特許第6167172号(P6167172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6167172-多糖繊維を製造するための新規な組成物 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167172
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】多糖繊維を製造するための新規な組成物
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/00 20060101AFI20170710BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   D01F9/00 ZZAB
   C08B37/00 G
【請求項の数】2
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-514170(P2015-514170)
(86)(22)【出願日】2013年5月23日
(65)【公表番号】特表2015-518926(P2015-518926A)
(43)【公表日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】US2013042329
(87)【国際公開番号】WO2013177348
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年5月17日
(31)【優先権主張番号】13/479,990
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ピー・オブライエン
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−535501(JP,A)
【文献】 米国特許第07000000(US,B1)
【文献】 特開昭61−239018(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/010093(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0134417(US,A1)
【文献】 特開昭60−040102(JP,A)
【文献】 特開昭61−252243(JP,A)
【文献】 特表2014−534294(JP,A)
【文献】 特表2015−510045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96、9/00−9/04
C08B 1/00−37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モルおよび固形分5〜20質量%のキサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)を含む溶液であって;前記キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)の数平均分子量が少なくとも10,000ダルトンであり;かつ前記ポリ(α(1→3)グルカン)のキサンテート化度が0.1〜1の範囲である、溶液。
【請求項2】
水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モル中に、CS、および得られる溶液の全質量に対して、少なくとも10,000ダルトンの数平均分子量を特徴とするポリ(α(1→3)グルカン)を5〜15質量%溶解することによって溶液を形成する工程と、前記溶液を紡糸口金を通して流し、それによって繊維が形成される工程と、前記繊維を酸性液体
凝固剤と接触させる工程と、を含む方法であって、CSとポリ(α(1→3)グルカン)の質量比が0.1〜1.0の範囲である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属水酸化物水性中のキサンテート化(xanthated)ポリ(α(1→3)グルカン)の溶液を溶液紡糸することによって、ポリ(α(1→3)グルカン)の繊維を形成する方法、およびその溶液自体に関する。用いられるポリ(α(1→3)グルカン)は、酵素作用によって合成された。
【背景技術】
【0002】
今世紀初頭以来、主にセルロース、β(1→4)グリコシド結合を介した天然プロセスによってグルコースから形成されるポリマーの形での多糖が知られている;例えば、非特許文献1を参照のこと。他の多数の多糖ポリマーもそれに開示されている。
【0003】
多くの既知の多糖の中でもセルロースのみが、繊維として商業的に卓越している。特に、綿、天然セルロースの高純度形が、繊維用途におけるその有益な特性についてよく知られている。
【0004】
セルロースは、液晶溶液を形成するのに十分な鎖延長および溶解状態での主鎖剛性を示す;例えばO’Brienの特許文献1を参照のこと。当技術分野の教示から、十分な多糖の鎖延長はβ(1→4)結合多糖においてのみ達成することができること、その主鎖形状から著しく逸脱すると、秩序相の形成に必要とされる、分子アスペクト比が低くなるであろうことが示唆されている。
【0005】
さらに最近では、α(1→3)グリコシド結合を特徴とするグルカンポリマーが、唾液連鎖球菌(Streptococcus salivarius)から単離されるGtfJグルコシルトランスフェラーゼと、ショ糖の水溶液を接触させることによって単離されている(非特許文献2)。α(1→3)−D−グルカンの高度に結晶質の、高度に配向した低分子量フィルムが、X線回折分析のために製造されている(非特許文献3)。Ogawaの文献において、不溶性グルカンポリマーはアセチル化され、そのアセチル化グルカンをクロロホルム中で5%溶液を形成するように溶解し、その溶液をフィルムに流延する。次いで、そのフィルムを150℃にてグリセリン中で延伸にかけ、それによってフィルムが配向し、溶液流延フィルムの元の長さの6.5倍にそれが延伸される。延伸後、フィルムを脱アセチル化し、圧力容器内で140℃の過熱水中でアニーリングすることによって結晶化させる。このように熱い水性環境に多糖をさらすと、鎖の切断および分子量の減少と共に、それに付随する機械的性質の低下が起こることは当技術分野でよく知られている。
【0006】
光合成および代謝プロセスにおけるその卓越した役割から、グルコースをベースとする多糖およびグルコース自体が特に重要である。ポリアンヒドログルコースの分子鎖をどちらもベースとするセルロースおよびデンプンは、地球上で最も豊富なポリマーであり、商業的に極めて重要である。かかるポリマーは、その生活環全体にわたって環境的に優しく、かつ再生可能なエネルギーおよび原料資源から構成される。
【0007】
「グルカン」という用語は、8通りの可能な方法で連結されているβ−D−グルコースモノマー単位を含む多糖を意味する当技術分野の用語であり、セルロースはグルカンである。
【0008】
グルカンポリマー内で、その反復モノマー単位は、鎖でつながったパターンに続いて、様々な配置で結合され得る。鎖でつながったパターンの性質は、アルドヘキソース環が閉じてヘミアセタールを形成する場合に、どのように環が閉じるかに一部依存する。グルコース(アルドヘキソース)の開鎖形態は4つの不斉中心を有する(以下参照)。したがって、2または16通りの可能な開鎖形態があり、そのDおよびLグルコースの開鎖形態は2つである。環が閉じている場合には、新たな不斉中心がC1に形成され、したがって5個の不斉炭素が作られる。グルコースに関して、環がどのように閉じるかに応じて、ポリマーにさらに縮合すると、α(1→4)−結合ポリマー、例えばデンプン、またはβ(1→4)−結合ポリマー、例えばセルロースが形成される。ポリマーにおけるC1での配置は、αまたはβ結合ポリマーであるかどうかを決定し、αまたはβに続くカッコ内の数字は、鎖つなぎがそれを介して行われる炭素原子を意味する。
【化1】
【0009】
グルカンポリマーによって示される特性は、鎖つなぎパターンによって決定される。例えば、セルロースおよびデンプンの非常に異なる特性は、その鎖つなぎパターンの各性質によって決定される。デンプンまたはアミロースはα(1→4)結合グルコースからなり、特に水によって膨潤または溶解することから、繊維を形成しない。一方、セルロースは、β(1→4)結合グルコースからなり、結晶質および疎水性の両方である優れた構造材料を作り、綿繊維としての繊維用途だけでなく、木材形態の構造に一般に使用される。
【0010】
他の天然繊維と同様に、綿は制約のもとで発展しており、その多糖構造および物理的性質は繊維用途に最適化されていない。特に、綿繊維は短繊維長さであり、断面積および繊度のバリエーションが限定されている繊維であり、かつ非常に骨の折れる、土地集約的なプロセスで製造される。
【0011】
O’Brienの特許文献2には、アセチル化ポリ(α(1→3)グルカン)の液晶溶液から繊維を製造するプロセスが開示されている。次に、このように製造された繊維を脱アセチル化し、その結果、ポリ(α(1→3)グルカン)の繊維が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,501,886号明細書
【特許文献2】米国特許第7,000,000号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Applied Fibre Science,F.Happey,Ed.,Chapter8,E.Atkins,Academic Press,New York,1979
【非特許文献2】Simpson et al.,Microbiology,vol 141,pp.1451−1460(1995)
【非特許文献3】Ogawa et al.,Fiber Diffraction Methods,47,pp.353−362(1980)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
その新規な溶液から繊維を溶液紡糸することにより、分子量を犠牲にすることなく、高度な配向および結晶質のポリ(α(1→3)グルカン)繊維を提供する、かなりの利点が、そのプロセスにもたらされる。
【0015】
一態様において、本発明は、水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モルおよび固形分5〜20重量%のキサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)を含む溶液に関し;キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)の数平均分子量は、少なくとも10,000ダルトンであり;キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)のキサンテート化度は0.1〜1の範囲である。
【0016】
他の態様において、本発明は、水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モル中に、CS、および得られる溶液の全重量に対して、少なくとも10,000ダルトンの数平均分子量を特徴とするポリ(α(1→3)グルカン)を5〜20重量%溶解することによって溶液を形成する工程と、前記溶液を紡糸口金を通して流し、それによって繊維が形成される工程と、前記繊維を酸性液体凝固剤と接触させる工程とを含む方法であって、CSとポリ(α(1→3)グルカン)の重量比が0.1〜1.0の範囲である、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のPAGXの水性アルカリ金属水酸化物溶液のエアギャップ紡糸または湿式紡糸に適した装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に値の範囲が示される場合、特に指定がない限り、その範囲の終点を包含することが意図される。本明細書で使用される数値は、ASTM E29−08 Section 6に記載の有効数字に関する化学における標準プロトコルに従って得られる有効桁数の精度を有する。例えば、数字40は、35.0〜44.9の範囲を包含するのに対して、数字40.0は、39.50〜40.49の範囲を包含する。
【0019】
「固形分」という用語は、当技術分野の用語である。それは本明細書において、本発明の水性アルカリ金属水酸化物溶液(MOH(水性))中のキサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)(PAGX)の重量パーセンテージを意味するために使用される。それは次式:
【数1】
(式中、SCは「固形分」を表し、Wt(PAGX)、Wt(MOH(aq))はそれぞれ、ポリ(α(1→3)グルカン)キサンテート(PAGX)および水性アルカリ金属水酸化物の重量である)から計算される。「固形分」という用語は、溶液の全重量に対するキサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)の濃度(重量による)と同義である。
【0020】
重量パーセントは、「重量%」という用語で表される。
【0021】
式「MOH」は、本発明の実施に適したアルカリ金属水酸化物を意味するために用いられる。式「MOH(aq)」は、本発明の実施に適した水性アルカリ金属水酸化物溶液を意味するために用いられる。「MOH(aq)の濃度」という表現は、本発明の水性アルカリ金属水酸化物溶液のモル濃度を意味すると理解すべきである。
【0022】
グルカン、および特にポリ(α(1→3)グルカン)(PAG)などのポリマーは、互いに共有結合された、多数のいわゆる反復単位で構成される。ポリマー鎖における反復単位はジラジカルであり、そのラジカル形態は、反復単位間の化学結合を提供する。本発明の目的では、「グルコース反復単位」という用語は、ポリマー鎖において他のジラジカルに連結されたグルコースのジラジカル形態を意味し、それによって前記ポリマー鎖が形成される。
【0023】
「グルカン」という用語は、繊維の形成に適していない、オリゴマーおよび低分子量ポリマーなどのポリマーを意味する。本発明の目的では、本発明の実施に適したグルカンポリマーは、少なくとも10,000ダルトン、好ましくは少なくとも40,000〜100,000ダルトンの数平均分子量を特徴とする、「ポリ(α(1→3)グルカン)」またはキサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)である。
【0024】
適切なPAGXは、0.1〜1の範囲のキサンテート化度を特徴とする。「キサンテート化」という用語は、以下の反応:
【化2】
に従って、アルカリ金属水酸化物中でヒドロキシル基をCSと反応させることを意味する、当技術分野の用語である。
【0025】
本発明の方法で使用するのに適したPAGの場合には、環状ヘキソース反復単位がそれぞれ、潜在的な反応に3つのヒドロキシルを提供し、上記の反応スキームに従ってキサンテートが形成される。「キサンテート化度」という用語は、キサンテートへの反応を実際に受ける、各反復単位における利用可能なヒドロキシル部位の平均パーセンテージを意味する。適切なPAGポリマー分子が受け得る、理論上の最大キサンテート化度は3であり、つまりポリマーにおける一つ一つのヒドロキシル部位が反応を受ける。
【0026】
本発明に従って、適切なPAGXポリマーは、0.1〜1の程度までキサンテート化を受けている。これは、平均で反復単位10個につき1個のヒドロキシル部位から、反復単位10個につき10個のヒドロキシルまでがキサンテート化反応を受けており、理論最大値は反復単位10個につき30個のヒドロキシル部位となることを意味する。
【0027】
一態様において、本発明は、水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モルおよび固形分5〜20重量%のPAGXを含む溶液に関し;PAGXの数平均分子量は、少なくとも10,000ダルトンであり;PAGXのキサンテート化度は0.1〜1の範囲である。
【0028】
一実施形態において、アルカリ金属水酸化物(MOH)は水酸化ナトリウムである。更なる実施形態において、NaOHの濃度は1.0〜1.7Mの範囲である。
【0029】
一実施形態、固形分の濃度は7.5〜15%の範囲である。
【0030】
本発明の方法で使用するのに適したPAGは、少なくとも10,000ダルトンの数平均分子量(M)を特徴とするグルカンであり、ポリマーにおける反復単位の少なくとも90モル%がグルコース反復単位であり、グルコース反復単位間の結合の少なくとも50%がα(1→3)グリコシド結合である。好ましくは、反復単位の少なくとも95モル%、最も好ましくは100モル%がグルコース反復単位である。好ましくは、グルコース単位間の結合の少なくとも90%、最も好ましくは100%がα(1→3)グリコシド結合である。
【0031】
様々な多糖の単離および精製が、たとえばThe Polysaccharides,G.O.Aspinall,Vol.1,Chap.2,Academic Press,New York,1983に記述されている。本発明に適したα(1→3)多糖を生成する手段では、満足な収率が得られ、純度90%が適切である。米国特許第7,000,000号明細書に開示される、このような一方法において、ポリ(α(1→3)−D−グルコース)は、当技術分野で教示される方法に従って、唾液連鎖球菌(Streptococcus salivarius)から単離されるgtfJグルコシルトランスフェラーゼと、ショ糖の水溶液を接触させることによって形成される。かかる代替方法において、gtfJは、以下で詳述される遺伝子組換えされた大腸菌(E.Coli)によって生成される。
【0032】
本発明での使用に適したPAGはさらに、α(1→4)、α(1→6)、β(1→2)、β(1→3)、β(1→4)またはβ(1→6)、またはそのいずれかの組み合わせを含む、α(1→3)以外のグリコシド結合によって連結された反復単位を含み得る。本発明に従って、ポリマーにおけるグリコシド結合の少なくとも50%がα(1→3)グリコシド結合である。グルコース単位間の結合の好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%がα(1→3)グリコシド結合である。
【0033】
本発明の溶液は、二硫化炭素を含有するMOH(aq)に適切なPAGを添加し、完全な混合を得るために攪拌することによって調製される。PAGXは、これらの条件下にてその場で形成される。溶液中のPAGXの固形分は、溶液の全重量に対して5〜20重量%の範囲である。PAGXの固形分が5%未満である場合には、溶液の繊維形成能力が大幅に低下する。15重量%を超える固形分を有する溶液は、繊維形成にはますます厄介であり、ますます改良された溶液形成技術が必要とされる。
【0034】
示されるいずれかの実施形態において、PAGXの溶解限度は、PAGXの分子量、MOH(aq)の濃度、キサンテート化度、混合の継続時間、それが形成される時の溶液の粘度、溶液にかけられる剪断力、および混合を行う温度の関数である。一般に、剪断混合が高く、温度が高いほど、溶解性が高いという関連がある。混合の最高温度は、46℃、CSの沸点に制限される。溶解性および曳糸性(spinnability)の観点から、MOH(aq)とCSの最適濃度は、混合プロセスにおける他のパラメーターに応じて変化し得る。
【0035】
本発明の実施において、キサンテートを形成するためのCSとPAGとの反応は、室温にて約1〜3時間以内に定量的に起こることが確認されている。その結果形成されたキサンテートは、化学的に不安定であることも確認され、約36時間の溶解時間後に、完全に分解して様々な副生成物が形成される。したがって、本発明の実施者には、キサンテートの形成に必要な時間の後であり、著しい分解が起こる前に、繊維紡糸のために本発明の溶液を使用する義務がある。したがって、室温で調製される本発明の溶液については、紡糸は好ましくは、キサンテート形成の反応時間に応じて、溶解時間1〜3時間の間に行われる。「溶解時間」という用語は、溶液の成分を最初に合わせた時から経過した時間を意味する。したがって、本発明の方法の好ましい実施形態において、成分を合わせて、1〜3時間静置し、次いで以下に詳述されるように繊維へと紡糸する。実用的な観点から、より好ましいが、化学的にやや好ましさが低い実施形態では、約1〜5時間の溶解時間も適している。
【0036】
本発明はさらに、水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モル中に、CS、および得られる溶液の全重量に対して、少なくとも10,000ダルトンの数平均分子量を特徴とするPAGを5〜15重量%溶解することによって溶液を形成する工程と;前記溶液を紡糸口金を通して流し、それによって繊維が形成される工程と、前記繊維を酸性液体凝固剤と接触させる工程とを含む方法であって、CSとPAGの重量比が0.1〜1.0の範囲である、方法に関する。
【0037】
一実施形態、アルカリ金属(M)はナトリウムである。
【0038】
本発明の方法の更なる実施形態において、適切なPAGは、反復単位の100%がグルコースであり、グルコース反復単位間の結合の100%がα(1→3)グリコシド結合である、PAGである。
【0039】
本発明の方法において、安定な繊維形成を達成するために溶液中に必要とされるPAGXの最低固形分は、PAGXの分子量、ならびにキサンテート化度に応じて異なる。本発明の実施において、固形分5%が、安定な繊維形成に必要な濃度の近似の下限であることが判明している。固形分>15%、特に固形分20%を超える量では、過剰量の未溶解PAGXが存在し、紡糸性能の低下が起こる。少なくとも7.5%の固形分を有する溶液が好ましい。1.0〜1.7M NaOH溶液中で範囲約7.5%〜約15%の固形分がさらに好ましい。40,000〜100,000ダルトンの範囲の数平均分子量および0.1〜1の範囲のキサンテート化度を特徴とするPAGXが好ましい。
【0040】
本発明の溶液からの紡糸は、当技術分野で公知の手段によって、O’Brienの上記の明細書に記載のように達成することができる。粘性紡糸溶液は、ピストンのプッシュまたはポンプの作用などの手段によって単口または多口紡糸口金または他の形状のダイを通して押し出すことができる。紡糸口金の口は、当技術分野で公知のように、円形、平面、マルチローバル(multi−lobal)等のあらゆる断面形状であることができる。次いで、押出されたストランドを従来の手段によって、PAGXをPAGに変換する液体凝固剤を含有する凝固浴に通し、そのポリマーが本発明による繊維へと凝固される。
【0041】
適切な液体凝固剤としては、限定されないが、氷酢酸、水性酢酸、硫酸、および硫酸と、硫酸ナトリウムと、硫酸亜鉛との組み合わせが挙げられる。一実施形態において、液体凝固剤は、0〜100℃の範囲、好ましくは15〜70℃の範囲の温度で維持される。
【0042】
一実施形態において、凝固浴は氷酢酸を含む。本発明の実施において、液体凝固剤として過剰量の氷酢酸を使用することによって、満足な結果が得られることが判明している。紡糸過程中、紡糸された繊維が凝固剤浴を通る時に、氷酢酸が水性NaOHを中和し、PAGXからPAGが再生される。
【0043】
好ましい実施形態において、押出し成形は、凝固浴内に直接行われる。当技術分野で「湿式紡糸」として公知のかかる状況において、紡糸口金は一部、または完全に凝固浴内に浸される。紡糸口金および付随する付属器具は、ステンレス鋼または白金/金などの耐食合金製であるべきである。
【0044】
一実施形態において、次いで、凝固浴から、残留する酸を中和かつ希釈するために設けられた第2浴内に、このように凝固された繊維を通す。第2浴は好ましくは、HO、メタノール、または5%水性NaHCO、またはその混合物を含有する。水性NaHCOが好ましい。一実施形態において、1つまたは複数の中和洗浄浴に、巻き取られた繊維のパッケージを各浴において4時間までの時間浸す。5%水性NaHCO、メタノール、およびHOをそれぞれ含む一連の浴が満足の行くものであることが判明している。
【0045】
本発明は、以下のその具体的な実施形態でさらに説明されるが、それによって制限されない。
【実施例】
【0046】
グルコシルトランスフェラーゼ(GtfJ)酵素の製造
材料
透析チューブ材料(Spectrapor 25225−226,分画分子量12000)をVWR(Radnor,PA)から入手した。
デキストランおよびエタノールをSigma Aldrichから入手した。ショ糖をVWRから入手した。
Suppressor 7153消泡剤をCognis Corporation(Cincinnati,OH)から入手した。
他のすべての化学製品は、通常利用される供給業者から入手された。
【0047】
種培地
発酵槽のスターター培養物を増殖させるのに使用される種培地は、酵母抽出物(Amberx695、1リットル当たり5.0グラム(g/L))、KHPO(10.0g/L)、KHPO(7.0g/L)、クエン酸ナトリウム二水和物(1.0g/L)、(NHSO(4.0g/L)、MgSO七水和物(1.0g/L)およびクエン酸鉄アンモニウム(0.10g/L)を含有した。5N NaOHまたはHSOのいずれかを使用して、培地のpHを6.8に調整し、培地をフラスコ内で滅菌した。滅菌後の添加は、グルコース(50重量%溶液を20mL/L)およびアンピシリン(25mg/mLストック溶液を4mL/L)を含んだ。
【0048】
発酵槽培地
発酵槽において使用される増殖培地は、KHPO(3.50g/L)、FeSO七水和物(0.05g/L)、MgSO七水和物(2.0g/L)、クエン酸ナトリウム二水和物(1.90g/L)、酵母抽出物(Ambrex695、5.0g/L)、Suppressor7153消泡剤(1リットル当たり0.25ミリリットル、mL/L)、NaCl(1.0g/L)、CaCl二水和物(10g/L)、およびNIT微量元素溶液(10mL/L)を含有した。NIT微量元素溶液は、クエン酸一水和物 (10g/L)、MnSO水和物合物(2g/L)、NaCl(2g/L)、FeSO七水和物(0.5g/L)、ZnSO七水和物(0.2g/L)、CuSO五水和物(0.02g/L)およびNaMoO二水和物(0.02g/L)を含有した。滅菌後の添加は、グルコース(50重量%溶液を12.5g/L)およびアンピシリン(25mg/mLストック溶液を4mL/L)を含んだ。
【0049】
グルコシルトランスフェラーゼ(gtfJ)酵素発現株の作製
大腸菌(E.coli)(DNA2.0,Menlo Park CA)における発現に対して最適化されたコドンを用いて、唾液連鎖球菌(Streptococcus salivarius)(ATCC25975)からの成熟グルコシルトランスフェラーゼ酵素(GtfJ;EC2.4.1.5;GENBANK(登録商標)AAA26896.1、配列番号3)をコードする遺伝子を合成した。核酸産物(配列番号1)をpJexpress404(登録商標)(DNA2.0,Menlo Park CA)にサブクローニングし、pMP52として同定されるプラスミド(配列番号2)を産生した。プラスミドpMP52を使用して、大腸菌(E.coli)MG1655(ATCC47076)を形質転換し、MG1655/pMP52として同定される株を産生した。
【0050】
本明細書で使用される組換えDNAおよび分子クローニング標準技術は当技術分野でよく知られており、Sambrook,J.and Russell,D.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(2001);およびSilhavy,T.J.,Bennan,M.L.and Enquist,L.W.,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(1984);およびAusubel,F.M.et.al.,Short Protocols in Molecular Biology,5th Ed.Current Protocols,John Wiley and Sons,Inc.,N.Y.,2002に記述されている。
【0051】
微生物培養に適した材料および方法は、当技術分野でよく知られている。以下の実施例で使用するのに適した技術は、Manual of Methods for General Bacteriology(Phillipp Gerhardt,R.G.E.Murray,Ralph N.Costilow,Eugene W.Nester,Willis A.Wood,Noel R.Krieg and G.Briggs Phillips,Eds.),American Society for Microbiology:Washington,D.C.(1994));またはManual of Industrial Microbiology and Biotechnology,3rd Edition(Richard H.Baltz,Julian E.Davies,and Arnold L.Demain Eds.),ASM Press,Washington,DC,2010に記載されている。
【0052】
発酵
発酵における組換えgtfJの産生
発酵槽における組換えgtfJ酵素の産生は、上記に記載のように作製されたgtfJ酵素を発現することによって開始された。種培地のアリコート10mLを125mL使い捨てバッフル付きフラスコに添加し、20%グリセロール中の上記で調製された大腸菌(E.coli)MG1655/pMP52の培養物1.0mLをそれに接種した。毎分回転数300(rpm)にて3時間振盪しながら、この培養物を37℃で増殖させた。
【0053】
2L振とうフラスコに種培地0.5Lを装入することによって、発酵槽を開始するための種培物を調製した。プレシード培養物1.0mLを無菌的に、フラスコ内の種培地0.5Lに移し、37℃および300rpmにて5時間培養した。上述の発酵槽培地8Lを37℃で含有する14L発酵槽(Braun,Perth Amboy,NJ)に、光学濃度550nm(OD550)>2にて種培養物を移した。
【0054】
大腸菌(E.coli)MG1655/pMP52の細胞を発酵槽内で増殖させ、培地のグルコース濃度が0.5g/Lに下がった時に、グルコースの供給(MgSO・7HO 1重量%を含有する50重量%グルコース溶液)を開始した。1分当たり供給物0.36グラム(供給物g/分)にて供給を開始し、各時間で供給物0.42、0.49、0.57、0.66、0.77、0.90、1.04、1.21、1.41、1.63、1.92、2.2g/分に連続的にそれぞれ増加した。その後、グルコース濃度が0.1g/Lを超えたときにグルコース供給を減らすか、または一時的に停止することによって、その速度を一定に維持した。YSIグルコース分析器(YSI,Yellow Springs,Ohio)を使用して、培地のグルコース濃度をモニターした。
【0055】
細胞がOD55070に達した時に、0.5M IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクト−ピラノシド)9mLを添加して、グルコシルトランスフェラーゼ酵素活性の誘導を開始した。溶存酸素(DO)濃度を空気飽和度25%にて制御した。最初にインペラー攪拌速度(400〜1200rpm)によって、後に通気速度(2〜10標準リットル/分、slpm)によって、DOを制御した。pHを6.8で制御した。NHOH(14.5%(重量/体積、w/v))およびHSO(20%(w/v))をpH制御に使用した。背圧を0.5バールで維持した。様々な間隔(20、25および30時間)にて、Suppressor7153消泡剤5mLを発酵槽内に添加し、泡立ちを抑えた。IPTGを添加して8時間後に、遠心分離によって細胞を収集し、−80℃で細胞ペーストとして保存した。
【0056】
細胞ペーストからのgtfJ粗製酵素抽出物の製造
上記で得られた細胞ペーストを50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)に150g/Lで懸濁し、スラリーを調製した。そのスラリーを12,000psiでホモジナイズし(Rannie型装置、APV−1000またはAPV16.56)、ホモジネートを4℃に冷却した。適度に力強く攪拌しながら、細胞ホモジネート1リットル当たり、フロック(floc)溶液(Aldrich番号409138、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中にて5%)50gを添加した。攪拌を弱めて、15分間軽く攪拌した。次いで、4500rpmにて3時間、5〜10℃で遠心することによって、細胞ホモジネートを清澄化にした。粗製gtfJ酵素抽出物を含有する上清を30キロダルトン(kDa)カットオフ膜で濃縮した(約5倍)。gftJ酵素溶液中のタンパク質の濃度は、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイ(Sigma Aldrich)によって4〜8g/Lであると決定された。
【0057】
ポリマーの製造、紡糸溶液、および繊維紡糸装置および手順
図1は、本発明の繊維紡糸プロセスで使用するのに適した装置の概略図である。ウォームギヤドライブ1が、制御速度にて、紡糸セル3内に嵌め込まれたピストン上でラム2を駆動する。紡糸セルは、フィルターアセンブリを含有し得る。適切なフィルターアセンブリは、100および325メッシュのステンレス鋼スクリーンを含む。紡糸パック4は、紡糸口金5と、任意に紡糸口金のプレフィルターとしてステンレス鋼スクリーンを含有する。それから製造された押出しフィラメント6を液体凝固浴7内に誘導する。表1に示すすべての実施例において、フィラメントは紡糸口金から、液体凝固浴に直接押出され、紡糸口金の底部は浴に浸漬された。
【0058】
押出し物は、必要ではないが、前後に動かして、通常Teflon(登録商標)PTFE製のガイド8の間の浴に通すことができる。図1には浴の1回通過のみを示す。凝固浴7を出ると、急冷されたフィラメント9がその周りに巻き取られる、独立して駆動されるロール10を使用して、急冷されたフィラメント9を任意に、延伸ゾーンに誘導することができる。その急冷されたフィラメントは任意に、延伸浴に誘導され、押出されたフィラメントの更なる溶媒抽出、洗浄または延伸など、さらに処理され得る。このようにして製造されたフィラメントを次いで、トラバース機構12に誘導し、ボビン上の繊維を均一に分配し、巻取装置13を使用してプラスチックボビンに回収する。一実施形態において、このプロセスは、独立して駆動する複数のロールを含む。
【0059】
一実施形態において、駆動ロール10を繊維経路から取り除くが、それにもかかわらず、繊維は延伸浴に浸漬される。その2つは互いに独立している。以下の実施例のすべてにおいて、駆動ロール10は、繊維経路から取り除かれた。
【0060】
一実施形態において、多数のフィラメントが、多口紡糸口金を通して押出され、そのように製造されたフィラメントを集束してヤーンが形成される。更なる実施形態において、そのプロセスはさらに、多数のヤーンを同時に製造することができるように、多数の多口紡糸口金を含む。
【0061】
各実施形態において、製造された繊維の巻取りボビンを、表1に示す液体のバケツに一晩浸した。次いで、このように浸漬された繊維のボビンを少なくとも24時間、空気乾燥させた。次いで、ASTM D2101−82に準拠して、繊維の引張り特性を決定した。
【0062】
紡糸セル、ピストン、連結チューブ材料、および紡糸口金はすべてステンレス鋼製であった。
【0063】
繊維の物理的性質の測定
試験片の長さが10インチであることを除いては、ASTM標準D2101−82に準拠する方法および装置を使用して、テナシティ、伸びおよび初期弾性率などの物理的性質を測定した。報告される結果は、3〜5個の個々のフィラメント試験の平均である。
【0064】
製造されたすべての繊維の物理的性質を決定した。その結果を表1に示す。製造された繊維のデニール、テナシティ(T)(グラム/デニール)(gpd)、破断点伸び(E,%)、および初期弾性率(M)(gpd)などの物理的性質が含まれる。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1
ポリマーP1の製造
ショ糖(VWR番号BDH8029)1000g、デキストランT−10(Sigma番号D9260)20g、およびホウ酸(Sigma番号B6768)370.98gを水約18L中で合わせることによって、水性溶液20リットルを調製した。4N NaOH(EMD番号SX0590−1)溶液を用いて、pHを7.5に調整した。次いで、さらに水を添加し、総体積を20Lにした。次いで、このように調製された溶液に、上記で製造された酵素抽出物180mlを装入し、周囲温度にて48時間静置した。325メッシュスクリーンを使用して、ブフナー漏斗で40マイクロメーターの濾紙に、得られたポリ(α(1→3)グルカン)固形物を収集した。脱イオン水で濾過ケークを洗浄し、上記のように濾過した。脱イオン水での洗浄をさらに3回繰り返した。最後に、メタノールでさらに2回の洗浄を行い、漏斗上で濾過ケークをプレスし、真空中で室温にて乾燥させた。収量:白色のフレーク状固形物237.68グラム。
【0068】
移動相として3.0%LiCl(Aldrich,Milwaukee,WI)と共に、J.T Baker,Phillipsburg,NJから入手したDMAcを用いて、Zorbax PSM Bimodalシリカカラム2個(Agilent,Wilmington,DE)を備えたGPCV/LS2000(商標)(Waters Corporation,Milford,MA)クロマトグラフを使用して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分子量を決定した。LiCl5.0%と共にDMAcに試料を溶解した。数平均および重量平均分子量(MnおよびMw)はそれぞれ、139,000および279,000ダルトンであることが分かった。
【0069】
実施例1 紡糸溶液
250mL広口ガラス瓶にポリマーP1 25g、5重量%水酸化ナトリウム225gを装入した。次いで、CS(7.5g)をシリンジで添加した。容器はキャップおよびセプタムを備えており、ポリプロピレン製攪拌棒は、セプタムを通して取り付けられていた。内容物を攪拌棒で手作業で混合し、次いで室温にて一晩静置した。翌日、一部溶解した溶液(透明であるが、少量の目に見える粒子を含有する)を、紡糸セルおよび100および325メッシュステンレス鋼スクリーンをなどのピストン含有スクリーンパックに移した。ピストンは、粘性混合物の上に嵌め込まれた。次いで、13サイクルを通して、電動式ウォームギヤー駆動ラムを使用して、1/4インチのステンレス鋼管材料製のカップラーを介して第1セルと接近して連結された同様に装備された紡糸セル内に混合物を前後にポンプ注入した。
【0070】
実施例2〜4:繊維紡糸
実施例1の溶液を調製して約20時間後に、このように調製された溶液を、図1を参照して上述の紡糸装置に供給した。20穴の紡糸口金に溶液を供給し、各穴は直径0.003インチ、長さ0.006インチの円形断面を特徴とする。表1は、実施例2〜4で製造された繊維に用いられた紡糸条件を示す。上述のように図1に図示される装置は、実施例1〜3におけるフィラメント経路から、駆動ロール10を除去することによって修正された。示される紡糸延伸は、噴射速度よりも速い巻取りを行うことによって達成された。実施例1の溶液は、100および325メッシュスクリーンからなるフィルターアセンブリを有する紡糸パックを通じて、表1に示す速度にて紡糸口金に計量供給された。HSO8重量%、NaSO23重量%、およびZnSO0.5重量%を含有する水凝固浴内に紡糸口金を浸した。フィラメントを直接、表1に示す温度で垂直に急冷浴内に押出した。長さ6フィートの凝固浴内での更なる滞留時間は、示すように4.1または11フィーとの総浸漬距離に対して、更なるガイドピン(8)上に繊維を誘導することによって増加した。実施例2および3において、凝固浴から取り出すと、このように凝固されたフィラメントは、表1に示す巻取り速度にて横断ガイド(traversing guide)を有する、速度制御された巻取装置に向けられた。実施例4において、表1に示す長さおよび温度のメタノールの第2浴に、凝固フィラメントが誘導された。各実施例において、数百フィートの繊維がボビンに巻き取られた。巻き取りに続いて、実施例2〜4の繊維ボビンを、それぞれ5%NaHCO、MeOH、およびHO浴にそれぞれ約4時間の間、逐次浸漬した。物理的測定にかける前に繊維を空気乾燥させ、物理的性質を決定した;その結果を表1に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
実施例5〜11
ポリマーP2の製造
pH調整ショ糖/デキストラン/ホウ酸溶液に、酵素抽出物180mlの代わりに酵素抽出物200mlを添加したことを除いては、実施例1におけるポリマーP1の製造に使
用された材料および手順を用いて、ポリ(α(1→3)グルカン)ポリマーを合成し、洗浄し、単離した。収量:白色のフレーク状固形物246.08グラム。
【0075】
ポリマーP1のMnおよびMwは、それぞれ129,000および270,000であると決定された。
【0076】
実施例5:紡糸溶液
250mL広口ガラス瓶にポリマーP2 18g、4.5重量%水酸化ナトリウム225gを装入した。次いで、CS(2.7g)をシリンジで添加した。容器はキャップおよびセプタムを備えており、ポリプロピレン製攪拌棒は、セプタムを通して取り付けられていた。内容物を攪拌棒で手作業で混合し、次いで室温にて一晩静置した。72時間後、一部溶解した溶液を紡糸セルおよび325メッシュステンレス鋼スクリーンを含むピストン含有スクリーンパックに移した。ピストンは、粘性混合物の上に嵌め込まれた。次いで、13サイクルを通して、電動式ウォームギヤー駆動ラムを使用して、1/4インチのステンレス鋼管材料製のカップラーを介して第1セルと接近して連結された同様に装備された紡糸セル内に混合物を前後にポンプ注入した。
【0077】
実施例6〜11:紡糸
表1に示す条件下にて、上記の実施例2〜4の繊維の手法で実施例5の紡糸溶液から、実施例6〜11の繊維を紡糸した。実施例6〜9において、5%HSO(水溶液)を含有する凝固浴に直接、フィラメントを押出した。実施例10では、氷酢酸を含有する凝固浴に直接、繊維を押出した。実施例11では、50/50(体積比)酢酸/水内で、総浸漬距離3、4.3、または4.5フィート間で更なるガイドピン(8)上に繊維を誘導することによって、凝固浴内での更なる長さが得られた。実施例6ではなく、実施例7〜11において、このように凝固されたフィラメントを凝固浴から取り出すと、表1に示す長さおよび温度でメタノールの第2浴(11)にそれを通した。実施例6の繊維は、巻取り装置に直接誘導された。表1に示す巻取り速度にて、第2浴から、実施例7〜11の凝固繊維を巻取り装置に誘導した。繊維のボビンを実施例2〜4と同様に浸漬した。
【0078】
物理的性質を決定した;その結果を表1に示す。
【0079】
実施例12〜15
実施例12 紡糸溶液
250mL広口ガラス瓶にポリマーP2 20g、4.5重量%水酸化ナトリウム180gを装入した。次いで、CS(3.0g)をシリンジで添加した。容器はキャップおよびセプタムを備えており、ポリプロピレン製攪拌棒は、セプタムを通して取り付けられていた。内容物をプラスチック製攪拌棒で手作業で混合し、次いで2日間置した。2×100メッシュ、1×325メッシュおよび2×20メッシュのステンレス鋼を備えた300mLステンレス鋼シリンダーに、その一部溶解した溶液を移した。ピストンは、粘性混合物の上に嵌め込まれた。次いで、13サイクルを通して、電動式ウォームギヤー駆動ラムを使用して、1/4インチのステンレス鋼管材料製のカップラーを介して第1セルと接近して連結された同様に装備された紡糸セル内に混合物を前後にポンプ注入した。
【0080】
実施例13〜15:紡糸
表1に示す条件下にて、上記の実施例2〜4の繊維の手法で実施例12の紡糸溶液から、実施例13〜15の繊維を紡糸した。表1に示す温度で5%HSO(水溶液)に直接、繊維を押出した。凝固浴から取り出すと、このように凝固された繊維を表1に示す巻取り速度で巻取り装置に誘導した。実施例14および15の凝固繊維を最初に、表1に示す第2浴に通した。繊維のボビンを実施例2〜4と同様に浸漬し、乾燥させた。
【0081】
物理的性質を決定した;その結果を表1に示す。
【0082】
実施例16
ポリマーP3の製造
pH調整ショ糖/デキストラン/ホウ酸溶液に、抽出物180mlの代わりに酵素抽出物200mlを添加したことを除いては、実施例1におけるポリマーP1の製造に使用された材料および手順を用いて、ポリ(α(1→3)グルカン)ポリマーを合成し、洗浄し、単離した。収量:白色のフレーク状固形物228.52グラム。Mは132,000ダルトンであり;Mは301,000ダルトンであった。
【0083】
実施例16 紡糸溶液
250mL広口ガラス瓶にポリマーP3 18g、4.5重量%水酸化ナトリウム225gを装入した。容器はキャップおよびセプタムを備えており、ポリプロピレン製攪拌棒がセプタムを通して取り付けられていた。内容物を攪拌棒で手作業で混合し、次いで室温で一晩静置した。翌朝、シリンジで次にCS(5.4g)を添加した。CSを添加した後、一部溶解した溶液をすぐに、325メッシュステンレス鋼スクリーンを含むピストン含有スクリーンパックに移した。ピストンは、粘性混合物の上に嵌め込まれた。次いで、13サイクルを通して、電動式ウォームギヤー駆動ラムを使用して、1/4インチのステンレス鋼管材料製のカップラーを介して第1セルと接近して連結された同様に装備された紡糸セル内に混合物を前後にポンプ注入した。
【0084】
実施例17〜23 繊維紡糸
表1は、実施例17〜23で製造された繊維に使用された紡糸条件を示す。上記の図1に詳述される装置は、フィラメント経路から駆動ロール10を取り除くことによって変更された。紡糸延伸は、噴射速度よりも速い巻取りを行うことによって達成された。このようにして調製された紡糸溶液は、100および325メッシュスクリーンからなるフィルターアセンブリを有する紡糸パックを通じて、表1に示す速度にて、直径0.003インチ、長さ0.006インチの穴を有する20穴紡糸口金に計量供給された。表1に示す凝固浴温度にて、実施例17〜19については5%HSO、実施例20〜23については10%HSO内に、フィラメントを直接押出した。凝固浴から取り出すと、表1に示す長さおよび温度にて、このように凝固されたフィラメントをメタノールの第2浴(11)に通し、そこから巻取り装置に誘導した。実施例17、20、および21のフィラメントは直接、巻取り装置に誘導された。実施例23の場合の第2浴は水で満たされた。繊維紡糸は、二硫化炭素を添加して8時間以内に完了した。
【0085】
繊維ボビンを5%NaHCOに15分間浸漬し、次いで水に一晩浸漬した。次いで、ボビンを取り出し、物理的測定にかける前に空気乾燥させた。
【0086】
実施例24
紡糸溶液
250mL広口ガラス瓶にポリマーP3 32.9g、5重量%水酸化ナトリウム220gを装入した。容器はキャップおよびセプタムを備えており、ポリプロピレン製攪拌棒がセプタムを通して取り付けられていた。内容物を攪拌棒で手作業で混合し、次いで室温で一晩静置した。翌朝、シリンジで次にCS(9.9g)を添加した。CSを添加した後、一部溶解した溶液をすぐに、325メッシュステンレス鋼スクリーンを含むピストン含有スクリーンパックに移した。ピストンは、粘性混合物の上に嵌め込まれた。次いで、11サイクルを通して、電動式ウォームギヤー駆動ラムを使用して、1/4インチのステンレス鋼管材料製のカップラーを介して第1セルと接近して連結された同様に装備された紡糸セル内に混合物を前後にポンプ注入した。
【0087】
実施例25〜31
繊維紡糸
表1は、実施例25〜31で製造された繊維に使用された紡糸条件を示す。上記の図1に詳述される装置は、実施例25〜27ではフィラメント経路から駆動ロール10を取り除くことによって変更された。紡糸延伸は、噴射速度よりも速い巻取りを行うことによって達成された。このようにして調製された紡糸溶液は、100および325メッシュスクリーンからなるフィルターアセンブリを有する紡糸パックを通じて、表1に示す速度にて、直径0.003インチ、長さ0.006インチの穴を有する20穴紡糸口金に計量供給された。表1に示す凝固浴温度にて、実施例25〜30については10%HSO、実施例31については氷酢酸内に、フィラメントを直接押出した。凝固浴から取り出すと、表1に示す長さおよび温度にて、このように凝固された実施例26、27、および30のフィラメントを水の第2浴(11)に通し、そこから巻取り装置に誘導した。実施例25、28、29、および31のフィラメントは直接、巻取り装置に誘導され、第2浴には通さなかった。繊維紡糸は、紡糸溶液に二硫化炭素を添加して8時間以内に完了した。
【0088】
繊維ボビンを5%NaHCOに一晩浸漬し、次いで水にさらに1日浸漬した。次いで、ボビンを取り出し、物理的測定にかける前に空気乾燥させた。
【0089】
実施例32〜44、および比較例A〜W
36種類の溶液を調製して、溶解パラメーターを定義し、その結果、繊維紡糸に適した溶液が得られた。実施例32〜44および比較例A〜Wそれぞれに関して、表2に示す水性アルカリ金属水酸化物を40mlガラスバイアルに装入した。アルカリ金属水酸化物溶液の濃度(重量%)およびそのアルカリ金属水酸化物の量も表2に示す。次いで、ポリマーP1 2gを各バイアルに添加した。表2に示す量で二硫化炭素(CS)を添加し、バイアルはセプタムを備えており、ポリプロピレン攪拌棒がそのセプタムを通して取り付けられていた。内容物をプラスチック製スターラーで手作業で混合し、次いで間欠的に混合しながら室温で少なくとも12時間静置した。目視検査によって、表2に示す溶解性の等級を決定した。透明な溶液は完全に溶解しているとみなされ;一部溶解している溶液は、さらに激しく混合すれば完全に溶解することができると考えられるため、いくつかの小粒子が浮遊している溶液もまた、溶解しているとみなされた。大きな未溶解の粒子を含む混濁した溶液は、溶解していないとみなされた。
【0090】
【表6】
【0091】
【表7】
【0092】
実施例45:NMR分光法を用いたグルカンキサンテートの形成および分解の決定
水性水酸化ナトリウム(4.5重量%)25mlにポリ(α(1→3)グルカン)2gを溶解した。溶解が完了した後、二硫化炭素0.6gを添加し、その結果形成された混合物を次いで、機械的に攪拌し、シリンジおよび針を使用して、New Era Enterprises,Incから販売されている外径4.1mmの特殊な試料チューブにすぐに移した。チューブをキャップし、NMRロック溶媒(lock solvent)としてD2O60μLを含有する、標準7インチ、5mm NMRチューブ内に下げた。これらの同心円チューブを小さなベンチトップ型遠心機に入れ、数分間回転させて、試料を内管の底に集め、試料からすべての気泡を除去した。NMRチューブを遠心機から取り出し、z勾配を有する5mmCPDUL凍結探針を備えたBruker 500MHz Avance II分光計の磁石に置いた。ポリ(α(1→3)グルカン)の形成および分解を調べるために、一連の連続した実験を開始する前に、プローブを調整し、磁石をシム調整した。各実験は、スペクトル幅33333.3Hz(265.0ppm)、送信器オフセット160ppm、取得時間0.4916秒間に32768の時間領域ポイントと共に、Brukerzgigパルス系列を使用して獲得された。パルス間で3秒の遅れが使用され、各実験に対して3000スキャンが獲得され、各実験で合計時間2時間56分となった。
【0093】
ベースラインロールを抑え、かつより良いピーク積分を得るために、各実験からのデジタルデータをアナログデータに変換し、その結果、後退線形予測(backward linear prediction)を実施することができた。各データセットの最初の12ポイントは、最初の1024データポイントに基づくBruker's線形予測デー
タ処理を用いて、置換された。変換される前に2.0Hz指数関数を、自由誘導減衰(Free Induction Decay)に掛けた。キサンテート置換の程度を決定するために、232.5ppmで中央に位置する、キサンテート炭素の積分領域は、内部較正として使用された95.6〜100.9ppmでのグルカンC1アノマー炭素の積分領域(1.00に設定)と比較された。このシリーズの実験のどのポイントにおいても、遊離CS13Cのシグナル(193.7ppm)が確認されなかったのに対して、トリチオ炭酸ナトリウム(269.4ppm)と炭酸ナトリウム(168.4ppm)のシグナルが、時間の経過によるグルカンキサンテート分解の副生成物として存在した。結果を表3に示す。
【表8】
【0094】
以上、本発明を要約すると下記のとおりである。
1.水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モルおよび固形分5〜20質量%のキサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)を含む溶液であって;前記キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)の数平均分子量が少なくとも10,000ダルトンであり;かつ前記ポリ(α(1→3)グルカン)のキサンテート化度が0.1〜1の範囲である、溶液。2.キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)の前記固形分が、7.5〜15%である、上記1に記載の溶液。
3.前記アルカリ金属水酸化物がNaOHである、上記1に記載の溶液。
4.NaOHの前記濃度が、1.0〜1.7モルである、上記3に記載の溶液。
5.前記キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)において、グルコース反復単位間の結合の100%が、α(1→3)グリコシド結合である、上記1に記載の溶液。
6.前記キサンテート化ポリ(α(1→3)グルカン)の数平均分子量が、40,000〜100,000ダルトンの範囲である、上記1に記載の溶液。
7.水性アルカリ金属水酸化物0.75〜2モル中に、CS、および得られる溶液の全質量に対して、少なくとも10,000ダルトンの数平均分子量を特徴とするポリ(α(1→3)グルカン)を5〜15質量%溶解することによって溶液を形成する工程と、前記溶液を紡糸口金を通して流し、それによって繊維が形成される工程と、前記繊維を酸性液体凝固剤と接触させる工程と、を含む方法であって、CSとポリ(α(1→3)グルカン)の質量比が0.1〜1.0の範囲である、方法。
8.ポリ(α(1→3)グルカン)7.5〜15質量%が前記溶液に溶解される、上記7に記載の方法。
9.前記アルカリ金属水酸化物がNaOHである、上記7に記載の方法。
10.NaOHの前記濃度が1.0〜1.7モルである、上記7に記載の方法。
11.前記ポリ(α(1→3)グルカン)において、反復単位の100%がグルコースであり、かつ反復単位間の結合の100%がα(1→3)グリコシド結合である、上記7に記載の方法。
12.紡糸前に、前記溶液を1〜8時間静置しておくことをさらに含む、上記7に記載の方法。
13.前記ポリ(α(1→3)グルカン)が、40,000〜100,000ダルトンの範囲の数平均分子量を特徴とする、上記7に記載の方法。
14.前記CSが最後に添加される、上記7に記載の方法。
図1