(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
紙幣や商品券などの有価証券、パスポートなどの公的文書には、偽造や模倣を防ぐ目的で、透かしと呼ばれる技術が用いられている。透かしは、対象物に光を透過させて観察した際に、透過光の強度変化によって濃淡が付くことで、絵柄などのパターンを確認することができる技術として、古くから知られている。
透過光の強度を変化させる方法としては、紙を製造する際に紙の厚みを僅かに変化させる、すき入れという手法などがある。
【0003】
現在でも、透かし技術は偽造防止手段として広く用いられているが、油などで紙に模様を施し、一見すれば透かしと間違うような模倣をなされる危険性があり、その偽造防止効果は充分ではない。
そのような中で、透かしのように対象物に光を透過させることで効果を確認できる、偽造防止技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、マット(粗面)な表面状態の無色透明フィルムなどの基材の上に、粗面に浸透して乾燥するような、無色透明のアクリルラッカーなどの液状物質を用いて模様を作成し、模様部分の光透過性を他の部分の光透過性よりも増大させることで、透かし模様とする提案がなされている。
【0005】
さらに、特許文献1では、無機化合物の透明薄膜を積層させることによって、多層干渉膜を付与し、干渉膜側から反射光を観察すると虹色に輝く干渉色が確認できる。干渉色は、観察する角度を変えることによって色が変化する効果が得られる。
また、干渉膜とは反対側から透過光を観察すると干渉膜側の正反射光の補色が見える。このようにして、透かし模様と干渉色のフリップフロップ効果を共存させている。
【0006】
特許文献2では、被印刷体の表裏いずれか一方に万線によって模様を印刷し、他方には万線に潜像とすべき図柄を施した画線からなる模様を印刷した印刷物が提案されている。この印刷物を光で透かして見ることにより、表裏の模様が合成されて出現する連続階調の画像を確認することが可能となる。
【0007】
特許文献2は、光が透過する被印刷体の表裏いずれか一方に万線模様を印刷し、もう一方の面には、前記一方の万線模様の線配列と同期した線配列で、かつ、前記一方の万線の線配列に対して垂直方向に同程度の画線幅を有する模様を印刷した印刷物であり。表裏の万線模様のピッチをスクリーン印刷によって変化させ、かつ、表裏の位置を合わせて印刷を行なうことで、光に透かして見ると表裏の模様が合成され、潜像が連続階調の像として出現する印刷物を得ている。
【0008】
特許文献3には、部分的に角度を異ならしめることによって図柄を表した万線模様、またはレリーフ模様、もしくは双方の模様のいずれかの画線構成のエンボスによって形成された凹凸形状を有するすき入れ紙に、素材の色および無色透明以外の色のインキによって、一定な間隔を持つ各種万線画線を凹凸形状の図柄以外の部分を構成する部分に対して、傾斜を持たせて印刷した印刷物が提案されている。
【0009】
特許文献3の印刷物では、凹凸形状と一定の間隔を持つ印刷画線との間に、一定はでない位置関係が生じ、ある特定の角度から見た時にのみ、潜像となる特定の文字、図柄などが認識でき、併せて、すき入れ紙の場合は、透過光によって容易にすき入れ像が認識できる効果が述べられている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る表示体について図面を参照して説明する。
なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において特に限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0027】
図1〜
図3は、本実施形態に係る表示体の構成を模式的に示している。本実施形態に係る表示体10は、透明基材1の一方の面上に透明形成層2が設けられている。透明形成層2は、複数の凹部と凸部からなる凹凸構造4が形成された凹凸領域5と、凹凸構造4が形成されていない非凹凸領域6から構成されている。凹凸領域5は、絵柄、文字、数字などの画像、本実施形態では、たとえば、「T
OP」の文字を表示するように凹凸構造4で構成されている。透明形成層2の透明基材1と接していない面上には、光反射層3、透明保護層7、透明部材8が順に積層形成されている。
【0028】
このように構成された表示体10において、
図7に示したような位置関係で、蛍光灯などの光源11を表示体10を通して観察すると、表示体10の凹凸領域5を透過した光のみが着色して観察者12の目に届く。視覚効果に関しては後に述べる。
【0029】
ここで、本実施形態に係る表示体10の各層に対する説明を
図3を参照して行なう。
透明基材1の材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性が高い樹脂からなるフィルムまたはシートなどが好適である。また、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。
【0030】
透明成形層2の材料としては、たとえば、可視光波長の透過性を有する樹脂を使用することができる。たとえば、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの可視光透過性を有する樹脂を使用することができる。
その中でも、たとえば、熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂を使用すると、任意の凹凸構造4が形成された原版を用いた転写により、透明基材1の少なくとも一方の面上に凹凸構造4を備える透明成形層2を容易に作製することができる。
【0031】
ここで、本実施形態における凹凸構造4に関して更に詳しく説明を述べる。
凹凸構造4としては、断面が風紋状の形状である構造を用いることができる。
図4に、本実施形態における凹凸構造4の1つである、複数の凹部と凸部を持つ凹凸構造の断面の一例を示す。
【0032】
図4において、凹凸構造の凸部の頂点から凹部の最底辺までを凹凸構造4の深さHとする。また、凸部から凸部もしくは凹部から凹部の間隔を凹凸構造4の周期Pとする。
本実施形態における凹部とは、
図4に示したような凹凸領域5に形成された凹凸構造4において、深さHを2等分する中心線Lから透明基材1側に突出した部分とする。
また、本実施形態における凸部とは、
図4に示したような凹凸領域5に形成された凹凸構造4において、深さHを2等分する中心線Lから透明基材1とは反対側に突出した部分とする。
【0033】
次に、本実施形態における凹凸構造4の凹部の幅と凸部の幅に関して説明する。
本実施形態において、凹部の幅と凸部の幅とが等しいとは、
図5(A)に一例を示したように、凸部の幅D′と凹部の幅Dとが等しい長さであることをいう。
一方、凹部と凸部の異なる場合の例として、
図5(B)に一例を示したように、凹部の幅Dが凸部の幅D′よりも広い場合、もしくは
図5(C)に一例を示したように、凹部の幅Dが凸部の幅D′よりも狭い場合が考えられる。
【0034】
図6に、凹部の幅Dが凸部の幅D′よりも広い凹凸構造4の一例を示す。
図6では、透明基材1の上に透明成形層2が形成されており、透明成形層2に凹凸構造4が形成された例を示している。
【0035】
この例で示したような凹部の幅Dと凸部の幅D′とが異なる凹凸構造4が、本実施形態における断面が風紋状の形状である凹凸構造の1つである。なお、本実施形態においては、凹部の幅Dと凸部の幅D′とが等しい凹凸構造も、断面が風紋状の形状である凹凸構造の1つであるとする。
【0036】
ここで、本実施形態における表示体10の視覚効果について説明する。
【0037】
図7に一例を示すように、観察者12が表示体10を挟んで反対側にある光源11の透過光を観察する位置関係の場合、表示体10を透過していく光の波面は、表示体10の内部で反射を偶数回繰り返した後に透過していく光の波面を重畳したものとなる。各波面に位相差がないときに、最大の透過光強度が得られ、その際の光学距離の差は波長の整数倍となり、下記式(1)が成立する。
mλ=2×TO×cosθ……(1)
ここで、mは回折次数であり、TOは光学的距離である。TOは、物理的な距離に加え、光が伝搬する媒質の屈折率が考慮される。表示体10の膜厚をD、屈折率をnとするとTO=nDが成り立つ。
【0038】
このとき、他の波長では各波面で打ち消し合う干渉が起こるため、光源11とは反対側の面にはほとんど透過しなくなる。これは、薄膜の光学的距離を制御することで光源とは反対側の面に透過する光の波長を制御することが可能になることを意味している。
【0039】
凹凸領域5に設ける凹凸構造4の深さH、周期P、凹部の幅Dもしくは凸部の幅D′を変化させることで、透明成形層2や光反射層3の入射光に対する光学的距離を変化させることができるため、特定の角度からの入射光に対して、特定の波長の光を光源とは反対側の面に透過光として射出することが可能となる。
これによって、従来の白黒濃淡の透かし模様とは異なる、カラーの透かし模様を観察することが可能となる。
【0040】
凹凸領域5に設けられた凹凸構造4の深さHを変化させると、光学的距離TOが変化する。凹凸構造4の深さHが深くなると、凹凸領域5に入射した光は吸収されやすくなるため、凹凸領域5からの反射光強度が低下する。凹凸領域5からの反射光を観察する場合を考えると、反射光強度が低いため明度が低く、濃い灰色から黒色を呈した領域として視認される。
【0041】
一方、凹凸構造4の深さHが浅くなると、入射した光が吸収されにくいため、凹凸領域5からの反射光強度が上昇する。この場合、凹凸領域5からの反射光を観察する場合を考えると、反射光強度が高いため明度が高く、薄灰色から灰色を呈した領域として視認される。
【0042】
また、本実施形態の表示体10では、凹凸領域5に設けられた凹凸構造4の深さHが浅ければ、透過光を観察した際に、凹凸領域5が青紫色から青色を呈するような短波長領域(380nm〜480nm程度)を主波長とした光が透過する作用が発見された。
【0043】
さらに、凹凸領域5に設けられた凹凸構造4の深さHが深くなると、凹凸領域5を透過する光の主波長は、凹凸領域5が黄色から赤色を呈するような長波長領域(580nm〜680nm程度)にシフトする作用が発見された。
【0044】
本実施形態において凹凸領域5は複数設けてもよく、各凹凸領域5に設けられる凹凸構造4の深さHを異ならしめることで、それぞれの凹凸領域5を透過する光の主波長を変化させ、透過光を観察した際に、複数の色を呈する表示体を作製することも可能となる。
【0045】
本実施形態の表示体のもう1つの視覚効果として、表示体10の回折光を観察する場合がある。
図8に一例を示したように、観察者12が光源11の表示体10での反射光を観察する位置関係の場合、凹凸構造4として、断面が正弦波形状の回折格子のような構造を用いていれば、下記式(2)にしたがって回折光が観察できる。
【0046】
回折格子へ入射する光(入射光)と回折格子から射出される光の位置関係を
図9に示す。回折格子の周期をP、入射光の波長をλ、mを回折次数、構造への入射角度をα、m次回折光の射出角度をβとしたとき、それぞれの関係は
P(sinα−sinβ)=mλ……(2)
で計算される。
【0047】
表示体10からの反射光を観察する場合、前記式(1)で計算される範囲では特定波長λの回折光を観察することができる。前記式(1)から表示体10を傾けたり、観察角度を変化させることによって、回折する光の波長が変化することがわかる。この結果、反射回折光を観察すると、凹凸領域5が虹色に輝く効果を実現できる。
【0048】
以上のように、本実施形態の表示体10において、凹凸領域5の透過光を観察すると、特定波長の光を透かし模様として観察することができる。また、反射光を観察すると、特性の範囲では回折光を視認することができ、表示体10を傾けるか観察角度を変えると、回折光が虹色に輝く効果が得られる。
【0049】
さらに、本実施形態の表示体10では、凹凸領域5に設けられた凹凸構造4の周期Pが細かければ、透過光を観察した際に凹凸領域5が青紫色から青色を呈するような短波長領域(380nm〜480nm程度)を主波長とした光が透過する作用が発見された。
【0050】
また、凹凸領域5に設けられた凹凸構造4の周期Pが粗くなると、凹凸領域5を透過する光の主波長は、凹凸領域5が黄色〜赤色を呈するような長波長領域(580nm〜680nm程度)にシフトする作用が発見された。
よって、凹凸構造4の周期Pを変えることによっても、凹凸領域5を透過する光の主波長を変化させることができる。
【0051】
本実施形態において、凹凸領域5は複数設けてもよく、各凹凸領域に設けられる凹凸構造4の周期Pを異ならしめることで、それぞれの凹凸領域を透過する光の主波長を変化させることができる。これにより、透過光を観察した際に複数の色を呈する表示体10を作製することも可能となる。
【0052】
本実施形態においては、凹凸構造4の凹部と凸部との長さの関係によって、透過光の主波長がシフトする作用が発見された。
凹凸構造4の凹部と凸部との幅が等しい場合(
図5(A)に一例を示す)、凹凸領域5を透過する光の主波長は、上記で述べたように凹凸構造4の深さHと周期Pによって任意に決定される。
【0053】
一方、凹凸構造4の凹部の幅が広い場合(
図5(B)に一例を示す)、凹凸領域5を透過する光の主波長は、凹凸構造4の凹部と凸部の幅が等しい場合と比較して、色度図上において反時計回り方向へシフトする。
【0054】
また、凹凸構造4の凹部の幅が狭い場合(
図5(C)に一例を示す)、凹凸領域5を透過する光の主波長は、凹凸構造4の凹部と凸部の幅が等しい場合と比較して、色度図上において時計回り方向へシフトする。
【0055】
さらに、詳しく説明を行なうと、本実施形態における波長シフトの方向とは、
図10に示したような色度図上での色合いの変化のことを指す。
図10に示したように、たとえば、任意の周期Pと深さHを持つ凹凸構造4の凹部と凸部の幅が等しいとき、透過光の主波長が赤色を呈するような場合を考える。
【0056】
ここで、前記任意の周期Pと前記深さHを持つ凹凸構造4の凹部の幅を広くすると(
図5(B)に一例を示す)、透過光の主波長は色度図上で反時計回り方向へシフトし、黄赤から黄色を呈するようになる。
【0057】
また、前記任意の周期Pと前記深さHを持つ凹凸構造4の凹部の幅を狭くすると(
図5(C)に一例を示す)、透過光の主波長は色度図上で時計回り方向へシフトし、赤紫から紫色を呈するようになる。
【0058】
以上のように、凹凸構造4の凹部と凸部との長さの関係によって、透過光の主波長がシフトする作用が得られるが、凹凸構造4の凹部と凸部との長さの関係が変更されても、反射回折角度や反射回折波長はほとんど変化しない。そのため、回折光が観察できる範囲では、周期Pが同じであれば、ほぼ同じ波長の光を反射回折光として観察することができる。
【0059】
凹部と凸部の幅の関係がいずれの場合であっても、凹凸構造4の断面が風紋状の形状であり、周期Pが300nm以上800nm以下、深さHが100nm以上500nm未満とすることで、透過光の着色効果が期待できる。
【0060】
よって、周期P、深さHは一定とし、凹凸構造4の凹部の幅と凸部の幅との長さ関係のみを変化させた複数の凹凸領域5を設ければ、反射光観察ではほぼ同じ色合いを呈した領域として視認されるが、透過光を観察した場合のみ異なる色合いを呈した複数の凹凸領域5が視認されるような表示体10を作製することも可能となる。
【0061】
下記表1は、凹凸構造の周期P、深さH、凹部の幅と凸部の幅が変動した際に、反射光と透過光に対してどのような作用が起こるのかをまとめたものである。
【表1】
【0062】
深さHが浅い場合(本実施形態において100nm程度)、透過光に対する作用としては透過する光の波長が短波長領域となり、反射光に対する作用としては透過光強度の増加などが挙げられる。
【0063】
一方、深さHが深い場合(本実施形態において500nm程度)、透過光に対する作用としては透過する光の波長が長波長領域となり、色度図上を短波長領域から長波長領域へと一周するような挙動を示す。また、反射光に対する作用としては回折角度の増加、回折波長の短波長領域へのシフトなどが挙げられる。
【0064】
周期Pに対しては、周期Pが細かい場合(本実施形態において300nm程度)、透過光に対する作用としては透過する光の波長が短波長領域となり、反射光に対する作用としては透過光強度の増加などが挙げられる。
【0065】
一方、周期Pが粗い場合(本実施形態において800nm程度)、透過光に対する作用としては透過する光の波長が長波長領域となり、色度図上を短波長領域から長波長領域へと一周するような挙動を示す。また、反射光に対する作用としては回折角度の減少、回折波長の長波長領域へのシフトなどが挙げられる。
【0066】
凹部の幅と凸部の幅との関係に対しては、凹部の幅が広い(凸部の幅が狭い)場合、透過光に対する作用としては透過する光の波長が、凹部の幅と凸部の幅が等しい場合と比較して、色度図上において反時計回り方向へシフトする。
【0067】
一方、凹部の幅が狭い(凸部の幅が広い)場合、透過光に対する作用としては透過する光の波長が、凹部の幅と凸部の幅が等しい場合と比較して、色度図上において時計回り方向へシフトする。
【0068】
反射光への主な作用としては、周期Pに応じて回折光が射出され、凹部の幅と凸部の幅が等しい場合、凹部の幅が広い(凸部の幅が狭い)場合、凹部の幅が狭い(凸部の幅が広い)場合、いずれにおいても回折角度や回折波長はほぼ一定となる。
【0069】
本実施形態における表示体10は、複数の凹凸領域5を有していてもよく、それぞれの凹凸領域5が絵柄、文字、数字などの画像を表示するように配置されていて、かつ、前記凹凸構造5の深さ、周期、凸部の幅もしくは凹部の幅のうち、いずれかもしくは全てを異ならしめることで、それぞれの凹凸領域5から観察される透過光の波長(色合い)を変化させることができる。
これによって、従来の透かしの効果である単純な濃淡画像ではなく、複数のカラー画像を透かし像として観察することが可能となる。
【0070】
図11に、複数の凹凸領域5を有した表示体10の一例を示す。
図11に示す例では、星を表す絵柄、「1000」を表す数字、「TOP」を表す文字が、それぞれ凹凸領域5から形成されている。また、凹凸領域5以外の領域は凹凸構造4が形成されていない非凹凸領域6で構成されている。
【0071】
絵柄、数字、文字を表示するそれぞれの凹凸領域5を透過する主波長を変化させるために、たとえば、星の絵柄を構成する凹凸領域5に用いる凹凸構造4として、
図5(B)に一例を示したような凹部の幅Dが凸部の幅D′よりも広い断面形状を持った構造を用いる。
【0072】
また、数字「1000」を構成する凹凸領域5に用いる凹凸構造4として、
図5(A)に一例を示したような凸部の幅D′と凹部の幅Dの長さが等しい断面形状を持った構造を用いる。
【0073】
さらに、文字「TOP」を構成する凹凸領域5に用いる凹凸構造4として、
図5(C)に一例を示したような凹部の幅Dが凸部の幅D′よりも狭い断面形状を持った構造を用いる。
【0074】
これにより、たとえば星の絵柄部分を透過する光が緑色、数字「1000」を透過する光が黄色、文字「TOP」を透過する光が赤色にそれぞれ視認されるような表示体10を作製することも可能となる。
【0075】
また、非凹凸領域6の光透過率が20%以下であれば、非凹凸領域6を通して透過光を観察した際に、観察者は灰色から黒色として非凹凸領域6を視認することができるため、凹凸領域5から観察される着色した透過光とのコントラストを付けることができ、凹凸領域5での透過光の着色効果をより効果的に用いることが可能となる。
【0076】
非凹凸領域6の光透過率は、透明成形層3の透明基材2と接していない面に形成された光反射層3の厚みによって制御することができる。以下にその説明を述べる。
【0077】
表示体10は、透明成形層2の透明基材1と接していない面に光反射層3、透明保護層7、透明部材8が順に積層されている。
光反射層3の材料としては、アルミニウムが好適である。金属材料を用いて光反射層3を作製する方法としては、たとえば、真空蒸着法およびスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。本実施形態において、光反射層3はアルミニウム薄膜であることが好適である。
【0078】
アルミニウム薄膜は、金や銀などに比べて安価に入手できる利点がある。さらに、アルミニウムは、真空蒸着法やスパッタリング法のどちらでも精度良く容易に成膜できることが知られており、光反射層3を形成する際のハンドリングの良さも利点として挙げられる。
【0079】
光反射層3は、凹凸構造4が設けられた透明成形層2の界面の反射率を高め、透過光の着色効果に寄与する。
光反射層3の材料としてアルミニウム薄膜を用いる場合を考える。
図12は、透明成形層2(屈折率1.5)の上にアルミニウム薄膜が形成された場合の、波長442nm、532nm、633nmにおける透過率の厚み依存性を示すグラフである。
【0080】
図12を参照すると、アルミニウム薄膜の厚みが20nm以上であれば、波長442nm、532nm、633nmにおける透過率は20%以下の値を示す。
前述したように、非凹凸領域6の光透過率が20%以下であれば、非凹凸領域6を通して透過光を観察した際に、観察者は灰色から黒色として非凹凸領域6を視認することができ、凹凸領域5での透過光の着色効果をより一層効果的に用いることが可能となるため、本実施形態において非凹凸領域6の上に配される光反射層3としてのアルミニウム薄膜の厚みは20nm以上が好適である。
【0081】
透明保護層7は、表示体10を凹凸構造4の形状をコピーする模倣や偽造から守るために、凹凸構造4を保護する目的を持つ。透明保護層7としては、熱硬化型や紫外線硬化型の透明接着剤を用いることもできる。この場合、透明保護層7の光反射層3と接していない面に、さらに透明部材8を接着し保護することも可能となる。
【0082】
透明部材8としては、透明基材1と同様に光透過性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルムまたはシートなどが好適である。また、ガラスなどの無機材料を使用してもよい。
【0083】
透明部材8によって、凹凸構造4の形状をコピーする模倣や偽造を防ぐことが可能となる。また、透明部材8としては商品券などの有価証券やパスポート、パッケージ部材なども想定することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
図13および
図14は、本実施例に係る表示体の構成を模式的に示している。本実施例に係る表示体10は、透明基材1としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、透明成形層2として紫外線硬化型樹脂、凹凸領域5に配された凹凸構造4としては数100nmオーダの周期Pと深さHを持つ回折格子を形成している。
本実施例では、凹凸領域5を複数設け、それぞれ周期P、深さHを異ならしめて形成している。
【0085】
凹凸構造4は任意の形状をとっていてよく、
図13に示すように星型や三日月の形をした絵柄などにしてもよい。凹凸構造4に用いる回折格子の形成方法としては、レーザ露光干渉系を用いてもよいし、電子線描画などによって形成してもよい。
【0086】
光反射層3としては、アルミ蒸着層を真空蒸着法により製膜した。この際、凹凸領域5にのみアルミ蒸着層が設けられるように、凹凸構造4が形成されていない非凹凸領域6をカバーするマスクを用いて蒸着を行なった。
【0087】
透明保護層7としては、熱によって硬化する熱硬化型接着剤を用いた。透明部材8と透明保護層7を接着させることで、透明部材8と一体化させた表示体10が得られる。
【0088】
透明部材8としては、透明基材1よりも厚みのあるPETフィルムを用いている。また、透明部材8の透明保護層7が接着されていない範囲に記号13aと文字13bを印刷インキで形成している。
【0089】
図13に示した表示体10を、
図7に一例を示したような位置関係で、光源11の透過光を観察すると、凹凸構造4が設けられた凹凸領域5を透過してきた光が特定の色合いで観察される。このとき、非凹凸領域6や透明部材8に印刷インキで形成された記号13aと文字13bは白黒の濃淡画像として観察される。そのため、凹凸領域5を透過してきた光が強調されて視認することができる。
【0090】
一方、
図8に一例を示したような位置関係で、
図13に示した表示体10を観察すると、透明部材8に印刷インキで形成された記号13aと文字13bの色が視認され、かつ、特定の観察角度では凹凸領域5に形成された回折格子からの回折光が観察でき、表示体10を傾けるか、観察角度を変えると観察できる回折光の波長が変化し、虹色に輝く光を視認できる。