特許第6167238号(P6167238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167238セラミックナノ粒子を含む被削性が改善された黄銅合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167238
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】セラミックナノ粒子を含む被削性が改善された黄銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20170710BHJP
   C22C 1/10 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C22C9/04
   C22C1/10 G
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-531650(P2016-531650)
(86)(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公表番号】特表2016-537509(P2016-537509A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014074384
(87)【国際公開番号】WO2015071316
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】1351337-9
(32)【優先日】2013年11月13日
(33)【優先権主張国】SE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516140801
【氏名又は名称】ノルディック ブラス グスム アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】NORDIC BRASS GUSUM AB
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】スヴェニングソン、インゲ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン、ヤン
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103451470(CN,A)
【文献】 米国特許第5089354(US,A)
【文献】 特開平11−124646(JP,A)
【文献】 特開平04−131339(JP,A)
【文献】 特開平07−118777(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0042483(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
61.5〜63.5重量%のCuと、0.1〜0.25重量%のPbと、0〜0.1重量%のSnと、0〜0.1重量%のFeと、0〜0.1重量%のNiと、0〜0.01重量%のMnと、0〜0.03重量%のSiと、0.06〜0.15重量%のAsと、0〜0.01重量%のSbと、0.0003〜0.0007重量%のBと、0.05重量%のAl、残部のZn及び不可避不純物とを含有する黄銅合金であって、前記黄銅合金中のFe、Mn、SbおよびSの合計は最大で0.2重量%であり、Alがセラミックナノ粒子の形態で前記合金中に存在する黄銅合金。
【請求項2】
63.0重量%のCuと、36.6重量%のZnと、0.2重量%のPbと、0.1重量%のAsと、0.0005重量%のBと、0.05重量%のAlとを含有する、請求項に記載の黄銅合金。
【請求項3】
Alの前記ナノ粒子が球状である、請求項1または2に記載の黄銅合金。
【請求項4】
Alの前記ナノ粒子の直径が100〜1000nmである、請求項1〜のいずれか一項に記載の黄銅合金。
【請求項5】
Alの前記ナノ粒子の直径が500nmである、請求項に記載の黄銅合金。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の黄銅合金を製造する方法であって、溶融プロセスの開始時に黄銅のスクラップを含んだ溶融浴にAlのナノ粒子を投入することを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記溶融浴の温度が1040℃である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
i. 所望量の1/3以下の量の溶融しようとする黄銅スクラップを炉に投入するステップと、
ii. セラミックナノ粒子を全て投入するステップと、
iii. オプションとして、前記炉内で撹拌することにより混合するステップと、
iv. 前記黄銅スクラップの残部を前記所望量に達するまで投入するステップと
を含む、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
棒材、異形材、またはブルームを製造するための、請求項1〜のいずれか一項に記載の黄銅合金の使用。
【請求項10】
ネジ、ナット、水道用継ぎ手、衛生設備用継ぎ手、錠の細部部品、電気部品、装飾品、油用継ぎ手、ガス用継ぎ手を製造するための、または電気産業、エンジニアリング産業、および自動車産業用の種々の細部部品を製造するための、請求項1〜のいずれか一項に記載の黄銅合金の使用。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の黄銅合金からなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Alがセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在してその結果として有利な切削性を示す最大で0.25重量%のPbを含有した黄銅合金およびその黄銅合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黄銅は多くの可能性を秘めた応用範囲の広い材料である。その基本構成成分は銅(Cu)および亜鉛(Zn)である。鉛(Pb)、錫(Sn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)および/またはヒ素(As)等の種々の合金材料を添加することによって黄銅に独自の性質を付与することができ、種々の機械加工向けおよび種々の最終製品向けに様々な品質を有する黄銅がある。さらに黄銅は、アンチモン(Sb)、リン(P)、ホウ素(B)および/または硫黄(S)を含有することもできる。
【0003】
黄銅は棒材、異形材(profiles)、およびブルーム(blooms)といった形態の半製品として製造することができ、さらなる精密加工(refined)が施される。こうして得られる最終製品は、例えば、ネジ、ナット、水道および衛生設備用継ぎ手(water and sanitary armatures)、錠の細部部品(lock details)、電気部品、装飾品等である。まず第一に、黄銅は、環境推進工場(environmental promoting workshop)での製造において定められた位置を有する閉鎖循環材料(closed cycle material)である。黄銅は回収による収益性が高いことから、原料のほぼ80パーセントが黄銅スクラップの形態であり、その一部は工場から出る廃棄物であり、別の一部は回収業者からのものである。
【0004】
いわゆる「衛生的な銅合金組成リスト(Hygienic Copper Alloy Composition List)」には、鉛フリーの黄銅のPbに関して0.2パーセントという値が定められている。黄銅および他の金属からなる合金ならびに飲料水に接する材料はこのリストで管理され、4MS(フォーメンバーステート(Four Member State))の宣言書に署名した各国において2013年12月1日から効力を発する。4MSの活動は、その前身であるEAS(欧州認証基準(European Acceptance Scheme))の延長であり、その活動は欧州委員会の主導によって1997年に開始された。4MS宣言のねらいは、EUに加盟する全27ヵ国に対する共通の指令を作成することにある。さらには、米国をはじめとした他の国にも黄銅合金のPb含有率に関する類似の規制がある。米国および欧州の主要な違いは、米国の規制は個々の物品の鉛を規制することに主眼を置く(その平均値は最大で0.25重量%のPb)のに対し、欧州では飲料水そのものに含まれる鉛を規制することに主眼を置く点にある。飲料水そのものに許容される数値としては米国の方が欧州よりも高く、それぞれ15μg/Lおよび10μg/Lである[1]。この要件を満たす鉛フリーの黄銅として定義される黄銅合金には、例えば、CW511LおよびEcoBrass(登録商標)がある[1,2]。
【0005】
このような飲料水中のPb析出に対する環境要求事項に関連し、材料そのものに含まれるPbを排除することも要求されている。こうした活動は各行政からの要請に従って進められるだけでなく、いわゆる環境影響評価システムを用いることによる自発的な取り組みも行われている。その例として、スゥエーデン国の場合は、建築材料評価(Building Material Assessment(Byggvarubedoemningen))およびBastaを挙げることができ、ここでは鉛フリーの合金の使用が求められている。
【0006】
EN番号(EN-number)がCW614NおよびCW617Nである黄銅合金は切削加工および鍛造に最も一般的に使用される2種の黄銅合金である[3]。例えば、これらの合金は水道および衛生設備用継ぎ手、油およびガス用継ぎ手に使用されるのみならず、電気産業、エンジニアリング産業、および自動車産業における種々の細部部品にも使用されている。この合金は研磨および表面処理により非常に優れた仕上げ表面を得ることが容易である。CW614Nは39重量%のZnと、3重量%のPbとを含有し、残部はCuであり、したがってCuZn39Pb3と表記される組成を有する。CW614Nは自動機械加工に使用されることから快削黄銅とも称され、CW617Nは熱間鍛造される細部部品に使用されている。
【0007】
CW614Nのように黄銅合金に鉛を添加すると被削性が向上する。固溶するのは0.2重量%というわずかな部分である。鉛原子は銅原子や亜鉛原子よりもサイズがはるかに大きいため、転位の移動を固定する。特にこの作用が、非常に重要な現象である切り屑破断を促進する。残部においては結晶粒界に鉛−銅相が析出する。この相は切り込み領域に生じた温度で融解し、融解した金属は切削が進行している間は潤滑剤として作用する。一般に、Pbを0.2重量%未満に低下させると被削性が大幅に低下することが認められている。
【0008】
結晶粒界に析出した鉛−銅相の一部は切削加工している工作物の一部となる。この相は低強度かつ高展延性であり、液状の場合もあるため、他の部分よりも大きくかつ容易に拡がる。このような表面は飲料水に接している製品/部品や給水栓にも存在するであろう。このようにして鉛が水中に浸出し、我々の健康に有害な影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
他の態様は、黄銅が粒界腐食により脱亜鉛する可能性があること[4]であり、それによって、残存する結晶粒構造が露出することになる。これらの結晶粒組織も水に接触する可能性があるため、Pbの添加は最小量であることが好ましい。
【0010】
しかしながら、粒界に鉛−銅相が存在しないと銅合金の被削性が損なわれてしまう。機械加工における主な難点を以下に示す。
1. 切り屑の破断性が悪化し、切り屑の制御が難しくなる。
【0011】
2. 切り屑幅の拡大、すなわち切り屑の横幅が広がる(図1参照)。
3. バリの生成。
4. 切削工具のすくい面に構成刃先「BUE(build up edge)」が滞留し、最終的に工作物表面に残留する。
【0012】
5. 切削抵抗が著しく増大する。
6. 切り屑厚さ方向の切削抵抗が増大するために振動傾向(vibration tendency)が著しく増大する(図2参照)。
【0013】
したがって、鉛(Pb)の添加量を大幅に低減しても被削性が損なわれることのない改善された黄銅合金が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5089354号明細書
【特許文献2】韓国公開特許第2012−0042483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の目的
本発明の目的は、約3重量%のPbを含有するいわゆる快削黄銅に匹敵するかまたはそれに近い切削性を有する黄銅合金を提供することにある。
【0016】
さらなる目的は、Pbを最大で0.25重量%(±0.02重量%)、好ましくはPbを0.20重量%以下の量で含有し、粒界には鉛が存在せず、固溶部分にのみ鉛が存在する黄銅合金である。したがって、本発明の黄銅合金は米国およびEUにおいて鉛フリーの黄銅と表記することができる。
【0017】
さらなる目的は、CW511LやEcoBrass(登録商標)等の他の鉛フリーの黄銅と同程度あるいはそれらを上回る切削性を有する黄銅合金を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の概要
独立請求項に定義されるように、本発明により上述の目的は達成され、さらには、上述の切削に関する問題が解消された。本発明の好適な実施形態を独立請求項に定義する。すなわち、本発明の一態様では、Cuと、Znと、0〜0.25重量%のPbと、0.04〜0.1重量%のAlとを含有する黄銅合金が提供され、Alがセラミックナノ粒子の形態で前記合金中に存在する。
【0019】
本発明は、アルミナ(Al)がセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在する黄銅合金およびその黄銅合金を製造するための方法に関する。本発明はまた、その黄銅合金の使用およびその黄銅合金からなる物品にも関する。前記セラミックナノ粒子は非変形性粒子、すなわち硬質の含有物であり、それによって切削に関する技術的利点が得られる。
【0020】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、61.5〜64.2重量%のCuと、35.6〜37.4重量%のZnと、0.100〜0.250重量%のPbと、0〜0.15重量%のAsと、0.04〜0.1重量%(好ましくは0.04〜0.06重量%)のAlとを含有し、Alはセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在する。
【0021】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、61.5〜63.5重量%のCuと、35.6〜37.4重量%のZnと、0.100〜0.250重量%のPbと、0〜0.15重量%のSnと、0〜0.15重量%のFeと、0〜1重量%(好ましくは0〜0.05重量%または0.45〜0.7重量%)のAlと、0〜0.149重量%のNiと、0〜0.15重量%のMnと、0〜0.03重量%のSiと、0〜0.15重量%のAsと、0〜0.02重量%のPと、0〜0.02重量%のSbと、0〜0.0007重量%のBと、0.04〜0.06重量%のAlとを含有し、Alはセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在する。Sn、Fe、Al、Ni、Mn、Siおよび/またはAs等の合金添加物は耐腐食性、強度、耐摩耗性および/または引張強さを改善する。
【0022】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、63.0重量%のCuと、36.6重量%のZnと、0.2重量%のPbと、0.1重量%のAsと、0.0005重量%のBと、0.05重量%のAlとを含有する。合金添加物としてAsを用いることにより脱亜鉛が抑制される。Pbを0.2重量%という低含有量で含有する本発明の黄銅合金は鉛フリーの黄銅の定義を満たすことができる。
【0023】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、63.1重量%のCuと、36.7重量%のZnと、0.145重量%のPbと、0.04重量%のAsと、0.05重量%のAlとを含有する。合金添加物としてAsを用いることにより脱亜鉛が抑制される。Pbを0.145重量%という低含有量で含有する本発明の黄銅合金は鉛フリーの黄銅の定義を満たすことができる。
【0024】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、実質的に球状であるAlナノ粒子を含有する。それによって、実質的に球状のAlナノ粒子は、被削材の二次および三次切削域(cutting zone)において変形した材料の結晶粒の形態と類似の形態をとる。さらに、Al球状ナノ粒子は、工具を研磨する作用を有して工具寿命を著しく低下させる角張ったナノ粒子とは異なり、工具寿命に影響を及ぼさないという利点がある。
【0025】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、人工物の形態にあるAlのナノ粒子を含有する。Alの人工セラミックナノ粒子、すなわち人工物を用いることは、切削における技術的利点が得られるようにAlの重量および形態を制御するのに非常に有効な方法である。
【0026】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、直径が100〜1000nmであるAlのナノ粒子を含有する。それによって、本発明の黄銅合金に含まれるAlナノ粒子の直径が、黄銅合金の二次および三次切削域において変形した被削材の結晶粒の厚みと同程度になる。
【0027】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、直径が500nmであるAlナノ粒子を含有する。それによって、本発明の黄銅合金に含まれるAlナノ粒子の直径が、黄銅合金の二次および三次切削域において変形した被削材の結晶粒の厚みと同程度になる。
【0028】
好ましい実施形態によれば、上述の好ましい黄銅合金は、黄銅のスクラップを含んだ溶融浴にAlナノ粒子を撹拌しながら投入する方法により製造され、Alのセラミックナノ粒子は溶融プロセスの開始時に撹拌しながら投入され、溶融浴中の上記の黄銅スクラップは、上述の好ましい黄銅合金が得られる量でCu、Zn、Pb、Sn、Fe、Al、Ni、Mn、Si、As、P、Sbおよび/またはBを含有する。この方法はまた、(i)所望量の1/3以下の量の溶融しようとする黄銅スクラップを炉に投入するステップと、(ii)セラミックナノ粒子を全て投入するステップと、(iii)オプションとして、炉内で撹拌することにより混合するステップと、(iv)黄銅スクラップの残部を所望量に達するまで投入するステップとを含む。この方法により、切削技術に関して多くの利点を有する黄銅合金が得られる。
【0029】
好ましい実施形態によれば、本発明の黄銅合金は、溶融浴の温度を1040℃とするプロセスにより製造される。炉内で誘導加熱を行うことにより、Alナノ粒子を十分かつ均一に分散させる撹拌効果を得るのに適した状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】先行技術による黄銅合金の切り屑幅の拡大を示す略図である。
図2】先行技術による黄銅合金の切り屑の厚み方向を示す略図である。
図3】本発明による黄銅合金の切削域を示す模式図である。
図4】本発明による黄銅合金の切削域内の速度勾配を示す模式図である。
図5】本発明による黄銅合金の切削域内の変形および破壊を示す略図である。
図6】本発明による黄銅合金における粒子の回転を示す模式図である。
図7】本発明による黄銅合金においてセラミック粒子が分離する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、切削性を損なうことなく3重量%から0.25重量%、好ましくは0.20重量%以下、より好ましくは0重量%に添加物の鉛(Pb)を制限した黄銅合金に関する。
【0032】
本発明による黄銅合金は、Cu、Zn、Pb、AsおよびAlと、オプションの添加物であるSn、Fe、Al、Ni、Mn、Sb、Pおよび/またはSiと、SやB等の場合により存在する不純物とを含有し、Alはセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在する。本発明の黄銅合金は、Cuを66重量%以下で含有する。好ましくは、本発明の合金は、61.5〜64.2重量%のCuと、35.6〜37.4重量%のZnと、0.100〜0.250重量%のPbと、0〜0.15重量%のAsと、0.04〜0.1重量%(好ましくは0.04〜0.06重量%)のAlとを含有し、Alはセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在する。より好ましくは、本発明の合金は、61.5〜63.5重量%のCuと、35.6〜37.4重量%のZnと、0.100〜0.250重量%のPbと、0〜0.15重量%のSnと、0〜0.15重量%のFeと、0〜1重量%(好ましくは0〜0.05重量%または0.45〜0.7重量%)のAlと、0〜0.149重量%のNiと、0〜0.15重量%のMnと、0〜0.03重量%のSiと、0〜0.15重量%のAsと、0〜0.02重量%のPと、0〜0.02重量%のSbと、0〜0.0007重量%のBと、0.04〜0.06重量%のAlとを含有し、Alはセラミックナノ粒子の形態で合金中に存在する。
【0033】
本発明の黄銅合金は、耐腐食性、強度、耐摩耗性および/または引張強さを向上させるためにSn、Fe、Al、Ni、Mn、Siおよび/またはAs等の合金添加物を含有する。Asを用いることによって、脱亜鉛、すなわち亜鉛が他の合金元素よりも速く反応する選択的腐食が抑制される。添加物としてのSnは、耐腐食性を向上させると共に、硬度および引張強さの若干の上昇に寄与することもできる。Fe、MnおよびAlが黄銅合金中に存在することにより、硬度、強度および引張強さのある程度の上昇に寄与する。Siは黄銅合金の強度および耐摩耗性を向上させる。ニッケルは展延性にいかなる有意な影響を及ぼすことなく硬度および引張強さを改善し、それによって高温における品質が改善される。Sb、B、P、S等の他の元素もまた合金中に存在してもよい。
【0034】
本発明による黄銅合金は、溶融プロセスの開始時に約1040℃の黄銅スクラップの溶融浴にサイズが100〜1000nmであるアルミナナノ粒子を投入することを含む方法により製造される。炉内で誘導加熱を行うことにより、十分かつ均一に分散させる撹拌効果を得るのに適した状態になる。
【0035】
本発明の方法はまた:
(i)所望量の1/3以下の量の溶融しようとする黄銅スクラップを炉内に投入するステップと、
(ii)セラミックナノ粒子を全て投入するステップと、
(iii)オプションとして、炉内で撹拌することにより混合するステップと、
(iv)黄銅スクラップの残部を所望量に達するまで投入するステップと
を含む。
【0036】
合金中にセラミックナノ粒子として存在するAlの形状は実質的に球状であり、直径は100〜1000nmである。このナノ粒子は、被削材および切り屑の材料内の速度勾配が大きく(図4)、変形が極めて大きい二次および三次切削域(図3)で作用する。被削材に含まれる10〜100μmのサイズの結晶粒は厚みが数百nmの板状に引き延ばされた後、破壊に至る(図5)。
【0037】
二次および三次切削域の被削材内部で変形している結晶粒の厚みと同程度のサイズを有するセラミックナノ粒子を少量添加することにより、切削に関する多くの技術的利点が得られる。
【0038】
1. 塑性変形しないセラミックナノ粒子は切削域における破損の指標として作用する。
2. 粒子周囲の張力場および粒子自体が転位を捕捉し、切り屑を脆化させる。
【0039】
3. 切り屑の展延性が低下することにより切り屑厚み方向の切削抵抗が低下するため、機械加工時の自励びびり振動(self-oscillation)が発生しにくくなる。
4. 展延性が低下することにより、バリの生成も低減されると共に、切り屑が長く伸びにくくなる。
【0040】
5. 粒子は、構成刃先(loose edge)の形成に有利な作用も示す。
切削域における速度勾配によってナノ粒子は回転しスピンする(図6)。このようなスピンが発生すると粒子に大きな応力が加わる。一部のセラミック粒子は幾つかの小さな破片に破壊されることになる。セラミック素材はかなり脆く、引張方向に加わる大きな応力に耐えられない。セラミック粒子はスタグネーションポイント(stagnation point)付近で破壊すると推測され(図7)、「魚雷」のように作用するであろう。「魚雷」の破片は単なる粒子となるのではなく、切り屑を脆化させる。
【0041】
以下の実施例において本発明の範囲に含まれる実施形態をさらに説明および例証する。実施例は例示のみを目的とするものであって、本発明を限定することを意図するものと解釈すべきではなく、本発明の範囲を逸脱することなく多くの変形が可能である。
【実施例】
【0042】
実施例1
溶融プロセスの開始時に黄銅スクラップを含んだ溶融浴に直径500nmのAlの球状セラミックナノ粒子を撹拌しながら導入することにより、63.0重量%のCuと、36.6重量%のZnと、0.2重量%のPbと、0.1重量%のAsと、0.0005重量%のBと、0.05重量%のAlとを含有する黄銅合金を製造した。溶融浴の温度は1040℃とした。黄銅スクラップは上記最終組成の合金が得られる量の合金添加物を含むものとした。この方法はまた、
i. 所要量の1/3以下の溶融しようとする黄銅スクラップを炉に投入するステップと、
ii. セラミックナノ粒子を全て投入するステップと、
iii. オプションとして、炉内で撹拌することにより混合するステップと、
iv. 黄銅スクラップの残部を所要量に達するまで投入するステップと
を含む。
【0043】
得られた黄銅合金を以下、CW511L−50Xと称する。以下の表に、合金添加物Sn、Fe、Al、Ni、Mn、SiおよびSbならびに不純物Sの許容範囲を下限値および上限値(重量%)の形で示した。EN番号CW511LおよびCW614Nの黄銅合金を用いて比較調査を行った。その組成(表中の標準値を参照)および許容範囲(下限値、上限値)を以下の表に示す。比較調査にはEcoBrass(登録商標)すなわちEN番号CW724Rの黄銅合金も使用した。これは、75〜77重量%のCuと、3重量%のSiとを含有し、残部はZnである。EcoBrass(登録商標)はさらに0.1〜0.12重量%のPbを含有し、したがって、鉛フリーの黄銅と表記することができる。
【0044】
【表1】
比較調査において、CW511L−50Xは予期せぬ改善された技術的効果を示した。その結果から、Alナノ粒子を添加した黄銅合金の振動傾向は鉛を約3重量%含有する快削黄銅CW614Nとほぼ同程度であったことが分かる。加えて、切削抵抗が低下しており、切り屑破断性は許容できるもの、すなわち切り屑による問題が発生しなかった。さらに、バリの生成、構成刃先、および切り屑幅の拡大については粒子を含まないものと比較してはるかに優れていた。
【0045】
基準材料であるCW511Lと比較すると、CW511L−50Xは切削抵抗および振動傾向が確実に優れている。切り屑破断性はCW511Lと同程度であったが、EcoBrassより大幅に優れていた。押出成形された棒材(直径50mm)について調査したところ、切削性はわずかに異なるのみであり、これは粒子が十分に分散していたことを示唆している。粒子が工具寿命に劇的な影響を与えるであろうことを示唆する徴候は認められなかった。CW511L−50Xの振動傾向はEcoBrassとほぼ同程度であった。バリの生成はEcoBrassと同程度であり、CW511Lよりもはるかに優れていた。
【0046】
CW511L−50Xの構成刃先の生成に関しては、付着物がほとんど検出されず、予期せぬ技術的効果が実証された。これはCW511Lよりも非常に優れており、EcoBrassよりも優れている。Alセラミック粒子を添加物として使用しても構成刃先の形成に影響がないと思われることは驚くべきことである。機械加工された細部部品は付着物を有するべきではないため、構成刃先の生成の有無は重要である。一般に、軟質の延性材料は構成刃先の問題が最も発生しやすいが、この場合は粒子および破片によって転位が固定されるため、被削材と接している切り屑はより硬質になったように振る舞う。粒子およびその破片の周囲の張力場は転位を固定し、さらなる塑性変形(plasticizing)を起こりにくくし、すなわち切り屑の材料を脆化させる。
【0047】
一般に延性材料は異物をほとんど含まず、多量の粒子や硬質の含有物を含まないので、構成刃先が頻発する場合が多い。もしこの材料が析出硬化により硬化すれば、構成刃先の生成に起因する問題がしばしば起こりにくくなるであろう。黄銅合金CW511L−50X、すなわち本発明による好ましい黄銅合金に含まれる本発明の粒子およびその破片により類似の効果が得られるようである。
【0048】
このことは、CW511L−50Xの降伏強度が大幅に上昇した(約30%)ことにより示唆される。格子に収まらない粒子は張力場に囲まれ、転位の移動を起こりにくくし、すなわち、転位を移動させるのに必要な力が増大する。粒界におけるナノ粒子はすべり面のすべり方向およびシフトに影響を及ぼすだけでなく、転位の移動にさえも影響を与え、それによって慣性が大きくなり、それによって今度は降伏強度が高くなる。
【0049】
実施例2
溶融プロセスの開始時に黄銅スクラップを含んだ溶融浴に直径500nmの球状のAlセラミックナノ粒子を撹拌しながら導入することにより、63.1重量%のCuと、36.7重量%のZnと、0.145重量%のPbと、0.06重量%のAsと、0.06重量%のAlとを含有する黄銅合金を製造した。溶融浴の温度は1040℃とした。黄銅スクラップは、上記最終組成を有する本発明の合金が得られる量の合金添加物を含むものとした。
【0050】
実施例2による黄銅合金は実施例1による黄銅合金と類似の性質を有していた。
参考文献:
1. http://www.svensktvatten.se/PageFiles/3562/Nilsson.pdf
2. http.//www.diehl.com/en/diehl-metall/company/brands/diehl-metall-messing/ecomerica/alloys.html
3. http://www.nordicbrass.se/PRODUKTER/Oversiktstanglegeringar/tabid/88/language/sv-SE/Default.aspx
4. O Rod, Swerea Kimab, Sweden
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