【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
正極活物質としてティムカル(TIMCAL)社製黒鉛(商品名:KS−6)と、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンが80:10:10wt%の比率になるように秤量後に、N−メチルピロリドンで溶解混合することで得たペーストを、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)でコーティングしたアルミニウム箔(20μm)上にドクターブレードを用いて塗布したものを正極とした。DLCコーティングしたアルミニウム箔(以下、「DLCコートアルミニウム箔」ということがある)は正極側の集電体であり、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材に相当する。DLCコートアルミニウム箔の製造法としては、純度99.99%のアルミニウム箔に対して、アルゴンスパッタリングでアルミニウム箔表面の自然酸化膜を除去した後、そのアルミニウム表面近傍にメタン、アセチレンおよび窒素の混合ガス中で放電プラズマを発生させ、アルミニウム材に負のバイアス電圧を印加することによりDLC膜を生成させた。ここで、DLCをコーティング(被覆)したアルミニウム箔上のDLC膜の厚みを、ブルカー(BRUKER)社製触針式表面形状測定器DektakXTを用いて計測したところ、135nmであった。
【0044】
次に関西熱化学社製の活性炭(商品名:MSP−20)とアセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンが80:10:10wt%の比率になるように秤量後に、N−メチルピロリドンで溶解混合することで得たペーストを日本蓄電器工業株式会社製エッチドアルミニウム箔(20μm)上にドクターブレードを用いて塗布したものを負極とした。
【0045】
次に、上記正極と負極を直径16mmに打ち抜いたものを150℃で24時間真空乾燥した後、グローブボックスへ移動した。これらを、紙セパレータ(商品名:TF40−30、日本高度紙工業社製)を介して積層し、有機電解液として、1Mのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEA−BF4)0.1mL加えて、アルゴングローブボックス中で2032型コインセルを作製した。
【0046】
[実施例2]
実施例1の負極側の集電体に、実施例1において正極側の集電体として用いたものと同一のDLCコートアルミニウム箔(20μm)を用いたこと以外は実施例1と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0047】
[実施例3]
実施例1の正極活物質として、大阪ガスケミカル株式会社製人造黒鉛(商品名:MCMB6−10)を用いたこと以外は実施例1と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0048】
[実施例4]
DLCコーティング条件(印加電圧や印加時間、温度)を変化させることで得た、DLC膜厚が0nmから420nmのDLCコートアルミニウム箔(20μm)を用いたこと以外は実施例1と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。なお、DLC膜厚が0nmのアルミニウム箔を用いた場合は本発明の実施例ではなく、後述する比較例1にあたる。
DLC膜厚と定電流定電圧連続充電試験前後での放電容量改善率および放電容量維持率との関係を
図1に示した。なお、放電容量改善率は、充放電試験装置(ナガノ社製、BTS2004)を用いて、60℃の恒温槽中で0.4mA/cm
2の充電電流、3.5Vで2000時間の連続充電試験(定電流定電圧連続充電試験)を行い、定電流定電圧連続充電試験開始前の放電容量に対して定電流定電圧連続充電試験後の放電容量維持率が80%以下になった充電時間を寿命とし、比較例1(DLC膜厚が0nm(DLC膜なし))の寿命になった時間を100と規格化して評価したものである。
【0049】
[比較例1]
厚みが20μmのプレーンのアルミニウム箔を正極側の集電体に用いたこと以外は実施例1と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0050】
[比較例2]
厚みが20μmの日本蓄電器工業株式会社製エッチドアルミニウム箔を正極側の集電体に用いたこと以外は実施例1と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0051】
[比較例3]
厚みが20μmのプレーンのアルミニウム箔を負極側の集電体に用いたこと以外は実施例2と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0052】
[比較例4]
実施例1の活性炭(商品名:MSP−20)を負極活物質に用いた負極を正極にも用いた(すなわち、活性炭を正極活物質にも負極活物質にも用いた場合)こと以外は実施例1と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0053】
[比較例5]
厚みが20μmの日本蓄電器工業株式会社製エッチドアルミニウム箔を正極側の集電体に用いたこと以外は実施例3と同様のコインセルについて、同様の評価を行った。
【0054】
<評価(エネルギー、放電容量)>
得られたセルについて、充放電試験装置(ナガノ社製、BTS2004)を用いて、25℃の恒温槽中で0.4mA/cm
2の電流密度で0〜3.5Vの範囲で充放電を行い、得られた放電容量と平均放電電圧よりエネルギー(Wh)を算出した結果を表1に示す。表1においては、実施例1のエネルギーと放電容量を比較例4で規格化した値、実施例3のエネルギーと放電容量を比較例4で規格化した値を示した。この際、比較例4の数値を100として規格化した。
なお、印加電圧の上限について、黒鉛を正極活物として用いた実施例1及び3では3.5Vまで印加できたが、活性炭を正極に用いた比較例4では、2.5Vまでで測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
従来の活性炭を正極活物質に用いた比較例4に対して、黒鉛を正極活物質に用いた実施例1と実施例3のエネルギー(放電容量と放電平均電圧の積)はそれぞれ、4.2倍、3.1倍になり、高エネルギー化を図ることができた。これは、黒鉛はその層間に電解質イオンを挿入脱離することができ、電解質イオンを細孔表面で吸脱着する活性炭に比べて放電容量を大きくできるためと考えられる。実際、放電容量について、比較例4に対して実施例1の場合は3倍、実施例3の場合は2.2倍にすることができた。また、黒鉛を正極活物質に用いた場合、活性炭を正極活物質に用いた場合に比べて、電圧を高くできたこともエネルギーを向上できた要因である。
【0057】
実施例1と実施例3の違いは正極活物質の黒鉛の種類が異なるだけであるが、エネルギー及び放電容量で表1に示す通りの違いがある。
ティムカル(TIMCAL)社製黒鉛(商品名:KS−6)は菱面体晶が26%含まれる(従って、六方晶は76%)のに対して、大阪ガスケミカル株式会社製のメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は菱面体晶が含まれていない。
菱面体晶はABCABCからなる層構造であり、六方晶はABABからなる層構造であり、結晶構造の違いが上記の性能に影響していると考えられる。すなわち、菱面体晶の方が六方晶よりも、イオンの挿入に伴う構造の変化が大きいため、イオンの挿入が起きにくいことが影響しているものと考えられる。
表1に示した結果に基づくと、エネルギー及び放電容量の観点では、正極活物質の黒鉛としては菱面体晶が含まれることが好ましい。
【0058】
<評価(放電容量改善率)>
得られたセルについて、充放電試験装置(ナガノ社製、BTS2004)を用いて、60℃の恒温槽中で0.4mA/cm
2の充電電流、3.5Vで2000時間連続充電試験(定電流定電圧連続充電試験)を行った。定電流定電圧連続充電試験開始前の放電容量に対して定電流定電圧連続充電試験後の放電容量維持率が80%以下になった充電時間を寿命とし、比較例での寿命になった時間を100として規格化して、放電容量改善率として表2に示した。すなわち、比較例1のプレーンのアルミニウム箔や比較例1及び5のエッチドアルミニウム箔を正極側の集電体に用いた場合を100として規格化した。
【0059】
【表2】
【0060】
正極活物質である黒鉛が菱面体晶を含み、かつ、正極側の集電体がDLCコートアルミニウム箔(DLC膜が135nm)であった実施例1では、2000時間の定電流定電圧連続充電試験後に放電容量維持率は82%であった。また、正極活物質である黒鉛が菱面体晶を含まず、かつ、正極側の集電体がDLCコートアルミニウム箔(DLC膜が135nm)であった実施例3では、2000時間の定電流定電圧連続充電試験後に放電容量維持率は80%であった。
本発明の電気二重層キャパシタによって、3V以上の電圧、60℃で2000時間の定電流定電圧連続充電試験後の放電容量維持率80%以上という規格を満足することができるようになった。
【0061】
これに対して、正極活物質である黒鉛が菱面体晶を含み、かつ、正極側の集電体がプレーンのアルミニウム箔であった比較例1では、61時間で放電容量維持率が80%以下になった。
また、正極活物質である黒鉛が菱面体晶を含み、かつ、正極側の集電体にエッチドアルミニウム箔を用いた比較例2では、65時間で放電容量維持率が80%以下になった。
また、正極活物質である黒鉛が菱面体晶を含まず、かつ、正極側の集電体にエッチドアルミニウム箔を用いた比較例5では、77時間で放電容量維持率が80%以下になった。
【0062】
表2に示した通り、本発明のDLCコートアルミニウム箔を正極側の集電体に用いた実施例1や実施例3では、正極側の集電体がプレーンのアルミニウム箔やエッチドアルミニウム箔である比較例に対して大幅に耐久性を改善できた。
この結果は、耐久性を阻む主な要因が集電体の腐食にあることを示すものである。
【0063】
<非晶質炭素被膜の膜厚の影響>
実施例4として、DLC膜の膜厚を変えて上述の定電流定電圧連続充電試験を行った結果、膜厚が40nmの場合、305時間で放電容量維持率が80%以下になり、膜厚が60nmの場合、1340時間で放電容量維持率が80%以下になり、膜厚が80nmの場合、1525時間で放電容量維持率が80%以下になった。一方、膜厚が120nm以上の場合(最大、330nmまで測定)には、2000時間後(定電流定電圧連続充電試験後)も放電容量維持率が80%を維持していた。
【0064】
以上の通り、DLC膜の膜厚が60nm以上であれば、60℃、3.5Vの定電流定電圧連続充電試験で1000時間以上、放電容量維持率80%を維持できることがわかった。また、DLC膜の膜厚が80nm以上であれば、60℃、3.5Vの定電流定電圧連続充電試験で1500時間以上、放電容量維持率80%を維持できることがわかった。また、DLC膜の膜厚は120nm以上であれば、印加電圧3.5Vで上述の定電流定電圧連続充電試験後に放電容量維持率80%を維持できる。
【0065】
上述の通り、定電流定電圧連続充電試験において、比較例1の寿命は61時間であった。
図1は、比較例1の寿命である61時間を100と規格化して評価したものである。
図1から、DLC膜の膜厚が60nmを超えると、DLC膜がない場合(DLC膜が0nm)に比べて、放電容量改善率が大幅に向上していることがわかる。
一方、DLC膜の膜厚がさらに増加し、120nmを超えると、高い放電容量改善率を維持できるが、300nmを超えるとDLC膜と電極活物質層との間の電気抵抗が大きくなるために、放電容量維持率が低下する。
従って、本発明の電気二重層キャパシタでは、DLC膜の膜厚は60nm以上、300nm以下の範囲である。
【0066】
図2に、実施例1(正極集電体がDLCコートアルミニウム箔、負極集電体がエッチドアルミニウム箔の場合)のコインセルと、比較例2(正極集電体及び負極集電体のいずれもエッチドアルミニウム箔の場合)のコインセルについて、充放電試験装置(ナガノ社製、BTS2004)を用いて、60℃の恒温槽中で0.4mA/cm
2の充電電流、3.5Vで連続充電試験(定電流定電圧連続充電試験)を行った結果を示す。
グラフは、試験開始前の放電容量を100とし、試験開始後、各充電時間経過後の放電容量を、その100の放電容量に対する割合で示したものである。
【0067】
比較例2のコインセルについては、264時間後に放電容量は既に10%になり、432時間後に放電容量は0%であったのに対して、実施例1のコインセルについて放電容量は、264時間後、432時間後にそれぞれ、92%、90%であり、1000時間経過後でも86%であった。