特許第6167778号(P6167778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6167778-鋼の連続鋳造方法 図000006
  • 特許6167778-鋼の連続鋳造方法 図000007
  • 特許6167778-鋼の連続鋳造方法 図000008
  • 特許6167778-鋼の連続鋳造方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167778
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
   B22D11/10 330Z
   B22D11/10 330T
   B22D11/10 330A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-186441(P2013-186441)
(22)【出願日】2013年9月9日
(65)【公開番号】特開2015-51451(P2015-51451A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智之
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147940(JP,A)
【文献】 特開2003−200242(JP,A)
【文献】 特開平03−138054(JP,A)
【文献】 特公平07−034978(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内の溶鋼を、浸漬ノズルを通して鋳型に供給し、鋼を連続鋳造する方法であって、
前記溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部に、化学組成として、ZrO2が40〜80質量%、CaOが9〜35質量%、Cが11〜45質量%を含有する自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を配置した浸漬ノズルの前記耐火物に一方の電極を接続すると共に、タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、前記浸漬ノズルの前記耐火物と前記浸漬ノズルの内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、
当該通電回路を構成する前記浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA(ミリアンペア)/cm2で、前記浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位が負の極性となるように通電しながら鋳造することで、前記自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の溶損及び鋳片内部の介在物増加を、通常のアルミナグラファイト耐火物を配置した場合に比べて遜色ない程度まで改善することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点非金属介在物によって浸漬ノズルの閉塞が生じやすいアルミキルド鋼等を連続鋳造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼等の連続鋳造時、アルミナに代表される高融点非金属介在物が内面に付着することによる浸漬ノズルの閉塞は、連続鋳造操業及び製造する鋳片の品質に大きな影響を及ぼす問題である。
【0003】
そこで、浸漬ノズルの内面の閉塞防止に関して、従来から様々な対策技術が提案されている。
【0004】
例えば、発明者のうちの1名は、アルミナグラファイトに微量のCaO等を含有させることによる浸漬ノズルの内面へのアルミナ介在物の付着を防止する際、さらに通電を併用することで、アルミナ介在物の付着防止効果を高める発明を特許文献1で提案している。
【0005】
一方、少なくとも溶鋼と接する浸漬ノズルの内面を形成する耐火物として、連続鋳造中の高温下における化学反応によって緻密なMgO層を形成する、スピネル−ペリクレース−黒鉛系耐火物が特許文献2で提案されている。
【0006】
また、特許文献3では、高温の溶鋼と接触することでその一部が溶融して生成される低融点物の被膜を表面に形成する緑柱石を含有し、残部が主としてマグネシア−黒鉛、スピネル−黒鉛、マグネシア−スピネル−黒鉛からなる耐火物が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献4では、浸漬ノズルを構成する耐火物として、溶鋼中のアルミナ介在物の付着により低融点化して溶損することで閉塞を防止する自溶性の耐火物が提案されている。
【0008】
前記特許文献1で提案された連続鋳造方法に使用する浸漬ノズル、前記特許文献2〜4で提案された耐火物を内面に配置した浸漬ノズルの中で、連続鋳造時の閉塞防止効果が最も高いのは、自溶性の耐火物を溶鋼と接する内面に配置した浸漬ノズルである。
【0009】
しかしながら、一方で、自溶性の耐火物は溶損することによって溶鋼中に介在物となって放出されるので、溶鋼を汚染するという問題がある。それゆえ、自溶性の耐火物を内面に配置した浸漬ノズルは、高級鋼の鋳造には使用することができず、その優れた閉塞防止効果を享受することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−201504号公報
【特許文献2】特許第3358989号公報
【特許文献3】特開2002−35904号公報
【特許文献4】特開昭64−40154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする問題点は、自溶性の耐火物を溶鋼と接する内面に配置した浸漬ノズルは、閉塞防止効果が高いものの、自溶性の耐火物が溶損して溶鋼中に放出され溶鋼を汚染するので、高級鋼の鋳造には使用することができなかったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
自溶性耐火物を内面に配置した浸漬ノズルを用いた連続鋳造において、前記自溶性耐火物の溶損を抑制して高級鋼の鋳造への適用を可能とするために、
タンディッシュ内の溶鋼を、浸漬ノズルを通して鋳型に供給し、鋼を連続鋳造する方法であって、
前記溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部に、化学組成として、ZrO2が40〜80質量%、CaOが9〜35質量%、Cが11〜45質量%を含有する自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を配置した浸漬ノズルの前記耐火物に一方の電極を接続すると共に、タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、前記浸漬ノズルの前記耐火物と前記浸漬ノズルの内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、
当該通電回路を構成する前記浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA(ミリアンペア)/cm2で、前記浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位が負の極性となるように通電しながら鋳造することで、前記自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の溶損及び鋳片内部の介在物増加を、通常のアルミナグラファイト耐火物を配置した場合に比べて遜色ない程度まで改善することを最も主要な特徴としている。
【0013】
以下、上記本発明の技術的思想を、順を追って説明する。
自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物は、主に以下の3つの作用によって溶損する。
【0014】
1番目は、グラファイトが酸素イオンと結びついて酸化し、COガスを発生する下記(1)式の反応が生じてグラファイト層が失われることによって耐火物の損耗が進行する機構である。
C+O2-→CO+2e-…(1)
【0015】
2番目は、前記発生したCOガスが溶鋼中に固溶しているAlを酸化して生じたAl2O3(下記(2)式)と耐火物中のCaOが相互拡散して低融点相を形成し、溶損が進行する機構である。
3CO+2Al→Al2O3+3C…(2)
【0016】
3番目は、溶鋼中に介在物として存在する脱酸生成物であるAl2O3が耐火物の稼動面に付着し、耐火物中のCaOと相互拡散して低融点相を形成し、溶損が進行する機構である。
【0017】
発明者らは、溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部にZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を配置した浸漬ノズルの前記耐火物に最適な条件で通電することによって、前記3つの溶損機構を同時に防止できることに思い至った。
【0018】
すなわち、平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA/cm2で、前記浸漬ノズルにおける前記耐火物の平均電位の極性が負となるように通電することによって、前記(1)式のグラファイト分解反応が抑制され、前記1番目の機構が防止できる。この前記(1)式のグラファイト分解反応の抑制は、前記(2)式の反応抑制に繋がり、前記2番目の機構も防止できる。
【0019】
加えて、前記通電により、溶鋼を構成する鉄が下記(3)式のようにイオン化して耐火物の稼動面に侵入した後、下記(4)式のようにグラファイト中の自由電子を受けて粒鉄として電析する。
Fe→Fe2++2e-…(3)
Fe2++2e-→Fe…(4)
【0020】
このような溶鋼のイオン化と稼動面への侵入が生じることによって、溶鋼と耐火物の稼動面とが良く濡れた状態となる。いわゆる反応濡れ現象である。この反応濡れ現象によって、溶鋼中に介在物として存在するAl2O3は逆に耐火物の稼動面へ到達し難くなり、耐火物の稼動面へのAl2O3の付着が抑制される。その結果、Al2O3と耐火物中のCaOとの相互拡散による低融点相の形成並びに溶損、すなわち3番目の溶損機構が防止される。
【0021】
さらに加えて、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物と最適な通電を組み合わせることによって、新たな現象が生じて3番目の溶損機構が防止できることが判明した。
【0022】
固体電解質として知られるZrO2は、酸素イオンを透過させる性質を有する。従って、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物に負の電位を付加することによって、酸素イオンは耐火物中から溶鋼に向けて移動する。そして、前記(3)式の反応を経て耐火物の稼動面に侵入してきた鉄イオンと結び付いてFeOを生じる。すなわち、前記(4)式の反応によって、粒鉄として電析するべき鉄イオンの一部がFeOとなるのである。
【0023】
このFeOは、耐火物の稼動面と溶鋼との濡れ性を高める作用を発揮する。すなわち、上記の反応濡れ現象に加えて、FeO生成による濡れ促進効果を発揮して、上記の機構と同様に3番目の溶損機構を防止するのである。
【0024】
上記の、FeO生成を促進して溶鋼と耐火物の稼動面との濡れ性を高める効果は、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物と最適な通電を組み合わせた場合に特徴的に発揮される効果であり、他の材質の耐火物と通電との組み合わせに比べて優れた特徴である。
【0025】
ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を透過してきた酸素イオンは、溶鋼に直接触れると溶鋼を汚染する問題が生じる。しかしながら、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の表面には溶鋼中のアルミナ介在物とCaOが反応して形成される低融点のスラグ層が必ず存在する。従って、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を透過してきた酸素イオンは、溶鋼に直接触れることなく、表面の低融点のスラグ層中にある鉄イオンと結び付いてFeOを形成する。そのような点からも、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物と最適な通電との組み合わせは有効である。
【0026】
上記本発明は、上記の技術的思想を基にしてなされたものである。
上記本発明において、カーボンを11質量%以上含有するグラファイト系耐火物とするのは、安定した通電を行うためには、導電性のあるグラファイトをカーボン濃度換算で11質量%以上含有する必要があるからである。
【0027】
また、通電回路を構成する浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA/cm2となるように通電するのは、平均電流密度の絶対値が0.5mA/cm2未満の場合は通電効果そのものが失われるからである。反対に25mA/cm2よりも大きい場合は、酸素イオンの移動が促進され過ぎて溶鋼を直接汚染する悪影響が現れるからである。
【0028】
本発明において、浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度とは、電圧を印加したときに浸漬ノズルと溶鋼との間に流れる平均電流値を、溶鋼と接するノズル壁面の総面積で除して得られる電流密度をいう。ここでいう平均電流値は、浸漬ノズルの前記耐火物と溶鋼との間に流れる電流の瞬時値を対象期間について時間平均して求められる電流値である。
【0029】
また、浸漬ノズルにおける前記耐火物の平均電位の極性が負となるように通電するのは、前記(1)式及び(2)式の反応の抑制や、前記(3)式及び(4)式の反応の促進には、浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位が負である必要があるからである。
【0030】
本発明において、浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位とは、浸漬ノズルの前記耐火物における電位の瞬時値を対象期間について時間平均した値をいう。
【0031】
すなわち、前記最適な通電条件を組み合わせることによって、ZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の溶損を低減して介在物欠陥を低減することができるのである。
【0032】
上記本発明におけるZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の自溶性という特質は、通常の操業においては発揮されることがない。一方、通電作用だけでは防ぎ得ないほど大量のアルミナ介在物が浸漬ノズル内を通過した際には、致命的な閉塞による操業トラブルを防止するという、操業におけるロバスト性向上に自溶性という特質を利用することになる。
【0033】
上記本発明においては、浸漬ノズルの溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部に配置する前記耐火物が、化学組成として、ZrO2が40〜80質量%、CaOが9〜35質量%、Cが11〜45質量%を含有する黒鉛質耐火物とすることがより望ましい。
【0034】
その理由は、ZrO2が40質量%未満の場合は、耐火物としての耐食性が失われるからであり、80質量%を超えると、ZrO2のネットワークが強固になりすぎて自溶性という特質が失われるからである。
【0035】
また、CaOが9質量%未満の場合は、Al2O3と反応したときに融点が十分に低下せず、自溶性という特質が発揮されないからであり、35質量%を超えると、Al2O3と反応したときに融点が下がりすぎて耐火物として具備すべき耐熱性を失うからである。
【0036】
また、Cが11質量%未満の場合は、電気抵抗が増大して安定した通電が難しくなるからであり、45質量%を超えると、耐火物の耐食性が低下するからである。
【発明の効果】
【0037】
本発明では、浸漬ノズルの内面に配置した自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の溶損及び鋳片内部の介在物増加という問題を、通常のアルミナグラファイト耐火物を配置した場合に比べて遜色ない程度まで改善でき、かつアルミナ等非金属介在物の浸漬ノズル内面への付着を効果的に抑制することができる。従って、高級鋼の鋳造に適用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の連続鋳造方法を実施するための装置構成の一例を模式的に示した図である。
図2】本発明の実施例A,C及び比較例D,Gに使用した浸漬ノズルの形状を示す中央縦断面図である。
図3】本発明の実施例B及び比較例Eに使用した浸漬ノズルの形状を示す中央縦断面図である。
図4】比較例F,Hに使用した浸漬ノズルの形状を示す中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、自溶性耐火物を内面に配置した浸漬ノズルを用いた連続鋳造において、前記自溶性耐火物の溶損を抑制して高級鋼の鋳造への適用を可能にするという目的を、内面に配置するZrO2−CaO−グラファイト系耐火物に最適な条件で通電することで実現した。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の連続鋳造方法を実施するための装置構成の一例を、図1を用いて説明した後、この図1に示した装置を用いて本発明方法で鋼を連続鋳造する方法について説明する。
【0041】
1は取鍋であり、取鍋1内の溶鋼2は、取鍋1の底部に設置されたロングノズル3を介してタンディッシュ4に供給された後、タンディッシュ4の底部に設置された上ノズル5、上ノズル5の下部に連続して設けられたスライディングゲート6及び浸漬ノズル7を介して鋳型8に注入される。
【0042】
鋳型8に注入された溶鋼2は、鋳型8の内面からの冷却(一次冷却)で外周に凝固殻9が形成される。この凝固殻9は鋳型8の出側に引き抜かれるのに伴ってその厚さが厚くなり、鋳型8から引き抜かれた後は二次冷却されて完全に凝固して鋳片となる。なお、図1中の7aは浸漬ノズル7の吐出口、10は鋳型8内の溶鋼2上面に供給されたモールドパウダーである。
【0043】
本発明は、底部近傍に対向する1対の吐出口7aを設けた円筒状の本体7bの、溶鋼2と接する内面に、カーボンを11質量%以上含有するZrO2−CaO−グラファイト系耐火物11を配置した浸漬ノズル7を使用して連続鋳造する方法である。その際、前記耐火物11は、化学組成として、ZrO2が40〜80質量%、CaOが9〜35質量%、Cが11〜45質量%を含有する黒鉛質耐火物とすることが望ましい。
【0044】
そして、前記耐火物11に一方の電極12を接続するとともに、タンディッシュ4内の溶鋼2に他方の電極13を浸漬して、前記耐火物11と浸漬ノズル7の内部を通過する溶鋼2との間に通電回路を構成する。前記両電極12,13は、例えばアルミナグラファイト質の耐火物で形成する。
【0045】
浸漬ノズル7に配置する、カーボンを11質量%以上含有するZrO2−CaO−グラファイト系耐火物11への電極12の取り付けは、例えば特開2005−199339号公報に記載のように、前記耐火物11の外周面に接触状態に電極12を取り付ければよい。
【0046】
なお、図1中の14は一方の電極12と他方の電極13を繋ぐ配線、15はこの配線14の途中に設けた電源装置である。また、16は浸漬ノズル7とスライディングゲート6の間に設けた絶縁用耐火物、17はタンディッシュ4と他方の電極13の間に設けた絶縁用耐火物である。
【0047】
本発明は、上記構成の装置を用いて鋼を連続鋳造するに際し、浸漬ノズル7の前記耐火物11における平均電流密度の絶対値が0.5〜15mA/cm2で、前記耐火物11の平均電位が負の極性となるよう通電しながら鋳造することを特徴としている。
【0048】
次に、上記本発明の要件を満たす実施例、及び本発明の要件を満たさない比較例について説明する。
【0049】
実施例及び比較例は、図1に示した構成の垂直曲げ型スラブ連続鋳造機(鋳型厚み:0.3m、鋳型幅:1.2〜1.6m)を使用し、非定常部を除く鋳造速度を1.3〜1.8m/minとして、下記表1に示す化学組成のアルミキルド低炭素鋼を連続鋳造したものである。
【0050】
【表1】
【0051】
浸漬ノズル7の内面に配置する耐火物11の組成、及び当該耐火物11への通電条件を下記表2,3に、浸漬ノズル7の本体7bを構成するアルミナグラファイトの化学組成及び浸漬ノズル7のスラグラインに配置する耐火物(ジルコニアグラファイト)7cの化学組成を下記表4に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
表2のA〜Cは本発明の請求項1を満たす実施例、表3のD〜Hは本発明の要件を満たさない比較例である。
【0056】
図2は実施例A,C及び比較例D,Gに使用した浸漬ノズル7の形状及び主要寸法を示した縦断面図である。この図2に示した浸漬ノズル7は、自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物11を上端から690mmの範囲で浸漬ノズル7の内面に配置したものである。
【0057】
また、図3は実施例B及び比較例Eに使用した浸漬ノズル7の形状及び主要寸法を示した縦断面図である。この図3に示した浸漬ノズル7は、自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物11を上端から底部に至る浸漬ノズル7の内面全域に配置したものである。
【0058】
また、図4は比較例F,Hに使用した浸漬ノズル7の形状及び主要寸法を示した縦断面図である。この図4に示した浸漬ノズル7は、自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物11を浸漬ノズル7に配置しないものである。
【0059】
表2の実施例A〜Cは、本発明の請求項1の要件を満たしているので、浸漬ノズル内面への介在物付着速度指数が小さく、かつ浸漬ノズルの内面溶損速度指数も小さい結果、鋳片内部の介在物指数もより良好であった。
【0060】
これら実施例A〜Cにおける浸漬ノズルの内面溶損速度指数は、内面に自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を配置せず、通常のアルミナグラファイトで形成した浸漬ノズルを用いた比較例F,Hに比べてやや劣るものの、鋳片内部の介在物指数は、比較例F,Hと比べてほぼ遜色がなかった。これは、溶損量の低減に加えて、浸漬ノズル内面の閉塞が抑制された結果、鋳型内流動が安定した効果が生じたことを伺わせる。
【0061】
一方、実施例A,Bと同じ浸漬ノズルを使用しながら、通電を行わなかった比較例D,Eは、浸漬ノズルの内面溶損速度指数が実施例A,Bに比べて大きく、その結果として鋳片内部の介在物指数が実施例A,Bに比べて劣る結果となった。
【0062】
また、実施例Aと同じ条件で通電したものの、自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を浸漬ノズルに配置しない比較例Fは、アルミナ介在物が付着しても低融点化しないので、通電による付着防止効果はあるとはいえ、実施例A,Cと比べると浸漬ノズル内面への介在物付着速度指数が大きかった。一方、浸漬ノズルの内面溶損速度指数は小さく、その結果として鋳片内部の介在物指数も良好であった。
【0063】
また、実施例Aと同じ浸漬ノズルを使用し、実施例Aと同じ平均電流密度ではあるが逆の正の極性で通電した比較例Gは、極性が適正でないので、通電しない比較例Dよりも溶損が増大し、その結果として、浸漬ノズルの内面溶損速度指数が大きく、鋳片内部の介在物指数も悪化した。
【0064】
また、自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物を浸漬ノズルに配置せず、通電もしなかった比較例Hは、溶鋼と接する内面が、アルミナ介在物が付着しても低融点化しないアルミナグラファイトであることに加えて、通電効果も得られないことから、浸漬ノズル内面への介在物付着速度指数が、実施例A〜Cや比較例E〜Gに比べて大きかった。
【0065】
本発明は上記の例に限らず、請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0066】
2 溶鋼
4 タンディッシュ
7 浸漬ノズル
8 鋳型
11 耐火物
12 一方の電極
13 他方の電極
14 配線
15 電源装置
図1
図2
図3
図4