(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鋼材の使用環境の厳格化に伴い、溶銑段階での脱珪、脱りん、脱硫の処理技術、いわゆる溶銑予備処理技術が開発され、この技術を転炉(精錬炉)での脱炭吹錬と組み合わせることで、より効率的な不純物除去方法として発展してきている。
また、製鋼プロセスにおいて、精錬材の滓化促進材として、CaF
2(蛍石)などのハロゲン化物が使用されてきた。しかし、環境問題に対する社会的関心が高まる中、フッ素は水中への溶出が問題とされており、その代替としてAl
2O
3が広く利用されるようになった。このAl
2O
3源として、市販のプリメルトフラックスを使用できるが、例えば、Al
2O
3を含有した廃棄耐火物や取鍋等のスラグを利用することで、廃棄物削減としてのリサイクル効果もある。
しかしながら、上記した精錬材の滓化促進効果やリサイクル効果の向上のため、Al
2O
3の添加量を増加させるに伴い、スラグフォーミングが発生し易くなるとと共に、一般に転炉耐火物として利用されているMgO系煉瓦の溶損が顕著になることから、Al
2O
3の添加量増加には限界があった。
【0003】
上記した溶銑の精錬方法においては、例えば、以下の技術が開示されている。
特許文献1には、転炉吹錬において、りん濃度0.04%未満、珪素濃度0.1%以下の溶銑を、蛍石などのハロゲン化物を使用せずに、スラグ中のAl
2O
3濃度を3.5%以上とすることで、脱りん能を確保した精錬方法が開示されている。
また、特許文献2には、スラグ中のAl
2O
3濃度が3.5%を超えると、転炉耐火物の溶損が急激に増加するため、Al
2O
3濃度を1.0〜3.5%に規定した精錬方法が開示されている。
なお、本明細書においては、特に断りがない限り、濃度や化学成分に関する「%」は「質量%」を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
まず、従来行われている溶銑の精錬方法について、簡単に説明する。
【0013】
はじめに、上底吹き機能を有する転炉(精錬炉の一例)に装入する溶銑を準備する。
溶銑は、予め脱珪及び脱りんの溶銑予備処理が行われたものである。
なお、上記した溶銑は、通常の溶銑予備処理が行われたものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、成分が、C:3.4〜4.0%、Si:0.01〜0.10%、P:0.005〜0.045%のものである。
【0014】
次に、準備した溶銑を転炉に装入する。
なお、転炉装入時の溶銑温度は、1280〜1350℃程度である。
続いて、転炉内にランスを挿入し、上吹き酸素を流すことにより吹錬を開始して、脱炭処理を行う。
この吹錬の開始前又は吹錬の初期に、一般的な副原料であるCaO源やSiO
2源等と共に、Al
2O
3源を転炉に添加する。
なお、吹錬の初期とは、例えば、吹錬の開始から終了までの時間を100%として、吹錬開始から10%程度までの範囲を意味する。これらの副原料は、必ずしも同時に添加する必要はなく、個別に断続的に添加してよいが、滓化促進材であるハロゲン化物は添加しない。
【0015】
上記したAl
2O
3源には、市販のプリメルトフラックスを使用できるが、リサイクルの観点から、例えば、製鉄所で発生するAl
2O
3含有廃材及びAl
2O
3含有副産物のいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。
なお、Al
2O
3含有廃材には、例えば、Al
2O
3を含有した廃棄耐火物を使用でき、また、Al
2O
3含有副産物には、例えば、取鍋スラグを使用できる。
【0016】
脱炭処理が終了した後は、必要に応じて溶鋼の成分分析を行い(出鋼待ち)、転炉からの出鋼と排滓を順次行う。
なお、脱炭処理後の溶鋼は、例えば、成分が、C:0.03〜1.0%、P:0.005〜0.021%、であり、温度が1650〜1720℃程度である。
上記したように、転炉への溶銑装入開始から、転炉からの出鋼及び排滓完了までの操作(即ち、1サイクル)を順次行うことで、溶鋼を製造できる。
【0017】
このように、溶銑の精錬においては、転炉に使用する媒溶材の滓化促進材として、Al
2O
3が広く利用されるようになり、このAl
2O
3源として、例えば、上記したAl
2O
3含有廃材やAl
2O
3含有副産物も使用することで、廃棄物の削減も図ってきた。
しかし、転炉内にAl
2O
3を添加する場合、転炉耐火物として一般に利用されているMgO系煉瓦(例えば、マグカーボン煉瓦)の溶損が顕著になることから、Al
2O
3の添加量増加には限界があった。
【0018】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、転炉内へのAl
2O
3添加量を増加しても、煉瓦(転炉耐火物)の溶損を抑制できる精錬方法として、転炉内のスラグ中のAl
2O
3濃度が3.5%以上となるようにAl
2O
3源を添加するに際し、転炉内のスラグの質量に対して内数で7%を超える量のMgO質量を含むMgO含有造滓材(以下、単に造滓材ともいう)を更に添加して、転炉の溶銑装入開始から出鋼及び排滓完了までに要する時間を1チャージあたり30分以内にすることに想到した。以下、詳しく説明する。
【0019】
まず、表1に示すような転炉スラグの組成において、Al
2O
3添加によるMgO溶解度への影響を、熱力学的に調査した。
【0021】
ここで、塩基度を一定とし、MnO、FeO、CaO、及びSiO
2の4成分に関するスラグ中の含有質量を一定とした条件下で、Al
2O
3のスラグ中の含有質量を変更したときに、MnO、FeO、CaO、SiO
2、及びAl
2O
3の5成分のスラグ中の含有率の合計値を「100%」とした場合における飽和MgO含有率を、市販の計算ソフト(FactSage(登録商標))により求めた。なお、表1中の「C/S」は、塩基度(スラグ中のCaOとSiO
2との質量濃度比(%CaO/%SiO
2))である。また、表1において、前記5成分のスラグ中の含有率の合計値が100%にならない場合があるのは、各成分の含有率を四捨五入した際の誤差による。そして、表1に記載した「飽和MgO(%)」は、前記5成分も含めた6成分を100%とした場合の内数で示した数値であるため、各飽和MgO(%)に対応する前記5成分のスラグ中濃度は、当該飽和MgO(%)を内数とするように再計算する必要がある。
表1から、Al
2O
3濃度の増加に伴い、スラグの飽和MgO濃度が増加していることがわかる。このため、滓化促進材としてAl
2O
3を添加すると、煉瓦中のMgOがスラグへ溶出する量が増えることになり、煉瓦の溶損が進行すると考えられる。なお、この結果は、熱力学的平衡状態におけるバランスで求めたものであり、反応速度は考慮されていない。
【0022】
副原料としての生石灰等の滓化を促進するためには、スラグ中のAl
2O
3濃度を少なくとも3.5%以上にしないと、Al
2O
3源の添加効果が現れない。この滓化促進効果は、スラグ中のAl
2O
3濃度を高めるほど高くなることが従来の知見から分かっているが、このAl
2O
3濃度を高くするとスラグのフォーミングが激しくなる傾向が見られるほか、上記したようにスラグのMgO飽和濃度が高くなるので、煉瓦が溶損し易くなる。
そこで、上記した結果から、煉瓦の溶損を抑制するためには、Al
2O
3を含むスラグの煉瓦への接触時間を短縮して、熱力学的平衡状態にまで至らないようにすることが有効であると考えた。
以上のことから、次に、前記した転炉への溶銑装入、吹錬、出鋼待ち、出鋼、排滓、という処理サイクルのサイクルタイム(1チャージあたり要する時間)が、煉瓦の溶損速度に及ぼす影響を、調査検討した。
【0023】
ここでは、溶銑成分が、C:3.4〜4.0%、Si:0.01〜0.10%、P:0.005〜0.045%、装入温度が1280〜1350℃の溶銑80トンを、上底吹き転炉へ装入し、脱炭処理を実施した。脱炭処理後の終点成分は、C:0.03〜1.0%、P:0.005〜0.021%、終点温度が1650〜1720℃、である。
なお、上記条件で脱炭処理を行うに際しては、脱炭処理後の転炉内のスラグの平均塩基度を3.5〜4.0とし、該スラグ中の平均Al
2O
3濃度が3〜14%となる範囲で転炉内にAl
2O
3源を添加し、更に添加するMgO含有造滓材の(脱炭処理後のスラグの全質量に対する内数で)平均MgO濃度(以下、インプットMgO濃度という)が3〜14%になるように調整した。ここで、上記した塩基度は、溶銑予備処理を行った溶銑の精錬において、Al
2O
3を使用することも考慮し、溶銑の脱りん能に必要な値を考慮して設定した。
【0024】
上記した条件で調査した結果を、
図1に示す。
なお、
図1において、区間溶損速度(mm/ch)とは、同一炉代の炉回数(処理チャージ数)のうち、ある一定区間(ある処理チャージ数区間(ch))における1チャージ(ch)当たりの煉瓦の溶損厚み(mm)、即ち、ある一定区間での溶損速度(傾き)を意味している。つまり、区間溶損速度が遅い(値が小さい)ほど、煉瓦の溶出を低減できることを意味する。なお、煉瓦の厚みは、公知のレーザプロフィールメータにより測定した。
図1に示すように、サイクルタイムが短くなると、区間溶損速度が低下し、特に、サイクルタイムが30分以内であれば、区間溶損速度の上昇を抑制できる(区間溶損速度を0.20mm/ch未満に低減できる)ことが判明した。
【0025】
ここで、サイクルタイムに対する出鋼待ち時間の比率が、煉瓦の溶損速度に及ぼす影響を示した結果を、
図2に示す。
図2に示すように、サイクルタイムに対する出鋼待ちの時間比率が低いほど、即ち、出鋼待ち時間が短くなるほど、煉瓦の区間溶損速度が低下したことから、区間溶損速度の低下には、出鋼待ち時間の短縮の効果が大きいことも判明した。
これは、吹錬処理後の溶鋼温度が高温であることが影響しているものと考えられる。このため、区間溶損速度の低下には、溶鋼温度が高温となる脱炭処理の時間短縮の効果も大きいものと考えられる。
【0026】
以上のことから、転炉内に多量のAl
2O
3を添加するに際し、煉瓦の溶損を抑制するには、サイクルタイムを30分以下にする必要があることが判明した。
しかし、スラグ中のAl
2O
3濃度が増加するに伴い、スラグがフォーミングするため、サイクルタイムを30分以下に安定して短縮するためには、何らかの対策を必要とする。
そこで、スラグのフォーミングを抑制するため、前記したように、吹錬の開始前又は吹錬の初期に転炉内にAl
2O
3源を添加するに際し、MgO含有造滓材も併せて添加して、その添加効果を調べることにした。
なお、MgO含有造滓材の添加時期は、吹錬の初期であれば特に限定されるものではなく、Al
2O
3源と同時でもよいし、また、いずれが先でもよい。この造滓材には、例えば、MgOを含有した市販の材料や、軽焼ドロマイト等を使用できる。
【0027】
このMgO含有造滓材の添加により、スラグ中にMgOを供給することになるため、スラグ中のMgOの飽和溶解度のうちの相当部分を早期に満たすことにより、MgO系煉瓦からのMgOの溶出を抑制する効果も期待される。
ここで、前記した溶銑条件と脱炭処理条件において、インプットMgO濃度別に、転炉のサイクルタイムと、Al
2O
3濃度の変化に対する溶出MgO濃度の変化を、チャージ単位でマスバランス調査した結果について、
図3(A)、(B)、
図4(A)、(B)を参照しながら説明する。
なお、インプットMgO濃度とは、脱炭処理後の転炉内スラグの全質量を分母として、MgO含有造滓材中のMgO質量を分子とした場合の100分率であり、溶出MgO濃度(溶出(%MgO))とは、実際のスラグ中MgO濃度の分析値と、上記計算により求めたインプットMgO濃度との差である。
従って、この溶出MgO濃度の値が正(プラス)であれば、その正のMgO濃度分は、MgO含有造滓材中のMgO以外のMgO源からスラグ中に移行したものと考えられ、具体的には、転炉煉瓦のMgOがその起源と考えられる。
【0028】
まず、転炉に添加する造滓材のMgO濃度を3%以上14%以下の範囲で変化させ、転炉のサイクルタイムを30分以内とした結果を、
図3(A)、(B)に示す。
【0029】
図3(A)に示すように、インプットMgO濃度を、3%以上7%以下の範囲で変化させた場合、インプットMgO濃度が3〜5%(◆印)では、Al
2O
3濃度が4%程度でも溶出MgO濃度が正の値となり高かった。また、インプットMgO濃度が5〜6%(□印)では、上記した3〜5%の場合に比べて溶出MgO濃度は減少するが、Al
2O
3濃度が高くなると溶出MgO濃度が上昇していた。
しかし、インプットMgO濃度を6〜7%(▲印)にすると、溶出MgO濃度の値のレベルが小さくなったことに加えて、Al
2O
3濃度が高くなった場合の溶出MgO濃度の上昇への影響も小さくなっていた。
【0030】
一方、
図3(B)に示すように、インプットMgO濃度を、7%超14%以下の範囲で変化させた場合、インプットMgO濃度が7〜8%(◇印)でも、またそれ以上(■印、△印、×印)でも、溶出MgO濃度の値はインプットMgO濃度が6〜7%の場合に比べて更に小さくなり、殆ど全部が1%以下で、多くは負(マイナス)の値になっていた。しかも、Al
2O
3濃度が3〜10%の範囲で、Al
2O
3濃度が高くなったことによる溶出MgO濃度の上昇への影響も殆ど認められなかった。
【0031】
従って、サイクルタイムを30分以内とした場合においては、滓化促進のためにAl
2O
3濃度を高めて3%以上とした場合にも、インプットMgO濃度を7%超にすることにより、溶出MgOを安定的に低減できることが分った。
ただし、滓化促進効果を安定的に発揮させるためには、Al
2O
3濃度を3.5%以上にすることが効果的と分かっていることや、前記した特許文献2の記載で3.5%超で転炉耐火物の溶損が急激に増加すると分かっていることから、スラグ中Al
2O
3濃度の下限値は3.5%としておくことが適当と考えられる。この場合、溶出MgO濃度を安定して小さくするために、インプットMgO濃度を7%超にしておく必要がある。
また、このインプットMgO濃度を7%超と高くしておくことにより、スラグのフォーミングも抑制されるので、サイクルタイムが30分以内の高能率吹錬が安定して達成されるという効果もある。なお、インプットMgO濃度を3〜5%と低くした場合にも、スラグフォーミング抑制効果はある程度認められ、それゆえに、サイクルタイムを30分以下にすることができたのであるが、その効果は十分でない場合もあって、一部ではサイクルタイムを予定した30分以内に収めることができなかった。
【0032】
一方、スラグ中Al
2O
3濃度を高くすると、スラグ量が当然に増加するので、MgO濃度を7%超に高めてスラグフォーミングを抑えてあるにしても、その抑えられたスラグフォーミングの吹錬安定性への影響が現れてくるため、実際上今回調査した10%が上限である。
また、インプットMgO濃度を高くしても、その溶出MgO低減効果が更に高まる訳ではなく、全体としてのスラグ量が多くなってしまうし、またMgO含有造滓材のコストも嵩むため、実際上今回調査した14%以下で十分である。なお、コスト面を重視するなら、インプットMgO濃度は8%以下とすることが好ましい。
【0033】
次に、転炉のサイクルタイムを30分超とし、転炉に添加する造滓材のMgO濃度を3%以上10%以下の範囲で変化させた結果を、
図4(A)、(B)に示す。
図4(A)に示すように、インプットMgO濃度を3%以上7%以下の範囲で変化させた場合、上記した
図3(A)と同様、Al
2O
3濃度が上昇するに伴って、溶出MgO濃度も上昇する傾向にあった。
また、
図4(B)に示すように、インプットMgO濃度を7%超10%以下の範囲で変化させた場合にも溶出MgO濃度が小さくならず、上記した
図3(B)と比較して、インプットMgO濃度を7%超にして溶出MgO濃度を低減する効果を確認できなかった。
【0034】
以上のことから、転炉内に、Al
2O
3を3.5%以上と多量に添加するに際し、更に、インプットMgO濃度が7%超のMgO含有造滓材を添加すると共に、転炉のサイクルタイムを30分以内にすることで、初めて煉瓦の溶損を抑制できると分った。
【0035】
ここで、MgO含有造滓材は、前記した
図3(A)、(B)に示すように、添加により、Al
2O
3濃度の上昇に伴うスラグのフォーミングを抑制でき、その結果、転炉のサイクルタイムの短縮が図れ、また、インプットMgO濃度が7%を境として、煉瓦の溶損抑制効果が顕著になることから、インプットMgO濃度を7%超(更には7.1%以上)とした。
一方、造滓材のインプットMgO濃度の上限値については、インプットMgO濃度を7%超とすることで、スラグのフォーミング抑制や、煉瓦の溶損抑制効果が得られるため、特に規定する必要はない。しかし、インプットMgO濃度を高め過ぎても、前記したように、溶出MgOの低減効果の更なる顕著な向上はなく、また、全体としてのスラグ量の増加や、造滓材のコストの増加、更には、造滓材の入れ過ぎに伴う不要なコストの上昇(例えば、熱ロスに伴う熱の付与)を招くため、現実的には、14%(更には8%)以下程度である。
【0036】
また、Al
2O
3の多量添加とは、前記したように、転炉内のスラグ中のAl
2O
3濃度が3.5%以上となるように添加することを意味する。なお、Al
2O
3濃度を3.5%以上としたのは、従来、スラグ中のAl
2O
3濃度が2〜3%程度だったためであるが、Al
2O
3濃度
を更に高めることで(例えば、6%以上)、本発明の効果がより顕著になる。
一方、スラグ中のAl
2O
3濃度の上限値については、Al
2O
3濃度の上昇と共に、例えば、前記した製鉄所で発生するAl
2O
3含有廃材やAl
2O
3含有副産物の使用量を増加できるため、特に規定していない。しかし、Al
2O
3濃度を高め過ぎると、それに伴う造滓材の添加量の不要な増加を招き、また、前記したように、スラグフォーミングの吹錬安定性への影響が現れてくるため、現実的には、10%以下程度である。
【0037】
転炉のサイクルタイムは、上記した
図3(A)、(B)、
図4(A)、(B)に示す結果から、30分を境として、煉瓦の溶損抑制効果が顕著になることから、前記したように30分以内(更には29分以内)とした。
一方、転炉のサイクルタイムの下限値については、煉瓦の溶損を抑制する観点から、サイクルタイムを短縮することが好ましいため、特に規定していないが、転炉操業を考慮すれば、現実的には、19分程度である。なお、サイクルタイムの短縮方法としては、転炉から溶銑が溢れ出さない範囲で、吹錬時の吹酸速度を調整(上昇)する方法等がある。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について、比較例と共に説明する。
実施例と比較例は共に、溶銑成分(溶銑条件)が、C:3.4〜4.0%、Si:0.01〜0.10%、P:0.005〜0.045%の範囲内、温度が1280〜1350℃の範囲内にある溶銑80トンを、上底吹き転炉へ装入し、上吹き酸素の供給開始とほぼ同時に(上吹き酸素の供給開始から30秒間以内に)、副原料として生石灰と珪砂のほか、Al
2O
3源として取鍋スラグを、MgO含有造滓材として軽焼ドロマイトを、それぞれ必要量添加して、脱炭処理を実施した。なお、脱炭処理後の終点成分(終点結果)は、C:0.03〜1.0%、P:0.005〜0.021%の範囲内で、終点温度が1650〜1720℃の範囲内、である。
ここで、転炉処理条件とその処理結果、及び区間溶損速度の平均値の一覧を、表2に示す。なお、表2に記載のサイクルタイム及び区間溶損速度のデータは、前記した
図1、
図2で説明した方法により得た結果である。
【0039】
【表2】
【0040】
上記した表2において、試験No.1〜9は、本発明で規定するスラグ中のAl
2O
3濃度(3.5%以上)において、転炉内に添加するMgO含有造滓材中のインプットMgO濃度(7%超)とサイクルタイム(30分以内)を満足する実施例であり、試験No.10〜20は、本発明で規定するインプットMgO濃度とサイクルタイムのうち、少なくとも1つの条件が満足しない比較例である。以下、説明する。
【0041】
試験No.1〜9の実施例は全て、転炉内にAl
2O
3を多量添加するに際し、インプットMgO濃度を7%より高くし、サイクルタイムを30分以内にした結果である。
表2に示すように、区間溶損速度は0.13〜0.15mm/chと低く、また、比較的バラツキも小さく、安定していた。
【0042】
一方、試験No.10〜13は、サイクルタイムを30分以内にしたものの、インプットMgO濃度を7%以下にした比較例である。
表2に示すように、区間溶損速度は実施例よりも大きい0.20〜0.23mm/chとなった。これは、インプットMgO濃度が低いため、スラグの飽和MgO濃度とインプットMgO濃度の差が大きく、煉瓦溶損の駆動力が大きくなったことで、溶損が進行したことによるものと考えられる。
【0043】
また、試験No.14〜17は、インプットMgO濃度を7%超9%以下にしたものの、サイクルタイムを30分より長くした比較例である。
表2に示すように、サイクルタイムが長くなるに伴い、区間溶損速度も0.21〜0.26mm/chと大きくなった。これは、転炉の煉瓦とスラグとの接触時間が長くなったことで、スラグ中のMgO濃度がより飽和MgO濃度へ近づくため、溶損が進行したものと考えられる。
【0044】
試験No.18〜20は、上記した試験No.10〜13と試験No.14〜17の両条件が重なった下での比較例である。このため、表2に示すように、煉瓦の溶損は一層助長され、区間溶損速度は0.30〜0.70mm/chとなり、他の比較例よりも更に大きくなった。
【0045】
また、前記した
図3、
図4に示すチャージ単位のマスバランス評価結果から、Al
2O
3濃度を更に高めても、インプットMgO濃度を7%より高くすることで、サイクルタイムを30分以内にでき、その結果、溶出MgOを低減することができた。
【0046】
以上のことから、本発明の溶銑の精錬方法を使用することで、スラグ中のAl
2O
3濃度を高めても、スラグフォーミングを抑制すると共に煉瓦の溶損を抑制(区間溶損速度:0.20mm/ch未満)できることを確認できた。