特許第6167777号(P6167777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6167777-バイオマス炭の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167777
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】バイオマス炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20170713BHJP
   C10B 53/02 20060101ALI20170713BHJP
   C10L 5/44 20060101ALI20170713BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C22B1/16 G
   C10B53/02ZAB
   C10L5/44
   B09B3/00 302Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-186426(P2013-186426)
(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公開番号】特開2015-52159(P2015-52159A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】原 応樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰英
(72)【発明者】
【氏名】川口 尊三
(72)【発明者】
【氏名】松村 勝
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/023479(WO,A1)
【文献】 特開2010−248061(JP,A)
【文献】 特開2013−234299(JP,A)
【文献】 特開平4−310209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/16−1/22,
C10B 53/02,
C10L 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部加熱の連続乾留方式設備を用いてバイオマスを加熱・乾留することよりバイオマス炭を製造する方法であって、300℃〜400℃の間の昇温速度を100℃/min以下とすることを特徴とする焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造方法(ただし、バイオマスを加熱する温度が400℃以下であることを除く)
【請求項2】
前記バイオマスを加熱する温度が800℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造方法。
【請求項3】
前記バイオマスが、ヤシ核殻であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス炭の製造方法に関する。特に、外部加熱の連続乾留方式設備を用いてバイオマスを加熱・乾留する際の昇温速度に関する。
【背景技術】
【0002】
国内製鉄所における高炉は、原料として主に焼結鉱を使用する。焼結鉱は、粉鉱石(粒径略5mm以下)を炭材である粉コークスで焼き固め、高炉の使用に適した粒径(略5〜35mm)にしたものである。製鉄所におけるコークスは、篩分けられ、篩上は、高炉の使用に適した塊コークスとなり、篩下は、焼結鉱の製造に用いられる粉コークス(粒径略3mm以下)となる。
近年、高炉のコークス比の低下により、焼結鉱が使用する粉コークスは、バランス上、不足する方向にある。粉コークスを補完又は代替する他の新たな炭材の開発が望まれている。
【0003】
製鉄所の焼結鉱製造プロセスで、炭材が燃焼するとCOの他にSOx, NOx, 煤塵といった有害物質を含んだ焼結排ガスが大量に発生する。したがって、新たな炭材は、有害物質の排出を抑えるため、硫黄、窒素が少ないことが必要である。
【0004】
焼結鉱製造プロセスは、粉鉱石及び焼結工場系内、焼結工場系外で発生する篩下粉、ダスト、ミルスケール等の鉄分を含む原料(雑鉄源)並びに石灰石などの造滓材(副原料)を焼結原料とする。前記焼結原料に燃料として粉コークス等の炭材、および返鉱(成品粒度を満足しなかった焼結鉱で再度焼結処理を行うために循環しているもの)を加えて配合原料とする。現在、一般に行われているドワイトロイド(DL)式焼結機の焼結鉱製造プロセスでは、前記配合原料からなる充填層の下方を負圧とし、上方から下方に空気を流通させて配合原料中の炭材を燃焼させる。発生した燃焼熱により焼結原料を焼結して塊成化した焼結鉱を製造する。
かかる焼結鉱製造プロセスでは、揮発分の高い炭材の使用ができない。揮発分の高い炭材は、その燃焼により発生するタールその他の副生物が、焼結原料層の下部で再凝固し燃焼時の通気性を悪化させる原因と成り、又、焼結機の排気系統に付着し、支障をきたすからである。
【0005】
焼結鉱製造に用いる炭材として、バイオマスの利用が取り組まれてきた。バイオマスとしては、製材所発生の木質系廃棄物を破砕したチップや、農業系の副産物(椰子核殻等)などがある。しかし、バイオマス自体は、揮発分が高く、焼結鉱製造に用いることはできない。そこで、バイオマスを加熱し、炭化してバイオマス炭を製造する技術が研究され、開示されている。
特許文献1には、シンプルな装置構成で、炭化物と外気との接触を防ぎ、炭化物の歩留および性状を良好にする方法が示されている。
特許文献2には、乾留時に発生した排出ガスを、炭化前のバイオマス原料と接触させることで、バイオマス原料にタールを付着させて炭化炉へ供給することで、結果的にバイオマス炭の収率を向上可能な技術が記載されている。
特許文献3には、炭化温度の異なる2段階の炭化炉を用いて、炭化物のほかガス、木酢液等の副生物を分別回収する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−186120号公報
【特許文献2】特開2010−222472号公報
【特許文献3】特許4882061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、バイオマス炭の酸化を防ぐことはできるものの、バイオマス原料が高温の炉内に直接投入されるため、バイオマスが急速昇温され、揮発分がタール・ガスとして放出されてしまい、バイオマス炭の収率が低下するという問題を有している。
【0008】
また、特許文献2に記載の発明は、発生した排ガスを冷却すると、タールの凝縮による排ガス輸送管の閉塞、バイオマス供給装置のトラブルの原因となる。特に、バイオマス原料は、品質が不均一であり、操業トラブルの多くは原材料の輸送に起因するため、バイオマス原料へのタールの付着は大きな問題となる。
【0009】
また、特許文献3に記載の発明は、バイオマス炭の大量生産を考えた場合、このような装置では設備が複雑となるため、設備コストがかさむ。また、操業も複雑な制御が必要となるため、安価大量生産が必要な焼結用バイオマス炭の生産には不適である。
【0010】
バイオマスを原料として焼結鉱製造用のバイオマス炭を製造するには、(1)バイオマス炭の揮発分が低いこと、(2)バイオマス炭の収率が高いこと、が望まれる。
バイオマスの加熱が不十分だと、バイオマスに含まれる揮発分がバイオマス炭に残留し、揮発分が高いバイオマス炭になってしまう。一方、バイオマスを高温で急速加熱すると、バイオマスに含まれる揮発分は、炭化することなく、全て揮発してしまい、バイオマス炭の収率が低下する。
したがって、原料のバイオマスをどのように加熱し、いかにバイオマス炭の揮発分を低下させ、かつ、バイオマス炭の収率を高めるかが課題である。
本発明の目的は、複雑な装置を用いることなく、揮発分が低いバイオマス炭を、高収率で生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、外部加熱の連続乾留方式設備を用いてバイオマスを加熱する際に、300℃〜400℃の間の昇温速度を規定することにより、揮発分が低く収率が高いバイオマス炭を生産することができるという知見を得た、本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0012】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)外部加熱の連続乾留方式設備を用いてバイオマスを加熱・乾留することよりバイオマス炭を製造する方法であって、300℃〜400℃の間の昇温速度を100℃/min
以下とすることを特徴とする焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造方法(ただし、バイオマスを加熱する温度が400℃以下であることを除く)
(2)前記バイオマスを加熱する温度が800℃以上であることを特徴とする(1)に記載の焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造方法。
(3)前記バイオマスが、ヤシ核殻であることを特徴とする(1)または(2)に記載の焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な装置を用いることなく、揮発分が低いバイオマス炭を、高収率で生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実験に用いた外熱式ロータリ−キルンの概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(バイオマスについて)
本発明が対象とするバイオマスとは化石資源以外の、再生可能な生物由来の有機性資源の総称であり、農業系(麦わら、サトウキビ、米糠、草木等)、林業系(製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等)、畜産系(家畜廃棄物)、水産系(水産加工残滓)、廃棄物系(生ゴミ、RDF(ゴミ固形化燃料;Refused Derived Fuel)、庭木、建設廃材、下水汚泥)等がある。
【0016】
バイオマスは、カーボンニュートラルな材料である。カーボンニュートラルとは、その使用に際してCO排出をカウントしなくてもよいという考え方をいう。即ち、植物のからだ(茎・葉・根など)は全て有機化合物で出来ている。その植物が種から成長するとき、光合成により大気中の二酸化炭素の炭素原子を取り込んで有機化合物を作り、植物のからだを作る。そのため植物を燃やして二酸化炭素を発生させても、空気中に排出される二酸化炭素の中の炭素原子はもともと空気中に存在した炭素原子を植物が取り込んだものであるため、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えないからである。
したがって、焼結鉱製造において、粉コークスに替えてバイオマス炭を用いることは、地球温暖化対策として有用である。
【0017】
バイオマスは、炭素、水素、酸素を主元素とし、石炭、石油に例を見る化石燃料と成分としての差異はないが、発熱量が低く、水分を多く含むものが多いなど、燃焼性や、コストに影響するエネルギー転換効率などがネックとなり、利用が進んでいない。
【0018】
バイオマス資源の中に、東南アジアで大量に発生する椰子核殻(Palm Kernel Shell)がある。これは、油椰子からパーム油を製造する際に発生する残渣である。油椰子の果実の外側は油分を含んだ柔らかい部分で、これを高温蒸気で種子から分離してプレス機で絞り、パーム油を抽出する。果実の内部に核があり、核を取り除かれた後に残る殻が椰子核殻である。
【0019】
(バイオマスを熱分解してバイオマス炭を製造するプロセス)
焼結用炭材は、揮発分が10質量%以下でなければならない。揮発分が10質量%以下とするには、バイオマスを800℃以上まで加熱する必要がある。
しかし、高温の炉内に直接バイオマスを投入すると、バイオマスは急速昇温され、バイオマスに含まれる揮発分は全て揮発してしまい、バイオマス炭の収率が低下するという問題ある。
【0020】
バイオマスを100℃/min以上の速度で急速加熱し、熱分解すると、バイオマス粒子内でのタール等の炭化が抑制され、バイオマス炭の収率は低下し、液状生成物(すなわち、タール分)の収率が増加する。発明者は、バイオマスの昇温速度を制限することで、タールをバイオマス粒子内で炭化させ、バイオマス炭の収率を増加させることができると考えた。バイオマスは、加熱すると、揮発分は、200℃から500℃にかけて放出され、特に300℃から400℃にかけて、放出量のピークを持つと考えられる。そこで、300℃から400℃にかけての昇温速度を低下させることが有効である。昇温速度は低いほど好ましいが、低すぎると生産性を悪化させる。300℃から400℃にかけての昇温速度が40℃/min〜100℃/minであればバイオマス炭を高収率・高生産率で得られる。
【0021】
バイオマスを熱分解してバイオマス炭を製造するプロセスは各種考えられる。外部加熱の連続乾留方式、内部加熱の連続乾留方式、外部加熱のバッチ乾留方式及び内部加熱のバッチ乾留方式がある。また炉形式としては、外熱キルン、内燃キルン、シャフト炉、流動層などがある。しかし、バッチ方式は、生産性が低く、焼結鉱製造用のバイオマス炭の製造には不適切である。
外部加熱の連続乾留方式設備は、複雑な装置とはいえず、炉内の原料輸送に問題が少なく、運転が容易であり、熱分解ガスの回収が容易であること及び生産性が高いことから、バイオマス炭の製造方法としては、有望な方法である。
特に、外部加熱連続乾留方式の外熱式キルンは、昇温速度の制御が容易で、適切である。加熱の熱源は、電力、ガス、重油等特に問わないが、特に、電力による加熱方式は、熱制御が容易である。発生した乾留ガスを使うことが、コスト上有利であるが、乾留ガスを用いる場合は、外熱式キルン加熱部を分割して、キルン内に温度分布がつけられる構造とするか、キルン出口部付近のみを加熱し、入口部付近は炉壁からの伝熱により加熱される構造をとればよい。
【0022】
以上より、本発明は、外部加熱の連続乾留方式設備を用いてバイオマスを300℃〜400℃の間の昇温速度を100℃/min以下で加熱することより、焼結使用に適したバイオマス炭を高収率にて生産する。
そして、バイオマスとして、東南アジアで大量に発生するヤシ核殻を用いることにより、カーボンニュートラルである特性を活かすことができる。
【実施例】
【0023】
300℃〜400℃の間の昇温速度の影響を、小型模型ロータリーキルンによる椰子核殻炭の生産試験により評価した。
表1に実験に用いた原料(椰子核殻)の性状を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
図1に実験に用いた外熱式ロータリ−キルン1の概略を示す。外熱式ロータリ−キルン1は、直径90mm、長さ1100mm、傾斜角3°で、椰子核殻と供給ガスが同一方向から供給される並流型ロータリーキルンである。55Nl/分のNをシールカバー7から吹き込み、N雰囲気下で、椰子核殻を加熱・乾留する。
原料の椰子核殻8を椰子核殻ホッパー6から153g/minで切り出し、椰子核殻8を加熱・乾留し出口側から製品である椰子核殻炭9を排出する。
加熱部2は、出口から200〜1000mmの範囲(800mm)に電熱線3が設置されており、電熱線3は、入口部(反応管出口から750mm)、中央部(反応管出口から600mm)、出口部(反応管出口から450mm)に設置した3点の熱電対4により温度制御が可能である。反応管炉内温度は、反応管外部から内部への熱抵抗により、電熱線3による測定温度より100℃低下する。そこで、実施例では、入口部電熱線を400℃、中央部電熱線を500℃にコントロールし、炉内温度は、入口部300℃から中央部400℃とした。
ロータリ−キルンの回転速度の変更により原料(椰子核殻)の移動速度をコントロールする。実施例では、加熱部での原料滞留時間を7.6分とした。
比較例では、入口部電熱線を900℃、中央部電熱線を900℃、出口部電熱線を900℃にコントロールし、炉内温度は、入口部800℃、中央部800℃、出口部800℃とし、原料の椰子核殻を急速加熱した。
製造条件を表2に示し、製造した椰子核殻の性状を表3に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
表2において、比較例は、原料の椰子核殻を炉内温度800℃に投入し、300℃〜400℃の間の昇温速度は、200℃/min以上であるのに対し、本発明の実施例では、300℃〜400℃の間の昇温速度は、70.2℃/minであった。
実施例では、椰子核殻炭の収率は、比較例に対し高く、揮発分は、7.62%で、目標値(10質量%以下)を達成し、椰子核殻炭収率が高く、揮発分が低い椰子核殻炭を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
複雑な装置を用いることなく、焼結使用に適したバイオマス炭を高収率、高生産率の生産に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…外熱式ロータリーキルン、2…加熱部、3…電熱線、4…熱電対、5…駆動部、6…椰子核殻ホッパー、7…シールカバー、8…椰子核殻、9…椰子核殻炭。
図1