(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素または炭素前駆体でコーティングされた前記熱電変換材料のナノ粒子として、熱電変換材料粒子と、高分子有機物質を含む溶液とを混合する工程を経て調製された、前記高分子有機物質が表面に付着した前記熱電変換材料粒子を、還元性雰囲気または不活性雰囲気中で焼成することにより作製されたものを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバルク熱電変換素子材料の製造方法。
炭素または炭素前駆体でコーティングされた前記熱電変換材料のナノ粒子として、熱電変換材料粒子と、炭素または炭素前駆体とを混合する工程を経て調製された、表面に前記炭素または前記炭素前駆体が付着した前記熱電変換材料粒子を、還元性雰囲気あるいは不活性雰囲気中で焼成することにより作製されたものを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバルク熱電変換素子材料の製造方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材
料の製造方法に関し、詳しくは、例えば、酸化物熱電変換材料などを用いたバルク熱電変換素子材
料の製造方法に関する。
【0002】
近年、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換することが可能な熱電変換素子(熱電変換モジュール)が、有効な廃熱利用技術の一つとして着目されている。
【0003】
このような熱電変換素子に用いられる熱電変換材料として、以下に説明するような熱電変換材料が提案されている。
(1)特許文献1には、平均粒子径が1〜200nmであり、かつ密度が理論密度の90%以上であるチタン酸ストロンチウム焼結体(熱電変換材料)が提案されている。
また、このチタン酸ストロンチウム焼結体(熱電変換材料)の製造方法として、平均一次粒子径が1〜60nmのチタン酸ストロンチウム粉末を、20〜400MPの圧力下、700〜1000℃の焼結温度で0.5分〜24時間の焼結時間という条件下で放電プラズマ焼結法を用いて焼結させる方法が提案されている。
しかし、特許文献1の実施例に示された方法では、粒界抵抗が増加し、十分に熱電変換性能の高い熱電変換材料が得られないのが実情である。
【0004】
(2)また、特許文献2には、内側のコア部が絶縁材料で、外側のシェル部が熱電変換材料であるような構造を有する熱電変換材料が提案されている。
この熱電変換材料の場合、内側のコア部に絶縁材料を配置し、外側のシェル部に熱電変換材料を配置するようにしており、かかる特許文献2の熱電変換材料においては、粒界の熱伝導率を十分に低下させることができず、望まれているような熱電変換性能の高い熱電変換材料を得ることは困難である。
【0005】
(3)さらに、特許文献3には、カーボンナノチューブが分散した第1溶液と、金属塩が混合した第2溶液を混合した後、化学反応により生成された混合粉末を機械的に粉砕および混合し、熱処理して、カーボンナノチューブの一部が内部に挿入された形態を有する熱電変換材料が提案されている。
しかしながら、この熱電変換材料には高価なカーボンナノチューブが用いられており、熱電変換性能と経済性を両立させることは必ずしも容易ではないという問題点がある。
【0006】
(4)また、特許文献4には、断面積10mm
2以下、長さ10mm以上の劈開性を有する柱状の半導体結晶からなり、該半導体結晶におけるいずれの1mmの長さ範囲においても、劈開面が1方向または2方向であり、かつ、両端面を除く面におけるカーボン量および酸素量が、それぞれ内部よりも表面部で多くなるようにした熱電変換素子用焼結体が提案されている。
しかしながら、特許文献4では、カーボンが熱電素子の強度向上を主たる目的として用いられており、バルク熱電変換素子材料として適用した場合において、必ずしも熱電変換性能が十分に高い熱電変換材料を得ることができないのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、熱電変換性能の高いバルク熱電変換素子材
料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に熱電変換材料の熱電変換性能を示す性能指数Zは、下記の式(1):
Z=σS
2/κ(σ:導電率、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導率)……(1)
により表される。
【0010】
そして、この特性を向上させようとするとき、一般に3つの物理量、σ:導電率、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導率のうち、σ:導電率およびS:ゼーベック係数の少なくとも一方の値を大きくするか、κ:熱伝導率の値を小さくすることが必要になる。しかし、Z(性能指数)の値が大きくなるように、上記の3つの物理量を調整することは困難で、例えば、導電率σの値を増大させようとすると熱伝導率κも増大してしまい、また、その逆に、熱伝導率κの値を低下させようとすると導電率σの値も低下してしまうという関係にある。
【0011】
この相関を打破するひとつの方法として、熱電変換材料粒子の大きさをnmオーダーにまで小さくすることにより得られるナノサイズ効果を利用し、熱電変換素子を構成する熱電変換材料粒子の粒子径(グレインサイズ)を、フォノンの平均自由行程以上、電子の平均自由行程以下とし、フォノン散乱により熱抵抗を増加させる(すなわち、熱伝導率を低下させる)一方で、導電性を維持することにより、熱電特性(熱電変換性能)を向上させる方法がある。
そして、熱電変換材料の特性向上に関する提案を行っている特許文献1〜3の発明も、この方法と同様の原理で、熱電変換材料の特性向上を図ろうとするものである。
【0012】
しかしながら、熱電変換素子を構成する熱電変換材料粒子の粒子径(グレインサイズ)を微細化すると、粒界での抵抗値が増加して必要な導電性が得られなくなるという、熱電変換材料の基本的な性能に関わる問題がある。
本発明は、このような知見に基づき、さらに種々の実験、検討を行ってなされたものである。
【0013】
本発明のバルク熱電変換素子材料の製造方法は、
焼結した熱電変換材料からなるバルク熱電変換素子材料であって、
バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料粒子の平均粒子径が100nm以下であり、かつ、
前記熱電変換材料粒子の粒界には、黒鉛、アモルファスカーボン、および還元された前記熱電変換材料粒子成分の少なくとも1種が存在している
バルク熱電変換素子材料の製造方法である。
【0014】
また、本発明の他の
バルク熱電変換素子材料の製造方法は、
焼結した熱電変換材料からなるバルク熱電変換素子材料であって、
バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料粒子の平均粒子径が100nm以下であり、かつ、
前記熱電変換材料粒子の粒界には酸素欠陥が存在している
バルク熱電変換素子材料の製造方法である。
【0015】
本発明のバルク熱電変換素子材料の製造方法は、
上
記バルク熱電変換素子材料を製造する方法であって、
炭素または炭素前駆体でコーティングされ、焼結後の平均粒子径が100nm以下となるような熱電変換材料のナノ粒子を主成分とする未焼結材料を所定形状に保持し、還元性雰囲気または不活性雰囲気中で焼結させる工程を具備すること
を特徴としている。
【0016】
バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料が、酸化物からなる熱電変換材料であることが好ましい。
【0017】
バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料が、酸化物材料などの酸化物からなる熱電変換材料である場合、より特性の良好なバルク熱電変換素子材料を提供することが可能になる。具体的には、例えば、SrTiO
3系酸化物材料からなるn型熱電変換材料であるような場合に特に有意義である。
【0018】
また、本発明のバルク熱電変換素子材料の製造方法においては、炭素または炭素前駆体でコーティングされた前記熱電変換材料のナノ粒子として、熱電変換材料粒子と、高分子有機物質を含む溶液とを混合する工程を経て調製された、前記高分子有機物質が表面に付着した前記熱電変換材料粒子を、還元性雰囲気または不活性雰囲気中で焼成することにより作製されたものを用いることが可能である。
【0019】
熱電変換材料のナノ粒子として、上記のようにして作製されたナノ粒子を用いることにより、上述
のバルク熱電変換素子材料を効率よく製造することが可能になる。
【0020】
また、本発明のバルク熱電変換素子材料の製造方法においては、炭素または炭素前駆体でコーティングされた前記熱電変換材料のナノ粒子として、熱電変換材料粒子と、炭素または炭素前駆体とを混合する工程を経て調製された、表面に前記炭素または前記炭素前駆体が付着した前記熱電変換材料粒子を、還元性雰囲気または不活性雰囲気中で焼成することにより作製されたものを用いることも可能である。
【0021】
また、熱電変換材料のナノ粒子として、上記のようにして作製されたナノ粒子を用いた場合にも、上述
のバルク熱電変換素子材料を効率よく製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のバルク熱電変換素子材料の製造方法は、炭素または炭素前駆体でコーティングされ、焼結後の平均粒子径が100nm以下となるような熱電変換材料のナノ粒子を主成分とする未焼結材料を所定形状に保持し、還元性雰囲気あるいは不活性雰囲気中で焼結させるようにしているので、上記構成を備え
たバルク熱電変換素子材料を効率よく製造することが可能になる。
【0023】
本発明の
バルク熱電変換素子材料の製造方法によって製造されるバルク熱電変換素子材料は、バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料粒子の平均粒子径(グレインサイズ)が100nm以下で、熱電変換材料粒子の粒界には、黒鉛、アモルファスカーボン、および還元された前記熱電変換材料粒子成分の少なくとも1種が存在するように構成されており、熱電変換材料粒子の平均粒子径が100nm以下と小さく、かつ、粒界に黒鉛、アモルファスカーボン、および還元された熱電変換材料粒子成分が存在している。これらが存在することで、1500℃の高温で焼成してもバルク化の最中に原料ナノ粒子同士の粒成長が抑制される。これにより、平均粒子径が微細であること(グレインサイズが小さいこと)によるフォノン散乱の効果と考えられる低熱伝導率化を実現することが可能になり、かつ、粒界に存在する炭素成分が、バルク化の最終段階で燃焼して還元剤として寄与するとともに、粒界に薄い層として残存して粒界抵抗の低減(導電性の維持、向上)に寄与するため、高い熱電変性能を備えたバルク熱電変換素子材料を得ることが可能になる。
【0024】
熱電変換材料の熱電変換性能を示す性能指数Zは、下記の式(1):
Z=σS
2/κ(σ:導電率、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導率)……(1)
により表される。
上述のように、本発明によれば、導電率σを向上させる一方で、熱伝導率κを低下させることが可能になるため、熱電変換性能を示す性能指数Zが大きく、特性の良好なバルク熱電変換素子材料を得ることが可能になる。
【0025】
なお、本願請求項1
で定義されているバルク熱電変換素子材料のように、焼結体であ
るバルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料粒子の粒界に、黒鉛、アモルファスカーボン、および還元された前記熱電変換材料粒子成分の少なくとも1種が存在しているということは、焼結の工程で、黒鉛、アモルファスカーボンとなるような、有機物質、炭素あるいは炭素前駆体などが存在していたということであり、焼結の工程で、それらが還元剤として機能するため、粒界には、酸素欠陥が生じやすく、導電率σの向上に寄与することになる。
【0026】
また、本願請求項2
で定義されているバルク熱電変換素子材料のように、熱電変換材料粒子の粒界に酸素欠陥が存在している場合、例えば、焼結の工程の途中までは存在していた、黒鉛、アモルファスカーボンなどの物質が、焼結の工程で還元剤として機能した後、消失してしまっていても、酸素欠陥が存在していれば、その分だけ粒界の導電率ρが高くなることから、特性の良好なバルク熱電変換素子材料を得ることが可能になる。
なお、粒界に酸素欠陥が存在している場合、粒界には、還元された熱電変換材料粒子成分が存在することになる。
【0027】
なお、「熱電変換材料のナノ粒子を主成分とする未焼結材料を所定形状に保持し」とは、上記未焼結材料をシート化し、積層して、意図するような形状、構造、寸法を有する積層体としたり、粉粒状の未焼結材料を容器に収容して、容器の内部形状により規定される所定の形状に保持したりすることを意味するものであり、焼結後において、そのような形状を有する焼結体であるバルク熱電変換素子材料が得られるようにすることをいう。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0030】
[実施形態1]
水熱法によって合成された、Srの一部がLaにより置換されたSrTiO
3(以下、La置換SrTiO
3)(平均粒子径20nm)を用意した。
そして、このLa置換SrTiO
3を水に分散させたスラリーに、高分子有機物質としてスクロース(水溶性高分子)を、表1に示すような割合で添加した後、乾燥して、表面がスクロースによりコートされた微粒La置換SrTiO
3を得た。
【0031】
それから、この微粒La置換SrTiO
3を、強還元雰囲気(PO
2:10
-12〜10
-15MPa)中、表1に示す温度条件下で焼成し、スクロースを炭化させることにより、表面が炭素でコーティングされた微粒La置換SrTiO
3を得た。なお、上述の微粒La置換SrTiO
3をコートする炭素には、一部炭素前駆体が含まれている場合もありうるが、ここでは、表面が炭素でコーティングされた微粒La置換SrTiO
3という。
【0032】
その後、表面が炭素でコーティングされた微粒La置換SrTiO
3を、所定形状(例えば有底、円筒状の形状)を有する焼結用の容器に収容して、該容器の内部形状により規定される形状に保持し、その状態のまま、放電プラズマ焼結法(SPS)によって、不活性雰囲気中、1500℃、3分間の条件で焼結させ、バルク化することにより、焼結体であるバルク熱電変換素子材料を得た。
それから、得られたバルク(バルク熱電変換素子材料)の、密度、バルク熱電変換素子材料を構成するバルク熱電変換素子材料のグレインサイズ(平均粒子径)、室温における熱伝導率κ、導電率σなどの特性を調べた。その結果を表1に示す。
【0034】
なお、表1における「La置換量」(mol%)は、置換されたLaの量(mol量)の、置換される前のSrTiO
3中のSrの量(mol量)に対する割合を示す値であり、下記の式で求められる値である。
La置換量(mol%)=(Srと置換されたLaのmol量/置換前のSrTiO
3に含まれるSrのmol量}×100)
【0035】
また、表1における「スクロース量」(wt%)は、下記の式で求められる値である。
スクロース量(wt%)=(スクロース量/La置換SrTiO
3量)×100
【0036】
また、表1における「原料焼成温度」は、表面がスクロースによりコートされた微粒La置換SrTiO
3を強還元雰囲気中で焼成したときの温度である。
【0037】
また、表1における「原料粒径」は、表面がスクロースによりコートされた微粒La置換SrTiO
3を焼成してスクロースを炭化させた後の段階(すなわち、放電プラズマ焼結法による焼結を行う前の段階)の、表面が炭素によりコーティングされた微粒La置換SrTiO
3の平均粒子径である。
なお、この原料粒径(平均粒子径)はバルク断面の顕微鏡写真から測長する方法で求めた値である。
【0038】
また、表1における「密度」は、上述のようにして作製したバルク熱電変換素子材料について測定した密度の、理論値に対する比率であり、下記の式で求められる値である。
密度(%)=(密度の測定値/密度の理論値)×100
【0039】
また、表1における「グレインサイズ(平均粒子径)」は、上述の焼結の工程を経て作製したバルク熱電変換素子材料について測定した熱電変換材料粒子の平均粒子径(グレインサイズ)のことである。
なお、このグレインサイズ(平均粒子径)は、バルク断面の顕微鏡写真から測長する方法で求めた値である。
【0040】
また、表1における「熱伝導率κ」は、上述の焼結の工程を経て作製したバルク熱電変換素子材料について測定した室温における熱伝導率の値である。
なお、室温における熱伝導率は、レーザーフラッシュ法で求めた値である。
【0041】
また、表1における「導電率σ」は、上述の焼結の工程を経て作製したバルク熱電変換素子材料について測定した室温における導電率の値である。
なお、室温における導電率は、四端子法で求めた値である。
【0042】
また、表1の試料番号4の試料(バルク熱電変換素子材料)の断面の顕微鏡写真を
図1に示す。
また、表面がスクロースによりコートされた微粒La置換SrTiO
3を焼成してスクロースを炭化させた後の段階(すなわち、放電プラズマ焼結法による焼結を行う前の段階)の、表面が炭素によりコーティングされた微粒La置換SrTiO
3の断面の顕微鏡写真を
図2に示す。
【0043】
図1より、表1の試料番号4の試料(バルク熱電変換素子材料)においては、放電プラズマ焼結法によって焼結させてバルク化した後の、バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料粒子1が微粒であることがわかる。
【0044】
また、
図2より、表1の試料番号4の試料(バルク熱電変換素子材料)の製造 に用いた原料粒子(放電プラズマ焼結法によって焼結させる前の熱電変換材料粒子(La置換SrTiO
3粒子))11の表面が、炭素粒子12によりコーティングされていることがわかる
【0045】
表1の試料番号1〜6の試料は、本発明の要件を満たす試料であり、特性がそれほど良好ではないものも含まれるが、バルク熱電変換素子材料として使用することが可能な範囲のものである。
【0046】
表1の試料番号1〜6の試料のうち、La置換量が0mol%、スクロース置換量が10wt%の試料番号1の試料およびLa置換量が0.8mol%の試料番号2の試料は、導電率σがやや低い傾向が認められた。
【0047】
また、La置換量が30mol%と多く、スクロース置換量が10wt%の試料番号6の試料は、熱伝導率κが少し大きい傾向が認められた。
【0048】
また、スクロース量が20wt%と多く、微粒La置換SrTiO
3を、強還元雰囲気(PO
2:10
-12〜10
-15MPa)中で焼成する際の温度(原料焼成温度)が800℃と低い試料番号5の試料は、原料粒径およびグレインサイズが小さく、熱伝導率κも十分に低いが、導電率σがやや低い傾向が認められた。
【0049】
また、スクロース量が10wt%で、微粒La置換SrTiO
3を焼成する際の温度(原料焼成温度)が800℃と低い試料番号3の試料は、熱伝導率κは十分に低いものの、導電率σがやや低い傾向が認められた。
【0050】
さらに、La置換量が3.5mol%、スクロース量が10mol%、原料焼成温度が1000℃、原料粒径が40nm、密度97%、グレインサイズ100nmの試料番号4の試料は、熱伝導率κが低く、かつ、導電率σが高くて、最も好ましい特性を備えていることが確認された。
【0051】
[実施形態2]
上記実施形態1では高分子有機物質(水溶性高分子)としてスクロースを用いたが、この実施形態2では、高分子有機物質(水溶性高分子)としてビスフェノールSを用いた。
そして、実施形態2では、水熱法によって合成された、Srの一部がLaにより置換(例えばLa置換量:3.5mol%)されたSrTiO
3(以下、La置換SrTiO
3)(平均粒子径20nm)を水に分散させたスラリー(実施形態1の場合と同じスラリー)に、ビスフェノールSを10wt%の割合で添加した後、乾燥して、表面がビスフェノールSによりコートされた微粒La置換SrTiO
3を得た。
【0052】
それから、この微粒La置換SrTiO
3を強還元雰囲気(PO
2:10
-12〜10
-15MPa)中において、1000℃で焼成し、ビスフェノールSを炭化させることにより、表面が炭素でコーティングされた粒径が20nmのLa置換SrTiO
3を得た。
【0053】
次に、表面が炭素でコーティングされた微粒La置換SrTiO
3を所定形状を有する焼結用の容器に収容して、該容器の内部形状により規定される形状に保持し、その状態のまま、放電プラズマ焼結法(SPS)によって、不活性雰囲気中、1500℃、3分間の条件で焼結させ、バルク化することにより、バルク熱電変換素子材料を得た。
それから、得られたバルク(バルク熱電変換素子材料)の密度、バルク熱電変換素子材料を構成するバルク熱電変換素子材料のグレインサイズ(平均粒子径)、室温における熱伝導率κ、導電率σなどの特性を調べた。その結果を表2に示す。
なお、表2には、表面がビスフェノールSによりコートされた微粒La置換SrTiO
3を焼成してビスフェノールSを炭化させた後の段階の、表面が炭素によりコーティングされた微粒La置換SrTiO
3の平均粒子径である「原料粒径」も併せて示している。
【0055】
表2に示すように、この実施形態2のバルク熱電変換素子材料の密度は86%、グレインサイズ(平均粒子径)は50nmであり、室温における熱伝導率κは3.0W/mK、導電率σは320S/cmであった。
この結果から、高分子有機物(水溶性高分子)としてスクロースの代わりにビスフェノールSを用いた場合にも、バルク熱電変換素子材料として使用することが可能な熱電変換材料が得られることが確認された。
【0056】
[実施形態3]
上記実施形態1では、表面が炭素または炭素前駆体によりコーティングされた熱電変換材料のナノ粒子を得るための高分子有機物質としてスクロースを用い、上記実施形態2ではビスフェノールSを用いたが、この実施形態3では、炭素粉末を熱電変換材料のナノ粒子の表面に付着させるようにした。
【0057】
すなわち、この実施形態3では、実施形態1および2で用いた、水熱法によって合成された、Srの一部がLaにより置換(例えばLa置換量:3.5mol%)されたSrTiO
3(以下、La置換SrTiO
3)(平均粒子径20nm)粉末と、炭素粉末とを水系ボールミルで混合し、乾燥することにより、La置換SrTiO
3の表面に炭素粉末を付着させた。
【0058】
それから、表面に炭素粉末が付着したLa置換SrTiO
3を強還元雰囲気(PO
2:10
-12〜10
-15MPa)中において、1000℃で焼成することにより、表面が炭素でコーティングされた平均粒子径が60nmの微粒La置換SrTiO
3を得た。
【0059】
次に、表面が炭素でコーティングされた微粒La置換SrTiO
3を所定形状を有する焼結用の容器に収容して、該容器の内部形状により規定される形状に保持し、その状態のまま、放電プラズマ焼結法(SPS)によって、不活性雰囲気中、1500℃、3分間の条件で焼結させ、バルク化することにより、バルク熱電変換素子材料を得た。
それから、得られたバルク(バルク熱電変換素子材料)の密度、バルク熱電変換素子材料を構成するバルク熱電変換素子材料のグレインサイズ(平均粒子径)、室温における熱伝導率κ、導電率σなどの特性を調べた。その結果を表3に示す。
なお、表3には、表面が炭素粉末によりコートされた微粒La置換SrTiO
3を焼成した後の段階の、微粒La置換SrTiO
3の平均粒子径である「原料粒径」も併せて示している。
【0061】
表3に示すように、この実施形態3のバルク熱電変換素子材料の密度は80%、グレインサイズ(平均粒子径)は100nmであり、室温における熱伝導率κは2.9W/mK、導電率σは379S/cmであった。
この結果から、微粒La置換SrTiO
3の表面に、高分子有機物質ではなく、炭素粉末を付着させた後、強還元雰囲気中で焼成することにより、表面が炭素でコーティングされた微粒La置換SrTiO
3を作製し、これを放電プラズマ焼結法によって焼結させるようにした場合にも、バルク熱電変換素子材料として使用することが可能な熱電変換材料が得られることが確認された。
【0062】
[比較例1]
実施形態1の試料番号3および5で用いた、La置換量が3.5mol%のLa置換SrTiO
3と同じ熱電変換材料粉末を、スクロースや炭素などを添加せず、粒成長が抑制されるように低めの温度である800℃で焼成し、表面が高分子有機物質や炭素などでコーティングされていない平均粒子径が20nmの微粒La置換SrTiO
3を得た。
【0063】
それから、焼成後に得られた、炭素または炭素前駆体でコートされていない状態の微粒La置換SrTiO
3を、放電プラズマ焼結法(SPS)によって、不活性雰囲気中、1500℃、3分間の条件で焼結させ、バルク化することにより、バルク熱電変換素子材料を得た。
【0064】
そして、得られたバルク(バルク熱電変換素子材料)の、密度、バルク熱電変換素子材料を構成するバルク熱電変換素子材料のグレインサイズ(平均粒子径)、室温における熱伝導率κ、導電率σなどの特性を調べた。その結果を表4に示す。
また、比較例1のバルク熱電変換素子材料の断面の顕微鏡写真を
図3に示す。
さらに、比較例1の試料と実施形態1の試料番号4の試料の特性を
図4に併せて示す。
なお、
図4は、実施形態1の試料番号4の試料と比較例1の試料についての、温度と無次元性能指数ZTの関係および温度と熱伝導率κの関係を示している。
【0066】
表4に示すように、炭素または炭素前駆体でコートされていない微粒La置換SrTiO
3を、放電プラズマ焼結法(SPS)によって焼結させたバルク熱電変換素子材料の場合、グレインサイズ(平均粒子径)が、1000nm以上と大きく、導電率σは大きいものの、熱伝導率κの値が大きくて、好ましくないことが確認された。
【0067】
なお、
図3より、比較例1のバルク熱電変換素子材料においては、放電プラズマ焼結法(SPS)によって焼結させた後の、バルク熱電変換素子材料を構成する熱電変換材料粒子1が成長して、粒子径が大きくなっていることがわかる。
【0068】
また、
図4に示すように、実施形態1の試料番号4の試料は、各温度における熱伝導率κの値が、比較例1の試料に比べて小さく、また、無次元性能指数ZTが、比較例1の試料に比べて大きくなっており、熱電変換特性が向上していることがわかる。
【0069】
[比較例2]
実施形態1の試料番号3および5で用いた、La置換量が3.5mol%のLa置換SrTiO
3と同じ熱電変換材料粉末を、スクロースや炭素などを添加せず、800℃で焼成し、表面が高分子有機物質や炭素などでコーティングされていない平均粒子径が20nmの微粒La置換SrTiO
3を得た。
【0070】
それから、焼成後に得られた、炭素または炭素前駆体でコートされていない状態の微粒La置換SrTiO
3を、放電プラズマ焼結法(SPS)によって、不活性雰囲気中、1200℃、60分間の条件で焼結させ、バルク化することにより、バルク熱電変換素子材料を得た。なお、この焼結の際の温度条件:1200℃は、上記の比較例1の焼結の際の温度条件:1500℃よりも低い温度である。これは、焼結の工程における粒成長を抑制することを意図したものである。
【0071】
そして、得られたバルク(バルク熱電変換素子材料)の、密度、バルク熱電変換素子材料を構成するバルク熱電変換素子材料のグレインサイズ(平均粒子径)、室温における熱伝導率κ、導電率σなどの特性を調べた。その結果を表5に示す。
【0073】
表5に示すように、炭素または炭素前駆体でコートされていない微粒La置換SrTiO
3を、比較例1の場合よりも低い温度で、放電プラズマ焼結法(SPS)によって焼結させたバルク熱電変換素子材料の場合、グレインサイズ(平均粒子径)は100nmとなり、熱伝導率κの値も比較例1の場合よりも小さくなったが、導電率σが著しく小さくなり、好ましくないことが確認された。
【0074】
上記実施形態1〜3および比較例1,2の結果から、以下のことがわかる。
まず、実施形態1の試料番号4の、炭素コーティングされた原料を用いたバルク熱電変換素子材料と、比較例1に示した炭素コーティングされていない通常の原料を用いたバルク熱電変換素子材料を比較すると、原料はどちらも粒径20nmの微粒SrTiO
3であるのに対し、同一条件で放電プラズマ焼結することにより得られるバルク熱電変換素子材料は、
図1および
図3から明らかなように、炭素コーティングされた原料を用いた本発明の実施形態にかかるバルク熱電変換素子材料ではグレインサイズ100nm以下であるのに対し、炭素コーティングされていない通常の原料を用いた比較例1のバルク熱電変換素子材料ではグレインサイズが1000nm以上となり、熱伝導率κの値も大きくなっている。
【0075】
この比較から、本発明の実施形態にかかるバルク熱電変換素子材料の場合、炭素層によって粒成長が抑えられ、結果としてナノ構造によると考えられる熱伝導率低減の効果が得られることがわかる。
なお、この効果は、表1のさらに他の試料、すなわち、本発明の実施形態にかかる他のバルク熱電変換素子材料においても得られる効果である。
【0076】
また、上述のようなナノ構造を実現する方法としては、たとえば比較例2のように低温で長時間の熱処理を行うことにより、焼結の工程における粒成長を抑制することが考えられるが、比較例2の結果(表5)に示されているように、この方法では、粒成長を抑制することはできても、粒界抵抗が増加し、導電率σが低下するため好ましくないことが確認された。
【0077】
また、上記実施形態1〜3の試料と比較例1および2の試料とを比較すると、では、原料の炭素コーティングの有無による差は必ずしも大きくないものもあるが、メカニズムから期待できる効果はさらに大きいものと考えられ、コーティングされる粒子や炭素前駆体の添加量や添加方法、焼成条件、焼結条件などをさらに詳細に検討することにより、さらなる効果の向上を見込むことが可能であると考えられる。
【0078】
また、炭素または炭素前駆体でコーティングされた熱電変換材料のナノ粒子を得る方法は、スクロースやビスフェノールSのような高分子有機物質を含む溶液と熱電変換材料粒子とを混合する方法(上記実施形態1および2)や、炭素粉末と熱電変換材料粒子とを混合し、還元性雰囲気中で焼成する方法(上記実施形態3)以外にも多くの一般的な方法があり、その場合にも同様の効果を期待することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、熱電変換材料として、La添加SrTiO
3を用いて炭素コーティングによる熱電特性の向上効果を検討したが、同様のメカニズムで、他の酸化物熱電変換材料に応用することが可能であり、さらには、Bi−Te系材料、他の金属材料などにも応用することが可能である。
【0080】
また、上記実施形態では、放電プラズマ焼結法(SPS)によって焼結を行ったが、無加圧焼成など、他の焼結法によって焼結させた場合にも同様の効果を期待することができる。
【0081】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、バルク熱電変換素子材料の組成、バルク熱電変換素子材料を製造する際の具体的な条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。