特許第6167254号(P6167254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167254ヨウ素系エッチング廃液からのAu回収とエッチング溶液を再生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6167254
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ヨウ素系エッチング廃液からのAu回収とエッチング溶液を再生する方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/20 20060101AFI20170710BHJP
   C25C 1/00 20060101ALI20170710BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20170710BHJP
   C23F 1/46 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
   C25C1/20
   C25C1/00
   C02F1/46 101B
   C23F1/46
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-25928(P2017-25928)
(22)【出願日】2017年2月15日
【審査請求日】2017年2月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢吾
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/192581(WO,A1)
【文献】 特開昭60−177192(JP,A)
【文献】 特開平01−184281(JP,A)
【文献】 特開2003−105570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C1/00−7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Auを含有する使用済みのヨウ素系エッチング溶液から、Auを電解回収すると共に該エッチング溶液を再生する方法であって、陰極の電位を−0.75V〜−0.95V(参照極:Ag/AgCl)に設定し、陰極の電流密度に対する陽極の電流密度の比を3〜50(但し、3は含まない)に設定することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種半導体部品におけるAu薄膜を微細加工した際に排出される使用済みのヨウ素系エッチング溶液の処理に関し、このヨウ素系エッチング廃液からのAu回収とエッチング溶液の再生を、安定的で効率的に行うことができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体部品の配線にはAuなどの導電性の高い材料が使用されている。Au配線は、PVD法などを用いて成膜した後、ウエット・エッチングによる微細加工によって形成されるが、その際使用済みのエッチング液には高価なAuが含まれている。この時エッチング溶液としては、ヨウ素系のエッチング液が多用されており、このヨウ素系のエッチング溶液から、各種還元剤を用いた化学還元、金属粉による置換析出、電解採取法などを用いて、Auが回収されている。
【0003】
一方、Au回収後のヨウ素系エッチング溶液は、エッチング能力を有する三ヨウ化物イオン(I)が還元されて、ヨウ化物イオン(I)となり、その結果、エッチング能力が低下し、Au回収後のヨウ素系エッチング溶液の再利用が困難となっていた。
これについて、特許文献1では、使用済みのエッチング液を、隔膜を用いた電気分解により処理することで、Auを回収すると共に、還元されたヨウ化物イオン(I)を酸化して三ヨウ化物イオン(I)とし、そのエッチング能力を回復させる(エッチング溶液の再生)ことが行われている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、処理時間の経過とともに電流密度が変動してしまい、陰極側では、電流密度の上昇に伴う水の電気分解により、pHが高くなって、エッチング能力が低下し、一方、陽極側でも、電流密度の上昇に伴う水の電解分解によりpHが低くなって、エッチング能力が過剰となるという問題が生じた。さらに、陽極側において、ヨウ素(I)がその電極上に析出してしまい、溶液中のヨウ化物イオン(I)の濃度が低下し、安定的で効率的なエッチング液の再生が困難となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−202484号公報
【特許文献2】特許第5669995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Auを含有する使用済みのエッチング溶液から、Auの回収及びエッチング液の再生を行う場合、上述の通り、電解条件の変動によって安定的で効率的に電解を行うことが困難であった。これに対して、引用文献2では、電気分解中の陰極電位と陽極電位とを一定の範囲に維持することで、Auの回収率を高めると共にエッチング液の能力を回復させる技術が行われている。しかし、この方法の場合、処理前後の溶液のpHを±0.5以内と厳密に抑えるために煩雑な制御が必要となり、また、陰極電位が−0.7V以上と低いため、処理時間が増えるという問題があった。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決するものであって、Auを含有する使用済みヨウ素系エッチング液から、Auを回収すると共に該ヨウ素系エッチング溶液を再生する方法に関し、特に、厳密なpH制御を行うことなく、安定的で効率的に、使用済みのヨウ素系エッチング液を再生する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行った結果、陰極の電流密度と陽極の電流密度を適切に調整することで、厳密なpH調整を行わなくとも、水の電気分解やヨウ素の析出を抑制することが可能となり、これにより、Auの回収と共に、エッチング液の再生を安定的で効率良く行うことができるとの知見が得られた。本発明者は、この知見に基づき下記の発明を提供する。
1)Auを含有する使用済みのヨウ素系エッチング溶液から、Auを電解回収すると共に該エッチング溶液を再生する方法であって、陰極の電位を−0.75V〜−0.95V(参照極:Ag/AgCl)に設定し、陰極の電流密度に対する陽極の電流密度の比を3〜50(但し、3は含まない)に設定することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Auを含有する使用済みのヨウ素系エッチング溶液から、Auを電解回収すると共に、使用済みのエッチング溶液を再生する方法において、陰極と陽極の電流密度を適切に調整することで、水の電気分解やヨウ素の析出を抑制することが可能となり、これにより、Auの回収と共に、安定的で効率的にエッチング液の再生を行うことができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】Au含有使用済みエッチング溶液の反応プロセス概略図である。
図2】Au含有使用済みエッチング溶液の処理フロー概略図である。
図3】電解後の陽極にヨウ素が析出した写真(比較例1)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のAuを含有する使用済みエッチング溶液の処理(反応プロセス)の概略図を図1に示す。図1の通り、電解槽は隔膜(陽イオン交換膜)によって、陽極室と陰極室に分離されており、陰極室にはAuを含有するヨウ素系エッチング溶液(Au含有使用済みエッチング溶液)が供給され、陽極室にはAu回収後のヨウ素が(IからIに)還元されたエッチング溶液が供給(移動)される。そして、陰極室においてAuの回収を行い、陽極室においてエッチング溶液の再生を行う。
【0012】
図2にAuを含有する使用済みエッチング溶液の処理フローの概略図を示す。図2の通り、陰極室に供給されたAu含有使用済みエッチング溶液は、電解処理により、陰極にAuを析出させて、これを回収する。他方、ヨウ素が(IからIに)還元されたAu回収後の使用済みエッチング溶液を、陽極室に供給(移動)し、これを電解処理してエッチング能力のある三ヨウ化物イオン(I)に酸化することで、エッチング溶液として再利用可能なものとする。
【0013】
ところで、前記電解処理において、電流密度が増大すると、水の電気分解が生じて、陰極側では、pHが上昇して、再生エッチング溶液のエッチング能力が低下するという問題があった。また、陽極室では、pHが低下して、再生エッチング溶液のエッチング能力が過剰になるという問題が生じた。さらに、陽極室では、pH低下に伴って、その電極上にヨウ素が析出しまい、再生エッチング溶液中のヨウ化物イオンの濃度が減少するという問題があった。
【0014】
そこで、本発明者は、陰極側の電流密度を陰極の電位で制御し、陽極側の電流密度を陰極との電流密度比で制御することにより、従来のようにpHを厳密に管理しなくとも、上記副反応(水の電気分解及びヨウ素の析出)を効果的に抑制できるとの知見を得た。このような知見に基づき、本発明は、陰極の電位を−0.75V〜−0.95V(参照極:Ag/AgCl)に設定し、陰極の電流密度に対する陽極の電流密度の比を3〜50(但し、3は含まない)に設定することを特徴とするものである。
【0015】
本発明において、陰極の電位を−0.95V以上、−0.75V以下(参照極:Ag/AgCl)とするのが好ましい。陰極の電位が−0.75Vを超えると、電解による処理時間が長くなって生産効率が低下し、一方、−0.95V未満であると、陰極側で水の電気分解が顕著に現れるためである。なお、陰極電位の制御には、参照極と陰極の電位差を常時測定し、これをフィードバック制御で整流器の出力電圧に反映させる方法がある。
【0016】
また、陰極の電流密度に対する陽極の電流密度の比は、3〜50(但し、3は含まない)の範囲内とすることが好ましい。この範囲を逸脱すると、電流密度が増大による、水の電気分解が生じて、pHの低下に伴う、再生エッチング溶液のエッチング能力過剰という問題、さらに、陽極上にヨウ素が析出するという問題が生じる。なお、電流密度比の調整には、後述するように、各電極の面積比(電解液に浸漬した面積の比)により調整することができる。
【0017】
また、電解処理直前の陰極室と陽極室のpHは、4〜6に調整することが好ましい。電解処理直前のpHが4〜6の範囲外となると、エッチング液の再生能力が低下若しくは過剰となる。電解直前のpHを前記範囲内に設定することで、Auの回収と共にエッチング液の再生を安定的かつ効率良く行うことができる。なお、pHの変動を抑制するために、陰極室に硫酸などの酸溶液、陽極室に苛性ソーダなどのアルカリ溶液を添加して、pH調整することができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例は、あくまで代表的な例を示しているもので、本発明はこれらの実施例に制限される必要はなく、明細書の記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0019】
(実施例1)
陰極室と陽極室が陽イオン交換膜によって分離された電解槽において、前記陰極室にAu含有エッチング溶液500mLを供給した。
該Au含有エッチング溶液は、以下の成分からなる。KI(0.25mol/L)+I(0.14mol/L)+Au(0.03mol/L)
一方、前記陽極室には、Au回収後(ヨウ素還元後)の溶液500mLを供給した。
該Au回収後(ヨウ素還元後)の溶液は、以下の成分からなる。
KI(0.25mol/L)
【0020】
陰極(対極)にTiを用い、陽極(作用極)にTiにIrOをコーティングしたものを用い、参照極をAg/AgClとした。このとき、Ti電極の浸漬面積を20cm、IrO電極の浸漬面積を62cmとし、陰極と陽極の面積比(電流密度比)を3.1とした。そして、陰極電位を−0.75Vとし、溶液を20℃にキープして電解処理を行った。そして、電流値が5mA以下になった時点で電解を終了した。
【0021】
以上の電解処理によって、陰極室でのAuの回収率は95.9%であった。また、電解前後でのpHの変化を調べたところ、陽極室では、電解前がpH5.16、電解後が4.95、陰極室では、電解前がpH5.61、電解後が4.88と、水の電気分解を抑制することができた。再生後のエッチング液のエッチング性能を調べて結果、液量が2.10Lのエッチング液に対して、Auが12.22g溶解し(Au濃度は5.82g/L)、Auエッチング液として再利用可能なことを確認した。
【0022】
(実施例2)
Ti電極の浸漬面積を2cm、IrO電極の浸漬面積を100cmとし、陰極と陽極の面積比(電流密度比)を50とし、それ以外は、実施例1と同様の条件で電解処理を行った。
以上の電解処理によって、陰極室でのAuの回収率は96.3%であった。また、電解前後でのpHの変化を調べたところ、陽極室では、電解前がpH5.01、電解後が4.98、陰極室では、電解前がpH5.11、電解後が5.13と、水の電気分解を抑制することができた。再生後のエッチング液のエッチング性能を調べて結果、液量が2.15Lのエッチング液に対して、Auが12.31g溶解し(Au濃度は5.73g/L)、Auエッチング液として再利用可能なことを確認した。
【0023】
(実施例3)
陰極電位を−0.95Vとし、それ以外は、実施例1と同様の条件で電解処理を行った。
以上の電解処理によって、陰極室でのAuの回収率は96.1%であった。また、電解前後でのpHの変化を調べたところ、陽極室では、電解前がpH4.99、電解後が4.31、陰極室では、電解前がpH4.99、電解後が5.88と、水の電気分解を抑制することができた。再生後のエッチング液のエッチング性能を調べて結果、液量が2.08Lのエッチング液に対して、Auが11.99g溶解し(Au濃度は5.76g/L)、Auエッチング液として再利用可能なことを確認した。
【0024】
(比較例1)
Ti電極の浸漬面積を40cm、IrO電極の浸漬面積を80cmとし、陰極の接液面積に対する陽極の接液面積の面積比を2とし、それ以外は、実施例1と同様の方法で電解処理を行った。
電解前後でのpHの変化を調べたところ、陽極室では、電解前がpH4.55、電解後が1.71、陰極室では、電解前がpH5.14、電解後が1.69と、水の電気分解によりpHが上昇した。また、水素イオンが陰極室にも移動し、同様に、pHが上昇していた。さらに、図3に示すように電解後の陽極にヨウ素が析出していた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の隔膜電解処理法によるAuを含有する使用済みのヨウ素系エッチング溶液からAuを回収する方法及び該エッチング溶液を再生する方法は、安定的かつ効率良く行うことができると共に、電解時間を大幅に短縮することができ、生産効率を高めることができるという優れた効果を有する。本発明の方法は、電子機器、電子部品、基板や半導体などにおける材料のリサイクル分野において有用である。
【要約】
Auを含有する使用済みのヨウ素系エッチング溶液から、Auを電解回収すると共に該エッチング溶液を再生する方法であって、陰極の電位を−0.75V〜−0.95V(参照極:Ag/AgCl)に設定し、陰極の電流密度に対する陽極の電流密度の比を3〜50(但し、3は含まない)に設定することを特徴とする方法。本発明は、厳密なpH制御を行うことなく、安定的で効率的に、使用済みのヨウ素系エッチング液を処理する方法(Auを回収すると共に該ヨウ素系エッチング溶液を再生する方法)を提供することを課題とする。
【選択図】なし
図1
図2
図3