(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167443
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】超電導線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20170713BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
H01B12/06ZAA
H01B13/00 565D
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-539691(P2016-539691)
(86)(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公表番号】特表2016-529680(P2016-529680A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】JP2013005336
(87)【国際公開番号】WO2015033380
(87)【国際公開日】20150312
【審査請求日】2016年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】516070601
【氏名又は名称】SuperOx Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】リー,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ペトリキン,ヴァレリー
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−046257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1の層と、
イオンビームアシスト蒸着工程により、前記第1の層上に直接形成された配向層と、
前記配向層上に直接形成され、前記第1の層の材料と同じ材料を主成分とする第2の層と、
前記第2の層上に形成された超電導層と、
を含み、
前記第1の層が前記イオンビームアシスト蒸着工程の前に結晶質である、超電導線。
【請求項2】
前記第1の層及び前記第2の層がペロブスカイト材料を含む、
請求項1に記載の超電導線。
【請求項3】
前記ペロブスカイト材料が、LaMnO3、LaGaO3、LaCrO3、LaAlO3、SrTiO3、及びSrRuO3からなる群から選ばれる、
請求項2に記載の超電導線。
【請求項4】
前記配向層がMgOを含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導線。
【請求項5】
希土類元素がドーピングされたCeO2を含み、前記超電導層の下に直接形成された第3の層をさらに含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導線。
【請求項6】
前記基板と前記第1の層の間に形成されたバッファ層をさらに含む、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導線。
【請求項7】
前記バッファ層がY2O3、CeO2、Al2O3、又はAlxOを含む、
請求項6に記載の超電導線。
【請求項8】
前記第2の層が、前記第1の層を形成するための堆積の圧力と温度と同じ圧力と温度の下での堆積によって形成される、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導線。
【請求項9】
基板上に第1の層を形成し、
イオンビームアシスト蒸着工程により、前記第1の層上に配向層を直接形成し、
前記第1の層を形成するための圧力と温度と同じ圧力と温度の下で、前記配向層上に第2の層を直接形成し、前記第2の層が前記第1の層の材料と同じ材料を主成分とし、
前記第2の層上に超電導層を形成する、
ことを含み、
前記第1の層が前記イオンビームアシスト蒸着工程の前に結晶質である、超電導線の製造方法。
【請求項10】
前記第1の層及び前記第2の層が、同じ堆積チャンバー内で連続して形成される、
請求項9に記載の超電導線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配向層を含む超電導線が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この従来の超電導線において、配向層は金属基板と超電導層の中間層であり、イオンビームアシスト蒸着(IBAD)工程によって形成される。
実際には、熱処理の間の配向層の基板及び超電導層との化学的相互作用を防ぐために、追加の単純な酸化物層が、配向層の下、及び配向層と超電導層の間に形成されてもよい。
【0003】
IBAD法は、膜の堆積の間、テープ上に特定の角度でAr
+イオンをスパッタリングすることにより、非配向のメタルテープ又は酸化物で被覆されたテープ上に配向したセラミック膜を形成する技術である(例えば、特許文献2参照)。堆積は、アモルファス酸化物シード層の上で実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−181963号公報
【特許文献2】特開2012−104444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の1つは、単純な工程により低コストで製造することのできる超電導線、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記の目的を達成するため、本発明は、基板と、前記基板上に形成された第1の層と、前記第1の層上に直接形成された配向層と、前記配向層上に直接形成され、前記第1の層の材料と同じ材料を主成分とする第2の層と、前記第2の層上に形成された超電導層と、を含む、超電導線を提供する。
【0007】
[2]上記[1]の超電導線においては、前記配向層がイオンビームアシスト蒸着工程により形成されている。
【0008】
[3]上記[2]の超電導線においては、前記第1の層が前記イオンビームアシスト蒸着工程の前に結晶質である。
【0009】
[4]上記[1]〜[3]のいずれか1つの超電導線においては、前記第1の層及び前記第2の層がペロブスカイト材料を含んでもよい。
【0010】
[5]上記[4]の超電導線においては、前記ペロブスカイト材料が、LaMnO
3、LaGaO
3、LaCrO
3、LaAlO
3、SrTiO
3、及びSrRuO
3からなる群から選ばれてもよい。
【0011】
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1つの超電導線においては、前記配向層がMgOを含んでもよい。
【0012】
[7]上記[1]〜[6]のいずれか1つの超電導線においては、前記超電導線が、希土類元素がドーピングされたCeO
2を含み、前記超電導層の下に直接形成された第3の層をさらに含んでもよい。
【0013】
[8]上記[1]〜[7]のいずれか1つの超電導線においては、前記超電導線が、前記基板と前記第1の層の間に形成されたバッファ層をさらに含んでもよい。
【0014】
[9]上記[8]の超電導線においては、前記バッファ層がY
2O
3、CeO
2、Al
2O
3、又はAl
xOを含む。
【0015】
[10]上記[1]〜[9]のいずれか1つの超電導線においては、前記第2の層が、前記第1の層を形成するための堆積の圧力と温度と同じ圧力と温度の下での堆積によって形成されてもよい。
【0016】
[11]上記の目的を達成するため、本発明は、基板上に第1の層を形成し、前記第1の層上に配向層を直接形成し、前記第1の層を形成するための圧力と温度と同じ圧力と温度の下で、前記配向層上に第2の層を直接形成し、前記第2の層が前記第1の層の材料と同じ材料を主成分とし、前記第2の層上に超電導層を形成する、ことを含む、超電導線の製造方法を提供する。
【0017】
[12]上記[11]の超電導線の製造方法においては、前記第1の層及び前記第2の層が、同じ堆積チャンバー内で連続して形成されてもよい。
【0018】
[13]上記[11]又は[12]の超電導線の製造方法においては、前記配向層がイオンビームアシスト蒸着工程により形成されてもよい。
【0019】
[14]上記[13]の超電導線の製造方法においては、前記第1の層が前記イオンビームアシスト蒸着工程の前に結晶質である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、単純な工程により低コストで製造することのできる超電導線、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る超電導線の斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る
図1の超電導線の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る超電導線の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る超電導線の
断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る超電導線の
断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明の第1の実施の形態)
(超電導線の構成)
図1は、超電導線1の斜視図である。
図2は、超電導線1の断面図である。超電導線1は、基板10と、基板10上に形成された第1の層11と、第1の層11上に直接形成された配向層12と、配向層12上に直接形成された第2の層13と、第2の層13上に形成された超電導層14と、超電導層14上に形成された保護層15と、を含む。
【0023】
基板10はテープ状の基板であり、金属又はハステロイ(商標)のような金属合金を含む。例えば、基板10は50〜100μmの厚さを有する。
【0024】
第1の層11は、好ましくはLaMnO
3、LaGaO
3、LaCrO
3、LaAlO
3、SrTiO
3、又はSrRuO
3のようなペロブスカイト材料を含む。これらのペロブスカイト材料は純粋でもよく、また、一般式ABO
3のペロブスカイト構造のAサイトとBサイトにドーピングされたものでもよい。第1の層11は、ドーピング元素がAサイトとBサイトにドーピングされたペロブスカイト材料であってもよい。ドーピング元素は、AサイトのためのMg、Ca、Sr、又はBaと、BサイトのためのMg、Nb、Ta、Zr、又はHfを含む。第1の層11がペロブスカイト材料を含む場合、配向層12はMgOを含む。
【0025】
第1の層11は、基板10から配向層12への金属の拡散を抑える拡散バリア層として機能することができる。例えば、基板10がハステロイを含む場合、第1の層11は、基板10中のNiの配向層12への拡散を抑えることができる。
【0026】
第1の層11は、基板10と配向層12の間の密着性を増加させるための密着層として機能することができる。堆積工程における、例えば、600℃以上の温度下での高温処理は、第1の層11の接着力を向上させる。第1の層11は、例えば、20〜50nmの厚さを有する。
【0027】
配向層12は、二軸配向構造を有する。配向層12は、イオンビームアシスト蒸着(Ion Beam Assisted Deposition: IBAD)工程によって形成される配向層である。配向層12は、MgO等を含む。配向層12は、例えばCa又はSrがドーピングされたMgOであってもよい。配向層12は、IBAD工程で形成された第1のMgO層と、第1のMgO層上にエピタキシャル成長した第2のMgO層とを含む積層構造を有してもよい。配向層12は、例えば、5〜20nmの厚さを有する。
【0028】
第2の層13は、第1の層11の材料と同じ材料を主成分とする。第2の層13がペロブスカイト材料を含む場合、第2の層13は、MgOを含む配向層12上に格子整合して生成される。
【0029】
第2の層13は、配向層12と超電導層14の間の化学反応を抑えるキャップ層として機能することができる。また、第2の層13は、超電導層14のエピタキシャル成長のために格子整合を向上させる。第2の層13は、例えば、20〜50nmの厚さを有する。
【0030】
超電導層14は、REBa
2Cu
3O
6+x(REは、Y、Sm、Eu、又はGdのような希土類元素である)のような高温超電導体を含むことが好ましい。また、超電導層14は、YBa
2Cu
3O
6+x、GdBa
2Cu
3O
6+x、又はこれらの組合せを含むことがより好ましい。超電導層14は、磁場中での超電導特性を向上させるために、非導電性ナノ粒子を含んでもよい。超電導層14は、例えば、1〜3μmの厚さを有する。
【0031】
保護層15は、超電導層14を保護する。保護層15は、Ag等を含む。保護層15は、例えば、0.5〜2.0μmの厚さを有する。
【0032】
(超電導線の製造)
以下に、超電導線1の製造工程の例を記す。
【0033】
図3は、超電導線1の製造工程を表すフローチャートである。
【0034】
まず、RF−マグネトロンスパッタリング法又はパルスレーザー蒸着(PLD)法により、第1の層11を基板10上に形成する(ステップS1)。第1の層11は、その結晶化温度(例えば600℃)以上の温度下で形成される。したがって、配向層12を形成するためのIBAD工程の前に、第1の層11は結晶質となっている。
【0035】
次に、IBAD工程により、配向層12を第1の層11上に形成する(ステップS2)。第1の層11が結晶質であり、キャップ層の堆積と同じ条件での熱処置を施されているため、配向層12は、積層構造を有する配向層12のエピタキシャル層及び第2の層13の堆積の間、大きな歪みを受けない。したがって、配向層12は、既に結晶質となっている第1の層11の上で形成されるため、高い配向度を維持する。
【0036】
次に、RF−マグネトロンスパッタリング法又はPLD法により、第2の層13を配向層12上に形成する(ステップS3)。第2の層13は、第1の層11を形成するための圧力と温度と同じ圧力(0.2〜1.0Pa)と温度(600〜950℃)の下で形成される。また、第1の層11と第2の層13は、同じ堆積チャンバー内で連続して形成される。そのため、超電導線1の製造工程は単純化されることができ、製造コストは低減されることができる。
【0037】
次に、PLD法により、超電導層14を第2の層13上に形成する。また、酸素アニーリングにより、酸素を超電導層14に導入することができる。酸素アニール工程と超電導層14中の酸素濃度は、超電導層14の臨界温度や臨界電流のような超電導特性にとって重要である。
【0038】
次に、DCマグネトロンスパッタリング法により、保護層15を超電導層14上に形成する。また、必要に応じて、AgNO
3水溶液からの電気化学堆積(電気めっき)工程により、保護層15をより厚く形成することができる。電気めっき工程は、超電導層14の酸素アニール工程の前又は後に実行することができる。
【0039】
(本発明の第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、バッファ層が基板10と第1の層11の間に形成されるという点で、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は単純化する。
【0040】
(超電導線の構成)
図4は、超電導線2の断面図である。超電導線2は、基板10と、基板10上に形成されたバッファ層20と、バッファ層20上に形成された第1の層11と、第1の層11上に直接形成された配向層12と、配向層12上に直接形成された第2の層13と、第2の層13上に形成された超電導層14と、超電導層14上に形成された保護層15と、を含む。
【0041】
バッファ層20は、基板10と第1の層11の間のバッファ層である。バッファ層20は、Al
2O
3、Al
xO、Y
2O
3、CeO
2等を含む。ここで、Al
xOはアルミニウムリッチのアルミナであり、酸素欠乏雰囲気下で反応性RF又はDCマグネトロンスパッタリングにより堆積することができる。バッファ層20がAl
xOである場合、高温下での第1の層11の堆積の間、Al金属が第1の層11の表面粗さを改善する。バッファ層20は、例えば、20〜100nmの厚さを有する。
【0042】
バッファ層20は、例えば、物理蒸着法又は溶液堆積法によって形成される。バッファ層20が基板10の表面に付着するように、バッファ層20は基板10と緩やかに反応するべきである。もし反応が強ければ、反応によって導入される合金からの金属が他の層を汚染する。
【0043】
(本発明の第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、第3の層が第2の層13と超電導層14の間に形成される点で、第2の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は単純化する。
【0044】
(超電導線の構成)
図5は、超電導線3の断面図である。超電導線3は、基板10と、基板10上に形成されるバッファ層20と、バッファ層20上に形成される第1の層11と、第1の層11上に直接形成される配向層12と、配向層12上に直接形成される第2の層13と、第2の層13上に形成される第3の層30、第3の層30上に直接形成される超電導層14と、超電導層14上に形成される保護層15と、を含む。
【0045】
第3の層30は、第2の層13と超電導層14の間のバッファ層である。第3の層30は、例えば、第3の層30の配向を改善し、また、酸素アニール工程の間の酸素拡散を促進するために、希土類元素がドーピングされたCeO
2を含む。第3の層30中の酸素イオンが超電導層14に拡散するとき、超電導層14中の酸素の同じ濃度とその均一な分布は、より短い時間で達成される。
【0046】
第3の層30がCeO
2を含む場合、第3の層30はペロブスカイト材料を含む第2の層13上に格子整合して生成される。第3の層30は、例えば、150〜500nmの厚さを有する。第3の層30は、例えば、PLD法又はRFマグネトロンスパッタリングによって形成される。
【0047】
また、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨又は変更技術を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。本発明は、完全かつ明瞭な開示のために特定の実施の形態及び実施例に関して記載されたが、添付の特許請求の範囲はこれらに限定されず、本明細書の開示の範囲内で当業者の想到し得るすべての変更と代替構造を具体化するものと解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、低コストで簡単な工程により製造可能な超電導線、及びその超電導線の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 超電導線
2 超電導線
3 超電導線
10 基板
11 第1の層
12 配向層
13 第2の層
14 超電導層
15 保護層
20 バッファ層
30 第3の層