特許第6167168号(P6167168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167168海洋船舶の推進シャフトをシールするための装置及びその作動を制御する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167168
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】海洋船舶の推進シャフトをシールするための装置及びその作動を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 23/36 20060101AFI20170710BHJP
   B63B 39/12 20060101ALI20170710BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20170710BHJP
   F16J 15/46 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   B63H23/36
   B63B39/12
   F16J15/3204 201
   F16J15/46
【請求項の数】19
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-503902(P2015-503902)
(86)(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公表番号】特表2015-514041(P2015-514041A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】FI2012050375
(87)【国際公開番号】WO2013156662
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2014年10月3日
【審判番号】不服2016-13735(P2016-13735/J1)
【審判請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】503129903
【氏名又は名称】ワルトシラ フィンランド オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】デ クライエフ,アルノード
(72)【発明者】
【氏名】ロエメン,リック
(72)【発明者】
【氏名】高安 稔
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル フェン,バート
(72)【発明者】
【氏名】ファン エイェーナッテン,イォースト
(72)【発明者】
【氏名】四柳 正彦
【合議体】
【審判長】 氏原 康宏
【審判官】 尾崎 和寛
【審判官】 出口 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−301186(JP,A)
【文献】 特開平11−153294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 23/36
F16J 15/3204
F16J 15/46
B63B 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋船舶の推進シャフトをシールする装置であって、前記装置は、外側シーリングのセットと内側シーリングのセットを備えるシーリングハウジングとを有し、前記シーリングハウジングは、前記推進シャフト又は前記推進シャフト上に設けられるシャフトスリーブに結合して設けられるように適合され、前記シーリングハウジングは前記内側シーリングのセットと前記外側シーリングのセットの間にチャンバーIIを備え、前記チャンバーIIはオイルを含むヘッダータンクに連結ラインにより連結され、前記ヘッダータンクに大気圧より低い圧力を供給する手段を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記圧力を供給する手段は、真空ポンプを有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記圧力を供給する手段は、更に、前記ヘッダータンク内に周囲空気を導入させる手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記圧力を供給する手段は、更に、前記ヘッダータンク内の圧力pを監視する手段を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記圧力を供給する手段は、更に、制御ユニットを有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記制御ユニットは、前記ヘッダータンク内の圧力pを監視する手段に接続されていることを特徴とする、請求項4又は5に記載の装置。
【請求項7】
前記シーリングの前側の水圧pを監視するための前記制御ユニットに接続する手段と、前記ヘッダータンク内の圧力pを監視する手段を有することを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記水圧pを監視する手段は、前記シーリングの前側にある圧力センサーであることを特徴とする、請求項7に記載のシーリング装置。
【請求項9】
前記水圧を監視する手段は、水位WLの高さを測定するセンサーであることを特徴とする、請求項7に記載のシーリング装置。
【請求項10】
海洋船舶の推進シャフトのシーリング装置の作動を制御する方法であって、前記シーリング装置は、外側シーリングのセットと内側シーリングのセットを備えるシーリングハウジングとを有し、前記シーリングハウジングは、前記推進シャフト又は前記推進シャフト上に設けられるシャフトスリーブに結合して設けられるように適合され、前記シーリングハウジングは前記内側シーリングのセットと前記外側シーリングのセットの間にチャンバーIIを備え、前記チャンバーIIは、圧力pIIを有すると共にオイルを含むヘッダータンクに連結ラインにより連結され、前記方法は、前記ヘッダータンクに大気圧より低い圧力を供給するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項11】
前記ヘッダータンクに一定の大気圧より低い圧力を供給することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヘッダータンク内の圧力を調節することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記シーリング装置に前記ヘッダータンク内の圧力pを調節する手段を設けたことを特徴とする、請求項10乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記シーリング装置に前記ヘッダータンク内の圧力pを調節するための制御ユニットを設けたことを特徴とする、請求項10,12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記シーリング装置の前側の水圧pを監視し、前記水圧pを関数として前記ヘッダータンク内の圧力pを調節することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記シーリングの前側に設けた圧力センサーにより直接的に、又は、前記推進シャフトに関しての水位の変化に従って間接的に前記水圧を監視することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記制御ユニットによる圧力調整手段の作動を制御することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記圧力調整手段を手動により作動させることを特徴とする、請求項13に記載の方法 。
【請求項19】
前記圧力調整手段を作動させるため前記制御ユニットに手動による指示を与えることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋船舶の推進シャフトの新規なシーリング装置とその作動を制御する方法に関する。本発明の方法と装置は特に推進シャフトがある理由により水面に近く、低い吃水を持つ場合に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
海洋船舶の推進シャフトは常に海水又は真水が、少なくともシャフトのベアリング及び時にはギアのような種類のものが存在しているステムチューブ又はスラスター内に入ることを阻止するためのシーリング装置を必要としている。推進シャフトのベアリングは、多くの場合、少なくとも部分的にオイルで満たされる密封されたキャビティ内に設けられており、このため、潤滑油が海又は湖に漏れ出すことを防止するためのシールが必要となっている。したがって、1つの外部の向けてのシールと1つの内部に向けてのシールが存在することが最小限必要な要件である。しかしながら、安全性のために、一方において、海水又は真水が入るのを防止するため、また、他方において潤滑油が漏洩することを防止するためにしばしば1以上のシールが存在している。
【0003】
図1はリップ型のシーリングリングに基づく従来の推進シャフトを示している。図は封止のために複数のシーリングリングが適用されている状態、即ち、スラスター内に海水が入ることを防止するための2つの左側リングと海に潤滑オイルが漏出することを防ぐための2つの右側リングが存在していることを示している。この種のタイプのシーリングの問題は、最も外側のシーリングリングに作用する水圧である。推進シャフトが深くなればなるほど、圧力は当然に高くなる。したがって、リップシールの各セットの間に圧力をかけることが通常行われている。シーリングリング間のシール内の圧力により、シールリップがシャフト又はシャフトスリーブに対して押圧される力が、シーリング、摩耗及びエネルギー消費の観点から調節される。適正な圧力は、通常は、シールの上方の適当な高さの位置に置かれるオイルを収容するヘッダー又はモニタリングタンクを設置することにより確保される。換言すると、それは、所望の対抗圧力を形成するオイル静圧である。
【0004】
しかしながら、船の吃水が縮小される場合、又は何らかの理由により縮小される必要があるとき、推進シャフトは水位線の近くに上昇させられる。このことはシールに対する圧力を減少させることとなり、これによりシールリングの反対側に作用する圧力が絶えず水圧を超え易くなる。その結果として、オイルが海又は湖に漏出することが避けられなくなる。このようなオイルの漏出が生じると、海洋船舶は保守・点検や修理のためにドライドックに持ち込まれることとなる。また、船舶の型又は構造を船の吃水が比較的低くするように、また、運転状態に応じて変えることができるようにすることが可能である。すなわち、船の構造とその推進装置を、ヘッダー又はモニタリングタンクが水位線より高い位置に置くようにして、これによりオイルの静圧を比較的高くなるようにするこもできる。
【0005】
問題のシールがスラスターに適用される場合は、問題はさらに厳しいものとなる。ヘッダー又はモニタリングタンクをスラスター内で下方に配置することは、タンクを充填するため、或いはモニターするためにアクセスすることができないため、その選択はあり得ない。したがって、モニタリングタンクは船体フレーム内の上方に配置される。その結果、ヘッダー又はシールモニタリングタンクは推進シャフトより上の一定の距離に配置され、その距離は少なくともスラスターの高さに対応している。そのようなスラスターを吃水の低い船で使用する場合は、シール内の適正な圧力を確保することが不可能となる状態が継続的に生じる。
【0006】
ここでのスラスターは、少なくとも運転位置において海洋船舶の船体の下方の位置となるような少なくとも1つの推進ユニットが形成される海洋船舶の推進装置として理解される。このスラスターは、操縦可能なもの、引き上げ可能なもの、或いは、固定されているもの、とすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、少なくとも上述の問題を解決することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、推進装置の形式に関わらず、海洋船舶の推進シャフトの信頼できる安全なシーリングを確保することである。
【0009】
本発明の第3の目的は、海洋船舶の吃水に関わりなく信頼でき、安全に機能する海洋船舶の推進シャフトのシーリングを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の本発明の目的の少なくとも1つは、海洋船舶の推進シャフトのシーリング装置によって適えられ、前記シーリング装置は、外側シーリングセットと内側シーリングセットを持つシーリングハウジングを有し、前記シーリングハウジングは前記推進シャフト又は前記推進シャフト上に設けられる推進シャフトスリーブに結合して設けられるように適合され、前記ハウジングは、前記内側シーリングセットと外側シーリングセットの間にチャンバーIIを有し、前記チャンバーIIは連結ラインによってオイルを含むヘッダータンクに連結され、前記シーリング装置は、更に、前記ヘッダータンクに大気圧より低い圧力が与えられる。
【0011】
上述の本発明の目的の少なくとも1つは、海洋船舶の推進シャフトのシーリング装置の作動を制御する方法によって適えられ、前記シーリング装置は、外側シーリングセットと内側シーリングセットを持つシーリングハウジングを有し、前記シーリングハウジングは前記推進シャフト又は前記推進シャフト上に設けられる推進シャフトスリーブに結合して設けられるように適合され、前記ハウジングは、前記内側シーリングセットと外側シーリングセットの間にチャンバーIIを有し、前記チャンバーIIは圧力pIIを有し、前記チャンバーIIは連結ラインによってオイルを含むヘッダータンクに連結され、前記方法は、前記ヘッダータンクに大気圧より低い圧力を与えるステップを有する。
【0012】
海洋船舶の推進シャフトのシーリング装置とその作動を制御する方法の他の特徴は、添付の従属クレームによって明らかになるであろう。
【0013】
本発明は、少なくとも上述の問題を解決するとき、
・推進シャフトシーリングを経由するオイルの漏洩を阻止し、
・海洋船舶の推進シャフトの領域にあるベアリング、ギア及びその他の故障のリスクを大幅に減らし、
・タンクの高さがタンクの位置を規定しないため、シールモニタリングタンクの自由な位置の配置を可能とし、
・シールの寿命を延ばし、保守の必要性を減少させる。
【0014】
以下、海洋船舶の推進シャフトのシーリング装置とその作動の制御方法が添付図面を参照にしてより詳細に述べられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】海洋船舶の推進シャフトのシーリング装置の従来例を示す。
図2図1の従来のシーリング装置の動作の概略的に示す。
図3】本発明の好ましい第1の実施例によるシーリング装置の概略構成と作動を示す。
図4】本発明の好ましい第2の実施例によるシーリング装置の概略構成と作動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1はリップ型シーリングリングに基づいている標準的なシャフトシールを示す。推進シャフトは参照符号2で、シャフト2に上に設けられるシャフトスリーブは参照符号4で示されている。シャフトスリーブ4の左側にはシャフトスリーブを推進シャフト又は推進シャフト2の端部に設けられる他のフランジに取り付けるためのフランジ6が設けられている。シャフトスリーブ4の目的は、シーリングリング12,14,16,18と回転部材との間での摩擦によるシャフト2の回転の間に起こる避けられない摩耗からシャフト2を保護することにある。場合によっては、シャフトスリーブは外されて、シリングリング12,14,16,18がシャフト2の表面と協働するようにしている。シーリングの静止部分はシールハウジング8によって形成され、そのシールハウジング8は複数の要素を含んでおり、シーリングリング12,14,16,18の足部分が嵌め込まれる溝がそれらの要素に関連して設けられるている。シーリングハウジング8のより詳細な説明はここでは不要である。上記溝に加え、シャフト2又はシャフトスリーブ4に面しているシールハウジング8にはキャビティ22,24,26,28が設けられている。キャビティ22,24,28はシーリングリング12,14,16のリップ部分のために設けられており、キャビティ26はシーリングリング12,14と16,18の2つの組との間に設けられている。キャビティ22,24内に位置するシーリングリング12,14のリップは海水又は水の方向に向けられてそれらが例えば推進シャフト2のベアリングに入り込むのを阻止している。最も左側にあるキャビティ22はシールハウジング8とシャフト2又はシャフトスリーブ4との間の狭い間隙を介して海又は湖と直接に連通している。したがって、主にシーリングの役割を果たすのはシーリングリング12であり、次のシーリングリング、即ちシーリングリング14の主たる役割はシーリングリング12が故障した場合、即ち漏洩が始まったときにシーリング機能を引き継ぐ安全シーリングリングとして作動することである。シーリングリング16と18のリップは反対方向、即ち、例えば、スラスターの内側に向けてあり、潤滑オイルが海又は湖に漏洩するのを防いでいる。リップ型シールの各組の間には所定圧が加えられている。適正な圧力は、通常はヘッダー又はモニタリングタンクをシールの上方の前述した高さの位置に配置することにより確保される。
【0017】
図2はモニタリング(又はヘッダー)タンク32,34、36を備えた推進シャフトシーリング装置の概略図である。シール間のチャンバー、即ちキャビティはローマン数字I, II, IIIで示され、チャンバーIは図1のキャビティ24に対応し、チャンバーIIは図1のキャビティ26に対応し、チャンバーIIIは図1のキャビティ28に対応している。更に、ローマン数字IVはチャンバーIV、即ち、スラスターの内部に対応する。シールの適正な側に適正な圧力が存在すれば、シールは最適のシーリング機能を果たす。摩擦、従ってシールとその対向面の摩耗を最小にするため、最小の圧力が要求される。しかしながら、シールはシャフトに対して十分な力で押圧される必要がある。このことは、最も左側のシール12にとっては、シール12の左側の表面に作用する水の圧力がシールリップと対向表面との間で所望される圧力を確保するのに十分に高くなっている必要があることを意味している。実際、このことは、シーリングリングの他方の側(右側)の圧力はシールリップをその対向表面から接触を離すように押圧する程度に高くならないことを意味する。同様なことがシーリングリング14についても言える。外側に向いている両方のシーリングリング12,14は水が入らないようにされている。シール12及び14の内側(右側)に作用する適正な圧力はヘッダータンク32からチャンバーIIに連なる連結ライン38によって得られるようにされている。内側に向かうシーリングリング16及び18はスラスター内にオイルを保持するようにされている。シーリングリング16はシーリングリング18の予備である。図2のIIIで示されるチャンバーはスラスター内の圧力、即ち、より一般的には、推進シャフト2を収容する空間IVの内部の圧力と同様の圧力を持つ。モニタリングタンク34とチャンバーIIIの連絡を閉じることにより、シールリング18がリング16の替わりに使用される。
【0018】
通常の船舶では、推進シャフト2は船体内にステムチューブ又は同様な構造物を通して入り込んでいる。キャビティ26(図1)又はチャンバーII(図2)内の適正で十分に低い圧力の付与は、シールモニタリングタンク32を水位(WL)と推進シャフト4との関係で十分に低く置くことにより達成される(ここでは水位より幾分低い)。もし、このような船が、低い吃水が要求されるような状況で運行されると、このシールモニタリングタンク32の配置はチャンバーII内の圧力が高くなりすぎる。したがって、もし、その船の吃水が、シール12及び14にかかる必要とされる最小の水圧を確保する吃水よりも低いとき、シールリング12及び14は漏洩が始まることは明白である。実際のところ、シールモニタリングタンク32は、低い吃水の船の場合はしばしばであるが、図2に示すように推進シャフトより幾分上に配置される。シーリングリングのリップには、通常は、シールリップをシャフト又はシャフトスリーブ面上に押しつけるリング形状のスプリングが設けられるか、或いはリップに、シャフト又はシャフトスリーブに初期圧を付与する所定の剛性又は予張力が与えられるため、そのようなシーリングリングのリップはチャンバーII内の圧力下で多少の揺動が生じる。
【0019】
図3は、本発明の好ましい実施例による推進シャフトのシーリング装置を示し、このシーリング装置は上述の問題を解決することを可能とするものである。図3の好ましい実施例において、推進シャフトシーリング装置にはヘッダータンク32の圧力を調整するための制御回路が設けられている。この制御回路は、少なくとも以下の情報を収集する制御ユニットCUを備えている:シールモニタリングタンク又はヘッダータンク32からの圧力情報p及びシーリングリングの前側の水圧に関する情報p。この圧力pはシーリングリングの前側に配置されている圧力センサー48によって、又は 推進シャフトの船体フレームに対する垂直位置が一定の場合、船の水位線WLの変化に追従するセンサーによって決定することができる。制御ユニットCUは、更に真空ポンプ50又はシールモニタリングタンク32内の圧力を減ずることのできる他の手段に接続され、また、タンク内の圧力を大気圧に近くまで上げる必要がある場合に周囲空気をヘッダータンク32内に流入させることができる空気弁52に接続されている。したがって、収集された情報により、制御ユニットCUは真空ポンプ50又は空気バルブ52を作動させて、ヘッダータンク32内、及びその結果、チャンバーII内の圧力を漏洩のリスクを阻止するための適正なレベルとするようにしている。
【0020】
上述の装置は、種々のシーリングリング12−18の間での圧力を制御することに基づいている。シーリング機能に影響を与える種々の圧力は以下のように与えられる。p=シーリングリング12の外側(左側)の水圧。水圧p0は船の吃水と、例えば、スラスターのような推進装置の高さと構造に依存する。
I=シーリングリング12と14の間のオイル圧力。この圧力は制御されることもなく、また、モニターされることもない。pII=シーリングリング14と16の間のオイル圧力。この圧力はチャンバーIIに接続されるヘッダー又はモニタリングタンク32によって調節される。pIII=チャンバーIII内のオイル圧力。圧力pIIIはスラスター内の圧力に等しい。pIV=チャンバーIVの中のスラスター内のオイル圧力。圧力pIVは周囲の水圧より僅かに高い。ph=チャンバーII内の静圧であり、タンク32内のオイルとチャンバーIIの高さの差により生じる。
【0021】
図3に示される本発明の装置は、制御ユニットCUがヘッダー又はモニタリングタンク32内の空気圧pとシール12の前側の水圧p0の両方をモニターするように機能する。後者の圧力は、推進シャフト2の深さhとの関連で水位線WLの変化を監視することにより、直接的又は間接的に行われる。一方において、チャンバーII内の圧力pIIは、ヘッダータンク32内の圧力と静水圧pの和、即ち、pII=p+phである。他方、チャンバーII内の圧力pIIは水圧pより低くならなければならない、即ち、pII<pである。事実、p0−IIは、シーリングリング12及び/又は14が良好に、また信頼できるように機能するためには最適の値又は少なくとも最適の範囲を持つ必要がある。しかしながら、pは吃水の関数として変化するため、差異p−pIIも、吃水の変化に伴い変化する。実際のところ、吃水があるレベルまで減少すると、差異p−pIIが最適の範囲を超え、シール12及び/又は14が漏洩する危険が生じる。実際に調整できるファクターはヘッダータンク内の圧力pであるため、この装置には、ヘッダータンク32内の圧力pを調節するための手段が設けられている。したがって、pが一定の値を持つため、制御ユニットは、pをpと比較し、pの値が、シーリングリング12にかかる圧力差p−pIIが上述の最良の範囲に維持されるように、真空ポンプ50及び/又は空気バルブ52の作動を制御する。吃水が、本来的に低いか、或いはモニタリングタンクの高さが当初に決定される基礎となる通常の値より低くされるため、圧力pは、当然に、大気圧より低い。その結果、チャンバーII内の外側(水に向かう方向)と内側(例えば、ベアリングの方向)に面するシール間の必要となる圧力は適正な値又は範囲に調節される。その加えられる圧力は、したがって、ヘッダータンクの配置とは無関係である。
【0022】
上述の基本的原理、即ち、モニタリング又はヘッダータンク32内の非大気圧の適用、は種々の方法で使用することができる。先ず、第1に、図4の本発明の第2の好ましい実施例に示すように、ヘッダータンク32に一定の大気圧より低い圧力をかけ、これにより、ヘッダータンクを従来のものより船体における高い位置、即ち、水面WLの上方に配置することが可能となる。この装置は必ずしも一定の圧力の制御を必要とするものではなく、ヘッダータンク32内の圧力(又はオイルレベル)をモニターすることだけで十分である。当然のこととして、もし圧力(又はオイルレベル)が変化が始まったら、それは明らかにシステム内に漏洩の兆候である。船体構造内でモニタリングタンクが高すぎるという従来の問題に対するより簡略化した解決策は、チャンバーII内のオイル圧が全ての通常の作動条件において許容できるように、ヘッダータンク内に固定した大気圧より低い圧力をかけることである。海又は湖の方向へのオイルの漏洩は、タンクからのオイルの損失の結果となる(オイルレベルの低下)。或いは、反対のケースとして、海水又は真水がタンク内に漏れて入り込めば、タンク内の液面は上昇する。換言すれば、両方のタイプの漏洩はオイルレベルの変動という結果となる。
【0023】
第2に、本システムの操作者に、ヘッダータンク32の圧力pを表示する圧力計のようなものと真空ポンプ50と空気バルブ52を操作する手段を与えておくことにより、ヘッダータンク内の圧力を制御ユニット無しに制御することが可能である。したがって、海洋船舶の吃水が大きく変化するとき毎に、操作者は手動により真空ポンプ50を作動させてヘッダータンク32内の圧力pを減少させるか、或いは、空気バルブ52を作動させてヘッダータンク32内の圧力を増加させることができる。当然に、この装置を使用するとき、この種の圧力付与手段、即ち、少なくとも真空ポンプ及び圧力計、また、場合によっては、空気バルブは、上述の第1の選択においても必要となる。
【0024】
第3に、例えば、圧力pについて3つの異なる目標圧力値を制御ユニットCU内に入力しておくことは可能である。この目標圧力値は:満載状態の海洋船舶用、空荷の海洋船舶用、及びドライドック入渠前船舶用とすることができる。このような制御ユニットCUは、シーリングの前側の水圧に関するいかなる情報も必要とすることなく作動することが可能である。海洋船舶の操作者は、船の状態の変化を制御ユニットに伝達するだけであり、その後、制御ユニットは、ヘッダータンクに所望の圧力を与えるために自動的に真空ポンプ又は空気バルブを作動させる。換言すると、海洋船舶がドライドックに入渠しようとするとき、操作者はその旨を制御ユニットに伝達し、制御ユニットは真空ポンプの作動を開始し、ヘッドタンク内の予めプログラムされた目標圧力に達するまで、作動を続ける。同様に、海洋船舶がドライドックから出されて使用状態に戻されるとき、操作者はその旨を制御ユニットに伝達し、制御ユニットは、ヘッダータンクに接続されている空気弁を開にし、目標圧力に達するまで空気をヘッダータンク内に流入させる。
【0025】
第4に、制御ユニットの適用は、例えば、船の吃水が積荷の重量の変化により変わるような場合、チャンバーII内の圧力を連続的に調節することを可能にする。これにより、シールリップが常に可能な限りの低い、しかし安全な圧力と摩擦状態で作動できるようにすることができる。
【0026】
シーリング装置の基本的構造に関して、本発明は水圧とシールの反対側に作用する対向圧力の両方を必要とするような全てのシールの型に適用できることが理解されるべきである。本発明が適用されるシーリング装置は、1又は複数の外側に面するシールと1又は複数の内側に面するシールを持つようにすることができる。したがって、本発明は、1又は複数のシールを含む内側のシールのセットと外側のシールのセットの間の圧力の調節に関連する。
【0027】
以上のものは海洋船舶の推進シャフトをシールするための新規な方法と装置の例示的説明にすぎない。上述の説明は本発明の好ましいいくつかの実施例について、本発明を説明した実施例及びその詳細のみに限定することなしに述べたものにすぎない。したがって、上述の説明は、決して本発明を限定するものとして理解されてはならず、本発明の全体の範囲は添付のクレームのみによって確定されるものである。上述の説明から、たとえ、説明と図面に特定して記載されていなくても、本発明の個別の態様は他の特徴と関連して使用することができるものと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4