特許第6167967号(P6167967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6167967紫外線照射装置及びこれを備えた分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6167967
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】紫外線照射装置及びこれを備えた分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/35 20060101AFI20170713BHJP
   H01J 61/30 20060101ALI20170713BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   H01J61/35 F
   H01J61/30 L
   H01J61/30 N
   G01N31/00 Y
   G01N31/00 N
   G01N31/00 F
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-70953(P2014-70953)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-191884(P2015-191884A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】並河 信寛
(72)【発明者】
【氏名】能登 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】中森 明興
(72)【発明者】
【氏名】井上 武明
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−144563(JP,U)
【文献】 特開2008−231520(JP,A)
【文献】 特開2007−116163(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0170379(US,A1)
【文献】 特開2002−107352(JP,A)
【文献】 特開昭55−014700(JP,A)
【文献】 特開昭56−138854(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/121577(WO,A1)
【文献】 特開2008−010356(JP,A)
【文献】 特開2001−296648(JP,A)
【文献】 特表2006−507940(JP,A)
【文献】 特開2002−340911(JP,A)
【文献】 Min-Sun Hwang et al.,Effects of oxygen and nitrogen addition on the optical properties of diamond-like carbon films,Materials Science and Engineering,2000年,Vol.B75,pp.24-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L2/00−2/28
11/00−12/14
G01N31/00−31/22
H01J61/30−65/08
H01S3/00−4/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性雰囲気において使用される紫外線照射装置であって、
石英材料により形成され、内部から紫外線を発光する発光管と、
前記発光管の外表面に成膜され、前記発光管をアルカリ性雰囲気から保護する第1保護膜とを備え、
前記第1保護膜が、無機金属又は無機金属化合物を含む材料により形成されていることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
アルカリ性雰囲気において使用される紫外線照射装置であって、
石英材料により形成され、先端部がアルカリ性雰囲気内に位置した状態で内部から紫外線を発光する発光管と、
前記発光管の外表面に成膜され、前記発光管をアルカリ性雰囲気から保護する第1保護膜とを備え、
前記発光管の先端部側には前記第1保護膜が形成されておらず、前記発光管の根元部側にのみ前記第1保護膜が形成されていることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項3】
アルカリ性雰囲気において使用される紫外線照射装置であって、
石英材料により形成され、内部から紫外線を発光する発光管と、
前記発光管の外表面に成膜され、前記発光管をアルカリ性雰囲気から保護する第1保護膜とを備え、
前記発光管内には、区画壁が設けられることによりU字状の内部空間が形成されており、
前記発光管の根元部には、前記U字状の内部空間の両端部に対応する位置に、それぞれ電極が設けられており、
前記発光管の先端部側には前記第1保護膜が形成されておらず、前記発光管の根元部側にのみ前記第1保護膜が形成されていることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項4】
前記発光管の根元部が挿入され、内部に前記電極が設けられた外筒をさらに備え、
前記外筒に対して一定間隔を隔てた位置に前記第1保護膜が形成されることにより、前記外筒と前記第1保護膜との間で前記発光管の外表面が露出していることを特徴とする請求項に記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
前記第1保護膜が、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料により形成されていることを特徴とする請求項2〜のいずれかに記載の紫外線照射装置。
【請求項6】
前記第1保護膜の外表面に形成され、前記第1保護膜とは異なる材料からなる第2保護膜をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の紫外線照射装置。
【請求項7】
前記第2保護膜が、樹脂を含む材料により形成されていることを特徴とする請求項に記載の紫外線照射装置。
【請求項8】
前記第1保護膜が、樹脂を含む材料により形成されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の紫外線照射装置。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の紫外線照射装置と、
試料水が貯留される反応槽と、
前記反応槽内において酸化された試料水の成分を測定する測定部とを備え、
前記発光管が、前記反応槽内の試料水に浸漬されることを特徴とする分析装置。
【請求項10】
前記第1保護膜が、前記反応槽内の試料水の水位に対応する位置に形成されていることを特徴とする請求項に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性雰囲気において使用される紫外線照射装置及びこれを備えた分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全窒素全リン計などの分析装置では、例えば試料水に紫外線を照射することにより試料水中の成分を酸化させ、酸化された成分の濃度を測定部で測定することができる(例えば、下記特許文献1参照)。紫外線は、低圧水銀灯などの紫外線照射装置から試料水に照射される。紫外線照射装置には、例えば石英ガラスにより形成された発光管が備えられており、発光管の内部で発生した紫外線が、当該発光管を透過して外部に照射されるようになっている。
【0003】
この種の分析装置の中には、試料水が貯留された反応槽に対して外部から紫外線を照射するような構成のものと、反応槽内の試料水に発光管を浸漬して紫外線を直接照射するような構成のものとがある。反応槽内の試料水に発光管を浸漬する構成では、試料水中の成分の酸化効率を高めることができる反面、試料水に発光管が直接接触することに起因して、発光管が劣化するなどの問題が生じるおそれがある。
【0004】
例えば、水酸化ナトリウムなどの試薬が試料水に混合された場合には、アルカリ性の試料水に発光管が浸漬されることになるため、下記反応式に示すような化学反応により、発光管を形成している石英ガラスが溶出してしまうという問題がある。
SiO+2NaOH→NaSiO+H
【0005】
そこで、樹脂製のチューブを発光管の外表面に被せることにより、アルカリ性の試料水から石英ガラスを保護するといった対策が施される場合もある。この場合、例えばチューブを加熱して軟化させ、発光管の先端側から圧入した後に硬化させることにより、発光管の外表面にチューブを被せることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−107352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような態様で樹脂製のチューブを発光管の外表面に被せた場合には、チューブと発光管の外表面との間に隙間が生じるおそれがある。このような隙間に試料水が入り込んだ場合、その試料水が次の分析時における試料水に混入し、測定誤差の原因となるため好ましくない。また、チューブと発光管の外表面との隙間に入り込んだ試料水が、発光管の根元部まで到達し、発光管内の電気部品に不具合を生じさせるおそれがある。
【0008】
さらに、発光管の内部から発生する紫外線が樹脂製のチューブを劣化させ、亀裂を発生させるおそれもある。この場合、発生した亀裂内に試料水が入り込み、その試料水が次の分析時における試料水に混入することにより、測定誤差の原因となるだけでなく、亀裂とともに発生した異物が測定に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
反応槽内の試料水に発光管を浸漬するような構成だけでなく、例えばアンモニアが含まれる大気中で紫外線照射装置を使用する場合にも、アルカリ性雰囲気から発光管を保護する必要がある。このような場合においても、樹脂製のチューブを用いて発光管を保護するような構成では、発光管の内部から発生する紫外線によりチューブが劣化し、測定に悪影響を与える可能性がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、測定に悪影響を与えることなくアルカリ性雰囲気から発光管を保護することができる紫外線照射装置及びこれを備えた分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る紫外線照射装置は、アルカリ性雰囲気において使用される紫外線照射装置であって、石英材料により形成され、内部から紫外線を発光する発光管と、前記発光管の外表面に成膜され、前記発光管をアルカリ性雰囲気から保護する第1保護膜とを備え、前記第1保護膜が、無機金属又は無機金属化合物を含む材料により形成されている
【0012】
このような構成によれば、石英材料により形成された発光管を、その外表面に成膜された第1保護膜によってアルカリ性雰囲気から保護することができる。すなわち、アルカリ性雰囲気に対する石英材料の化学反応を第1保護膜により阻止し、石英材料が溶出するのを防止することができる。
【0013】
特に、第1保護膜を発光管の外表面に成膜させるため、発光管の外表面と第1保護膜との間に隙間が生じるのを防止することができる。したがって、発光管の外表面と第1保護膜との隙間に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことがなく、このような試料水の混入が測定に悪影響を与えるのを防止することができる。また、紫外線を透過可能な材料で第1保護膜を形成するような構成であれば、発光管の外表面の広範囲にわたって第1保護膜を形成したとしても、測定に悪影響を与えることがない。したがって、測定に悪影響を与えることなくアルカリ性雰囲気から発光管を保護することができる。 また、無機金属又は無機金属化合物を用いて発光管の外表面に成膜された第1保護膜により、発光管を保護することができる。耐紫外線性及び耐アルカリ性が高い無機金属又は無機金属化合物を用いて第1保護膜を形成すれば、第1保護膜が劣化するのを効果的に防止することができるため、第1保護膜の亀裂に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことが原因で、測定に悪影響を与えるのを防止することができる。
【0014】
前記第1保護膜が、ダイヤモンドライクカーボンを含む材料により形成されていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、耐紫外線性及び耐アルカリ性が高いダイヤモンドライクカーボンを用いて、発光管の外表面に第1保護膜を成膜することができる。これにより、第1保護膜が劣化するのを効果的に防止することができるため、第1保護膜の亀裂に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことが原因で、測定に悪影響を与えるのを防止することができる。
【0018】
前記紫外線照射装置は、前記第1保護膜の外表面に形成され、前記第1保護膜とは異なる材料からなる第2保護膜をさらに備えていてもよい。
【0019】
このような構成によれば、積層された第1保護膜及び第2保護膜により、発光管を保護することができる。例えば第1保護膜よりも耐アルカリ性が高い材料で第2保護膜を形成すれば、アルカリ性雰囲気による第1保護膜の劣化を防止し、発光管をより効果的に保護することができる。また、第2保護膜よりも耐紫外線性が高い材料で第1保護膜を形成すれば、紫外線による第2保護膜の劣化を防止し、発光管をより効果的に保護することができる。
【0020】
前記第2保護膜が、樹脂を含む材料により形成されていてもよい。
【0021】
このような構成によれば、撥水性が高い樹脂を用いて第2保護膜を形成することにより、第1保護膜をアルカリ性雰囲気から効果的に保護することができる。例えば第1保護膜を蒸着により成膜した場合などには、第1保護膜の表面の細かい粒子間に試料水が入り込み、第1保護膜を劣化させるおそれがあるが、当該第1保護膜上に樹脂を用いて第2保護膜を形成すれば、第1保護膜をアルカリ性雰囲気から効果的に保護することができる。また、樹脂は耐紫外線性が低いが、耐紫外線性が高い材料で第1保護膜を形成すれば、樹脂を用いて形成された第2保護膜を紫外線から効果的に保護することができる。
【0022】
また、前記第1保護膜が、樹脂を含む材料により形成されていてもよい。
【0023】
このような構成によれば、樹脂を用いて発光管の外表面に成膜された第1保護膜により、発光管を保護することができる。例えばフッ素樹脂などの耐アルカリ性が高い樹脂を用いて第1保護膜を形成すれば、第1保護膜が劣化するのを効果的に防止することができるため、第1保護膜の亀裂に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことが原因で、測定に悪影響を与えるのを防止することができる。
【0024】
本発明に係る分析装置は、前記紫外線照射装置と、試料水が貯留される反応槽と、前記反応槽内において酸化された試料水の成分を測定する測定部とを備える。前記発光管は、前記反応槽内の試料水に浸漬される。
【0025】
このような構成によれば、反応槽内の試料水に浸漬された発光管を試料水から保護することができる。例えば試料水に試薬が混合されることにより、試料水がアルカリ性となっている場合などであっても、発光管の外表面に成膜された第1保護膜により、アルカリ性の試料水から発光管を保護することができる。
【0026】
前記第1保護膜が、前記反応槽内の試料水の水位に対応する位置に形成されていてもよい。
【0027】
このような構成によれば、試料水の水位に対応する位置において発光管を保護することができる。アルカリ性の試料水に浸漬された発光管は、特に試料水の水位に対応する位置において溶出しやすいため、当該水位に対応する位置に第1保護膜を形成することにより、アルカリ性の試料水から発光管を効果的に保護することができる。また、試料水の水位に対応する位置にのみ第1保護膜を形成することにより、第1保護膜の材料費を抑えることができるため、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、アルカリ性雰囲気に対する石英材料の化学反応を第1保護膜により阻止し、石英材料が溶出するのを防止することができるため、アルカリ性雰囲気から発光管を保護することができる。また、本発明によれば、発光管の外表面と第1保護膜との間に隙間が生じるのを防止することができ、発光管の外表面と第1保護膜との隙間に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことがないため、このような試料水の混入が測定に悪影響を与えるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の構成例を示した概略図である。
図2】紫外線照射装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析装置の構成例を示した概略図である。本実施形態に係る分析装置は、試料水の全窒素濃度(TN濃度)及び全リン濃度(TP濃度)を測定可能な全窒素全リン計であり、その構成の一部のみを図1に示している。
【0031】
試料水は、下水、河川水又は工場排水などであり、窒素化合物やリン化合物などの各種成分を含んでいる。試料水中の窒素化合物は、例えば硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニウムイオン及び有機態窒素として存在している。試料水の全窒素濃度を測定する際には、試料水中の全ての窒素化合物を硝酸イオンに酸化させた上で、その濃度を測定する。
【0032】
また、試料水中のリン化合物は、例えばリン酸イオン、加水分解性リン及び有機態リンとして存在している。試料水中の全リン濃度を測定する際には、試料水中の全てのリン化合物をリン酸イオンに酸化させた上で、その濃度を測定する。
【0033】
本実施形態に係る分析装置には、例えば流路切替部1、シリンジ2、試料水供給部3、試薬供給部4、反応槽5、ヒータ6、紫外線照射装置7、測定部8及び制御部9などが備えられている。流路切替部1は、例えば複数のポートを備えたマルチポートバルブからなり、1つの共通ポートに対して他のポートのいずれかを選択的に連通させることができる。流路切替部1の各ポート間の連通状態は、例えばモータM1の駆動により自動で切り替えることができる。
【0034】
シリンジ2には、例えば筒体21及びプランジャ22が備えられている。筒体21内に挿入されているプランジャ22を変位させることにより、シリンジ2への吸引動作及びシリンジ2からの吐出動作を行うことができる。プランジャ22は、例えばモータM2の駆動により自動で行うことができる。
【0035】
この例では、流路切替部1の共通ポートが、シリンジ2に接続されている。流路切替部1における他の複数のポートには、試料水供給部3、試薬供給部4、反応槽5及び測定部8などがそれぞれ接続されている。したがって、シリンジ2及び試料水供給部3を連通させた状態でプランジャ22を変位させ、シリンジ2への吸引動作を行うことにより、シリンジ2内(筒体21内)に試料水を供給することができる。その後、シリンジ2及び試薬供給部4を連通させてプランジャ22を変位させ、シリンジ2への吸引動作を行えば、シリンジ2内に試薬を供給し、当該試薬を試料水に混合させることができる。
【0036】
シリンジ2内の試料水は、酸化剤などが適宜添加された上で、反応槽5内に供給される。具体的には、シリンジ2及び反応槽5を連通させてプランジャ22を変位させ、シリンジ2からの吐出動作を行うことにより、シリンジ2内の試料水を反応槽5内に供給することができる。このとき、プランジャ22の変位量を制御することにより、反応槽5への試料水の供給量を調整することができる。
【0037】
反応槽5には、シリンジ2から供給される試料水が貯留される。反応槽5の外側にはヒータ6が設けられており、当該ヒータ6により反応槽5内の試料水を加熱することができる。紫外線照射装置7は、反応槽5内に挿入され、反応槽5内に貯留されている試料水に対して紫外線を照射することにより、試料水中の窒素化合物やリン化合物などの各種成分を酸化させる。
【0038】
反応槽5内の試料水は、シリンジ2を介して測定部8へと導かれる。具体的には、シリンジ2及び反応槽5を連通させてプランジャ22を変位させ、シリンジ2への吸引動作を行うことにより、反応槽5内の試料水をシリンジ2内に導入する。その後、シリンジ2及び測定部8を連通させてプランジャ22を変位させ、シリンジ2からの吐出動作を行うことにより、シリンジ2内の試料水を測定部8に導くことができる。
【0039】
これにより、反応槽5内において酸化された試料水の成分が測定部8で測定される。測定部8では、例えば試料水に対して照射した光の透過光を検出することにより、吸光度が測定される。このようにして測定した吸光度に基づいて、全窒素濃度や全リン濃度などの試料水中の成分の濃度を算出することができる。
【0040】
制御部9は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む構成であり、モータM1,M2、ヒータ6及び紫外線照射装置7などの分析装置の各部の動作を制御するとともに、測定部8からの検出信号に基づく処理を行う。測定部8で測定された吸光度に基づく濃度の演算は、制御部9において行われ、算出された濃度は表示部(図示せず)に表示される。
【0041】
図2は、紫外線照射装置7の概略断面図である。この紫外線照射装置7は、例えば石英ガラスにより形成された発光管71を備えており、当該発光管71が反応槽5内の試料水に浸漬された状態で使用される。発光管71は、例えば一直線状に延びる細長い管体であり、内部から紫外線を発光する。
【0042】
発光管71は、上下方向に延びるように先端部711から試料水内に浸漬され、根元部712が試料水の水位Lよりも上方に位置している。発光管71内には、例えば長手方向に沿って延びる区画壁713が設けられることにより、U字状の内部空間714が形成されている。発光管71の根元部712には、U字状の内部空間714の両端部に対応する位置に、それぞれ電極72が設けられている。
【0043】
本実施形態における紫外線照射装置7は、例えば低圧水銀灯であり、内部空間714内に水銀が封入されている。分析時には、1対の電極72間に電圧が印加されることにより、内部空間714の水銀蒸気中にアーク放電が生じ、これに伴って紫外線が発光されるようになっている。
【0044】
例えば試薬供給部4から水酸化ナトリウムなどの試薬が試料水に混合された場合には、反応槽5内に貯留される試料水がアルカリ性となる。このような場合には、紫外線照射装置7がアルカリ性雰囲気(この例ではアルカリ性の試料水に浸漬された状態)において使用されることとなる。
【0045】
発光管71の外表面には、発光管71をアルカリ性雰囲気から保護する保護膜73が形成されている。発光管71をアルカリ性雰囲気から保護するために、保護膜73は、アルカリと反応しない、又は反応しにくい材料により形成される。本実施形態では、発光管71の外表面に第1保護膜731が成膜され、当該第1保護膜731の外表面に第2保護膜732が成膜されている。
【0046】
このように、保護膜73は、異なる材料からなる複数の膜が積層された構成であることが好ましいが、これに限らず、例えば第1保護膜731のみからなる構成であってもよい。なお、図2では、説明を分かりやすくするために、第1保護膜731及び第2保護膜732の厚みを実際の厚みよりも大きく示している。
【0047】
第1保護膜731は、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)により形成されている。ダイヤモンドライクカーボンは、主として炭化水素又は炭素の同素体からなる非晶質の硬質炭素膜であり、耐紫外線性及び耐アルカリ性が高い性質を有している。第1保護膜731は、発光管71の外表面にダイヤモンドライクカーボンを蒸着させることにより形成することができる。ダイヤモンドライクカーボンを用いて形成された第1保護膜731の厚みは、0.01μm以上であることが好ましく、1μm以上であればより好ましい。
【0048】
第1保護膜731を蒸着により形成する際には、例えば物理蒸着法(PVD法)を用いることができる。物理蒸着法には、真空蒸着法、イオンプレーティング法及びスパッタ法などの各種蒸着法が含まれる。ただし、物理蒸着法に限らず、化学蒸着法(CVD法)により第1保護膜731を成膜してもよいし、蒸着以外の方法で第1保護膜731を成膜してもよい。
【0049】
このように、本実施形態では、石英ガラスにより形成された発光管71を、その外表面に成膜された第1保護膜731によってアルカリ性雰囲気から保護することができる。すなわち、アルカリ性雰囲気に対する石英ガラスの化学反応を第1保護膜731により阻止し、石英ガラスが溶出するのを防止することができる。
【0050】
この例では、反応槽5内の試料水に浸漬された発光管71を試料水から保護することができる。例えば試薬供給部4から水酸化ナトリウムが試薬として試料水に混合されることにより、試料水がアルカリ性となっている場合でも、下記反応式に示すような化学反応が生じて石英ガラスが溶出するのを第1保護膜731により阻止し、アルカリ性の試料水から発光管71を保護することができる。
SiO+2NaOH→NaSiO+H
【0051】
特に、第1保護膜731を発光管71の外表面に成膜させるため、発光管71の外表面と第1保護膜731との間に隙間が生じるのを防止することができる。したがって、発光管71の外表面と第1保護膜731との隙間に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことがないため、このような試料水の混入が測定に悪影響を与えるのを防止することができる。また、紫外線を透過可能な材料で第1保護膜731を形成するような構成であれば、発光管71の外表面の広範囲(例えば外表面全体)にわたって第1保護膜731を形成したとしても、測定に悪影響を与えることがない。したがって、測定に悪影響を与えることなくアルカリ性雰囲気から発光管71を保護することができる。
【0052】
また、本実施形態では、耐紫外線性及び耐アルカリ性が高いダイヤモンドライクカーボンを用いて、発光管71の外表面に第1保護膜731を成膜することができる。これにより、第1保護膜731が劣化するのを効果的に防止することができるため、第1保護膜731の亀裂に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことが原因で、測定に悪影響を与えるのを防止することができる。ただし、第1保護膜731は、ダイヤモンドライクカーボンのみからなる構成に限らず、ダイヤモンドライクカーボン以外の成分を含む材料により形成された構成であってもよい。
【0053】
第2保護膜732は、例えば樹脂により形成されている。樹脂としては、フッ素樹脂などの耐紫外線性及び耐アルカリ性が高い樹脂を用いることが好ましいが、フッ素樹脂以外の樹脂であってもよい。第2保護膜732は、第1保護膜731の外表面に樹脂をコーティングすることにより形成することができる。このとき、第1保護膜731の外表面に樹脂を薄く塗布して薄膜を形成するなど、各種方法によりコーティングを施すことができる。樹脂を用いて形成された第2保護膜732の厚みは、0.01μm以上であることが好ましく、1μm以上であればより好ましい。
【0054】
このように、本実施形態では、積層された第1保護膜731及び第2保護膜732により、発光管71を保護することができる。例えば第1保護膜731よりも耐アルカリ性が高い材料で第2保護膜732を形成すれば、アルカリ性雰囲気による第1保護膜731の劣化を防止し、発光管71をより効果的に保護することができる。
【0055】
この例では、撥水性が高い樹脂を用いて第2保護膜732を形成することにより、第1保護膜731をアルカリ性雰囲気から効果的に保護することができる。本実施形態のように第1保護膜731を蒸着により成膜した場合には、第1保護膜731の表面の細かい粒子間に試料水が入り込み、第1保護膜731を劣化させるおそれがあるが、当該第1保護膜731上に樹脂を用いて第2保護膜732を形成すれば、第1保護膜731をアルカリ性雰囲気から効果的に保護することができる。
【0056】
また、樹脂は耐紫外線性が低いが、第2保護膜732よりも耐紫外線性が高いダイヤモンドライクカーボンで第1保護膜731が形成されているため、樹脂を用いて形成された第2保護膜732を紫外線から効果的に保護することができる。したがって、紫外線による第2保護膜732の劣化を防止し、発光管71をより効果的に保護することができる。ただし、第2保護膜732は、樹脂のみからなる構成に限らず、樹脂以外の成分を含む材料により形成された構成であってもよいし、樹脂を含まない別の材料により形成された構成であってもよい。
【0057】
本実施形態では、第1保護膜731が、発光管71の外表面における一部のみに形成されている。具体的には、発光管71の先端部711側には第1保護膜731が形成されておらず、発光管71の根元部712側にのみ第1保護膜731が形成されている。この例では、反応槽5内の試料水の水位Lに対応する位置に第1保護膜731が形成されている。
【0058】
水位Lに対応する位置とは、水位Lと同じ高さの部分だけでなく、当該部分の周辺部分を含む概念である。すなわち、水位Lと同じ高さの部分と、その周辺部分に第1保護膜731が形成されていれば、発光管71の先端部711側の少なくとも一部に第1保護膜731が形成されていない部分があってもよい。
【0059】
このように、本実施形態では、試料水の水位Lに対応する位置に第1保護膜731が形成されることにより、試料水の水位Lに対応する位置において発光管71を保護することができる。アルカリ性の試料水に浸漬された発光管71は、特に試料水の水位Lに対応する位置において溶出しやすいため、当該水位Lに対応する位置に第1保護膜731を形成することにより、アルカリ性の試料水から発光管71を効果的に保護することができる。また、試料水の水位Lに対応する位置にのみ第1保護膜731を形成することにより、第1保護膜731の材料費を抑えることができるため、製造コストを低減することができる。
【0060】
この例では、第1保護膜731の外表面全体が第2保護膜732により覆われている。しかし、このような構成に限らず、第1保護膜731の外表面の一部のみが第2保護膜732により覆われた構成であってもよい。この場合、第1保護膜731及び第2保護膜732が、少なくとも試料水の水位Lに対応する位置に形成されていることが好ましい。
【0061】
発光管71の根元部712は、外筒74内に挿入されており、当該外筒74内に上述の電極72が設けられている。本実施形態では、外筒74に対して一定間隔を隔てた位置に第1保護膜731が形成されることにより、外筒74と第1保護膜731との間で発光管71の外表面が露出している。すなわち、第1保護膜731の上端縁が、試料水の水位Lと外筒74の下端縁との間に位置している。これにより、試料水が第1保護膜731又は第2保護膜732などを伝って発光管71の根元部712まで到達し、発光管71内の電気部品(電極72など)に不具合が生じるのを防止することができる。
【0062】
以上の実施形態では、第1保護膜731がダイヤモンドライクカーボンにより形成された構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、例えば無機金属又は無機金属化合物により第1保護膜731が形成された構成であってもよい。この場合、上記実施形態のように第1保護膜731の外表面に第2保護膜732が形成された構成であってもよいし、第2保護膜732が形成されていない構成であってもよい。
【0063】
ここで、無機金属とは、白金又は金などのような無機金属単体を意味している。また、無機金属化合物とは、無機金属単体及びその他の成分を含む化合物を意味しており、サファイア又はアルミナなどを例示することができる。ただし、無機金属又は無機金属化合物としては、上記のような材料に限らず、耐紫外線性及び耐アルカリ性が高い任意の材料を用いることができる。
【0064】
耐紫外線性及び耐アルカリ性が高い無機金属又は無機金属化合物を用いて第1保護膜731を形成すれば、第1保護膜731が劣化するのを効果的に防止することができるため、第1保護膜731の亀裂に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことが原因で、測定に悪影響を与えるのを防止することができる。ただし、無機金属又は無機金属化合物のみにより第1保護膜731が形成された構成に限らず、無機金属又は無機金属化合物以外の成分を含む材料により第1保護膜731が形成された構成であってもよい。
【0065】
無機金属又は無機金属化合物を含む材料により第1保護膜731を形成する際には、ダイヤモンドライクカーボンを用いる場合と同様に、蒸着により第1保護膜731を形成することができる。無機金属又は無機金属化合物を用いて形成された第1保護膜731の厚みは、0.01μm以上であることが好ましく、1μm以上であればより好ましい。
【0066】
また、例えば樹脂により第1保護膜731が形成された構成であってもよい。この場合、上記実施形態のような樹脂により形成された第2保護膜732ではなく、他の材料を用いて第2保護膜732が形成された構成であってもよいし、第1保護膜731のみが形成された構成であってもよい。
【0067】
樹脂としては、フッ素樹脂などの耐紫外線性及び耐アルカリ性が高い樹脂を用いることが好ましいが、フッ素樹脂以外の樹脂であってもよい。フッ素樹脂などの耐アルカリ性が高い樹脂を用いて第1保護膜731を形成した場合には、第1保護膜731が劣化するのを効果的に防止することができるため、第1保護膜731の亀裂に入り込んだ試料水が次の分析時における試料水に混入するといったことが原因で、測定に悪影響を与えるのを防止することができる。ただし、樹脂のみにより第1保護膜731が形成された構成に限らず、樹脂以外の成分を含む材料により第1保護膜731が形成された構成であってもよい。
【0068】
樹脂を含む材料により第1保護膜731を形成する際には、上記実施形態において第2保護膜732を形成する場合と同様に、コーティングにより第1保護膜731を形成することができる。樹脂を用いて形成された第1保護膜731の厚みは、0.01μm以上であることが好ましく、1μm以上であればより好ましい。
【0069】
以上の実施形態では、発光管71が石英ガラスにより形成された構成について説明した。しかし、発光管71は、石英ガラスに限らず、合成石英などの石英を含む他の石英材料により形成された構成であってもよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、紫外線照射装置7が低圧水銀灯である場合について説明した。しかし、紫外線照射装置7は、低圧水銀灯に限らず、例えばエキシマレーザ、重水素ランプ、キセノンランプ、Hg−Zn−Pbランプなどのように、紫外線を照射可能な任意の光源を用いることができる。
【0071】
さらに、以上の実施形態では、反応槽5内の試料水に発光管71を浸漬して紫外線を直接照射するような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、紫外線照射装置7は、試料水が貯留された反応槽5に対して外部から紫外線を照射するような構成であってもよい。
【0072】
また、紫外線照射装置7が、反応槽5以外において光源として用いられるような構成であってもよい。この場合、紫外線照射装置7は、試料水ではなく、例えばアンモニアが含まれる大気中などのように、水中以外のアルカリ性雰囲気において使用されるような構成であってもよい。
【0073】
以上の実施形態では、分析装置の一例として全窒素全リン計について説明した。しかし、本発明は、全窒素全リン計に限らず、全有機体炭素計などの他の分析装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 流路切替部
2 シリンジ
3 試料水供給部
4 試薬供給部
5 反応槽
6 ヒータ
7 紫外線照射装置
8 測定部
9 制御部
21 筒体
22 プランジャ
71 発光管
72 電極
73 保護膜
74 外筒
711 先端部
712 根元部
713 区画壁
714 内部空間
731 第1保護膜
732 第2保護膜
M1,M2 モータ
図1
図2