特許第6167208号(P6167208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167208水添分枝共役ジエン共重合体およびゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167208
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】水添分枝共役ジエン共重合体およびゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/22 20060101AFI20170710BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20170710BHJP
   C08F 236/04 20060101ALI20170710BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20170710BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C08F236/22
   C08C19/02
   C08F236/04
   C08F212/08
   C08L15/00
【請求項の数】14
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-128999(P2016-128999)
(22)【出願日】2016年6月29日
(62)【分割の表示】特願2014-503710(P2014-503710)の分割
【原出願日】2013年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-196657(P2016-196657A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-49687(P2012-49687)
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-222395(P2012-222395)
(32)【優先日】2012年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 健介
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−125108(JP,A)
【文献】 特開平05−125225(JP,A)
【文献】 特開平06−313016(JP,A)
【文献】 米国特許第05364723(US,A)
【文献】 特表2012−502136(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/027464(WO,A1)
【文献】 米国特許第04374957(US,A)
【文献】 特開昭63−179908(JP,A)
【文献】 特開2002−053624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、炭素数6〜11の脂肪族炭化水素を表す。)
で示される分枝共役ジエン化合物(1)と、一般式(2)
【化2】
(式中、R2およびR3は、同一もしくは異なって、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、またはハロゲン原子を表す。)
で示される共役ジエン化合物とを共重合した後、該共重合体を水素添加して得られる水添分枝共役ジエン共重合体であって、
分枝共役ジエン化合物(1)がファルネセンであり、共役ジエン化合物(2)が1,3−ブタジエンまたはイソプレンであって、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)が1〜99重量%、共役ジエン化合物(2)の共重合比(m)が99〜1重量%であって、(l)と(m)の合計が100重量%である水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項2】
重量平均分子量が2000〜20万である請求項1記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項3】
水素添加率が10〜90%である請求項1または2記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水添分枝共役ジエン共重合体を含んでなるゴム組成物。
【請求項5】
一般式(1)
【化3】
(式中、R1は、炭素数6〜11の脂肪族炭化水素を表す。)
で示される分枝共役ジエン化合物(1)と、一般式(3)
【化4】
(式中、R4は、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜8の脂環式炭化水素基、または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。)
で示されるビニル化合物
とを共重合した後、該共重合体を水素添加して得られる水添分枝共役ジエン共重合体であって、
分枝共役ジエン化合物(1)がミルセンであり、ビニル化合物(3)がスチレンであって、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)が1〜99重量%、ビニル化合物(3)の共重合比(n)が99〜1重量%であって、(l)と(n)の合計が100重量%である水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項6】
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)が1〜60重量%、ビニル化合物(3)の共重合比(n)が99〜40重量%である請求項5記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項7】
重量平均分子量が2000〜20万である請求項5または6記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項8】
水素添加率が10〜90%である請求項5〜7のいずれか1項に記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項9】
請求項5〜のいずれか1項に記載の水添分枝共役ジエン共重合体を含んでなるゴム組成物。
【請求項10】
一般式(1)
【化5】
(式中、R1は、炭素数6〜11の脂肪族炭化水素を表す。)
で示される分枝共役ジエン化合物(1)と、一般式(2)
【化6】
(式中、R2およびR3は、同一もしくは異なって、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、またはハロゲン原子を表す。)
で示される共役ジエン化合物と、一般式(3)
【化7】
(式中、R4は、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜8の脂環式炭化水素基、または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。)
で示されるビニル化合物とを共重合した後、該共重合体を水素添加して得られる水添分枝共役ジエン共重合体であって、
分枝共役ジエン化合物(1)がファルネセンであり、共役ジエン化合物(2)が1,3−ブタジエンまたはイソプレンであり、ビニル化合物(3)がスチレンであり、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)が1〜99重量%、共役ジエン化合物(2)の共重合比(m)が99%未満〜0重量%超、ビニル化合物(3)の共重合比(n)が99%未満〜0重量%超であって、(l)と(m)と(n)の合計が100重量%である水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項11】
重量平均分子量が2000〜20万である請求項10記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項12】
水素添加率が10〜90%である請求項10または11記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項13】
ビニル化合物(3)の共重合比(n)が40重量%以上である請求項1012のいずれか1項に記載の水添分枝共役ジエン共重合体。
【請求項14】
請求項1013のいずれか1項に記載の水添分枝共役ジエン共重合体を含んでなるゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水添分枝共役ジエン共重合体、該共重合体を含んでなるゴム組成物および該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。また、本発明は、分枝共役ジエン共重合体、該共重合体を含んでなるゴム組成物および該ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
高性能タイヤのトレッドには、一般的に高いグリップ性能および耐磨耗性との両立が要求される。従来、高いグリップ性能を示すゴム組成物を得るために、例えば、ガラス転移温度(Tg)の高いスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)をゴム成分として使用したゴム組成物、プロセスオイルを高軟化点樹脂に等量置換し、ゴム成分に充填したゴム組成物、軟化剤またはカーボンブラックを高充填したゴム組成物、粒子径の小さいカーボンブラックを使用したゴム組成物、あるいは該SBR、該高軟化点樹脂、該軟化剤またはカーボンブラックを組み合わせて配合したゴム組成物が知られている。
【0003】
しかし、Tgの高いSBRを使用したゴム組成物は、温度依存性が大きくなり、温度変化に対する性能変化が大きくなるという問題がある。また、プロセスオイルを高軟化点樹脂に等量置換した場合、置換量が多量であると、該高軟化点樹脂の影響により温度依存性が大きくなるという問題がある。さらに、粒子径の小さいカーボンブラックや多量の軟化剤を使用した場合、カーボンブラックの分散性が悪く、耐磨耗性が低下してしまうという問題点がある。
【0004】
これらの問題点を改良するために、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体を用いたゴム組成物が提案されているが(特許文献1参照)、低分子量スチレン−ブタジエン共重合体には架矯性を有する二重結合が存在するので、一部の低分子量成分がマトリクスのゴム成分と架橋を形成してマトリクスに取り込まれ、十分にヒステリシスを抑制できないという問題がある。また、低分子量成分が架橋によりマトリクスに取り込まれないようにするため、二重結合部を水素添加により飽和結合にした場合、マトリクスとの相溶性が著しく低下し、その結果、低分子成分がブリードしてくるなどの問題がある。
【0005】
低分子成分のブリードを抑えるためには低分子スチレン−ブタジエン共重合体におけるスチレン含量を40%以上にまで高める方法があるが、スチレン含量が増すと硬さが増し、ハンドリングが困難になるという問題がある。
【0006】
いずれの場合においても、上記課題を高いレベルで解決したタイヤトレッド用ゴム組成物は未だに得られていないのが現状である。
【0007】
ミルセンは、天然に存在する有機化合物で、モノテルペンに属するオレフィンの一種である。ミルセンには、α−ミルセン(2−メチル−6−メチレンオクタ−1,7−ジエン)とβ−ミルセン(7−メチル−3−メチレンオクタ−1,6−ジエン)の2種の異性体が存在する。特許文献2には、ミルセンの重合体が開示されている。
【0008】
ファルネセンは、イソプレンのオリゴメ化やネロリドールの脱水反応によって化学的に合成されるイソプレノイド化合物の1種であり、主に香料またはその原料として利用されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−101440号公報
【特許文献2】特開昭63−179908号公報
【特許文献3】特開2008−156516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物の成分として、加工性の改善に有用な新規分枝共役ジエン共重合体、とりわけ、加工性において優れた特性を示しながら、耐磨耗性およびグリップ性能をともに高いレベルにまで向上せしめ、さらにブリードの発生を抑制した、タイヤ用ゴム組成物の成分として有用な、新規水添分枝共役ジエン共重合体、該共重合体を含んでなるタイヤ用ゴム組成物、および、該タイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供しようとするものである。
【0011】
また、本発明は、タイヤ用ゴム組成物の成分として、加工性の改善に有用な新規分枝共役ジエン共重合体、該分枝共役ジエン共重合体を含んでなるタイヤ用ゴム組成物、とりわけ、耐磨耗性およびグリップ性能をともに高いレベルにまで向上せしめ、かつ、加工性においても優れた特性を示すタイヤ用ゴム組成物、および、該タイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、通常ブタジエンやイソプレンなどが使用される共役ジエン化合物として、多分岐側鎖を有する分枝共役ジエンを用いることにより、加工性等の改善された新規共重合体が得られることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、炭素数6〜11の脂肪族炭化水素を表す。)
で示される分枝共役ジエン化合物(1)と、一般式(2)
【化2】
(式中、R2およびR3は、同一もしくは異なって、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、またはハロゲン原子を表す。)
で示される共役ジエン化合物および/または一般式(3)
【化3】
(式中、R4は、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜8の脂環式炭化水素基、または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。)
で示されるビニル化合物とを共重合した後、該共重合体を水素添加して得られる水添分枝共役ジエン共重合体であって、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)が1〜99重量%、共役ジエン化合物(2)の共重合比(m)が99〜0重量%、ビニル化合物(3)の共重合比(n)が99〜0重量%である水添分枝共役ジエン共重合体に関する。
【0014】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、分枝共役ジエン化合物(1)を共役ジエン化合物(2)で置き換えた同一の重量平均分子量の重合体との比較において、ゴム組成物に配合した際の該ゴム組成物のムーニー粘度ML1+4(130℃)が低い値を示すものである、加工性改善用であるものが好ましい。
【0015】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、重量平均分子量が2000〜20万であるものが好ましい。
【0016】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、水素添加率が10〜90%であるものが好ましい。
【0017】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、ビニル化合物(3)の共重合比(n)が40重量%以上であるものが好ましい。
【0018】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、分枝共役ジエン化合物(1)は、ミルセンおよび/またはファルネセンであることが好ましい。
【0019】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、共役ジエン化合物(2)が、1,3−ブタジエンおよび/またはイソプレンであるものが好ましい。
【0020】
上記水添分枝共役ジエン共重合体は、ビニル化合物(3)が、スチレン、α−メチルスチレン、α−ビニルナフタレンおよびβ−ビニルナフタレンからなる群から選択される1種または2種以上であるものが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記水添分枝共役ジエン共重合体を含んでなるゴム組成物に関する。
【0022】
さらに、本発明は、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【0023】
さらに、別の側面として、本発明は、一般式(1)
【化4】
(記号は前記と同一意味を有する。)
で示される分枝共役ジエン化合物と、一般式(3)
【化5】
(記号は前記と同一意味を有する。)
で示されるビニル化合物とを共重合して得られる分枝共役ジエン共重合体であって、
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)が1〜99重量%、ビニル化合物(3)の共重合比(n)が99〜1重量%である分枝共役ジエン共重合体に関する。
【0024】
上記分枝共役ジエン共重合体において、分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)は2.5〜75重量%であることが好ましく、ビニル化合物(3)の共重合比(n)は97.5〜25重量%であることが好ましい。
【0025】
上記分枝共役ジエン共重合体は、分枝共役ジエン化合物(1)を共役ジエン化合物(2)で置き換えた同一の重量平均分子量の重合体との比較において、ムーニー粘度ML1+4(130℃)が低いものであることが好ましい。
【0026】
上記分枝共役ジエン化合物(1)は、ミルセンおよび/またはファルネセンであることが好ましい。
【0027】
上記ビニル化合物(3)は、スチレン、α−メチルスチレン、α−ビニルナフタレンおよびβ−ビニルナフタレンからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0028】
また、本発明は、上記分枝共役ジエン共重合体を含んでなるゴム組成物に関する。
【0029】
さらに、本発明は、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、タイヤ用ゴム組成物の成分として、加工性の改善に有用な新規分枝共役ジエン共重合体、とりわけ、加工性の改善において優れた特性を示しながら、耐磨耗性およびグリップ性能をともに高いレベルにまで向上せしめ、ブリードの発生を抑制することのできる、タイヤ用ゴム組成物の成分として有用な、新規水添分枝共役ジエン共重合体、該共重合体を含んでなるタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。このような本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤトレッド用ゴムなどとして有用であり、特に、競技(レース等)用のタイヤトレッド用ゴム組成物として有用である。さらに、本発明によれば、該タイヤ用ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤを提供することができる。
【0031】
特に、本発明においては、低分子量(重量平均分子量が約2000〜約20万程度)の水添分枝共役ジエン共重合体について、ゴム成分との相溶性を良好に保ちブリードの発生を抑制すべく、スチレン含量を高含量(例えば、共重合体におけるスチレン含量が40重量%以上)とする場合であっても、共役ジエン化合物として分枝共役ジエン化合物(1)を用いていることにより、加工性を改善し、かつ、ゴムの硬さが硬くなり過ぎることによるハンドリング性能の低下をも防止することができる。
【0032】
また、別の側面の本発明によれば、タイヤ用ゴム組成物の成分として、加工性の改善に有用な新規分枝共役ジエン共重合体を提供することができ、該分枝共役ジエン共重合体を使用することにより、耐磨耗性およびグリップ性能をともに高いレベルにまで向上せしめ、かつ、加工性においても優れたタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。
【0033】
このような本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤトレッド、サイドゴムまたはケース部材用ゴムなどとして、普通乗用車、トラックバス、軽トラック、小型トラック、自動二輪車、原動機付自転車または産業車両などの各種ゴム組成物として有用であるが、特にタイヤトレッド用ゴム組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<水添分枝共役ジエン共重合体>
本発明の水添分枝共役ジエン共重合体とは、分枝共役ジエン化合物(1)と、共役ジエン化合物(2)および/またはビニル化合物(3)とを共重合した後、該共重合体を水素添加して得られるものをいう。
【0035】
本発明の水添分枝共役ジエン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、1000以上であれば特に限定はなく、好ましくは2000以上である。Mwが1000未満では流動性の高い液状ポリマーとなる傾向がある。一方、Mwは、300万以下であれば特に限定はない。Mwが300万超ではゴム弾性を持たない固形物となる傾向がある。
【0036】
グリップ性能と耐摩耗性の両立を図る観点からは、Mwは、3000以上が好ましく、5000以上がより好ましい。Mwが3000未満では、充分な耐摩耗性が得られない傾向がある。一方、Mwは20万以下が好ましく、10万以下がより好ましい。Mwが20万超では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。
【0037】
水添分枝共役ジエン共重合体の数平均分子量(Mn)は、3000以上が好ましく、より好ましくは25万以上である。ゴム組成物の高度が増して加工性が悪化するという問題に至らない傾向にあるからである。一方、Mnは300万以下が好ましく、より好ましくは200万以下である。Mnが300万超ではゴム弾性を持たない固形物となる傾向がある。
【0038】
水添分枝共役ジエン共重合体において、Mw/Mnの好ましい範囲は、20.0以下、より好ましくは10.0以下である。Mw/Mnが20.0超では、ゴム組成物の硬度低下により加工性が悪化するという問題に至らない傾向がある。一方、Mw/Mnの下限値については、特に制限はなく、1.0以上において特に差し障りはない。
【0039】
水添分枝共役ジエン共重合体において、水素添加率は、該水添分枝共役ジエン共重合体を他のゴム成分に配合した場合においてブリードを起こさない程度である限り特に限定はないが、そのような水素添加率の範囲としては、例えば、10%〜90%、好ましくは30%〜70%が挙げられる。
【0040】
水添分枝共役ジエン共重合体のガラス転移温度(Tg)は、通常、−80℃〜110℃の範囲である。該Tgについては、例えば、−70℃〜70℃が好ましく、より好ましくは−30℃〜30℃である。
【0041】
水添分枝共役ジエン共重合体のムーニー粘度ML1+4(130℃)は、該共重合体を構成する分枝共役ジエン化合物(1)を1,3−ブタジエンで置き換えた、同一分子量の重合体との比較において、低い値を示すものである限り、加工性の改善という本願発明の効果を奏し得るので、特に限定はないが、一般には、25以上であることが好ましく、より好ましくは30以上である。ムーニー粘度が25未満では、流動性を持つ傾向がある。一方、ムーニー粘度は160以下が好ましく、より好ましくは150以下、さらに好ましくは100以下、さらに好ましくは60以下である。ムーニー粘度が160超では加工する際に軟化剤や加工助剤が多く必要となる傾向がある。
【0042】
また、ムーニー粘度は、水添分枝共役ジエン共重合体を、ゴム組成物に配合し、該ゴム組成物のムーニー粘度として比較することもできる。すなわち、上記水添分枝共役ジエン共重合体は、分枝共役ジエン化合物(1)を共役ジエン化合物(2)で置き換えた同一の重量平均分子量の重合体との比較において、ゴム組成物に配合した際の該ゴム組成物のムーニー粘度ML1+4(130℃)が低い値を示すものである。この場合の好ましいムーニー粘度は、上記共重合体についての場合と同様である。
【0043】
<分枝共役ジエン共重合体>
上記水添分枝共役ジエン共重合体についての説明は、明らかな矛盾がない限り、いずれも、本発明の分枝共役ジエン共重合体にもあてはまるものである。
【0044】
本発明の共重合体において、モノマーである分枝共役ジエン化合物(1)、共役ジエン化合物(2)およびビニル化合物(3)の共重合比について説明する。
【0045】
<分枝共役ジエン化合物(1)と、共役ジエン化合物(2)またはビニル化合物(3)との共重合体について>
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)は、1〜99重量%であれば特に限定はないが、下限値としては、2.5重量%以上が好ましく、5%以上がさらに好ましい。1%未満では加工性を改善するという分枝共役ジエン化合物(1)配合の効果が十分に得られない傾向がある。一方、上限値としては、75重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましく、15重量%以下がさらに好ましい。99重量%超では流動性のある重合体となる傾向があり、また、分枝共役ジエン化合物(1)の加工性に対する効果は15重量%も配合すれば十分発揮される傾向があるからである。
【0046】
共役ジエン化合物(2)の重合比(m)の好ましい範囲の下限値は、1重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。mが1重量%未満では流動性のある重合体となる傾向がある。一方、上限値は99重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは72.5重量%以下、さらに好ましくは、55重量%以下である。mが99重量%超では加工性改善のため分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0047】
ビニル化合物(3)の重合比(n)の好ましい範囲の下限値は、10重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上である。nが10重量%未満ではゴムの硬さは加工性が問題となる程高くはなく、加工性改善のため分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向があり、また、nが25重量%以上の場合には、ゴムのグリップ性能の向上に資する上に、共重合体の加工性が悪化するとの問題が生じてくることから、分枝共役ジエン化合物(1)を配合することによる加工性の改善効果が顕著に現れる傾向にあるため好ましく、nが40重量%以上の場合にはさらにその傾向が強い。上限値は99重量%以下、好ましくは97.5重量%以下、より好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。nが99重量%超では共重合体がゴム状とならず樹脂状になり分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0048】
なお、分枝共役ジエン共重合体におけるモノマーの重合比の合計は100重量%であるから、(l)と(m)の合計、または、(l)と(n)の合計は100重量%である。従って、上記(l)、(m)または(n)の好ましい範囲の記述から、いずれか一の重合比が選択されれば、残りの重合比は自ずと定まるものである。
【0049】
<分枝共役ジエン化合物(1)と、共役ジエン化合物(2)およびビニル化合物(3)との共重合体について>
分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l)は、1〜99重量%であれば特に限定はないが、下限値としては、2.5重量%以上が好ましく、5重量%以上がさらに好ましい。1%未満では加工性を改善するという分枝共役ジエン化合物(1)配合の効果が十分に得られない傾向がある。一方、上限値としては、75重量%未満が好ましく、60重量%未満がより好ましく、50重量%未満がさらに好ましく、15重量%未満がさらに好ましい。99重量%超では流動性のある重合体となる場合があり、また、分枝共役ジエン化合物(1)の加工性に対する効果は15重量%も配合すれば十分発揮される傾向があるからである。
【0050】
共役ジエン化合物(2)の共重合比(m)の下限値は0重量%超であり、好ましい範囲は、1重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。mが1重量%未満では流動性のある重合体となる傾向がある。一方、上限値は99重量%未満、より好ましくは80重量%未満、さらに好ましくは72.5重量%未満、さらに好ましくは、55重量%未満である。mが99重量%以上では加工性改善のため分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0051】
ビニル化合物(3)の共重合比(n)の下限値は0重量%超であり、好ましい範囲は、1重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上である。nが10重量%未満ではゴムの硬さは加工性が問題となる程高くはなく、加工性改善のため分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向があり、また、nが25重量%以上の場合には、ゴムのグリップ性能の向上に資する上に、共重合体の加工性が悪化するとの問題が生じてくることから、分枝共役ジエン化合物(1)を配合することによる加工性の改善効果が顕著に現れる傾向にあるため好ましく、nが40重量%以上の場合にはさらにその傾向が強い。上限値は99重量%未満、好ましくは97.5重量%未満、より好ましくは95重量%未満、さらに好ましくは80重量%未満、より好ましくは60重量%未満である。nが99重量%以上では共重合体がゴム状とならず樹脂状になり分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0052】
なお、分枝共役ジエン共重合体における、分枝共役ジエン化合物(1)、共役ジエン化合物(2)およびビニル化合物(3)の配合比(l)、(m)、(n)は、合計が100重量%であることから、このうち任意の一つの下限値が上記好ましい範囲から選択されれば他の二つについては、上限値の取り得る範囲が自ずと定まる。また、任意の二つの下限値が上記好ましい範囲から選択されれば、残りの一つについてはその上限値が自ずと定まる。同様に、配合比(l)、(m)、(n)は、任意の一つの上限値が上記好ましい範囲から選択されれば他の二つについては、下限値の取り得る範囲が自ずと定まる。また、任意の二つの上限値が上記好ましい範囲から選択されれば、残りの一つについてはその下限値が自ずと定まる。
【0053】
<分枝共役ジエン化合物(1)>
分枝共役ジエン化合物(1)において、炭素数6〜11の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基等のノルマル構造のもの、それらの異性体かつ/または不飽和体、並びに、それらの誘導体(例えば、ハロゲン化物、水酸基化物等)が挙げられる。好ましい例としては、4−メチル−3−ペンテニル基、4,8−ジメチル−ノナ−3,7−ジエニル基等、および、それらの誘導体が挙げられる。
【0054】
分枝共役ジエン化合物(1)の具体例としては、例えば、ミルセン、ファルネセンなどが挙げられる。
【0055】
本発明において、「ミルセン」とは、α−ミルセン(2−メチル−6−メチレンオクタ−1,7−ジエン)とβ−ミルセンのいずれをも含むものであるが、このうち、以下の構造を有するβ−ミルセン(7−メチル−3−メチレンオクタ−1,6−ジエン)が好ましい。
【0056】
【化6】
【0057】
一方、「ファルネセン」とは、α−ファルネセン((3E,7E)−3,7,11−トリメチル−1,3,6,10−ドデカテトラエン)やβ−ファルネセンなどいずれの異性体も含むものであるが、このうち、以下の構造を有する(E)−β−ファルネセン(7,11−ジメチル−3−メチレン−1,6,10−ドデカトリエン)が好ましい。
【0058】
【化7】
【0059】
分枝共役ジエン化合物(1)としては、1種または2種以上のものを使用することができる。
【0060】
<共役ジエン化合物(2)について>
共役ジエン化合物(2)において、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、このうちメチル基がこのましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、このうち、塩素原子が好ましい。共役ジエン化合物(2)の具体例としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が好ましく、このうち、1,3−ブタジエン、イソプレン等が好ましい。共役ジエン化合物(2)としては、1種または2種以上のものを使用することができる。
【0061】
<ビニル化合物(3)について>
ビニル化合物(3)において、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、このうちメチル基がこのましい。炭素数3〜8の脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロへキセニル基、シクロへプテニル基、シクロオクテニル基等が挙げられ、このうちシクロプロピル基、シクロブチル基が好ましい。炭素数6〜10の芳香属炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、トリル(tolyl)基、キシリル(xylyl)基、ナフチル基などが挙げられる。但し、トリル基におけるベンゼン環上のメチル基の置換位置はオルト−、メタ−もしくはパラ−のいずれの位置も含むものであり、キシリル基におけるメチル基の置換位置も、任意の置換位置のいずれをも含むものである。これらのうち、フェニル基、トリル(tolyl)基、ナフチル基が好ましい。ビニル化合物(3)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−ビニルナフタレンまたはβ−ビニルナフタレンが好ましい。ビニル化合物(3)としては、1種または2種以上のものを使用することができる。
【0062】
本発明に係る共重合体の製造方法について説明する。
分枝共役ジエン化合物(1)と、共役ジエン化合物(2)および/またはビニル化合物(3)との共重合は、各モノマー成分を共重合させるものである限り、共重合させる順序において特に限定はなく、例えば、すべてのモノマーを一度にランダム共重合させてもよいし、あるいは、あらかじめ特定のモノマー(例えば、分枝共役ジエン化合物(1)モノマーのみ、共役ジエン化合物(2)モノマーのみ、ビニル化合物(3)モノマーのみ、あるいは、これらから選ばれる任意のモノマーなど)を共重合させた後に、残りのモノマーを加えて共重合させたり、特定のモノマー毎に予め共重合させたものをブロック共重合させてもよい。
【0063】
かかる共重合は、いずれも常法により実施することができ、例えば、アニオン重合反応、配位重合等により実施することができる。
【0064】
重合方法については特に制限はなく、溶液重合法、乳化重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれをも用いることができるが、このうち、溶液重合法が好ましい。また、重合形式は、バッチ式および連続式のいずれであってもよい。
【0065】
<アニオン重合>
該アニオン重合は、アニオン重合開始剤の存在下、適当な溶媒中で実施することができる。アニオン重合開始剤としては、慣用のものをいずれも好適に使用することができ、そのようなアニオン重合開始剤としては、例えば、一般式RLix(但し、Rは1個またはそれ以上の炭素原子を含む脂肪族、芳香族または脂環式基であり、xは1〜20の整数である。)を有する有機リチウム化合物があげられる。適当な有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、フェニルリチウムおよびナフチルリチウムが挙げられる。好ましい有機リチウム化合物はn−ブチルリチウムおよびsec−ブチルリチウムである。アニオン重合開始剤は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の使用量が0.05mmol未満では共重合体がゴム状とならず樹脂状となる傾向があり、35mmolより多い場合には、共重合体が軟らかく加工性に対して分枝共役ジエン化合物(1)を共重合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0066】
また、アニオン重合に用いる溶媒としては、アニオン重合開始剤を失活させたり、重合反応を停止させたりしないものであれば、いずれも好適に用いることができ、極性溶媒または非極性溶媒のいずれも使用することができる。極性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒があげられ、非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンタンなどの鎖式炭化水素、シクロヘキサンなどの環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを挙げることができる。これら溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0067】
アニオン重合は、さらに極性化合物の存在下に実施するのが好ましい。極性化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジフェニルエーテル、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)などが挙げられる。極性化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。この極性化合物は、ブタジエン部のミクロ構造の制御に関し、1,2−構造の含量を減少させるのに有用である。極性化合物の使用量は、極性化合物の種類および重合条件により異なるが、アニオン重合開始剤とのモル比(極性化合物/アニオン重合開始剤)として0.1以上であることが好ましい。アニオン重合開始剤とのモル比(極性化合物/アニオン重合開始剤)が0.1未満ではミクロ構造を制御することに対する極性物質の効果が十分でない傾向がある。
【0068】
アニオン重合の際の反応温度は、好適に反応が進行する限り特に限定はないが、通常−10℃〜100℃であることが好ましく、25℃〜70℃であることがより好ましい。また、反応時間は、仕込み量、反応温度、その他条件により異なるが、通常、例えば、3時間程度行えば十分である。
【0069】
上記アニオン重合は、この分野で通常使用する反応停止剤の添加により、停止させることができる。そのような反応停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールまたは酢酸などの活性プロトンを有する極性溶媒およびこれらの混液、またはそれらの極性溶媒とヘキサン、シクロヘキサンなどの無極性溶媒との混液が挙げられる。反応停止剤の添加量は、通常、アニオン重合開始剤に対し、同モル量もしくは2倍モル量程度で十分である。
【0070】
重合反応停止後、分枝共役ジエン共重合体は、重合溶液から常法により溶媒を除去することにより、または、重合溶液をその1倍量以上のアルコールに注ぎ、分枝共役ジエン共重合体を沈殿させることにより、容易に単離することができる。
【0071】
<配位重合>
配位重合は、上記アニオン重合におけるアニオン重合開始剤に代えて、配位重合開始剤を用いることにより、実施することができる。配位重合開始剤としては、慣用のものをいずれも好適に用いることができ、そのような配位重合開始剤としては、例えば、ランタノイド化合物、チタン化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物等の遷移金属含有化合物である触媒が挙げられる。また、所望により、さらにアルミニウム化合物、ホウ素化合物を助触媒として使用することができる。
【0072】
ランタノイド化合物は、原子番号57〜71の元素(ランタノイド)のいずれかを含むものであれば特に限定されないが、これらランタノイドのうち、とりわけネオジウムが好ましい。ランタノイド化合物としては、例えば、これら元素のカルボン酸塩、β−ジケトン錯体、アルコキサイド、リン酸塩または亜リン酸塩、ハロゲン化物などが挙げられる。これらの内、取り扱いの容易性から、カルボン酸塩、アルコキサイド、β−ジケトン錯体が好ましい。チタン化合物としては、例えば、シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換シクロペンタジエニル基または置換インデニル基を含み、かつハロゲン、アルコキシシリル基、アルキル基の中から選ばれる1〜3の置換基を有するチタン含有化合物などが挙げられるが、触媒性能の点から、アルコキシシリル基を1つ有する化合物が好ましい。コバルト化合物としては、例えば、コバルトのハロゲン化物、カルボン酸塩、β−ジケトン錯体、有機塩基錯体、有機ホスフィン錯体などが挙げられる。ニッケル化合物としては、例えば、ニッケルのハロゲン化物、カルボン酸塩、β−ジケトン錯体、有機塩基錯体などが挙げられる。配位重合開始剤として用いる触媒は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
助触媒として用いるアルミニウム化合物としては、例えば、有機アルミノキサン類、ハロゲン化有機アルミニウム化合物、有機アルミニウム化合物、水素化有機アルミニウム化合物などが挙げられる。有機アルミノキサン類としては、例えば、アルキルアルミノキサン類(メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、オクチルアルミノキサン、へキシルアルミノキサンなど)が、ハロゲン化有機アルミニウム化合物としては、例えば、ハロゲン化アルキルアルミニウム化合物(ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、メチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムジクロライド)が、有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルキルアルミニウム化合物(トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム)が、水素化有機アルミニウム化合物としては、例えば、水素化アルキルアルミニウム化合物(ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、)が挙げられる。また、ホウ素化合物としては、例えば、テトラフェニルボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレート等のアニオン種を含む化合物が挙げられる。これら助触媒も、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
配位重合に関し、溶媒および極性化合物としては、アニオン重合で説明したものを同様に使用することができる。また、反応時間および反応温度もアニオン重合で説明したものと同様である。重合反応の停止および分枝共役ジエン共重合体の単離も、アニオン重合の場合と同様にして行うことができる。
【0075】
<水素添加>
上記で得られる分枝共役ジエン共重合体の水素添加反応は、常法により実施することができ、金属触媒による接触水素添加、ヒドラジンを用いる方法などをいずれも好適に使用することができる(特開昭59−161415号公報など)。例えば、金属触媒による接触水素添加は、有機溶媒中、金属触媒の存在下、水素を加圧添加することにより実施することができ、該有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール等をいずれも好適に使用することができる。これら有機溶媒は、1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、金属触媒としては、例えば、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、ニッケルなどをいずれも好適に使用することができる、これら金属触媒は1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。加圧する際の圧力としては、例えば、1〜300kg重/cm2であることが好ましい。
【0076】
本発明に係る分枝共役ジエン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、常法により制御することができ、例えば、重合時に仕込む各モノマーの、触媒に対する量を調節することにより制御することができる。例えば、全モノマー/アニオン重合触媒比または全モノマー/配位重合触媒比を大きくすればMwを大きくすることができ、逆に小さくすればMwを小さくすることができる。分枝共役ジエン共重合体の数平均分子量(Mn)についても同様である。
【0077】
本発明に係る分枝共役ジエン共重合体のTgは、常法により制御することができ、例えば、分枝共役ジエン化合物(1)モノマーの仕込量を増加させることにより、相対的に低くすることができ、一方、ビニル化合物(3)の仕込量を増加させることにより、相対的に高くすることができる。
【0078】
本発明に係る分枝共役ジエン共重合体のムーニー粘度は、常法により制御することができ、例えば、重合時に仕込む分枝共役ジエン化合物(1)モノマーの量を調節することによりにより制御することができる。例えば、分枝共役ジエン化合物(1)モノマーの仕込量を少なくすればムーニー粘度は大きくなり、反対に分枝共役ジエン化合物(1)モノマーの仕込量を多くすればムーニー粘度は小さくなる。
【0079】
<水添分枝共役ジエン共重合体を用いたゴム組成物>
こうして得られる本発明の水添分枝共役ジエン共重合体は、ゴム工業の分野で通常使用される他の成分を適宜配合することによりタイヤ用ゴム組成物とすることができる。本発明のゴム組成物に配合すべき他の成分としては、例えば、ゴム成分、充填剤、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0080】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分における水添分枝共役ジエン共重合体の配合量は、約3重量%以上であり、好ましくは約5重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上である。配合量が3重量%未満では加工性に対して水添分枝共役ジエン共重合体を配合させることによる効果が小さくなる傾向がある。一方、配合量の上限値については特に制限はなく、100重量%であってもよい。
【0081】
本発明において、本発明に係る水添分枝共役ジエン共重合体と共に使用する他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴムが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、分枝共役ジエン共重合体との併用の下グリップ性能および耐摩耗性がバランスよく得られるという理由からNR、BR、SBRを使用することが好ましく、特に高いグリップ性能を発揮するとの理由から、SBRが好ましい。
【0082】
あるいは、本発明に係る水添分枝共役ジエン共重合体は、液状である場合には、ゴム成分以外の成分として、ゴム組成物に配合することができる。この場合の該水添分枝共役ジエン共重合体の配合量は、上述のゴム成分100重量部に対し、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、より好ましくは30〜70重量部である。10重量部未満では加工性に対して水添分枝共役ジエン共重合体を配合させることによる効果が小さくなる傾向がある。一方、100重量部超ではグリップ性能および耐摩耗性のバランスに対して水添分枝共役ジエン共重合体を配合させることによる効果が小さくなる傾向がある。
【0083】
充填剤としては、カーボンブラック、シリカなどこの分野で通常使用される充填剤を挙げることができる。
【0084】
カーボンブラックとしては、タイヤ製造において一般的に用いられるものを使用することができ、例えば、SAF、ISAF、HAF、FF、FEF、GPFなどが挙げられ、これらのカーボンブラックを単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、約80m2/g以上であり、好ましくは、約110m2/g以上である。N2SAが80未満ではグリップ性能、耐磨耗性能ともに悪くなる傾向があり、110m2/g未満では加工性改善のため分枝共役ジエン共重合体を使用することによる効果が小さくなる傾向にある。一方、カーボンブラックのN2SAは約270m2/g以下であり、好ましくは、約260m2/g以下である。カーボンブラックのN2SAが270より大きい場合には、カーボンブラックの分散が悪くなる傾向がある。
【0085】
カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対して、約1重量部以上であり、約3重量部以上であることが好ましい。カーボンブラックの配合量が1重量部未満では耐磨耗性が低下する傾向がある。一方、カーボンブラックの配合量は、約200重量部以下であり、150重量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの配合量が200重量部を超えると加工性が悪化する傾向がある。
【0086】
シリカとしては、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水ケイ酸)、湿式法により調製されたシリカ(含水ケイ酸)などが挙げられる。なかでも、表面のシラノール基が多く、シランカップリング剤との反応点が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。シリカのN2SAは、約50m2/g以上であり、好ましくは、約80m2/g以上である。N2SAが50未満では補強効果が小さく耐摩耗性が低下するとなる傾向がある。一方、シリカのN2SAは約300m2/g以下であり、好ましくは、約250m2/g以下である。N2SAが300m2/gより大きい場合には、分散が低下し加工性が低下する傾向がある。
【0087】
シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対して、約1重量部以上であり、約10重量部以上であることが好ましい。シリカの配合量が1重量部未満では耐磨耗性が十分でない傾向がある。一方、シリカの配合量は、約150重量部以下であり、100以下であることがより好ましい。シリカの配合量が150重量部を超えるとシリカの分散性が悪化し加工性が悪化する傾向がある。
【0088】
前記ゴム組成物は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、従来公知のシランカップリング剤を用いることができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系;などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、加工性が良好である点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを含有することが好ましい。
【0089】
シランカップリング剤を含有する場合、その配合量は、シリカ100重量部に対して、1重量部以上であることが好ましく、2重量部以上であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が1重量部未満では、分散性の改善等の効果が十分に得られない傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、20重量部以下であることが好ましく、15重量部以下であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が20重量部を超える場合は、充分なカップリング効果が得られず、補強性が低下する傾向がある。
【0090】
本発明のゴム組成物は、前記の成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、他の補強用充填剤、老化防止剤、オイル、ワックス、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等を適宜配合することができる。
【0091】
こうして得られる本発明のゴム組成物は、耐磨耗性およびグリップ性能をともに高いレベルにまで向上させることができるものであるためタイヤトレッドとして、特に競技用タイヤのタイヤトレッドとして好適に使用することができる。
【0092】
本発明のゴム組成物は、タイヤの製造に使用され、通常の方法により、タイヤとすることができる。すなわち、必要に応じて前記成分を適宜配合した混合物を混練りし、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得ることができ、これに空気を入れ、空気入りタイヤとすることができる。
【0093】
<分枝共役ジエン共重合体を用いたゴム組成物>
水添分枝共役ジエン共重合体を用いたゴム組成物に関する上記の説明は、明らかな矛盾がない限り、分枝共役ジエン共重合体を用いたゴム組成物に関しても、そのまま適用することができる。
【0094】
本明細書において、MwおよびMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定され、標準ポリスチレンより換算される。
水素添加(水添)率(%)は、ヨウ素価法を用いてヨウ素価を算出し、以下の計算式に従って求められる。
水添率(%)=〔1−(水添後のヨウ素価)/(水添前のヨウ素価)〕×100
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)により測定される。
ムーニー粘度は、JIS K 6300に準じて測定される。
単に、「1〜99重量%」というときは、両端の値を含むものである。
【実施例】
【0095】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0096】
以下に、実施例および比較例の共重合体の合成、並びに、ゴム組成物の製造に用いた各種薬品をまとめて示す。各種薬品は必要に応じて常法に従い精製を行った。
【0097】
<共重合体の合成に用いた各種薬品>
ヘキサン:関東化学(株)製の無水ヘキサン
イソプロパノール:関東化学(株)製のイソプロパノール
THF:関東化学(株)製のテトラヒドロフラン
ミルセン:和光純薬(株)のβ−ミルセン
ファルネセン:日本テルペン化学(株)の(E)−β−ファルネセン(試薬)
イソプレン:和光純薬(株)のイソプレン
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製の1,3−ブタジエン
スチレン:和光純薬(株)のスチレン
【0098】
<ゴム組成物の製造に用いた各種薬品>
共重合体:本明細書の記載に従い合成したもの
SBR:旭化成ケミカルズ(株)製のタフデン4850(S−SBR;SBR固形分100gに対し、50%のオイルを含有する;スチレン含有量39質量%)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(チッ素吸着比表面積(N2SA):125m2/g)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0099】
(A)水添ミルセン共重合体
1.共重合体の合成
製造例1−1(共重合体1の合成)
乾燥し窒素置換した3Lの耐圧ステンレス容器に、ヘキサン 2000ml、ブタジエン 110g、スチレン 90gとともにTMEDA 0.22mmolを加え、さらにn−ブチルリチウム(n−BuLi)35mmolを加えた後、50℃で5時間重合反応を行った。5時間後、1Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を1.15ml滴下し、反応を終了させた。冷却後、反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体1 200gを得た。重合添加率(「乾燥重量/仕込量」)は、ほぼ100%であった。
【0100】
製造例2−1(共重合体2の合成)
1Lの耐圧ステンレス容器に、上記で得た共重合体1 200g、THF 300g、10%パラジウムカーボン 10gを加え、窒素置換した後、圧力が5.0kgf/cm2となるように水素置換して、80℃で反応させた。反応終了後、反応液をろ過してパラジウムカーボンを除去した後、ろ液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体2 200gを得た。水素添加率は50%であった。
【0101】
製造例3−1(共重合体3の合成)
乾燥し窒素置換した1Lのガラス容器にヘキサン 500ml、THF 46g、n−ブチルリチウム(n−BuLi)45mmolを加えた後、反応容器にヘキサン 100ml、イソプレン 150g、スチレン 125gの混合液を2時間かけて滴下しながら重合反応をおこなった。滴下終了後直ちに、2Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を20ml滴下して反応を終了させた。冷却後、反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体3 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0102】
製造例4−1(共重合体4の合成)
共重合体3 200gを、製造例2−1と同様に処理して、共重合体4 200gを得た。
【0103】
製造例5−1(共重合体5の合成)
乾燥し窒素置換した1Lのガラス容器にヘキサン 500ml、THF 46g、n−ブチルリチウム(n−BuLi)40mmolを加えた後、反応容器にヘキサン 100ml、ミルセン 150g、スチレン 125gの混合液を2時間かけて滴下しながら重合反応をおこなった。滴下終了後直ちに、2Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を10ml滴下して反応を終了させた。冷却後、反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体5 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0104】
製造例6−1(共重合体6の合成)
共重合体5 200gを、製造例2−1と同様に処理して、共重合体6 200gを得た。
【0105】
製造例7−1(共重合体7の合成)
乾燥し窒素置換した1Lの耐圧ステンレス容器にヘキサン 500ml、THF 46g、n−ブチルリチウム(n−BuLi)40mmolを加えた後、反応容器にヘキサン 100ml、ブタジエン95g、ミルセン 55g、スチレン 125gの混合液を2時間かけて滴下しながら重合反応をおこなった。滴下終了後、2Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を10ml滴下して反応を終了させた。反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体7 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0106】
製造例8−1(共重合体8の合成)
共重合体7 200gを、製造例2−1と同様に処理して、共重合体8 200gを得た。
【0107】
製造例9−1(共重合体9の合成)
ブタジエン 95gに代えて、イソプレン95gを使用した以外は、製造例7−1と同様に処理して、共重合体9 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0108】
製造例10−1(共重合体10の合成)
共重合体9 200gを、製造例2−1と同様に処理して、共重合体10 200gを得た。
【0109】
2.ゴム組成物およびタイヤの製造
製造例1−2
(1)表2記載の配合に従い、上記で得た共重合体1と、上記ゴム組成物製造用の各種薬品(硫黄および加硫促進剤を除く)を、バンバリーミキサーにて、150℃で5分間混練りし、混練り物を得た。得られた混練物に、硫黄ならびに加硫促進剤を添加して、オープンロールを用いて、170℃で12分間混練りし、未加硫ゴム組成物1を得た。
(2)上記(1)で得た未加硫ゴム組成物を、タイヤトレッドの形状に合わせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて他の部材と合わせて成形することにより未加硫タイヤとした。この未加硫タイヤを、加硫機中で、170℃で20分間プレス加硫し、タイヤを得た。このタイヤに空気を入れ、空気入りタイヤ1を得た。
【0110】
製造例2−2〜製造例10−2
表2記載の配合に従い、対応原料化合物を製造例1−2と同様に処理して、未加硫ゴム組成物2〜10および空気入りタイヤ2〜10を、それぞれ得た。
【0111】
3.結果
<共重合体>
上記で得た共重合体1〜10について、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、ガラス転移温度Tg、ムーニー粘度および共重合比(l)を、以下方法に従い測定した。結果を表1に示す。
【0112】
(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnの測定)
Mw、Mnは、東ソー(株)製GPC−8000シリーズの装置、検知器として示差屈折計を用いて測定し、標準ポリスチレンにより校正した。
【0113】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
各共重合体について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分にて開始温度−150℃から最終温度150℃までを測定しTgを算出した。
【0114】
(加工性)
各共重合体について、JIS K 6300「未加硫ゴムの試験方法」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、大ローターを回転させ、4分間経過した時点でのムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定した。なお、ムーニー粘度が小さいほど、加工性に優れることを示している。
【0115】
(分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l))
該共重合比(l)(重量%)は、熱分解ガスクロマトグラフィー(PGC)による定法によって測定した。すなわち、精製した分枝共役ジエン化合物(1)についての検量線を作製し、PGCによって得られる分枝共役ジエン化合物(1)由来の熱分解物の面積比から共重合体中の分枝共役ジエン化合物(1)の重量%を算出した。熱分解クロマトグラフィーは(株)島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP5050Aと日本分析工業(株)製の熱分解装置JHP−330から構成されるシステムを使用した。
【0116】
【表1】
【0117】
<ゴム組成物およびタイヤ>
上記で得た未加硫ゴム組成物1〜10および空気入りタイヤ1〜10を用いて、下記の試験を行った。結果を表2に示す。
【0118】
(加工性)
各未加硫ゴム組成物から所定のサイズの試験片を作成し、JIS K 6300「未加硫ゴムの試験方法」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、大ローターを回転させ、4分間経過した時点でのムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定した。なお、ムーニー粘度が小さいほど、加工性に優れることを示している。
(グリップ性能)
上記で得た各空気入りタイヤを用いて、アスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際における操舵時のコントロール安定性をテストドライバーが10段階評価した。数値の大きい方が、グリップ性能が優れていることを示している。
(耐摩耗性能)
各空気入りタイヤを用いてテストコースを20周走行し、走行前後における溝の深さを測定し、空気入りタイヤ1を用いた場合を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性が大きく優れていることを示している。
(耐ブリード性)
各空気入りタイヤ表面を観察し、オイル状のもののブリードの程度を目視にて判断した。
○:ブリードなし
△:ややブリード気味
×:ブリード激しい
【0119】
【表2】
【0120】
表2に示すとおり、ミルセン共重合体を配合した製造例5〜10は、いずれもムーニー粘度が低く加工性が改善されている。特に、水添ミルセン共重合体を配合した製造例6、8および10は、加工性に優れ、かつ、グリップ性能、耐磨耗性および耐ブリード性においても優れていることが示されている。
【0121】
(B)水添ファルネセン共重合体
【0122】
1.共重合体の合成
製造例11−1(共重合体11の合成)
乾燥し窒素置換した3Lの耐圧ステンレス容器に、ヘキサン 2000ml、ブタジエン 110g、スチレン 90gとともにTMEDA 0.22mmolを加え、さらにn−ブチルリチウム(n−BuLi)35mmolを加えた後、50℃で5時間重合反応を行った。5時間後、1Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を1.15ml滴下し、反応を終了させた。冷却後、反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体11 200gを得た。重合添加率(「乾燥重量/仕込量」)は、ほぼ100%であった。
【0123】
製造例12−1(共重合体12の合成)
1Lの耐圧ステンレス容器に、上記で得た共重合体11 200g、THF 300g、10%パラジウムカーボン 10gを加え、窒素置換した後、圧力が5.0kgf/cm2となるように水素置換して、80℃で反応させた。反応終了後、反応液をろ過してパラジウムカーボンを除去した後、ろ液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体12 200gを得た。水素添加率は50%であった。
【0124】
製造例13−1(共重合体13の合成)
乾燥し窒素置換した1Lのガラス容器にヘキサン 500ml、THF 46g、n−ブチルリチウム(n−BuLi)45mmolを加えた後、反応容器にヘキサン 100ml、イソプレン 150g、スチレン 125gの混合液を2時間かけて滴下しながら重合反応をおこなった。滴下終了後直ちに、2Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を20ml滴下して反応を終了させた。冷却後、反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体13 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0125】
製造例14−1(共重合体14の合成)
共重合体13 200gを、製造例12−1と同様に処理して、共重合体14 200gを得た。
【0126】
製造例15−1(共重合体15の合成)
乾燥し窒素置換した1Lのガラス容器にヘキサン 500ml、THF 46g、n−ブチルリチウム(n−BuLi)40mmolを加えた後、反応容器にヘキサン 100ml、ファルネセン 150g、スチレン 125gの混合液を2時間かけて滴下しながら重合反応をおこなった。滴下終了後直ちに、2Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を10ml滴下して反応を終了させた。冷却後、反応液を1晩風乾し、さらに2日間減圧乾燥を行い、共重合体15 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0127】
製造例16−1(共重合体16の合成)
共重合体15 200gを、製造例12−1と同様に処理して、共重合体16 200gを得た。
【0128】
製造例17−1(共重合体17の合成)
ファルネセン 150gに代えて、ファルネセン 55gおよびブタジエンン 95gを使用した以外は、製造例15−1と同様に処理して、共重合体17 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0129】
製造例18−1(共重合体18の合成)
共重合体17 200gを、製造例12−1と同様に処理して、共重合体18 200gを得た。
【0130】
製造例19−1(共重合体19の合成)
ブタジエンに代えて、イソプレンを使用した以外は、製造例17−1と同様に処理して、共重合体19 275gを得た。重合転化率はほぼ100%であった。
【0131】
製造例20−1(共重合体20の合成)
共重合体19 200gを、製造例12−1と同様に処理して、共重合体20 200gを得た。
【0132】
2.ゴム組成物およびタイヤの製造
製造例11−2
(1)表4記載の配合に従い、上記で得た共重合体11と、上記ゴム組成物製造用の各種薬品(硫黄および加硫促進剤を除く)を、バンバリーミキサーにて、150℃で5分間混練りし、混練り物を得た。得られた混練物に、硫黄ならびに加硫促進剤を添加して、オープンロールを用いて、170℃で12分間混練りし、未加硫ゴム組成物11を得た。
(2)上記(1)で得た未加硫ゴム組成物を、タイヤトレッドの形状に合わせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて他の部材と合わせて成形することにより未加硫タイヤとした。この未加硫タイヤを、加硫機中で、170℃で20分間プレス加硫し、タイヤを得た。このタイヤに空気を入れ、空気入りタイヤ11を得た。
【0133】
製造例12−2〜製造例20−2
表4記載の配合に従い、対応原料化合物を製造例11−2と同様に処理して、未加硫ゴム組成物12〜20および空気入りタイヤ12〜20を、それぞれ得た。
【0134】
3.結果
<共重合体>
上記で得た共重合体11〜20について、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、ガラス転移温度Tg、ムーニー粘度および共重合比(l)を、以下方法に従い測定した。結果を表3に示す。
【0135】
(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnの測定)
Mw、Mnは、東ソー(株)製GPC−8000シリーズの装置、検知器として示差屈折計を用いて測定し、標準ポリスチレンにより校正した。
【0136】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
各共重合体について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分にて開始温度−150℃から最終温度150℃までを測定しTgを算出した。
【0137】
(加工性)
各共重合体について、JIS K 6300「未加硫ゴムの試験方法」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、大ローターを回転させ、4分間経過した時点でのムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定した。なお、ムーニー粘度が小さいほど、加工性に優れることを示している。
【0138】
(分枝共役ジエン化合物(1)の共重合比(l))
該共重合比(l)(重量%)は、熱分解ガスクロマトグラフィー(PGC)による定法によって測定した。すなわち、精製した分枝共役ジエン化合物(1)についての検量線を作製し、PGCによって得られる分枝共役ジエン化合物(1)由来の熱分解物の面積比から共重合体中の分枝共役ジエン化合物(1)の重量%を算出した。熱分解クロマトグラフィーは(株)島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP5050Aと日本分析工業(株)製の熱分解装置JHP−330から構成されるシステムを使用した。
【0139】
【表3】
【0140】
<ゴム組成物およびタイヤ>
上記で得た未加硫ゴム組成物11〜20および空気入りタイヤ11〜20を用いて、下記の試験を行った。結果を表4に示す。
【0141】
(加工性)
各未加硫ゴム組成物から所定のサイズの試験片を作成し、JIS K 6300「未加硫ゴムの試験方法」に準じて、ムーニー粘度試験機を用いて、1分間の予熱によって熱せられた130℃の温度条件にて、大ローターを回転させ、4分間経過した時点でのムーニー粘度ML1+4(130℃)を測定した。なお、ムーニー粘度が小さいほど、加工性に優れることを示している。
(グリップ性能)
上記で得た各空気入りタイヤを用いて、アスファルト路面のテストコースにて実車走行を行なった。その際における操舵時のコントロール安定性をテストドライバーが10段階評価した。数値の大きい方が、グリップ性能が優れていることを示している。
(耐摩耗性能)
各空気入りタイヤを用いてテストコースを20周走行し、走行前後における溝の深さを測定し、空気入りタイヤ11を用いた場合を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性が大きく優れていることを示している。
(耐ブリード性)
各空気入りタイヤ表面を観察し、オイル状のもののブリードの程度を目視にて判断した。
○:ブリードなし
△:ややブリード気味
×:ブリード激しい
【0142】
【表4】
【0143】
表4に示すとおり、ファルネセン共重合体を配合した製造例15〜20は、いずれも、これを共役ジエン化合物たるブタジエンやイソプレンで置き換えた重合体との比較において、Mwの割にムーニー粘度が低く、加工性が改善されている。特に、水添ファルネセン共重合体を配合した製造例16、同18または同20は、加工性に優れ、かつ、グリップ性能、耐磨耗性および耐ブリード性においても優れていることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明によれば、タイヤ用ゴム成分として、加工性の改善に有用な新規分枝共役ジエン共重合体または水添分枝共役ジエン共重合体を提供することができ、これら共重合体を使用することにより、加工性の改善において優れた特性を示しながら、耐磨耗性およびグリップ性能をともに高いレベルにまで向上せしめたタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。また、水添分枝共役ジエン共重合体を用いる場合には、さらに、ブリードの発生を抑制したタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。