【文献】
大原俊一 ほか,電子写真の定着過程における紙内の水分移動解析とその検証,IIP情報・知能・精密機器部門講演会講演論文集,2013年 3月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔質媒体の温度及び前記多孔質媒体の液体含有率の相関を示す情報に基づいて、前記多孔質媒体の空隙を形成する構造体における脱湿の圧力である脱湿圧力を導出する導出手段と、
前記空隙における蒸気圧と前記導出手段によって導出された前記脱湿圧力とを比較した比較結果に基づいて導出された前記多孔質媒体の応力特性を示す物理量を出力する出力手段と、
を含む物理量推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0029】
一例として
図1に示すように、画像形成装置10は、給紙部12、搬送部14、画像形成実行部16、定着部18、矯正部20(本発明に係る矯正手段の一例)、及び制御部22(本発明に係る物理量推定装置の一例)を含む。
【0030】
給紙部12には、画像が形成される用紙P0(本発明に係る多孔質媒体及び記録媒体の一例)が収容されており、給紙部12は、用紙P0を搬送部14に供給する。
【0031】
搬送部14は、ロール対24,26,28,30,32,34,36(以下、これらを総じて「複数のロール対」と称する)を備えている。また、搬送部14は、複数のロール対を回転させるための回転駆動力を生成するモータ(図示省略)を備えている。搬送部14は、モータを駆動させることにより、複数のロール対を作動させ、給紙部12から供給された用紙P0を画像形成実行部16に搬送する。複数のロール対は何れも基本的な構成が共通している。例えば、ロール対24は、対向配置された一対のロール24A,24Bを有している。ロール24A,24Bの各々は、外部から伝達される回転駆動力(例えば、モータの回転駆動力)を受けて、一例として
図1に示すように、ロール24Aが円弧矢印A方向に回転し、ロール24Bが円弧矢印B方向に回転する。なお、
図1に示す例では、給紙部12から画像形成実行部16までの用紙P0の搬送経路は湾曲しているが、これに限らず、用紙P0の搬送経路は直線的な経路であってもよい。
【0032】
画像形成実行部16は、搬送部14によって搬送されて送り込まれた用紙P0に対して電子写真方式による画像形成を実行することで用紙P0にトナー像を形成する。ここで、画像形成の実行とは、例えば、感光体に対する帯電、帯電状態の感光体表面に対する露光、感光体表面の静電潜像に対する現像剤(例えば、トナー)による現像、及び用紙P0への現像像(例えば、トナー像)の転写等の各プロセスを実行することを指す。
【0033】
定着部18は、画像形成実行部16によって用紙P0に形成されたトナー像を用紙P0に定着させ、トナー像が定着された用紙P0を矯正部20に搬送する。定着部18は、加圧ロール18A及び加熱ロール18Bを有しており、加圧ロール18Aと加熱ロール18Bとが対向配置されている。画像形成実行部16から定着部18に搬送された用紙P0は、加圧ロール18Aと加熱ロール18Bとによって挟み込まれて搬送される。これにより、用紙P0上のトナー像は、溶融すると共に用紙P0に圧着されて用紙P0に定着する。
【0034】
矯正部20は、定着部18から搬送された用紙P0を受け入れ、受け入れた用紙P0の変形を矯正する。矯正部20は、外部から入力された指示に応じて、用紙P0に変形を与える変形付与機構(図示省略)を備えている。また、矯正部20は、用紙P0に含まれる水分を除去すべく用紙P0を加熱する矯正用加熱機構(図示省略)を備えている。変形付与機構の一例としては、揺動自在な案内板によって用紙P0の搬送経路の形状を変えたり、複数のロールによって用紙P0に対して反りを与えたりする変形付与機構が挙げられる。
【0035】
制御部22は、給紙部12、搬送部14、画像形成実行部16、定着部18、及び矯正部20に接続されており、給紙部12、搬送部14、画像形成実行部16、定着部18、及び矯正部20を制御する。
【0036】
一例として
図2に示すように、制御部22は、CPU(Central Processing Unit)30、一次記憶部32、及び二次記憶部34を備えている。一次記憶部32は、各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられる揮発性のメモリ(例えば、RAM(Random Access Memory))である。二次記憶部34は、画像形成装置10の作動を制御する制御プログラムや各種パラメータ等を予め記憶する不揮発性のメモリ(例えば、フラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)など)である。CPU30、一次記憶部32、及び二次記憶部34は、バス36を介して相互に接続されている。
【0037】
二次記憶部34は、パラメータ導出プログラム38を記憶している。CPU30は、二次記憶部34からパラメータ導出プログラム38を読み出して一次記憶部32に展開し、パラメータ導出プログラム38を実行する。
【0038】
ここで、CPU30は、パラメータ導出プログラム38を実行することで、一例として
図3に示す導出部30A(本発明に係る導出手段の一例)及び出力部30B(本発明に係る出力手段の一例)として動作する。
【0039】
導出部30Aは、用紙P0の温度及び含水率(本発明に係る液体含有率の一例)の相関を示す情報に基づいて、用紙P0の繊維(本発明に係る「空隙を形成する構造体」の一例)における脱湿の圧力(以下、「脱湿圧力」と称する)を導出する。
【0040】
出力部30Bは、用紙P0の空隙における水蒸気圧と導出部30Aによって導出された脱湿圧力(単位:Pa(パスカル))とを比較した比較結果に基づいて導出された用紙P0の応力特性を示す物理量を出力する。ここで、脱湿圧力とは、多孔質媒体(特に繊維の部分)から脱湿しようとする圧力(具体的には、用紙P0の繊維から脱湿しようとする圧力)を指す。脱湿しようとする圧力とは、換言すると、水分の吸収及び蒸発に係る圧力とも言える。
【0041】
表示部44は、各種情報を表示する。表示部44の一例としては、液晶ディスプレイが挙げられる。なお、画像形成装置10では、表示部44としての液晶ディプレイに対して受付部42の一部であるタッチパネルを重ね合わせることによって形成されたタッチパネル・ディスプレイを採用している。
【0042】
通信I/F46は、例えば、LAN(Local Area Network)やインターネットなどの通信網に接続されており、通信網に接続された情報処理装置(一例としてパーソナル・コンピュータ)との間の各種情報の送受信を司る。なお、本実施形態において、通信I/F96は、通信網に接続された情報処理装置から画像形成要求情報を受信する。ここで言う「画像形成要求情報」とは、単一又は複数の画像を用紙P0に形成することを要求する情報のことであり、画像形成要求情報には、用紙P0に形成すべき画像を示す画像情報が含まれている。また、本実施形態では、CPU30が通信I/F46を介して画像形成要求情報を取得し、取得した画像形成要求情報を一次記憶部32に一時的に記憶する。そして、画像形成要求情報に基づいて給紙部12、搬送部14、画像形成実行部16、及び定着部18を制御する。
【0043】
外部I/F48は、外部装置(例えば、USBメモリ)に接続され、外部装置とCPU30との間の各種情報の送受信を司る。
【0044】
ところで、画像形成装置10では、例えば、用紙P0は、加圧ロール18Aと加熱ロール18Bとで挟み込まれた状態(ニップ状態)で加熱ロール18Bによって加熱されると、用紙P0の厚さ方向の加熱ロール18B側の領域(高温側領域)に粘塑性変形が生じる。そして、ニップ状態が解除されると、用紙P0の厚さ方向の加圧ロール18A側の領域(低温側領域)は、高温側領域よりも含水率が高いため、用紙P0は低温側領域にカールする。ここで、用紙P0のカールを矯正部20で矯正するには、CPU30が用紙P0の応力(例えば、内部応力)を推定し、推定した応力に基づいてデカーラパラメータ(本発明に係る矯正量の一例)を導出する必要がある。デカーラパラメータとは、用紙P0のカールを矯正するために必要な矯正用外力を示す物理量を指し、具体的には、デカーラ荷重及びデカーラ温度を指す。ここで、デカーラ荷重とは、例えば、矯正部20の変形付与機構によって用紙P0に付与される荷重(例えば、用紙P0を挟み込む一対のロールのうちの一方のロールが他方のロールに付与する荷重)を指す。デカーラ温度とは、例えば、矯正部20の矯正用過加熱機構によって用紙P0に付与される温度を指す。このように、デカーラパラメータの導出処理は、用紙P0のカールを矯正する上で重要な処理の一つである。
【0045】
そこで、画像形成装置10では、一例として
図4に示すように、デカーラパラメータを導出するためのパラメータ導出処理が実行される。
【0046】
次に本実施形態の作用として、パラメータ導出処理開始条件を満たした場合にCPU30がパラメータ導出プログラム38を実行することにより画像形成装置10で行われるパラメータ導出処理について、
図4を参照して説明する。ここで、パラメータ導出処理開始条件とは、例えば、給紙部12により用紙P0が排出されたとの条件を指す。なお、パラメータ導出処理開始条件は、これに限定されるものではなく、例えば、定着部18から用紙P0が排出された(例えば、加圧ロール18Aと加熱ロール18Bとによるニップ状態が解除された)との条件であってもよい。
【0047】
図4に示すパラメータ導出処理では、先ず、ステップ100で、導出部30Aは、機内環境物理量を測定し、その後、ステップ102へ移行する。機内環境物理量は、例えば、後述の各微分方程式を解く際の初期値(例えば、後述の温度T、含水率W、及び湿度Hの初期値)として用いられる。
【0048】
ここで、機内環境物理量とは、例えば、外気湿度(例えば、筐体の外側の湿度)、外気温度(例えば、筐体の外側の温度)、用紙初期含水率、用紙初期温度、及び加熱ロール18Bの温度(以下、「加熱ロール温度」という)等を指す。用紙初期含水率とは、例えば、給紙部12から排出されたときの用紙P0の含水率を指す。用紙初期温度とは、例えば、給紙部12から排出されたときの用紙P0の温度を指す。用紙初期温度は、例えば、給紙部12の排出口に配置された温度センサ(図示省略)によって測定される。また、加熱ロール温度は、例えば、加熱ロール18B(図示省略)に設置された温度センサによって測定される。また、搬送部14の搬送経路における温度及び湿度も機内環境物理量として本ステップ100で測定されるようにしてもよい。なお、機内環境物理量は、センサによる測定値に限定されるものではなく、例えば、受付部42、通信I/F46又は外部I/F48を介して入力された物理量であってもよい。
【0049】
ステップ102で、導出部30Aは、後述のステップ118によって変更されたデカーラパラメータの1つであるデカーラ荷重に基づいて、用紙P0の特定位置の変形履歴を算出し、その後、ステップ104へ移行する。変形履歴とは、例えば、用紙P0の曲率(用紙P0の変形量)ρの時刻歴変化(例えば、予め定められた時間(例えば、0.1秒)毎の曲率の経時変化)を指す。曲率ρは、後述のステップ118によって変更されたデカーラ荷重を用いて公知の構造解析又は機構解析により算出される。デカーラ荷重は、構造解析又は機構解析における有限要素法の境界条件として用いられる。なお、詳しくは後述するが、本ステップ102で算出された変形履歴は、用紙P0の厚さ方向の要素(後述)毎の歪みに換算され、換算されて得られた歪みが後述のステップ112で内部応力の算出に供される。
【0050】
ステップ104で、導出部30Aは、機内環境物理量及びデカーラ温度に基づいて用紙P0の厚さ方向の位置的な温度分布の時刻歴変化(以下、これを「温度分布」と称する)を算出し、その後、ステップ106へ移行する。本ステップ104で算出された温度分布は、後述の数式(4)〜(6)及び数式(10)〜(13)で用いられる。
【0051】
ここで、温度分布とは、例えば、
図5に示すように用紙P0が厚さ方向に6分割されて得られた要素A
1〜F
1(これらを区別して説明する必要がない場合は「要素」と称する)の各々における温度変化を指す。一例として
図6に示すように、各要素の温度は時々刻々と変化し、要素毎に温度(
図6に示す例ではT1〜T6)が異なる。
【0052】
温度分布は、熱伝導を示す項(熱伝導項)、潜熱を示す項(潜熱項)、及び用紙P0の表面及び裏面(外気との境界領域)における放熱を示す項(放熱項)を有する伝熱モデルの微分方程式を離散化して(例えば、要素A
1〜F
1に区切って)解くことで導出される。なお、伝熱モデルの微分方程式を離散化して解くとは、例えば、用紙P0の厚さ方向の温度分布の時刻歴変化を離散化して時々刻々解くことを意味する。
【0053】
伝熱モデルは、例えば、以下の数式(1)によって示され、数式(1)における第1項が熱伝導項に相当し、第2項が潜熱項に相当し、第3項が放熱項に相当する。なお、C
νは熱容量であり、tは時刻であり、Tは温度であり、λは熱伝導率であり、Lは蒸発線熱であり、Wは含水率であり、ρ
wは水の密度であり、ε
1は空隙率であり、α
Tは熱伝達係数である。また、数式(1)の“(+α
T(T
∞−T))”の項(放熱項)は、例えば、用紙P0の表面及び裏面が空気と接触している場合(部品(例えば、ロール)に接触していない場合)、要素A
1及び要素F
1における温度の算出で用いられる項である。ここで、T
∞は空気の温度である。空気の温度T
∞は、例えば、搬送部14に設けられた温度センサ(図示省略)によって測定された温度であってもよいし、受付部42、通信I/F46又は外部I/F48を介して入力された温度情報により示される温度であってもよい。
【0055】
ステップ106で、導出部30Aは、用紙P0の厚さ方向の位置的な湿度分布の時刻歴変化(以下、これを「湿度分布」と称する)を算出し、その後、ステップ108へ移行する。本ステップ106で算出された湿度分布は、後述の数式(4)で用いられる。
【0056】
ここで、湿度分布とは、例えば、要素A
1〜F
1の各々における湿度(用紙P0の空隙の絶対湿度(本発明に係る「単位体積に含まれる蒸気の重さ」の一例))変化を指す。湿度分布は、水蒸気の透過を示す項(水蒸気透過項)及び拡散を示す項(拡散項)を有する水蒸気透過・拡散モデルの微分方程式を離散化して解くことで導出される。なお、水蒸気透過・拡散モデルの微分方程式を離散化して解くとは、例えば、用紙P0の厚さ方向の湿度分布の時刻歴変化を離散化して時々刻々解くことを意味する。
【0057】
水蒸気透過・拡散モデルは、例えば、以下の数式(2)によって示され、数式(2)における第1項が水蒸気透過項に相当し、第2項が拡散項に相当する。ここで、Hは用紙P0の空隙の絶対湿度であり、xは用紙P0の厚さ方向の位置であり、Kは透過係数であり、Pは用紙P0における空隙の水蒸気圧であり、Dは拡散係数であり。
【0059】
ところで、一例として
図7に示すように、用紙P0は、繊維及び空隙を有しており、要素間(
図7に示す例では要素A
1〜C
1)において、水分子が移動する。水分子は、蒸気(気体)と水(液体)とに大別される。用紙P0内の蒸気及び水は、一例として
図7の各矢印で示されるように、隣接する要素の空隙間で移動したり、要素内の繊維と空隙との間で繊維と結合したり、繊維から分離したりする。また、用紙P0の表面又は裏面の要素(外気に直接触れる要素)では、蒸気が用紙P0の外側(外気)に流出したり、流入したりする。このように、水分子の挙動は時々刻々変化し、用紙P0のカール量に影響を及ぼす。
【0060】
そこで、
図4に示すパラメータ導出処理では、ステップ108で、導出部30Aが、用紙P0の厚さ方向の位置的な脱湿分布の時刻歴変化(以下、これを「脱湿分布」と称する)を算出し、その後、ステップ110へ移行する。本ステップ108で算出された脱湿分布は、後述の数式(8)で用いられる。ここで、脱湿とは、含水率の時間変化量に相当する。また、脱湿分布とは、例えば、要素A
1〜F
1の各々における脱湿変化を指す。脱湿分布は、脱湿モデルの微分方程式を離散化して解くことで導出される。なお、脱湿モデルの微分方程式を離散化して解くとは、例えば、用紙P0の厚さ方向の脱湿分布の時刻歴変化を離散化して時々刻々解くことを意味する。
【0061】
脱湿モデルは、例えば、以下の数式(3)(水蒸気圧と脱湿圧力との差分(本発明に係る比較結果の一例)が含まれる数式)によって示される。ここで、Wは含水率であり、K
dryは乾燥定数であり、Pは水蒸気圧であり、P
Sは脱湿圧力であり、dW/dtは脱湿である。なお、dW/dtは、後述の力学モデルを解く際に用いられる。
【0062】
ここで、一例として
図8に示すように、水蒸気圧Pとは、用紙P0の空隙の水蒸気圧を指す。P
Sは脱湿圧力である。K
dryは、一例として
図9に示す実験的に得られた用紙P1,P2の含水率の経時変化から近似計算によって算出された値(計算値)から一意に導出される定数である。なお、
図9に示す例では、用紙初期含水率の異なる用紙P1及び用紙P02の含水率の経時変化が示されている。
【0064】
水蒸気圧Pは、例えば、以下の数式(4)によって算出される。ここで、R
Wは水蒸気ガス定数(本発明に係る蒸気ガス定数の一例)である。なお、Hは、ステップ106で算出された絶対湿度であり、Tは、ステップ104で算出された温度である。
【0066】
本発明に係る脱湿圧力P
Sは、例えば、以下の数式(5)によって算出される。数式(5)は、用紙P0の温度、用紙P0の含水率、及び用紙P0の繊維における脱湿圧力の相関(例えば、特定の条件下(特定の環境下)での普遍的な相関)を示す情報として、温度、含水率、及び脱湿圧力の相関を定式化した情報(ここでは、一例として、脱湿圧力を温度及び含水率で定式化した情報)である。なお、本実施形態では、定式化した情報として数式(5)を例示しているが、温度、含水率、及び脱湿圧力の相関を定式化した情報であれば、数式(5)以外の数式であってもよい。
【0067】
ここで、P
*は飽和水蒸気圧(本発明に係る飽和蒸気圧の一例)であり、H
0は実験的に得られた湿度に関する調整係数(定数)であり、T
0は実験的に得られた温度に関する調整係数(定数)であり、W
T0H0は実験的に得られた含水率に関する調整係数(定数)である。数式(5)の含水率Wは、例えば、
図10に示すように、用紙P0の温度(特定要素の温度)、用紙P0の空隙の相対湿度(特定要素の空隙の相対湿度)、及び用紙P0の含水率(特定要素の含水率)の相関を示す情報(ここでは、一例として、実験結果から得られたグラフ)から一意に導出される。
図10に示す例からは以下の数式(6)が導出され、数式(6)を変形することで、脱湿圧力P
Sが温度T及び含水率Wの関数とされた数式(5)が導出される。なお、数式(6)において、H
RHは用紙P0の空隙の相対湿度(=P
S/P
*)を示す。また、数式(6)は、実験結果から得られたグラフから含水率Wが一意に導出される数式であるが、シミューレーションによる推定結果(計算式による計算結果)から得られたグラフから含水率Wが一意に導出される数式であってもよい。
【0070】
ステップ110で、導出部30Aは、用紙P0の厚さ方向の位置的な含水率分布の時刻歴変化(以下、これを「含水率分布」と称する)を算出し、その後、ステップ112へ移行する。本ステップ110で算出された含水率分布は、後述の数式(10)〜(13)で用いられる。ここで、含水率分布とは、例えば、要素A
1〜F
1の各々における含水率変化を指す。含水率分布は、数式(3)に基づいて導出される。
【0071】
ステップ112で、出力部30Bは、矯正部20から排出された場合の用紙P0の内部応力(本発明に係る応力特性を示す物理量の一例)を算出し、その後、ステップ114へ移行する。内部応力は、以下の数式(7)によって算出される。“初期の内部応力”とは、例えば、矯正部20から排出されたときの用紙P0の応力として導出(推定)された応力を指す。具体的には、例えば、力学モデルの微分方程式を離散化して解くこと(応力の用紙厚さ方向分布の時刻歴変化(応力履歴)を離散化して時々刻々解くこと)で最終的に導出された応力を指す。dσとは、後述の歪みεが入力されたときの力学モデルで算出された応力変化量を指す。なお、力学モデルとは、弾性を示す項(弾性項)、塑性を示す項(塑性項)、粘性を示す項(粘性項)、及び水分伸縮を示す項(水分伸縮項)を有する力学モデルを指す。
【0072】
(内部応力)=(初期の内部応力)−dσ・・・・・(7)
【0073】
力学モデルは、例えば、以下の数式(8)によって示され、数式(8)における第1項が弾性項に相当し、第2項が塑性項に相当し、第3項が粘性項に相当し、第4項が水分伸縮項に相当する。ここで、εは、ステップ102で算出された変形履歴である曲率ρが以下の数式(9)に代入されることによって算出(換算)された用紙P0の歪みである。Eはヤング率であり、nは硬化指数であり、μは粘性係数であり、αは定数であり、α
Wは水分伸縮率であり、σ
yは降伏応力であり、σは応力である。なお、数式(8)を解く際のε及びσの初期値は0である。
【0075】
ε=(用紙P0の厚さ方向の位置)×ρ・・・・(9)
【0076】
ヤング率Eは、以下の数式(10)によって示され、硬化指数nは、以下の数式(11)によって示され、粘性係数μは、以下の数式(12)によって示され、降伏応力σ
yは、以下の数式(13)によって示される。ここで、E
T0W0、n
T0W0、σ
yT0W0、τ
TE、τ
WE、τ
Tn、τ
Wn、τ
Tμ、τ
Wμ、τ
Tσy及びτ
Wσyの各々は、実験的に得られた調整係数である。
【0081】
ここで、内部応力の算出方法の一例を説明する。数式(7)を用いて内部応力を算出する場合、先ず、数式(8)においてdεを歪みの変化量Δε(例えば、数式(9)によって算出される歪みの変化量)とし、dtを時間間隔Δt(例えば、受付部42を介して入力された値)とする。また、“dσ=σ
n+1−σ
n(σ
n:前の時刻(現時点)の応力、σ
n+1:次の時刻の応力)”とし、“dW=W
n+1−W
n(W
n:前の時刻(現時点)の含水率、W
n+1:次の時刻の含水率)”とする。これにより、数式(8)は以下の数式(14)で示される。次に、数式(14)を以下の数式(15)に示すように変形する。そして、数式(15)の右辺に既知の値を代入することでσ
n+1を算出し、算出したσ
n+1を用いてdσを算出し、算出したdσを数式(7)に代入する。
【0084】
ステップ114で、出力部30Bは、ステップ112で算出した内部応力に基づいて、用紙P0のモーメント(=(内部応力×用紙P0の厚さ方向の位置)の積分値)が0となるカール量(=曲率)を算出し、その後、ステップ116へ移行する。ここで、用紙P0のモーメントが0でない場合とは、一例として
図11に示すように、用紙P0の厚さ方向についての初期の内部応力の積分値が0でない場合を指す。また、用紙P0のモーメントが0の場合とは、一例として
図12に示すように、用紙P0の厚さ方向についての初期の内部応力の積分値が0の場合を指す。
【0085】
ステップ116で、出力部30Bは、ステップ114で算出したカール量が0であるか否かを判定する。ステップ116において、ステップ114で算出したカール量が0でない場合は、判定が否定されて、ステップ118へ移行する。ステップ116において、ステップ114で算出したカール量が0の場合は、判定が肯定されて、ステップ120へ移行する。
【0086】
ステップ118で、導出部30Aは、デカーラパラメータを変更し(例えば、一次記憶部32又は二次記憶部34の予め定められた記憶領域に記憶されているデカーラパラメータを更新し)、その後、ステップ102へ移行する。ここで、デカーラパラメータを変更するとは、例えば、デカーラ荷重及びデカーラ温度を変更することを指す。また、デカーラ荷重及びデカーラ温度を変更するとは、実際に矯正部20に対して即時的に適用するデカーラ荷重及びデカーラ温度を変更するわけではなく、少なくとも変形履歴及び温度分布の算出に供するデカーラ荷重及びデカーラ温度に変更することを指す。
【0087】
ステップ120で、出力部30Bは、ステップ112の内部応力の算出に供したデカーラパラメータを取得し、取得したデカーラパラメータを予め定められた出力先に出力し、その後、本パラメータ導出処理を終了する。ここで、内部応力の算出に供したデカーラパラメータとは、例えば、変形履歴及び温度分布の算出に供した最新のデカーラパラメータ(一次記憶部32又は二次記憶部34の予め定められた記憶領域に記憶されているデカーラパラメータ)を指す。つまり、ステップ118で変更されて得られた最新のデカーラパラメータを指す。また、予め定められた出力先とは、例えば、矯正部20を指す。矯正部20は、出力部30Bから出力されたデカーラパラメータを取得し、取得したデカーラパラメータに従って用紙P0のカールを矯正する。
【0088】
なお、上記実施形態では、数式(8)を用いて内部応力を算出する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、以下の数式(16)に示すように応力σと降伏応力σ
yとの関係に応じて力学モデルを使い分けて内部応力を算出してもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、数式(3)に“P−P
S”が含まれているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、“P−P
S”に代えて“P/P
S”を適用してもよいし、“|P−P
S|”を適用してもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、出力部30Bがパラメータ導出処理のステップ112で算出された内部応力に基づいて用紙P0のカール量を算出する例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、出力部30Bはステップ112での算出結果の履歴を二次記憶部34に逐次に記憶し、予め定められた条件を満たした場合に、二次記憶部34から算出結果の履歴を読み出し、算出結果の履歴を時系列で表示部44に対して表示させるようにしてもよい。ここで、予め定められた条件とは、例えば、パラメータ導出処理が終了したとの条件や受付部42によって表示開始の指示が受け付けられたとの条件を指す。また、出力部30Bは、ステップ112で算出された内部応力を示す内部応力情報を通信I/F46を介して外部のコンピュータに送信するようにしてもよい。この場合、外部のコンピュータによって内部応力情報に応じた処理(例えば、デカーラパラメータを算出する処理)が実行されるようにしてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、パラメータ導出処理で得られたデカーラパラメータ(ステップ120で出力されたデカーラパラメータ)を用いて矯正部20が用紙P0のカールを矯正する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、出力部30Bは、デカーラパラメータを参照して、用紙P0の搬送経路上の搬送ロールの位置や搬送ロールが用紙P0に対して付与する荷重を調整するようにしてもよい。また、デカーラパラメータを必ずしも用紙P0のカールの矯正にのみ適用する必要はなく、例えば、出力部30Bは、パラメータ導出処理で得られたデカーラパラメータを表示部44に対して表示させるようにしてもよい。また、出力部30Bは、パラメータ導出処理で得られたデカーラパラメータを通信I/F46又は外部I/F48を介して外部機器(図示省略)に送信するようにしてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、力学モデルの微分方程式に対して、先に算出されたdW/dtを代入することにより、内部応力を導出する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、dW/dtを入力とし、内部応力を出力とするテーブル(例えば、入力項目にdW/dt又は力学モデルの水分伸縮項に相当する入力項目を含むテーブル)を用いて内部応力を導出するようにしてもよい。また、上記実施形態で演算式(例えば、微分方程式)を用いて導出された各物理量(温度分布、湿度分布、脱湿分布等)は何れも、演算式の解に相当する値を出力するテーブルを用いて導出されるようにしてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、パラメータ導出プログラム38を二次記憶部34から読み出す場合を例示したが、最初から二次記憶部34に記憶させておく必要はない。例えば、画像形成装置10に接続されて使用されるSSD(Solid State Drive)、ICカード、光磁気ディスク、CD−ROMなどの任意の可搬型の記憶媒体に先ずはパラメータ導出プログラム38を記憶させておいてもよい。そして、CPU30がこれらの可搬型の記憶媒体からパラメータ導出プログラム38を取得して実行するようにしてもよい。また、通信回線を介して画像形成装置10に接続されるコンピュータ又はサーバ装置等の外部電子計算機の記憶部にパラメータ導出プログラム38を記憶させておいてもよい。この場合、CPU30は外部電子計算機からパラメータ導出プログラム38を取得して実行する。
【0095】
また、上記実施形態では、画像形成装置10におけるCPU30がパラメータ導出プログラム38を実行する場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、パーソナル・コンピュータやサーバ装置などの電子計算機がパラメータ導出プログラム38を実行するようにしてもよい。
【0096】
また、上記実施形態で説明したパラメータ導出処理の流れ(
図4参照)はあくまでも一例である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。また、上記実施形態で説明したパラメータ導出処理に含まれる各処理は、ASICやプログラマブルロジックデバイス等のハードウェア構成で実現されてもよいし、ハードウェア構成とソフトウェア構成の組み合わせによって実現してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、導出部30Aにより、用紙P0の温度、湿度及び含水率の相関を示す実験結果に基づいて、用紙P0の遷移における脱湿圧力を導出したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、アルコール等の水分以外の液体、又は、水分及びその他アルコール等の複数の液体による混合液(以下、これらを総称して「液体」という)が浸み込んだスポンジ等の多孔質媒体を対象として、脱湿圧力を求めることも可能である。ここで、多孔質媒体としては、空隙中に蒸気が広がる多孔質媒体であることがより好ましい。この場合、脱湿圧力とは、液体が多孔質媒体(特に多孔質媒体の繊維の部分)から脱湿しようとする圧力を指す。
【0098】
また、液体が浸み込んだ多孔質媒体を対象として脱湿圧力を求める場合、上記で説明した含水率を、液体の含有率とし、上記で説明した湿度を、大気中に含まれる液体蒸気量(液体の蒸気量(例えば、液体がアルコールの場合は、アルコールの蒸気量))とし、上記で説明した相対湿度を、液体の飽和蒸気量を100とした場合の実際の蒸気量の測定値を比率(%)で表現した物理量とし、上記で説明した絶対湿度を、単位体積(1m
3)に含まれる蒸気の重さ(蒸気量を重量で示した物理量(g/m
3))とし、上記で説明した水蒸気圧を、液体の蒸気圧(例えば、液体がアルコールの場合は、アルコールの蒸気圧)とし、上記で説明した水蒸気ガス定数を、液体の蒸気ガス定数とし、上記で説明した飽和水蒸気量を、液体の飽和蒸気量とすればよい。すなわち、液体が浸み込んだ多孔質媒体を対象として脱湿圧力を求める場合、上記実施形態で説明した水分に関する物理量を液体に関する物理量に置き換えればよい。