(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6167256
(24)【登録日】2017年6月30日
(45)【発行日】2017年7月19日
(54)【発明の名称】ボールジョイント用ダストカバー及びボールジョイント用ダストカバーの取付け方法
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20170710BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20170710BHJP
【FI】
F16C11/06 Q
F16J15/52 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-521596(P2017-521596)
(86)(22)【出願日】2016年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2016082714
【審査請求日】2017年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-228170(P2015-228170)
(32)【優先日】2015年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(72)【発明者】
【氏名】金川 幸司
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−130118(JP,U)
【文献】
特開平11−063245(JP,A)
【文献】
特開2003−247527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールスタッドの軸部に、ナックル溝を有するピンチボルトタイプのナックルが締め付け固定されるボールジョイントに装着されるボールジョイント用ダストカバーであって、
前記ボールジョイント用ダストカバーは、ゴム状弾性材からなるダストカバー本体と、該ダストカバー本体と前記ナックルとの間に介在される環状のプレート部材とにより構成され、
前記ダストカバー本体は、前記軸部の外周面に装着されるスタッド装着部に補強環が設けられていると共に、該補強環の内周側に、前記ナックル側から一定の深さで切り欠かれた形状の環状段部が形成されており、
前記プレート部材は、プレート本体と、該プレート本体の内周側に設けられ、前記ダストカバー本体の前記環状段部内に収容されるゴム状弾性材からなる環状シール部とからなり、
前記プレート本体は、外周に複数の切込み部が形成されることにより、隣接する前記切込み部間にそれぞれ外周花弁部が形成され、該外周花弁部が前記ナックル溝と係合するように折り曲げ可能に構成されていることを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項2】
前記ダストカバー本体の前記スタッド装着部の上端外周部に、前記プレート部材の前記プレート本体の下面に対してシールする第1のシールリップ部を有すると共に、前記プレート部材の前記環状シール部の外周面に、前記環状段部の内周面に対してシールする第2のシールリップ部を有することを特徴とする請求項1記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項3】
前記補強環は、前記環状段部に露出しており、
前記第2のシールリップ部は、前記環状段部に露出した前記補強環の内周面に対してシールしていることを特徴とする請求項2記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項4】
前記ダストカバー本体の前記スタッド装着部の内周面に、前記軸部の外周面に対してシールする第3のシールリップ部を有することを特徴とする請求項1、2又は3記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項5】
前記プレート部材の前記環状シール部の内周面に、前記軸部の外周面に対してシールする第4のシールリップ部を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のボールジョイント用ダストカバー。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のボールジョイント用ダストカバーをボールジョイントに取り付ける取り付け方法であって、
前記ダストカバー本体と前記プレート部材を前記軸部に装着した後、該軸部に、前記プレート部材を前記ダストカバー本体との間で挟むように前記ナックルを取付け、
次いで、前記プレート部材の前記プレート本体に形成された複数の前記外周花弁部のうち、前記ナックル溝に対応する位置の前記外周花弁部を該ナックル溝と係合するように折り曲げることにより、該プレート本体を前記ナックルに対して位置決めすることを特徴とするボールジョイント用ダストカバーの取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールジョイント用ダストカバー及びボールジョイント用ダストカバーの取付け方法に関し、詳しくは、ボールスタッドの軸部に、ナックル溝を有するピンチボルトタイプのナックルが締め付け固定されるボールジョイントに装着されるボールジョイント用ダストカバー及びボールジョイント用ダストカバーの取付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の懸架装置や操舵装置等にはボールジョイントが数多く使用されている。ボールジョイントは、動きを滑らかにするために内部にグリースが封入され、その流出防止と外部からの水やダスト等の異物の浸入を防ぐために、ダストカバーで覆われている。
【0003】
ボールジョイントとしては、ナックルとポールスタッドとの締結方法の相違によって、テーパー合わせボールジョイントとピンチボルトボールジョイントとに大別される。
【0004】
テーパー合わせボールジョイントは、
図8に示すように、ポールスタッドの軸部100のテーパー状の外周面100aとナックル200のテーパー状の内周面200aとが重なる位置でナックル200の位置を決定するものである。この場合、ダストカバーは、シールリップ部を軸部100とナックル200の下端面200bとに対して密接するように設けることで、それぞれシールするようになっている。従って、ダストカバーによるシール部位は、
図8中に符号S1、S2で示すように、ボールスタッドの軸部100からナックル200の下端面200bに亘って形成される。
【0005】
これに対し、ピンチボルトボールジョイントは、
図9(a)(b)に示すように、ボールスタッドの軸部100に対して、ピンチボルトタイプのナックル200をボルト300で締め付け固定する構造を有している。この場合、ナックル200にはナックル溝(すり割り溝)201が形成されているため、ダストカバーのシール部位を、テーパー合わせボールジョイントのようにナックル200の下端面200bに設定することができない。このため、シール部位は、図中に符号Sで示すように、軸部100の外周面100aに対する部位のみとなり、ナックル溝201から水や異物が浸入し易い構造となっている。
【0006】
従来、この対策として、
図10に示すように、ダストカバー本体401と環状のプレート部材402とで構成されたダストカバー400が提案されている(特許文献1)。
図10(a)はダストカバー400のシール部位を示す拡大断面図、
図10(b)はプレート部材402の平面図である。
【0007】
プレート部材402は、硬質材製の環状板部材402aと、環状板部材402aの内周側に一体的に形成されたゴム状弾性材製の環状シール部402bとで構成されており、ダストカバー本体401とナックル200との間に介在されている。環状シール部402bは、環状板部材402aのナックル200側表面に突出するように設けられている。ナックル200の内周側下端部には、この環状シール部402bを収容するための環状段部202が形成されている。また、プレート部材402は、環状シール部402bの外周側に位置する環状板部材402aのナックル200側表面に、ナックル溝201と係合するゴム状弾性材製の1つの係合突起402cが設けられている。これにより、プレート部材402がナックル200に対して回転することを防止している。
【0008】
このダストカバー400によれば、プレート部材402の環状板部材402aによってナックル溝201の下端面側を塞ぐことができるため、ダストカバー本体401の上端部に設けられたシールリップ部401aを、環状板部材402aの下面に対して密接させることにより、ナックル200側に対するシール部位を形成することができる。従って、テーパー合わせボールジョイントの場合と同様に、ボールスタッドの軸部100からナックル200側に亘ってシール部位を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−152058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように特許文献1記載のダストカバー400は、テーパー合わせボールジョイントの場合と同様のシール部位を形成することができるため、異物浸入を確実に防止できる優れた効果を発揮する。しかし、技術の更なる向上を目指すべく本発明者が鋭意検討したところ、以下の新たな課題が見出された。
【0011】
従来のダストカバー400は、
図10(a)に示すように、ダストカバー本体401とナックル200との間にプレート部材402を有するため、ボールスタッドの軸部100に対するシール幅W2は、ダストカバー本体401のみによる通常のシール幅W21に、プレート部材402の環状シール部402bによるシール幅W22を加えた幅となる。すなわち、プレート部材402を設けた分だけシール幅が増加する。この場合、ナックル200の下端から突出する軸部100の長さは設計上変更できないため、シール幅W22の増加分を吸収するべく、環状シール部402bを収容するための環状段部202をナックル200に新たに加工しなくてはならないという課題がある。
【0012】
また、このダストカバー400の装着作業は、ダストカバー本体401とプレート部材402を軸部100に装着した後、ナックル200を軸部100に取り付け、ボルト300を締め付けることによって行われる。このナックル200の取り付けに際し、プレート部材402を軸周りに回転させ、係合突起402cの位置をナックル溝201の位置と合致させて位置決めした後、ナックル溝201によって係合突起402cを挟着するようにしている。このため、装着時にナックル溝201と係合突起402cの位相合わせの手間が必要となるという課題がある。通常、ボールジョイントは狭小なスペースに配置されることが多いため、更なる作業性の向上を図る上では、プレート部材402の位置決め時にナックル溝201との位相合わせの手間が省かれるようにすることが望ましい。
【0013】
そこで、本発明の課題は、ダストカバー本体とプレート部材とで構成されるダストカバーにおいて、ボールスタッドの軸部に対するシール幅を小さく抑え、ナックルに対する加工を不要にできると共に、装着時のプレート部材の位置決め時にナックル溝との位相合わせの手間を省くことができるボールジョイント用ダストカバーを提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の課題は、装着時のプレート部材とナックル溝との位相合わせの手間を省いて、プレート部材を容易に位置決めできるボールジョイント用ダストカバーの取り付け方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0017】
1.ボールスタッドの軸部に、ナックル溝を有するピンチボルトタイプのナックルが締め付け固定されるボールジョイントに装着されるボールジョイント用ダストカバーであって、
前記ボールジョイント用ダストカバーは、ゴム状弾性材からなるダストカバー本体と、該ダストカバー本体と前記ナックルとの間に介在される環状のプレート部材とにより構成され、
前記ダストカバー本体は、前記軸部の外周面に装着されるスタッド装着部に補強環が設けられていると共に、該補強環の内周側に、前記ナックル側から一定の深さで切り欠かれた形状の環状段部が形成されており、
前記プレート部材は、プレート本体と、該プレート本体の内周側に設けられ、前記ダストカバー本体の前記環状段部内に収容されるゴム状弾性材からなる環状シール部とからなり、
前記プレート本体は、外周に複数の切込み部が形成されることにより、隣接する前記切込み部間にそれぞれ外周花弁部が形成され、該外周花弁部が前記ナックル溝と係合するように折り曲げ可能に構成されていることを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
2.前記ダストカバー本体の前記スタッド装着部の上端外周部に、前記プレート部材の前記プレート本体の下面に対してシールする第1のシールリップ部を有すると共に、前記プレート部材の前記環状シール部の外周面に、前記環状段部の内周面に対してシールする第2のシールリップ部を有することを特徴とする前記1記載のボールジョイント用ダストカバー。
3.前記補強環は、前記環状段部に露出しており、
前記第2のシールリップ部は、前記環状段部に露出した前記補強環の内周面に対してシールしていることを特徴とする前記2記載のボールジョイント用ダストカバー。
4.前記ダストカバー本体の前記スタッド装着部の内周面に、前記軸部の外周面に対してシールする第3のシールリップ部を有することを特徴とする前記1、2又は3記載のボールジョイント用ダストカバー。
5.前記プレート部材の前記環状シール部の内周面に、前記軸部の外周面に対してシールする第4のシールリップ部を有することを特徴とする前記1〜4の何れかに記載のボールジョイント用ダストカバー。
6.前記1〜5の何れかに記載のボールジョイント用ダストカバーをボールジョイントに取り付ける取り付け方法であって、
前記ダストカバー本体と前記プレート部材を前記軸部に装着した後、該軸部に、前記プレート部材を前記ダストカバー本体との間で挟むように前記ナックルを取付け、
次いで、前記プレート部材の前記プレート本体に形成された複数の前記外周花弁部のうち、前記ナックル溝に対応する位置の前記外周花弁部を該ナックル溝と係合するように折り曲げることにより、該プレート本体を前記ナックルに対して位置決めすることを特徴とするボールジョイント用ダストカバーの取り付け方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ダストカバー本体とプレート部材とで構成されるダストカバーにおいて、ボールスタッドの軸部に対するシール幅を小さく抑え、ナックルに対する加工を不要にできると共に、装着時のプレート部材の位置決め時にナックル溝との位相合わせの手間を省くことができるボールジョイント用ダストカバーを提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、装着時のプレート部材とナックル溝との位相合わせの手間を省いて、プレート部材を容易に位置決めできるボールジョイント用ダストカバーの取り付け方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーが装着されたピンチボルトボールジョイントの一例を示す断面図
【
図2】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーを分解して示す断面図
【
図3】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーにおけるプレート部材の平面図
【
図4】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーが装着されたピンチボルトボールジョイントの要部断面図
【
図5】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーをボールスタッドの軸部に装着する様子を説明する説明図
【
図6】(a)は本発明に係るボールジョイント用ダストカバーが装着されたボールスタッドの軸部にナックルを取り付けた様子を説明する説明図、(b)はその平面図
【
図7】プレート部材の外周花弁部をナックル溝内に折り曲げる様子を説明する説明図
【
図8】テーパー合わせボールジョイントの要部側面図
【
図9】(a)はピンチボルトボールジョイントの要部側面図、(b)はその要部平面図
【
図10】(a)は従来のボールジョイント用ダストカバーを装着したピンチボルトボールジョイントの要部断面図、(b)は従来のボールジョイント用ダストカバーにおけるプレート部材の平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーが装着されたピンチボルトボールジョイントの一例を示す断面図、
図2は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーを分解して示す断面図、
図3は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーにおけるプレート部材の平面図、
図4は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーが装着されたピンチボルトボールジョイントの要部断面図である。
【0023】
図1に示すように、ピンチボルトボールジョイント10(以下、ボールジョイント10という。)は、ボールスタッド11の軸部12の一端に形成された球頭部13がソケット14内に回動可能に保持されている。軸部12には、ナックル溝151を有するピンチボルトタイプのナックル15がボルト16によって締め付け固定されている。本発明に係るボールジョイント用ダストカバー1(以下、ダストカバー1という。)は、ナックル15の下端面15aとソケット14との間の空間を覆うように装着されている。
【0024】
ダストカバー1は、
図2に示すように、ダストカバー本体2と、このダストカバー本体2とナックル15との間に介在されるプレート部材3とによって構成されている。
【0025】
ダストカバー本体2は、ゴム状弾性材によってカップ状に形成されている。ダストカバー本体2の一端(図示上端)は、ボールスタッド11の軸部12を挿通させるスタッド装着部21であり、他端(図示下端)は、ソケット14の上端部に装着されるソケット装着部22である。
【0026】
スタッド装着部21は、ボールスタッド11の軸部12を挿通させ、その軸部12の外周面12aに摺動可能に装着されるように、ソケット装着部22に比べて小径に開口している。このスタッド装着部21には、金属製又は硬質合成樹脂製の補強環23が設けられている。また、ソケット装着部22は、スタッド装着部21よりも大径に開口しており、ソケット14に対して固定されるようになっている。ソケット装着部22には、金属製又は硬質合成樹脂製の補強環24が埋設されている。
【0027】
スタッド装着部21の上端外周部には、プレート部材3に対して密接してシールする環状のシールリップ部211(第1のシールリップ部)が、斜め外方に向けて突出形成されている。また、スタッド装着部21の内周面には、軸部12の外周面12aに対して密接してシールするシールリップ部212(第3のシールリップ部)が形成されている。
【0028】
更に、補強環23の内周側には、上方(ナックル15側)から一定の深さで環状に切り欠かれた形状の環状段部25が形成されている。これにより、スタッド装着部21は、環状段部25が形成された相対的に大径な部分と、この環状段部25の下方に一体的に連設される相対的に小径な部分とを有する形状で開口している。このうちの小径な部分が軸部12の外周面12aと接する部位であり、この小径な部分にシールリップ部212が形成されている。シールリップ部212の内径は、軸部12の外周面12aと密接するように、軸部12の径よりもやや小径に形成されている。
【0029】
本実施形態において、補強環23は、ボールスタッド11の軸部12に沿う円筒部231と、この円筒部231の上端部に外側に向けて張り出したフランジ部232とを有する断面逆L字状に形成された好ましい態様を示している。補強環23は、円筒部231の下端側の略半分がスタッド装着部21を構成するゴム状弾性材中に配設されている。また、円筒部231の上端側内周面は、環状段部25内に露出している。すなわち、環状段部25の内周面25aは、補強環23の円筒部231の内周面によって形成されている。
【0030】
一方、プレート部材3は、プレート本体31と環状シール部32とからなる。
【0031】
プレート本体31は、ダストカバー本体2のスタッド装着部21の外径、詳細にはシールリップ部211の外径よりも大径な環状板部材からなる。プレート本体31の内径は、軸部12の径よりもやや大径に形成されている。
【0032】
このプレート本体31の外周には、
図3に示すように、複数の切込み部311が一定間隔をおいて形成されている。これにより、プレート本体31は歯車状を呈しており、隣接する切込み部311、311間がそれぞれ外周花弁部312となっている。各外周花弁部312の周方向の幅L1は、ナックル15がボルト16によって軸部12に締め付け固定された状態のナックル溝151と係合可能となるように、該ナックル溝の幅L2(
図6(b)参照)と同一又は僅かに小さい程度となるように設定されている。
【0033】
プレート本体31の外周花弁部312は、例えばドライバー等の適宜の治具を使用して、ナックル溝151と係合するように、人手で容易に折り曲げ可能に構成されている。好ましくは、プレート本体31自体が、折り曲げ可能であり、折り曲げ後はその折り曲げ状態を維持可能な材質によって形成されている。具体的な材質としては、例えば、SPCC材(冷間圧延鋼板)、SUS材(ステンレス鋼材)等が挙げられる。
【0034】
図示する切込み部311は平面視U字状の切欠き溝によって形成されているが、より細幅のスリットであってもよく、具体的な形状は特に問わない。しかし、各切込み部311の周方向の幅L3は、外周花弁部312の幅L1よりも小さいことが好ましい。プレート本体31に多数の外周花弁部312を形成できるため、それだけナックル溝151に対応する位置に何れかの外周花弁部312を配置させ易くなり、外周花弁部312を折り曲げてナックル溝151に係合させる際の作業性をより良好なものとすることができる。
【0035】
環状シール部32は、ダストカバー本体2と同様のゴム状弾性材製であり、プレート本体31の内周部に、ダストカバー本体2側に向けて突出するように設けられている。この環状シール部32は、
図1及び
図4に示すように、ダストカバー1がボールジョイント10に装着された状態で、ダストカバー本体2の環状段部25内に収容されるようになっている。
【0036】
環状シール部32は、ナックル15側には突出しておらず、プレート部材3のナックル15側の表面は、ナックル15の下端面15aと平坦面同士で密接できるように、プレート本体31から環状シール部32に亘って面一状に形成されている。
【0037】
環状シール部32の外周面にはシールリップ部321(第2のシールリップ部)が形成されている。シールリップ部321の外径は、ダストカバー本体2の環状段部25の内径よりもやや大径となるように形成されている。従って、このシールリップ部321は、環状段部25の内周面25aに対して密接してシールする。
【0038】
また、環状シール部32の内周面にはシールリップ部322(第4のシールリップ部)が形成されている。このシールリップ部322の内径は、ダストカバー本体2のスタッド装着部21におけるシールリップ部212の内径と同一となるように形成されている。従って、このシールリップ部322は、軸部12の外周面12aに対して密接してシールする。
【0039】
以上のように構成されたダストカバー1は、ボールジョイント10に対する装着時に、プレート部材3の環状シール部32がダストカバー本体2の環状段部25内に収容され、ナックル15側に向けて突出することがない。このため、
図10(a)に示す従来例のように、ナックルに環状シール部を収容するための環状段部を加工する必要は全くない。
【0040】
また、ダストカバー1は、
図4に示すように、プレート部材3の環状シール部32がダストカバー本体2の環状段部25内に収容される構造であるため、軸部12の外周面12aに対するシール幅W1は、実質的にスタッド装着部21の軸方向幅と同程度で済み、シール幅W1を小さく抑えることができる。従って、ダストカバー本体2とプレート部材3とで構成されるダストカバー1でありながらも、軸部12に対するシール幅W1は、
図10(a)に示す従来のダストカバー本体401のシール幅W21と同程度で済み、プレート部材を設けない従来のダストカバーにおけるシール幅と同程度に抑えられる。このため、軸部12に対するスタッド装着部21の位置が、従来のダストカバーに比べてソケット14側に偏在することはなく、ダストカバー1の内部容積が縮小されることもない。
【0041】
更に、プレート部材3は、複数の外周花弁部312が折り曲げ可能であることにより、ナックル溝151に対応する位置にある何れかの外周花弁部312をナックル溝151側に折り曲げ、ナックル溝151と係合させることができる。この作業は、軸部12にナックル5を締め付け固定した後に行うことが可能であり、しかも、ナックル溝151と外周花弁部312との位相合わせのためにプレート部材3を大きく回転させる必要もない。このため、プレート部材3の位置決め時に、従来のようにプレート部材3を回転させてナックル溝151と位相合わせを行う手間を不要にすることができ、ダストカバー装着時の作業性を大幅に向上させることができる。
【0042】
図4に示すように、環状段部25内に環状シール部32が収容された状態で、ダストカバー本体2のシールリップ部211は、プレート部材3のプレート本体31の下面31aに密接してシール部位を形成し、プレート部材3のシールリップ部321は、ダストカバー本体2の環状段部25の内周面25aに密接してシール部位を形成する。すなわち、ダストカバー1の外部から内部への水や異物の浸入経路は、シールリップ部211とシールリップ部321の2か所で遮断される。従って、万が一、水や異物が外側のシールリップ部211を通過することがあっても、内側のシールリップ部321によってダストカバー1の内側への浸入を阻止することができる。このため、二重のシール部位によって異物の浸入阻止効果を高めることができる。しかも、軸部12に対するシール部位も、シールリップ部212、322の二重のシール部位によって構成されるため、軸部12に沿う異物の浸入阻止効果を高めることができる。
【0043】
また、本実施形態において、環状シール部32のシールリップ部321が密接する環状段部25の内周面25aは、ゴム状弾性材ではなく、硬質な補強環23によって構成されているため、シールリップ部321による安定したシール状態を形成することができる。
【0044】
次に、かかるダストカバー1をボールジョイント10に取り付ける方法について、
図5〜
図7を用いて説明する。
【0045】
まず、
図5に示すように、ダストカバー本体2とプレート部材3をボールスタッド11の軸部12に装着する。このとき、プレート部材3の環状シール部32は、ダストカバー本体2の環状段部25内に収容される。
【0046】
次いで、
図6に示すように、軸部12の上端部に、プレート部材3をダストカバー本体2との間で挟むようにナックル15を取り付け、ボルト16で締め付け固定する。その後、プレート部材3の複数の外周花弁部312のうち、ナックル溝151に対応する位置にある外周花弁部312を、
図7に示すように、例えばドライバー等の適宜の治具を使用してナックル15側に折り曲げることにより、ナックル溝151と係合させる。これにより、プレート部材3はナックル15に対して回転不能に位置決めされる。
【0047】
このダストカバー1の取り付け方法によれば、ナックル15を軸部12に対して締め付け固定した後にプレート部材3の位置決めを行うことができる。プレート部材3の位置決めに際して、プレート部材3を回転させて位相合わせを行う必要がないため、プレート部材3を容易に位置決めすることができる。
【符号の説明】
【0048】
10:ピンチボルトボールジョイント
11:ボールスタッド
12:軸部
12a:外周面
13:球頭部
14:ソケット
15:ナックル
15a:下端面
151:ナックル溝
16:ボルト
1:ダストカバー
2:ダストカバー本体
21:スタッド装着部
211:シールリップ部(第1のシールリップ部)
212:シールリップ部(第3のシールリップ部)
22:ソケット装着部
23:補強環
231:円筒部
232:フランジ部
24:補強環
25:環状段部
25a:内周面
3:プレート部材
31:プレート本体
311:切込み部
312:外周花弁部
32:環状シール部
321:シールリップ部(第2のシールリップ部)
322:シールリップ部(第4のシールリップ部)
【要約】
本発明は、ダストカバー本体とプレート部材とで構成され、ボールスタッドの軸部に対するシール幅を小さく抑え、ナックルに対する加工を不要にできると共に、装着時のプレート部材の位置決め時にナックル溝との位相合わせの手間を省くことができるようにすることを課題とし、当該課題は、ボールジョイント用ダストカバー1は、ゴム状弾性材からなるダストカバー本体2と環状のプレート部材3とにより構成され、ダストカバー本体2は、スタッド装着部21に補強環23が設けられ、該補強環23の内周側に環状段部25が形成されており、プレート部材3は、プレート本体31と、環状段部25内に収容されるゴム状弾性材からなる環状シール部32とからなり、プレート本体31は、外周に複数の切込み部311が形成されることにより、隣接する切込み部311間にそれぞれ外周花弁部312が形成され、該外周花弁部312がナックル溝151と係合するように折り曲げ可能に構成されることで解決される。