特許第6167491号(P6167491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167491二酸化チタン組成物とその製造方法、及びチタン酸リチウム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167491
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】二酸化チタン組成物とその製造方法、及びチタン酸リチウム
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20170713BHJP
   C01G 23/047 20060101ALI20170713BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20170713BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170713BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C01G23/00 B
   C01G23/047
   H01M4/485
   H01M4/48
   H01M4/36 E
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-199747(P2012-199747)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-55080(P2014-55080A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 啓治
(72)【発明者】
【氏名】見上 勝
(72)【発明者】
【氏名】寺部 敦樹
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−239461(JP,A)
【文献】 特開2002−211925(JP,A)
【文献】 特開2012−012261(JP,A)
【文献】 特表2010−514655(JP,A)
【文献】 特開平09−278442(JP,A)
【文献】 国際公開第03/006559(WO,A1)
【文献】 特開平02−184526(JP,A)
【文献】 特公昭50−036440(JP,B1)
【文献】 特開2002−289194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
C01G 23/047
H01M 4/36
H01M 4/48
H01M 4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンと、
Li元素と、
を含む、粒子状ルチル型二酸化チタン組成物であって、
該二酸化チタン中、ルチル型結晶を97質量%以上100質量%以下含み、
BET比表面積1.5〜5.0m/gであり、
該二酸化チタンの前駆体である水酸化チタン100質量部(TiO換算)に対し、LiO換算で0.10〜2.00質量部の第1のLi化合物を添加して得られる
組成物。
【請求項2】
前記組成物は、チタン酸リチウム合成用の二酸化チタン組成物である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、水酸化チタンと前記添加量の第1のLi化合物とを含む混合物の焼成物である
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の粒子状ルチル型二酸化チタン組成物の製造方法であって、
水酸化チタンを準備し、
該水酸化チタンに、第1のLi化合物を添加して、混合物を調製し、
該混合物を焼成する
工程を含み、
前記第1のLi化合物は、水酸化チタン100質量部(TiO換算)に対し、LiO換算で0.10〜2.00質量部添加される
製造方法。
【請求項5】
前記混合物を700℃以上950℃以下の温度で10分以上60分以下焼成する
請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1のLi化合物と共に及び/又は別々に、B化合物、K化合物、Na化合物、及びMg化合物から選ばれる1種以上の化合物をさらに添加する
請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
前記B化合物は、前記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、B換算で0.01〜0.30質量%添加される
請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記K化合物は、前記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、KO換算で0.05〜2.00質量%添加される
請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
前記Na化合物は、前記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、NaO換算で0.03〜1.50質量%添加される
請求項6記載の製造方法。
【請求項10】
前記Mg化合物は、前記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、MgO換算で0.05〜2.00質量%添加される
請求項6記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン組成物とその製造方法、及びチタン酸リチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸リチウム(LTO)は、リチウムイオン二次電池の電極(負極)活物質として注目されている。LTOは、リチウムイオンを吸蔵・放出する際の体積変化が少なく、容量劣化が殆どないことから、LTOを電極材料として用いた場合、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が良好な点で好ましい。また従来のリチウムイオン二次電池では発熱の危険性があったが、LTOは不燃性であり、発火等の危険性が少ないことからも安全性の高い材料であるという利点がある。
【0003】
LTOをリチウムイオン二次電池の電極として用いられる場合、LTOに要求される物性としては、電極(負極)活物質として高密度で充填できるものであること、リチウムイオン二次電池の電極に用いた場合に、電池内の電解液の劣化を抑制できる材料であること、及びその電池が高い充放電容量を達成できるものであること、等が挙げられる。
【0004】
これまでの知見によれば、リチウムイオン二次電池の電解液の劣化を抑制し、電極活物質として高密度で充填するためには、LTOの一次粒子径は大きいほうが好ましい。しかし一方で、一次粒子径の大きいLTOを用いて作成されたリチウムイオン二次電池は、放電容量が低くなることもわかっている。このように、リチウムイオン二次電池の電解液の劣化を防ぎつつ、充放電容量を満足するリチウムイオン二次電池を得るのは容易ではない。
【0005】
ところでLTOは、二酸化チタンとリチウム化合物(炭酸リチウムや水酸化リチウム等)とを混合し、焼成することにより合成できる。このようにして得られたLTOに関してはいくつかの報告がある。
【0006】
例えば特許文献1には、リチウムイオン二次電池の高温下での使用における電極活物質のリチウムチタン複合酸化物と非水電解液との反応抑制の目的で、LTOの原料として1μmより大きいアナターゼ(アナタース)型二酸化チタンを用いて得たLTOが開示されている。得られたLTOは10μm程度の大粒径である。特許文献1の記載によるとLTO中に未反応のTiOの残留はなかったが、このLTOを用いてリチウムイオン二次電池を作成した場合、その電池の放電容量は120mAh/gと不十分な値であった。粒子径の大きい二酸化チタンを完全にLTOに変換するためには相応の加熱が必要であり、その結果、結晶の緻密化が進み、Liイオンと電子の移動度が低下したことが原因と思われる。
【0007】
特許文献2には、ルチル化率15〜100%の結晶性を有する二酸化チタンから得られた、一次粒子径0.1〜0.8μmのLTOが開示されている。このようなLTOを用いてリチウムイオン二次電池を作成すると充放電容量、クーロン効率、サイクル寿命が著しく高まると記載されている。特許文献2には、ルチル構造を含む二酸化チタンを用いる目的は、得られるLTOの粒子成長が抑えられ、目的の粒子径のLTOが得られることである、と記載されている。しかし、LTOの電池特性(充放電容量)は、その粒子径のみに依存するわけではない。結晶の状態によるLiイオンや電子の移動度の影響を受けるので、電池特性良好なLTOの条件としては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−354421号公報
【特許文献2】特開2002−289194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来は一次粒子径の大きなLTOを電極活物質としてリチウムイオン二次電池を作成した場合、放電容量が低いという問題があった。逆に一次粒子径の小さいLTOを電極活物質としてリチウムイオン二次電池を作成した場合、その放電容量は高いものの、LTOの充填性が低いことや、電池の電解液の劣化を抑制できないため、サイクル寿命が短いという点で問題があった。このように、充填性が高く、それを用いて作成したリチウムイオン二次電池の放電容量が高く、かつ電池の電解液の劣化を最小限に抑えることができるLTOが求められている。
【0010】
本発明者らは、上記LTOを得るために、その原料である二酸化チタン、及びその製造方法に着目した。本発明者らは、上述の物性を有するLTOを合成するのに好適な二酸化チタン組成物、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池用として好適なLTOを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、検討の結果、二酸化チタンとLi元素とを含む、特定の粒子状ルチル型二酸化チタン組成物が、リチウムイオン二次電池用として好適なLTOの原料として優れていることを見出した。また前駆体である水酸化チタンから二酸化チタンを合成する場合に、水酸化チタンに所定量のLi化合物を添加した後、その混合物の焼成を行えば、所望の二酸化チタン組成物が得られることを見出した。具体的には、上記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、上記Li化合物をLiO換算で0.10〜2.00質量%添加するのが有効であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の態様は、二酸化チタンと、Li元素とを含む、粒子状ルチル型二酸化チタン組成物であって、該二酸化チタン中、ルチル型結晶を97質量%以上100質量%以下含み、BET比表面積が1.5〜5.0m/gであり、該二酸化チタンの前駆体である水酸化チタン100質量部(TiO換算)に対し、LiO換算で0.10〜2.00質量部のLi化合物(以下、水酸化チタンに添加するこのLi化合物を「第1のLi化合物」とも称する)を添加して得られる組成物に関する。好ましくは上記組成物は、チタン酸リチウムの合成に適した、チタン酸リチウム合成用の二酸化チタン組成物である。
【0013】
また本発明の第2の態様は、二酸化チタンと、Li元素とを含む、粒子状ルチル型二酸化チタン組成物の製造方法であって、水酸化チタンを準備し、該水酸化チタンに、第1のLi化合物を添加して、混合物を調製し、該混合物を焼成する工程を含み、前記第1のLi化合物は、水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量部とした場合、LiO換算で0.10〜2.00質量部添加される粒子状ルチル型二酸化チタン組成物の製造方法に関する。
【0014】
好ましくは、上記混合物を700℃以上950℃以下の温度で10分以上1時間以下焼成する。
【0015】
好ましい実施形態においては、上記第1のLi化合物と共に及び/又は別々に、B化合物、K化合物、Na化合物、及びMg化合物から選ばれる1種以上の化合物をさらに添加する。
【0016】
さらに好ましい実施形態においては、上記B化合物は、上記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、B換算で0.01〜0.30質量%添加される。
【0017】
別のさらに好ましい実施形態においては、上記K化合物は、上記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、KO換算で0.05〜2.00質量%添加される。
【0018】
別のさらに好ましい実施形態においては、上記Na化合物は、上記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、NaO換算で0.03〜1.50質量%添加される。
【0019】
別のさらに好ましい実施形態においては、上記Mg化合物は、上記水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、MgO換算で0.05〜2.00質量%添加される。
【0020】
本発明の第3の態様は、上記製造方法で得られた粒子状ルチル型二酸化チタン組成物、好ましくはチタン酸リチウム合成用二酸化チタン組成物であって、二酸化チタンと、Li元素とを含み、該二酸化チタン中、ルチル型結晶を97質量%以上100質量%以下含み、
BET比表面積が1.5〜5.0m/gである組成物に関する。
【0021】
本発明の第4の態様は、Li化合物(以下、チタン酸リチウムの原料であるこのLi化合物を「第2のLi化合物」とも称する)と、上記二酸化チタン組成物とから合成されたチタン酸リチウムであって、タップ密度が1.3〜1.9g/mlであり、BET比表面積が1.1〜3.8m/gであるチタン酸リチウムに関する。
【0022】
好ましい態様においては、上記チタン酸リチウムは、リチウムイオン二次電池の電極としたときの該リチウムイオン二次電池の初期放電容量が135mAh/g以上である。
【0023】
また、上記チタン酸リチウムの原料である二酸化チタン組成物は、上述の方法で得られたものが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ルチル型二酸化チタンを主体とする、大粒子径の粒子組成物であって、LTO(チタン酸リチウム)用途に好適な二酸化チタン組成物を提供することができる。また本発明の製造方法で得られるチタン酸リチウム用の二酸化チタン組成物から得られるLTOは、高い充填率で電池へと充填できる。またそのようなLTOは、電解液劣化が抑制され、高いエネルギー容量を発揮できるリチウムイオン二次電池の好適な材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本願実施例及び比較例の、タップ密度と初期放電容量の相関関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(二酸化チタン組成物)
本発明の第1の態様は、二酸化チタンと、Li元素とを含む、粒子状ルチル型二酸化チタン組成物、好ましくはチタン酸リチウム合成用二酸化チタン組成物に関する。上記二酸化チタンは、ルチル型結晶を97質量%以上100質量%以下含み、アナタース型結晶をほとんど含まない。ルチル型とアナタース型を比較すると、第2のLi化合物との固相反応における反応速度はルチル型の方が遅いことから、アナタース型を一定量以上含むと、反応速度の早いアナタース型から生じる生成物と、反応速度の遅いルチル型から生じる生成物が混在し、その結果LTOの結晶状態における均一性が損なわれる傾向がある。アナタース型二酸化チタンは、高温に加熱するとルチル型へと不可逆的に転移することが知られているが、この温度はLTOを合成する際の焼成温度と重複している。
【0027】
アナタース型二酸化チタンとLi化合物の反応は以下のように説明できる。
・700℃では、反応中間体のLiTiOが得られ、アナタース型二酸化チタンが残存する状態である。
・800℃でLiTiOが減少し、アナタース型二酸化チタンは消失する。代わりに目的のLiTi12とルチル型二酸化チタンが生成する。更に温度を上げるとLiTiOとルチル型二酸化チタンが消失し、LiTi12が得られる。
したがって、(1)LiTiOとアナタース型二酸化チタンから得られるLiTi12と(2)アナタース型二酸化チタンから転移したルチル型二酸化チタンとLiTiOの反応で得られるLiTi12がある。アナタース型から転移したルチル型の二酸化チタンは、反応速度がアナタース型に比べてさらに遅いので、ルチル型二酸化チタンが残留しやすくなる。また、アナタース型二酸化チタンとルチル型二酸化チタンの反応速度の違いにより、LiTi12の結晶状態の均一性が損なわれる可能性がある。
【0028】
一方、ルチル型二酸化チタンを原料としてLTOを合成した場合は直接LTOへと転化したもののみが得られる。さらに、アナタース型を多く含む場合、950℃以下の温度ではタップ密度が高いLTOを得ることはできなかった。従って、二酸化チタン中のアナタース型結晶の量は極力少なくする必要がある。具体的には二酸化チタンのうち97質量%以上100質量%以下がルチル型である。
【0029】
ルチル型の含有割合の測定方法は、特に限定されないが、一例としては以下のように測定できる。銅管球をもつX線回折装置(UltimaIII、リガク社製)にて二酸化チタン組成物を公知の粉末測定法に従って分析し、得られた測定チャートのアナタース型二酸化チタンに相当する回折ピーク(面指数101)のピーク高さIと、ルチル型二酸化チタンに相当する回折ピーク(面指数110)のピーク高さIより、二酸化チタン全体に占めるルチル型の含有割合を決定できる。具体的には、次式:
RC(質量%)=I×1.32/(I×1.32+I)×100
「RC」は、ルチル型の含有割合(ルチルコンテント)を意味する。アナタース型酸化チタン粉末の回折ピーク(面指数101)のピーク高さIは、ルチル型酸化チタン粉末の回折ピーク(面指数110)のピーク高さIよりも1.32倍大きい値として検出されるため、上記計算式ではIに1.32の係数を乗じて補正を行なっている。なお単位は質量%である。
【0030】
上記二酸化チタン組成物は、少なくとも二酸化チタンとLi成分を含む。LTOは二酸化チタンと第2のLi化合物とを混合して焼成することにより得られる。二酸化チタン粒子の内部まで十分にLTO化の反応を進行させるためには、通常は高温及び/又は長時間での加熱を必要とするが、一方加熱が進行すると結晶の緻密化が進行し、このLTOを電極として用いた場合にLiイオンと電子の移動度が低下する、ひいては不十分な放電容量の電池しか得られない、という問題があった。
【0031】
本発明においては、一定量のLi化合物を添加して得られる粒子状二酸化チタン組成物を使用することでこの問題を解消するものである。本発明者らは、一定量、即ち二酸化チタンの前駆体である水酸化チタン100質量部(TiO換算)に対し、LiO換算で0.10〜2.00質量部の第1のLi化合物を添加して得られる粒子状二酸化チタン組成物を用いることにより、充放電容量が高く、且つ高い充填率で電池に充填できるLTOが得られることを発見した。またこのようなLTOを使用したリチウムイオン電池は電解液の劣化が抑制され、放電電圧が放電に伴って低下しない。
【0032】
上記第1のLi化合物としては、特に限定されないが、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、蓚酸リチウム等のリチウム塩が挙げられる。中でも焼成後に不要な陰イオン残基が残らない炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、蓚酸リチウムが好ましい。
【0033】
二酸化チタン合成時の第1のLi化合物の添加量は、特に限定されないが、水酸化チタン100質量部(TiO換算)に対し、LiOに換算して0.10〜2.00質量部、好ましくは、0.10〜1.80質量部、さらに好ましくは、0.10〜1.60質量部のLi化合物を添加する。上記範囲の量の第1のLi化合物を添加する場合、得られる二酸化チタン組成物中に残存するLi原子を起点としてLTO化が速やかに進行しやすい点で好ましい。
【0034】
本発明の二酸化チタン組成物は、粒子状であり、そのBET比表面積が1.5〜5.0m/gである。上記BET比表面積は、好ましくは1.5〜4.8m/g、より好ましくは1.5〜4.6m/gである。1.5m/gより小さいBET比表面積の二酸化チタン組成物は、リチウム塩との反応性が低いため、LTOを合成する際に未反応のTiOが残存してしまい、その結果、そのLTOを用いて作成したリチウムイオン二次電池の充放電容量が低くなる。5.0m/gより大きいBET比表面積の二酸化チタン組成物から一次粒子径の大きいLTOを得るには高温での焼成が必要になるので、その高温焼成の過程でLiTiが生成してしまい、その結果、そのLTOを用いて作成したリチウムイオン二次電池の充放電容量が低くなる。
【0035】
上記BET法による比表面積は、BET1点法に従って測定することができる。上記BET法による比表面積を測定する方法は特に制限されないが、公知の各種BET比表面積測定装置により簡便に測定することができる。特に限定されないが、比表面積測定装置の例としてはMountech(マウンテック)社製Macsorb(マックソーブ)が挙げられる。
【0036】
(二酸化チタン組成物の製造方法)
次に、本発明の第2の態様である、二酸化チタン組成物の製造方法について説明する。本態様は、二酸化チタンと、Li元素とを含む、粒子状ルチル型二酸化チタン組成物、好ましくはチタン酸リチウム合成用の粒子状ルチル型二酸化チタン組成物を製造する方法に関する。
【0037】
本製造方法においては、最初の工程として水酸化チタンを準備する。水酸化チタンを製造する方法は公知であり、特に限定されないが、その方法の一例としては、二酸化チタンの製造方法の一つである硫酸法に従って、その中間物質である水酸化チタンを得る方法が挙げられる。上記「硫酸法」とは、(1)チタン鉱石、例えばイルメナイト鉱(FeTiO)を濃硫酸に溶かし、鉄分を硫酸鉄として分離した後、(2)生成した硫酸チタン(TiOSO)を熱水で加水分解して水酸化チタン(TiO(OH))の沈殿物を得、(3)この水酸化チタンを焼成することにより二酸化チタンを得る方法である。本発明においては、上記(2)で得られる、焼成する前の水酸化チタンを用いることができる。
【0038】
次に、本発明の方法においては、水酸化チタンを焼成する前に第1のLi化合物を添加して水酸化チタンとLi化合物の混合物を作成する。混合する際には粉体を固相のまま混合しても良いし、水等の液体中に懸濁させて懸濁液(スラリー)を作成し、混合してもよい。懸濁液を作成した場合には、次の焼成工程に移る前に、水などの懸濁媒を蒸発させて除去するのが好ましい。
【0039】
上記第1のLi化合物の例は上述した通りである。第1のLi化合物の添加量は、水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量部とした場合、LiO換算で0.10〜2.00質量部添加される。0.10質量部未満では、効果が十分でない場合がある。2.00質量部より多く添加しても、効果は飽和する場合が多い。上記添加量は、好ましくは水酸化チタンの質量100質量部(TiOあたり)0.10〜1.80質量部、より好ましくは0.10〜1.60質量部である。
【0040】
第1のLi化合物に含まれるLi原子又はLiイオンは、所定量添加することにより、従来よりも低い温度かつ短時間の焼成で粒子状ルチル型二酸化チタン組成物が得られる。このような粒子状ルチル型二酸化チタン組成物を使用することで高い充填率で電池に充填できるLTOが得られる。またこのようなLTOを使用したリチウムイオン電池は電解液の劣化が抑制され、充放電容量が高く、かつ放電電圧が放電に伴って低下しない。
【0041】
本発明の好ましい態様においては、上記第1のLi化合物と及び/又は別々に、B化合物、K化合物、Na化合物、及びMg化合物から選ばれる1種以上の化合物をさらに添加することができる。
【0042】
B化合物はアナタース型からルチル型への二酸化チタンの相転移及び粒子の成長を促進する働きがある。上記B化合物の例としては、特に限定されないが、ホウ酸(HBO)、ホウ砂等が挙げられる。
【0043】
B化合物を添加する場合、その量は特に限定されないが、水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、B換算で0.01〜0.30質量%添加されるのが好ましい。0.01質量%未満では、粒子を成長させる効果が十分でない場合がある。0.30質量%より多く添加すると、TiO粒子が大きくなりすぎる場合がある。上記添加量は、より好ましくは0.02〜0.30質量%、さらに好ましくは0.03〜0.30質量%である。
【0044】
K化合物は粒子形状及び粒子径のばらつきを整える効果がある。上記K化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、塩化カリウム、蓚酸カリウムなど等が挙げられる。
【0045】
K化合物を添加する場合、その量は特に限定されないが、水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、KO換算で0.05〜2.00質量%添加されるのが好ましい。0.05質量%未満では、粒子径のばらつきを整える効果がない場合がある。2.00質量%より多く添加すると、むしろ粒子径はばらついてしまう場合がある。上記添加量は、より好ましくは0.08〜1.80質量%、さらに好ましくは0.10〜1.60質量%である。
【0046】
Na化合物は粒子形状及び粒子径のばらつきを整える効果がある。上記Na化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、蓚酸ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
Na化合物を添加する場合、その量は特に限定されないが、水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、NaO換算で0.03〜1.50質量%添加されるのが好ましい。0.03質量%未満では、粒子径のばらつきを整える効果がない場合がある。1.50質量%より多く添加すると、むしろ粒子径はばらついてしまう場合がある。上記添加量は、より好ましくは0.05〜1.40質量%、さらに好ましくは0.10〜1.30質量%である。
【0048】
Mg化合物はアナタース型からルチル型への二酸化チタンの相転移及び粒子の成長を促進する働きがある。上記Mg化合物の例としては、特に限定されないが、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、蓚酸マグネシウム等が挙げられる。
【0049】
Mg化合物を添加する場合、その量は特に限定されないが、水酸化チタンの質量をTiOに換算したものを100質量%とした場合、MgO換算で0.05〜2.00質量%添加されるのが好ましい。0.05質量%未満では、粒子を成長させる効果が十分でない場合がある。2.00質量%より多く添加しても、粒子を成長させる効果は飽和する場合が多い。上記添加量は、より好ましくは0.08〜1.80質量%、さらに好ましくは0.10〜1.60質量%である。
【0050】
それ以外にも、二酸化チタン組成物の物性を損なわない範囲で他の成分を添加してもよい。例えば、Be、Ca、Zn等の金属を含有する成分を添加することができる。
【0051】
本発明の方法においては、上記のように混合物を調製した後、その混合物の焼成を行う。上記焼成は、高温になり過ぎない一定の温度範囲で、かつ短時間で行うのが好ましい。上述の通り、混合物の焼成を高温で行う、及び/又は焼成を長時間行う場合、得られる二酸化チタン組成物のリチウム源に対する反応性が低下し、その結果LTOの収率が下がると共に未反応の二酸化チタンが残存することになる。具体的には、混合物の焼成を700℃以上950℃以下の温度で10分以上60分以下焼成する。焼成時の温度は、より好ましくは750℃以上950℃以下、さらに好ましくは780℃以上950℃以下である。また焼成時間は、より好ましくは12分以上60分以下、さらに好ましくは15分以上60分以下である。
【0052】
なお本願明細書において、焼成時の温度とは、焼成時の最高温度を意味する。また焼成時間とは、焼成時の最高温度における保持時間を意味し、最高温度に達するまでの昇温時間は含まない。昇温時間についても特に制限はないものの、できるだけ短くする方が好ましい。
【0053】
焼成は、1000℃程度まで加熱可能な、温度制御機能の付いた焼成炉において行う。このような焼成炉については特に限定はなく、静置炉や回転炉、バッチ炉や連続炉を使用することができる。例えば、電気マッフル炉、燃焼炉、トンネル炉、ロータリーキルンなどを使用することができる。
【0054】
本発明の方法においては、必要に応じて得られた焼成物を洗浄してもよい。洗浄には水や酸などを用いることができる。例えば、希塩酸や希硫酸等の酸と共に攪拌して表面を洗浄することにより、表面上の余分な金属酸化物や塩を除去することができる。また粒子内部には取り込まれず、表面に付着している余剰のLi成分についても、酸洗浄により容易に除去することができる。
【0055】
さらに必要に応じて、濾過、洗浄、乾燥などの後処理を行なってもよい。
【0056】
(チタン酸リチウム)
本発明の二酸化チタン組成物は、チタン酸リチウムの合成に特に好適な二酸化チタン組成物である。チタン酸リチウム(LTO)とは、一般的に、LiTi12で表され、xは3〜5、yは4〜6の範囲にあり、具体的にはLiTi12(Li4/3Ti5/3又はLi[Li1/3Ti5/3]Oで表される場合もある)で表されるスピネル型の結晶構造を有する化合物である。
【0057】
本発明のチタン酸リチウムは、上述の粒子状ルチル型二酸化チタン組成物と、第2のLi化合物とから合成される化合物である。本発明の粒子状ルチル型二酸化チタン組成物は、特にチタン酸リチウム合成用として調製されたものであり、Liを含有していることから、効率良くLTOを合成できる。
【0058】
LTOは上記粒子状ルチル型二酸化チタン組成物と上記Li化合物を混合した後、焼成することによって得ることができる。LTOを合成する際の焼成温度は750〜950℃が好ましい。750℃より低いとLTO中に中間生成物であるLiTiOと未反応のルチル型TiOが残存し、そのLTOを用いて作成したリチウムイオン二次電池の充放電容量が低くなる。950℃より高いとLiTiが生成してしまい、そのLTOを用いて作成したリチウムイオン二次電池の充放電容量が低くなる。本発明の二酸化チタン組成物は、LTOの製造に特に適した材料である。このように、本発明の二酸化チタンから得られたLTOは高いエネルギー容量を発揮できるリチウムイオン二次電池の好適な電極活物質となる。
【0059】
上記第2のLi化合物の例としては、特に限定されないが、酢酸リチウム、炭酸リチウムや水酸化リチウム、蓚酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム等が挙げられる。
【0060】
上記第2のLi化合物の量は特に限定されないが、上記二酸化チタン組成物100質量部に対し、LiOに換算して13.0〜17.0質量部添加するのが好ましく、13.5〜17.0質量部添加するのがより好ましく、14.0〜17.0質量部添加するのがさらに好ましい。13.0〜17.0質量部よりも多い、又は少ない範囲の量で反応させると、未反応の原料や副生成物等の不純物、例えばLiTiO、TiOやLiTi等がLTOに混在することになるため、高容量のリチウムイオン二次電池を得ることができない。
【0061】
得られたLTOは、アセチレンブラック等の導電助剤と、フッ素樹脂等の結着剤を、溶剤と共に混合してペースト状にし、その後成型・乾燥などを経てリチウムイオン二次電池の電極として用いることができる。
【0062】
このようにして得られるLTOは、高密度で充填することが可能であり、かつ耐久性が高いリチウムイオン二次電池用電極活物質として使用することができる。このLTOを用いたリチウムイオン二次電池は、電解液が劣化しにくく、充放電容量が高いという特徴がある。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を参照しながら本発明を説明する。但し、下記実施例は本発明の範囲に含まれるいくつかの具体例を示すものであって、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0064】
(BET比表面積(SSA)の測定方法)
BET法による比表面積は、BET1点法に従って測定した。具体的には、以下の様な手順で測定した。まず、試料0.5gを0.0001gの単位まで精秤し、測定用セルに入れた。N気流中、130℃で15分間脱気処理してから、マウンテック社製Macsorb HM model−1201にセットした。130℃で5分間脱気処理してから測定し、試料の比表面積を算出した。
【0065】
(ルチル化率の測定方法)
ルチル型の含有割合は以下のように測定した。銅管球をもつX線回折装置(UltimaIII、リガク社製)にて二酸化チタン組成物を分析し、得られた測定チャートのアナタース型二酸化チタンに相当する回折ピーク(面指数101)のピーク高さIと、ルチル型二酸化チタンに相当する回折ピーク(面指数110)のピーク高さIを求めた。
求めた値から以下の式に従って、二酸化チタン全体に占めるルチル型の含有割合を決定した。
RC(質量%)=I×1.32/(I×1.32+I)×100
「RC」は、ルチル型の含有割合(ルチルコンテント)を意味する。アナタース型酸化チタン粉末の回折ピーク(面指数101)のピーク高さIは、ルチル型酸化チタン粉末の回折ピーク(面指数110)のピーク高さIよりも1.32倍大きい値として検出されるため、上記計算式ではIに1.32の係数を乗じて補正を行なっている。なお単位は質量%である。
【0066】
[実施例1]
(TiO調製)
二酸化チタンの製造方法の一つである硫酸法に従って、硫酸チタン(IV)を熱加水分解することで水酸化チタンを得た。得られた水酸化チタンをろ過し、水洗した。TiOとして50gに相当する量の上記水酸化チタンを量り取り、外径150mm、容量400mLの磁製蒸発皿に入れた。次に、その蒸発皿にイオン交換水100mLを添加して水酸化チタンをスラリー化し、さらにそのスラリーにLiCO0.12g(LiOとして0.05g)を添加した。蒸発皿を水浴で加熱し、乳棒で良く攪拌しながら、内容物を蒸発乾固させた。得られた乾燥物のうち40gを外径90mm、容量120mLの容器に仕込み、電気マッフル炉内で焼成した。焼成条件は、700℃まで90分間で昇温し、次に900度まで200分間で昇温し、900℃に到達してから30分間その温度を保持する条件とした。その後、焼成物を電気マッフル炉から取り出した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約20gを約10gずつ2回に分けてライカイ機に仕込み、それぞれ10分間粉砕した)。
【0067】
・洗浄工程
得られた粉砕物のうち12gを3wt%HSO水溶液72mLに加え、マグネチックスターラーで20分間攪拌した。得られた懸濁液をろ過し、ろ別した固体をイオン交換水600mLで洗浄し、乾燥した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約10gをライカイ機に仕込んで10分間粉砕した)。
【0068】
(LTO調製)
得られた粉砕物10.0gと酢酸リチウム7.44gとをメノウ乳鉢内で混合し、坩堝に仕込み、電気マッフル炉内で焼成した。焼成条件は、850℃まで200℃/hの昇温速度で昇温し、850℃で10時間保持した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約10gをライカイ機に仕込んで10分間粉砕した)。
【0069】
[実施例2]
LiCOの添加量を1.24g(LiOとして0.50g)とした以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0070】
[実施例3]
LiCOの添加量を2.31g(LiOとして0.93g)とした以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0071】
[実施例4]
(TiO調製)
二酸化チタンの製造方法の一つである硫酸法に従って、硫酸チタン(IV)を熱加水分解することで水酸化チタンを得た。得られた水酸化チタンをろ過し、水洗した。TiOとして50gに相当する量の上記水酸化チタンを量り取り、外径150mm、容量400mLの磁製蒸発皿に入れた。次に、その蒸発皿にイオン交換水100mLを添加して水酸化チタンをスラリー化し、さらにそのスラリーに、LiCO0.62g(LiOとして0.25g)を添加した。蒸発皿を水浴で加熱し、乳棒で良く攪拌しながら、蒸発乾固させた。得られた乾燥物のうち40gを外径90mm、容量120mLに仕込み、電気マッフル炉内で焼成した。焼成条件は、700℃まで90分間で昇温し、次に950℃まで250分間で昇温し、950℃に到達してから30分間その温度を保持する条件とした。その後、焼成物を電気マッフル炉から取り出した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約20gを10gずつライカイ機に仕込み、それぞれ10分間粉砕した)。の後、実施例1の「洗浄工程」に記載の方法に従って焼成物を洗浄することにより、TiOを得た。
【0072】
さらに得られたTiOは、実施例1の「LTO調製」に記載の方法に従って加工することにより、LTOを得た。
【0073】
[実施例5]
LiCO0.12gの代わりに、LiCO0.37g(LiOとして0.15g)と、48wt%KOH水溶液0.30g(KOとして0.12g)とを添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0074】
[実施例6]
LiCO0.12gの代わりに、LiCO0.37g(LiOとして0.15g)と、4.9wt%KOH水溶液2.92g(KOとして0.12g)と、HBO0.18g(Bとして0.10g)とを添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0075】
[実施例7]
LiCO0.12gの代わりに、LiCO0.37g(LiOとして0.15g)と、3.0wt%NaOH水溶液3.44g(NaOとして0.08g)とを添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0076】
[実施例8]
LiCO0.12gの代わりに、LiCO0.19g(LiOとして0.08g)と、4.9wt%KOH水溶液2.92g(KOとして0.12g)と、35wt%Mg(OH)スラリー0.83g(MgOとして0.20g)とを添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0077】
[実施例9]
(TiO調製)
二酸化チタンの製造方法の一つである硫酸法に従って、硫酸チタン(IV)を熱加水分解することで水酸化チタンを得た。得られた水酸化チタンをろ過し、水洗した。TiOとして50gに相当する量の上記水酸化チタンを量り取り、外径150mm、容量400mLの磁製蒸発皿に入れた。次に、その蒸発皿にイオン交換水100mLを添加して水酸化チタンをスラリー化し、さらにそのスラリーに、LiCO0.62g(LiOとして0.25g)と、4.9wt%KOH水溶液2.92g(KOとして0.12g)とを添加した。蒸発皿を水浴で加熱し、乳棒で良く攪拌しながら、蒸発乾固させた。得られた乾燥物のうち40gを外径90mm、容量120mLに仕込み、電気マッフル炉内で焼成した。焼成条件は、700℃まで90分間で昇温し、次に850℃まで150分間で昇温し、850℃に到達してから30分間その温度を保持する条件とした。その後、焼成物を電気マッフル炉から取り出した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約20gを約10gずつライカイ機に仕込み、それぞれ10分間粉砕した)。その後、実施例1の「洗浄工程」に記載の方法に従って焼成物を洗浄することにより、TiOを得た。
【0078】
さらに得られたTiOは、実施例1の「LTO調製」に記載の方法に従って加工することにより、LTOを得た。
【0079】
[実施例10]
LiCO0.12gの代わりに、LiCO0.62g(LiOとして0.25g)と、35wt%Mg(OH)スラリー2.75g(MgOとして0.67g)とを添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0080】
[実施例11]
LiCO0.12gの代わりに、LiCO0.37g(LiOとして0.15g)と、4.9wt%KOH水溶液5.83g(KOとして0.24g)とを添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0081】
[実施例12]
焼成条件を、700℃まで90分間加熱し、次に870℃まで170分間加熱し、870℃に到達してから60分間その温度を保持する条件とした以外は実施例9と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0082】
[実施例13]
TiO調製時の焼成条件を、700℃まで90分間加熱し、次に930℃まで230分間加熱し、930℃に到達してから18分間保持する条件とした以外は実施例9と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0083】
[比較例1]
(TiO調製)
二酸化チタンの製造方法の一つである硫酸法に従って、硫酸チタン(IV)を熱加水分解することで水酸化チタンを得た。得られた水酸化チタンをろ過し、水洗した。TiOとして50gに相当する量の上記水酸化チタンを量り取り、外径150mm、容量400mLの磁製蒸発皿に入れた。蒸発皿を水浴で加熱し、乳棒で良く攪拌しながら、蒸発乾固させた。得られた乾燥物のうち40gを外径90mm、容量120mLに仕込み、電気マッフル炉内で焼成した。焼成条件は、700℃まで90分間で昇温し、次に900℃まで200分間で昇温し、900℃に到達してから120分間その温度を保持する条件とした。その後、焼成物を電気マッフル炉から取り出した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約20gを約10gずつライカイ機に仕込み、それぞれ10分間粉砕した)。その後、実施例1の「洗浄工程」に記載の方法に従って焼成物を洗浄することにより、TiOを得た。
【0084】
さらに得られたTiOは、実施例1の「LTO調製」に記載の方法に従って加工することにより、LTOを得た。
【0085】
[比較例2]
TiO調製時の焼成条件を、700℃まで90分間加熱し、次に950℃まで250分間加熱し、950℃に到達してから180分間保持する条件とした以外は比較例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0086】
[比較例3]
LiCO0.12gの代わりに、4.9wt%KOH水溶液2.55g(KOとして0.10g)を添加した以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0087】
[比較例4]
LiCOの添加量を2.73g(LiOとして1.10g)とした以外は実施例1と同様にしてTiO及びLTOを調製した。
【0088】
[比較例5]
(TiO調製)
二酸化チタンの製造方法の一つである硫酸法に従って、硫酸チタン(IV)を熱加水分解することで水酸化チタンを得た。得られた水酸化チタンをろ過し、水洗した。TiOとして50gに相当する量の上記水酸化チタンを量り取り、外径150mm、容量400mLの磁製蒸発皿に入れた。次に、その蒸発皿にイオン交換水100mLを添加して水酸化チタンをスラリー化した。蒸発皿を水浴で加熱し、乳棒で良く攪拌しながら、内容物を蒸発乾固させた。得られた乾燥物のうち40gを外径90mm、容量120mLの容器に仕込み、電気マッフル炉内で焼成した。焼成条件は、500℃まで64分間で昇温し、500℃に到達してから30分間その温度を保持する条件とした。その後、焼成物を電気マッフル炉から取り出した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち約20gを約10gずつライカイ機に仕込み、それぞれ10分間粉砕した)。その後、実施例1の「洗浄工程」に記載の方法に従って焼成物を洗浄することにより、TiOを得た。
【0089】
さらに得られたTiOは、実施例1の「LTO調製」に記載の方法に従って加工することにより、LTOを得た。
【0090】
[比較例6]
既成の二酸化チタン10.0g(堺化学工業株式会社製、ルチル型微粒子二酸化チタンSTR−100N)と、酢酸リチウム7.44gとをメノウ乳鉢で混合し、坩堝に仕込み、電気マッフル炉で焼成した。焼成条件は、850℃まで200℃/hで昇温し、850℃で10時間保持した。得られた焼成物をライカイ機で粉砕した(焼成物のうち10gをライカイ機に仕込んで10分間粉砕した)。
【0091】
実施例、比較例で得られたLTOを銅管球をもつX線回折装置(UltimaIII、リガク社製)で分析した。いずれも、面間隔(d値)4.84Å、2.52Å、2.09Å、1.92Å、1.61Å、1.48Å、1.41Åの回折ピークが検出され、LiTi12と同定した。
【0092】
実施例、比較例で得られたLTOについて、以下に述べる方法に基づいて電池特性を評価した。
【0093】
(電池特性(放電容量)評価方法)
得られたLTO1gと、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック粒状品)0.06gと、ポリフッ化ビニリデン溶液(株式会社クレハ製、KFポリマーL#1120とN−メチル−2−ピロリドン重量比1/1溶液)1.16gとを混合し、乳鉢で2分間混練してペーストとした。このペーストを、20ミクロン厚のアルミニウム箔上に、乾燥後のLTO重量が0.01g/cmとなるように塗布した。塗布にはロールコータを用いた。塗布したペーストを120℃で真空乾燥した後、直径1.5cmの円板状に打ち抜いて正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電極液として1M濃度のヘキサフルオロリン酸リチウムを支持塩とするエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等量混合溶液を用いた。露点が−80℃に管理されたアルゴン雰囲気のグローブボックス中でモデルセルを作製した。充放電は、正極に対する電流密度0.088mA/cm、カットオフ電圧3.5V〜1.2Vとし、22℃で測定して、1サイクル目の放電容量を求めた。
【0094】
(タップ密度の測定方法)
LTO5.0gを10mlメスシリンダーに入れ、200回タッピングしてLTOの体積を測定した。その測定値からタップ密度を算出した。
【0095】
各実施例、比較例の条件、並びに物性及び電気特性の測定結果を表1、2に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
実施例1〜3のように、Li化合物を添加して得られた二酸化チタンを出発物質として作成したリチウムイオン二次電池は、Li化合物が添加されていない比較例1を出発物質とした場合と比べて、顕著に高い電池特性(放電容量)を示した。また実施例1〜3はいずれも二酸化チタンのルチル化率(二酸化チタン中のルチル型結晶の割合)が99%と、比較例1に比べて高かった。これは実施例1〜3の方が、結晶状態が均一なLTOが得られていることを示す。このようなLTOをリチウムイオン二次電池に用いると放電電圧が一定な状態が得られる。また比較例1の二酸化チタン組成物及びチタン酸リチウムのBET比表面積(SSA)は、共に実施例1〜3の二酸化チタン組成物及びチタン酸リチウムのそれに比べて高い。即ち、比較例1のLTO粒子は細かく、粒子径の大きいチタン酸リチウムを得るという本発明の目的の一つが十分に達成できなかった。
【0099】
比較例1よりも二酸化チタン作成時の焼成温度を高く、かつ焼成時間を長くすることによりルチル化率は上昇し、SSAも実施例と同程度の二酸化チタン組成物が得られた(比較例2)。また比較例2の二酸化チタンから得られるLTOのタップ密度も実施例と同程度であった。しかしながら、この場合は二酸化チタンの反応性が乏しくなり、その結果、得られるチタン酸リチウムを用いた電池の放電容量は減少した。
【0100】
Liを添加せず、代わりにKを添加した比較例3の二酸化チタン組成物はBET比表面積(SSA)が大きく、ルチル化率が低かった。即ち、粒子径の小さい、アナタース型が優勢な二酸化チタン組成物しか得られなかった。この二酸化チタン組成物から得られるLTOはタップ密度が低かった。このLTOから電池を作成した場合、放電容量は高いものの、LTOのSSAが大きいことから、この電池の電解液の劣化を抑制することは困難である。この結果から、本願発明の目的を達成するためには、Liの添加が必須であることが分かる。
【0101】
但しLi添加量が多すぎると、実施例と同等の物性を有する二酸化チタン組成物が得られるにもかかわらず、最終的なリチウムイオン二次電池の放電容量は低かった(比較例4)。即ち、Liの添加量には一定の制限があることが明らかとなった。
【0102】
比較例5のように、焼成温度が低い場合には、ルチル化率が0、即ちアナタース型の二酸化チタンが得られた。この二酸化チタンから得られるLTOはタップ密度が低く、充填性に問題がある。また、このLTOを使用した電池の放電容量は高いものの、LTOのSSAが大きいことから、この電池の電解液の劣化を抑制することは困難である。
【0103】
比較例6のような市販のルチル型微粒子二酸化チタンの場合、タップ密度が低いため、充填性に問題がある。またこの二酸化チタンから得られるLTOはSSAが大きいため、得られる電池は、放電容量は高いものの、電解液の劣化を抑制することが困難である。
【0104】
このように、本願発明の製造方法によって得られる二酸化チタン組成物を用いることにより、LTOを経て、最終的に、高い放電容量を有しかつ電解液の劣化が少ないリチウムイオン二次電池を提供することができる。
図1