(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成り、このクラッチ装置は、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチと、この高速モードを実現する際に接続されて前記低速モードを実現する際に接続が断たれる高速用クラッチと、これら各クラッチの断接状態を切り換える制御器とから成り、この制御器は、これら各クラッチの断接を制御する事で、変速状態を前記低速モードと前記高速モードとのうちの何れかのモードにするものであり、
前記トロイダル型無段変速機は、少なくとも1対のディスクと、複数の支持部材と、これら各支持部材と同数のパワーローラと、押圧装置とを備え、
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を可能に支持されたものであり、
前記各支持部材は、軸方向に関して前記各ディスクの軸方向側面同士の間位置の周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられており、
前記各パワーローラは、前記各支持部材に、それぞれ回転自在に支持され、部分球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させたものであり、
前記押圧装置は、これら各ディスクを互いに近づく方向に押圧するべく、油圧シリンダ内に導入した油圧に応じて、前記各ディスクの軸方向の押圧力を発生するものであり、この油圧シリンダ内に導入する油圧の値は、前記各パワーローラにより前記各ディスク同士の間で伝達する伝達トルクの大きさに応じて無段階に変化させ、このトルクが大きくなる程前記油圧を高くして、前記押圧力を大きくするものであり、
前記各ディスク同士の間の変速比の調節は、前記各支持部材毎に設けられたアクチュエータによりこれら各支持部材を前記各傾転軸の軸方向に変位させて、これら各支持部材をこれら各傾転軸を中心として揺動変位させる事により行わせるものであり、
前記変速比に結び付く、前記各傾転軸を中心とする前記各支持部材の傾斜角度は、前記各アクチュエータへの圧油の給排を制御する変速比制御弁により制御するものであって、この変速比制御弁に設けた各油圧ポート同士の連通状態の変更は、前記各支持部材のうちの何れか1個の支持部材の変位を前記変速比制御弁の構成部材に伝達する事により行う無段変速装置に於いて、
前記制御器は、前記低速モードと前記高速モードとの間でのモード切換時に、前記伝達トルクに応じて前記押圧装置が発生する押圧力を無段階に調節する機能を一時的に停止し、前記モード切換時にこの押圧装置が発生する押圧力を、それぞれが既知である、1乃至複数種類の値に固定した状態で、前記低速用クラッチと前記高速用クラッチとの断接を行わせる事を特徴とする無段変速装置。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてハーフトロイダル型やフルトロイダル型のトロイダル型無段変速機を使用する事が、特許文献1〜5等の多くの刊行物に記載されると共に一部で実施されていて周知である。又、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて変速比の調整幅を広くする構造も、特許文献6〜7等、やはり多くの刊行物に記載されて、従来から広く知られている。
図2〜3は、これら各特許文献に記載されて従来から広く知られているハーフトロイダル型無段変速機の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合、入力回転軸1の両端寄り部分の周囲に1対の入力ディスク2、2を、それぞれがトロイド曲面である軸方向片側面同士を互いに対向させた状態で、前記入力回転軸1と同期した回転を自在に支持している。又、この入力回転軸1の中間部周囲に出力筒3を、この入力回転軸1に対する相対回転を自在に支持している。又、この出力筒3の外周面には、軸方向中央部に出力歯車4を固設すると共に、軸方向両端部に1対の出力ディスク5、5を、スプライン係合により、前記出力筒3と同期した回転を自在に支持している。又、この状態で、それぞれがトロイド曲面である、前記両出力ディスク5、5の軸方向片側面を、前記両入力ディスク2、2の軸方向片側面に対向させている。
【0003】
又、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間に、それぞれの周面を部分球面状の凸曲面とした複数個のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7に回転自在に支持されており、これら各トラニオン7、7は、それぞれ前記各ディスク2、5の中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸8、8を中心とする揺動変位自在に支持されている。即ち、これら各トラニオン7、7は、それぞれの軸方向両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8、8と、これら各傾転軸8、8同士の間に存在する支持梁部9、9とを備えており、これら各傾転軸8、8が、支持板10、10に対し、ラジアルニードル軸受11、11を介して枢支されている。
【0004】
又、前記各パワーローラ6、6は、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面に、基半部と先半部とが互いに偏心した支持軸12、12と、複数の転がり軸受とを介して、これら各支持軸12、12の先半部周りの回転、及び、これら各支持軸12、12の基半部を中心とする若干の揺動変位自在に支持されている。この様な各パワーローラ6、6の外側面と、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面との間には、それぞれが前記複数の転がり軸受の一部である、スラスト玉軸受13、13と、スラストニードル軸受14、14とを、前記各パワーローラ6、6の側から順番に設けている。このうちのスラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ6、6の回転を許容するものである。これら各スラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6の外側面に形成された内輪軌道15と、外輪16の内側面に形成された外輪軌道17との間に、それぞれ複数個ずつの玉18、18を、転動自在に設けて成る。又、前記各スラストニードル軸受14、14は、前記各パワーローラ6、6から前記各スラスト玉軸受13、13を構成する外輪16、16に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら各外輪16、16及び前記各支持軸12、12の先半部が、これら各支持軸12、12の基半部を中心に揺動する事を許容する。
【0005】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸19により一方(
図2の左方)の入力ディスク2を、押圧装置20を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、前記各パワーローラ6、6を介して前記両出力ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータ56、56により前記各トラニオン7、7を前記各傾転軸8、8の軸方向に変位させる。この結果、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の軸方向片側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化する(転がり接触部にサイドスリップが発生する)。そして、この力の向きの変化に伴って前記各トラニオン7、7が、自身の傾転軸8、8を中心に揺動し、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の軸方向側面との接触位置が変化する。これら各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の軸方向側面の径方向外寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の軸方向側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が増速側になる。これに対して、前記各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の軸方向側面の径方向内寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の軸方向側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が減速側になる。
【0006】
又、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて変速比の調整幅を広くした無段変速装置は、例えば特許文献9に記載されている如く、
図4〜5に示す様に構成している。この無段変速装置は、トロイダル型無段変速機21と、遊星歯車式変速機22とを組み合わせて成り、入力軸23と出力軸24とを有する。これら入力軸23と出力軸24との間には、前記トロイダル型無段変速機21の入力回転軸1aと伝達軸25とを、これら両軸23、24と同心に設けている。そして、前記遊星歯車式変速機22のうちの前段ユニット26と中段ユニット27とを前記入力回転軸1aと前記伝達軸25との間に掛け渡す状態で、後段ユニット28をこの伝達軸25と前記出力軸24との間に掛け渡す状態で、それぞれ設けている。
【0007】
尚、前記トロイダル型無段変速機21の構成に就いては、出力ディスク5aとして一体型のものを使用し、この出力ディスク5aの回転を中空回転軸29により取り出す様にした点、押圧装置20aとして油圧式のものを使用した点等の相違があるが、基本的には、前述の
図2〜3に示した従来構造の第1例とほぼ同様である。前記油圧式の押圧装置20aは、各ディスク2a、2b、5aのうちの軸方向両端部に位置する1対の入力ディスク2a、2bを互いに近づく方向に押圧するべく、油圧シリンダ内に導入した油圧に応じて、前記各ディスク2a、2b、5aの軸方向の押圧力を発生する。即ち、この油圧シリンダ内に導入する油圧の値を、図示しない制御器により、各パワーローラ6、6を介し前記各ディスク2a、2b、5a同士の間で伝達する伝達トルクの大きさに応じて変化させ、このトルクが大きくなる程前記油圧を高くして、前記押圧力を大きくする。そして、前記入力軸24により駆動される前記入力回転軸1aの回転を、この入力回転軸1aの両端部に設けた1対の入力ディスク2a、2bから複数個のパワーローラ6、6を介して前記出力ディスク5aに伝達し、この出力ディスク5aの回転を、一方の入力ディスク2bの内径側を挿通した前記中空回転軸29により、この中空回転軸29の先端部に固設した太陽歯車30から、前記遊星歯車式変速機23の前段ユニット27に入力する様にしている。
【0008】
一方、前記入力回転軸1aの先端部で前記中空回転軸29から突出した部分と前記一方の入力ディスク2bとの間に、キャリア31を掛け渡して、この入力ディスク2bと前記入力回転軸1aとが、互いに同期して回転する様にしている。そして、前記キャリア31の軸方向両側面の円周方向等間隔位置に、それぞれがダブルピニオン型であって前記遊星歯車式変速機23の前段ユニット27及び前記中段ユニット27を構成する遊星歯車32〜34を、回転自在に支持している。更に、前記キャリア31の片半部周囲にリング歯車35を、回転自在に支持している。又、前記伝達軸26の基端部に固設した第二太陽歯車36を、前記リング歯車35の内径側に配置している。
【0009】
又、前記後段ユニット28を構成する為の第二キャリア37を、前記出力軸24の基端部に結合固定している。そして、この第二キャリア37と前記リング歯車35とを、低速用クラッチ38を介して結合している。又、前記伝達軸25の先端寄り部分に第三太陽歯車39を固設している。又、この第三太陽歯車39の周囲に、第二リング歯車40を配置し、この第二リング歯車40とケーシング41等の固定の部分との間に、高速用クラッチ42を設けている。更に、前記第二リング歯車40と前記第三太陽歯車39との間に配置した複数組の遊星歯車43、44を、前記第二キャリア37に回転自在に支持している。
【0010】
上述の様に構成する無段変速装置の場合、入力回転軸1aから1対の入力ディスク2a、2b、各パワーローラ6、6を介して一体型の出力ディスク5aに伝わった動力は、前記中空回転軸29を通じて取り出される。そして、前記低速用クラッチ38を接続し、前記高速用クラッチ42の接続を断った、所謂低速モードの状態では、前記トロイダル型無段変速機21の変速比を調節する事により、前記入力回転軸1aの回転速度を一定にしたまま、前記出力軸24の回転速度を、所謂ギヤードニュートラル(G/N)と呼ばれる停止状態(変速比無限大の状態)を挟んで正転、逆転に変換自在となる。一方、前記高速用クラッチ42を接続し、前記低速用クラッチ38の接続を断った、所謂高速モードの状態では、前記トロイダル型無段変速機21の変速比を増速側に変化させる程、無段変速装置全体としての変速比も増速側に変化する。
【0011】
前述の
図2〜3に示した単体として使用されるトロイダル型無段変速機も、上述の様な無段変速装置に組み込まれた状態で使用されるトロイダル型無段変速機21も、変速比の調節は、一般的には、各トラニオン7、7を、油圧式のアクチュエータ56、56により、前記各傾転軸8、8の軸方向に変位させる事により行う。前記各トラニオン7、7をこれら各傾転軸8、8の軸方向に変位させると、これら各トラニオン7、7に支持された前記各パワーローラ6、6の周面と、前記各ディスク2、2a、2b、5、5aの軸方向側面との転がり接触部(トラクション部)接線方向に作用する力の向きが、前記各傾転軸8、8の軸方向に対し変化する。具体的には、各トラクション部が中立位置からずれると、ずれの方向に応じて、前記各トラニオン7、7に、前記各傾転軸8、8を中心として、減速側又は増速側に揺動させる方向の(サイドスリップに基づく)力が加わる。そして、前記各トラクション部の位置が、前記各ディスク2、2a、2b、5、5aの径方向に関して変化し、前記変速比が変化する。この変速比が所望の値になった状態で、前記各トラクション部を前記中立位置に戻せば、前記トロイダル型無段変速機21の変速比を、前記所望の値に保持できる。尚、前記各アクチュエータ56、56は、このトロイダル型無段変速機21が動力を伝達している間中、この動力伝達に基づいて前記各トラニオン7、7に加わる、前記各傾転軸8、8の軸方向のスラスト荷重(トロイダル型無段変速機の技術分野で広く知られた、「2Ft」と呼ばれる力)を支承する。
【0012】
上述の様に、前記トロイダル型無段変速機21の変速比を所望の値に調節し、調節後の値に保持する為の機構に就いて、前記特許文献8〜9の記載に基づいて説明する。この機構は、
図6に示す様に、変速比制御弁45と、ステッピングモータ46と、プリセスカム47とにより構成している。このうちの変速比制御弁45は、スプール48とスリーブ49とを、軸方向の相対変位を可能に組み合わせたもので、これらスプール48とスリーブ49との相対変位に基づき、油圧源50と、各アクチュエータ56の油圧室51a、51bとの給排状態を切り換える。又、前記スプール48とスリーブ49とは、前記各トラニオン7、7のうちの何れか1個のトラニオン7の動きと前記ステッピングモータ46とにより、相対変位させる様にしている。
【0013】
前記各トラニオン7、7毎に設けた前記各アクチュエータ56への圧油の給排は、これら各アクチュエータ56毎に独立して制御するのではなく、前記何れか1個のトラニオン7の動きにより制御する。即ち、当該トラニオン7の、前記傾転軸8の軸方向の変位及びこの傾転軸8を中心とする揺動変位を、この傾転軸8にロッド52により結合した、前記プリセスカム47及びリンク腕53を介して、前記スプール48に伝達し、このスプール48を軸方向に変位させる。一方、前記ステッピングモータ46により前記スリーブ49を軸方向に変位させる。そして、前記変速比制御弁45に設けた各油圧ポート同士の連通状態を変更し、前記各アクチュエータ56の油圧室51a、51bへの圧油の給排を、前記単一の変速比制御弁45により行う。
【0014】
何れの構造の場合でも、前記トロイダル型無段変速機21の変速比を調節する際には、前記ステッピングモータ46により前記スリーブ49を所定位置にまで変位させ、前記変速比制御弁45を所定方向に開く(所定の油圧ポート同士を連通させる)。すると、前記各トラニオン7、7に付属の前記各アクチュエータ56、56の油圧室51a、51bに対し圧油が所定方向に給排されて、これら各アクチュエータ56、56により前記各トラニオン7、7が、それぞれ前記各傾転軸8、8の軸方向に変位する。この結果、これら各トラニオン7、7に支持された前記各パワーローラ6、6に関する前記各トラクション部が前記中立位置からずれて、前記変速比が変化し始める。この様に前記各トラクション部が中立位置からずれて変速比が変化し始める瞬間には、前記各トラニオン7、7の軸方向変位に伴って、前記変速比制御弁45の開閉状態が、前記所定方向とは逆方向に切り換わる(他の油圧ポート同士を連通させる)。従って、前記各トラニオン7、7は、変速の為に揺動変位を開始し始めた瞬間から、軸方向に関して中立位置に向け移動し(戻り)始める。そして、前記変速比が前記所望の値になった状態で、前記各トラクション部が前記中立位置に戻ると同時に、前記変速比制御弁45が閉じられる(総ての油圧ポート同士の連通が断たれる)。この結果、前記トロイダル型無段変速機21の変速比が、前記所望の値に保持される(フィードバック制御される)。
【0015】
この様に、前記各ディスク2、2a、2b、5、5a同士の間の変速比に結び付く、前記各トラニオン7、7の傾転角の同期は、油圧式である前記各アクチュエータ56、56によって行われる。これら各トラニオン7、7の傾転角が多少ずれた場合でも、前記各トラクション部に作用する力により(これら各トラクション部に働く、接線方向の力が最小になる方向に前記各トラニオン7、7が傾転する事により)前記プリセスカム47を組み付けたトラニオン7の傾転角に、他のトラニオン7、7の傾転角が追従する。更に、安全の為に、これら各トラニオン7、7同士の間に同期ケーブル54a、54b(
図3、5参照)を掛け渡して、これら各トラニオン7、7の傾転角を、機械的に同期させたり、隣り合うトラニオン7、7同士の傾転角を傘歯車により機械的に同期させる事も、広く知られている。
【0016】
ところで、上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各パワーローラ6、6(
図2〜3、5参照)と各トラニオン7aの支持梁部9、9aの内側面との間に、押圧装置20、20a(
図2、4参照)発生する押圧力に基づいて、各ディスク2、2a、2b、5、5aの径方向外方に向いた大きなスラスト荷重が加わり、前記各トラニオン7、7aが、
図7に誇張して示す様に弾性変形する。そして、この様なトラニオン7、7aの弾性変形により、ロッド52を介してこのトラニオン7、7aに結合固定された、プリセスカム47(
図6参照)の位置が正規位置からずれ動き、その結果、前記トロイダル型無段変速機の変速比が、変速比制御用の制御器が設定した目標値からずれる、所謂トルクシフトと呼ばれる現象が発生する。前記トラニオン7aの弾性変形に基づいてこの様なトルクシフトが発生する状況に就いて、
図8により説明する。尚、
図5、7に示した従来構造の第3例の場合、各トラニオン7aに対して各パワーローラ6、6(
図2〜3、5参照)を、回転及び揺動変位を可能に支持する部分の構造を、簡略化によりコスト並びに重量を低減する事を目的として、前述の
図2〜3に示した従来構造の第1例や同じく
図4〜5に示した第2例の場合とは異ならせている。しかし、当該部分の構造に就いては、前記特許文献3、9等に記載されていて従来から周知であるし、本発明との関係でも重要ではない為、詳しい図示並びに説明は省略する。言い換えれば、後述する本発明は、前記従来構造の第1〜3例のうちの何れでも実施できる。
【0017】
図8の(A)に示す様に、前記トラニオン7aが弾性変形していない状態では、前記ロッド52によりこのトラニオン7aに結合固定されている前記プリセスカム47の姿勢は中立状態にあり、このプリセスカム47は、前記傾転軸8の軸方向に関する、前記トラニオン7aの変位量を、リンク腕53(
図6参照)を介して変速比制御弁45のスプール48に正しく伝える。従って、この変速比制御弁45による、各アクチュエータ56(
図6参照)の油圧室51a、51b内の油圧調節をこの変速比制御弁45に送り込まれた制御信号の通りに行えて、前記トロイダル型無段変速機の変速比を所望値に調節できる。
【0018】
これに対して、
図8の(B)に示す様に、前記トラニオン7aが弾性変形した状態では、前記ロッド52によりこのトラニオン7aに結合固定されている前記プリセスカム47の姿勢が、鎖線で示した中立状態から、実線で示した非中立状態にまで変位する。この結果、前記プリセスカム47のカム面55の変位を前記リンク腕53を介して伝達される事により軸方向(
図8の左右方向)に変位する、前記変速比制御弁45のスプール48の軸方向位置が、正規位置に対して、
図8の(B)にδで示した分だけ、軸方向にずれる。この様なδ分のずれは、前記スプール48と前記スリーブ49とから成る、前記変速比制御弁45に設けた各油圧ポートの連通状態のずれに繋がり、前記トロイダル型無段変速機の変速比の目標値からのずれに繋がる。
【0019】
この変速比が目標値からずれる事自体、好ましい事ではないが、特に、前述の
図4〜5に示した様な、動力の伝達経路を互いに異ならせる複数種類のモード(低速モードと高速モードと)を備えた無段変速装置の場合には、モード切換時に、次の様に顕著な問題を生じる。
即ち、前記無段変速装置の運転状態を低速モードにした場合と高速モードにした場合とでは、この無段変速装置全体としての変速領域は互いに異なる。但し、これら両モード間の切換は走行状態のまま行うので、このモード切換時に、不連続な変速比への急な変速動作に基づいて変速ショックが発生しない様にすべく、前記トロイダル型無段変速機の変速比を適切に調節して、前記低速モードでの前記無段変速装置の変速比と、前記高速モードでの前記無段変速装置の変速比とを一致させた状態で、前記モード切換(前記低速用、高速用両クラッチ38、42のうちのそれまで断たれていたクラッチを接続すると共に、それまで接続されていたクラッチの接続を断つ作業)を行う必要がある。
【0020】
この様にして行うモード切換時には、前記低速モードでの前記無段変速装置の変速比と、前記高速モードでの前記無段変速装置の変速比とを一致させるべく、前記トロイダル型無段変速機の変速比を適切に、且つ、精度良く調節する必要がある。但し、前記トルクシフトが発生すると、前記トロイダル型無段変速機の変速比を変速比制御信号の指示値通りに規制できなくなるので、このトロイダル型無段変速機の変速比を精度良く調節する事が難しくなる。そして、前記モード切換時に於けるこのトロイダル型無段変速機の変速比が不適切である為に、このモード切換時の、前記低速モードでの前記無段変速装置の変速比と前記高速モードでの前記無段変速装置の変速比とのずれが大きくなると、前記変速ショックが発生し、運転者を含む乗員に不快感を与えてしまう。特に、入力軸を一方向に回転させた状態のまま出力軸を、停止状態を挟んで両方向に回転させられる、所謂ギヤードニュートラルモードを有する無段変速装置の場合には、トロイダル型無段変速の通過トルクが高い状態でモード切換を行う事になる為、上述の様な不快感が大きくなり易い。
【0021】
この様な不都合を生じる、モード切換時の変速ショックの発生を抑える為に従来から、予測されるトルクシフトの大きさに応じてモード切換のタイミングを変更する等の対策が考えられていたが、前記変速ショックの発生自体を抑えられる技術ではない為、新たな技術の実現が望まれている。
【0022】
前記トルクシフトを引き起こす、前記トラニオン7aの弾性変形に基づく前記スプール48の軸方向位置のずれ量δは、このトラニオン7aの剛性、前記ロッド52の長さ寸法、及び前記押圧装置20、20aが発生する押圧力から求められる。又、この押圧力は、前記トロイダル型無段変速機を構成する前記各ディスク2、2a、2b、5、5a同士の間でトルク(トロイダル型無段変速機の通過トルク)を伝達する為に必要な値であり、トロイダル型無段変速機の技術分野で周知の様に、前記各アクチュエータ56毎に1対ずつ設けた油圧室51a、51b同士の間の油圧の差から求められる。
【0023】
従って、前記トルクシフトを抑えるべく、前記ずれ量δを求め、このずれ量δ分の修正を行って、前記モード切換時に於ける前記トロイダル型無段変速機の変速比を適切に調節する事は、理論上は可能である。但し、前記通過トルクは、前記モード切換時及びその前後で大きくなり、しかもその変動幅も大きくなる。一方、このモード切換に要する時間は極く短いので、このモード切換時に前記トルクシフトに基づく変速ショックを抑えるべく、このモード切換時に於ける前記トロイダル型無段変速機の変速比を算出する為に許される時間は極めて短い。従って、従来構造の様に、前記押圧装置20、20aが発生する押圧力を無段階(滑らかに連続した完全な無段階に限らず、例えば20〜30段階の如く、連続した状態に近い多段階の場合も含む)に変動させつつ、前記押圧力に基づく前記トラニオン7aの弾性変形量を求め、前記ずれ量δ分の修正を行う為には、大型で高価な演算処理器(CPU)が必要になる等、無段変速装置の小型化、低コスト化を妨げる原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、低速モードと高速モードとの切換時にトロイダル型無段変速機の変速比を精度良く調節できて、このモード切換時に変速ショックの発生を抑えられる無段変速装置を、小型且つ低コストで実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の無段変速装置は、例えば前述の
図4〜5に示した従来構造と同様に、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成る。
このクラッチ装置は、減速比を大きくする低速モードを実現する際に接続されて同じく小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる低速用クラッチと、この高速モードを実現する際に接続されて前記低速モードを実現する際に接続が断たれる高速用クラッチと、これら各クラッチの断接状態を切り換える制御器とから成る。そして、この制御器は、これら各クラッチの断接を制御する事で、変速状態を前記低速モードと前記高速モードとのうちの何れかのモードにするものである。
又、前記トロイダル型無段変速機は、少なくとも1対のディスクと、複数の支持部材と、これら各支持部材と同数のパワーローラと、押圧装置とを備える。
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を可能に支持している。
又、前記各支持部材は、軸方向に関して前記各ディスクの軸方向側面同士の間位置の周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けている。
又、前記各パワーローラは、前記各トラニオンに、それぞれ回転自在に支持されている。そして、部分球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向側面にそれぞれ当接させている。
又、前記押圧装置は、前記各ディスクを互いに近づく方向に押圧するべく、油圧シリンダ内に導入した油圧に応じて、前記各ディスクの軸方向の押圧力を発生するものであり、この油圧シリンダ内に導入する油圧の値は、前記各パワーローラにより前記各ディスク同士の間で伝達する伝達トルクの大きさに応じて無段階に変化させ、このトルクが大きくなる程前記油圧を高くして、前記押圧力を大きくする。尚、この場合に於ける無段階とは、前述した様に、滑らかに連続した完全な無段階に限らず、例えば20〜30段階の如く、連続した状態に近い多段階の場合も含む。
又、前記各ディスク同士の間の変速比の調節は、前記各支持部材毎に設けられたアクチュエータによりこれら各支持部材を前記各傾転軸の軸方向に変位させ、これら各支持部材をこれら各傾転軸を中心として揺動変位させる事により行う。
更に、前記変速比に結び付く、前記各傾転軸を中心とする前記各支持部材の傾斜角度(傾転角)は、前記各アクチュエータへの圧油の給排を制御する変速比制御弁により制御する。そして、この変速比制御弁に設けた複数の油圧ポート同士の連通状態の変更は、前記各支持部材のうちの何れか1個の支持部材の変位を前記変速比制御弁の構成部材に伝達する事により行う。
【0027】
特に、本発明の無段変速装置に於いては、前記制御器は、前記低速モードと前記高速モードとの間でのモード切換時に、前記伝達トルクに応じて前記押圧装置が発生する押圧力を無段階に調節する機能を一時的に停止する。そして、前記モード切換時に前記押圧装置が発生する押圧力を、それぞれが既知である(予め定められた)、1乃至複数種類の値に固定した状態で、前記低速用クラッチと前記高速用クラッチとの断接を行わせる。但し、前記モード切換時に前記押圧装置が発生する押圧力は、前記各パワーローラの周面と前記各ディスクの軸方向側面との転がり接触部(トラクション部)で有害な滑りを生じさせない程度の大きさが確保できる様に設定する。言い換えれば、前記押圧力を固定した状態で、有害な滑りが発生しない様に、エンジンの出力トルクの大きさを制御する。
【0028】
上述の様な本発明を実施するのに、例えば前記押圧装置に発生させる押圧力の調節を、前記各ディスク同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて行い、このトルクが大きくなる程前記押圧力を大きくする。又、このトルクの測定は、前述した従来構造の場合と同様に、前記各アクチュエータに設けた1対の油圧室内の油圧の差に基づいて求める事もできるが、好ましくは、前記トルクの値(大きさ)を、アクセル開度、エンジンの回転速度等、動力源であるエンジンの運転状況に応じて変化する、エンジンの制御信号に基づいて求める。
【発明の効果】
【0029】
上述の様な本発明によれば、低速モードと高速モードとの切換時にトロイダル型無段変速機の変速比を精度良く調節できて、このモード切換時に変速ショックの発生を抑えられる無段変速装置を、小型且つ低コストで実現できる。この理由は次の通りである。
本発明の場合には、モード切換時に前記伝達トルクに応じて押圧装置が発生する押圧力を無段階に調節する機能を一時的に停止する。そして、前記モード切換時に前記押圧装置が発生する押圧力Fを、既知の値に固定する。この押圧力Fと前記トロイダル型無段変速機の変速比調節機構中のプリセスカムのずれ量δとの間には、支持部材の剛性やロッドの長さ等により定まる一定の関係があり(F∝δ)、前記押圧力Fの大きさが分かれば、直ちに(演算処理の時間を要する事なく)前記ずれ量δの大きさが分かる。そして、このずれ量δの値が分かれば、直ちに変速比制御弁による油圧の調節状態の中立位置から偏差(誤差)を知る事ができる。そして、この偏差が分かれば、この油圧の調節状態の偏差分の修正を行って、前記モード切換時に於ける前記トロイダル型無段変速機の変速比を適切に調節できる。本発明によれば、このモード切換時に前記通過トルクが大きく変動しても、前記押圧力Fは変わらないので、この通過トルクに応じて前記トロイダル型無段変速機の変速比を算出し直す必要はない。従って、前記押圧力Fに基づく前記支持部材に関する弾性変形量を求め、前記ずれ量δ分の修正を行う為にCPUに要求される性能(演算処理速度)が特に高くなる事はなく、高価で大型のCPUを使用しなくても、油圧式の押圧装置が発生する押圧力に基づく変速比制御弁の構成部材のずれ量δ分の修正を、必要な精度を確保しつつ行なえる様にできて、無段変速装置の小型化、低コスト化を図り易くできる。
【0030】
特に、前記各ディスク同士の間で伝達すべきトルクの大きさを、動力源であるエンジンの制御信号に基づいて求めれば、このトルクの値を求める為の演算処理が、非常に簡素乃至は不要になり、CPUに要求される性能をより低く抑える事ができて、上述の様な本発明の作用・効果をより顕著に得られる。又、通常状態(前記モード切換時以外の状態)に於いて、前記押圧装置が発生する押圧力Fを、前記各パワーローラの周面と前記各ディスクの軸方向側面との転がり接触部(トラクション部)で有害な滑りを生じさせない程度に十分に確保できる。言い換えれば、トルク伝達の為に必要な押圧力が不足する事を防止して、グロススリップの発生を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態の1例に就いて説明する。尚、本例を含めて本発明の特徴は、低速モードと高速モードとの切換時にトロイダル型無段変速機の変速比を精度良く調節する際のCPUの負担軽減を図るべく、押圧装置を構成する油圧シリンダ内への油圧の導入状態を工夫した点にある。トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて構成した無段変速装置の構造及び作用に関しては、前述の
図4〜5に記載した構造を含め、従来から知られている各種無段変速装置と同様であるから、図示並びに説明を省略し、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0033】
先ず、
図1に示した各線a〜eが示す状態量等に就いて説明する。原点寄り部分に(左寄り部分)縦方向に記載した直線aは、前記低速モードと高速モードとの切換時(モード切換ポイント)に於ける、無段変速装置全体としての変速比を示している。この無段変速装置は、後退時を含め、変速比が前記直線aで示した値よりも低い(左側部分に存在する)場合には、低速用クラッチ38を接続し、高速用クラッチ42(
図4参照)の接続を断って、低速モードで運転する。これに対して前記無段変速装置は、変速比が前記直線aで示した値より高い(右側部分に存在する)場合には、前記低速用クラッチ38の接続を断ち、前記高速用クラッチ42を接続して、高速モードで運転する。
【0034】
又、曲線bは、前記低速モードで、且つ、エンジンの出力トルクが最大である状態(最大トルクでの運転時)に於ける、前記無段変速装置全体としての変速比と、グロススリップの発生を防止する為に必要とされる油圧(必要最低油圧)との関係を示している。又、曲線cは、同じ条件で、エンジンの出力トルクが小さい状態(低トルクでの運転時)に於ける、前記無段変速装置全体としての変速比と、前記必要最低油圧との関係を示している。
【0035】
又、曲線eは、前記高速モードで、且つ、エンジンを最大トルクでの運転した場合に於ける、前記無段変速装置全体としての変速比と、前記必要最低油圧との関係を示している。更に、曲線fは、同じ条件で、エンジンを低トルクで運転した場合に於ける、前記無段変速装置全体としての変速比と、前記必要最低油圧との関係を示している。
【0036】
前述した従来の無段変速装置の場合には、前記直線aを境として行うモード切換時に発生する変速ショックを抑えるべく、プリセスカム47の変位に基づく前記変速比制御弁45のスプール48の変位量δ(
図8参照)を求める為に、前記油圧として、前記直線aの両側部分で、前記曲線c、fよりも上側部分の(高い)値を総て考慮する可能性があった(どの様な油圧の値が前記変位量δの計算の基礎となるかが不明であった)。この為、この変位量δを求めて前記変速比制御弁45による油圧の調節状態の中立位置から偏差を求め、この油圧の調節状態に関しての偏差分の修正を行って、前記モード切換時に於ける前記トロイダル型無段変速機の変速比を適切に調節する為に要する計算量が膨大になり、前述した様に、大型でしかも高価なCPUが必要になった。
【0037】
この様な従来の無段変速装置に対して本例の無段変速装置の場合には、前記モード切換時に前記伝達トルクに応じて前記押圧装置が発生する押圧力Fを無段階に調節する機能を一時的に停止し、この押圧装置が発生する押圧力F(押圧装置の油圧室内に導入する油圧の値)を、それぞれが予め既知である、3種類の値のうちの何れかの値に固定した状態、即ち、前記押圧装置の油圧室内に、前記点▲1▼〜点▲3▼で表される何れか1種類の値の油圧を導入した状態で、前記低速用クラッチと前記高速用クラッチとの断接を行わせる。
【0038】
具体的には、例えばエンジンの制御信号に基づいて、このエンジンが最大トルク若しくはそれに近い大きなトルクで運転されていると判定される場合には、前記
図1の直線a上の点▲1▼(丸付き数字)に見合う(2.0MPa程度の)油圧を、前記押圧装置の油圧室内に導入する。これに対して、一方、前記エンジンが小さなトルク(低トルク)で運転されていると判定される場合には、前記
図1の直線a上の点▲3▼に見合う(0.5MPa程度の)油圧を、前記押圧装置の油圧室内に導入する。更に、前記エンジンが中程度のトルク(中間トルク)で運転されていると判定される場合には、前記
図1の直線a上の点▲2▼(丸付き数字)に見合う(1.2MPa程度の)油圧を、前記押圧装置の油圧室内に導入する。何れの場合でも、前記エンジンの出力トルクが、前記点▲1▼〜点▲3▼で表される油圧に基づいて前記押圧装置が発生する押圧力Fにより各トラクション部で安定したトルク伝達を行える様に(グロススリップが発生しない様に)、前記油圧の値を固定した状態では、前記エンジンの制御信号を適切に規制して、このエンジンの出力トルクの増大を抑える。
【0039】
上述の様に本例の無段変速装置の場合には、モード切換時に前記伝達トルクに応じて押圧装置が発生する押圧力を無段階に調節する機能を一時的に停止して、前記モード切換時に前記押圧装置が発生する押圧力Fを、既知の値に固定する。即ち、前記点▲1▼〜点▲3▼で表される油圧に基づいて前記押圧装置が発生する既知の押圧力F
1〜F
3に固定する。この押圧力F
1〜F
3と、前記トロイダル型無段変速機の変速比調節機構中のプリセスカム47により駆動されるスプール48のずれ量δ(
図8参照)との間には、トラニオン7aの剛性やロッド52の長さ等により定まる一定の関係があり(F∝δ)、この関係は、予め計算や実験により高精度で求め、モード切換用の制御器のメモリ中に計算式やマップ等の形式で組み込んでおく事ができる。従って、前記押圧力F
1〜F
3の値が分かれば、直ちに(演算処理の時間を殆ど要する事なく)前記ずれ量δの大きさが分かる。そして、このずれ量δの値が分かれば、直ちに変速比制御弁による油圧の調節状態の中立位置から偏差(誤差)を知る事ができる。そして、この偏差が分かれば、この油圧の調節状態の偏差分の修正を行って、前記モード切換時に於ける前記トロイダル型無段変速機の変速比を適切に調節できる。本例の場合、このモード切換時に、前記押圧装置が発生する押圧力Fを無段階に調節する機能を一時的に停止しており、前記通過トルクが大きく変動しても、前記押圧力Fは変わらないので、この通過トルクに応じて前記トロイダル型無段変速機の変速比を算出し直す必要はない。従って、前記押圧力に基づく前記トラニオン7aの弾性変形量を求め、前記ずれ量δ分の修正を行う為にCPUに要求される性能(演算処理速度)が特に高くなる事はなく、高価で大型のCPUを使用しなくても、油圧式の押圧装置が発生する押圧力に基づく変速比制御弁の構成部材のずれ量δ分の修正を、必要な精度を確保しつつ行なえる様にできて、無段変速装置の小型化、低コスト化を図り易くできる。但し、モード切換の途中でエンジンの出力トルクを上昇させない制御を行う必要がある事は、前述した通りである。
又、本例の無段変速装置の場合には、前記各ディスク同士の間で伝達すべきトルクの大きさを、動力源であるエンジンの制御信号に基づいて求めるので、このトルクの値を求める為の演算処理が、非常に簡素乃至は不要になり、CPUに要求される性能をより低く抑える事ができて、上述の様な本発明の作用・効果をより顕著に得られる。