特許第6167837号(P6167837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167837
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】直接還元方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 13/02 20060101AFI20170713BHJP
【FI】
   C21B13/02
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-215125(P2013-215125)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-78403(P2015-78403A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(72)【発明者】
【氏名】西村 恒久
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−014839(JP,A)
【文献】 特開平03−130314(JP,A)
【文献】 特開平01−149911(JP,A)
【文献】 特開平04−165009(JP,A)
【文献】 特開2011−149085(JP,A)
【文献】 特開昭57−171608(JP,A)
【文献】 特開平07−216418(JP,A)
【文献】 特開平02−236210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00−5/06
C21B 11/00−15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を主体とした還元ガスを用いて還元鉄を製造するシャフト炉方式の直接還元方法であって、
吹き込まれる還元ガスと装入される原料の物質収支によって決定される酸素交換線図上の操業線情報を、ヘマタイトのO/Fe及びガス排出口における還元ガスのガス組成から特定されるA点と、還元鉄を排出する排出口における還元鉄組成及び還元ガスのガス流入口におけるガス組成から特定されるB点とに基づき取得する第1のステップと、
前記操業線に基づき、原料に含まれるヘマタイトが全てマグネタイトに変化するM点でのガス利用率ηを推定する第2のステップと、
還元ガス及び原料について、前記M点と、前記A点及び前記B点との間の物質量バランス及び熱収支をとることにより、前記M点での還元ガスのガス温度Tg,Mを推定するとともに、このガス温度Tg,Mに基づき、以下の式Aから平衡ガス利用率ηを推定する第3のステップと、
平衡ガス利用率ηからガス利用率ηを減じた△ηが、還元粉化抑制の観点から定められる第1の所定値よりも小さい場合に、前記△ηを前記第1の所定値よりも増大させるアクションを実施する第4のステップと、
を有することを特徴とする直接還元方法。
[式A]
・・・・・・(式A)
ただし、KCO(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+CO=(3/0.85)FeO1.05+COの平衡定数であり、
H2(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+H=(3/0.85)FeO1.05+HOの平衡定数であり、
g1,M前記M点での還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g2,M前記M点での還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g3,M前記M点での還元ガスに含まれるHの流量であり、
g4,M前記M点での還元ガスに含まれるHOの流量であり、
s,M:前記M点での原料の温度であり、前記Tg,Mと同じである。
【請求項2】
前記△ηが前記第1の所定値よりも大きい第2の所定値より大きい場合に、前記△ηを減少させるアクションを実施することにより、前記△ηを前記第1の所定値に接近させることを特徴とする請求項1に記載の直接還元方法。
【請求項3】
前記第4のステップにおいて、
前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスのCO濃度を増大させる第1のアクション、
前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの温度を上昇させる第2のアクション、還元鉄の排出速度を減速、或いは前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度を増速する第3のアクション、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度及び還元鉄の排出速度を等比率で増大する第4のアクションのうち少なくとも一つのアクションを実施することを特徴とする請求項1に記載の直接還元方法。
【請求項4】
原料をシャフト炉内で降下させながら、水素を主体とした還元ガスを用いて、ヘマタイトからマグネタイトに、マグネタイトから還元鉄に順次還元するシャフト炉方式の直接還元方法であって、
ヘマタイトに対応する第1の位置において、還元ガスのガス温度、還元ガスのガス組成毎の流量、原料の温度及び原料組成毎の重量比、を取得する第1のステップと、
還元鉄に対応する第2の位置において、還元ガスのガス温度、還元ガスのガス組成毎の流量、原料の温度及び原料組成毎の重量比、を取得する第2のステップと、
還元ガス及び原料について、前記第1及び第2の位置と、原料に含まれる全てのヘマタイトがマグネタイトに変化する第3の位置との間において、物質量バランスおよび熱収支をとることにより、前記第3の位置での還元ガスのガス温度Tg,Mを推定するとともに、以下の式Bから前記第3の位置でのガス利用率ηを推定する第3のステップと、
推定されたガス温度Tg,Mに基づき、以下の式Cから平衡ガス利用率ηを推定する第4のステップと、
平衡ガス利用率ηからガス利用率ηを減じた△ηが、還元粉化抑制の観点から定められる第1の所定値よりも小さい場合に、前記△ηを前記第1の所定値よりも増大させるアクションを実施する第5のステップと、
を有することを特徴とする直接還元方法。
[式B]
η= (Vg2,i+Vg4,i+dO)/(Vg1,i+Vg2,i+Vg3,i+Vg4,i)×100・・・・・・・・・・・・(式B)
[式C]
・・・・・・(式C)
ただし、d0:酸素の還元鉄1トン当たりの物質量を、標準状態(0℃,1atm)の気体体積に換算したものであり、
g1,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g2,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g3,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるHの流量であり、
g4,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるHOの流量であり、
CO(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+CO=(3/0.85)FeO1.05+COの平衡定数であり、
H2(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+H=(3/0.85)FeO1.05+HOの平衡定数であり、
g1,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g2,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g3,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるHの流量であり、
g4,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるHOの流量であり、
s,M:前記前記第3の位置(M点での原料の温度であり、前記Tg,Mと同じである。
【請求項5】
前記△ηが前記第1の所定値よりも大きい第2の所定値より大きい場合に、前記△ηを減少させるアクションを実施することにより、前記△ηを前記第1の所定値に接近させることを特徴とする請求項4に記載の直接還元方法。
【請求項6】
前記第5のステップにおいて、
前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスのCO濃度を増大させる第1のアクション、
前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの温度を上昇させる第2のアクション、還元鉄の排出速度を減速、或いは前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度を増速する第3のアクション、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度及び還元鉄の排出速度を等比率で増大する第4のアクションのうち少なくとも一つのアクションを実施することを特徴とする請求項4に記載の直接還元方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
高炉還元法とは異なる別の還元法として、直接還元法が知られている。直接還元法とは鉄鉱石やそれを塊成化したペレットなどをCOガスやHガスによって還元し固体の還元鉄を得るプロセスであり、高炉法より小規模な立地が可能なことやコークスを製造するために必要な粘結炭などの資源制約が少ないなどの特徴によって普及が進んでいる。直接還元法については、さらなる改善に向けた研究開発が行われてきており、特に地球温暖化対策として還元剤としての水素を活用する技術について検討が進められている。
【0002】
高炉のプロセス解析の目的は、高炉の操業要因の変更あるいは変動に対する炉の操業指標の変化を予測し、それに基づいて適切な措置をとり、炉の安定操業を確保しながら、操業成績の向上をはかることにある。高炉の安定操業を確保するためには、炉内各部で熱的なバランスがとれていること、すなわち熱収支の条件を満足することが必要であり、プロセス解析の理論も熱収支の方式によって分類することができる。
【0003】
高炉のプロセス解析理論として、リスト操業線図が知られている(例えば、非特許文献1参照)。リスト操業線図は、高炉の各種の操業要因と操業指標との関係を簡潔にグラフ化し、定量的な計算を可能としたプロセス解析法の一つである。リスト操業線図は間接還元が主に進行するシャフト部についての酸素交換線図を、炉下部における溶融還元反応などを考慮するように拡張したものであり、ここでは酸素交換線図に相当する部分について概説する。図1のグラフは、高炉の酸素交換線図を模式的に示しており、縦軸が原料の還元度合であるO/Feに対応しており、横軸が還元ガスのガス利用率(言い換えると、還元ガスの酸化度)である(CO+HO/(CO+CO+H+HO)に対応している。ただし、高炉の還元ガスはCOが主体であるため、数%しか存在しないHはここでは無視している。なお、分母の数値は還元が進む程COが少なくなる一方で、COが増大するから不変であり、分子の数値は還元が進む程CO濃度が増して増大する。
【0004】
図1の実線は操業線、破線は還元の平衡制約を示している。実線中のA点は高炉炉頂部に対応しており、高炉炉頂部から装入される装入物はFe(以下、「ヘマタイト」と称する)であるから、縦軸の数値は1.5であり、還元ガスのガス利用率は高炉炉頂部で最大となり、本例では約0.45となっている。実線中のB点はシャフト部での間接還元後の原料(以下、還元鉄と称する場合がある)及び炉下部から流入する還元ガスのガス利用率に対応している。
【0005】
A点に対応するヘマタイト→Fe(以下、「マグネタイト」と称する)の還元平衡制約点は、ヘマタイトの頭文字をとってHeqと表記している。マグネタイト→FeO1.05(以下、「ウスタイト」と称する)の還元平衡制約点は、マグネタイトの頭文字をとってMeqと表記している。ウスタイト→鉄の還元平衡制約点は、ウスタイトの頭文字をとってWeqと表記している。操業線は、A点及びB点を直線で結ぶことにより作成される。操業線上でO/Fe=1.333となる点をマグネタイトの頭文字からM点、O/Fe=1.05となる点をウスタイトの頭文字からW点と表記している。還元の平衡制約を示す破線において、Heq点とMeq点とを結ぶ破線は、ヘマタイトからマグネタイトに変わる時の平衡ガス組成に対応しており、Meq点とWeq点とを結ぶ破線は、マグネタイトからウスタイトに変わる時の平衡ガス組成に対応しており、Weq点から下に延びる破線は、ウスタイトから鉄原料に変わる時の平衡ガス組成に対応している。なお、横に延びる破線は、実際には存在しないが、便宜上、当業者間では引くことが技術常識とされている。
【0006】
この高炉の酸素交換線図を用いることにより、マグネタイト及びウスタイトにおけるガス利用率等を把握することができる。また、図2に示すように、操業線がWeq点よりも右側を通るような操業状態(還元ガスのCO濃度がより高くなる状態)は、還元が進行できなくなるため現実には実行し得ない。したがって、高炉操業において、還元を行うためには、少なくとも操業線がWeq点よりも左側を通るようなアクションを実施する必要がある。一方でこの直線の傾きは反応に消費される炭素の量を表すため、エネルギー消費や二酸化炭素排出量の削減などの観点から、上述の傾きは小さい方が好ましいと考えられている。そこで操業線をWeq点にできるだけ近づけるような操業が望ましいとして、従来から高炉の操業設計において酸素交換線図およびリスト線図が活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−253309号公報
【特許文献2】特開平5−156335号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第0207779号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鉄と鋼, Vol.79(1993)No.9, N618.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが直接還元炉の操業改善を検討したところ、装入物の降下やガスの通気性などが不安定になるという事態が発生した。調査の結果、高炉法では還元粉化しにくいとされるペレットが還元粉化していることが確認された。還元粉化はヘマタイトからマグネタイトへの相変化による強度低下が引き金になることより、直接還元炉の炉内においては、マグネタイトの停滞領域が生成していることが推定された。
【0010】
そこで、酸素交換線図による評価を直接還元炉操業に対して適用したところ、(1)高Hガスを送風する直接還元炉の酸素交換線図では、高炉操業の酸素交換線図と異なり、平衡制約領域のMeq点が低ガス利用率側に大きく張り出していること、および(2)ペレットの還元粉化が確認された条件では、操業線とMeq点が接近していること、を見いだした。これについてさらに検討を進め、以下の知見を得るに至った。
【0011】
直接還元法では、天然ガスを改質した改質ガスなどHを主体とするガスが還元ガスとして用いられる点で、還元ガスとしてCOが用いられる高炉還元法と相違する。すなわち、Meq点が操業条件および炉内条件の影響を鋭敏に受けるためその影響を適切に考慮する必要がある。したがって、高炉還元法の酸素交換線図に基づく理論を、直接還元法にそのまま適用することはできない。そこで、本願発明は、直接還元法に適した酸素交換線図を作成し、この酸素交換線図に基づき直接還元の操業を安定化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明は、一つの観点として、(1)水素を主体とした還元ガスを用いて還元鉄を製造するシャフト炉方式の直接還元方法であって、吹き込まれる還元ガスと装入される原料の物質収支によって決定される酸素交換線図上の操業線情報を、ヘマタイトのO/Fe及びガス排出口における還元ガスのガス組成から特定されるA点と、還元鉄を排出する排出口における還元鉄組成及び還元ガスのガス流入口におけるガス組成から特定されるB点とに基づき取得する第1のステップと、前記操業線に基づき、原料に含まれるヘマタイトが全てマグネタイトに変化するM点でのガス利用率ηを推定する第2のステップと、還元ガス及び原料について、前記M点と、前記A点及び前記B点との間の物質量バランス及び熱収支をとることにより、前記M点での還元ガスのガス温度Tg,Mを推定するとともに、このガス温度Tg,Mに基づき、以下の式Aから平衡ガス利用率ηを推定する第3のステップと、平衡ガス利用率ηからガス利用率ηを減じた△ηが、還元粉化抑制の観点から定められる第1の所定値よりも小さい場合に、前記△ηを前記第1のよりも増大させるアクションを実施する第4のステップと、を有することを特徴とする。
[式A]
【0013】
【0014】
ただし、KCO(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+CO=(3/0.85)FeO1.05+COの平衡定数であり、
H2(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+H=(3/0.85)FeO1.05+HOの平衡定数であり、
g1,M前記M点での還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g2,M前記M点での還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g3,M前記M点での還元ガスに含まれるHの流量であり、
g4,M前記M点での還元ガスに含まれるHOの流量であり、
s,M:前記M点での原料の温度であり、前記Tg,Mと同じである。
【0015】
(2)上記(1)の構成において、前記△ηが前記第1の所定値より大きい第2の所定値より大きい場合に、前記△ηを減少させるアクションを実施することにより、前記△ηを前記第1の所定値に接近させてもよい。(2)の構成によれば、還元粉化を抑制しながら、還元ガスのエネルギ効率を向上させることができる。
【0016】
(3)上記(1)の構成における前記第4のステップにおいて、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスのCO濃度を増大させる第1のアクション、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの温度を上昇させる第2のアクション、還元鉄の排出速度を減速、或いは前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度を増速する第3のアクション、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度及び還元鉄の排出速度を等比率で増大する第4のアクションのうち少なくとも一つのアクションを実施してもよい。
【0017】
本願発明は、別の観点として、(4)原料をシャフト炉内で降下させながら、水素を主体とした還元ガスを用いて、ヘマタイトからマグネタイトに、マグネタイトから還元鉄に順次還元するシャフト炉方式の直接還元方法であって、ヘマタイトに対応する第1の位置において、還元ガスのガス温度、還元ガスのガス組成毎の流量、原料の温度及び原料組成毎の重量比、を取得する第1のステップと、還元鉄に対応する第2の位置において、還元ガスのガス温度、還元ガスのガス組成毎の流量、原料の温度及び原料組成毎の重量比、を取得する第2のステップと、還元ガス及び原料について、前記第1及び第2の位置と、原料に含まれる全てのヘマタイトがマグネタイトに変化する第3の位置との間において、物質量バランスおよび熱収支をとることにより、前記第3の位置での還元ガスのガス温度Tg,Mを推定するとともに、以下の式Bから前記第3の位置でのガス利用率ηを推定する第3のステップと、推定されたガス温度Tg,Mに基づき、以下の式Cから平衡ガス利用率ηを推定する第4のステップと、平衡ガス利用率ηからガス利用率ηを減じた△ηが、還元粉化抑制の観点から定められる第1の所定値よりも小さい場合に、前記△ηを前記第1の所定値よりも増大させるアクションを実施する第5のステップと、を有することを特徴とする。
[式B]
【0018】
[式C]
【0019】
【0020】
ただし、d0:酸素の還元鉄1トン当たりの物質量を、標準状態(0℃,1atm)の気体体積に換算したものであり、
g1,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g2,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g3,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるHの流量であり、
g4,i:前記第2の位置における還元ガスに含まれるHOの流量であり、
CO(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+CO=(3/0.85)FeO1.05+COの平衡定数であり、
H2(T):ガス温度Tg,Mに対応する(1/0.85)Fe+H=(3/0.85)FeO1.05+HOの平衡定数であり、
g1,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g2,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるCOの流量であり、
g3,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるHの流量であり、
g4,M前記第3の位置における還元ガスに含まれるHOの流量であり、
s,M:前記第3の位置(M点での原料の温度であり、前記Tg,Mと同じである。
【0021】
(5)上記(4)の構成において、前記△ηが前記第1の所定値よりも大きい第2の所定値より大きい場合に、前記△ηを減少させるアクションを実施することにより、前記△ηを前記第1の所定値に接近させてもよい。(5)の構成によれば、還元粉化を抑制しながら、還元ガスのエネルギ効率を向上させることができる。
【0022】
(6)上記(4)の構成における前記第5のステップにおいて、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスのCO濃度を増大させる第1のアクション、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの温度を上昇させる第2のアクション、還元鉄の排出速度を減速、或いは前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度を増速する第3のアクション、前記ガス流入口から吹き込まれる還元ガスの送風速度及び還元鉄の排出速度を等比率で増大する第4のアクションのうち少なくとも一つのアクションを実施してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本願発明によれば、直接還元法に適した酸素交換線図に基づき直接還元が実施されるため、操業を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】高炉の酸素交換線図である。
図2】高炉の酸素交換線図である(還元不可の場合)。
図3】温度と平衡ガス利用率に対応したCO/(CO+CO)との関係を示すグラフである。
図4】温度と平衡ガス利用率に対応したHO/(H+HO)との関係を示すグラフである。
図5】シャフト炉の概略構成図である。
図6】酸素交換線図の作成方法を示したフローチャートである。
図7a】シャフト炉の酸素交換線図である(ステップS1に対応)。
図7b】シャフト炉の酸素交換線図である(ステップS2に対応)。
図7c】シャフト炉の酸素交換線図である(ステップS4に対応)。
図8】A点、M点及びC点におけるガス及び原料の物質量、温度などである。
図9】第2実施形態のフローチャートである。
図10】CO濃度増大による効果を定量的に示した酸素交換線図である。
図11a】送風温度増大(+100K)による効果を定量的に示した酸素交換線図である。
図11b】送風温度増大(+150K)による効果を定量的に示した酸素交換線図である。
図11c】送風量増大による効果を定量的に示した酸素交換線図である。
図12】送風速度及び成品排出速度を等比率で増大したときの効果を定量的に示した酸素交換線図である。
図13】送風速度及び成品排出速度をともに増大したときの効果を定量的に示した酸素交換線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(直接還元法における還元粉化)
直接還元法において、還元粉化が重要となる理由を説明する。これが、本願発明の基礎となる。図3は、温度と平衡ガス利用率に対応したCO/(CO+CO)との関係を示すグラフである。図4は、温度と平衡ガス利用率に対応したHO/(H+HO)との関係を示すグラフである。これらの還元平衡におけるガス利用率は、熱力学の手法から温度によって決定できる。
【0026】
図3を参照して、高炉のように主にCOガスを用いた還元方式では、マグネタイトからウスタイトに還元する場合の平衡ガス利用率が0.56以上となる。通常の高炉操業では、この平衡制約が問題となることはない。つまり、高炉の場合、理論上、ガス温度の高低に関わらず、ガス利用率が0.56よりも小さければ、マグネタイトからウスタイトへの還元反応を継続することができる。すなわち、高炉の一般的な操業条件を考慮すると炉内条件にかかわらずMeq点が移動し操業に影響を及ぼすことはほぼありえない。
【0027】
図4を参照して、直接還元炉のように主にHガスを用いた還元方式では、低温になるほど平衡ガス利用率が低下する。Hガスによる還元は、一般に吸熱反応であり、炉内の温度もCO還元と比較して低位となることも、この傾向を助長する。そのため直接還元では操業条件や炉内条件によってMeq点が移動するとともに、その還元の平衡制約が操業上の重要な問題となる。直接還元炉内で、特にウスタイトまでの還元が活発に進行する温度は600〜800℃程度であることが知られている。特に実験、モデル解析等の結果から、還元ガスの組成がH/CO>1となる条件下で(吹込みガスがHO及びCOを含む場合には、(H+HO)/(CO+CO)>1となる条件下で)、この傾向が顕著となることがわかった。さらに、還元反応速度は一般に、雰囲気の還元ガス濃度Cと、その還元ガスによって到達する平衡における還元ガス濃度Ceの差に比例することが知られている(萬谷志郎:金属化学入門シリーズ2 鉄鋼製錬、日本金属学会(2000)、p.54)。
【0028】
すなわち、Meq点の還元が制約となることで、マグネタイトの還元が停滞して、その領域が炉内で拡大するとともに、これが装入物の降下に伴う衝撃を受けて粉化することによって(つまり、還元粉化が起こる)、ガス流れが阻害され、操業が不安定化する。還元粉化は、低温領域におけるヘマタイトからマグネタイトへの還元に伴う、体積膨張に基づく結合組織の破壊であることが知られており、マグネタイトの状態で還元が停滞すると、還元粉化が起こる。
(第1実施形態)
図面を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。図5は、直接還元法を有効に実施するためのシャフト炉(還元炉に相当する)の概略構成図である。シャフト炉1は、竪型シャフト炉であり、ガス排出口11、ガス吹き込み口12及び還元鉄排出口13を備え、原料を還元する。ガス吹き込み口12は、シャフト炉1の略中段に形成されており、シャフト炉1の内部に還元ガスを供給する。還元ガスには、天然ガス、天然ガスを改質したHを主成分とする改質ガスを用いることができる。
【0029】
還元ガスは、シャフト炉1の炉頂部から装入される原料を還元した後、炉頂部に設けられたガス排出口11から排ガスとして排気される。還元された原料、つまり、還元鉄は、炉下部を循環する冷却ガス(不図示)によって冷却された後、炉下部に設けられた還元鉄排出口13から排出される。
【0030】
原料には、Feを主成分とする鉄鉱石及びその加工品を用いることができる。加工品には、塊状鉄鉱石、燒結鉱、粉状鉄鉱石を塊成化したペレット又はブリケットを用いることができる。
【0031】
図6のフローチャートは、酸素交換線図の作成手順を示している。図7(a)は図6のステップS1に対応しており、図7(b)は図6のステップS2に対応しており、図7(c)は図6のステップS4に対応している。
【0032】
ステップS1において、A点およびB点を求める。A点はヘマタイトのO/Feとガス排出口11における還元ガスのガス利用率とから、特定することができる。ヘマタイトのO/Feは1.5であるから、A点の縦軸の値は1.5である。A点における還元ガスのガス利用率(横軸の値)は、ガス排出口11から排出される還元ガスのガス組成を調べるとともに、(CO+HO)/(CO+CO+H+HO)なる計算式から算出することができる。ガス組成は、たとえば、JIS K2301に規定されているような赤外線ガス分析法などによって測定することができる。B点は、還元鉄排出口13から排出される還元鉄のO/Feとガス吹き込み口12から吹き込まれる還元ガスのガス利用率とから、特定することができる。還元鉄のO/Feは、たとえば、JIS M8212(全鉄量)、M8213(鉄(ii)量)、ISO5416(金属鉄量)で測定する組成や特開2002−88417号公報で測定する金属化率などから評価することができる。つまり、図7(a)に図示するように、原料の入口および出口におけるO/Feと、還元ガス吹き込み口および排出口におけるガス組成と、に基づき、還元ガスのガス利用率の増大に応じて原料のO/Feが漸次増大する操業線情報を取得することができる。
【0033】
ステップS2において、操業線上におけるM点を求める。ここで、M点は、背景技術で説明したようにマグネタイトに対応しているから、O/Feが1.33となる操業線上の点にプロットされる(図7(b)参照)。これにより、M点でのガス利用率ηを求めることができる。
【0034】
ステップS3において、M点における還元ガスのガス温度Tg,Mを推定する。図8を参照しながら、ガス温度Tg,Mの推定方法について、詳細に説明する。原料と表示された点線の内側には、原料に含まれる金属の組成が示されており、図7(b)のA点に対応している。本実施形態では、一般的な製鉄原料を原料としており、ヘマタイトがGs1,i(kg/t−DRI)、マグネタイトがGs2,i(kg/t−DRI)、ウスタイトがGs3,i(kg/t−DRI)、FeがGs4,i(kg/t−DRI)、CaOがGs5,i(kg/t−DRI)、SiOがGs6,i(kg/t−DRI)、AlがGs7,i(kg/t−DRI)、MgOがGs8,i(kg/t−DRI)含まれている。なお、「i」は「input」の略である。
【0035】
s,i(K)は、原料の温度である。M点原料と表示された点線の内側には、M点での原料に含まれる金属の組成などが示されており、図7(b)のM点に対応している。成品と表示された点線の内側には、還元鉄に含まれる金属の組成などが示されており、図7(b)のB点に対応している。なお、「o」は「output」の略である。
【0036】
送風ガスと表示された点線の内側には、ガス吹き込み口12から吹き込まれる還元ガスの組成が示されている。本実施形態では、直接還元法で一般的に使用されるガスを還元ガスとしており、そのガス組成は、COのガス流量がVg1,i(Nm/t‐DRI)、COのガス流量がVg2,i(Nm/t‐DRI)、Hのガス流量がVg3,i(Nm/t‐DRI)、HOのガス流量がVg4,i(Nm/t‐DRI)、Nのガス流量がVg5,i(Nm/t‐DRI)である。
【0037】
g,i(K)は、ガス吹き込み口12における還元ガスのガス温度である。M点ガスと表示された点線の内側には、M点での還元ガスの組成などが示されている。炉頂ガスと表示された点線の内側には、ガス排出口11から排気される還元ガスのガス組成などが示されている。
【0038】
M点の定義(ヘマタイトがすべてマグネタイトに還元された段階)から、以下の条件式が導かれる。
【式1】
【0039】
【式2】
【0040】
【式3】
【0041】
【式4】
【0042】
【0043】
ここで、上記式(2)において、「55.85」はFeの原子量であり、「16」は酸素の原子量である。式(3)は、ウスタイト、Fe、CaO、SiO、Al及びMgOの含有量は、ヘマタイトからマグネタイトに変化する際に、変化しないということを意味している。式(4)は、還元ガスに含まれるNの含有量は、ヘマタイトからマグネタイトに変化する際に、変化しないということを意味している。
【0044】
Cについての物質収支より、以下の条件式が導かれる。
【式5】
【0045】
【0046】
Hについての物質収支より、以下の条件式が導かれる。
【式6】
【0047】
【0048】
Oについての物質収支より、
【式7】
【0049】
とすると、
【式8】
【0050】
すなわち、
【式9】
【0051】
【0052】
となる。d0(m/t)は、酸素の成品1トン当たりの物質量を、標準状態(0℃,1atm)の気体体積に換算したものである。
【0053】
ここで、M点での還元ガスと固定の温度差、つまり、Tg,M−Ts,Mは0と考えてよい。炉体からの熱損失が評価されている場合、熱損失としての−Q(J/t−DRI)(Q≧0)はM点より下の部分で生じるものとする。各化学種の生成エンタルピーを以下のように表す。
(還元ガスについて)
CO生成エンタルピー:ΔHfg1 (J/Nm
CO生成エンタルピー:ΔHfg2 (J/Nm
生成エンタルピー:ΔHfg3 (J/Nm
O(g)生成エンタルピー:ΔHfg4 (J/Nm
生成エンタルピー:ΔHfg5 (J/Nm
(原料について)
Fe生成エンタルピー:ΔHfs1(J/kg)
Fe生成エンタルピー:ΔHfs2(J/kg)
FeO1.05生成エンタルピー:ΔHfs3 (J/kg)
Fe生成エンタルピー:ΔHfs4(J/kg)
CaO生成エンタルピー:ΔHfs5(J/kg)
SiO生成エンタルピー:ΔHfs6(J/kg)
Al生成エンタルピー:ΔHfs7(J/kg)
MgO生成エンタルピー:ΔHfs8(J/kg)
また、熱容量(定圧比熱)について以下のように温度の関数として表せるものとする。
(還元ガスについて)
CO熱容量:Cpg1(T)(J/Nm.K)
CO熱容量:Cpg2(T)(J/Nm.K)
熱容量:Cpg3(T)(J/Nm.K)
O(g)熱容量:Cpg4(T)(J/Nm.K)
熱容量:Cpg5(T)(J/Nm.K)
(原料について)
Fe熱容量:Cps1(T)(J/kg.K)
Fe熱容量:Cps2(T)(J/kg.K)
FeO1.05熱容量:Cps3(T)(J/kg.K)
Fe熱容量:Cps4(T)(J/kg.K)
CaO熱容量:Cps5(T)(J/kg.K)
SiO熱容量:Cps6(T)(J/kg.K)
Al熱容量:Cps7(T)(J/kg.K)
MgO熱容量:Cps8(T)(J/kg.K)
ここで送風ガス及び成品とM点の間で、(入熱量)=(出熱量)として熱収支をとると、次式が得られる。
【式10】
【0054】
【0055】
ここで、Tは、一般的に、基準となる温度で任意の値を与えられるが、ここでは熱力学の分野において基準状態の温度として一般的に用いられている298Kを用いる。
【0056】
また、M点について水性ガスシフト反応である下記(11)式の平衡が成立していると仮定すると、その平衡定数Kw=[CO][H]/[CO][HO]は、熱力学の手法でガス温度Tg,Mから求めることができる。
【式11】
【0057】
【0058】
よって、水性ガスシフト反応によるCOおよびHOの消費量とCOおよびHの生成量は等しいのでこれをdWとおき、
【式12】
【0059】
【式13】
【0060】
【式14】
【0061】
【式15】
【0062】
とすると、(10)式および下記(16)式
【式16】
【0063】
を満たすように、Ts,MおよびdWを求めればよい。例えば、Newton−Raphson法や二分法などの数値計算手法で求めることができる。
【0064】
ステップS4において、ガス温度Tg,Mにおける平衡ガス利用率ηを推定する。Meq点(平衡制約におけるM点)での平衡ガス利用率ηは、M点でのガス温度(Tg,M又はTs,M)に基づき、以下の算出式から求めることができる。
【式17】
【0065】
の平衡定数KCO(T)=[CO]/[CO]と、
【式18】
【0066】
の平衡定数KH2(T)=[HO]/[H]を、以下の式(19)に代入することによって、平衡ガス利用率ηを求めることができる。
なお、式17及び式18の係数は、CO、CO、H及びH0の係数を1とするために与えた。
【式19】
【0067】
【0068】
なお、平衡定数は、M点でのガス温度Tg,Mに基づき、例えば、公知文献の熱力学データなどから計算することができる。図7(c)は、平衡ガス利用率ηを模式的に示している。
【0069】
次に、Meq点での平衡ガス利用率ηと、M点でのガス利用率ηとの差分△ηを求める。
【式20】
【0070】
ここで、△ηは好ましくは0.02以上である。△ηが0.02以上であれば、M点とMeq点とが十分に離れて、還元粉化が確実に抑制されるため、操業を安定化させることができる。すなわち、操業線がMeq点に近づきすぎると、マグネタイトからウスタイトへの還元が停滞して、炉内に脆弱なマグネタイトの領域が広範に生成され、これが衝撃を受けることで粉化して、操業変動を引き起こす。△ηが0.02以上となるようなアクションを実施することで、このような問題を抑制することができる。なお、△ηの上限値は、特に規定しない。△ηが大きくなりすぎると、還元ガスの利用効率が下がりエネルギ効率が低下するが、エネルギ効率の向上は本願の主要な課題でないから、上限値は特に規定しない。
【0071】
ここでΔηの適正値(第1の所定値に相当する)を0.02以上とした理由は、実験結果において、還元粉化により発生した粉の量を還元炉内でもっとも粉化が激しかった領域における3mm以下の重量分率(以下この値を「粉率」とする)で評価したところ、Δηが0.02以上ではほとんど有意な差が見られなかったのに対し、Δηが0.02以下では粉率の増大が顕著になったことによる。上述の第1の所定値の推奨値は、実験的検討に基づく一例である。本願発明の実施に際しては、使用している原料の還元粉化特性や当該還元炉の通気状況に応じて適宜変更されるべきものである。
【0072】
(第2実施形態)
上述の実施形態では、A点及びB点を特定して、操業線図を作成するとともに、この操業線図からM点でのガス利用率ηを求めたが、本実施形態は、操業線図を作成せずに、計算式からM点でのガス利用率ηを求める。図9は、本実施形態のフローチャートであり、実施形態1の図6に対応している。
【0073】
ステップS11において、ヘマタイトに対応する第1の位置において、還元ガスのガス温度、還元ガスのガス組成毎の流量、原料の温度及び原料組成毎の重量比を取得する。ここで、第1の位置は、実施形態1のA点に対応している。したがって、還元ガスのガス温度は、実施形態1のTg,o(K)に対応しており、ガス組成毎の流量は、実施形態1のVg1,o(Nm/t‐DRI)、Vg2,o(Nm/t‐DRI)、Vg3,o(Nm/t‐DRI)、Vg4,o(Nm/t‐DRI)、Vg5,o(Nm/t‐DRI)に対応している。また、原料の温度は、実施形態1のTs,i(K)に対応しており、原料組成ごとの重量比は、実施形態1のGs1,i(kg/t−DRI)、Gs2,i(kg/t−DRI)、Gs3,i(kg/t−DRI)、Gs4,i(kg/t−DRI)、Gs5,i(kg/t−DRI)、Gs6,i(kg/t−DRI)、Gs7,i(kg/t−DRI)、Gs8,i(kg/t−DRI)に対応している。
【0074】
ステップS12において、還元鉄に対応する第2の位置において、還元ガスのガス温度、還元ガスのガス組成毎の流量、原料の温度及び原料組成毎の重量比を取得する。ここで、第2の位置は、実施形態1のB点に対応している。したがって、還元ガスのガス温度は、実施形態1のTg,i(K)に対応しており、ガス組成毎の流量は、実施形態1のVg1,i(Nm/t‐DRI)、Vg2,i(Nm/t‐DRI)、Vg3,i(Nm/t‐DRI)、Vg4,i(Nm/t‐DRI)、Vg5,i(Nm/t‐DRI)に対応している。また、原料の温度は、実施形態1のTs,o(K)に対応しており、原料組成ごとの重量比は、実施形態1のGs1,o(kg/t−DRI)、Gs2,o(kg/t−DRI)、Gs3,o(kg/t−DRI)、Gs4,o(kg/t−DRI)、Gs5,o(kg/t−DRI)、Gs6,o(kg/t−DRI)、Gs7,o(kg/t−DRI)、Gs8,o(kg/t−DRI)に対応している。ただし、ステップS11及びS12の順序は、反対であってもよい。
【0075】
ステップS13において、還元ガス及び原料について、上述の第1及び第2の位置と、原料に含まれる全てのヘマタイトがマグネタイトに変化する第3の位置との間において、物質量バランスおよび熱収支をとることにより、第3の位置での還元ガスのガス温度Tg,Mを推定するとともに、以下の式21から第3の位置でのガス利用率ηを推定する。第3の位置は、実施形態1のM点に対応している。したがって、ガス温度Tg,Mは、実施形態1と同様の方法で算出することができる。
【式21】
【0076】
【0077】
ステップS14において、ガス温度Tg,Mにおける平衡ガス利用率ηを算出する。平衡ガス利用率ηの算出方法は、実施形態1と同じであるから、説明を繰り返さない。
【0078】
平衡ガス利用率ηと、ガス利用率ηとの差分△ηを求める点についても、実施形態1と同じであるから、説明を繰り返さない。
【0079】
次に、△ηを増大させる方法について説明する。以下では、還元粉化による障害が生じた条件(吹込温度:1000℃,総流量:300NL/min,CO:CO:H:HO=9.0:1.0:81.0:9.0,排出条件:12kg/h,Δη=0)の結果を細線で示し、比較している。つまり、比較例では、M点およびMeq点が重なる条件で、操業している。なお、この条件での粉率は23%であった。
【0080】
△ηを増大させるアクションとして、以下の(1)〜(4)の手段が考えられる。これらの手段は、単独で実施してもよいし、組み合わせて実施してもよい。
(1)送風ガス中のCO濃度を増大させる
送風ガス中のガス組成を、
CO:CO:H:HO=18.0:2.0:72.0:8.0に変更して、CO濃度を増大させたところ、図10に示すように、操業線及び平衡制約は細線から実線に示す位置にシフトした。その結果、△ηを0.034に増大できた。また、粉率は5.2%に減少した。CO濃度を増大させる手段として、例えば送風中に含まれるHあるいはHOを減少させたり、相対的に水素が少ない天然ガスを使用する(例えばCやCなど炭素数の多い炭化水素濃度が高い天然ガスを使用する)方法が考えられる。
【0081】
(2)吹き込み温度を上げる
吹き込み温度を上げることで、還元が促進されガス利用率ηも増大するが、平衡ガス利用率ηの増大量が相対的に大きくなるため、結果的に△ηは増大する。図11(a)の例では、吹き込み温度を+100K上昇させることで、△ηが0.008増大した。この時の粉率は14.1%であった。図11(b)の例では、吹き込み温度を+150K上昇させることで、△ηが0.037増大した。この時の粉率は5.1%であった。図11(c)の例では、吹き込み温度を+200K上昇させることで、△ηが0.096増大した。この時の粉率は4.6%であった。吹き込み温度は、送風ガス吹き込み時の加熱熱量を増大させことにより、昇温することができる。
【0082】
(3)成品排出速度を減少あるいは送風速度を増大させる。
成品排出速度を減少あるいは送風速度を増大させることにより、還元鉄単位量あたり吹き込まれる送風量である送風原単位が増大して、持込顕熱として熱供給量が相対的に増大するので、平衡ガス利用率ηが増加する。さらに、操業線の傾きが大きくなり、ガス利用率ηが減少する。図12の例では、送風速度のみを25%増大させることで、△ηが0.037増大した。この時の粉率は5.4%まで減少した。成品排出速度は、公知の方法で制御することができる。また、送風速度は、送風量を増大する処理を実施することにより、増速することができる。
【0083】
(4)送風速度及び成品排出速度を等比率で増大
送風速度と成品排出速度を等比率で増大させることにより、成品還元率が減少するため、M点での到達ガス利用率が低下する(ガス利用率ηが低下する)。図13の例では、送風速度及び成品排出速度をとも20%増大させたところ、Δηが0.02増大した。この時の粉率は6.2%であった。
【0084】
(他の実施形態)
△ηが第1の所定値よりも大きい第2の所定値より大きい場合、△ηが第1の所定値よりも小さくならない条件下で、△ηを減少させるアクションを実施してもよい。例えば、△ηが0.1である場合、送風ガスのエネルギ効率が悪いため、△ηを減少させるアクションを実施するとよい。上述の第2の所定値は、エネルギ効率の目標値に基づき、適宜設定することができる。△ηは、上記(1)〜(4)のアクションとは逆のアクションを実施することで、減少する。これにより、還元粉化を抑制しながら、エネルギ効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0085】
1 シャフト炉
11 ガス排出口
12 ガス吹き込み口
13 還元鉄排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図8
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図12
図13