特許第6167342号(P6167342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6167342-セルロースの糖化方法 図000003
  • 特許6167342-セルロースの糖化方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167342
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】セルロースの糖化方法
(51)【国際特許分類】
   C13K 1/02 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
   C13K1/02
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-69233(P2013-69233)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-187991(P2014-187991A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】591261509
【氏名又は名称】株式会社エクォス・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】種田 憲人
(72)【発明者】
【氏名】白石 剛一
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−149343(JP,A)
【文献】 特開平06−128890(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/042139(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147460(WO,A1)
【文献】 特開2012−236961(JP,A)
【文献】 特開2012−223113(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/005168(WO,A1)
【文献】 Journal of the Japan Institute of Energy,2010年,Vol.89,p.975-981
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C13K 1/00−13/00C13K 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/CABA/BIOTECHNO(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料に含まれるセルロースを糖化する糖化方法であって、
前記バイオマス原料に対してセルロースを可溶化する結晶化度と分子量となるまで粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程により得られた可溶物に水を混合して水溶液を作成し、前記水溶液に対して紫外線を照射して該水溶液に含まれるリグニンを分解するリグニン分解工程と、
を有するセルロースの糖化方法。
【請求項2】
請求項1記載のセルロースの糖化方法であって、
前記粉砕工程は、前記バイオマス原料を飽和蒸気圧未満の雰囲気で加熱して粉砕する工程である、
セルロースの糖化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス原料に含まれるセルロースを糖化する糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サトウキビやトウモロコシ等のバイオマスを原料としたバイオ燃料の生産は、原料が食料品であるため、その競業が問題とされている。このため、食料との競業のない木片や古着などのセルロース系のバイオマスを原料としてバイオ燃料を生産することが研究されている。
【0003】
例えば、アルカリ蒸解法でパルプ化し、さらに漂白によって脱リグニン化したセルロース系バイオマスを糖化酵素液や糖化酵素産生菌の培養液で糖化し、エタノール発酵菌でエタノール発酵させるものが提案されている(特許文献1参照)。このエタノールの製造方法では、アルカリ蒸解法としてソーダ法やクラフト法を用いている。ここで、ソーダ法とは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ薬品を使用し、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを除去する方法であり、クラフト法とは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ薬品と硫化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのイオウを含む薬品を共用し、リグノセルロース系バイオマスからリグニンを除去する方法である。
【0004】
パルプ中のリグニンに紫外光を照射することによりリグニンを分解することも提案されている(特許文献2参照)。紫外光の照射によるリグニンの分解反応機構は、次式に示すように、(1)リグニンが酸素雰囲気で紫外光により励起されてリグニンラジカルになり、(2)このリグニンラジカルがリグニン骨格の他の部分を酸化分解することによりキノン系化合物を生じ、(3)キノン系化合物は、更に、ベンゾキノン誘導体に変化する、ものである。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−136702号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/042139A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、セルロース系バイオマス原料に含まれるリグニンは、セルロースの可溶化やその後の糖化を阻害する因子であるため、その分解・除去が必要となるが、リグニン除去にアルカリ薬品や酸薬品を用いる場合、リグニンの分解・除去後に中和等の溶媒管理が必要となる。また、紫外光の照射も有効と考えられるが、固体としてのバイオマス原料への紫外光の照射では表面のリグニンは分解できても、内部のリグニンは分解できず、バイオ燃料の生産性が著しく低下してしまう。
【0008】
本発明のセルロースの糖化方法は、セルロースを含むバイオマス原料を効率よく糖化することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセルロースの糖化方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0010】
本発明のセルロースの糖化方法は、
バイオマス原料に含まれるセルロースを糖化する糖化方法であって、
前記バイオマス原料に対してセルロースを可溶化する結晶化度と分子量となるまで粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程により得られた可溶物の水溶液に対して該水溶液に含まれるリグニンを分解するリグニン分解工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
この本発明のセルロースの糖化方法では、粉砕工程によりセルロースを非結晶化および低分子量化して可溶物とし、リグニン分解工程により、この可溶物の水溶液に含まれるリグニンを分解する。可溶物の水溶液に対してリグニンの分解処理を行なうから、リグニンの分解を迅速に種々の手法を用いることができる。特に、リグニン分解工程として、粉砕工程により得られた可溶物の水溶液に対して紫外線を照射するものとすれば、アルカリや酸を用いる場合に比して、中和などの溶媒管理をする必要がなく、非接触で且つ均一にリグニンを分解することができる。
【0012】
粉砕工程としては、バイオマス原料を飽和蒸気圧未満の雰囲気で加熱して粉砕するものを用いることができる。例えば、粗粉砕したバイオマスを100℃〜300℃程度で飽和蒸気圧未満の雰囲気で常圧近傍で数時間に亘って粉砕する加熱粉砕処理を用いることができる。この手法は出願人が考案したものであり、その詳細については、特願2011−144953や特願2011−261362に記載されている。なお、粉砕工程としては、セルロースを可溶化する結晶化度と分子量となるまで粉砕するものであればよいから、加熱せずに粉砕するものとしてもよいし、添加物を添加して粉砕するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のセルロースの糖化方法の工程を示す工程図である。
図2】本実施形態における加熱粉砕の実施条件を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本実施形態のセルロースの糖化方法の工程を示す工程図である。本実施形態のセルロースの糖化方法は、図1の工程図に示すように、セルロース((C6105n:nは10数〜)やでん粉,ヘミセルロース,ペクチンなどのセルロースを含むバイオマス原料を扱いやすくするために数mm〜数十mm程度に粗粉砕する(粗粉砕工程S1)。セルロース系のバイオマス原料としては、例えば、草類(稲わらや麦わら,バガスなど),間伐材(竹や笹など),木材加工木屑(おがくずやチップ,端材など),木質系(街路樹剪定材や木質建築廃材,樹皮,流木など),セルロース製品(綿や紙,衣類など)などを用いることができる。
【0015】
次に、粗粉砕されたバイオマス原料に熱を加えてセルロースが可溶化する結晶化度と分子量となるまで機械的に粉砕する(加熱粉砕工程S2)。この加熱粉砕は、図2に示すように、100℃〜300℃程度で飽和蒸気圧未満の雰囲気で常圧近傍で数時間に亘って機械的に粉砕し、セルロースを非晶質化および低分子化させて、水溶性のオリゴ糖((C6105n:nは数〜10数)などまでに粉砕する。従来、セルロース糖化プロセスにおいて、100℃以上で臨界点以下の加圧熱水(飽和蒸気圧以上に加圧されて液体状態で存在するいわゆる亜臨界水)によってセルロースを水に可溶な低分子量多糖類とする水熱処理が考えられている(例えば、特開2010−166831号公報や特開2010−279255号公報参照)。しかしながら、こうした水熱処理では、セルロースの含水率が高いために、過分解が生じて、オリゴ糖以外の物質が生成されやすく、セルロースからグルコースへの転化率(グルコースの糖収率)の向上を図るのが困難であった。本実施形態の加熱粉砕では、飽和蒸気圧未満の雰囲気で加熱粉砕することにより、過分解が生じるのを抑制して、水溶性のオリゴ糖などをより十分に生成することができる。なお、加熱粉砕には、実験室ではボールミルを用いることができ、より大規模には粉砕エネルギが比較的小さいタンデムミル粉砕機を用いるのが好適である。
【0016】
加熱粉砕処理を終了すると、加熱粉砕により得られる可溶物を水に溶かして水溶液として取り出す(取出工程S3)。具体的には、加熱粉砕後に粉砕機に注水し、撹拌して取り出すことにより行なう。このとき、撹拌には粉砕機の粉砕動作を用いることができる。
【0017】
続いて、粉砕機から取り出した可溶物の水溶液に紫外線を照射してリグニンを分解する(リグニン分解工程S4)。照射する紫外線としては、波長が180nm〜800nm、好ましくは200nm〜500nm程度であることが好ましい。これは、リグニンやパラキノン、オルソキノンの最大吸収波長がそれぞれ280nm、360nm、390nm〜410nmであることに基づく。紫外線照射の光源としては、低圧水銀灯や高圧水銀灯、キセノン灯などの光源や、各種エキシマランプや各種レーザー光源なども用いることができる。高速処理を考慮すれば、レーザー光源が好ましい。レーザー光源としては、特に制限はなくパルス光でも連続照射光でもよい。具体的には、エキシマレーザー(ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー、XeFエキシマレーザーなど)や、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、YAGレーザーの第2および第3高調波などが好適である。紫外線の照射強度としては、特に制限はないが、パルス光では0.1mJ/パルス・cm2〜1.0kJ/パルス・cm2が好適であり、連続照射光では0.1mW/cm2〜10kW/cm2が好適である。紫外線の照射時間としては、1分〜60分程度が好適であるが、可溶物の水溶液に含まれるリグニンの量に応じて調節するのが好ましい。なお、リグニンの紫外線照射による分解反応機構については背景技術の欄で説明した。
【0018】
そして、水溶液をカーボン固体酸や有機酸(例えば酢酸や蟻酸など)などの酸触媒を用いて150℃程度で数時間処理することによってグルコースまで糖化させて(糖化工程S5)、セルロースの糖化プロセスを終了する。
【0019】
以上説明した実施形態のセルロースの糖化方法によれば、セルロースを含むバイオマス原料に対してセルロースを非晶質化および低分子化させてオリゴ糖程度の分子量の可溶物となるまで粉砕し、この可溶物を水に溶かした水溶液に紫外線を照射して水溶液中のリグニンを分解することにより、アルカリや酸を用いてリグニンを分解する場合に比して、中和などの溶媒管理を行なう必要がなく、非接触で且つ短時間に効率よくリグニンを分解することができる。この結果、リグニンが混在することによって生じる糖化工程における糖化率の低下を抑制し、セルロースを効率よく糖化することができる。
【0020】
実施形態のセルロースの糖化方法では、セルロースを非晶質化および低分子化させてオリゴ糖程度の分子量の可溶物となるまで粉砕するのに100℃〜300℃程度で飽和蒸気圧未満の雰囲気で常圧近傍で数時間に亘って機械的に粉砕する加熱粉砕を用いたが、加熱せずに機械的に粉砕するものとしたり、例えばカオリナイトなどの添加物を添加して機械的に粉砕するものとしたりするなど、セルロースを非晶質化および低分子化させてオリゴ糖程度の分子量の可溶物となるまで粉砕することができる手法であれば如何なる手法を用いてもよい。
【0021】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、セルロースから糖を製造する産業に利用可能である。
図1
図2