特許第6167458号(P6167458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167458
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20170713BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170713BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C09D11/30
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-213994(P2013-213994)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74773(P2015-74773A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】土屋 達郎
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−060463(JP,A)
【文献】 特開2007−091925(JP,A)
【文献】 特開2012−188478(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/062071(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/093236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 脂環式エポキシド、
(B) エポキシ化脂肪酸グリセライド、
(C) トリアジン環を骨格に持つ3価のエポキシド
の3種のオキシラン環含有化合物、
オキセタン環含有化合物、および
活性エネルギー線の照射によって前記オキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物のカチオン重合を開始させる重合開始剤を含むことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環を骨格に持つ3価のエポキシドを合計で、前記(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の20質量%以上、65質量%以下の割合で含む請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環を骨格に持つ3価のエポキシドを、質量比B/C=1/4〜1/0.5の割合で含む請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記(C)のトリアジン環を骨格に持つ3価のエポキシドは、式(1):
【化1】
〔式中m、n、pは、いずれも0ではなく、かつm+n+pが3〜20の数を示す。〕
で表される化合物である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって硬化する活性エネルギー線硬化型のインクジェットインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプラスチックフィルム等の様々な被印刷体の表面に、インクジェット印刷法によって画像や文字を印刷するために、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって硬化される、活性エネルギー線硬化型のインクジェットインクが用いられる。また近時、当該インクジェットインクを紫外線の照射によって硬化させるために、光源として、従来のUVランプ等に代えてLEDを用いて、印刷システム全体での消費エネルギーを低減することが検討されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型のインクジェットインクとしては、分子中に2個以上のオキセタン環を有する化合物(以下「オキセタン環含有化合物」と略記する場合がある。)と、例えばビスフェノールA等のエポキシ樹脂などの、分子中に1個以上のオキシラン環を有する化合物(以下「オキシラン環含有化合物」と略記する場合がある)の2種を併用するとともに、活性エネルギー線の照射によってこれら2種の化合物のカチオン重合を開始させるための重合開始剤を配合したものが知られている(特許文献1等)。
【0004】
また、かかる2種に、さらにエポキシ化脂肪酸グリセライドを加えた3種を併用したインクジェットインクも知られている(特許文献2等)。
しかし、これらのインクジェットインクは硬化性が低く、例えばLEDからの紫外線の照射によって迅速に硬化できないという問題がある。
オキシラン環含有化合物として、例えばリモネンジオキサイド等の、比較的低分子量の脂環式エポキシドを使用すると、当該低分子量の脂環式エポキシドは、エポキシ樹脂などに比べて反応速度が高いため、併用するオキセタン環含有化合物の反応速度が高いことと相まって、インクジェットインクの硬化性を向上させて、LEDからの紫外線の照射によっても迅速かつ十分に硬化させることができる。
【0005】
ところが、かかるインクジェットインクは硬化物の可とう性が不十分で、印刷の耐スクラッチ性が低下し、局所的な荷重が加わった際に、印刷が、被印刷体との界面から、荷重が加えられた軌跡に沿って局所的に剥離しやすくなるという問題がある。
特許文献2に記載のようにエポキシ化脂肪酸グリセライドを併用すると、硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善できるものの、印刷の耐熱性が低下したり、被印刷体の表面への定着性が低下して、印刷が、被印刷体との界面から面状に大きく剥離したりするという新たな問題を生じる。
【0006】
特許文献3には、オキシラン環含有化合物に代えてビニルエーテル化合物を用いたインクジェットインクが記載されている。ビニルエーテル化合物は反応速度が高いため、やはりインクジェットインクの硬化性を向上させて、LEDからの紫外線の照射によっても迅速かつ十分に硬化させることが可能となる。
しかしビニルエーテル化合物は酸と反応しやすいため、例えばインクジェットインク用の顔料として一般的な、分散性を高めるために酸で処理したカーボンブラックを使用すると、インクジェットインクの貯蔵安定性が低下するという問題がある。
【0007】
またビニルエーテル化合物は反応速度が高すぎるため、例えば印刷した被印刷体を送りながらUVランプ等の光源の下を通過させてインクジェットインクを硬化させる際などに、光源からの漏れ光によって、光源に行き着くまでにインクジェットインクの硬化が始まってしまい、しかもそこから先の完全硬化まで行き着かずに、結果として却って硬化が不十分になるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2679586号公報
【特許文献2】特開2005−154679号公報
【特許文献3】特開2010−7000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、硬化性が高く、例えばLEDからの紫外線の照射によっても迅速かつ十分に硬化させることができるとともに、顔料の種類にかかわらず貯蔵安定性にも優れており、しかも硬化物の可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性や、当該印刷の耐熱性、定着性にも優れた、新規な活性エネルギー線硬化型のインクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(A) 脂環式エポキシド、
(B) エポキシ化脂肪酸グリセライド、
(C) トリアジン環を骨格に持つ3価のエポキシド
の3種のオキシラン環含有化合物、
オキセタン環含有化合物、および
活性エネルギー線の照射によって前記オキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物のカチオン重合を開始させる重合開始剤を含むことを特徴とするインクジェットインクである。
【0011】
本発明によれば、ともに反応速度の高いオキセタン環含有化合物と(A)の脂環式エポキシドとを併用することで、インクジェットインクの硬化性を高めて、例えばLEDからの紫外線の照射によっても迅速かつ十分に硬化させることができる。
また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドを併用することで硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善できる。
【0012】
そして(C)のトリアジン環を骨格に持つ3価のエポキシド(以下「トリアジン環含有エポキシド」と略記する場合がある。)を併用することで、印刷の耐熱性、および被印刷体に対する定着性を向上することが可能となる。
なお本発明のインクジェットインクは、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを合計で、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の20質量%以上、65質量%以下の割合で含んでいるのが好ましい。
【0013】
配合割合がこの範囲未満では、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドを併用することによる、硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善する効果、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを併用することによる、印刷の耐熱性、および被印刷体に対する定着性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
また範囲を超える場合には、相対的に(A)の脂環式エポキシドの割合が少なくなるため、インクジェットインクの硬化性が低下するおそれがある。
【0014】
また本発明のインクジェットインクは、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを、質量比B/C=1/4〜1/0.5の割合で含んでいるのが好ましい。
この範囲より(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドが少ない場合には、当該エポキシ化脂肪酸グリセライドを併用することによる、硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善する効果が十分に得られないおそれがある。
【0015】
一方、範囲より(C)のトリアジン環含有エポキシドが少ない場合には、当該トリアジン環含有エポキシドを併用することによる、印刷の耐熱性、および被印刷体に対する定着性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
(C)のトリアジン環含有エポキシドとしては、1,3,5−トリアジン環の3つの窒素原子に、それぞれ末端にエポキシ基を有する炭化水素基が置換した構造を有する、式(1):
【0016】
【化1】
【0017】
〔式中m、n、pは、いずれも0ではなく、かつm+n+pが3〜20の数を示す。〕
で表される化合物が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、硬化性が高く、例えばLEDからの紫外線の照射によっても迅速かつ十分に硬化させることができるとともに、顔料の種類にかかわらず貯蔵安定性にも優れており、しかも硬化物の可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性や、当該印刷の耐熱性、定着性にも優れた、新規な活性エネルギー線硬化型のインクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のインクジェットインクは、
(A) 脂環式エポキシド、
(B) エポキシ化脂肪酸グリセライド、
(C) トリアジン環含有エポキシド
の3種のオキシラン環含有化合物、
オキセタン環含有化合物、および
活性エネルギー線の照射によって前記オキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物のカチオン重合を開始させる重合開始剤を含むことを特徴とするものである。
【0020】
《オキシラン環含有化合物》
〈脂環式エポキシド〉
(A)の脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個の、シクロヘキセン環やシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素や過酸等の適当な酸化剤によってエポキシ化して得られる、例えばシクロヘキセンオキサイド、シクロペンテンオキサイド等を含有する種々の化合物が挙げられる。
【0021】
かかる脂環式エポキシドの具体的化合物としては、例えば式(2)〜(17)で表される化合物の1種または2種以上が挙げられる。
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
【化4】
【0025】
脂環式エポキシドとしては、インクジェットインクの粘度上昇を抑制して、インクジェットプリンタのノズルからの吐出性を向上することを考慮すると、上記各種化合物のうち分子量が250以下であるもの、具体的には式(2)〜(8)で表される化合物の1種または2種以上が好適に使用される。
中でも、かかる粘度抑制の効果と反応速度との兼ね合いを考慮すると、式(4)で表される1,2,8,9−ジエポキシリモネン(リモネンジオキサイド)が、(A)の脂環式エポキシドとして特に好適に使用される。
【0026】
〈エポキシ化脂肪酸グリセライド〉
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドとしては、大豆油、アマニ油、ヒマシ油等をエポキシ化して製造される、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ヒマシ油等の1種または2種以上が挙げられる。
中でも、硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善する効果の点で、エポキシ化大豆油が、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドとして特に好適に使用される。
【0027】
〈トリアジン環含有エポキシド〉
(C)のトリアジン環含有エポキシドとしては、1,3,5−トリアジン環の3つの窒素原子に、それぞれ末端にエポキシ基を有する炭化水素基が置換した構造を有する、式(1):
【0028】
【化5】
【0029】
〔式中m、n、pは、いずれも0ではなく、かつm+n+pが3〜20の数を示す。〕
で表される化合物が挙げられる。
かかるトリアジン環含有エポキシドの具体例としては、例えば日産化学工業(株)製のTEPIC(登録商標)シリーズのうちTEPIC−VL〔式(1)中のm+n+p:8〜13、エポキシ当量:125〜145g/eq、粘度6000〜8000mPa・s〕、TEPIC−G〔m+n+p:5〜6、エポキシ当量:110g/eq以下〕、TEPIC−S〔m+n+p:4〜5、エポキシ当量:105g/eq以下〕、TEPIC−SP〔m+n+p:4〜5、エポキシ当量:105g/eq以下〕、TEPIC−SS〔m+n+p:3〜4、エポキシ当量:102g/eq以下〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0030】
中でも、印刷の耐熱性、および被印刷体に対する定着性を向上する効果をより一層向上することを考慮すると、式中のm+n+pが、先の範囲でも6〜15である化合物が好ましく、特にTEPIC−VLが、(C)のトリアジン環含有エポキシドとして好適に使用される。
〈配合割合〉
本発明のインクジェットインクは、以上で説明した(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物を併用していれば、かかる3種の化合物の配合割合は特に限定されないが、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の20質量%以上、65質量%以下であるのが好ましい。
【0031】
配合割合がこの範囲未満では、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドを併用することによる、硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善する効果、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを併用することによる、印刷の耐熱性、および被印刷体に対する定着性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
また範囲を超える場合には、相対的に(A)の脂環式エポキシドの割合が少なくなるため、インクジェットインクの硬化性が低下するおそれがある。
【0032】
これに対し、配合割合を先の範囲とすることにより、インクジェットインクの高い硬化性を維持しながら、硬化物の可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性や、当該印刷の耐熱性、定着性をより一層向上することができる。
また本発明のインクジェットインクは、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを、質量比B/C=1/4〜1/0.5の割合で含んでいるのが好ましい。
【0033】
この範囲より(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドが少ない場合には、当該エポキシ化脂肪酸グリセライドを併用することによる、硬化物の可とう性を向上して、印刷の耐スクラッチ性を改善する効果が十分に得られないおそれがある。
一方、範囲より(C)のトリアジン環含有エポキシドが少ない場合には、当該トリアジン環含有エポキシドを併用することによる、印刷の耐熱性、および被印刷体に対する定着性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0034】
これに対し、配合割合を先の範囲とすることにより、硬化物の可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性や、当該印刷の耐熱性、定着性を、ともにより一層向上することができる。
なお本発明においては、オキシラン環含有化合物として、(A)〜(C)の3種以外の他のオキシラン環含有化合物を、さらに併用することも可能である。ただし、以上で説明した(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の効果をより一層向上することを考慮すると、オキシラン環含有化合物としては、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物のみを併用するのが好ましい。
【0035】
《オキセタン環含有化合物》
オキセタン環含有化合物としては、分子中にオキセタン環を有し、重合開始剤の作用によって、上記オキシラン環含有化合物とともにカチオン重合可能な種々の化合物が、いずれも使用可能である。
かかるオキセタン環含有化合物としては、例えば式(18):
【0036】
【化6】
【0037】
〔式中、R、Rは同一または異なって水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、またはフリル基を示す。〕
で表される化合物が挙げられる。
またオキセタン環含有化合物としては、式(19)で表される化合物も挙げられる。
【0038】
【化7】
【0039】
式中、Rは水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、またはフリル基を示す。Rは式(20)、式(21)、式(22)、または式(23)で表される多価の基であり、qは2〜4の数を示す。
【0040】
【化8】
【0041】
式(20)中、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。
式(21)中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、または式(24):
【0042】
【化9】
【0043】
〔式中、R10は炭素数1〜10のアルキル基を示し、jは0〜100の数を示す。〕
で表される基を示す。Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。rは0〜2000の数を示す。
式(22)中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、低級アルキルカルボキシレート基、またはカルボキシル基を示す。
【0044】
式(23)中、Rは酸素原子、炭素原子、−NH−基、−SO−基、−SO−基、−CH−基、−C(CH)−基、または−C(CF)−基を示す。
またオキセタン環含有化合物としては、式(25)で表される化合物も挙げられる。
【0045】
【化10】
【0046】
〔式中、R11は水素原子、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、またはフリル基を示し、R12は炭素数1〜10のアルキル基を示す。R13は炭素数1〜4のアルキル基、またはトリアルキルシリル基を示す。kは25〜200の数を示す。〕
オキセタン環含有化合物としては、インクジェットインクの粘度上昇を抑制して、インクジェットプリンタのノズルからの吐出性を向上することを考慮すると、上記各種化合物のうち、式(18)で表される化合物が好適に使用される。
【0047】
中でも、かかる粘度抑制の効果と反応速度との兼ね合いを考慮すると、式(18)中のR、Rがともにエチル基である、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンが、オキセタン環含有化合物として特に好適に使用される。
オキセタン環含有化合物の配合割合は、先のオキシラン環含有化合物100質量部あたり50質量部以上、特に60質量部以上であるのが好ましく、300質量部以下、特に270質量部以下であるのが好ましい。
【0048】
配合割合がこの範囲未満では、当該オキセタン環含有化合物を併用することによる、インクジェットインクの反応速度を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
また範囲を超える場合には、相対的に(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の配合割合が少なくなって、当該3種のオキシラン環含有化合物を併用することによる先に説明した効果が十分に得られないおそれがある。
【0049】
これに対し、オキセタン環含有化合物の配合割合を上記の範囲とすることにより、3種のオキシラン環含有化合物を併用することによる効果を良好に維持しながら、インクジェットインクの反応速度をさらに向上することができる。
《重合開始剤》
紫外線等の活性エネルギー線の照射によって酸を発生させて、オキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物のカチオン重合を開始させる重合開始剤(光酸発生剤)としては、当該機能を有する種々の化合物が使用可能である。
【0050】
重合開始剤としては、例えばジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウムホスホニウム等のオニウムイオンを含む芳香族オニウム化合物の塩等が挙げられる。
芳香族オニウム化合物とともに塩を構成するアニオンとしては、例えばB(C)、PF、AsF、SbF、CFSO等の1種または2種以上が挙げられる。
【0051】
重合開始剤の具体例としては、例えば式(26)(27)で表される化合物の少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
【化11】
【0053】
なお各式中のXは、上で説明したアニオンのいずれか1種または2種以上である。
中でも特に、式(26)で表され、式中のXがPFであるモノスルホニウム塩〔サンアプロ(株)製のCPI−100P、50%プロピレンカーボネート溶液〕や、同じく式(26)で表され、式中のXがSbFであるモノスルホニウム塩〔サンアプロ(株)製のCPI−101A、50%プロピレンカーボネート溶液〕が、重合開始剤として特に好適に使用される。
【0054】
重合開始剤の配合割合は任意に設定できるが、活性エネルギー線の照射によってインクジェットインクを効率よく速やかに硬化反応させることを考慮すると、3種のオキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物の総量に対して1質量%以上、特に2質量%以上であるのが好ましく、10質量%以下、特に8質量%以下であるのが好ましい。
なお重合開始剤として、先に例示したモノスルホニウム塩の溶液を使用する場合は、当該溶液中の有効成分(モノスルホニウム塩)の配合割合が上記の範囲となるように、溶液の配合割合を調整すればよい。
【0055】
《その他の成分》
本発明のインクジェットインクには、上記の各成分に加えて、さらに必要に応じて増感剤、着色剤、その他の成分を配合してもよい。
〈増感剤〉
増感剤としては、特定波長域の活性エネルギー線の照射によって重合開始剤の酸発生を促進する機能を有する種々の化合物が挙げられる。
【0056】
かかる増感剤としては、例えば活性エネルギー線がLEDからの紫外線である場合、例えば9,10−ジブトキシアントラセン等のアントラセン誘導体等が挙げられる。また、他の増感剤としては、例えばアントラセンや、クリベロ〔J. V. Crivello, Adv. in Polymer Sci., 62, 1(1984) 〕に開示されたピレン、ペリレン、アクリジンオレンジ、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、ベンゾフラビン等も挙げられる。
【0057】
なお増感剤としては、活性エネルギー線の波長域、および重合開始剤の吸収波長域に応じて、増感に適した吸収波長域を有するものを、それぞれ1種単独で使用できる他、2種以上を併用してもよい。
増感剤の配合割合は任意に設定できるものの、良好な増感効果を得ることを考慮すると、3種のオキシラン環含有化合物とオキセタン環含有化合物の総量に対して1質量%以上、特に2質量%以上であるのが好ましく、10質量%以下、特に6質量%以下であるのが好ましい。
【0058】
〈着色剤〉
着色剤としては、種々の顔料、染料等が挙げられる。着色剤としては、インクジェットインクの色味に応じた各色の着色剤がいずれも使用可能である。特に印刷の耐光性、耐候性等を向上することを考慮すると、種々の無機顔料、および/または有機顔料が好ましい。
【0059】
このうち無機顔料としては、例えば酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物や、あるいはコンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造された中性、酸性、塩基性等の種々のカーボンブラックの1種または2種以上が挙げられる。
また有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えばフタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料等)、染料キレート(例えば塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の1種または2種以上が挙げられる。
【0060】
無機または有機の顔料は、インクジェットインクの色目に応じて1種または2種以上を用いることができる。例えばカーボンブラックで黒色を表現する場合、より青黒く見せるために、シアン顔料を添加してもよい。
また顔料は、インクジェットインク中での分散安定性を向上するために、表面を処理してもよい。
【0061】
顔料の具体例としては、下記の各種顔料が挙げられる。
(イエロー顔料)
C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、14C、16、17、20、24、73、74、75、83、86、93、94、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、214
(マゼンタ顔料)
C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、97、112、122、123、149、168、177、178、179、184、202、206、207、209、242、254、255
(シアン顔料)
C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:3、15:4、15:6、15:34、16、22、60
(ブラック顔料)
C.I.ピグメントブラック7
(オレンジ顔料)
C.I.ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74
(グリーン顔料)
C.I.ピグメントグリーン7、36
(バイオレット顔料)
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50
また着色剤としては、可視光領域(波長400〜700nm)において実質的に不可視で、波長400nm未満の紫外線で励起されて可視光を発する蛍光色素を用いることもできる。
【0062】
(蛍光色素)
蛍光色素としては、発光の検出に安価なシリコンフォトダイオード等を用いることができる、赤色(好ましくは波長615±20nm)の発光をするものが好適に使用される。
蛍光色素としては、かかる波長域に発光中心波長を有するユウロピウムを含み、これにテノイルトリフルオロアセトン、ナフトイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、メチルベンゾイルトリフルオロアセトン、フロイルトリフルオロアセトン、ピバロイルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、フルオロアセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン等を配位子とした金属錯体の1種または2種以上が挙げられる。
【0063】
中でも、発光強度の大きなテノイルトリフルオロアセトン、ナフトイルトリフルオロアセトンまたはメチルベンゾイルトリフルオロアセトンを配位子としたユウロピウム化合物が好ましい。
また印刷の発光強度やインク保存安定性の向上を目的として、ユウロピウム化合物の配位子の一部分にリン系有機化合物を用いることもできる。
【0064】
リン系有機化合物としては、例えばトリエチルホスフィンオキサイド、トリ−n−プロピルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリ−n−ヘキシルホスフィンオキサイド、トリ−n−オクチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリス(3−ヒドロキシメチル)ホスフィンオキサイド、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド化合物、トリ−n−ブチルホスフィンサルファイドなどのホスフィンサルファイド化合物、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−ヘキシルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィン等のホスフィン化合物の1種または2種以上が挙げられる。
【0065】
また用途に応じて、可視光領域おいて実施的に不可視で、かつ紫外線により励起されて青色や緑色、黄緑色、黄色等、赤色以外の可視光を発光する有機蛍光色素を用いることもできる。
かかる有機蛍光色素としては、例えばクマリン系、スチルベン系、トリアジン系、イミダゾール系、チアゾール系、オキサゾール系、ピラゾロン系、ベンゾオキサジン系等の各種蛍光増白剤、テレビウム、ツリウム等の希土類元素を発光中心とし、これにπ電子を多数有する配位子を対イオンとした金属錯体の1種または2種以上が挙げられる。
【0066】
(配合割合)
着色剤の配合割合は、インクジェットインクの総量の0.1質量%以上、特に0.4質量%以上であるのが好ましく、8質量%以下、特に5質量%以下であるのが好ましい。
〈顔料分散剤〉
着色剤が顔料である時、当該顔料を分散させるため、インクジェットインクには顔料分散剤を配合してもよい。当該顔料分散剤としては、高分子系顔料分散剤、界面活性剤等の、種々の顔料分散剤が、いずれも使用可能である。
【0067】
顔料分散剤の配合割合は、顔料量の20質量%以上、特に30質量%以上であるのが好ましく、70質量%以下、特に60質量%以下であるのが好ましい。
《インクジェットインクの調製》
本発明のインクジェットインクを調製するには、例えば顔料を、所定量の顔料分散剤とともに、先に説明した3種のオキシラン環含有化合物、およびオキセタン環含有化合物のうち液状の成分の一部に配合して顔料分散液を調製する。
【0068】
次いでこの顔料分散液を、上記3種のオキシラン環含有化合物、およびオキセタン環含有化合物の残部、重合開始剤、ならびに増感剤と配合することにより、本発明のインクジェットインクが調製される。
本発明によれば、上記3種のオキシラン環含有化合物、およびオキセタン環含有化合物を併用することにより、硬化性が高く、例えばLEDからの紫外線の照射によっても迅速かつ十分に硬化させることができるとともに、顔料の種類にかかわらず貯蔵安定性にも優れており、しかも硬化物の可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性や、当該印刷の耐熱性、定着性にも優れた活性エネルギー線硬化型のインクジェットインクを提供することができる。
【実施例】
【0069】
〈実施例1〉
(A)の脂環式エポキシドとしては、式(4)で表される1,2,8,9−ジエポキシリモネン〔リモネンジオキサイド、(株)ダイセル製のセロキサイド(登録商標)3000〕を用いた。
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドとしては、エポキシ化大豆油〔(株)ADEKA製のアデカサイザー(登録商標)O−130P〕を用いた。
【0070】
(C)のトリアジン環含有エポキシドとしては、式(1)中のm+n+pが8〜13である、前出の日産化学工業(株)製のTEPIC−VL〔エポキシ当量:125〜145g/eq、粘度6000〜8000mPa・s〕を用いた。
オキセタン環含有化合物としては、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン〔東亞合成(株)製のアロンオキセタン(登録商標)OXT−221〕を用いた。
【0071】
また重合開始剤としては、式(26)中のXがPFであるモノスルホニウム塩〔前出のサンアプロ(株)製のCPI−100P、50%プロピレンカーボネート溶液〕を用い、増感剤としては、9,10−ジブトキシアントラセン〔川崎化成工業(株)製のアントラキュアー(登録商標)UVS−1331〕を用いた。
さらに顔料分散剤としては、高分子系顔料分散剤〔味の素ファインテクノ(株)製のアジスパー(登録商標)PB822〕を用いた。
【0072】
(顔料分散液の調製)
顔料としてのカーボンブラックLFF〔三菱化学(株)製のMA8〕1.8質量部、高分子系顔料分散剤0.7質量部、およびオキセタン環含有化合物9.5質量部を配合し、混合して顔料分散液を調製した。
(インクジェットインクの調製)
上で説明した(A)の脂環式エポキシド25.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド5.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシド10.0質量部、およびオキセタン環含有化合物40.0質量部を、重合開始剤5.0質量部(有効成分量:2.5質量部)、増感剤3.0質量部、ならびに顔料分散液12.0質量部と配合し、混合したのち5μmのメンブランフィルタを用いて濾過してインクジェットインクを調製した。
【0073】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の37.5質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/2であった。
〈実施例2〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を32.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を2.7質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を5.3質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0074】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の20.0質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/2であった。
〈実施例3〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を14.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を8.7質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を17.3質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0075】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の65.0質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/2であった。
〈実施例4〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を12.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を9.3質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を18.7質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0076】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の70.0質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/2であった。
〈実施例5〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を34.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を2.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を4.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0077】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の15.0質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/2であった。
〈実施例6〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を25.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を3.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を12.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0078】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の37.5質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/4であった。
〈実施例7〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を31.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を6.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を3.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0079】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の22.5質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/0.5であった。
〈実施例8〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を22.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を3.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を15.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0080】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の45.0質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/5であった。
〈実施例9〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を30.9量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を7.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を2.1質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0081】
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの合計の配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の22.8質量%であった。また(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/0.3であった。
〈比較例1〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を40.0質量部として、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0082】
〈比較例2〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を35.0質量部、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの配合量を5.0質量部として、(C)のトリアジン環含有エポキシドを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
〈比較例3〉
(A)の脂環式エポキシドの配合量を30.0質量部、(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合量を10.0質量部として、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0083】
〈比較例4〉
(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド30.0質量部に、特許文献3に記載のビニルエーテル化合物としての1,4−ブタンジオールジビニルエーテル10.0質量部を配合し、(A)の脂環式エポキシド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてインクジェットインクを調製した。
【0084】
〈硬化性〉
各実施例、比較例のインクジェットインクをインクジェットプリンタに使用して、被印刷体としてのブリスターパック用薄膜アルミニウムの表面にベタ印刷をした。そして紫外線LEDを用いた硬化装置〔Phoseon Technology社製のFireJet〕を使用して、トータル照射光量が150mJ/cmとなるように紫外線を照射してベタ印刷を硬化させたのち、下記の基準で、インクジェットインクの硬化性を評価した。
【0085】
○:指でこすってもベタ印刷に傷はつかず、インクが指に付着することもなかった。良好。
△:ベタ印刷に傷がついたが、インクは指に付着しなかった。通常レベル。
×:ベタ印刷に傷がつき、指にインクが付着した。不良。
〈耐スクラッチ性〉
各実施例、比較例のインクジェットインクを、硬化性評価で使用したのと同じインクジェットプリンタに使用して、同じブリスターパック用薄膜アルミニウムの表面にベタ印刷をし、トータル照射光量が300mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させた。そして硬化させたベタ印刷上に、直径4mmの鉄球を900gfの荷重で圧接させた状態で往復させて、下記の基準で、印刷の耐スクラッチ性を評価した。
【0086】
○:鉄球を5往復させてもベタ印刷は剥離しなかった。良好。
△:3往復までは剥離しなかったが、5往復までに、鉄球の軌跡に沿って局部的に剥離した。通常レベル。
×:3往復までに、鉄球の軌跡に沿って局部的に剥離した。不良。
〈耐熱性〉
各実施例、比較例のインクジェットインクを、硬化性評価で使用したのと同じインクジェットプリンタに使用して、同じブリスターパック用薄膜アルミニウムの表面にベタ印刷をし、トータル照射光量が300mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させた。そして硬化させたベタ印刷の上に、同じブリスターパック用薄膜アルミニウムを重ねた状態で0.5秒間、250℃に加熱したのち、重ねたブリスターパック用薄膜アルミニウムを剥離して、下記の基準で、印刷の耐熱性を評価した。
【0087】
○:ベタ印刷には亀裂は見られず、重ねたブリスターパック用薄膜アルミニウムへのベタ印刷の転移もなかった。良好。
△:わずかに亀裂が見られたが、重ねたブリスターパック用薄膜アルミニウムへは転移しなかった。通常レベル。
×:重ねたブリスターパック用薄膜アルミニウムに転移した。不良。
【0088】
〈定着性〉
各実施例、比較例のインクジェットインクを、硬化性評価で使用したのと同じインクジェットプリンタに使用して、同じブリスターパック用薄膜アルミニウムの表面にベタ印刷をし、トータル照射光量が300mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させた。そして下記の基準で、印刷の定着性を評価した。
【0089】
○:ベタ印刷上にセロハンテープを貼り付けたのち剥離しても、ベタ印刷は剥がれなかった。良好。
△:セロハンテープを貼り付けた領域の一部で、部分的に剥がれた。通常レベル。
×:セロハンテープを貼り付けた領域のほぼ全面で剥がれた。不良。
以上の結果を表1〜表3に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
表3の比較例1の結果より、オキセタン環含有化合物とともに、オキシラン環含有化合物として(A)の脂環式エポキシドのみを使用した場合には、硬化性は高いものの、硬化物の可とう性が不足して印刷の耐スクラッチ性が不良になることが判った。
また比較例2の結果より、オキシラン環含有化合物として(A)の脂環式エポキシドと(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライドの2種を併用した場合には、可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性は改善されるものの、当該印刷の耐熱性、定着性が不良になることが判った。
【0094】
また比較例3の結果より、オキシラン環含有化合物として(A)の脂環式エポキシドと(C)のトリアジン環含有エポキシドの2種を併用した場合には、硬化物の可とう性が不足して印刷の耐スクラッチ性が不良になることが判った。
そして比較例4の結果より、オキシラン環含有化合物としては(A)の脂環式エポキシドのみを使用し、ビニルエーテル化合物を併用した場合には、硬化性、耐スクラッチ性、耐熱性、および定着性のいずれも不良になることが判った。
【0095】
これに対し表1、表2の実施例1〜9の結果より、オキセタン環含有化合物とともに、オキシラン環含有化合物として(A)〜(C)の3種を併用することで、硬化性が高く、しかも硬化物の可とう性とそれに伴う印刷の耐スクラッチ性や、当該印刷の耐熱性、定着性に優れたインクジェットインクが得られることが判った。
また実施例1〜5の結果より、かかる併用の効果をより一層向上することを考慮すると、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの配合割合は、(A)〜(C)の3種のオキシラン環含有化合物の総量の20質量%以上、65質量%以下であるのが好ましいことが判った。
【0096】
さらに実施例1、実施例6〜9の結果より、上記併用の効果をより一層向上することを考慮すると、(B)のエポキシ化脂肪酸グリセライド、および(C)のトリアジン環含有エポキシドの質量比B/C=1/4〜1/0.5であるのが好ましいことが判った。