【実施例1】
【0020】
[トレーニング装置]
図1は、トレーニング装置を人の腕に装着した状態の全体図である。
【0021】
図1のように、トレーニング装置1は、抵抗トルク発生装置としての軸可動型EAMブレーキデバイス3(以下、「デバイス3」と称する。)が取り付けられたベース5と、レバー7とを備えている。
【0022】
レバー7の一端は、デバイス3のケース9から突出する軸11に結合され、他端側に握り部13が設けられている。
【0023】
前記ベース5には、他にショルダー・サポーター15と変圧出力可能な電源17とが備えられている。電源17は、デバイス3の後述する固定電極及び可動電極に結線され後述する機能性体に電圧印加を行うものであり、電圧印化に応じてデバイス3のケース9側に対し機能性体が軸11の回転に抵抗トルクを付与する。
【0024】
したがって、
図1のようにショルダー・サポーター15を肩部に装着し、上肢の筋力トレーニングを行わせることができる。
【0025】
具体的には、ベース5を上腕側に取り付けてデバイス3を肘部に配置し、レバー7を前腕に沿って延設配置する。この状態で握り部13を握ってレバー7を介し軸11を回転操作する。この回転操作に対し、電圧印加に応じてデバイス3が軸11に抵抗トルクを付与する。抵抗トルクは、電圧印加に応じて可変となる。この抵抗トルクによる負荷でレバー7の操作による筋力トレーニングを行わせることができる。
【0026】
このとき、デバイス3の軸11が、後述のように軸交差方向への移動が可能に支持されているため、肘の軸が肘の曲げ動作と共に変化してもデバイス3の軸も同様に変化し、軸11に適正な抵抗トルクを付与しつつ、肘に余計な負荷が作用する問題を改善することができる。
【0027】
なお、本発明の要旨は、デバイス3の軸11が適正な抵抗トルクを受けながら軸交差方向へ移動し得ることであり、デバイス3としては、発生する抵抗トルクが一定の場合にも適用することができる。また、デバイス3も、後述するEAMを用いたものに限らず、多板クラッチ、磁性流体を用いたクラッチなど、種々適用することができる。
[EAMブレーキデバイス]
図2〜
図4は、EAMブレーキデバイスに係り、
図2は、EAMブレーキデバイスの平面図、
図3は、
図2のIII−III線矢視断面図、
図4は、
図3のIV部拡大断面図、
図5は、軸と抵抗トルク発生部との関係の概念的な斜視図、
図6は、軸を含めた可動側の分解斜視図、
図7は、軸を含めた可動側の動きを示す斜視図である。
【0028】
図2、
図3のように、デバイス3は、前記ケース9及び軸11の他に、抵抗トルク発生部19を備えている。
【0029】
ケース9は、外形が平面から見て正方形に形成され、軸11に交差する方向の断面内周形状も矩形となっている。但し、ケース9の形状は特に限定されるものではなく、後述の固定電極が簡易に回り止めできるものであれば、その他の多角形、或いは円形等に形成することもできる。
【0030】
ケース9の一対の対向壁21、23は、側壁25a、25b、25c、25dで結合され、一対の対向壁21、23の一方21に軸11を貫通させる円形の開口27を備えている。対向壁21の内面には、開口27に対し段付状に形成されたスプリング座29が形成されている。一対の対向壁21、23の他方23には、軸支持用の円形の凹部30が形成されている。
【0031】
側壁25bの内面中央部には、導電性のゴム電極31が取り付けられている。側壁25bには、ゴム電極31に配線するための貫通部33が対向壁21に対して形成されている。ゴム電極31は、貫通部33を介した配線により電源17(
図1)に接続されている。
【0032】
軸11は、直径が開口27よりも小径に形成されて開口27に遊嵌している。この遊嵌により、開口27内で軸11は軸交差方向への移動が可能となっている。
【0033】
軸11には、ケース3外で二面幅部11a、11bが形成されている。二面幅部11aには、結合孔34が形成され、この結合孔34にレバー7の一端が結合される。二面幅部11b下端部には、後述する可動電極が回り止め結合される。
【0034】
軸11は、ケース3内でスラスト軸受35を備え、電源17に接続される。スラスト軸受35は、一対の対向壁21、23の他方23に突き当り軸支される。この突き当たりは、凹部30内で行われる。従って、凹部30によりスラスト軸受35の移動範囲を規制する。スラスト軸受35の凹部30内での突き当りは、付勢部材であるコイル・スプリング37により付勢されている。
【0035】
具体的には、コイル・スプリング37の一端が対向壁21のスプリング座29に受けられ、同他端が抵抗トルク発生部19の固定電極39に当接している。固定電極39の若干の撓みにより軸11側へ付勢力が伝達される。
【0036】
図2〜
図7のように、抵抗トルク発生部19は、固定電極39と可動電極41と機能性体43とを備えている。
【0037】
固定電極39は、一対の対向壁21、23間の中間部に配置されケース9に回り止めされている。固定電極39は、ケース9に嵌合して回り止めが行われる矩形板状に形成されている。本実施例において、固定電極39は正方形の板状に形成され、ケース9の内周に嵌合するようにして回り止めされている。固定電極39は、縁部においてゴム電極31に当接して接続されている。
【0038】
固定電極39の中央部には、円形の貫通孔39aが形成されている。貫通孔39aは、対向壁21の開口27と同径に形成され、貫通孔39aの縁部上でコイル・スプリング37の他端を受けている。
【0039】
可動電極41は、円板状に形成され、一対の対向壁21、23間で軸11に結合されている。可動電極41は、固定電極39に対向配置されて相対回転可能となっている。可動電極41の中心部には、二面幅の嵌合孔41aが形成されている。可動電極41は、スラスト軸受35の背面で受けられながら嵌合孔41aが軸11の二面幅部11bの部分に回り止め嵌合している。
【0040】
機能生体43は、電気絶縁性の粘着性媒体、例えばシリコーン・ゴムに、分極しやすい微粒子である電気レオロジー粒子45(以下「ER粒子45」と称する。)を混ぜ合わせ、分散させたものである。この機能生体43は、EAM(Electro Attractive Material:電気的吸引材料)と称され、印加する電圧を調節するだけで抵抗トルクを容易に変えることができる。
【0041】
すなわち、この機能生体43は、固定電極39及び可動電極41間に介設されて固定電極39及び可動電極41間への電圧印加により固定電極39及び可動電極41間に抵抗トルクを発生させるものである。
【0042】
スラスト軸受35を備えた軸11、可動電極41、及び機能生体43は、固定電極39に対して一体的に動作する可動側47(
図5の実線で囲まれた部分。)となる。
【0043】
この場合、固定電極39又は可動電極41に対向する伝達面の少なくとも一方、本実施例では固定電極39に対向する伝達面に
図8(A)のように突出分布したER粒子45を、固定電極39又は可動電極41間への電圧印加により
図8(B)のように粘着性媒体の内部に埋没させることで固定電極39及び可動電極41間に抵抗トルクを発生させることができる。固定電極39又は可動電極41間への印加電圧を調節することで伝達面に対するER粒子45の突出を調節することができ、電圧印加に応じた抵抗トルクを発生させることができる。
[軸移動]
前記のように、握り部13を握ってレバー7を介し軸11を回転操作すると、機能生体43が電圧印加に応じて固定電極39及び可動電極41間に抵抗トルクを発生させ、この抵抗トルクによる負荷でレバー7の操作による筋力トレーニングを行わせることができる。
【0044】
このとき、肘の軸が肘の曲げ動作と共に変化すると、レバー7に結合されている軸11が適正な抵抗トルクを受けながら開口27内で軸交差方向へ移動するから、肘に余計な負荷が作用する問題を改善することができる。
【0045】
しかも、軸11の軸交差方向への動きに対し、スラスト軸受35が凹部30内でコイル・スプリング37の付勢力を受けながら転動することができ、軸11の倒れを抑制しつつ平行移動を行わせることができる。
[性能評価]
図9は、性能評価の説明図、
図10は、性能測定結果のグラフである。
図9において、上段に測定概念の平面概略図を示し、下段に軸と開口との位置関係を示し、下段左から奥、中心、手前への移動とする。
【0046】
軸11を中心位置からずらした際、可動範囲においてデバイス3の軸11がどの位置に移動しても同一の抵抗トルクを発揮するかの検討を行った。この検討は、軸11を移動した位置での抵抗トルクの測定を行った。
【0047】
測定は、軸11の先端にφ50mmのプーリー49を取り付け、プーリー49に巻き付けたワイヤー51の先をロードセルに固定したフックに取り付け、リニアステージで引張ることで行った。
【0048】
測定位置は、
図9のように、装置の奥、中心、手前の3箇所とし、この位置において軸11の位置を固定して測定した。
【0049】
印加電圧は、0〜20kVまで0.5kV刻みとし、各5回測定を行った。また、リニアステージの引張り速度は0.1mm/s、引張り量は30mmとした。
【0050】
測定結果は、
図10のように得られた。電圧20kV印加時の抵抗トルクは、中心が1.7Nm、手前に移動したとき1.5Nm、奥に移動したとき1.7Nmであった。
【0051】
この結果、可動側47がどの位置に移動しても印加電圧の増加に伴い、抵抗トルクが適正に増加することが分かった。
【0052】
この測定結果から、軸11の位置に関わらず抵抗トルクはほぼ同一であり、トレーニング装置1により肘の軸と装置の軸11との位置関係を考慮せずにトレーニングを円滑に行わせることができることが分かった。
[実施例の効果]
本発明実施例のデバイス3は、一対の対向壁21、23が側壁25a、25b、25c、25dで結合され一対の対向壁21、23の一方21に軸11を貫通させる円形の開口27を備えたケース9と、開口27に遊嵌しケース9内からケース9外へ突出しケース9に対し開口27内で軸交差方向への移動が可能に支持された軸11と、ケース9及び軸11間に設けられケース9側に対し軸11の回転に軸交差方向への移動を許容しながら抵抗トルクを付与する抵抗トルク発生部19とを備えた。
【0053】
このため、軸11が適正な抵抗トルクを受けながら開口27内で軸交差方向へ移動するから、余計な負荷を抑制しつつ抵抗トルクを発生させることができる。
【0054】
軸11は、一対の対向壁21、23の他方23に突き当り軸支されるスラスト軸受35を備え、ケース9に対しスラスト軸受35の突き当りを付勢するコイル・スプリング37を備えた。
【0055】
このため、軸11の軸交差方向への動きに対し、スラスト軸受35が凹部30内でコイル・スプリング37の付勢力を受けながら転動することができ、軸11の倒れを抑制しつつ軸11に平行移動を行わせることができる。
【0056】
したがって、軸移動に係わらず適正な抵抗トルクを確実に発生させることができる。
【0057】
抵抗トルク発生部1は、一対の対向壁21、23間に配置されケース9に回り止めされた固定電極39と、一対の対向壁21、23間で軸11に結合され固定電極39に対向配置されて相対回転可能な可動電極41と、固定電極39及び可動電極41間に介設されて固定電極39及び可動電極41間への電圧印加により固定電極39及び可動電極41間に抵抗トルクを発生させる機能性体43とを備え、機能性体43は、電気絶縁性の粘着性媒体にER粒子45が分散されたものであって、固定電極39に対向する伝達面に突出分布したER粒子45を電圧印加により粘着性媒体の内部に埋没させる。
【0058】
このため、簡単な構造で電圧印加に応じて固定電極39及び可動電極41間に抵抗トルクを発生させ、その抵抗トルクを変化させることができる。
【0059】
ケース9は、軸11に交差する方向の断面が矩形であり、固定電極39は、ケース9に嵌合して回り止めが行われる矩形板状に形成され、可動電極41及び機能性体43は、固定電極39に沿って相対移動が可能な円板状に形成された。
【0060】
このため、固定電極39の回り止めと、軸11側の軸交差方向への移動を簡単な構造で行わせることができる。
【0061】
デバイス3が取り付けられたベース5と、デバイス3の軸11に一端が結合され他端側に握り部13が設けられたレバー7とを備え、ベース5を上腕側に取り付けてデバイス3を肘部に配置しレバー5を前腕に沿って延設配置し握り部13を握ってレバー7を介し軸11を回転操作可能である。
【0062】
このため、レバー7の操作によりデバイス3が抵抗トルクを発生させ、筋力トレーニングによるリハビリテーションを行わせることができる。
ベース5に、固定電極39及び可動電極41に結線され機能性体43に電圧印加を行う電源17を備えた。
【0063】
このため、トレーニング装置1を装着して、どこでも手軽にリハビリテーションを行わせることができる。
[その他]
本発明の実施例では、機能性体43を単層としたが、
図11と同様に多層に構成することもできる。
【0064】
また、機能生体43は、固定電極39及び可動電極41の何れか一方に取り付けられていればよく、実施例とは逆に固定電極39側に取り付けることも可能である。
【0065】
また、トレーニング装置1は、上肢の筋力トレーニング等に適用したが、膝周囲の下肢の筋力トレーニング等のように他の関節部周囲の筋力トレーニング等に広く応用することが可能である。
【0066】
下肢の筋力トレーニング等に用いる場合は、ベース5を大腿部又は下腿部側に取り付けてデバイス3を膝部側方に配置し、レバー7を下腿部又は大腿部側に取り付ける。そして、屈伸運動等を行ってレバー7を介し軸11を回転操作し、この回転操作に対して電圧印加に応じてデバイス3が軸11に抵抗トルクを付与すればよい。