(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続鋳造機の鋳型から引き抜かれた鋳片を冷却する2次冷却帯を、前記鋳片の鋳造方向に複数の冷却ゾーンへと分割し、前記鋳片へ向けて噴射される冷却水流量を各冷却ゾーンで制御することにより、前記鋳片の表面温度を制御する方法において、
前記鋳片の幅方向中心線を軸にしてその両側の対称位置に対になるように配置された表面温度測定装置により、前記鋳片の前記対称位置における表面温度を鋳造中に測定する、鋳片表面温度測定工程と、
前記連続鋳造機の鋳造速度を把握する、鋳造速度把握工程と、
前記鋳片の断面内温度、前記鋳片の表面温度、および、前記鋳片の固相率分布を計算する対象であるトラッキング面を、鋳型内湯面位置から少なくとも2次冷却制御対象の冷却ゾーン出口までの領域で、予め定めた間隔で設定する、トラッキング面設定工程と、
前記トラッキング面の、前記両側の各対称位置に、前記鋳片の表面温度の同一の目標値を定める、鋳片目標温度設定工程と、
鋳造が進むことにより、前記トラッキング面が前記鋳片の鋳造方向へ予め定めた間隔だけ進む毎に、伝熱方程式に基づく伝熱凝固モデルにより、前記鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面内温度、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度、および、前記鋳片の固相率分布を算出して更新する、温度固相率推定工程と、
前記伝熱凝固モデルで用いる前記鋳片の表面の熱伝達係数を、前記冷却水流量を用いた熱伝達係数モデルにより算出する、熱伝達係数推定工程と、
前記鋳片表面温度測定工程で測定された前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度と、前記温度固相率推定工程で推定された前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度との差を用いて、前記熱伝達係数モデルのパラメータを修正する、熱伝達係数モデルパラメータ修正工程と、
前記トラッキング面設定工程で設定された前記トラッキング面の中から、予め定めた鋳造方向に一定の間隔で、将来時刻における前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度、前記鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面内温度、および、前記鋳片の固相率分布を予測する将来予測面を設定する、将来予測面設定工程と、
鋳造が進むことによって、任意の前記将来予測面が現在時刻からその下流側に隣接する将来予測面位置まで進む間に、鋳造速度が現在時刻から変化しないと仮定して、それぞれの前記将来予測面が前記将来予測面位置に到達したときの、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度、前記鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面内温度、および、前記鋳片の固相率分布を、前記将来予測面設定工程で用いた前記間隔毎に、前記伝熱凝固モデルを用いて繰り返し予測して更新する、将来予測工程と、
鋳造が進むことによって、任意の前記将来予測面が現在時刻からその下流側に隣接する将来予測面位置まで進む毎に、鋳造速度が現在時刻から変化しないと仮定して、前記各冷却ゾーンの冷却水流量がステップ関数状に変化した場合の、それぞれの前記将来予測面が前記将来予測面位置に到達するまでに通過する、各トラッキング面位置における前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度を、前記伝熱凝固モデルを用いて予測し、該予測した前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度と、前記将来予測工程で予測した前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度との偏差を求め、該偏差およびステップ関数状に変化する前記冷却水流量に関連する将来温度影響係数を求める、将来温度影響係数予測工程と、
前記将来予測工程で予測された、前記将来予測面が前記トラッキング面位置に到達したときの前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度と、前記鋳片目標温度設定工程で定めた、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度の目標値と、を結ぶ、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における中間目標温度である鋳片表面の参照温度を算出する、鋳片表面参照温度算出工程と、
現在時刻における、前記鋳片の幅方向中心線の両側でそれぞれ独立に設定される冷却水流量を含む前記各冷却ゾーンの冷却水流量を決定変数とし、前記将来予測工程および前記将来温度影響係数予測工程の各々においてそれぞれの前記将来予測面が通過した各将来予測面位置における将来温度影響係数、ならびに、前記鋳片表面参照温度算出工程で算出した前記参照温度と前記将来予測工程で予測した前記鋳片の表面温度との偏差を算出し、それぞれの前記将来予測面で算出した該偏差の和を最小化する最適化問題の2次計画問題を特定し、該2次計画問題における決定変数に対する係数行列を算出する、最適化問題係数行列算出工程と、
前記2次計画問題を数値的に解くことにより、ステップ関数状に変化する、前記鋳片の幅方向中心線の両側各々における、前記冷却ゾーンの現在時刻における冷却水流量の変更量の最適値を求める、最適化問題求解工程と、
前記鋳片の幅方向中心線の両側各々における前記最適値を、前記鋳片の幅方向中心線の両側各々における前記冷却ゾーンの現在の冷却水流量へと加えることにより冷却水流量を変更する、冷却水流量変更工程と、を有し、
前記冷却水流量変更工程で、前記冷却水流量の変更を繰り返すことにより、鋳造中の任意の時刻において各トラッキング面が前記2次冷却制御対象の冷却ゾーン出口まで移動する間に、前記将来予測面の、前記将来予測面位置における前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度を、前記鋳片目標温度設定工程で定めた前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度の目標値に制御することを特徴とする、連続鋳造機の2次冷却制御方法。
連続鋳造機の鋳型から引き抜かれた鋳片を冷却する2次冷却帯を、前記鋳片の鋳造方向に複数の冷却ゾーンへと分割し、前記鋳片へ向けて噴射される冷却水流量を各冷却ゾーンで制御することにより、前記鋳片の表面温度を制御する装置であって、
前記鋳片の幅方向中心線を軸にしてその両側の対称位置に対になるように配置され、且つ、前記鋳片の前記対称位置における表面温度を鋳造中に測定する、鋳片表面温度測定部と、
前記連続鋳造機の鋳造速度を把握する、鋳造速度把握部と、
前記鋳片の断面内温度、前記鋳片の表面温度、および、前記鋳片の固相率分布を計算する対象であるトラッキング面を、鋳型内湯面位置から少なくとも2次冷却制御対象の冷却ゾーン出口までの領域で、予め定めた間隔で設定する、トラッキング面設定部と、
前記トラッキング面の、前記両側の各対称位置に、前記鋳片の表面温度の同一の目標値を定める、鋳片目標温度設定部と、
鋳造が進むことにより、前記トラッキング面が前記鋳片の鋳造方向へ予め定めた間隔だけ進む毎に、伝熱方程式に基づく伝熱凝固モデルにより、前記鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面内温度、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度、および、前記鋳片の固相率分布を算出して更新する、温度固相率推定部と、
前記伝熱凝固モデルで用いる前記鋳片の表面の熱伝達係数を、前記冷却水流量を用いた熱伝達係数モデルにより算出する、熱伝達係数推定部と、
前記鋳片表面温度測定部で測定された前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度と、前記温度固相率推定部で推定された前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度との差を用いて、前記熱伝達係数モデルのパラメータを修正する、熱伝達係数モデルパラメータ修正部と、
前記トラッキング面設定部で設定された前記トラッキング面の中から、予め定めた鋳造方向に一定の間隔で、将来時刻における前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度、前記鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面内温度、および、前記鋳片の固相率分布を予測する将来予測面を設定する、将来予測面設定部と、
鋳造が進むことによって、任意の前記将来予測面が現在時刻からその下流側に隣接する将来予測面位置まで進む間に、鋳造速度が現在時刻から変化しないと仮定して、それぞれの前記将来予測面が前記将来予測面位置に到達したときの、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度、前記鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面内温度、および、前記鋳片の固相率分布を、前記将来予測面設定部で用いた前記間隔毎に、前記伝熱凝固モデルを用いて繰り返し予測して更新する、将来予測部と、
鋳造が進むことによって、任意の前記将来予測面が現在時刻からその下流側に隣接する将来予測面位置まで進む毎に、鋳造速度が現在時刻から変化しないと仮定して、前記各冷却ゾーンの冷却水流量がステップ関数状に変化した場合の、それぞれの前記将来予測面が前記将来予測面位置に到達するまでに通過する、各トラッキング面位置における前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度を、前記伝熱凝固モデルを用いて予測し、該予測した前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度と、前記将来予測部で予測した前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度との偏差を求め、該偏差およびステップ関数状に変化する前記冷却水流量に関連する将来温度影響係数を求める、将来温度影響係数予測部と、
前記将来予測部で予測された、前記将来予測面が前記トラッキング面位置に到達したときの前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度と、前記鋳片目標温度設定部で定めた、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度の目標値と、を結ぶ、前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における中間目標温度である鋳片表面の参照温度を算出する、鋳片表面参照温度算出部と、
現在時刻における、前記鋳片の幅方向中心線の両側でそれぞれ独立に設定される冷却水流量を含む前記各冷却ゾーンの冷却水流量を決定変数とし、前記将来予測部および前記将来温度影響係数予測部の各々においてそれぞれの前記将来予測面が通過した各将来予測面位置における将来温度影響係数、ならびに、前記鋳片表面参照温度算出部で算出した前記参照温度と前記将来予測部で予測した前記鋳片の表面温度との偏差を算出し、それぞれの前記将来予測面で算出した該偏差の和を最小化する最適化問題の2次計画問題を特定し、該2次計画問題における決定変数に対する係数行列を算出する、最適化問題係数行列算出部と、
前記2次計画問題を数値的に解くことにより、ステップ関数状に変化する、前記鋳片の幅方向中心線の両側各々における、前記冷却ゾーンの現在時刻における冷却水流量の変更量の最適値を求める、最適化問題求解部と、
前記鋳片の幅方向中心線の両側各々における前記最適値を、前記鋳片の幅方向中心線の両側各々における前記冷却ゾーンの現在の冷却水流量へと加えることにより冷却水流量を変更する、冷却水流量変更部と、を有し、
前記冷却水流量変更部で、前記冷却水流量の変更を繰り返すことにより、鋳造中の任意の時刻において各トラッキング面が前記2次冷却制御対象の冷却ゾーン出口まで移動する間に、前記将来予測面の、前記将来予測面位置における前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度を、前記鋳片目標温度設定部で定めた前記鋳片のそれぞれの前記対称位置における表面温度の目標値に制御することを特徴とする、連続鋳造機の2次冷却制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する形態は本発明の例示であり、本発明は以下に説明する形態に限定されない。
【0015】
図1は、本発明の連続鋳造機9、および、本発明の連続鋳造機の2次冷却制御装置(以下において、「冷却制御装置」ということがある。)10を説明する図である。
図1では、連続鋳造機9および冷却制御装置10を簡略化して示しており、便宜上、表面温度測定装置対を構成すべき表面温度測定装置として1つの表面温度測定装置7のみを示している。
本発明の連続鋳造機9では、外側が凝固したストランドをロール対で挟んで支持しながら、駆動装置を備えたピンチロールによって、鋳型1からストランドが所定の引抜き速度(鋳造速度)で引抜かれる。符号4は溶鋼メニスカスである。鋳造方向に所定の間隔をあけて、鋳片の幅方向両側にそれぞれ配置された隣接する支持ロールの間には、鋳片5へ向けて冷却水を散布するミストスプレー2(またはスプレー2)の噴出口が設置される。散布される冷却水は、鋳片5の鋳造方向長さを複数個に区分したそれぞれの冷却ゾーンに対応して設置された冷却水配管を通じてミストスプレー2に供給され、冷却水の流量は、冷却水配管に設置された流量調整弁3により制御される。この流量調整弁3の開度は、冷却制御装置10から与えられる流量指示値に基づいて調節される。冷却水配管は、鋳片5の鋳造方向長さを複数個に区分した冷却ゾーン(冷却ゾーン境界線6によって区分された冷却ゾーン)に対応して設置されるので、ストランド内の鋳造方向冷却水流量分布は、冷却ゾーン毎に制御される。以下の説明において、鋳型直下の冷却ゾーンから順に、第1冷却ゾーン、第2冷却ゾーン、…ということがある。
【0016】
連続鋳造機9では、一部または全部の冷却ゾーンにおいて、鋳片の幅方向中心線の両側で冷却水配管が独立に設置され、冷却水流量も鋳片の幅方向中心線の両側で独立に制御される。以下、本発明の説明において、鋳片の幅方向中心線の片側をL側といい、その反対側をR側ということがある。連続鋳造機9では、第4冷却ゾーンの出口に、鋳片の幅方向中心線から鋳片幅の2/3だけ離れたL側およびR側のそれぞれの位置(鋳片幅の1/6幅位置および5/6幅位置)に、表面温度測定装置7が備えられている。以下の説明では、L側に備えられている表面温度測定装置7を「L側測温装置7L」、R側に備えられている表面温度測定装置7を「R側測温装置7R」ということがある。
図2に、L側測温装置7LおよびR側測温装置7Rの配置例を示す。
【0017】
ストランド内における鋳片5の温度および固相率の分布は、鋳型内湯面から最終ロール出側まで鋳造方向に一定間隔で設置した計算点で、鋳片5に垂直な断面を設定し、各断面の温度および固相率分布を、各計算点における冷却条件を反映した熱伝達係数の境界条件のもとで離散化した熱伝導方程式を解くことで計算する。熱伝導方程式の初期条件には、計算対象位置に存在する断面の上流側に隣接する断面の温度および固相率の計算結果を設定し、当該上流側に隣接する計算点から対象計算位置へ、鋳片引抜きにより断面が移動するまでの計算を繰り返すことにより、鋳片全体の温度および固相率を計算することができる。
【0018】
熱伝導方程式の離散化には、例えば
図2に示した、鋳片の厚み方向の半分を計算領域として設定し、鋳片の各辺に平行で直交する格子で分割する、二次元モデルを用いる。以下では
図2に従い、鋳片断面の幅方向軸上において、L側の鋳片短辺表面上の格子点ではi=0、R側の鋳片短辺表面上の格子点ではi=Iとする。一方、厚み方向軸上において、鋳片長辺表面上の格子点ではj=0、反対側の厚み方向中央線上ではj=Jとする。各格子点(i、j)における温度T
ij、単位質量あたりのエンタルピーH
ij、および、単位質量あたりの固相率f
ijを変数とし、各格子点(i、j)における物性定数を、温度依存性を考慮して密度ρ
ij、比熱C
ij、および、熱伝導率λ
ijとして表す。このとき、エンタルピーH
ij、温度T
ij、および、固相率f
ijの関係は、式(1)で表される。
【0020】
上記式(1)において、L
ijは格子点(i、j)における凝固潜熱である。
【0021】
時間刻みΔtの間に、鋳造方向位置zからz+Δzまで引き抜かれる断面のエンタルピーH
ijおよび固相率f
ijの分布の時間変化は、離散化した熱伝導方程式(2)、(3)、(4)、初期条件式(5)、および、境界条件式(6)、(7)、(8)、(9)を用いて表される。以下の式において、上付き添え字zは鋳造方向位置を表し、鋳型内湯面位置をz=0とする。熱伝導方程式における時間刻みΔtは、鋳造方向の断面設置刻みΔzと時刻t−1における鋳造速度v(t−1)を用いて、Δt=Δz/v(t−1)に変換する。鋳片表面からの抜熱は、鋳片5へ向けて散布された冷却水による冷却、ロールとの接触、および、放射など、鋳造方向断面位置による冷却方法の違いを考慮した境界条件を反映して設定し、ここでは、式(6)および式(7)に示した、外部を代表する温度T
Eと表面温度T
ijzとの差の1次式で表した時の熱伝達係数K
xまたはK
yで代表した。
【0023】
上記式(2)において、Δx
iは格子点(i−1/2、j)から格子点(i+1/2、j)までの距離であり、Δy
iは格子点(i、j−1/2)から格子点(i、j+1/2)までの距離である。また、q
i+1/2、jzは鋳造方向位置z−1における幅方向の格子点(i、j)から格子点(i+1、j)への熱流束であり、i=1、…、I−1の鋳片内部の格子点の場合、下記式(3)で表される。
【0025】
上記式(3)において、λ
i+1/2,jはλ
i+1/2,j=(λ
i+1,j+λ
ij)/2であり、Δxは格子点(i、j)から格子点(i+1、j)までの距離である。
【0026】
また、上記式(2)において、q
i,j+1/2zは、鋳片の厚み方向の格子点(i、j)から格子点(i,j+1)への熱流束であり、j=1、…、J−1の鋳片内部の格子点の場合、下記式(4)で表される。
【0028】
上記式(4)において、λ
i,j+1/2はλ
i,j+1/2=(λ
i,j+1+λ
ij)/2であり、Δyは格子点(i、j)から格子点(i、j+1)までの距離である。
【0029】
初期条件は、下記式(5)で表される。
【0031】
また、境界条件は、i=0の鋳片短辺表面上格子点では、鋳造方向位置z−1における熱伝達係数K
xおよび外部代表温度T
Eを用いて下記式(6)で表される。
【0033】
また、i=Iの鋳片短辺表面上格子点では、鋳造方向位置z−1における熱伝達係数K
xおよび外部代表温度T
Eを用いて下記式(7)で表される。
【0035】
また、j=0の鋳片長辺表面上格子点では、鋳造方向位置z−1における熱伝達係数K
yおよび外部代表温度T
Eを用いて下記式(8)で表される。
【0037】
また、j=Jの鋳片厚み方向中央線上格子点では、鋳造方向位置z−1における熱伝達係数K
xおよび外部代表温度T
Eを用いて下記式(9)で表される。
【0039】
鋳造方向位置z+ΔzにおけるエンタルピーH
ijz+Δzを算出した後、完全液相のf
ijz+Δz=0または完全固相のf
ijz+Δz=1の場合には、上記式(1)に各々の値を代入することにより、温度T
ijz+Δzを求める。一方、0<f
ijz+Δz<1の場合には、温度T
ijz+Δzは液相中の溶質濃度で定まる状態図で表される液相線温度T
L(C
k)(C
kは溶質成分kの濃度)に一致する。ここで、Scheilの式などで知られるように液相中の溶質濃度は固相率に依存するので、下記式(10)で表されるモデルを使用し、当該式(10)と上記式(1)とを連立した方程式の解として、f
ijz+ΔzおよびT
ijz+Δzを求める。
【0041】
ミストスプレー2から散布された冷却水が衝突する鋳片表面における熱伝達係数Kが下記式(11)のモデルで表されるとき、熱流束qは下記式(12)で求める。
【0043】
【数12】
ここで、T
Sは表面温度[℃]、D
wは表面水量密度[l/m
2]、v
aはスプレー空気流速[m/s]であり、α、β、γ、及び、cは各々定数である。
【0044】
冷却制御装置10は、鋳片5の引抜き速度と、タンディッシュ内における溶鋼温度と、冷却水温とを用いて、予め定めた鋳造方向の温度評価点における鋳片表面温度の将来予測値を求める。そして、この将来予測値と各冷却ゾーン内の上記温度評価点における鋳片表面温度の目標値との偏差と、冷却水流量(冷却水流量が鋳片の幅方向中心線の両側でそれぞれ独立に調節される冷却ゾーンではL側の冷却水流量およびR側の冷却水流量、冷却水流量が鋳片の幅方向中心線の両側でそれぞれ独立に調節されない冷却ゾーンでは冷却ゾーン全体の冷却水流量。)とにより定められる評価関数を最小化するように、各冷却ゾーンの冷却水流量(例えば冷却水流量が鋳片の幅方向中心線の両側でそれぞれ独立に調節される冷却ゾーンでは鋳片の幅方向中心線の両側にそれぞれ配置されているスプレー群から当該冷却ゾーンへと散布される冷却水流量)の最適値を算出する。本発明にかかる連続鋳造機の2次冷却制御方法(以下において、「本発明の冷却制御方法」ということがある。)では、一回の制御周期内で行う、以下に説明する計算を繰り返すことにより、各トラッキング面における鋳片表面温度を、予め定めた鋳片表面温度の目標値に制御する。本発明の冷却制御方法を説明する
図3を参照しつつ、本発明の冷却制御方法について、以下に説明する。
【0045】
図3に示したように、本発明の冷却制御方法は、鋳片表面温度測定工程(S1)と、鋳造速度把握工程(S2)と、トラッキング面設定工程(S3)と、鋳片目標温度設定工程(S4)と、温度固相率推定工程(S5)と、熱伝達係数推定工程(S6)と、熱伝達係数モデルパラメータ修正工程(S7)と、将来予測面設定工程(S8)と、将来予測工程(S9)と、将来温度影響係数予測工程(S10)と、鋳片表面参照温度算出工程(S11)と、最適化問題係数行列算出工程(S12)と、最適化問題求解工程(S13)と、冷却水流量変更工程(S14)と、を有している。
【0046】
鋳片表面温度測定工程(以下において、「S1」ということがある。)は、予め定めたストランド内の鋳片表面上の温度測定点における鋳片表面温度を、鋳造中に、表面温度測定装置7(L側測温装置7LおよびR側測温装置7R)を用いて測定する工程である。
【0047】
鋳造速度把握工程(以下において、「S2」ということがある。)は、鋳造速度測定ロール8を用いて、連続鋳造機9の鋳片引抜速度(鋳造速度)を逐次測定することにより、鋳造速度を把握する工程である。このほか、S2は、例えば、冷却制御装置10の上位計算機(不図示)から、鋳造速度の設定値に関するデータを受信することにより、鋳造速度を把握する工程、とすることもできる。
【0048】
トラッキング面設定工程(以下において、「S3」ということがある。)は、鋳片断面内温度、鋳片表面温度、および、固相率分布を計算する対象であるトラッキング面を、鋳型内湯面位置から少なくとも2次冷却制御対象の冷却ゾーン出口までの領域で、予め定めた間隔で設定する工程である。
【0049】
鋳片目標温度設定工程(以下において、「S4」ということがある。)は、S3で設定したトラッキング面の、鋳片の幅方向中心線を軸にした両側の対称位置(以下において「各対称位置」ということがある。)に、鋳片表面温度の同一の目標値を定める工程である。
【0050】
温度固相率推定工程(以下において、「S5」ということがある。)は、鋳造が進むことにより、S3で定めたトラッキング面が鋳片の鋳造方向へ予め定めた間隔だけ進む毎に、伝熱方程式に基づく伝熱凝固モデルにより、鋳造方向に垂直な鋳片断面内温度、鋳片の上記各対称位置における表面温度、および、固相率分布を算出して更新する工程である。
S5では、鋳片の鋳造方向に一定間隔で設定した垂直な断面における温度および固相率分布の、前回制御周期からの変更量を、鋼が凝固する際の変態発熱を考慮した熱伝導方程式を解くことにより算出する。
より具体的には、現在時刻をtとし、上記式(2)乃至式(10)を時刻t−1と時刻tとの間の変数間の関係式とみなして、鋳型内湯面に隣接する計算点から2次冷却制御対象の冷却ゾーン出口までの各計算点における断面の温度および固相率分布を計算する。
【0051】
熱伝達係数推定工程(以下において、「S6」ということがある。)は、伝熱凝固モデルで用いる鋳片表面の熱伝達係数(上記式(6)乃至(9)で表される熱伝達係数)を、現在時刻tにおける熱伝達係数モデルパラメータの推定値と、時刻t−1における冷却水流量などの鋳造条件を用いて算出する工程である。
【0052】
熱伝達係数モデルパラメータ修正工程(以下において、「S7」ということがある。)は、S1で測定された鋳片の上記各対称位置における表面温度と、S5で推定された鋳片の上記各対称位置における表面温度との差を用いて、熱伝達係数モデルにおけるパラメータを修正する工程である。
【0053】
熱伝達係数モデルのパラメータの修正は、S1で測定された鋳片の上記各対称位置における表面温度とS5で推定された鋳片の上記各対称位置における表面温度の推定値との誤差に補正係数をかけた値を、モデルパラメータ修正量として熱伝達係数モデルのパラメータに加えることによって行う。鋳片の表面温度の測定点(以下において、「測温点」または「測温位置」ということがある。)が複数ある場合、補正係数は行列またはベクトルで表される。熱伝達係数モデルのパラメータの修正に用いる補正係数は、推定対象のパラメータ毎に以下の手順で求める。
【0054】
1)修正対象のパラメータについて、現在の値から微小に変更した値を設定する。
2)予め定めた時間Taを現在からさかのぼり、現在時刻tにおいて測温位置z
kにある断面が時刻t−Taにあった鋳造方向位置z
k(t−Ta)における温度および固相率の断面内分布を初期値とする。そして、時刻t−Taにおける位置z
k(t−Ta)から現在時刻tにおける測温位置z
kまでの冷却条件の履歴を与えて、上記式(2)乃至(10)の計算を繰返すことにより、現在時刻tにおいてパラメータを微小変更した場合の、測温点における温度推定値を算出する。遡及時間範囲Taは、修正対象パラメータが測温位置z
kにある断面の状態に影響を及ぼす範囲に限定すればよい。
3)各パラメータ修正量に対する温度変化量の関係を表す線形関係式を、下記手順で求める。
パラメータθ
iをΔθ
iだけ変更したときに、S5で推定した現在時刻tにおける表面温度T
k(t)に対し、上記2)で算出した表面温度の推定値がT
k+ΔT
k、iに変化したとすると、ΔT
k、iは下記式(13)で表すことができる。
【0055】
【数13】
式(13)を変形することにより、上記式(13)におけるA
akiは下記式(14)で表すことができる。
【0056】
【数14】
A
akiをk行i列の成分とする行列をA
aと表すと、全修正対象パラメータによる測温点における表面温度への影響を合わせた温度変化推定値は、Δθ
iを第i成分とするベクトルΔθ=[Δθ
1 Δθ
2 … Δθ
k]
Tを用いてA
aΔθと表される。
【0057】
パラメータの最適修正量は、下記式(15)で表される、各測温点の温度測定値T
ak(t)とT
k(t)との偏差ψ
ak(t)、を並べたベクトルをψ
a(t)とするとき、修正後パラメータによる温度変化推定値A
aΔθが、数値的計算誤差やデータのばらつきを考慮して最も良く温度変化を近似するように決定する。
【0059】
この工程では、例えば、ゲイン行列A
aの各成分の誤差を表す行列をΔA
aとするとき、
【0060】
【数16】
を最小化する値を求める。ここで、<x>は変数xの期待値を表す。
【0061】
上記式(16)で表されるJの最小値は解析的に解くことができ、Jを最小化するパラメータの最適修正量Δθ(t)は下記式(17)のように表すことができる。
【0062】
【数17】
ここで、<ΔA
a>=0とする。<ΔA
aTΔA
a>は、ゲイン行列の各成分の相関が0であると仮定すれば、対角成分ΔA
aiiの分散を各々同じ位置の対角成分とする行列で表されるので、プロセスなどの知識により予め定めておく。
以上のようにして求めたパラメータ修正量Δθ(t)を現在のパラメータに加えた
【0063】
【数18】
を、次回時刻以降の制御操作量算出に用いる。
【0064】
将来予測面設定工程(以下において、「S8」ということがある。)は、S3で設定したトラッキング面の中から、予め定めた鋳造方向に一定の間隔で、将来時刻における鋳片の上記各対称位置における表面温度、鋳片断面内温度、および、固相率分布を予測する将来予測面を設定する工程である。
【0065】
将来予測工程(以下において、「S9」ということがある。)は、鋳造が進むことによって、S8で設定した任意の将来予測面が現在時刻から下流側に隣接する将来予測面位置まで進む間に、鋳造速度が現在時刻から変化しないと仮定して、S8で設定した各将来予測面が上記下流側に隣接する将来予測面位置に到達したときの鋳片の上記各対称位置における表面温度、鋳片断面内温度、および、固相率分布を、S8で定めた間隔毎に上記伝熱凝固モデルを用いて繰り返し予測して更新する工程である。S9では、現在時刻における鋳造速度、各冷却ゾーンの冷却水量、および、S7で修正した熱伝達係数モデルのパラメータの値を用いて、鋳片の上記各対称位置における表面温度、鋳片断面内温度、および、固相率分布を予測する。予測計算の初期値には、S5で求めた現在時刻tにおける各将来予測面の、鋳片の上記各対称位置における表面温度、鋳片断面内温度、および、固相率分布の値を用いる。
【0066】
図4は、S8で設定した各将来予測面がその下流側に隣接する将来予測面位置まで移動する間に、表面温度を評価するトラッキング面の位置と、温度を予測する相対時刻との関係を説明する図である。
図4では、「●」で示した時刻に表面温度が予測されることを示している。
図4に示した、複数の「●」を結んだ斜めの直線の傾きは、現在時刻tにおける鋳造速度v(t)に相当する。S9では、将来予測面iのトラッキング面位置z
jにおける鋳片表面温度予測値を、将来予測温度T
ijpredとする。
【0067】
将来温度影響係数予測工程(以下において、「S10」ということがある。)は、鋳造が進むことによりS8で設定した将来予測面が現在時刻からその下流側に隣接する将来予測面位置まで進む毎に、鋳造速度が現在時刻から変化しないと仮定して、各冷却ゾーンの冷却水流量がステップ関数状に変化した場合の、各将来予測面がその下流側に隣接する将来予測面位置に到達するまでに通過する各トラッキング面位置における鋳片の上記各対称位置における表面温度を予測し、この予測した鋳片の上記各対称位置における表面温度とS9で予測した鋳片の上記各対称位置における表面温度との偏差を求め、該偏差およびステップ関数状に変化する冷却水流量に関連する将来温度影響係数を求める工程である。以下の説明では、鋳片の幅方向中心線のR側の変数を、上付き添え字
(R)を用いて表し、鋳片の幅方向中心線のL側の変数を、上付き添え字
(L)を用いて表す。
【0068】
S10では、各冷却ゾーンkについて、鋳片の幅方向中心線のR側については、現在時刻tで各冷却水流量q
(R)k(t)をステップ関数状にΔq
(R)kだけ変更した場合に、将来予測面iがその下流側に隣接する将来予測面位置z
jに到達したときの鋳片の表面温度T
ij(R)kを予測する。そして、S9で予測したT
ij(R)predとの間の偏差ΔT
ij(R)k(t)=T
ij(R)k−T
ij(R)predと、上記Δq
(R)kとの関係を
【0069】
【数19】
と表したときの係数M
(R)kijを、将来温度影響係数として求める。S10では、将来予測面毎に、j行k列成分に将来温度影響係数M
(R)kijを並べた表面温度変化ゲイン行列M
(R)iを算出する。
【0070】
また、鋳片の幅方向中心線のL側についても同様に、現在時刻tで各冷却水流量q
(L)k(t)をステップ関数状にΔq
(L)kだけ変更した場合に、将来予測面iがその下流側に隣接する将来予測面位置z
jに到達したときの鋳片の表面温度T
ij(L)kを予測する。そして、S9で予測したT
ij(L)predとの間の偏差ΔT
ij(L)k(t)=T
ij(L)k−T
ij(L)predと、上記Δq
(L)kとの関係を
【0071】
【数20】
と表した時の係数M
ij(L)kを、将来温度影響係数として求める。S10では、将来予測面毎に、j行k列成分に将来温度影響係数M
ij(L)kを並べた表面温度変化ゲイン行列M
i(L)を算出する。
【0072】
鋳片表面参照温度算出工程(以下において、「S11」ということがある。)は、鋳片の幅方向中心線のR側およびL側の各々について、S4で設定した鋳片表面温度の目標値と、S10で予測した、将来予測面が将来予測面位置に到達した時点における鋳片表面温度の予測値との間の値である、時間に応じて決定される中間目標値(S10の予測計算を繰り返すたびにS4で設定した鋳片表面温度の目標値に漸近する温度)である参照目標温度を算出する工程である。
S11では、例えばR側について、現在時刻において第i冷却ゾーンの入り口にある断面の温度評価点z
jにおける参照目標温度T
ij(R)refは、下記式(21)に示したように、将来予測温度T
ij(R)predと目標温度T
j(R)tgtとの間を時間t
ijの指数関数に従う比で内分する温度として定めることができる。S11は、時間の関数で表される参照目標温度軌道T
ij(R)refを求め、且つ、以下同様にして、時間の関数で表される参照目標温度軌道T
ij(L)refを求める工程、とすることができる。T
ij(L)refは下記式(22)で表すことができる。
【0074】
【数22】
式(21)及び式(22)において、T
rは予め定めた減衰パラメータに相当する時定数である。
【0075】
最適化問題係数行列算出工程(以下において、「S12」ということがある。)は、現在時刻tにおける、上記R側およびL側でそれぞれ独立に設定される冷却水流量を含む各冷却ゾーンの冷却水流量を決定変数とし、S9およびS10の各々において各将来予測面が通過した各将来予測面位置における将来温度影響係数、ならびに、S11で算出した参照温度とS9で予測した鋳片の表面温度との偏差を算出し、それぞれの将来予測面で算出した偏差の和を最小化する最適化問題の2次計画問題を特定し、該2次計画問題における決定変数に対する係数行列を算出する工程である。
S12では、各冷却ゾーンにおける冷却水流量の、上記R側およびL側各々の変更ステップ幅Δq
(R)kおよびΔq
(L)kの最適値を、評価時刻tにおける各評価位置z
jの鋳片表面温度応答T
ijpred(t)+ΔT
ij(t)と参照温度T
ijref(t)との偏差の重み付き二乗和と、各冷却ゾーンにおける冷却水流量の変更ステップ幅Δq
kの二乗和との合計を、下記式(23)で表されるR側評価関数J
(R)と、下記式(24)で表されるL側評価関数J
(L)との和で表される評価関数J=J
(R)+J
(L)を最小化するΔq=[Δq
(R)1 Δq
(R)2 … Δq
(R)K Δq
(L)1 Δq
(L)2 … Δq
(L)K]
Tとして求める。
【0077】
【数24】
ここで、T
i(R)pred、T
i(R)ref、ΔT
i(R)、T
i(L)pred、T
i(L)ref、および、ΔT
i(L)、は、それぞれ、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)、式(29)、および、式(30)で表される。
【0084】
評価関数の温度偏差の項は、S10で求めたゲイン行列を用いて下記式(31)のように書き換えることができる。
【0085】
【数31】
さらに、冷却水流量の変更ステップ幅に無関係な項を除けば、上記式(23)の評価関数の最小化は、下記式(32)で表されるJ
R’の最小化と等価である。
【0086】
【数32】
また、上記式(24)の評価関数の最小化は、上記式(32)の添え字
(R)を
(L)に置き換えた場合の評価関数J
L’の最小化と等価である。したがって、評価関数の最小化は、J’=J
R’+J
L’の最小化と等価である。
【0087】
J’の最小化は、Δqを決定変数とする2次計画問題である。また、QはI×I次元の非負定行列であり、RはK×K次元の正定行列である。例えば、Qには対角成分が負でない定数である対角行列などを用い、Rには対角成分が正の定数である対角行列などを用いる。さらに、冷却水流量の変更ステップ幅の上限および下限や、冷却水流量の上限および下限などに基づく制約条件を加えることにより、ミストスプレー2における物理的な制約を反映することができる。
【0088】
最適化問題求解工程(以下において、「S13」ということがある。)は、S12における2次計画問題を数値的に解くことにより、ステップ関数状に変化する、R側およびL側の各々における、冷却ゾーンの現在時刻tにおける冷却水流量の変更量Δqの最適値Δq
*を求める工程である。S12で特定した2次計画問題は凸2次計画問題であるため、Δqに制約がない場合、最適値Δq
*は下記式(33)で求められる。また、Δqに制約がある場合には、有効制約法などを用いることにより、容易に最適解Δq
*を求めることができる。
【0090】
冷却水流量変更工程(以下において、「S14」ということがある。)は、S13で求めた最適解Δq
*を、現在の冷却ゾーンの冷却水流量q(t)へと加えることにより
【0091】
【数34】
に変更する。このようにして変更された冷却水流量q(t+1)は、次回の制御周期で用いられる。
【0092】
S1乃至S14を有する本発明の冷却制御方法によれば、表面温度を評価するトラッキング面の鋳造方向下流側に隣接している冷却ゾーンの入口以外の位置にも、冷却水量の変更の影響をすぐに反映することができる。さらに、R側およびL側のそれぞれに同一の目標温度を与え、R側およびL側のそれぞれで独立に冷却水流量を制御するので、R側およびL側の温度を対称に保つことが可能になる。すなわち、本発明の冷却制御方法によれば、鋳片の全幅方向の表面温度分布を鋳片の中心線に対称に制御することが可能になる。したがって、本発明の冷却制御方法によれば、鋳片全体の表面温度を予め定めた目標温度に制御する際の精度を高めることが可能になる。鋳片全体の表面温度を精度良く目標温度に制御することにより、いかなる鋳造速度でも、また鋳造速度が鋳造中に変化した場合でも、連続鋳造機の曲げセグメントや矯正セグメントにおいて、表面温度を鋼の脆化域を回避するように制御することが可能になるので、表面疵による欠陥のない鋳片を製造することが可能になる。
【0093】
以上説明した本発明の冷却制御方法は、例えば、
図1および
図5に示した冷却制御装置10を用いて実施することができる。
図5に示したように、冷却制御装置10は、鋳片表面温度測定部として機能する表面温度測定装置7(L側測温装置7LおよびR側測温装置7R)と、鋳造速度把握部として機能する鋳造速度測定ロール8(鋳造速度把握部8)と、トラッキング面設定部10aと、鋳片目標温度設定部10bと、温度固相率推定部10cと、熱伝達係数推定部として機能するL側熱伝達係数推定部10dLおよびR側熱伝達係数推定部10dRと、熱伝達係数モデルパラメータ修正部として機能するL側熱伝達係数モデルパラメータ修正部10eLおよびR側熱伝達係数モデルパラメータ修正部10eRと、将来予測面設定部10fと、将来予測部として機能するL側将来予測部10gLおよびR側将来予測部10gRと、将来温度影響係数予測部として機能するL側将来温度影響係数予測部10hLおよびR側将来温度影響係数予測部10hRと、鋳片表面参照温度算出部として機能するL側鋳片表面参照温度算出部10iLおよびR側鋳片表面参照温度算出部10iRと、最適化問題係数行列算出部10jと、最適化問題求解部10kと、冷却水流量変更部10lと、L側冷却水流量制御部10mLおよびR側冷却水流量制御部10mRと、を有している。上述のように、L側測温装置7LおよびR側測温装置7RはS1で用いられ、鋳造速度測定ロール8(鋳造速度把握部8)はS2で用いられる。また、トラッキング面設定部10aではS3が、鋳片目標温度設定部10bではS4が、温度固相率推定部10cではS5が、L側熱伝達係数推定部10dLおよびR側熱伝達係数推定部10dRではS6が、L側熱伝達係数モデルパラメータ修正部10eLおよびR側熱伝達係数モデルパラメータ修正部10eRではS7が、それぞれ行われる。さらに、将来予測面設定部10fではS8が、L側将来予測部10gLおよびR側将来予測部10gRではS9が、L側将来温度影響係数予測部10hLおよびR側将来温度影響係数予測部10hRではS10が、L側鋳片表面参照温度算出部10iLおよびR側鋳片表面参照温度算出部10iRではS11が、それぞれ行われる。また、最適化問題係数行列算出部10jではS12が、最適化問題求解部10kではS13が、冷却水流量変更部10lではS14が、それぞれ行われる。そして、冷却水流量変更部10lで特定された、L側の冷却水流量の変更幅に関する情報が、L側に配置されているミストスプレー2から噴射される冷却水流量を制御するL側冷却水流量制御装置部10mLへと送られ、冷却水流量変更部10lで特定された、R側の冷却水流量の変更幅に関する情報が、R側に配置されているミストスプレー2から噴射される冷却水流量を制御するR側冷却水流量制御装置部10mRへと送られる。そして、L側冷却水流量制御装置部10mLで制御されるL側の冷却水流量の実績値に関する情報はL側熱伝達係数推定部10dLへと送られるとともに、R側冷却水流量制御装置部10mRで制御されるR側の冷却水流量の実績値に関する情報はR側熱伝達係数推定部10dRへと送られ、これらの情報は次の制御周期において利用される。このように構成される冷却制御装置10を用いることにより、本発明の冷却制御方法を実施することができる。したがって、本発明によれば、鋳片の全幅方向の表面温度分布を鋳片の中心線に対称に制御することが可能な、連続鋳造機の2次冷却制御装置を提供することができる。
【0094】
また、
図1、
図2、および、
図5に示したように、本発明の連続鋳造機9は、対をなすL側測温装置7LおよびR側測温装置7Rを備える本発明の冷却制御装置10を有しているので、本発明の冷却制御方法を実施することができる。したがって、本発明によれば、鋳片の全幅方向の表面温度分布を鋳片の中心線に対称に制御することが可能な、連続鋳造機を提供することができる。
【実施例】
【0095】
スラブ用連続鋳造機において、鋳型出口直下の第1冷却ゾーンから最終の第10冷却ゾーンまでを対象に、本発明を適用した実施例を以下に示す。
温度目標値は、鋳造速度一定と仮定して、各冷却ゾーンの冷却水流量を最適化した場合のストランド伝熱凝固計算による、トラッキング面位置における鋳片表面温度計算値を用いた。本実施例で使用した連続鋳造機は、鋳片幅2300mm、鋳片厚300mm、鋳型内メニスカス位置から2次冷却帯出口までの距離28.5mであり、且つ、表面温度測定装置よりも鋳造方向の下流側において鋳片の幅方向中心線の両側でそれぞれ独立に、冷却水流量を調整できる2次冷却制御装置を備えたスラブ用連続鋳造機である。以下において、鋳片の上面に立って鋳造方向の上流側を見たときに、鋳片の幅方向中心線の右側の2次冷却帯をR側、鋳片の幅方向中心線の左側の2次冷却帯をL側と呼称する。
本実施例における伝熱計算の更新間隔は25mm、トラッキング面の間隔は125mm、将来温度予測面の間隔は1.25mとした。トラッキング面では、鋳片の断面を短辺中心線で分割した2分の1断面を、厚み方向に20分割および幅方向に40分割して、上記伝熱凝固モデルによる計算を行った。
なお、鋳片の表面温度の測定は、第4冷却ゾーン出側で行い、鋳片のL側の温度測定位置およびR側の温度測定位置は、鋳片幅2300mmの1/6幅位置および5/6幅位置とし、鋳片の表面温度は放射温度計にて測定を行った。
【0096】
[実施例]
鋳造中に鋳造速度を0.7m/minから0.8m/minへと変更した後に、本発明の冷却制御方法を適用することにより、鋳片のL側およびR側の表面温度を制御した。L側およびR側の、鋳片の目標温度、鋳片の表面温度の実績値、冷却水流量、ならびに、鋳造速度の結果を
図6に示す。
事前の冷却水流量の計算で設定した冷却水流量で冷却したところ、R側の表面温度は一定に保たれていたが、L側の表面温度は
図6の時間0の位置に示すように742℃で、R側の表面温度である726℃よりも16℃高い状態であり、鋳片のL側とR側とでは表面温度が非対称になっていた。
そこで、上述した方法で実際の熱伝達係数を逐次推定しながら、R側の冷却水流量は変更することなく、L側のみ冷却水流量をステップ関数状に変更させながら冷却水流量を最適制御した。その結果、
図6に示したように、L側では冷却水流量が当初の設定値よりも増大し、L側の測温点の温度は350秒後に目標値に一致した。以上より、本発明によれば、鋳造速度を途中で変更しても、鋳片の全幅方向の表面温度分布を鋳片の中心線に対称に、目標値に制御可能であることが確認された。
【0097】
[比較例]
一方、鋳造中に0.7m/minから0.8m/minへと変更した後、L側の温度測定値および温度予測結果を基に鋳片の幅方向全体の冷却水流量を最適化して、鋳片の幅方向に均一に冷却水流量を変更する従来の冷却制御方法を適用することにより、鋳片の表面温度を制御した。L側の鋳片の目標温度および鋳片の表面温度の実績値、R側の鋳片の目標温度および鋳片の表面温度の実績値、冷却水流量、ならびに、鋳造速度の結果を
図7に示す。なお、実施例とは異なり、比較例ではL側およびR側で独立に冷却水流量を制御していないため、
図7に示した冷却水流量の結果を表す線は、1本のみである。
従来の方法で冷却水流量を制御した結果、第4冷却ゾーンの冷却水流量は鋳造速度の増加後に次第に増大し、第4冷却ゾーンのR側の表面温度は目標値から大きく離れずに制御されていた。
一方、
図7に示したように、冷却水流量を増大するにつれて、L側の表面温度は低下した。これは、L側はR側よりもスケール付着が少なく、熱伝達係数が大きいため、R側と同様の温度制御ができなかったものと考えられる。