCQ,ZLCQ)やこれらの間の距離LPQが演算処理装置51によって表示部54に表示される(図6のステップS8参照)。
【0073】
・効果
以上の実施形態には次のような効果がある。
(1) 計測点P,Qが手の届く範囲や手の届かない範囲の何れにあっても、計測点P,Qの位置をカメラ座標系の座標として計測することができる。計測点P,Qが手の届かない範囲にある場合、脚立や足場等の計測補助具を設置しなくても済む。計測者の人数が少なくても、たとえ一人であっても、計測点P,Qの位置を計測することができる。
【0074】
(2) 基準盤10を配置して、2回の撮影を行うだけで、計測点P,Qの位置を簡易且つ簡便に行うことができる。
【0075】
(3) 全方位撮像装置30が全方位の画像を撮像するものであるので、計測点P,Qがどのような位置・方位にあっても、計測点P,Qがパノラマ画像に写りさえすれば、計測点P,Qの位置を計測することができる。特に、部屋90等の密閉空間内にある対象点の位置を計測するのに有効的である。
【0076】
・変形例
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を上記実施形態に限定して解釈するためのものではない。本発明の実施形態はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明の範囲にはその等価物も含まれる。以下に、上記実施形態から変更した点について幾つか例を挙げて説明する。
【0077】
上記実施形態では、全方位画像及びパノラマ画像がコントローラユニット37によって生成されたが、演算処理装置51によって生成されてもよい。つまり、全方位撮像装置30の固体撮像素子34,35によって撮像された画像が演算処理装置51に転送されて、演算処理装置51がそれらの撮像画像を合成して全方位画像を生成し、その全方位画像をパノラマ画像に座標変換してもよい。この場合、プログラム52aが、全方位画像生成処理及びパノラマ画像生成処理を演算処理装置51に実行させる。
【0078】
上述の実施の形態では、全方位撮像装置30は、前側のレンズ光学系32及び固体撮像素子34と、後ろ側のレンズ光学系33及び固体撮像素子35とが共通の筐体31に組み付けられたものである。それに対して、図11に示すように、前側のレンズ光学系32及び固体撮像素子34と後ろ側のレンズ光学系33及び固体撮像素子35とが別々の筐体31A,31Bに組み込まれ、これらレンズ光学系32,33が反対向きなるようにこれら筐体31A,31Bが配置されてもよい。この場合、前後の固体撮像素子34,35によって撮像された画像が演算処理装置51に転送されて、演算処理装置51がプログラム52aに従ってそれらの撮像画像を合成して全方位画像を生成するとともに、その全方位画像をパノラマ画像に座標変換する。全方位画像及びパノラマ画像の生成に際しては、カメラキャリブレーションにより取得された内部パラメータ(焦点距離等)が利用される。
【0079】
上述の実施の形態では、基準盤10を使用して、基準盤10のマーカーA〜Dを全方位撮像装置30によって撮影した。それに対して、マーカーA〜D以外の4点の基準点を全方位撮像装置30によって撮影してもよい。例えば、寸法と形状が既知の部材上に定められた四つ以上の点を基準点として、その部材及びそれら基準点を全方位撮像装置30によって撮影してもよい。この場合、これら基準点が同一平面上にあることが好ましい。部材の寸法と形状が既知であるので、その部材上に定められた四つ以上の基準点の相対的な位置関係(距離)が予め既知である。そして、ワールド座標系Xにおけるこれら基準点の座標がプログラム52aに予め組み込まれているか、作業者の入力部53の操作により手動入力される。例えば、基準点としては、寸法及び形状が既知の矩形状窓枠の四隅の点、寸法及び形状が既知の矩形状ドア枠の四隅の点、寸法及び形状が既知の矩形状壁面の四隅の点等を利用することができる。
【0080】
上述の実施の形態では、平板11に4個のマーカーA〜Dが付されていたが、5個以上のマーカーが平板11に付されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…基準盤, 11…平板, 30…全方位撮像装置, 31…筐体, 31A…筐体, 31B…筐体, 32…レンズ光学系, 33…レンズ光学系, 34…固体撮像素子, 35…固体撮像素子, 36…シャッターボタン, 37…コントローラユニット, 38…記録媒体, 50…三次元位置計測装置, 51…演算処理装置, 52…記憶部, 52a…プログラム, 53…入力部, 54…表示部, 55…リーダライタ, 56L…左側全方位画像, 56R…右側全方位画像, 57L…左側パノラマ画像, 57R…右側パノラマ画像, 58…インターフェース, 90…部屋, 91…床面, 92…天井面, 93…壁面, 94…窓枠, 95…ドア枠, A…マーカー(基準点), B…マーカー(基準点), C…マーカー(基準点), D…マーカー(基準点), P…計測点, Q…計測点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11