特許第6167453号(P6167453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167453
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】シンターハードニング方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/24 20060101AFI20170713BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20170713BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20170713BHJP
   F27D 3/12 20060101ALI20170713BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20170713BHJP
   C21D 9/40 20060101ALI20170713BHJP
   F27B 9/12 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
   B22F3/24 B
   B22F3/10 M
   B22F3/10 K
   F27D3/16 Z
   F27D3/12 Z
   C21D1/00 F
   C21D1/00 119
   C21D9/40 A
   !F27B9/12
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-142796(P2013-142796)
(22)【出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2015-14041(P2015-14041A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 功介
(72)【発明者】
【氏名】寺田 晋作
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−239002(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0274222(US,A1)
【文献】 特開昭59−053604(JP,A)
【文献】 特開2002−265281(JP,A)
【文献】 特開平11−080807(JP,A)
【文献】 特開平05−195017(JP,A)
【文献】 特開平03−257119(JP,A)
【文献】 特開2006−266616(JP,A)
【文献】 実開昭63−026099(JP,U)
【文献】 特開2003−192457(JP,A)
【文献】 特開2015−004099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボントレイに複数のセラミックス板を載せ、更にその各セラミックス板に粉末成形されたワークを載せた状態で、前記カーボントレイを、前記ワークを焼結温度に加熱する焼結室と、前記焼結温度からの冷却過程で前記ワークに冷却ガスを吹き付けて焼入れする急冷室とに順に移動させるシンターハードニング方法であって、
前記ワークは、中央に開口部をもつ環状体であり、
前記セラミックス板は、前記ワークを前記セラミックス板に載せたときのワークの開口部の位置に、前記セラミックス板を上下に貫通するガス抜け穴を有する、
シンターハードニング方法。
【請求項2】
前記カーボントレイは、前記セラミックス板を前記カーボントレイに載せたときの前記セラミックス板のガス抜け穴の位置に、前記カーボントレイを上下に貫通するガス排出穴を有する請求項1に記載のシンターハードニング方法。
【請求項3】
前記カーボントレイの移動方向に沿って間隔をおいて配置された複数のローラを用いて前記カーボントレイを移動させ、
前記カーボントレイの下には、前記カーボントレイのガス排出穴の下端と前記ローラの表面とが離間するように前記カーボントレイを支持する枠体が敷かれている請求項に記載のシンターハードニング方法。
【請求項4】
前記セラミックス板の材質が、コージライトである請求項1から3のいずれか一項に記載のシンターハードニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末成形されたワークを加熱して焼結し、その後の冷却工程で急速冷却を行なうことにより、高強度の焼結品を製造するシンターハードニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高強度の焼結品を製造する方法として、粉末成形されたワークを焼結し、冷却した後、別工程で浸炭焼入れなどの熱処理を行なう方法が一般的であったが、この方法では、焼結とその後の熱処理とでそれぞれ加熱を行なうので、加熱に伴う膨張・収縮による歪みが発生しやすく、焼結品の寸法精度の低下が避けられなかった。
【0003】
これに対し、近年、シンターハードニングという技術が開発されている。シンターハードニングは、粉末成形されたワークを加熱して焼結(sinter)し、その後の冷却過程でワークを急速冷却することで焼入れ(hardening)する方法である。この方法によれば、1の加熱で、焼結と焼入れとを行なうことができるので、加熱に伴う歪みの発生が抑えられる。
【0004】
シンターハードニングは、例えば、ローラハース炉、プッシャー炉、メッシュベルト炉を用いて行なわれる。ローラハース炉は、ワークを載せたトレイを、搬送方向に沿って並んだローラで移動させる連続焼結炉である(例えば特許文献1)。プッシャー炉は、ワークを載せたトレイが搬送方向に沿って隙間なく並び、その上流端のトレイをプッシャーで下流側に押し動かすことで、全トレイを同時に移動させる連続焼結炉である(例えば特許文献2)。メッシュベルト炉は、金属製のメッシュベルトにワークを載せ、そのメッシュベルトでワークを炉内で移動させる連続焼結炉であるが、メッシュベルトの耐熱性の観点から1150℃を超える温度での焼結を行なうことは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4576331号公報
【特許文献2】特開平6−346104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者は、環状のワークを用いて、シンターハードニングの試験を行なった。具体的には、カーボントレイに複数のセラミックス板を載せ、更にその各セラミックス板に環状のワークを載せた状態で、カーボントレイを焼結室と急冷室とに順に移動させることにより、環状ワークのシンターハードニングを行なった。このとき、焼結室では、ワークを1100〜1300℃程度の焼結温度に加熱して所定時間その温度を保持し、急冷室では、焼結温度からの冷却過程でワークに冷却ガスを吹き付けて焼入れを行なった。ワークとカーボントレイの間にセラミックス板を介在させる理由は、高温のワークが、カーボントレイの炭素と反応するのを防止するためである。セラミックス板は、穴や凹凸のない平板状のものを使用した。
【0007】
上記シンターハードニング試験を行なった結果、本願の発明者は、ワークに冷却ガスを吹き付けて急冷するときに、ワークがセラミックス板に対して移動する場合があることに気が付いた。ワークの急冷中に、ワークがセラミックス板に対して移動すると、冷却むらが生じる等により、ワークの寸法精度(特に平面度)が低下する。
【0008】
ここで、ワークがセラミックス板に対して移動する原因は、次のように考えられる。すなわち、ワークを冷却して焼入れするためには、変態点以上の温度からワークを急速に冷却する必要があり(少なくとも0.8℃/秒以上)、この冷却速度を確保するためには、ワークに冷却ガスを吹き付ける際に、冷却ガスの風速を高くする必要がある。例えば、3〜4℃/秒の冷却速度を得るために、およそ20〜30m/秒程度の風速が必要となることがある。そして、高い風速で冷却ガスを吹き付けたときに、環状ワークの中央の開口部に流れ込んだ冷却ガスが、ワークとセラミックス板の間に流入して、ワークを移動させるものと考えられる。
【0009】
本発明は、上記の事情を考慮し、環状ワークをシンターハードニングするときに、急冷時のワークの移動とワークの寸法精度の低下とを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明では、以下の構成を採用したシンターハードニング方法を提案する。
カーボントレイに複数のセラミックス板を載せ、更にその各セラミックス板に粉末成形されたワークを載せた状態で、前記カーボントレイを、前記ワークを焼結温度に加熱する焼結室と、前記焼結温度からの冷却過程で前記ワークに冷却ガスを吹き付けて焼入れする急冷室とに順に移動させるシンターハードニング方法であって、
前記ワークは、中央に開口部をもつ環状体であり、
前記セラミックス板は、前記ワークを前記セラミックス板に載せたときのワークの開口部の位置に、前記セラミックス板を上下に貫通するガス抜け穴を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環状ワークをシンターハードニングするときに、急冷時のワークの移動とワークの寸法精度の低下とを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態にかかるシンターハードニング方法で使用する連続焼結炉を示す断面図である。
図2図1の急冷室近傍の拡大断面図である。
図3図2に示す状態のワーク、セラミックス板、カーボントレイ、枠体の平面図である。
図4図2に示すワークとセラミックス板の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
(1)本発明の実施形態であるシンターハードニング方法は、
カーボントレイに複数のセラミックス板を載せ、更にその各セラミックス板に粉末成形されたワークを載せた状態で、前記カーボントレイを、前記ワークを焼結温度に加熱する焼結室と、前記焼結温度からの冷却過程で前記ワークに冷却ガスを吹き付けて焼入れする急冷室とに順に移動させるシンターハードニング方法であって、
前記ワークは、中央に開口部をもつ環状体であり、
前記セラミックス板は、前記ワークを前記セラミックス板に載せたときのワークの開口部の位置に、前記セラミックス板を上下に貫通するガス抜け穴を有する、
シンターハードニング方法である。
この構成を採用すると、急冷室で冷却ガスをワークに吹き付けたときに、環状ワークの中央の開口部に流れ込んだ冷却ガスが、セラミックス板のガス抜け穴に抜けるので、ワークとセラミックス板の間に冷却ガスが流入しにくくなる。そのため、セラミックス板に対するワークの移動と、ワークの寸法精度の低下とを防止することができる。
(2)前記カーボントレイは、前記セラミックス板を前記カーボントレイに載せたときの前記セラミックス板のガス抜け穴の位置に、前記カーボントレイを上下に貫通するガス排出穴を有する構成を採用すると好ましい。このようにすると、環状ワークの中央の開口部からセラミックス板のガス抜け穴に流入した冷却ガスを、カーボントレイのガス排出穴を通って円滑に排出することができる。
(3)前記カーボントレイの移動方向に沿って間隔をおいて配置された複数のローラを用いて前記カーボントレイを移動させる場合、前記カーボントレイの下に、前記カーボントレイのガス排出穴の下端と前記ローラの表面とが離間するように前記カーボントレイを支持する枠体を敷くと好ましい。このようにすると、カーボントレイの下の枠体によって、ガス排出穴の下端とローラの表面とが離間した状態に保たれるので、カーボントレイのガス排出穴の真下にローラがあるときにも、ガス排出穴からの冷却ガスの排出がローラで阻害されず、安定してガス排出穴の機能を確保することができる。
(4)前記セラミックス板の材質は、コージライトを採用すると好ましい。このようにすると、急冷室でワークに冷却ガスを吹き付けたときに、セラミックス板が破損するのを防止することができる。また、セラミックス板の破損によるワークの寸法精度の低下を防止することができる。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかるシンターハードニング方法の具体例を、図1から図4を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
図1に、本発明の実施形態にかかるシンターハードニング方法で使用する連続焼結炉を示す。この連続焼結炉は、上流側から下流側に向かって順に、脱ガス室1、予熱室2、焼結室3、徐冷室4、急冷室5、冷却室6、置換室7を有する。これらの各室1〜7には、ワークを載せたカーボントレイ8を上流側から下流側に移動させる複数のローラ9が設けられている。各ローラ9は、カーボントレイ8の移動方向に沿って間隔をおいて配置され、図示しない駆動装置で回転駆動される。
【0016】
脱ガス室1、予熱室2、焼結室3、徐冷室4には、それぞれヒータ10が設けられている。急冷室5には、冷却ガスを室内に送り込むブロワ11が接続されている。冷却室6には、室内雰囲気を冷却するクーラー12と、室内雰囲気を循環させるファン13とが設けられている。
【0017】
脱ガス室1の入口、徐冷室4の入口と出口、急冷室5の入口と出口、置換室7の入口と出口には、それぞれ扉14〜20が設けられている。これらの扉14〜20は個々に開閉駆動される。
【0018】
次に、本発明の実施形態にかかるシンターハードニング方法を説明する。
【0019】
図2図3に示すように、カーボントレイ8の上に複数のセラミックス板21を載せ、その各セラミックス板21の上にワーク22を載せる。この状態でカーボントレイ8はローラ9で搬送され、図1に示す脱ガス室1、予熱室2、焼結室3、徐冷室4、急冷室5、冷却室6、置換室7を順に移動する。
【0020】
図3に示すように、ワーク22は、中央に開口部23をもつ環状体であり、シンターハードニング用の合成鋼粉を粉末成形して形成されている。ワーク22の中央の開口部23は円形であり、ワーク22の外周も円形である。ワーク22の下面(セラミックス板21との接触面)は平面とされている。このワーク22は、例えばクラッチハブである。
【0021】
図3図4に示すように、セラミックス板21は、円形の平板状である。セラミックス板21は、ワーク22をセラミックス板21に載せたときのワーク22の開口部23の位置(図ではセラミックス板21の中心)に、セラミックス板21を上下に貫通する円形のガス抜け穴24を有する。ガス抜け穴24の内径は、ワーク22の開口部23の内径と同じかそれよりも大きい。セラミックス板21の外径も、ワーク22の外径と同じかそれよりも大きい。セラミックス板21の外径はφ80〜130mm、開口部23の内径はφ30〜40mmの範囲に設定することができる。
【0022】
セラミックス板21の材質はコージライトである。コージライトは、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムと二酸化けい素とを主要化学成分とするセラミックスである。セラミックス板21の熱膨張係数は、1000℃において3.0×10−6/℃以下とされている。セラミックス板21の厚さは2〜7mm、好ましくは3〜6mmである。
【0023】
図3に示すように、カーボントレイ8は、方形の平板状に形成されている。カーボントレイ8の上には、複数のセラミックス板21が、各セラミックス板21の中心が正三角形の頂点に位置するように配置(いわゆる千鳥配置)される。このような配置とすることにより、1枚のカーボントレイ8に載せるセラミックス板21の枚数を最大限に確保することが可能となる。
【0024】
図4に示すように、カーボントレイ8の上面には、各セラミックス板21を収容してセラミックス板21の位置を水平方向に保持する凹部25が形成されている。凹部25は、セラミックス板21の外周に対応する形状を有し、凹部25の平らな内底面でセラミックス板21の下面を支持するとともに、凹部25の周縁でセラミックス板21の外周を位置決めする。凹部25の深さは、セラミックス板21の厚さよりも小さく、1〜3mm程度である。
【0025】
カーボントレイ8は、セラミックス板21をカーボントレイ8に載せたときのセラミックス板21のガス抜け穴24の位置(図では凹部25の中央)に、カーボントレイ8を上下に貫通する円形のガス排出穴26を有する。ガス排出穴26の内径は、セラミックス板21のガス抜け穴24の内径と同じかそれよりも大きくなっている。カーボントレイ8の材質は、焼結室3での高温に耐えるようにカーボンが採用されている。このようなカーボントレイ8として、例えば、炭素繊維強化/炭素複合材(いわゆるC/Cコンポジット、すなわち炭素繊維と炭素マトリックスからなる複合材料)で形成したものを採用することができる。ワーク22とカーボントレイ8の間にセラミックス板21を介在させる理由は、高温のワーク22がカーボントレイ8の炭素と反応するのを防止するためである。
【0026】
カーボントレイ8の下には、カーボントレイ8のガス排出穴26の下端とローラ9の表面とが離間するようにカーボントレイ8を支持する枠体27が敷かれている。図2図3に示すように、枠体27は、カーボントレイ8の下面をガス排出穴26の位置を避けて支持する格子状である。格子状とすることにより、ワーク22とセラミックス板21の重さでカーボントレイ8がたわむのを防止すると同時に、ガス排出穴26がローラ9で塞がれないようにするための空間をカーボントレイ8の下側に形成している。枠体27は、カーボントレイ8と同様、焼結室3の高温に耐えるようにカーボンで形成されている。図では、1枚のカーボントレイ8を1つの枠体27に載せた例を示しているが、複数枚のカーボントレイ8を1つの枠体27に載せてもよい。
【0027】
次に、連続焼結炉の各工程を説明する。まず、上述のように、カーボントレイ8にセラミックス板21を載せ、更にその各セラミックス板21にワーク22を載せた状態で、カーボントレイ8を、図1に示す連続焼結炉の上流端の脱ガス室1に送り込む。
【0028】
図1に示す脱ガス室1にカーボントレイ8が入ると、カーボントレイ8上のワーク22は500〜700℃程度の温度になるまで加熱される。このとき、ワーク22に存在するワックス成分等が燃焼し、ワーク22から燃焼ガスが生じる。ワーク22から生じた燃焼ガスは、排ガス燃焼炉30で処理される。
【0029】
次に、カーボントレイ8は、脱ガス室1から予熱室2に移動する。予熱室2では、ワーク22が焼結温度よりも低い800〜1000℃程度の温度に加熱される。
【0030】
その後、カーボントレイ8は、予熱室2から焼結室3に移動する。焼結室3では、ワーク22が1100〜1300℃程度の焼結温度になるまで加熱され、所定時間(例えば15〜30分程度)、その温度を保持する。これにより、ワーク22を構成する合成鋼粉が焼結して一体化する。
【0031】
ワーク22の焼結が完了すると、徐冷室4の入口の扉が開かれ、焼結室3から徐冷室4にカーボントレイ8が移動する。徐冷室4では、ワーク22が、焼結温度から所定の焼入温度(例えば870℃程度)にまで冷却される。この焼入温度は、A変態点以上、900℃以下に設定される。焼入温度をA変態点以上に設定することにより、その後の急冷でワーク22を効果的に焼入れすることが可能となり、900℃以下に設定することで、急冷時のワーク22の歪み等の品質低下を抑えることができる。A変態点は、ワーク22を構成する合成鋼粉の炭素含有量等により決まる温度である。
【0032】
その後、徐冷室4の出口の扉16と急冷室5の入口の扉17とが順に開かれ、徐冷室4から急冷室5にカーボントレイ8が移動する。カーボントレイ8が急冷室5に入ると、図2に示すように、急冷室5の入口の扉17と出口の扉18をいずれも閉じた状態で、ワーク22の上方の吹出口28からワーク22に向かって冷却ガスが吹き付けられる。冷却ガスは、不活性ガス(例えば窒素を主成分とするガス)である。この冷却ガスの吹き付けによって、ワーク22はA変態点以上の温度から200〜300℃程度の温度まで急冷され、この急冷によりワーク22は焼入れされる。
【0033】
急冷時のワーク22の冷却速度は、0.8℃/秒以上、好ましくは2℃/秒以上、より好ましくは3℃/秒以上である。これによりワーク22の硬度を効果的に高めることができる。それ以上ワーク22の冷却速度を大きくしても、ワーク22の硬度は飽和するため、冷却速度は4℃/秒以下でよい。ここで、ワーク22の冷却速度は、ワーク22が800℃から400℃まで冷却するときの速度である。
【0034】
急冷室5でワーク22を急冷した後、急冷室5の出口の扉18が開かれ、カーボントレイ8は、急冷室5から冷却室6に移動する。冷却室6では、ワーク22が酸化しない温度(200℃以下、好ましくは150℃以下)までワーク22が冷却される。
【0035】
その後、置換室7の入口の扉19が開かれ、カーボントレイ8は、冷却室6から置換室7に移動する。カーボントレイ8が置換室7に入ると、置換室7の入口の扉19が閉じ、その後、置換室7の出口の扉20が開き、カーボントレイ8が置換室7から送り出される。カーボントレイ8が置換室7から出ると、置換室7の出口の扉20が閉じ、置換室7の室内雰囲気が不活性ガスに置換され、次のカーボントレイ8が送り込まれるまで待機状態となる。
【0036】
ところで、図2に示すように、急冷室5で冷却ガスをワーク22に吹き付けるとき、上述の冷却速度を確保するためには、冷却ガスの風速を高くする必要がある。例えば、3〜4℃/秒の冷却速度を得るために、20〜30m/秒程度の風速が必要となる。そのため、高い風速で冷却ガスを吹き付けたときに、環状ワーク22の中央の開口部23に流れ込んだ冷却ガスが、ワーク22とセラミックス板21の間に流入し、ワーク22が移動する可能性がある。ワーク22の急冷中にワーク22がセラミックス板21に対して移動した場合、冷却むらが生じる等により、ワーク22の寸法精度(特に平面度)が低下するおそれがある。
【0037】
そこで、この実施形態では、急冷室5で冷却ガスをワーク22に吹き付けたときに、ワーク22の移動とワーク22の寸法精度の低下とを防止するため、ワーク22をセラミックス板21に載せたときのワーク22の開口部23の位置に、セラミックス板21を上下に貫通するガス抜け穴24を設けている。これにより、図4に示すように、環状ワーク22の中央の開口部23に流れ込んだ冷却ガスが、セラミックス板21のガス抜け穴24に抜けるので、ワーク22とセラミックス板21の間に冷却ガスが流入しにくくなる。そのため、セラミックス板21に対するワーク22の移動と、ワーク22の寸法精度の低下とを防止することができる。
【0038】
また、このとき、セラミックス板21をカーボントレイ8に載せたときのセラミックス板21のガス抜け穴24の位置に、カーボントレイ8を上下に貫通するガス排出穴26を設けているので、環状ワーク22の中央の開口部23からセラミックス板21のガス抜け穴24に流入した冷却ガスは、カーボントレイ8のガス排出穴26を通って円滑に排出される。
【0039】
また、カーボントレイ8が急冷室5内のローラ9で搬送され、冷却ガスの吹き付けを行なう位置で停止したときに、カーボントレイ8のガス排出穴26の真下にローラ9がくる可能性がある。このとき、もしカーボントレイ8の下面がローラ9で接触支持されているとすれば、ガス排出穴26からの冷却ガスの排出がローラ9で阻害されるおそれがある。
【0040】
そこで、この実施形態では、カーボントレイ8の下に、カーボントレイ8のガス排出穴26の下端とローラ9の表面とが離間するようにカーボントレイ8を支持する枠体27を敷くようにしている。これにより、ガス排出穴26の下端とローラ9の表面とが離間した状態に保たれるので、カーボントレイ8のガス排出穴26の真下にローラ9があるときにも、ガス排出穴26からの冷却ガスの排出がローラ9で阻害されず、安定してガス排出穴26の機能を確保することができる。
【0041】
また、この実施形態では、セラミックス板21の材質としてコージライトを採用しているため、急冷室5でワーク22に冷却ガスを吹き付けたときに、セラミックス板21が破損するのを防止することができ、その結果、セラミックス板21の破損によるワーク22の寸法精度の低下を防止することが可能となっている。急冷時にセラミックス板21が破損しない理由は、セラミックス板21の熱膨張係数が比較的小さく、その結果、急冷時の熱収縮が小さく抑えられることや、セラミックス板21の形状が割れにくい形状であること等が考えられる。
【0042】
本発明の実施形態のシンターハードニング方法の効果を確認するため、ワークを載せるセラミックス板として、No.1からNo.4までの4種類のものを使用し、シンターハードニングの試験を行なった。その試験条件と試験結果をそれぞれ表1、表2に示す。
【表1】
【表2】
【0043】
この試験結果によれば、ガス抜け穴をもたないセラミックス板を使用したNo.3では、急冷時にワークが移動するのに対し、ガス抜け穴を有するセラミックス板を使用したNo.1、No.2、No.4では、急冷時にワークが移動しないことを確認することができる。
【0044】
また、急冷時にワークが移動したNo.3では、ワークの下面の平面度が0.062mmであるのに対し、急冷時にワークが移動しないNo.4では、ワークの下面の平面度が0.041mmに改善していることを確認することができる。
【0045】
また、セラミックス板の材質としてアルミナを採用したNo.1、No.2では、急冷時にセラミックス板が破損するのに対し、セラミックス板の材質としてコージライトを採用したNo.3、No.4では、急冷時にセラミックス板が全く破損しないことを確認することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 脱ガス室
2 予熱室
3 焼結室
4 徐冷室
5 急冷室
6 冷却室
7 置換室
8 カーボントレイ
9 ローラ
10 ヒータ
11 ブロワ
12 クーラー
13 ファン
14,15,16,17,18,19,20 扉
21 セラミックス板
22 ワーク
23 開口部
24 ガス抜け穴
25 凹部
26 ガス排出穴
27 枠体
28 吹出口
図1
図2
図3
図4