【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
自溶性耐火物を内面に配置した浸漬ノズルを用いた連続鋳造において、前記自溶性耐火物の溶損を抑制して高級鋼の鋳造への適用を可能とするために、
タンディッシュ内の溶鋼を、浸漬ノズルを通して鋳型に供給し、鋼を連続鋳造する方法であって、
前記溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部に、
化学組成として、ZrO2が40〜80質量%、CaOが9〜35質量%、Cが11〜45質量%を含有する
自溶性のZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物を配置した浸漬ノズルの前記耐火物に一方の電極を接続すると共に、タンディッシュ内の溶鋼に他方の電極を浸漬して、前記浸漬ノズルの前記耐火物と前記浸漬ノズルの内部を通過する溶鋼との間に通電回路を構成し、
当該通電回路を構成する前記浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA(ミリアンペア)/cm
2で、前記浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位が負の極性となるように通電しながら鋳造する
ことで、前記自溶性のZrO2−CaO−グラファイト系耐火物の溶損及び鋳片内部の介在物増加を、通常のアルミナグラファイト耐火物を配置した場合に比べて遜色ない程度まで改善することを最も主要な特徴としている。
【0013】
以下、上記本発明の技術的思想を、順を追って説明する。
自溶性のZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物は、主に以下の3つの作用によって溶損する。
【0014】
1番目は、グラファイトが酸素イオンと結びついて酸化し、COガスを発生する下記(1)式の反応が生じてグラファイト層が失われることによって耐火物の損耗が進行する機構である。
C+O
2-→CO+2e
-…(1)
【0015】
2番目は、前記発生したCOガスが溶鋼中に固溶しているAlを酸化して生じたAl
2O
3(下記(2)式)と耐火物中のCaOが相互拡散して低融点相を形成し、溶損が進行する機構である。
3CO+2Al→Al
2O
3+3C…(2)
【0016】
3番目は、溶鋼中に介在物として存在する脱酸生成物であるAl
2O
3が耐火物の稼動面に付着し、耐火物中のCaOと相互拡散して低融点相を形成し、溶損が進行する機構である。
【0017】
発明者らは、溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部にZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物を配置した浸漬ノズルの前記耐火物に最適な条件で通電することによって、前記3つの溶損機構を同時に防止できることに思い至った。
【0018】
すなわち、平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA/cm
2で、前記浸漬ノズルにおける前記耐火物の平均電位の極性が負となるように通電することによって、前記(1)式のグラファイト分解反応が抑制され、前記1番目の機構が防止できる。この前記(1)式のグラファイト分解反応の抑制は、前記(2)式の反応抑制に繋がり、前記2番目の機構も防止できる。
【0019】
加えて、前記通電により、溶鋼を構成する鉄が下記(3)式のようにイオン化して耐火物の稼動面に侵入した後、下記(4)式のようにグラファイト中の自由電子を受けて粒鉄として電析する。
Fe→Fe
2++2e
-…(3)
Fe
2++2e
-→Fe…(4)
【0020】
このような溶鋼のイオン化と稼動面への侵入が生じることによって、溶鋼と耐火物の稼動面とが良く濡れた状態となる。いわゆる反応濡れ現象である。この反応濡れ現象によって、溶鋼中に介在物として存在するAl
2O
3は逆に耐火物の稼動面へ到達し難くなり、耐火物の稼動面へのAl
2O
3の付着が抑制される。その結果、Al
2O
3と耐火物中のCaOとの相互拡散による低融点相の形成並びに溶損、すなわち3番目の溶損機構が防止される。
【0021】
さらに加えて、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物と最適な通電を組み合わせることによって、新たな現象が生じて3番目の溶損機構が防止できることが判明した。
【0022】
固体電解質として知られるZrO
2は、酸素イオンを透過させる性質を有する。従って、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物に負の電位を付加することによって、酸素イオンは耐火物中から溶鋼に向けて移動する。そして、前記(3)式の反応を経て耐火物の稼動面に侵入してきた鉄イオンと結び付いてFeOを生じる。すなわち、前記(4)式の反応によって、粒鉄として電析するべき鉄イオンの一部がFeOとなるのである。
【0023】
このFeOは、耐火物の稼動面と溶鋼との濡れ性を高める作用を発揮する。すなわち、上記の反応濡れ現象に加えて、FeO生成による濡れ促進効果を発揮して、上記の機構と同様に3番目の溶損機構を防止するのである。
【0024】
上記の、FeO生成を促進して溶鋼と耐火物の稼動面との濡れ性を高める効果は、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物と最適な通電を組み合わせた場合に特徴的に発揮される効果であり、他の材質の耐火物と通電との組み合わせに比べて優れた特徴である。
【0025】
ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物を透過してきた酸素イオンは、溶鋼に直接触れると溶鋼を汚染する問題が生じる。しかしながら、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物の表面には溶鋼中のアルミナ介在物とCaOが反応して形成される低融点のスラグ層が必ず存在する。従って、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物を透過してきた酸素イオンは、溶鋼に直接触れることなく、表面の低融点のスラグ層中にある鉄イオンと結び付いてFeOを形成する。そのような点からも、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物と最適な通電との組み合わせは有効である。
【0026】
上記本発明は、上記の技術的思想を基にしてなされたものである。
上記本発明において、カーボンを11質量%以上含有するグラファイト系耐火物とするのは、安定した通電を行うためには、導電性のあるグラファイトをカーボン濃度換算で11質量%以上含有する必要があるからである。
【0027】
また、通電回路を構成する浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度の絶対値が0.5〜25mA/cm
2となるように通電するのは、平均電流密度の絶対値が0.5mA/cm
2未満の場合は通電効果そのものが失われるからである。反対に25mA/cm
2よりも大きい場合は、酸素イオンの移動が促進され過ぎて溶鋼を直接汚染する悪影響が現れるからである。
【0028】
本発明において、浸漬ノズルの前記耐火物における平均電流密度とは、電圧を印加したときに浸漬ノズルと溶鋼との間に流れる平均電流値を、溶鋼と接するノズル壁面の総面積で除して得られる電流密度をいう。ここでいう平均電流値は、浸漬ノズルの前記耐火物と溶鋼との間に流れる電流の瞬時値を対象期間について時間平均して求められる電流値である。
【0029】
また、浸漬ノズルにおける前記耐火物の平均電位の極性が負となるように通電するのは、前記(1)式及び(2)式の反応の抑制や、前記(3)式及び(4)式の反応の促進には、浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位が負である必要があるからである。
【0030】
本発明において、浸漬ノズルの前記耐火物の平均電位とは、浸漬ノズルの前記耐火物における電位の瞬時値を対象期間について時間平均した値をいう。
【0031】
すなわち、前記最適な通電条件を組み合わせることによって、ZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物の溶損を低減して介在物欠陥を低減することができるのである。
【0032】
上記本発明におけるZrO
2−CaO−グラファイト系耐火物の自溶性という特質は、通常の操業においては発揮されることがない。一方、通電作用だけでは防ぎ得ないほど大量のアルミナ介在物が浸漬ノズル内を通過した際には、致命的な閉塞による操業トラブルを防止するという、操業におけるロバスト性向上に自溶性という特質を利用することになる。
【0033】
上記本発明においては、浸漬ノズルの溶鋼と接する内面全域、或いは前記内面の一部に配置する前記耐火物が、化学組成として、ZrO
2が40〜80質量%、CaOが9〜35質量%、Cが11〜45質量%を含有する黒鉛質耐火物とすることがより望ましい。
【0034】
その理由は、ZrO
2が40質量%未満の場合は、耐火物としての耐食性が失われるからであり、80質量%を超えると、ZrO
2のネットワークが強固になりすぎて自溶性という特質が失われるからである。
【0035】
また、CaOが9質量%未満の場合は、Al
2O
3と反応したときに融点が十分に低下せず、自溶性という特質が発揮されないからであり、35質量%を超えると、Al
2O
3と反応したときに融点が下がりすぎて耐火物として具備すべき耐熱性を失うからである。
【0036】
また、Cが11質量%未満の場合は、電気抵抗が増大して安定した通電が難しくなるからであり、45質量%を超えると、耐火物の耐食性が低下するからである。