(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ロータマグネットは、前記ステータスタックの上端面より前記ステータスタックの厚みの1/5だけ下側の位置と、前記ステータスタックの上端面から前記ロータマグネットの上端面までの寸法の1/2だけ前記ステータスタックの上端面よりも上側の位置との間に、前記上側周面の着磁波形と前記下側周面の着磁波形との境界を有することを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータ。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1の
図4には、軸線方向に沿うロータマグネットの長さ寸法が軸線方向に沿うステータの長さ寸法よりも長く設定されているモータが開示されている。そして、ロータマグネットの磁気中心C2とステータの磁気中心C1とが軸線方向にずらされているので、この磁気中心C2−C1間で軸線方向に引き合う力が発生し、この力は、ロータマグネットに連結されているロータシャフトに伝達され、ロータシャフトを下方(スラストプレート)に押えつけるようにできることが開示されている。
【0003】
このようなモータは、特許文献2の
図8に示されるように、送風機にも使用される。一方、送風機は、家電製品等で冷却のために用いられることが多く、静音性能が求められる。送風機において、騒音の発生源の一つは、モータ部である。モータにおいて、コギングトルクやトルクリップルが大きいと円滑なモータの回転ができず、振動や騒音の発生につながり、そのコギングトルクやトルクリップルを抑制するためにはロータマグネットの周方向の表面磁束密度を緩やかに変化させる(例えば、正弦波類似の着磁波形にする)ことが開示されている(特許文献3、特許文献4参照。)。
【0004】
ところで、本発明者が、ロータマグネットの軸線方向に沿う長さ寸法がステータの軸線方向に沿う長さ寸法よりも長く設定されているモータにおいて、ロータマグネットの周方向の表面磁束密度の着磁波形を正弦波状としたものについて検討したところ、ブラシレスモータのホールセンサの位置検出が不安定になることはあまりなかった。ところが、ロータシャフトの抜け防止としてロータシャフトの外周に設けているスラストワッシャの取付作業性を良くするために、ロータシャフトの外周に溝部を設け、この溝部にスラストワッシャを軸方向に押し込んで嵌め込むようにしたところホールセンサの位置検出動作が安定しないという問題が顕在化してきた。
【0005】
この溝部の幅は、スラストワッシャの厚みと同じであると嵌め込む作業が行い難いため、スラストワッシャの厚みよりも広い幅になっている。このことから、ロータシャフトは、溝部の幅とスラストワッシャの厚みとの差の分だけスラスト方向(軸方向)に移動できる。そして、ロータシャフトがスラスト方向(軸方向)に移動すると、その移動に伴って、ロータシャフトに連結されているロータマグネットもスラスト方向に移動し、ロータマグネットとホールセンサとの距離関係が安定しなくなる。この結果、ホールセンサが正しく磁界を検知できなくなり、それに基づいて求められる位置検出動作が不安定になるものと考えられる。
【0006】
このような場合、距離が離れていても高感度に磁界検知が可能なホールセンサを用いることが考えられるが、そのような高感度なホールセンサは値段も高くなるのでコストの面から考えれば、望ましくない。
【0007】
一方、ロータマグネットのスラスト方向への移動を抑えるべく、より強いスラスト方向への押えつけ力を与えることも考えられる。そのためには、ロータマグネットの表面磁束密度の着磁波形を変えてスラスト方向への押えつけ力を得る必要がある。しかしながら、特許文献3及び特許文献4の開示から理解できるように、コギングトルクやトルクリップルを抑制することを考えれば、ロータマグネットの表面磁束密度の着磁波形を安易に変えることができない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称する)について説明する。実施形態の説明では全体を通して、同じ要素には同じ番号を付している。以下、本発明の実施形態として本発明のブラシレスモータを用いた使用形態の具体的な1例である送風機を例示して説明を進めることとする。
【0018】
(送風機の全体構成)
本発明の送風機1の全体構成を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の送風機1の縦断面図である。
図1に示すように、本発明の送風機1は、ブラシレスモータ5と、ブラシレスモータ5の外周を構成するロータハブ12に取り付けられた羽根15と、それらを収容するケーシング21dを備えている。以下では、ブラシレスモータ5のロータの部分と羽根15とを一体としてロータ部10と捉えたうえで、送風機1を、ロータ部10と、軸受部20と、ステータ30と、基板40とに分けて説明する。
【0019】
(ロータ部)
ロータ部10は、外周面に羽根15が設けられると共に内周にロータヨーク14が設けられたロータハブ12と、ロータハブ12の中心に固定されたロータシャフト11と、ロータヨーク14の内側に装着されたロータマグネット13とで構成されている。
図1では、ロータシャフト11が、直接、ロータハブ12に固定されている場合を示しているが、ロータハブ12の中央に開口を設け、この開口にロータボスのような部品を取付けて、そのロータボスにロータシャフト11を取付けるようにしてもよい。
【0020】
また、ロータヨーク14は、ロータハブ12を成形するときに一体化するようにしてロータハブ12の内周面に固定してもよいが、ロータハブ12を成形した後に、圧入や接着等の手段で内周面に固定してもよい。さらに、ロータマグネット13は、ロータヨーク14の内側に圧入や接着等の手段で取付けることができる。
図1の例では、ロータマグネット13は円筒状であり、その円筒の内周面(周面)に周方向にS極、N極が交互に現れるように複数の磁極が着磁されている。
【0021】
なお、本例は、具体的な事例として送風機1を示しているのでロータハブ12の外周面に羽根15が設けられているが、モータの場合は、この羽根15は不要である。また、
図1では、ロータハブ12と一体に形成した羽根15を示しているが、羽根15を別に作製しておき、後からロータハブ12の外周に取付けるようにしてもよい。
【0022】
(軸受部)
軸受部20は、軸受ハウジング21aと、軸受22と、スラストワッシャ23と、スラスト板24とを含む。軸受ハウジング21aは、ケーシング21dをベース部21bに連結する連結部21cと一体成形されている。軸受ハウジング21a内にはスラスト板24、スラストワッシャ23及び軸受22が配置される。送風機では、連結部21cを静翼として設計する場合があり、本発明においても連結部21cは静翼であってもよい。ケーシング21dは、羽根15の外周を覆う部分であり、送風機1の空気の流路を形成している。
【0023】
図1では、軸受ハウジング21a、ベース部21b、連結部21c及びケーシング21dを一体成形した場合を示している。しかしながら、軸受ハウジング21aを別に成形しておいて、ベース部21b、連結部21c及びケーシング21dからなる部品に取り付けるようにしてもよい。軸受ハウジング21a内に収容される軸受22はロータシャフト11を回転自在に支持する部品である。
図1ではすべり軸受22を示しているが、すべり軸受22の代わりに一対の玉軸受を用いてもよい。スラスト板24は、ロータシャフト11のスラスト力(軸方向力)を受ける部材であり、ロータシャフト11の回転抵抗を低減する役目をすると共に、ロータシャフト11が回転中心軸に合うように位置精度を保つ部品である。
【0024】
スラストワッシャ23は、ロータシャフト11の抜けを防止する部材であり、
図1の場合、図面上方へのロータシャフト11の抜けを防止している。具体的には、リング形状の部材であり、このリング中央の開口にロータシャフト11を通すように嵌め込まれる。
図1に示されるように、ロータシャフト11の下端の周面には、スラストワッシャ23が位置するための溝部があり、スラストワッシャ23の中央の開口はロータシャフト11の外径より小さく、この溝部の外径より大きく設定されている。
【0025】
スラストワッシャ23の中央の開口の大きさ、及び、材質の弾性率は、ロータシャフト11にスラストワッシャ23を押し込むことができるとともに、ロータシャフト11が抜け方向に動いたときに、抜けないように選択される。また、作業性を良くするために、スラストワッシャ23の中央の開口から外周に向かって筋状の切れ目を設け、嵌め込みのときに、多少、開口が変形できるようにしてもよい。スラストワッシャ23は、
図1に示されるように、取付られた状態では、軸受ハウジング21aの底面部と軸受22との間に挟まれスラスト方向(軸方向)への移動が規制されている。
【0026】
具体的な組付手順は、軸受ハウジング21aの底面部にある凹部内に、スラスト板24を配置し、次に、スラストワッシャ23を底面部に配置し、その後、軸受22を軸受ハウジング21aに圧入しロータシャフト11を挿入等すればよい。なお、組付手順は、上記手順に限定されるものでは無く、例えば、軸受22にロータシャフト11を挿入し、スラストワッシャ23をロータシャフト11の溝部に嵌め込む作業を行った後に軸受ハウジング21aに軸受22を圧入等するような手順でもよい。
【0027】
なお、本例は、具体的な事例として送風機1を示しており、送風機の場合、連結部21cやケーシング21dが設けられる場合が多いので連結部21cやケーシング21dを設けている例を示している。しかしながら、送風機の場合であっても、連結部21cやケーシング21dが不要である場合もある。また、モータの場合は、連結部21cやケーシング21dは不要である。
【0028】
(ステータ)
ステータは、複数の突極が設けられたステータスタック(ステータコアともいう)31の突極に絶縁体(例えば、インシュレータ)32を介して巻線(コイル)33が設けられた構成である。また、
図1にステータスタック31に複数の筋が描かれているが、これはステータスタック31が複数の電磁鋼板を積層した構成であることを示している。コイル33に電流を供給するとステータスタック31の突極が励磁され、この突極がN極若しくはS極となる。この励磁された磁極とロータマグネット13の内周面に着磁された磁極とが引き合う、若しくは、反発し合うことでロータ部10が回転し、モータ駆動が実現される。
【0029】
具体的なステータ30の取付は、ステータスタック31を軸受ハウジング21aの外周に圧入することで行っているが、必ずしも圧入である必要はなく、接着等でもよい。また、
図1では、軸受ハウジング21aにステータスタック31の位置決めをするための段差を設けた場合を示しているが、この段差は設けていなくてもよい。
【0030】
(基板)
基板40は、ICやホール素子(ホールセンサ)41といった電子部品を搭載するためのものであり、コイル33の端部は、これら電子部品に半田等で電気的に接続されている。そして、これら電子部品によってコイルに供給する電流等が制御される。
図1では、基板40をベース部21b上に載置した例を示しているが、基板40の設け方は、絶縁体(インシュレータ)32の下端に固定してもよいし、軸受ハウジングの外周に固定しても良く、固定の具体的な態様は、圧入や接着等を用いればよい。
【0031】
次に、
図2を参照しながら、さらに、実施形態について、詳細な説明を行う。
図2は、ブラシレスモータ5のうち、
図1の左側に描かれているステータ30とロータマグネット13の部分が見やすいようにした拡大図である。なお、
図2には、以降で説明する位置を表す記号が記載されているので、この記号の表記が見にくくなるのを避けるため、一部、要素(部材)を示す番号の記載を省略しているが、特別に断らない限り、番号は
図1と同じである。
【0032】
図2に示される通り、ロータシャフト11の下部には、溝部11aが形成されており、その溝部11aにスラストワッシャ23が嵌め込まれている。そして、スラストワッシャ23の厚みよりも、溝部11aの幅が大きく取られているのがわかる。このためロータシャフト11は、図面の上側に動くことができる状態にある。なお、スラストワッシャ23の中央の開口は、図面上では、はっきりとしていないが、ロータシャフト11の最下部の外径よりも若干小さくなっている。従って、ロータシャフト11が上方に動いたときには、溝部11aの下端がスラストワッシャ23に引っ掛かり、ロータシャフト11が抜けるのを防止することができる。
【0033】
ロータシャフト11が上方に動くと、ロータハブ12も上方に動き、その動きに合わせて、ロータマグネット13も上方に動くことになる。そうすると、ホール素子(ホールセンサ)41とロータマグネット13の下端との距離が離れることになる。このため、ホールセンサの磁界を検出する感度が悪いと検出できなくなり、それに基づいて求められる位置検出動作が不安定になる。従って、
図2に示されるように、ロータシャフト11がスラスト板24に接触している程度の状態に保たれる必要がある。
【0034】
ここで、ステータスタック31とロータマグネット13とに着目すると、ロータマグネット13は、ステータスタック31よりも軸方向に沿って長く設計されており、ステータスタック31の中央位置よりも上方にロータマグネット13の中央位置が存在する。そして、この中央位置同士が引き合うことでロータマグネット13が下方に押えつけられる方向に引き寄せられることは、既に、述べた通りであるが、この引付合う力は、ロータマグネット13の磁力が高くなれば、それに応じて強くなる。
【0035】
従って、ロータマグネット13の磁力を高めることでロータシャフト11がスラスト板24に安定して接触している状態が実現できる。以下、この安定してスラスト板24側にロータシャフト11を位置させる方向の力を「スラスト力」と呼ぶこととする。そして、磁力を高めてスラスト力を得るためには、ロータマグネット13の内周面(周面)の着磁状態を出来るだけ広い範囲で高い表面磁束密度の状態とする必要がある。つまり、飽和着磁状態まで高めた範囲を出来るだけ周方向に広く実現することを目指すことになる。
【0036】
このようなスラスト力を高めるための、周方向の表面磁束密度の分布を表す着磁波形(第1の着磁波形)の参考例を2つ
図3(参考例1)及び
図4(参考例2)に示す。
図3及び
図4は、縦軸に表面磁束密度[mT]を取り、横軸は円筒状のロータマグネットを平面展開し、その角度位置を角度(°)として示したものである。なお、90°、180°、270°、360°で表面磁束密度0[mT]が現れているのは、この部分で磁極の向きが反転したこと(N極からS極、若しくは、S極からN極のように変わったこと)を示している。つまり、
図3及び
図4は円周方向に4極の磁極を有するロータマグネット13の場合を例示したものである。
図3及び
図4に示す台形波状または矩形波状の着磁波形では中央部と実質的に同程度の表面磁束密度を有する部分が隣接する磁極の近傍まで存在する。そして、隣接する磁極に向かって表面磁束密度が大きな勾配で急激に減少する。
【0037】
一方、コギングトルクやトルクリップルを抑制するためには、着磁波形は緩やかに変化することが望ましく、そのような表面磁束密度の分布を表す着磁波形(第2の着磁波形)の参考例を2つ
図5(参考例3)及び
図6(参考例4)に示す。
図5及び
図6も縦軸及び横軸は、
図3及び
図4と同様である。
図6では、磁極の中央部から隣接する磁極に向かって緩やかに減少する表面磁束密度を表しており、磁極の中央部付近での減少率は隣接する磁極近傍での減少率よりも小さい。すなわち表面磁束密度は磁極の中央部付近から離れるに従って勾配が大きくなる。また、
図5においては、中央部付近で実質的に同程度の表面磁束密度を有する部分が存在するが、その部分より隣接する磁極にいくに従って表面磁束密度は緩やかに減少する。実質的に同程度の表面磁束密度を有する部分が隣接する磁極の近傍まで存在していないところが
図3及び
図4に示す着磁波形と異なる点である。本明細書では、
図6のように磁極の中央部から隣接する磁極に向かって表面磁束密度が徐々に減少する波形を正弦波と呼ぶこととする。また、
図5のように磁極の中央部の近傍のみで中央部と実質的に同程度の表面磁束密度を有する部分が存在し、その部分よりも離れた位置では隣接する磁極に向かって表面磁束密度が矩形波または台形波よりも緩やかな勾配で減少する波形を実質的な正弦波と呼ぶこととする。これら、
図3から
図6を見るとわかるとおり、スラスト力を高めようとすると、磁極の切替わり目で表面磁束密度が大きく変化することになり、コギングトルクやトルクリップルを抑制するための緩やかな変化と両立できないことがわかる。
【0038】
なお、
図3から
図6は、あくまでも理想的な状態を示した参考図であり、実際に、測定すると測定誤差や製造誤差等の影響で波形が乱れることが当然あるので、
図3や
図4のように理想的にフラットで高い表面磁束密度でない場合、つまり、広い範囲で高い表面磁束密度を実現しようとしているが測定誤差や製造バラツキによって波形が乱れて見える範囲を意味して、本明細書では「中央部と実質的に同程度の表面磁束密度を有する」と呼ぶ。
【0039】
ここで、
図2に戻って、ロータマグネット13とステータスタック31の位置関係に着目すると、ステータスタック31の上端面の位置より上に位置するロータマグネット13の部分については、ステータスタック31から離れることになるのでモータの回転状態に与える影響が小さいと考えられる。つまり、この回転状態に与える影響が小さいロータマグネット13の部分でスラスト力を得るようにすれば、コギングトルクやトルクリップルを抑制しつつ、スラスト力も得られると考えられる。
【0040】
そこで、ロータマグネット13の内周面(着磁周面)13aを上下に二分した周面として、上側周面13a1は
図3や
図4に示した矩形波状または台形波状の着磁波形にしてスラスト力を得る。一方、下側周面13a2のロータの回転動作に影響が大きいと考えられる部分は、
図5や
図6に示した正弦波状または実質的に正弦波状の着磁波形にしてコギングトルクやトルクリップルを抑制することで、コギングトルクやトルクリップルを抑制しつつ、スラスト力の向上を実現した。つまり、下側周面13a2における表面磁束密度は上側周面13a1における表面磁束密度よりも小さな勾配で隣接する磁極に向かって減少するのでスラスト力を向上することとコギングトルクやトルクリップルを抑制することが可能となる。
【0041】
具体的には、
図2に示すステータスタック31の上端面と同じ高さ位置となるロータマグネット13の高さ位置を基準位置Aとしたときに上側周面13a1と下側周面13a2との境界(つまり、着磁波形の切り替え位置)を基準位置Aと同じにするのが好適であるが、スラスト力の調節やコギングトルクやトルクリップルの抑制のために、この境界は、基準位置Aから多少上下方向に調節してよい。
【0042】
この境界が基準位置Aよりも下側に位置すると、上側周面13a1のスラスト力を得るための着磁波形がステータスタック31と対向する位置に現れるので、あまり基準位置Aよりも下側にするとコギングトルクやトルクリップルに影響を与えることになる。但し、この影響の度合いは、絶対的な距離ではなく、ステータスタック31の厚みとの関係で相対的な距離に依存する。
【0043】
たとえば、ステータスタック31の厚みが10mmのときに、ステータスタック31の上端面(位置A)から下側5mmの位置に境界があるとすると、ステータスタック31の半分は、上側周面13a1と対向していることになる。一方、このステータスタック31の厚みが30mmだとすれば、ステータスタック31の高々1/6の厚みしか、上側周面13a1と対向していないことになる。従って、基準位置Aから下側に5mmの位置に境界があったとしても、後者の方が、当然、コギングトルクやトルクリップルに与える影響は小さくなる。
【0044】
そして、ステータスタック31の厚みに対して、1/5程度の範囲で上側周面13a1が存在したとしても、それほど、コギングトルクやトルクリップルに与える影響は大きくない。このことから、上側周面13a1と下側周面13a2との境界、つまり、上側周面13a1の着磁波形と下側周面13a2の着磁波形とが切り替わる位置は、
図2に示すように、基準位置Aよりステータスタック31の厚みeの1/5だけ下側の位置Cよりも下にならないようにすることが好適である。
【0045】
一方、上側周面13a1と下側周面13a2との境界が、基準位置Aから離れて、上に位置するようになるほど、スラスト力が得られにくくなる。この点からすれば、コギングトルクやトルクリップルを抑制して、効果的にスラスト力を得るためには、基準位置Aよりも上のロータマグネット13の範囲の半分以上は、上側周面13a1として形成するのが好ましい。
【0046】
このことから、基準位置Aからロータマグネット13の上端面までの寸法をbとしたときに、上側周面13a1と下側周面13a2との境界、つまり、上側周面13a1の着磁波形と下側周面13a2の着磁波形とが切り替わる位置は、
図2に示すように、基準位置Aよりも寸法bの1/2だけ上側の位置Bよりも上にならないようにすることが好適である。
【0047】
以上のことをまとめると、
図2に示される通り、ロータマグネット13は、ステータスタック31の上端面よりステータスタック31の厚みeの1/5だけ下側の位置Cと、ステータスタック31の上端面からロータマグネット13の上端面までの寸法bの1/2だけステータスタック31の上端面よりも上側の位置Bとの間で、上側周面13a1の着磁波形と下側周面13a2の着磁波形とが切り替わるようにすることが好適である。また、下側周面13a2とステータとで主に回転動作を担うので、本発明においては、少なくともステータスタック31の一部は下側周面13a2に対向して配置された状態となる。なお、送風機1をひっくり返せば、上下の関係が逆転するが、これまでの説明で用いてきた上下(高さ位置)等の表現は、スラスト力を働かせたい方向が下側であり、それと反対となる方向が上側となるものであり、重力の働く方向の上下を意味するものではない。
【0048】
(スラスト力の測定)
上記で説明してきた実施形態の送風機1について、スラスト力が、どの程度向上しているのかについて測定を行った。まず、
図7を参照しながら測定方法について説明する。
図7は、送風機1のロータシャフト11を水平にした状態を示している。
図7の左側が
図1の下側であり、
図7の右側が
図1の上側である。送風機1は、スラストワッシャ23が取り外された状態にされており、このため
図7において右側方向にロータ部10が抜ける状態にある。
【0049】
なお、
図7では、ケーシング21dと、ロータ部10のうちのロータハブ12と羽根15だけを図示している。これは、その他の部材が無いことを意味しているのではなく、
図1の状態の送風機1において、スラストワッシャ23が取り外された送風機1が
図7に示されるような向きに配置されていることを簡略的に示しているものである。
【0050】
そして、
図7に示されるように、ロータハブ12の中心にワイヤの一端を固定し、滑車を介してワイヤの他端には錘42を吊り下げるようにしている。ここで、錘42を付加していない状態でロータハブ12までの距離dを非接触寸法測定器43で測定する(基準距離測定)。その後、錘42を付加した状態でロータハブ12までの距離dを非接触寸法測定器43で再び測定する。そして、基準距離測定の値と錘42を付加した状態の距離測定の値との差分を取ることで錘42(荷重)を付加したときのロータハブ12の変位量を求めた。この変位量は、ロータハブ12に固定されているロータマグネット13が、ホールセンサ41から離れた距離と等価である。なお、非接触寸法測定器43は、別名、変位センサ等の名称で市販されている。
【0051】
このようにして、スラスト力(磁気スラスト力)の測定を行った結果を
図8に示す。
図8は、付加した錘42(荷重)の重量(gf)を縦軸に取り、ロータハブ12の変位量を横軸に取っている。
図8において、従来品と記載しているのは、ロータマグネット13の内周面(周面)を全長、下側周面13a2用の着磁波形とした場合である。一方、発明品と記載しているのは、ロータマグネット13の内周面(周面)を下側周面13a2と上側周面13a1とに二分し、下側周面13a2に関しては、従来品と同じ着磁波形とし、上側周面13a1については、
図3や
図4で示したように、できるだけ広い範囲で高い表面磁束密度が得られるようにしたものであり、下側周面13a2と上側周面13a1との境界は、
図2に示した位置Cから位置Bの範囲内で高いスラスト力が得られるとともに、コギングトルクやトルクリップルに与える影響が出ないように調節した。
【0052】
その結果、
図8に示されるように、ロータハブ12の移動が発生しない状態(変位量0mm)が保てる最大荷重(磁気スラスト力(gf))は、従来品では28.4gfであるが、発明品では40.1gfとなり、約40%[=((40.1−28.4)/28.4)×100]の磁気スラスト力の向上が確認できた。なお、この測定は、磁気による保持力(磁気スラスト力)が錘による引張力よりも大きい間はロータハブ12が動かず、引張力の方が保持力よりも大きくなるとロータハブ12が移動するので、磁気スラスト力を求める測定になっている。また、発明品では、ホールセンサの位置検出動作も安定した動作が確認された。
【0053】
上記では、本発明のブラシレスモータの具体的な1適用事例としての送風機について説明してきた。しかしながら、本発明が送風機に限定されるものでないことは、上記でも所々で説明してきたとおりであり、モータそのものとして使用する場合には、上記送風機の構成において、モータとして不要な部分を無くせばよく、また、各々のモータとして必要な構成を本発明の概念を逸脱しない範囲で付加すればよい。上記実施形態で説明してきたモータ部分の構成は、アウターロータ型の構成であるが、本発明がインナーロータ型にも適用可能であることは言うまでもない。
【0054】
インナーロータ型の場合は、ロータマグネットの中心部にロータシャフトが取り付けられ、モータの中心側にロータマグネットが配置されるとともに、その外側にステータがロータマグネットの外周面に対向するように配置されることとなる。このため、ロータマグネットの外周面(周面)に着磁波形を着磁すればよいだけであって、着磁波形を変える範囲及び着磁する着磁波形の状態に関しては特段変ることは無い。つまり、ステータスタックの上端面を基準に、
図2を参酌して説明してきた範囲に上側周面(
図3及び
図4で示したような着磁波形)及び下側周面(
図5及び
図6で示したような着磁波形)となる着磁を実施すればよい。
【0055】
なお、本発明はロータシャフトがスラスト方向に動きやすい状態にあり、その動きが問題となる場合に有効であることが明らかであり、実施形態の例示では、スラストワッシャを嵌め込む構造に起因してロータシャフトが動きやすい状態となった事例を基に説明してきたが、このような場合に限られるものでないことも明らかである。
【0056】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。