(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167552
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】酸素濃度計測装置及びそれに用いられるプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
G01N21/64 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-29699(P2013-29699)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159964(P2014-159964A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】大野 隆
【審査官】
横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−502270(JP,A)
【文献】
特開2007−309829(JP,A)
【文献】
特開2006−331733(JP,A)
【文献】
特開2012−247393(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/027116(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/012301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/83
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素消光性を有する蛍光塗料が塗布された測定対象領域に、励起光を照射する光源を有する光照射部と、
前記測定対象領域に塗布された蛍光塗料面からの蛍光を検出することで、当該蛍光塗料面の蛍光強度分布画像を取得する撮像装置を有する撮像部と、
前記蛍光強度分布画像に基づいて、前記測定対象領域の酸素濃度分布を計測する制御部とを備える酸素濃度計測装置であって、
前記制御部は、前記蛍光強度分布画像における各画素の強度値又は前記酸素濃度分布における各位置の濃度値に基づいて、前記測定対象領域に付着物が付着しているか否かを判定し、前記付着物があると判定したときには、前記測定対象領域における付着物の位置を特定して、
前記付着物があると判定した位置に対応する酸素濃度分布画像の画素を含む所定領域の画素群を測定領域外として、前記所定領域以外の最も低い酸素分圧値を最小とするとともに、前記所定領域以外の最も高い酸素分圧値を最大とした測定レンジで、酸素濃度分布画像を表示することが可能となっていることを特徴とする酸素濃度計測装置。
【請求項2】
前記付着物は、水滴であり、
前記制御部は、設定閾値以上である強度値を有する画素に対応する位置には、前記水滴が付着していると判定するか、或いは、設定濃度値以下である濃度値を有する位置には、前記水滴が付着していると判定することを特徴とする請求項1に記載の酸素濃度計測装置。
【請求項3】
酸素消光性を有する蛍光塗料が塗布された測定対象領域に、励起光を照射する光源を有する光照射部と、
前記測定対象領域に塗布された蛍光塗料面からの蛍光を検出することで、当該蛍光塗料面の蛍光強度分布画像を取得する撮像装置を有する撮像部と、
前記蛍光強度分布画像に基づいて、前記測定対象領域の酸素濃度分布を計測する制御部とを備える酸素濃度計測装置に用いられるプログラムであって、
前記蛍光強度分布画像における各画素の強度値又は前記酸素濃度分布における各位置の濃度値に基づいて、前記測定対象領域に付着物が付着しているか否かを判定し、前記付着物があると判定したときには、前記測定対象領域における付着物の位置を特定して、
前記付着物があると判定した位置に対応する酸素濃度分布画像の画素を含む所定領域の画素群を測定領域外として、前記所定領域以外の最も低い酸素分圧値を最小とするとともに、前記所定領域以外の最も高い酸素分圧値を最大とした測定レンジで、酸素濃度分布画像を表示することが可能となっていることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃度計測装置及びそれに用いられるプログラムに関し、特に測定対象領域に蛍光塗料を塗布し、この蛍光塗料面に励起光を照射することにより蛍光を発生させ、この蛍光強度分布を撮影することにより、測定対象領域の酸素濃度分布を計測する酸素濃度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が大きくクローズアップされてきている。固体高分子形燃料電池(PEFC)やダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)等の燃料電池は、高いエネルギー変換効率を有する上に、CO
2の排出削減に寄与するだけでなく、酸性雨の原因や大気汚染の原因となるNOx、SOx、塵埃等の排出がほとんどないクリーンな電池である。さらに、静粛性も高いという利点がある。そのため、燃料電池は、21世紀に最適なエネルギー変換装置として一部実用化されつつある。特に、燃料電池の中でもPEFCは、作動温度が低くかつ出力密度が高いため、小型化が可能であるという長所を有している。
【0003】
図4は、固体高分子形燃料電池の一例を示す断面図である。
固体高分子形燃料電池は、高分子固体電解質膜101を中心として酸素極102と水素極103とで挟んだ構成を有する。高分子固体電解質膜101は、例えば、炭素繊維性の多孔性クロス基材上に、高分子固体電解質を含むスラリーを塗布し、次いで焼成することにより得られたイオン交換膜である。そして、酸素極102の外側は、集電体106に担持されるとともに、水素極103の外側は、集電体107に担持されている。
【0004】
酸素極102の外側の周縁部には、枠形状のガスケット104の内側が接触し、さらにガスケット104の外側には、複数の凹部を内側に有するセパレータ板108の内側の突出周縁部が接触している。これにより、セパレータ板108の内側と酸素極102の外側との間に、複数の凹部に対応するように複数の酸素極室109が形成されている。また、セパレータ板108は、内側と外側とを貫通するように酸素極室109に連結する酸素ガス供給口112と、内側と外側とを貫通するように酸素極室109に連結する未反応酸素ガス及び生成水取出口113とを有する。
【0005】
一方、水素極103の外側の周縁部には、枠形状のガスケット105の内側が接触し、さらにガスケット105の外側には、複数の凹部を内側に有するセパレータ板110の内側の突出周縁部が接触している。これにより、セパレータ板110の内側と水素極103の外側との間に、複数の凹部に対応するように複数の水素極室111が形成されている。また、セパレータ板110は、内側と外側とを貫通するように水素極室111に連結する水素ガス供給口114と、内側と外側とを貫通するように水素極室111に連結する未反応水素ガス取出口115とを有する。
【0006】
次に、固体高分子形燃料電池の動作について説明する。水素が水素ガス供給口114から複数の水素極室111を順番に流通するとともに、酸素が酸素ガス供給口112から複数の酸素極室109を順番に流通すると、水素は水素極103により水素イオンと電子とに分離する。水素極103で発生した水素イオンは、高分子固体電解質膜101を選択的に透過する。そして、透過した水素イオンは、酸素極102で酸素と反応し、水となる。このとき、水素極103で発生した電子は、水素極103から外部負荷(図示せず)を通って酸素極102に向かうように流れる。つまり、外部負荷に電流が流れることになる。
【0007】
ところで、固体高分子形燃料電池を普及させるには、コストをはじめ、いろいろな技術課題を解決する必要がある。例えば、固体高分子形燃料電池は、運転時間の経過とともに電池性能が劣化するため、劣化に伴う電池寿命が重要な課題となっている。このような技術課題を解決するためには、酸素が酸素ガス供給口112から複数の酸素極室109にどのように流通したり、複数の酸素極室109でどのように反応したりするのかを解析する必要がある。
【0008】
そこで、複数の酸素極室109の酸素濃度分布を計測する酸素濃度計測方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような酸素濃度計測方法では、測定対象領域となる複数の酸素極室109のセパレータ板108を透明な材料で構成するとともに、セパレータ板108にルテニウム錯体塗料(蛍光塗料)をスプレーや刷毛等を用いて塗布した模擬燃料電池を作製している。そして、蛍光塗料面に励起光(波長470nm)を照射することにより蛍光(約600nm)を発生させ、この蛍光強度分布を撮影している。このとき、蛍光塗料面は、励起光により蛍光を発生させるが、酸素濃度が高い箇所では酸素により蛍光が消光される。これにより、撮影した蛍光強度分布に基づいて、複数の酸素極室109の酸素濃度分布を計測することができる。
【0009】
さらに、このような酸素濃度計測方法を用いるための酸素濃度計測装置も開発されている。
図5は、従来の酸素濃度計測装置の一例を示す概略構成図である。
酸素濃度計測装置51は、光照射部10と、撮像部20と、蛍光塗料が塗布された検査体Sが配置される配置部30と、酸素濃度計測装置51全体の制御を行うコンピュータ90とを備える。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
【0010】
光照射部10は、レーザ光(波長470nm)を出射するレーザ光源(レーザダイオード)15と、電子シャッタ12と、拡散フィルタ13と、レンズ14と、レーザ光(励起光)の強度値I’を検知するパワーメータ11と、レーザ光を2方向へ分割するハーフミラー16とを有する。
このような光照射部10の構成において、レーザ光源15で出射されたレーザ光は、ハーフミラー16で2方向へ分割される。ハーフミラー16で分割されたレーザ光が進行する2方向のうちの1方向のレーザ光は、電子シャッタ12と拡散フィルタ13とレンズ14とをこの順で通過して、配置部30の測定対象領域に照射されるようになっている。一方、ハーフミラー16で分割されたレーザ光が進行する2方向のうちの残りのもう1つの方向のレーザ光は、パワーメータ11で強度値I’が検出されるようになっている。
【0011】
撮像部20は、レンズ21aを有する高速撮影カメラ(撮像装置)21を有する。高速撮影カメラ21は、複数の光検出素子G
mnがM行(例えば1000行)とN列(例えば1000列)とに並べられたものであり、各光検出素子G
mnにはそれぞれの位置に応じた強度値(例えば10bit)I
mnの蛍光が入射するようにしてある。したがって、各光検出素子G
mnの出力信号は、配置部30の測定対象領域の各位置ごとの蛍光の強度値I
mnを表すことになる。
図2は、N行M列の画素からなる蛍光強度分布画像を示す図である。
【0012】
また、検査体SにX方向からレーザ光を照射するとともに、−X方向に進行する蛍光を検出するために、レーザ光を透過させるとともに蛍光を反射する平板形状のミラー31が配置されている。これにより、X方向に進行するレーザ光は、ミラー31を透過することにより、配置部30の測定対象領域に照射され、配置部30の測定対象領域で発生した蛍光は、−X方向に進行して、ミラー31によって進行方向を変え、さらにミラー32によって進行方向を変え、高速撮影カメラ21に入射するようになっている。
【0013】
コンピュータ90は、CPU(制御部)91とメモリ94とを備え、さらにモニタ42と操作部43とが連結されている。CPU91が処理する機能をブロック化して説明すると、レーザ光源15を制御するレーザ光強度取得部41aと、高速撮影カメラ21から蛍光強度分布画像を取得する撮像装置制御部41bと、酸素分圧(酸素濃度)分布を算出する酸素濃度分布算出部41cと、モニタ42に酸素分圧分布カラー画像を表示する表示制御部91dとを有する。
【0014】
また、メモリ94には、強度値I
mnと酸素分圧値D
mnとの関係を示す検量線L
mnを記憶するための検量線記憶領域44aと、酸素分圧値D
mnをカラーに対応付けたカラーテーブルを予め記憶するカラーテーブル記憶領域44bと、蛍光強度分布画像等を記憶していく画像記憶領域94cとを有する。なお、検量線は、既知の様々な酸素分圧値D
Yのガスを測定対象領域に流すことにより作成され、蛍光強度分布画像における各画素G
mnについての検量線L
mnがそれぞれ記憶されることになる。
【0015】
このような酸素濃度計測装置51によれば、酸素濃度分布算出部41cは、撮像装置制御部41bで取得された蛍光強度分布画像における各画素G
mnの強度値I
mnと、レーザ光の強度値I’と、検量線記憶領域44aに記憶された検量線L
mnとに基づいて、蛍光強度分布画像における各画素G
mnの酸素分圧値D
mnをそれぞれ算出する。そして、表示制御部91dは、算出された酸素分圧値D
mnと、カラーテーブル記憶領域44bに記憶されたカラーテーブルとに基づいて、最も低い酸素分圧値D
mnを最小D
minとするとともに、最も高い酸素分圧値D
mnを最大D
maxとした測定レンジ(D
min〜D
max)で、酸素分圧分布カラー画像(例えば1000行1000列、10bit)をモニタ42に表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−331733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、固体高分子形燃料電池は、生成物として水が発生することと、動作環境が高温(例えば80℃以上)多湿(例えば80%以上)となることもあり、わずかな温度変化によって測定対象表面に水滴付着(結露)が発生することがあった。この場合、水滴が蛍光塗料面や周辺ガスをバリアしてしまい、蛍光が周辺酸素と感応しなくなって消光しないので、実際の酸素分圧値D
mnより非常に低い結果が得られるという問題点があった。さらに、水滴によるレンズ効果によって水滴が付着した周辺領域の酸素分圧値D
m’n’にも信憑性がなくなるという問題点があった。
図6は、測定対象表面に水滴付着が発生した際の図である。
【0018】
また、モニタ42に酸素分圧分布カラー画像を表示する際に、突出した低い酸素分圧値D
mnがあると、測定レンジ(D
min〜D
max)が広がり、分解能が落ちることがあった。また、測定レンジ(D
min〜D
max)を例えば19kPa(D
19)から21kPa(D
21)までに固定する方法もあるが、1kPaは19kPaと同じ色表示となり、水滴による影響があっても認識することができなくなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本件発明者は、上記課題を解決するために、測定対象領域に水滴(付着物)が付着したか否かを判定し、測定対象領域における水滴の位置を特定することにした。測定対象領域に水滴が付着すると、蛍光は水滴中を進行して、光検出素子G
mnに検出されることになる。つまり、水滴が付着した位置に対応する光検出素子G
mnは、非常に高い強度値I
mnとなる。そこで、設定閾値I
th以上である強度値I
mnを有する画素G
mnに対応する位置には、水滴が付着したと判定することを見出した。
【0020】
すなわち、本発明の酸素濃度計測装置は、酸素消光性を有する蛍光塗料が塗布された測定対象領域に、励起光を照射する光源を有する光照射部と、前記測定対象領域に塗布された蛍光塗料面からの蛍光を検出することで、当該蛍光塗料面の蛍光強度分布画像を取得する撮像装置を有する撮像部と、前記蛍光強度分布画像に基づいて、前記測定対象領域の酸素濃度分布を計測する制御部とを備える酸素濃度計測装置であって、前記制御部は、前記蛍光強度分布画像における各画素の強度値又は前記酸素濃度分布における各位置の濃度値に基づいて、前記測定対象領域に付着物が付着しているか否かを判定し、前記付着物があると判定したときには、前記測定対象領域における付着物の位置を特定
して、前記付着物があると判定した位置に対応する酸素濃度分布画像の画素を含む所定領域の画素群を測定領域外として、前記所定領域以外の最も低い酸素分圧値を最小とするとともに、前記所定領域以外の最も高い酸素分圧値を最大とした測定レンジで、酸素濃度分布画像を表示することが可能となっているようにしている。
【0021】
ここで、「酸素消光性を有する蛍光塗料」としては、例えば、バインダにポリスチレン等の酸素透過性のある高分子材料が用いられ、色素に白金ポルフィリンやルテニウム等の紫外から青色の励起光に反応して発光し、かつ、酸素消光性を有する材料が用いられたもの等が挙げられる。
また、「所定領域」とは、測定者等によって予め決められた任意の領域であり、例えば、経験的に算出された水滴の大きさ等となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の酸素濃度計測装置によれば、測定対象領域に付着物が付着したか否かを判定し、測定対象領域における付着物の位置を特定することができる。また、付着物の位置を測定領域外とすることで、酸素濃度分布を高分解能で表示することができる。
【0023】
(他の課題を解決するための手段及び効果)
また、上記の発明において、前記付着物は、水滴であり、前記制御部は、設定閾値以上である強度値を有する画素に対応する位置には、前記水滴が付着していると判定するか、或いは、設定濃度値以下である濃度値を有する位置には、前記水滴が付着していると判定するようにしてもよい。
ここで、「設定閾値」とは、測定者等によって予め決められた任意の数値であり、例えば、経験的に算出された数値等となる。
本発明の酸素濃度計測装置によれば、測定対象領域に水滴が付着したか否かを判定し、測定対象領域における水滴の位置を特定することができる。よって、水滴箇所が特定できることは、別途燃料電池内の反応に関するメカニズム解明に寄与する。
【0024】
さらに、上記の発明において、前記制御部は、酸素濃度分布画像を表示し、前記付着物があると判定した位置に対応する酸素濃度分布画像の画素を含む所定領域の画素群を測定領域外として、酸素濃度分布画像を表示することが可能となっているようにして
いる。
本発明の酸素濃度計測装置によれば、付着物を測定領域外とした酸素分圧分布と、付着物を無視した酸素分圧分布とを見比べることができる。
【0025】
そして、本発明のプログラムは、酸素消光性を有する蛍光塗料が塗布された測定対象領域に、励起光を照射する光源を有する光照射部と、前記測定対象領域に塗布された蛍光塗料面からの蛍光を検出することで、当該蛍光塗料面の蛍光強度分布画像を取得する撮像装置を有する撮像部と、前記蛍光強度分布画像に基づいて、前記測定対象領域の酸素濃度分布を計測する制御部とを備える酸素濃度計測装置に用いられるプログラムであって、前記蛍光強度分布画像における各画素の強度値又は前記酸素濃度分布における各位置の濃度値に基づいて、前記測定対象領域に付着物が付着しているか否かを判定し、前記付着物があると判定したときには、前記測定対象領域における付着物の位置を特定
して、前記付着物があると判定した位置に対応する酸素濃度分布画像の画素を含む所定領域の画素群を測定領域外として、前記所定領域以外の最も低い酸素分圧値を最小とするとともに、前記所定領域以外の最も高い酸素分圧値を最大とした測定レンジで、酸素濃度分布画像を表示することが可能となっているようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態である酸素濃度計測装置の一例を示す概略構成図。
【
図2】N行M列の画素からなる蛍光強度分布画像を示す図。
【
図3】検査体を計測する計測方法について説明するためのフローチャート。
【
図5】従来の酸素濃度計測装置の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態である酸素濃度計測装置の一例を示す概略構成図である。なお、上述した従来の酸素濃度計測装置51と同様のものについては、同じ符号を付している。
酸素濃度計測装置1は、光照射部10と、撮像部20と、蛍光塗料が塗布された検査体Sが配置される配置部30と、酸素濃度計測装置1全体の制御を行うコンピュータ40とを備える。
【0029】
コンピュータ40は、CPU(制御部、プログラム)41とメモリ44とを備え、さらにモニタ42と操作部43とが連結されている。CPU41が処理する機能をブロック化して説明すると、レーザ光源15を制御するレーザ光強度取得部41aと、高速撮影カメラ21から蛍光強度分布画像を取得する撮像装置制御部41bと、酸素分圧(酸素濃度)分布を算出する酸素濃度分布算出部41cと、モニタ42に酸素分圧分布カラー画像を表示する表示制御部41dと、水滴箇所判定部41eとを有する。
【0030】
また、メモリ44には、強度値I
mnと酸素分圧値D
mnとの関係を示す検量線L
mnを記憶するための検量線記憶領域44aと、酸素分圧値D
mnをカラーに対応付けたカラーテーブルを予め記憶するカラーテーブル記憶領域44bと、蛍光強度分布画像等を記憶していく画像記憶領域44cと、水滴(付着物)が付着したか否かを判定するための設定閾値D
thと所定領域Aとを記憶するための設定閾値記憶領域44dとを有する。
【0031】
レーザ光強度取得部41aは、撮影条件が入力されると、レーザ光源15の電源をONにして、パワーメータ11で検出された強度値I’を取得していく制御を行う。例えば、操作部43で撮影条件として設定露光時間Δt(500ミリ秒)と撮影回数xとが入力されると、レーザ光強度取得部41aは、撮像装置制御部41bで蛍光強度分布画像を取得する前に、レーザ光の強度値I’を検知させる。
【0032】
撮像装置制御部41bは、撮影条件が入力されると、レーザ光強度取得部41aで設定露光時間Δtの前の強度値I’の取得が終了したときに、撮影条件に基づいて高速撮影カメラ21から蛍光強度分布画像を取得して画像記憶領域44cに記憶させる制御を行う。例えば、操作部43で撮影条件として設定露光時間Δtと撮影回数xとが入力されると、設定露光時間Δtの前の強度値I’の取得が終了したときに、設定露光時間Δtの蛍光強度分布画像を高速撮影カメラ21から取得する。このとき、2回以上の撮影回数xが入力されたときには、X回目の設定露光時間Δtの前の強度値I’の取得が終了する度に、X回目の蛍光強度分布画像を取得して画像記憶領域44cに記憶させる。
【0033】
酸素濃度分布算出部41cは、撮像装置制御部41bで取得された蛍光強度分布画像における各画素G
mnの強度値I
mnと、レーザ光の強度値I’と、検量線記憶領域44aに記憶された検量線L
mnとに基づいて、蛍光強度分布画像における各画素G
mnの酸素分圧値D
mnをそれぞれ算出する制御を行う。例えば、酸素濃度分布算出部41cは、X回目の設定露光時間Δtの前に取得したX回目の強度値I’を取得する。次に、X回目の蛍光強度分布画像における画素G
mnの強度値I
mnとX回目の強度値I’と検量線L
mnとを用いてX回目の酸素分圧値D
mnを算出する。次に、1回目〜x回目の酸素分圧値D
mnを平均して、平均酸素分圧値D
mnを算出する。このようにして全ての画素G
mnの平均酸素分圧値D
mnを算出する。
【0034】
水滴箇所判定部41eは、操作部43で入力された入力情報と、各位置(画素)G
mnの平均酸素分圧値D
mnとに基づいて、測定対象領域に水滴が付着したか否かを判定し、水滴が付着したと判定したときには、測定対象領域における水滴の位置を特定する制御を行う。例えば、測定者は、操作部43を用いて設定閾値D
thと所定領域Aとを設定閾値記憶領域44dに記憶させる。設定閾値D
thは、例えば、水滴が付着した際に得られる酸素分圧値(例えば5kPa)付近となるように設定される。また、所定領域Aは、例えば、水滴があると判定した位置に対応する酸素分圧分布画像の画素G
mnを中心とした合計25個の画素群(5行5列)となるように設定される(
図2参照)。これにより、水滴箇所判定部41eは、設定濃度値D
th以下であるか否かを全ての画素G
mnの平均酸素分圧値D
mnについて判定する。その結果、設定濃度値D
thを超える平均酸素分圧値D
mnを有する画素G
mnに対応する位置には、水滴が付着していないと判定する。一方、設定濃度値D
th以下である平均酸素分圧値D
mnを有する画素G
mnに対応する位置には、水滴が付着していると判定する。そして、水滴箇所判定部41eは、水滴があると判定した位置に対応する画素G
mnを中心とした合計25個の画素群(5行5列)も、水滴による影響を受けている可能性があると判定する。
【0035】
表示制御部41dは、操作部43で入力された入力情報と、算出された平均酸素分圧値D
mnと、カラーテーブル記憶領域44bに記憶されたカラーテーブルとに基づいて、酸素分圧分布カラー画像(例えば1000行1000列、8〜16bit)をモニタ42に表示する制御を行う。例えば、操作部43で入力情報として「水滴除外有(ON)」と、最も低い酸素分圧値D
mnを最小D
minとするとともに、最も高い酸素分圧値D
mnを最大D
maxとした変動測定レンジ(D
min〜D
max)とが入力されると、所定領域Aを測定領域外として、所定領域A以外の最も低い酸素分圧値D
mnを最小D
minとするとともに、所定領域A以外の最も高い酸素分圧値D
mnを最大D
maxとした変動測定レンジ(D
min〜D
max)で、酸素分圧分布カラー画像(例えば1000行1000列、8〜16bit)をモニタ42に表示する。なお、所定領域Aは、例えば、黒色で表示される。
また、操作部43の入力情報として、「水滴除外有」と、19kPaから21kPaまでの固定測定レンジ(D
19〜D
21)とが入力されると、所定領域Aを測定領域外として、固定測定レンジ(D
19〜D
21)で酸素分圧分布カラー画像(例えば1000行1000列、8〜16bit)をモニタ42に表示する。なお、所定領域Aは、例えば、黒色で表示される。
【0036】
そして、操作部43の入力情報として、「水滴除外無(OFF)」と、変動測定レンジ(D
min〜D
max)とが入力されると、変動測定レンジ(D
min〜D
max)で酸素分圧分布カラー画像(例えば1000行1000列、8〜16bit)をモニタ42に表示する。
さらに、操作部43の入力情報として、「水滴除外無」と、固定測定レンジ(D
19〜D
21)とが入力されると、固定測定レンジ(D
19〜D
21)で酸素分圧分布カラー画像(例えば1000行1000列、8〜16bit)をモニタ42に表示する。
【0037】
ここで、酸素濃度計測装置1の使用方法について説明する。
図3は、検査体Sを計測する計測方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、測定者は、蛍光塗料が塗布された検査体Sを配置部30に配置する。
次に、ステップS102の処理において、測定者は、操作部43で撮影条件(設定露光時間Δt、撮影回数x)を入力する。
【0038】
次に、ステップS103の処理において、検量線作成パラメータY=1とする。
次に、ステップS104の処理において、測定者は、既知の酸素分圧値D
Yのガスを検査体Sに流す。
次に、ステップS105の処理において、レーザ光強度取得部41aは、レーザ光源15の電源をONにして、パワーメータ11で検出された強度値I’を取得する。また、撮像装置制御部41bは、高速撮影カメラ21から蛍光強度分布画像を取得して蛍光強度分布画像記憶領域44cに記憶させる。
【0039】
次に、ステップS106の処理において、Y=Y
maxであるか否かを判定する。Y=Y
maxでないと判定したときには、ステップS107の処理において、Y=Y+1として、ステップS104の処理に戻る。一方、Y=Y
maxであると判定したときには、ステップS108の処理において、測定者は、検量線L
mnを作成して検量線記憶領域44aに記憶させる。
【0040】
次に、ステップS109の処理において、測定者は、操作部43で設定閾値D
thと所定領域Aと測定レンジの種類(変動測定レンジか固定測定レンジ)とを入力する。
次に、ステップS110の処理において、測定者は、検査体Sを作動させる。
次に、ステップS111の処理において、レーザ光強度取得部41aは、レーザ光源15の電源をONにして、パワーメータ11で検出された強度値I’を取得する。また、撮像装置制御部41bは、高速撮影カメラ21から蛍光強度分布画像を取得して蛍光強度分布画像記憶領域44cに記憶させる。
【0041】
次に、ステップS112の処理において、酸素濃度分布算出部41cは、撮像装置制御部41bで取得された蛍光強度分布画像における各画素G
mnの強度値I
mnと、レーザ光の強度値I’と、検量線記憶領域44aに記憶された検量線L
mnとに基づいて、蛍光強度分布画像における各画素G
mnの酸素分圧値D
mnをそれぞれ算出する。
次に、ステップS113の処理において、測定者は、操作部43で表示方法を入力する。
【0042】
「水滴除外無」と入力されたと判定したときには、ステップS114の処理において、表示制御部41dは、測定レンジで酸素分圧分布カラー画像をモニタ42に表示する。
一方、「水滴除外有」と入力されたと判定したときには、ステップS115の処理において、水滴箇所判定部41eは、各位置(画素)G
mnの平均酸素分圧値D
mnに基づいて、測定対象領域に水滴が付着したか否かを判定し、水滴が付着したと判定したときには、測定対象領域における水滴の位置を特定して設定する。
【0043】
次に、ステップS116の処理において、表示制御部41dは、水滴の位置を測定領域外として、測定レンジで酸素分圧分布カラー画像をモニタ42に表示する。
そして、ステップS114の処理が終了するか、ステップS116の処理が終了すると、本フローチャートを終了させる。
【0044】
以上のように、酸素濃度計測装置1によれば、測定対象領域に水滴が付着したか否かを判定し、測定対象領域における水滴の位置を特定することができる。また、水滴の位置を測定領域外とすることで、酸素分圧分布を高分解能で表示することができる。さらに、水滴を測定領域外とした酸素分圧分布カラー画像と、水滴を無視した酸素分圧分布カラー画像とを見比べることができる。
【0045】
<他の実施形態>
(1)上述した酸素濃度計測装置1において、モニタ42には1種類の酸素分圧分布カラー画像が表示される構成としたが、モニタを2分割して、「水滴除外有」と「水滴除外無」と2種類の酸素分圧分布カラー画像が表示されるような構成してもよい。
【0046】
(2)上述した酸素濃度計測装置1において、設定分圧値D
th以下である平均酸素分圧値D
mnを有する画素G
mnに対応する位置には、水滴が付着していると判定する構成としたが、設定強度値D
th以上である強度値D
mnを有する画素G
mnに対応する位置には、水滴が付着していると判定するような構成してもよい。
【0047】
(3)上述した酸素濃度計測装置1において、水滴が付着しているか否かを判定する構成としたが、水滴以外の付着物(蛍光透過物(例えば、ガラスやフィルム等)やレーザ光吸収物や蛍光吸収物(例えば、パーティクル等)やレーザ光反射物や蛍光反射物(例えば金属などの光沢物等))が付着しているか否かを判定するような構成してもよい。また、付着物がレーザ光吸収物や蛍光吸収物や蛍光反射物やレーザ光反射物である場合は、設定閾値以下である強度値を有する画素に対応する位置には、付着物が付着していると判定するか、或いは、設定濃度値以上である濃度値を有する位置には、付着物が付着していると判定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、測定対象領域に蛍光塗料を塗布し、この蛍光塗料面に励起光を照射することにより蛍光を発生させ、この蛍光強度分布を撮影することにより、測定対象領域の酸素濃度分布を計測する酸素濃度計測装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 酸素濃度計測装置
10 光照射部
15 レーザ光源
20 撮像部
21 高速撮影カメラ(撮像装置)
40 制御部