特許第6167594号(P6167594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167594
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】平版印刷用インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/08 20060101AFI20170713BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20170713BHJP
【FI】
   C09D11/08
   C09D11/10
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-62766(P2013-62766)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-111706(P2014-111706A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-245283(P2012-245283)
(32)【優先日】2012年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-245284(P2012-245284)
(32)【優先日】2012年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-245285(P2012-245285)
(32)【優先日】2012年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藪野 通夫
(72)【発明者】
【氏名】野村 高教
(72)【発明者】
【氏名】河崎 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 邦央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄規
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−290980(JP,A)
【文献】 特開2011−094052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/08
C09D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然アスファルタムから抽出された軟化点135℃〜205℃のギルソナイト樹脂と、石油樹脂と、植物油と、芳香族系炭化水素の含有率が1重量%以下の石油系溶剤と、脂肪酸エステルとからなるワニス、並びに、ロジン変性フェノール樹脂またはアルキッド樹脂からなる合成樹脂、を含有する平版印刷用インキであって、
前記脂肪酸エステルが、植物油または動物油由来の化合物であるグリセリンおよび脂肪酸からなるトリグリセライドに対し、飽和または不飽和アルコールをエステル化反応することにより得られた脂肪酸エステルであることを特徴とする平版印刷用インキ。
【請求項2】
インキ全量に対して、天然アスファルタムから抽出された軟化点135℃〜205℃のギルソナイト樹脂0.001〜20重量%と、石油樹脂0.2〜30重量%と、合成樹脂5〜40重量%と、脂肪酸エステル0.3〜10重量%とを含有することを特徴とする請求項1記載の平版印刷用インキ。
【請求項3】
下記(1)〜(5)であることを特徴とする請求項1または2記載の平版印刷用インキ。
(1)合成樹脂がロジン変性フェノール樹脂である。
(2)ロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量10000〜200000である。
(3)ロジン変性フェノール樹脂のトレランスが20〜49重量%である。
(4)芳香族系炭化水素の含有率が1重量%以下の石油系溶剤のアニリン点が60℃〜130℃である。
(5)芳香族系炭化水素の含有率が1重量%以下の石油系溶剤の沸点が240℃〜400℃である。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の平版印刷用インキを基材に印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然アスファルタムから抽出された軟化点135℃〜205℃のギルソナイト樹脂をビヒクル樹脂の一成分として用いることで、一般的にインキ化したときに流動性の劣る透明性の顔料においても分散性が向上するため、インキの流動性が大幅に改善され、安定したローラー間の転移性、壷逃げ等の印刷適性の向上が図れ、また、網点再現性等の印刷効果に優れた平版印刷用インキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は印刷機等を用い、紙やフイルム等の印刷媒体に転移させ画像を形成させる。印刷する際には、インキの流動性が印刷適性や印刷効果に大きく影響を与える。
【0003】
平版印刷用インキは、合成樹脂、植物油、石油系溶剤等からなるワニスに顔料を分散させたものである。更に顔料の分散性を上げるために、アルキッド樹脂やその他様々な顔料分散剤を添加し、インキの流動性を向上させているが、これらを使用すると、印刷時に使用する湿し水を取り込み易くなり、版を感脂化させ易くなり、汚れやドットゲインの肥大等、印刷適性を大幅に悪化させる。
【0004】
近年は、環境側面から芳香族炭化水素を水添により非芳香族成分とした溶剤が印刷インキに使用され、環境対応インキとして主体となっている。特に、三環以上の多環芳香族炭化水素を含む溶剤は環境衛生面での問題が指摘されている。
環境対応インキの基準として、財団法人 日本環境協会が「エコマーク」認定を行っている。このエコマーク事務局で認定されたものには「エコマーク」ラベルをインキラベルに表示することができる。
日本環境協会のエコマーク事務局での認定基準は、インキに使用する溶剤として、芳香族成分の溶剤は容量比1%未満となっている。
現在、日本国内においてはこの基準をクリヤーした「エコマーク」認定の印刷インキが主体となっている。
【0005】
平版印刷は印刷機等を用い、紙やフイルム等の印刷媒体に転移させ画像を形成させる。印刷する際には、インキの流動性が印刷適性や印刷効果に大きく影響を与える。
平版印刷用インキは高速印刷時のインキの安定性保持を図るため、印刷機上で溶剤の蒸発を抑制することが必要であり、高沸点の溶剤を使用することが不可欠であった。このため石油精製の際の高沸点留分の溶剤が望まれている。しかし、高沸点溶剤は芳香族成分含有率が多いため、この芳香族成分を取り除いた非芳香族溶剤が現在使用されている。
【0006】
しかしながら、非芳香族成分を主体とした溶剤は、アニリン点が高く樹脂との溶解性が問題となる。特に、高沸点の非芳香族溶剤ではアニリン点が120℃以上のものも多く、インキ化した場合に樹脂との溶解性の不良により乾燥性や流動性が劣化し、機上安定の劣化や転移不良等の印刷上のトラブルが発生する。
【0007】
また、平版印刷は非画線部に湿し水を供給し、これによるインキ反発性を利用して画像を形成しており、インキはこの湿し水に乳化してローラー間を転移した後、紙へ印刷されるので、ローラー間の転移性及び紙への着肉性は、インキ及び湿し水に乳化した乳化インキの流動性が大きく影響する。
【0008】
平版印刷用インキは、合成樹脂、植物油、石油系溶剤等からなるワニスに顔料を分散させたものである。分散性が悪い平版用印刷用インキは、顔料の濡れ性が乏しく、インキ化した時の流動性や印刷時での湿し水に乳化した乳化インキの流動性が劣るため、ローラー間の転移及び紙への着肉性が劣るという問題があった。
このため、顔料の濡れ性や分散性を向上させるために、アルキッド樹脂やその他様々な顔料分散剤を添加し、インキの流動性を向上させているが、これらを使用すると、印刷時に使用する湿し水を取り込み易く、版を感脂化させ易くなり、紙面汚れやドットゲインの肥大による品質不良等、印刷適性を大幅に悪化さる要因となっていた。
【0009】
一方、脂肪酸エステルを主成分とする植物油は樹脂溶解性が良好であり、揮発分が少ない。酸化重合型乾燥方式をとる平版印刷インキでは、乾性油と称する不飽和脂肪酸エステルを主成分とする植物油が利用されており、印刷後に脂肪酸中の不飽和部分の酸化重合で皮膜を形成してインキを定着させている。しかし植物油の含有率を高めていった場合には、樹脂溶解性過多により溶剤離脱が起こりにくくなり印刷後の乾燥性(以下セットと称する。)が劣化する。また、逆にインキ中の不飽和成分の比率が高くなるので、インキ自体は表面に乾燥皮膜を形成しやすくなり作業性も悪化する。
【0010】
一般に、酸化重合や浸透乾燥型乾燥方式をとる平版印刷インキでは、乾性油の含有率を高めていくと機上安定性の向上には寄与するものの、樹脂からの溶剤離脱が遅くなることによるセットは劣化する。機上安定性とはインキの印刷機上での溶剤蒸発による流動性の劣化の程度を表す。流動性劣化が少ないこと、もしくは流動性が劣化するまでの時間が長いことがインキ性能として優れている。
【0011】
浸透乾燥型平版印刷用インキの乾燥メカニズムは、印刷インキを構成している溶剤や植物油などが、毛細管現象で紙の繊維部分に浸透し、顔料や樹脂の一部の固形物が紙の表面に固形皮膜の画像を形成させるという乾燥方式をとっている。
ヒートセット型平版印刷用インキの乾燥メカニズムは、加熱オーブン(ドライヤー)を用いてインキ中の溶剤を乾燥させ、固体皮膜を形成させる乾燥方式をとっている。
酸化重合型平版印刷用インキの乾燥メカニズムは、インキ中の乾性油が空気中の酸素で酸化重合し、固体皮膜を形成される乾燥方式をとっている。
【0012】
この様な状況において、特開平10−279872号公報には、ギルソナイトから抽出された軟化点120℃〜125℃の炭化水素樹脂をインキに添加し、顔料の分散性を向上させる方法が示されているが、ギルソナイトは黒褐色であり、透明度の高い色相においては、色相が黒くなり、印刷品質を大きく損なうものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−279872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、顔料の濡れ性を向上させることで、インキの分散性を高め、流動性、転移性、機上安定性に優れた平版印刷用インキと、これを用いて印刷してなる印刷物を提供することを目的とする。さらには、環境負荷の小さい平版印刷用インキ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために誠意研究した結果、天然アスファルタムから抽出された特定の軟化点を有するギルソナイト樹脂を、石油樹脂及び脂肪酸エステル存在下で溶解させた溶解成分を用いることで、顔料の濡れ性を大幅に向上させることができ、インキの分散性の問題を解決し、流動性、転移性、機上安定性に優れた平版印刷用インキを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、天然アスファルタムから抽出された軟化点135℃〜205℃のギルソナイト樹脂と、石油樹脂と、植物油と、芳香族系炭化水素の含有率が1重量%以下の石油系溶剤と、脂肪酸エステルとからなるワニス、並びに、ロジン変性フェノール樹脂またはアルキッド樹脂からなる合成樹脂、を含有する平版印刷用インキであって、
前記脂肪酸エステルが、植物油または動物油由来の化合物であるグリセリンおよび脂肪酸からなるトリグリセライドに対し、飽和または不飽和アルコールをエステル化反応することにより得られた脂肪酸エステルであることを特徴とする平版印刷用インキに関する。

【0017】
また、本発明は、インキ全量に対して、天然アスファルタムから抽出された軟化点135℃〜205℃のギルソナイト樹脂0.001〜20重量%と、石油樹脂0.2〜30重量%と、合成樹脂5〜40重量%と、脂肪酸エステル0.3〜10重量%とを含有することを特徴とする上記の平版印刷用インキに関するものである。
【0018】
さらに、本発明は、下記(1)〜(5)であることを特徴とす上記載の平版印刷用インキに関する。
(1)合成樹脂がロジン変性フェノール樹脂である。
(2)ロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量10000〜200000である。
(3)ロジン変性フェノール樹脂のトレランスが20〜49重量%である。
(4)芳香族系炭化水素の含有率が1重量%以下の石油系溶剤のアニリン点が60℃〜130℃である。
(5)芳香族系炭化水素の含有率が1重量%以下の石油系溶剤の沸点が240℃〜400℃である。
【0019】
さらに、本発明は、上記平版印刷用インキを基材に印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0020】
新聞、書籍、チラシ等の印刷において、本発明が提供する平版印刷用インキは、従来よりも流動性、低タック化、転移性、機上安定性に優れた印刷適性、経時安定性を提供することが可能となり、工業的価値は、甚大である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0022】
本発明のギルソナイトは、天然アスファルトから抽出された脂肪族系炭化水素からなる樹脂で、芳香族系炭化水素、灰分、軽質留分を僅かに含んでいる。
【0023】
このギルソナイトを更に精製し、芳香族系炭化水素、灰分、軽質留分を完全に除去したものはER−125レジンと呼ばれ、軟化点が120℃〜125℃と低く、カーボンの濡れに有効である。しかしながら、ER−125レジンは精製に無用なエネルギーを費やすため環境への負荷が大きいことは自明である。従って精製を経ず、カーボンへの濡れを改善することが求められている。本願においては、ER−125レジンを用いると本願発明の課題である環境負荷の低減を解決し得ないので、ER−125レジンは検討の範囲外である。
【0024】
精製を経ないギルソナイト樹脂で問題となるのは、粘度の不安定性、凝集物による濾過時の目詰まりの問題である。
従来の平版印刷用インキは芳香族成分を含む溶剤を使用しているため、精製を経ないギルソナイト樹脂であっても溶解させることができた。従って、上記の粘度の不安定性、凝集物による濾過時の目詰まりの問題は起きにくかった。芳香族成分を含む従来の溶剤は、非常にアニリン点が低く、翻って樹脂の溶解性が高いためだと考えられる。
【0025】
しかしながら、芳香族成分を含む溶剤は環境への影響が大きいため世界各国で規制の対象となっており、芳香族成分を含まない溶剤へ切替える取組みが進められている。ところが芳香族成分を含まない溶剤は、アニリン点が高く、精製を経ないギルソナイト樹脂を溶解させるのは非常に困難である。
【0026】
本発明においては、石油樹脂、脂肪酸エステル及び芳香族成分を含まない溶剤を同時に用いることで、ギルソナイト樹脂を溶解させ、上記の課題を解決できる。
【0027】
本発明において使用するギルソナイト樹脂は、アメリカ・ユタ州で産出される天然炭化水素レジン(天然アスファルタム)の商品名で、アメリカンギルソナイト社の製品である。
【0028】
本発明において、実施例での検証で使用する軟化点の異なるギルソナイト樹脂E〜Jについては、軟化点が異なる製品を混合して、軟化点を調整して使用した。具体的には、軟化点が通常130℃〜170℃の「ギルソナイトセレクト325(アメリカンカンギルソナイト社製)」と軟化点が通常160〜205度の「ギルソナイトセレクト437(アメリカンカンギルソナイト社製)」の2種類の樹脂を数ロット入手し、各樹脂の軟化点を調査した後、これら樹脂を混合することで軟化点を調整できる。
【0029】
なお、上述しているようにギルソナイト樹脂は天然物であるため、軟化点の振れ幅が大きい。従って、本願実施例に記載のある軟化点210℃のギルソナイト樹脂Jは、ギルソナイトセレクト437の数ロットから軟化点の高いロット(210℃以上)を選別し、調整した。
【0030】
軟化点については、環球法により測定した。環球法による軟化点の測定は、規格試験法において広く採用されている方法であり、JIS K 2046があげられる。具体的には試料を充てんした黄銅製環を水浴中に水平に保持し、試料の中心に一定重量の鋼球をのせ、一定速度で浴温を上昇させ、試料が次第に軟化し、鋼球が下降し、ついに厚さ25mmの位置の底板に達したときの温度計の示度をもって軟化点とするものである。
【0031】
本発明のギルソナイト樹脂の添加量は、印刷インキ全量に対して0.001〜20重量%である必要がある。さらに色ごとに詳しく述べると以下の通りである。
(1)黄インキおよび紅インキでは、好ましくは0.001〜1重量%、さらに好ましくは0.1〜0.3重量%である。
(2)紅インキでは好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
(3)藍インキでは好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.2〜1重量%である。
(4)墨インキでは好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%である。
上記数値の下限より少ないと顔料の濡れが乏しく流動性が不足する。
一方、上記数値の上限より多いと、ギルソナイト樹脂が黒褐色であるため、色相が濁り、印刷品質を大きく損なうため実用的ではない。この傾向は明度の高い黄、紅インキで顕著である。
【0032】
本発明に用いられる石油系溶剤は、芳香族炭化水素の含有率が1%以下で、アニリン点が60〜130℃、好ましくは80〜100℃及び、沸点が240℃〜400℃、好ましくは270℃〜350℃の範囲にある石油系溶剤である。アニリン点が130℃を超えると、ギルソナイト樹脂の溶解性が悪くなり、インキ化することができなくなる。また、アニリン点が60℃未満だと、ギルソナイト樹脂を溶解するが、溶解させる能力が高すぎるため、インキ化したときに、インキのセット性が遅くなり、印刷に悪影響を与え、好ましくない。
【0033】
石油系溶剤の沸点が240℃未満の場合には、印刷機上での溶剤の蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が劣化してしまい好ましくない。沸点が400℃を超える場合は、ヒートセット型のインキの乾燥性が劣るため、好ましくない。
石油溶剤の配合量は、印刷インキ全量に対して40重量%以下であることが好ましい。
このような石油溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー社製 AF5、AF6、AF7等がある。
【0034】
本発明における脂肪酸エステルは、特に限定はしない。好ましくは、植物油並びに動物油由来の化合物であるグリセリンと脂肪酸とのトリグリセライドにおいて、これらのトリグリセライドから飽和または不飽和アルコールとのエステル化反応からえられた脂肪酸エステルを用いることが、環境的にも優しく好ましい。
【0035】
脂肪酸エステルの添加量は、印刷インキ全量に対して0.3〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。1重量%未満だと印刷機のブランケットを細らせ、着肉不良の問題が生じ、5重量%を越えると逆に印刷機のブランケットを膨潤させ、版磨耗の問題が生じる。
【0036】
ギルソナイト樹脂を溶解させるときに使用する脂肪酸エステルの添加量は、ギルソナイト樹脂ワニス全量に対して1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%である。2重量%未満だとギルソナイト樹脂の溶解性が劣るため、溶解時間が非常に長く掛かり未溶解物も多く残るため、濾過時間が長くなり、生産面のコストが非常に掛かる。更に、このようにして生産したギルソナイト樹脂ワニスは、粘度の安定が非常に悪く、安定した平版印刷用インキを生産することはできない。また、上記数値の上限より多いと、ギルソナイト樹脂の溶解性は良くなり、濾過時間も短くなるが、このワニスを用いて平版印刷用インキを生産し印刷したとき、印刷機のブランケットを膨潤させ、版磨耗の問題が生じる。
【0037】
本発明で使用する植物油は大豆油、ヤシ油等の半乾性油や不乾性油が望ましいが、必要に応じてアマニ油、桐油等の乾性油を併用することも可能である。植物油の配合量は、印刷インキ全量に対して10〜60重量%が望ましい。上記数値の下限より少ないと樹脂との溶解性不足によりインキの流動性が不足し、場合によっては機上安定性に問題を生じる。また、上記数値の上限より多いとセットが劣化する。
【0038】
本発明で使用する石油樹脂としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンを原料とするDCPD系石油樹脂や、ペンテン、ペンタジエン、イソプレンなどのC5系石油樹脂、インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α―メチルスチレン、β―メチルスチレンなどを原料とするC9系石油樹脂、前記DCPD系原料とC5系原料からなる共重合石油樹脂、前記DCPD系原料とC9系原料からなる共重合石油樹脂、前期C5系原料とC9系原料からなる共重合石油樹脂、前記DCPD系原料とC5系原料とC9系原料からなる共重合石油樹脂などが上げられ、無触媒あるいはフリーデルクラフツ型触媒(カチオン重合)などを用いて製造される。
【0039】
なお、石油樹脂の添加量は、印刷インキ全量に対して0.2〜30重量%、好ましくは1〜10重量%である。1重量%未満では印刷においてインキ転移性が劣り、着肉不良の問題が生じ、10重量%を超えると、印刷においてセット性が劣り機上安定性が悪くなり、パイリングや紙剥けの問題が生じる。
【0040】
ギルソナイト樹脂を溶解させるときに使用する石油樹脂の添加量は、ギルソナイト樹脂ワニス全量に対し1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。上記数値の下限より少ないとギルソナイト樹脂の溶解性が劣るため、溶解時間が非常に長く掛かり未溶解物も多く残るため、濾過時間が長くなり、生産面のコストが非常に掛かる。 更に、このようにして生産したギルソナイト樹脂ワニスは、粘度の安定が非常に悪く、安定した平版印刷用インキを生産することはできない。また、上記数値の上限より多いと、ギルソナイト樹脂の溶解性は良くなり、濾過時間も短くなるが、平版印刷用インキ化して印刷するときに、セット性が劣り機上安定性が悪くなり、パイリングや紙剥けの問題が生じる。
【0041】
このような石油樹脂としては、JX日鉱日石エネルギー社製 120グレード(軟化点120℃)、130グレード(軟化点130℃)、140グレード(軟化点140℃)、150グレード(軟化点150℃)等があり、他メーカでも同グレードを製造している。
【0042】
本発明に用いられるギルソナイト樹脂と共に使用される合成樹脂は、石油樹脂以外に、ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂などがある。好ましくはロジン変性フェノール樹脂を使用する。ロジン変性フェノール樹脂は特に限定されないが、好ましくは、重量平均分子量10000〜200000、好ましくは20000〜80000、且つロジン変性フェノール樹脂の溶解性としては、日本石油社製0号ソルベント溶剤でのトレランスが20〜49重量%であることが好ましく、22〜30重量%であることがさらに好ましい。
【0043】
重量平均分子量が10000未満ではインキの粘弾性が低下し、200000を超えるとインキの流動性、光沢が劣る。また、トレランスが20重量%未満ではインキのセット性が低下し、さらにセットオフ汚れ、ミスチング性能の劣化を招く。トレランスが49重量%を超えると、印刷機上での溶剤離脱の促進によるインキの増粘、流動性の低下、タック上昇による印刷適性の劣化を招き、さらに光沢が低下するため好ましくない。
【0044】
トレランスとは樹脂Xgを試験管に取り、溶剤で加熱溶解させたのちに25℃に冷却したときの白濁しない最小樹脂濃度であり、数値が小さいほど溶解性が優れている。

トレランス(%)=[樹脂(Xg)]÷[樹脂(Xg)+溶剤(Yg)]×100
【0045】
合成樹脂の配合量は、印刷インキ全量に対して5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。30重量%を超えるとインキが硬調化し流動性が不十分となり、10重量%未満ではインキの粘弾性が不足して好ましくない。
【0046】
本発明において印刷インキの着色剤は、黄インキであれば、C.I.ピグメントイエロー12またはC.I.ピグメントイエロー13の黄顔料を使用する。黄顔料の配合量は、印刷インキ全量に対して、5〜20重量%である。
また、紅インキであれば、C.I.ビグメントレッド57:1を使用する。紅顔料の配合量は、印刷インキ全量に対して、5〜25重量%である。
また、藍インキであれば、胴フタロシアニン系化合物であるC.I.ピグメントブルー15:3の藍顔料を使用する。藍顔料の配合量は、印刷インキ全量に対して、5〜25重量%である。
さらに、墨インキであれば、カーボンブラックを使用する。カーボンブラックの配合量は、印刷インキ全量に対して、10〜30重量%である。
【0047】
重量平均分子量測定には、東ソー社製ゲルパーメーションクロマトグラフィー(商品名 HLC−8020)および東ソー社製カラム(商品名 TSK−GEL)を用いた(以下、重量平均分子量は同様の方法で測定した値である)。
【0048】
さらに、本発明の平版印刷用インキ組成物には、必要に応じてゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系海面活性剤、多価アルコール等の添加剤を便宜使用することができる。
【0049】
なお、本発明において、基材とは、紙基材であれば良い。例えば一般の商業印刷で使用されている印刷用紙として、塗工紙と非塗工紙がある。塗工紙とは、印刷効果を高めるために白顔料に結合剤を加えて作った 塗工液を塗って表面平滑性を持たせた紙で、非塗工紙はこの塗工処理をしない紙である。また非塗工紙で新聞用紙がと呼ばれる、新聞印刷用の用紙がある。この用紙は非塗工であり、古紙混入率も高く、インキ吸収性が高い用紙となっている。

【実施例】
【0050】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本発明中、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「重量部」「重量%」を示す。
【0051】
(フェノール樹脂製造例1)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部、35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加えて、90℃で6時間反応させる。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸溶液を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェノール樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液Xとした。
【0052】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例1)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1400部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン100部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量30000、トレランス20重量%のロジン変性フェノール樹脂A(以下、樹脂Aと称す)を得た。
【0053】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例2)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1600部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン120部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量100000、トレランス24重量%のロジン変性フェノール樹脂B(以下、樹脂Bと称す)を得た。
【0054】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例3)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1800部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン110部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量130000、トレランス27重量%のロジン変性フェノール樹脂C(以下、樹脂Cと称す)を得た。
【0055】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例4)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X2000部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン140部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量220000、トレランス26重量%のロジン変性フェノール樹脂D(以下、樹脂Dと称す)を得た。
【0056】
(平版印刷インキ用ゲルワニスの製造)
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付4つ口フラスコに樹脂B(重量平均分子量100000)40重量部、大豆油(ヨウ素価が125mg/100mg)33重量部、AFソルベント5号(新日本石油社製、アニリン点88℃、沸点範囲279〜307℃)26重量部を仕込み、190℃に昇温、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1重量部(川研ファインケミカル社製ALCH、以下ALCHと称す)を仕込み、190℃で30分間攪拌して浸透乾燥型オフセット印刷インキ用ゲルワニス1(以下ワニス1と称す)を得た。
【0057】
さらに、表1の組成に基づいて、上記と同等のゲルワニス製造方法により、ゲルワニス2〜4(以下ワニス2〜4と称す)を得た。
【0058】
【表1】
【0059】
(平版印刷インキ用ギルソナイトワニスの製造)
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付4つ口フラスコにギルソナイト樹脂E(軟化点162℃)30重量部、石油樹脂(JX日鉱日石エネルギー社製:日石ネオポリマー120(軟化点120℃))5重量部、大豆油変性脂肪酸エステル 5重量部、大豆油(ヨウ素価が125mg/100mg)50重量部、AFソルベント5号(新日本石油社製、アニリン点88℃、沸点範囲279〜307℃)10重量部を仕込み、195℃に昇温、同温で60分間攪拌した後、放冷する。その後150メッシュ金網フィルターにて濾過し、残渣物を除去し、平版印刷インキ用ギルソナイトワニス1を得た。
【0060】
さらに、表2の組成に基づいて、上記と同等のギルソナイトゲルワニス製造方法により、ギルソナイトワニス2〜8を得た。
【0061】
【表2】
【0062】
(黄インキの製造)
黄顔料(トーヨーカラー社製:LIONOL YELLOW 1245(C.I.ピグメントイエロー12)を10重量部、ギルソナイトワニス1を0.03重量部、ゲルワニス2を60重量部、大豆油脂肪酸ブチルエステルを3重量部、大豆油(ヨウ素価が125mg/100mg)を15重量部、AFソルベント5号(新日本石油社製)を5重量部、計93.03重量部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ1を得た。このベースインキ1の粘度が6.0±4Pa・sになり、且つ100重量部になる様に大豆油とAFソルベント5号量の調整を行ったところ、ベースインキ1に大豆油を5重量部、AFソルベント5号を1.97重量部加えて6.3Pa・sのインキ実施例1を約100重量部得た。
【0063】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表3、4に示す配合にてベースインキを作製し、同等に大豆油とAFソルベント5号と石油系溶剤Hの量を調整して6.0±4Pa・sにインキの粘度調整を行ったところ、インキ実施例2〜12、インキ比較例1〜4を約100重量部得た。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
(紅インキの製造)
紅顔料(トーヨーカラー社製:LIONOL RED カーミン6B 4234(C.I.ビグメントレッド57:1))を13重量部、ギルソナイトワニス1を0.3重量部、ゲルワニス2を57重量部、大豆油脂肪酸ブチルエステルを3重量部、大豆油(ヨウ素価が125mg/100mg)を15重量部、AFソルベント5号(新日本石油社製)を5重量部、計93.3重量部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ13を得た。このベースインキ1の粘度が6.0±4Pa・sになり、且つ100重量部になる様に大豆油とAFソルベント5号量の調整を行ったところ、ベースインキ13に大豆油を5重量部、AFソルベント5号を1.7重量部加えて6.1Pa・sのインキ実施例13を約100重量部得た。
【0067】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表5、6に示す配合にてベースインキを作製し、同等に大豆油とAFソルベント5号と石油系溶剤Hの量を調整して6.0±4Pa・sにインキの粘度調整を行ったところ、インキ実施例14〜24、インキ比較例5〜8を約100重量部得た。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
(藍インキの製造)
藍顔料(トーヨーカラー社製:LIONOL BLUE FG7330(C.I.ピグメントブルー15:3))を14重量部、ギルソナイトワニス1を1重量部、ゲルワニス2を55重量部、大豆油脂肪酸ブチルエステルを3重量部、エステル大豆油(ヨウ素価が125mg/100mg)を15重量部、AFソルベント5号(新日本石油社製)を5重量部、計93重量部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ25を得た。このベースインキ25の粘度が5.0±4Pa・sになり、且つ100重量部になる様に大豆油とAFソルベント5号量の調整を行ったところ、ベースインキ1に大豆油を5重量部、AFソルベント5号を2重量部加えて5.0Pa・sのインキ実施例25を約100重量部得た。
【0071】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表7、8に示す配合にてベースインキを作製し、同等に大豆油とAFソルベント5号と石油系溶剤Hの量を調整して5.0±4Pa・sにインキの粘度調整を行ったところ、インキ実施例26〜36、インキ比較例9〜12を約100重量部得た。
【0072】
【表7】
【0073】
【表8】
【0074】
(平版印刷インキの製造)
カーボンブラックA(キャボット社製:リーガル99R)を20重量部、ギルソナイトワニス1を17重量部、ゲルワニス2を34重量部、大豆油脂肪酸ブチルエステルを2.5重量部、大豆油(ヨウ素価が125mg/100mg)を15重量部、AFソルベント5号(新日本石油社製)を5重量部、計93.5重量部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ1を得た。このベースインキ1の粘度が5.0±4Pa・sになり、且つ100重量部になる様に大豆油とAFソルベント5号量の調整を行ったところ、ベースインキ1に大豆油を5重量部、AFソルベント5号を1.5重量部加えて5.0Pa・sのインキ(実施例37)を約100重量部得た。
【0075】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表9、10に示す配合にてベースインキを作製し、同等に大豆油とAFソルベント5号と石油系溶剤Hの量を調整して5.0±4Pa・sにインキの粘度調整を行いインキ(実施例38〜48、比較例13〜16)を約100重量部得た。
【0076】
【表9】
【0077】
【表10】
【0078】
(評価結果)
(平版印刷インキ用ギルソナイトワニスの評価)
上記ギルソナイトワニス1〜8について、粒子径、ろ過性、ワニス安定性、ゴム膨潤性、環境性の評価を実施し、表11に示した。
【0079】
【表11】
【0080】
<粒子径測定方法>
製造したギルソナイトワニスを分散粒子径測定機(グラインドメーター)で、未溶解物等の残渣物粒子径を測定する。未溶解物が多い程、粒子径も大きくなり、次工程のインキ生産時間が非常に長くなる。未溶解物等の粒子径が小さい程、次工程のインキ生産時間が短くなり、良好であることを示す。
(評価基準)
○:7.5μ以下。
△:7.5μ〜10.0μ未満。
×:10.0μ以上。
【0081】
<ろ過性測定方法>
ギルソナイトワニス製造時の、150メッシュ金網フィルター濾過工程の濾過時間を測定し評価する。残渣物が多いとフィルターに残渣物が溜まり、濾過できなくなり、フィルターを交換しなければならず、工数と時間がかかる。残渣物が少ないと、フィルターに残渣物が溜まり難く、フィルター交換の必要もなく、濾過時間も短くて済む。
(評価基準)
○:フィルター交換が1〜3回。
△:フィルター交換が4−9回。
×:フィルター交換が10回以上。
【0082】
<ギルソナイトワニスの安定性測定方法>
製造した各ギルソナイトワニスを、最大220mlの密閉容器にワニス180mlを量り取る。容器内を窒素パージした後蓋を閉め、70℃のオーブンで1週間保管し、促進をかける。1週間後、オーブンから取り出し、再度粘度を測定し、オーブン保管前の各ギルソナイトワニスとの粘度差(ΔPa・s)を求める。粘度変化量が少ない程、経時安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:15Pa・s未満
△:15Pa・s以上、25P・s未満
×:25Pa・s以上
【0083】
<膨潤性評価>
製造した各ギルソナイトワニスに、硬度30の4.00cm(長さ)×1.00cm(幅)×0.200cm(厚さ)に切ったゴムロール(印刷輪転機で使用しているM社製ゴムロール)を浸漬させ、2週間後に取り出し、ギルソナイトワニスを取り除いた後、長さを測定し、ゴムの膨潤性を評価する。元の長さから変化を伸縮率(%)で表す。ゴムが収縮していると、印刷輪転機での印刷時にローラー間でのインキ転移不良や着肉不良の問題が発生する。また、ゴムが大きく膨潤してしまうと、印刷時に版磨耗が発生し、着肉不良の問題が発生する。印刷時の着肉を安定に保つためには、多少膨潤していた方が良い(伸縮率100%〜110%)。
(評価基準)
○:伸縮率が100%以上110%以下
△:伸縮率が110%より大きく120%以下、或いは90%以上、100%未満。
×:伸縮率が120%より大きいか、90%未満。
【0084】
<環境性評価>
製造したギルソナイトワニスに使用している溶剤について、溶剤中の芳香族成分の比率を調べる。環境に配慮した「エコマーク」認定の印刷インキに関しては、インキに使用される溶剤として、芳香族成分が容積比1%未満となっている。これが日本国内では標準となっている。海外では芳香族成分が容積比3%未満の溶剤が環境に配慮したインキとして主体となっている。
(評価基準)
○:溶剤の芳香族成分が容積比1%未満
△:溶剤の芳香族成分が容積比1%以上3%未満
×:溶剤の芳香族成分が容積比3%以上
【0085】
上記で製造したインキ実施例1〜48及びインキ比較例1〜16の平版印刷用インキにおける、流動性、機上安定性、経時安定性、紙剥け性、膨潤性、環境性、色相、印刷適性(ミスチング性、着肉性、パイリング性)について評価を実施し、結果を表12、13に示した。
【0086】
[表12−1]
【表12】
【0087】
[表12−2]
【表12】
【0088】
[表12−3]
【表12】
【0089】
[表12−4]
【表12】
【0090】
[表13−1]
【表13】
【0091】
[表13−2]
【表13】
【0092】
[表13−3]
【表13】
【0093】
[表13−4]
【表13】
【0094】
<流動性の測定方法>
インキ2.1mlを半球状の容器にセット後、直ちに60°に傾けた傾斜板の上にインキを垂らし、10分間で流れた長さを測定する。値が高いほどインキのしまりが少なく、流動性が良好であることを示す。
(評価基準)
○:100mm以上
△:60mm以上、100mm未満
×:60mm未満
【0095】
<機上安定性の測定方法>
東洋精機社製デジタルインコメーターにインキ1.32mlをセットし、40℃、1200rpmの条件においてタック値が最大値になるまでの時間を測定する。最大値になるまでの時間が長い程、インキのタック値が緩やかに変動するため印刷機上でのインキの粘度上昇や流動性の変化が少ないことを示しているため、機上安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:20min以上
△:15min以上、20min未満
×:15min未満
【0096】
<経時安定性の測定方法>
ラレー粘度計(L型粘度計(25℃))で粘度を測定したインキについて、最大220mlの密閉容器にインキ180mlを量り取る。容器内を窒素パージした後蓋を閉め、70℃のオーブンで1週間保管し、促進をかける。1週間後、オーブンから取り出し、再度粘度を測定し、オーブン保管前のインキとの粘度差(ΔPa・s)を求める。粘度変化量が少ない程、経時安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:1Pa・s未満
△:1Pa・s以上、1.5P・s未満
×:1.5Pa・s以上
【0097】
<紙剥け性の測定方法>
インキ2.5mlをRIテスター(明製作所社製)にて新聞用更紙(20×25cm)に50rpmで展色したときの、インキの着肉及び紙向け状態を目視評価する。着肉性が良く、紙剥けがないものが優れている。
(評価基準)
○:着肉良好、紙向けなし。
△:一部着肉不良があり、紙剥けも僅かに確認される。
×:着肉悪く、紙剥けが目立つ。
【0098】
<膨潤性の評価方法>
製造した各インキに、硬度30の4.00cm(長さ)×1.00cm(幅)×0.200cm(厚さ)に切ったゴムロール(印刷輪転機で使用しているM社製ゴムロール)を浸漬させ、2週間後に取り出し、ギルソナイトワニスを取り除いた後、長さを測定し、ゴムの膨潤性を評価する。元の長さから変化を伸縮率(%)で表す。ゴムが収縮していると、印刷輪転機での印刷時にローラー間でのインキ転移不良や着肉不良の問題が発生する。また、ゴムが大きく膨潤してしまうと、印刷時に版磨耗が発生し、着肉不良の問題が発生する。印刷時の着肉を安定に保つためには、多少膨潤していた方が良い(伸縮率100%〜110%)。
(評価基準)
○:伸縮率が100%以上110%以下
△:伸縮率が110%より大きく120%以下、或いは90%以上、100%未満。
×:伸縮率が120%より大きいか、90%未満。
【0099】
<環境性の評価方法>
製造した各インキに使用している溶剤について、溶剤中の芳香族成分の比率を調べる。環境に配慮した「エコマーク」認定の印刷インキに関しては、インキに使用される溶剤として、芳香族成分が容積比1%未満となっている。これが日本国内では標準となっている。海外では芳香族成分が容積比3%未満の溶剤が環境に配慮したインキとして主体となっている。
(評価基準)
○:溶剤の芳香族成分が容積比1%未満
△:溶剤の芳香族成分が容積比1%以上3%未満
×:溶剤の芳香族成分が容積比3%以上
【0100】
<色相の評価方法>
製造した各インキについて、RIテスターを用い、インキ盛り0.1立方センチメートルのインキをコート紙に展色し、目視で色相を評価する。黒褐色のギルソナイト樹脂が透明度のインキに混ざっていくと、色相が黒くなって濁っているように見えてくるため、紙面品質を低下させてしまう。
(評価基準)
○:色相が黒くなく、濁りがない。
△:色相がやや黒くなり、濁っている。
×:色相が黒くなり、濁っている。
【0101】
<印刷適性の評価方法>
下記印刷条件の下、単色ベタと網点(1〜100%の10%きざみ)印刷及び通常の文字印刷を行なった。
【0102】
[印刷条件]
印刷機 :LITHOPIA BT2−800 NEO(三菱重工社製)
用 紙 :新聞用紙更紙:超軽量紙(43g/m2)(日本製紙社製)
(測色値:L*:83、a*:−0.25、b*:5.5)
湿し水 :NEWSKING ALKY(東洋インキ社製)0.5%水道水溶液
印刷速度:10万部/時
版 :CTP版(富士フィルム社製)
印刷部数:5万部
【0103】
[ミスチング性]
印刷機周辺に白紙を印刷前にセッティングし、5万部印刷後のインキミスト度合いを
目視評価する。
(評価基準)
○:白紙の一部分に微量のインキミストが飛散している。
△:白紙全面に薄くインキミストが飛散している。
×:白紙全面にベッタリとインキミストが飛散している。
【0104】
[着肉性]
5万部印刷時の紙面のベタ部、及び網点部の着肉性を目視評価する。
(評価基準)
○:着肉良好、紙向けなし。
△:一部着肉不良があり、紙剥けも僅かに確認される。
×:着肉悪く、紙剥けが目立つ。
【0105】
[パイリング性]
5万部印刷時の紙面のパイリング性を目視評価する。
(評価基準)
○:着肉良好、パイリングなし。
△:一部着肉不良があり、パイリングも僅かに確認される。
×:着肉悪く、パイリングが目立つ。
【0106】
表11の結果より、実施例に使用されるギルソナイトワニス1〜4は生産性(粒子径、濾過性)、ワニス安定性、ゴム膨潤性、環境性の全てにバランス良く、優れている。軟化点が210℃のギルソナイト樹脂Jを用いたギルソナイトワニス5は、ギルソナイトワニスの生産性やワニス安定性が悪い。また、ギルソナイトワニス生産時に、石油樹脂や脂肪酸エステルが未添加であるギルソナイトワニス6、7もワニス生産性やワニス安定性が非常に悪い。芳香族成分の多いギルソナイトワニス8は、生産性が若干良くなるが、環境的に好ましくない。
【0107】
表12、13の結果より、流動性、機上安定性、経時安定性、紙剥け性、ゴム膨潤性、環境性、色相、印刷適性(ミスチング性、着肉性、パイリング性)の全てにバランス良く、優れているのは実施例1〜48である。なお、実施例2と6を比較しても解るとおり、ギルソナイト樹脂の添加量が増加すると色相が悪化する傾向がある。従って平版印刷用インキにおいて、ギルソナイト樹脂を実施例以上に添加することは、意匠性の観点からは好ましくない。軟化点が210℃のギルソナイト樹脂Jを用いたインキ比較例1、5または9は、機上安定性、経時安定性が悪い。さらに、ギルソナイトワニス生産時に石油樹脂や脂肪酸エステルが未添加であるギルソナイトワニスを使用した比較例2〜4、6〜8または10〜12は、機上安定性、経時安定性、印刷適性が非常に悪い。
【0108】
本発明による平版印刷用インキは、従来よりも印刷機上での安定性、着肉性、経時安定性に優れ、非常に環境性に配慮しており、新聞、雑誌、チラシ等の印刷分野において有益な活用が図られる。