特許第6167952号(P6167952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167952端子付き被覆電線およびワイヤーハーネス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167952
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】端子付き被覆電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20170713BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20170713BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20170713BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20170713BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20170713BHJP
   H01B 3/46 20060101ALI20170713BHJP
   H01B 7/28 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01B7/00 306
   H01B3/30 C
   H01B3/42 E
   H01B3/44 A
   H01B3/44 F
   H01B3/40 C
   H01B3/46 H
   H01B3/44 C
   H01B7/28 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-54382(P2014-54382)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-176840(P2015-176840A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏平
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−080682(JP,A)
【文献】 特開2012−054143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 3/30
H01B 3/40
H01B 3/42
H01B 3/44
H01B 3/46
H01B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部が、前記端子金具表面に対する接着強度が0.1MPa以上であり、硬度がショアA硬度で40以上かつショアD硬度で50以下である絶縁性樹脂組成物よりなる防食剤に被覆されており、
前記端子金具は、前記電線導体に加締め圧着されたワイヤバレルと、前記電線導体を被覆する絶縁体の上から前記被覆電線に加締め圧着されたインシュレーションバレルとからなる電線固定部を有し、
前記防食剤は、前記電線導体の先端から、前記端子金具の前記電線固定部の後端までを含む領域において、前記端子金具と前記被覆電線の外周面の形状に沿って、前記電気接続部を連続した膜の状態で被覆していることを特徴とする端子付き被覆電線。
【請求項2】
前記端子金具の表面には、スズまたはスズ合金が露出していることを特徴とする請求項1に記載の端子付き被覆電線。
【請求項3】
前記絶縁性樹脂組成物が、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の端子付き被覆電線。
【請求項4】
前記絶縁性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂、および紫外線硬化性樹脂より選択される樹脂であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線。
【請求項5】
前記端子金具が銅または銅合金を母材として構成され、前記電線導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き被覆電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、電線導体と端子金具の電気接続部の防食性に優れた端子付き被覆電線およびそれを用いたワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索される被覆電線の端末の電線導体には端子金具が接続されている。端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部においては、腐食を防止することが求められる。特に、車両の軽量化などを目的として、電線導体の材料にアルミニウムやアルミニウム合金が用いられる場合がある。一方、端子金具の材料には銅や銅合金が用いられることが多い。また、端子金具の表面にはスズめっきなどのめっきが施されることが多い。つまり、電線導体と端子金具の材質が異なる場合が生じる。電線導体と端子金具の材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。このため、電気接続部を確実に防食することが求められる。
【0003】
電気接続部における防食を達成するために、電気接続部にグリースを注入したり、電気接続部を接着性樹脂によって被覆したりすることが試みられている。例えば、特許文献1には、防食用ポリアミド系樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−41494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような端子金具と電線導体との間の電気接続部を被覆する防食剤は、端子金具表面に密着した緻密な膜を形成することで、電気接続部への水等の浸入を防止し、防食の機能を果たすことができる。しかし、端子金具を樹脂等よりなるコネクタハウジングに挿入してコネクタを構成する際に、コネクタハウジングと防食剤の間における接触や摩擦に起因して、防食剤層に傷や割れ、剥離等の損傷が発生する可能性がある。すると、防食剤の防食性能が低下してしまうおそれがある。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、端子金具と電線導体の間の電気接続部を覆う防食剤において、傷や割れ、剥離の発生が抑えられた端子付き被覆電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る端子付き被覆電線は、端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部が、前記端子金具表面に対する接着強度が0.1MPa以上であり、硬度がショアA硬度で40以上かつショアD硬度で50以下である絶縁性樹脂組成物よりなる防食剤に被覆されていることを要旨とする。
【0008】
ここで、前記端子金具の表面には、スズまたはスズ合金が露出していることが好ましい。
【0009】
また、前記絶縁性樹脂組成物が、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含んでなるとよい。
【0010】
そして、前記絶縁性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂、および紫外線硬化性樹脂より選択される樹脂であるとよい。
【0011】
また、前記端子金具が銅または銅合金を母材として構成され、前記電線導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を有するとよい。
【0012】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記の端子付き被覆電線を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る端子付き被覆電線によれば、防食剤が、端子金具の表面に対して0.1MPa以上の接着強度を有していることにより、端子金具表面からの防食剤の剥離が抑制される。また、防食剤がショアA硬度で40以上の硬度を有していることにより、防食剤表面における破れ等の傷の形成が抑制される。さらに、防食剤の硬度がショアD硬度で70以下であることにより、防食剤に割れが生じにくくなっている。これらの効果により、端子付き被覆電線の端子金具部分をコネクタハウジングに挿入しても、防食剤に傷や剥離、割れ等の損傷が生じにくく、高い防食性能が維持される。
【0014】
ここで、端子金具の表面に、スズまたはスズ合金が露出している場合には、汎用的なスズめっき端子を用いて、電線導体との接続部が損傷に対して高い耐性を有する防食剤に覆われた端子付き被覆電線を構成することができる。
【0015】
また、絶縁性樹脂組成物が、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含んでなる場合には、高い防食性能が発揮されやすい。そして、絶縁性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂、および紫外線硬化性樹脂より選択される樹脂である場合には、高効率に電気接続部を防食剤で被覆することができる。
【0016】
また、端子金具が銅または銅合金を母材として構成され、電線導体がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を有する場合には、端子付き被覆電線の電気接続部において異種金属が接するので、適切な防食処理が施されなければ腐食が起こる確率が高くなるが、損傷に対して高い耐性を有し、優れた防食性能を発揮する上記のような防食剤を用いた端子付き被覆電線とすることで、電気接続部の耐腐食性が向上し、接続信頼性に優れたものとなる。
【0017】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記の端子付き被覆電線を有するので、電気接続部を被覆する防食剤に、傷や剥離、割れ等の損傷が生じにくく、高い防食性能が維持されたワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の端子付き被覆電線の一例を示す外観斜視図である。
図2図1におけるA−A線縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
<端子付き被覆電線>
(全体の構成)
図1は本発明の端子付き被覆電線の一例を示す外観斜視図であり、図2図1におけるA−A線縦断面図である。図1および図2に示すように、本発明の端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁体4により被覆された被覆電線2の電線導体3と、端子金具5が、電気接続部6により電気的に接続されてなる。
【0021】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53とからなる電線固定部54を有する。
【0022】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁体4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め圧着し、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁体4の上から加締め圧着する。
【0023】
防食剤7が被覆している具体的な部分は、以下の部分である。図1に示すように、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように防食剤7で被覆する。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁体4側に少しはみ出すように防食剤7で被覆する。図2に示すように、端子金具5の側面5bも防食剤7で被覆する。端子金具5の裏面5cは防食剤7で被覆しない。こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6を防食剤7により所定の厚さで被覆する。被覆電線2の端末が皮剥ぎされて電線導体3が露出した部分は、防食剤7によって完全に覆われていて、外部に露出しないようになっている。なお、電気接続に影響を与えないのであれば、端子金具5の電線固定部54の裏面側(ワイヤバレル52およびインシュレーションバレル53の裏面側も含む)を、防食剤7により被覆してもよい。
【0024】
したがって、電気接続部6を被覆する防食剤7の周端のうち3方が端子金具5の表面に接し、一方が絶縁体4の表面に接する。つまり、防食剤7の周端の大部分が端子金具5の表面に接する。
【0025】
以下、端子付き被覆電線1を構成する被覆電線2、端子金具5、防食剤7の具体的構成について説明する。
【0026】
(被覆電線)
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていてもよいし、2種以上の金属素線より構成されていてもよい。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいてもよい。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていてもよい。
【0027】
上記電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
【0028】
絶縁体4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。絶縁体4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0029】
(端子金具)
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、スズ、ニッケル、金またはそれらを含む合金など、各種金属によりめっきが施されていてもよい。
【0030】
以上のように、電線導体3および端子金具5は、いかなる金属材料よりなってもよいが、端子金具5が、銅または銅合金よりなる母材にスズめっきを施された一般的な端子材料よりなり、電線導体3がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線3aを含んでなる場合のように、電気接続部6において異種金属が接触している場合には、水分との接触によって電気接続部6に特に腐食が発生しやすい。しかし、次に説明するような防食剤7が、電気接続部6の表面に密着して電気接続部6を被覆していることで、このような異種金属間腐食を高度に防止することができる。
【0031】
(防食剤)
上記のように、防食剤7は、緻密な膜を形成し、端子金具5と電線導体3の間の電気接続部6に密着して被覆することで、外部からの水等の浸入を防止する。これにより、電気接続部6への水等の浸入による腐食を防止する役割を果たす。
【0032】
防食剤7は、絶縁性樹脂組成物よりなり、端子金具5の表面に対して、0.1MPa以上の接着強度を有する。また、防食剤7は、ショアA硬度で40以上、かつショアD硬度で50以下の硬度を有する。
【0033】
防食剤7の接着強度は、JIS K6850に準拠した引張せん断接着試験を室温にて行い、引張せん断接着強度として測定することができる。また、防食剤7の硬度は、JIS K6253−3に準拠して、タイプA硬度計またはタイプD硬度計を用いて、室温にて測定することができる。
【0034】
防食剤7が端子金具5の表面に対して0.1MPa以上の接着強度を有することで、防食剤7が端子金具5の表面に強く密着する。これにより、防食剤7が端子金具5の表面をはじめとする電気接続部6の表面から剥離するのが抑制される。このように防食剤7の剥離を抑制する効果は、高温や低温に繰り返し晒される熱衝撃を受けた際にも発揮される。端子金具5の表面に対する防食剤7の接着強度は、好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは10MPa以上である。
【0035】
また、防食剤7の硬度が、ショアA硬度で40以上であることで、防食剤7は摩擦や引掻きを受けた際に、防食剤7の表面に、破れ等の傷が形成されにくくなっている。一方、防食剤7の硬度がショアD硬度で50以下であることで、防食剤7に割れが発生しにくくなっている。このように防食剤7における割れや傷の形成を抑制する効果は、熱衝撃を受けた際にも発揮される。防食剤7の硬度は、ショアA硬度で50以上であることが好ましい。また、ショア硬度でD40以下であることが好ましい。
【0036】
このように、防食剤7は、所定の接着強度と硬度を有することで、取り扱い中や使用中に、剥離、傷、割れ等の損傷を受けにくくなっている。端子付き被覆電線1は、端子金具5の部分を樹脂等よりなるコネクタハウジング(不図示)に挿入してコネクタとして使用されることが多く、これらの損傷はとりわけ、コネクタハウジングに端子金具5を挿入する際や、コネクタハウジングの交換等のためにコネクタハウジングから端子金具5を抜き取る際に発生しやすい。このような端子金具5のコネクタハウジングに対する挿抜動作に伴い、端子金具5表面を被覆している防食剤7と、コネクタハウジングの壁面との間に、摩擦や引掻き等の力が印加されるからである。本端子付き被覆電線1においては、上記のような接着強度と硬度を有することで、このような力の印加を受けた際にも、防食剤7において剥離、傷、割れ等の損傷が発生しにくく、緻密な膜を形成して端子金具5および電線導体3に密着した状態が維持されやすい。もし防食剤7が上記のような損傷を受けると、防食剤7に被覆された領域への水等の浸入を阻止することが難しくなり、防食性能が維持されなくなってしまう。
【0037】
防食剤7を構成する樹脂成分としては、上記のような接着強度と硬度を与えるものであれば、どのようなものでもよい。具体的には、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。防食剤7には、着色用顔料、粘度調整剤、老化防止剤、無機充填材、保存安定剤、分散剤など、添加剤が適宜加えられていてもよい。
【0038】
防食剤7を構成する樹脂材料は、熱可塑性樹脂または硬化性樹脂であることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂、二液反応硬化性樹脂、および紫外線硬化性樹脂を例示することができる。各硬化方法は併用されてもよい。防食剤7が硬化性樹脂よりなる場合、最終的に硬化物とした状態で使用される。
【0039】
防食剤7が、熱可塑性樹脂または硬化性樹脂を含んでなる場合、防食剤7による電気接続部6の被覆を高効率で行い、電気接続部6に密着した緻密な防食剤7の膜を形成することができる。防食剤7が熱可塑性樹脂を含む場合は、加熱して可塑化した状態で電気接続部6に塗布した後、冷却すればよい。防食剤7が硬化性樹脂を含む場合は、未硬化の流動性の高い状態で電気接続部6に塗布した後、それぞれの硬化方法に応じた硬化操作を行えばよい。例えば、熱硬化性樹脂の場合は防食剤7を塗布した後に加熱すればよく、紫外線硬化性樹脂の場合は防食剤7を塗布した後に紫外線を照射すればよい。いずれの硬化方法の樹脂を使用するかは、防食剤7が適用される部位や使用環境等に応じて選択すればよい。防食剤7の塗布は、滴下法、塗布法、押し出し法等の公知の手段を用いることができる。また防食剤7の塗布の際、防食剤7を加熱、冷却等により温度調節してもよい。さらに、防食剤7の浸透性(塗布性)を高めるため、塗布する際には防食剤7を溶剤で希釈して液状にしてもよい。
【0040】
防食剤7の接着強度および硬度は、樹脂種により、適宜選択することができる。また、無機充填剤等の添加剤の種類と量によっても、ある程度調節することができる。さらに、防食剤7が硬化性樹脂を含んでなる場合、硬化の程度によっても、硬度を調製することができる。
【0041】
<ワイヤーハーネス>
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記本発明にかかる端子付き被覆電線1を含む複数の被覆電線よりなる。ワイヤーハーネスを構成する被覆電線の全てが本発明にかかる端子付き被覆電線1であってもよいし、その一部のみが本発明にかかる端子付き被覆電線1であってもよい。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0043】
1.試験片の作製
<接着試験片>
JIS K6850に準拠した引張りせん断接着試験を行うために、接着試験片を作製した。つまり、スズめっき銅板に、下記表1に示す各種硬化性樹脂よりなる防食剤を厚さ0.1mmで塗布し、アクリル板と貼り合わせた。ここで、アクリル系樹脂(実施例1、比較例1,3)は紫外硬化性樹脂であり、アクリル板側から水銀キセノンランプ(500mW/cm×6秒)を用いて紫外線照射を行って、硬化させた。エポキシ系樹脂(実施例2)は熱硬化性樹脂であり、100℃で30分間加熱することで、硬化させた。シリコーン系樹脂(比較例2)は湿気硬化性樹脂であり、室温にて大気中で7日間放置することで硬化させた。
【0044】
<硬度試験片>
JIS K6253−3の硬度測定を行うために、防食剤シートを作製した。つまり、上記と同様に硬化を行うことで、各防食剤をシート状に硬化させ、厚さ2mmのシートを作製した。
【0045】
<引掻き試験片>
JIS K5600−5−5の引掻き試験を行うために、アルミニウム板上に、各防食剤を厚さ0.5mmで塗布し、上記と同様に硬化操作を行うことで、防食剤を硬化させた。
【0046】
2.端子付き被覆電線の作製
ポリ塩化ビニル(重合度1300)100質量部に対して、可塑剤としてジイソノニルフタレート40質量部、充填剤として重炭酸カルシウム20質量部、安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤5質量部をオープンロールにより180℃で混合し、ペレタイザーにてペレット状に成形することにより、ポリ塩化ビニル組成物を調製した。次いで、50mm押出機を用いて、上記得られたポリ塩化ビニル組成物を、アルミ合金線を7本撚り合わせたアルミニウム合金撚線よりなる導体(断面積0.75mm)の周囲に0.28mm厚で押出被覆した。これにより被覆電線(PVC電線)を作製した。
【0047】
上記作製した被覆電線の端末を皮剥して電線導体を露出させた後、自動車用として汎用されている黄銅製のオス形状の圧着端子金具(タブ幅0.64mm)を被覆電線の端末に加締め圧着した。次いで、電線導体と端子金具との電気接続部に、表1に示す各防食剤を厚さ0.5mmで塗布して、露出している電線導体および端子金具のバレルを被覆した。そして、上記と同様に防食剤を硬化させて、端子付き被覆電線を得た。
【0048】
3.評価方法
<接着強度の測定>
上記で作成した接着試験片に対し、JIS K6850に準拠して、室温にて引張りせん断接着試験を行った。防食剤は、スズめっき銅板側から剥離し、その際に得られた接着強度(引張りせん断接着強度)の値を表1に示す。
【0049】
<硬度の測定>
上記で作成した硬度試験片に対し、JIS K6253−3に準拠して、室温にて硬度の測定を行った。測定には、各防食剤の硬度に応じて、タイプA硬度計またはタイプD硬度計を用いた。表1に得られた硬度の値を示す。
【0050】
<引掻き試験>
コネクタ挿抜によって防食剤に傷が形成される過程を模すために、上記で作成した引掻き試験片を用い、JIS K5600−5−5に準拠して、室温にて引掻き試験を行った。この際、引掻き速度を30mm/sとし、引掻きを行う針に印加する荷重を1gとした。引掻き後、防食剤を目視にて観察し、防食剤膜を貫通する傷(破れ)が形成されなかったものを合格「○」とし、防食剤膜を貫通する傷(破れ)が形成されていたものを不合格「×」とした。
【0051】
<熱衝撃試験>
上記で作成した各端子付き被覆電線をコネクタハウジングに挿入した状態で、JIS C0025に準拠して熱衝撃試験(温度変化試験)を行った。具体的には、端子付き被覆電線を125℃において1時間放置した後、−40℃にて1時間放置するサイクルを5回繰り返した。その後、端子付き電線をコネクタハウジングから取り出し、外観を目視にて観察した。防食剤に割れや剥離が発生していないものを合格「○」とし、割れまたは剥離が発生しているものを不合格「×」とした。
【0052】
<結果および考察>
表1に、各実施例および比較例にかかる試験試料についての引掻き試験および熱衝撃試験の結果を、接着強度と硬度とともに示す。
【表1】
【0053】
比較例1においては、防食剤がショアD硬度で50を超える高い硬度を有している。このために、防食剤が割れを生じやすい状態となっており、熱衝撃試験を経た際に、防食剤に割れが観察されている。比較例2においては、防食剤の硬度が、ショアA硬度で40未満の低い値となっている。このために、引掻き試験において、防食剤に傷が生じている。比較例3においては、防食剤の接着強度が、0.1MPa未満の小さい値となっている。このために、電気接続部への防食剤の密着が不十分となり、熱衝撃を経た際に、防食剤に剥離が生じている。
【0054】
これらに対し、実施例1,2においては、引掻き試験において防食剤に傷が形成されておらず、また熱衝撃試験を経ても防食剤に剥離も割れも発生していない。このことは、防食剤が、ショアA硬度で40以上かつショアD硬度で50未満の硬度と、0.1MPa以上の接着強度を有していることにより、傷、割れ、剥離等の損傷を受けにくくなっていることを示している。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 絶縁体
5 端子金具
52 ワイヤバレル
53 インシュレーションバレル
54 電線固定部
6 電気接続部
7 防食剤
図1
図2