【文献】
高梨正祐, 上田貴志, 板橋遊,超音波疲労試験片の発熱量と温度分布推定,日本機械学会M&M材料力学カンファレンス(CD-ROM),日本,2010年10月 8日,Vol.2010,Page.ROMBUNNO.1112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高周波を発生させる電気信号を出力する発振器と、前記発振器からの電気信号を受けて振動する超音波振動子と、先端に試験片が取り付けられ、前記超音波振動子からの超音波振動を前記試験片に伝達するホーンと、前記ホーンに固定される端部とは逆側となる前記試験片の自由端側に配設され、前記試験片の端面の変位を計測する変位計と、前記発振器からの出力信号を制御する制御部と、を備える超音波材料試験機において、間欠運転により疲労試験を行う超音波疲労試験方法であって、
前記試験片を所定の時間だけ加振した後に加振を停止させる動作を少なくとも1回実行する予備試験工程と、
前記予備試験工程において取得された前記試験片の温度の時間的変化を記憶する記憶工程と、
前記試験片を加振されているときの前記試験片の温度の変動として許容される温度範囲を設定する温度範囲設定工程と、
前記温度範囲設定工程において設定された温度範囲において、間欠運転における加振時間と休止時間を、前記記憶工程において記憶した前記試験片の温度の時間的変化に基づいて推定する時間推定工程と、
前記時間推定工程において推定した加振時間と休止時間を、間欠運転による疲労試験条件として設定する時間設定工程と、
前記時間設定工程において設定された加振時間と休止時間により、間欠運転による疲労試験を実行する試験実行工程と、
を含むことを特徴とする超音波疲労試験方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波疲労試験において間欠運転を行う場合には、試験片の温度上昇を、材料に応じた許容できる範囲よりも低く抑えつつ、同じ回数の振動を試験片に与えるのを短時間で行うことができるように、試験片に超音波振動を負荷する加振時間と、試験片の冷却のために加振を一時的に停止させる休止時間とを、適切に調整する必要がある。
【0007】
一方、超音波振動に起因した試験片内部の発熱量は、試験片を振動させる応力負荷の違いにより変動する。また、試験片内部の発熱量は、試験片に同じ応力負荷を与えても、試験片の材質や表面処理などの違いによって変動する。さらに、試験片の温度上昇を抑えるために、間欠運転と冷却空気の吹き付けによる冷却とを組み合わせた場合には、試験片に対する冷却空気の吹き付け方向や冷却空気の温度によって、試験片の冷却速度が変動する。
【0008】
特許文献1に記載の超音波疲労試験機は、試験片の温度を計測しているが、この試験片の温度は、試験片の表面温度を計測しているものであり、試験片内部の温度を計測しているわけではない。このため、試験片の表面温度は下がっていても、試験片内部の温度は依然として高い状態であることがある。
【0009】
さらに、従来のこの種の超音波疲労試験機による試験では、間欠運転を、オペレータが試行錯誤により決めた加振時間と休止時間の周期に従って行っているが、この間欠運転のための加振開始と加振停止の最適なタイミングを求める作業は、オペレータにとっては手間のかかる作業である。また、オペレータが手間をかけて決定した加振開始と加振停止のタイミングは、必ずしも最適なタイミングではないことがある。ここでの最適なタイミングとは、試験片の発熱量を疲労試験において許容できる温度上昇よりも低く抑えつつ、同じ回数の振動を試験片に与える場合に、総試験時間がもっとも短くなるよう加振時間と休止時間とが設定されている状態をいう。そして、最適なタイミングで試験片に対する加振開始と加振停止が行えなかった場合には、疲労試験そのものが失敗に終わることもある。
【0010】
また、間欠運転による疲労試験の試験中の試験片の伸びから試験片の発熱量を推定することで実質的に試験片の内部温度を計測し、計測値が設定した温度閾値を超えたか否かにより加振開始と加振停止のタイミングを調整する方法も考えられる。しかしながら、この場合には、測定誤差により加振時間と休止時間にばらつきが生じることがある。さらに、計測系からの信号入力から超音波を発生させる駆動系への制御信号の出力までの時間的な遅れにより、加振停止の信号を駆動系に与えたときには、例えば、試験片が加振により急激に発熱する材料では、すでに試験片の内部温度が閾値を超えている場合もあり、最適なタイミングで加振停止が行えない。
【0011】
このように、この種の超音波疲労試験機では、試験片の種類や試験内容などによって変動する試験中の試験片内部の温度を考慮して、予め間欠運転のための加振時間と休止時間を適切に設定することは困難であった。
【0012】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、間欠運転における加振時間と休止時間を、試験実行前に適切に設定することが可能な超音波疲労試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、高周波を発生させる電気信号を出力する発振器と、前記発振器からの電気信号を受けて振動する超音波振動子と、先端に試験片が取り付けられ、前記超音波振動子からの超音波振動を前記試験片に伝達するホーンと、前記ホーンに固定される端部とは逆側となる前記試験片の自由端側に配設され、前記試験片の端面の変位を計測する変位計と、前記発振器からの出力信号を制御する制御部と、を備え、間欠運転により疲労試験を行う超音波疲労試験機であって、前記制御部は、前記試験片を所定の時間だけ加振した後に加振を停止させる動作を少なくとも1回実行する予備試験において取得され、前記試験片が加振されているとき、および、加振が停止された後の前記試験片の温度の時間的変化を記憶する記憶部と、前記試験片が加振されているときの前記試験片の温度の変動として許容される温度範囲を設定する温度範囲設定部と、前記試験片の温度の変動が前記温度範囲設定部において設定された温度範囲となる間欠運転における加振時間と休止時間を、前記記憶部に記憶させた前記試験片の温度の時間的変化に基づいて推定する時間推定部と、を備え、前記時間推定部により推定された加振時間と休止時間により、前記発振器からの信号出力の開始と停止を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記記憶部は、温度測定データと熱収支を表した式とを利用して求めた、前記試験片の温度の時間的変化を表す冷却曲線および発熱曲線を関係式として記憶し、前記時間推定部は、前記関係式を利用して間欠運転における加振時間と休止時間を推定する。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記記憶部は、温度測定データと前記試験片の温度が加振時間とともに単調増加すると仮定した式とを利用して求めた、前記試験片の温度の時間的変化を表す発熱直線を関係式として記憶し、前記時間推定部は、前記関係式を利用して間欠運転における加振時間を推定する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記ホーンに固定される端部とは逆側となる前記試験片の自由端の端面から、所定の距離だけ離隔した位置に配置され、前記試験片の端面までの距離を計測する変位計を備え、前記制御部は、前記変位計が計測した計測値を、超音波振動に起因した材料の発熱による前記試験片の温度に変換する温度変換部をさらに備える。
【0017】
請求項5に記載の発明は、高周波を発生させる電気信号を出力する発振器と、前記発振器からの電気信号を受けて振動する超音波振動子と、先端に試験片が取り付けられ、前記超音波振動子からの超音波振動を前記試験片に伝達するホーンと、前記ホーンに固定される端部とは逆側となる前記試験片の自由端側に配設され、前記試験片の端面の変位を計測する変位計と、前記発振器からの出力信号を制御する制御部と、を備える超音波材料試験機において、間欠運転により疲労試験を行う超音波疲労試験方法であって、前記試験片を所定の時間だけ加振した後に加振を停止させる動作を少なくとも1回実行する予備試験工程と、前記予備試験工程において取得された前記試験片の温度の時間的変化を記憶する記憶工程と、前記試験片を加振されているときの前記試験片の温度の変動として許容される温度範囲を設定する温度範囲設定工程と、前記温度範囲設定工程において設定された温度範囲において、間欠運転における加振時間と休止時間を、前記記憶工程において記憶した前記試験片の温度の時間的変化に基づいて推定する時間推定工程と、前記時間推定工程において推定した加振時間と休止時間を、間欠運転による疲労試験条件として設定する時間設定工程と、前記時間設定工程において設定された加振時間と休止時間により、間欠運転による疲労試験を実行する試験実行工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1および請求項5に記載の発明によれば、予備試験により取得され、試験片の温度の時間的変化を記憶し、その試験片の温度の時間的変化に基づいて間欠運転における加振時間と休止時間を推定することから、試験を実行する前に加振時間と休止時間を適切に設定することが可能となる。したがって、超音波疲労試験を適切に実行することが可能となる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、記憶部に記憶させた関係式により、試験を実行する前に加振時間と休止時間を適切に設定することが可能となる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、記憶部に記憶させた関係式により、加振時の試験片温度が直線的に変化する材料を試験する場合でも、加振時間を適切に設定する可能となる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、試験片の端面までの距離を計測する変位計の計測値を試験片の温度に変換する温度変換部を備えることから、変位計による試験片の温度計測が可能となるとともに、試験片の温度の時間的変化に基づいて、間欠運転における加振時間と休止時間を推定することができる。したがって、より適切に超音波疲労試験を実行することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の超音波疲労試験機の主要な構成を示す概要図である。
図2は、間欠運転による疲労試験中の端面ギャップdの計測結果の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は、端面ギャップdの計測値(μm)であり、横軸は時間(秒)である。
【0024】
この超音波疲労試験機は、超音波により試験片Sを共振させて疲労試験を行うものであり、超音波発生部10と、変位計測部20と、この超音波疲労試験機の全体の動作を制御する制御部30とから構成される。
【0025】
超音波発生部10は、超音波振動子11とホーン12からなる振動部13と、超音波振動子11を振動させる信号を作成する発振器15とを有する。発振器15は、制御部30において設定された試験周波数に基づいて電気信号を作成する。超音波振動子11は、発振器15より出力された電気信号により駆動し、超音波振動を発生する。超音波振動は、ホーン12により増幅され、ホーン12の先端に取り付けられた試験片Sに伝達される。すなわち、超音波振動子11を振動させることにより、ホーン12の先端に固定された試験片Sに繰り返し応力が負荷される。
【0026】
変位計測部20は、ホーン12の先端に連結された試験片Sの変位を計測する変位計21と、変位計21の検出値をアナログ信号からデジタル信号に変換して制御部30に送信する変換器22とを有する。変位計21は、ホーン12に固定される側とは逆側となる試験片Sの自由端側の端面から、所定の距離だけ離れた位置に配置される。この変位計21は、非接触により試験片Sの端面までの距離を計測する渦電流式変位計である。なお、変位計21には、レーザ変位計などの他の原理の非接触式変位計を使用することもできる。また、この明細書では、変位計21が計測している変位計21と試験片Sの端面との間の距離を、端面ギャップdと呼称する。
【0027】
変位計21が計測した端面ギャップdの値は、変換器22を介して制御部30に入力される。端面ギャップdの変化を示す変位データ(
図2参照)は、必要に応じて表示部37に表示される。なお、端面ギャップdの変化量は、試験片Sの先端(端面)の変位量でもある。
【0028】
制御部30は、プログラムや各種データを格納可能なRAM、ROMなどの記憶装置と、CPUなどの演算装置とを備えたコンピュータにより構成される。制御部30には、試験条件の変更などのオペレータによる操作を受け付ける入力部36と、試験条件や試験中の試験片Sの変位などを表示する表示部37が接続される。制御部30は、設定された試験条件に基づいて、発振器15から超音波振動子11への信号出力のオン/オフを制御する。また、制御部30は、主要な機能的構成として、温度変換部31と、温度範囲設定部32と、時間推定部33と、時間設定部34と、記憶部35を備える。
【0029】
温度変換部31は、試験片Sの端面ギャップdの変位を示す変位データ(
図2参照)を試験片Sの温度データに換算する。この温度変換部31において、試験片Sの端面ギャップdの変位を試験片Sの内部温度に換算する際には、各材料において既に知られている線膨張係数を利用する。線膨張係数は、1°Cの温度上昇による単位長さあたりの伸び変化率である。したがって、変位計21により計測された端面ギャップdの変化量から、試験片Sの長さと線膨張係数を利用して、試験片Sの内部温度の変化量を算出でき、試験片Sの端面ギャップdの変位を試験片Sの内部温度の変化に換算することができる。なお、試験片Sの内部温度の計算に用いられる試験片Sの長さの値は、試験片Sの形状や応力が集中する領域の長さに応じて決められる。また、この温度変換部31において、試験片Sの端面の変位量に相当する端面ギャップdの変化量と線膨張係数を利用した計算によって求められた試験片Sの内部温度およびその変化は、必要に応じて数値およびグラフにて表示部37に表示される。なお、ここで温度に変換するときの端面ギャップdは、超音波振動による変動をないものとしたときの平均的端面ギャップを指しているものとする。
【0030】
温度範囲設定部32には、繰り返し負荷を与える疲労試験において試験片Sの内部温度として許容できる上限温度と、加振を停止した後に加振を再開する目安となる下限温度、すなわち、試験片Sの内部温度の変動として許容する温度範囲が設定される。この温度範囲の設定は、オペレータが入力部36を介して行う。
【0031】
時間推定部33は、温度範囲設定部32において設定された温度範囲において、間欠運転における加振時間aと休止時間bを、記憶部35に記憶させた試験片Sの内部温度の時間的変化に基づいて推定する。すなわち、超音波による加振を開始してから加振を停止する基準となる試験片温度の上限温度に到達するまでの時間(加振時間a)と、超音波による加振を停止した後に、加振を再開する基準となる試験片温度の下限温度に到達するまでの時間(休止時間b)とを推定する。なお、試験片Sの内部温度の時間的変化は、予備試験により取得した温度データを基に求めた加振開始からの時間と試験片Sの温度変化との関係、および、加振停止からの時間と試験片Sの温度変化との関係を表すものである。
【0032】
時間設定部34は、時間推定部33により推定した加振時間aと休止時間bを、疲労試験における試験条件として設定するとともに、試験片Sに与える目標負荷回数を実現する総加振時間を設定する。この総加振時間から、加振開始と加振停止を繰り返すセット数が導き出される。
【0033】
記憶部35は、試験中に変位計21および変換器22を介して制御部30に入力される変位測定データを記憶するとともに、後述する予備試験により取得した試験片Sの内部温度の時間的変化を記憶する。
【0034】
上述した構成の超音波疲労試験機で間欠運転による疲労試験を実行すると、
図2に示すように、変位計21により検出される端面ギャップdの計測値は、試験片Sの内部温度の上昇に伴い、加振時間aでは、端面ギャップdがしだいに小さくなる(短くなる)方向に変化する。一方、休止時間bでは、試験片Sの内部温度の下降に伴い、加振時の試験片Sの発熱による伸びが元に戻ろうとするため、端面ギャップdの値は、試験片Sが加振されていたときの端面ギャップdの値よりも大きくなる(長くなる)方向に変化する。そして、試験片Sが加振されているときは、変位計21により計測される端面ギャップdの計測値は大きな振幅で変動する連続波形となり、加振が停止すると、端面ギャップdの計測値は小さな振幅で変動する連続波形となる。加振時間aと休止時間bを繰り返す疲労試験においては、試験前の試験片Sの端面と変位計21との距離である基準端面ギャップdiを中心に、大きな振幅の連続波形と、小さな振幅の連続波形とが繰り返し表れる。なお、
図2においては、端面ギャップdの計測値を示す波形の周期が横軸のスケールに対して極めて短いため、連続する波形の外形(包絡線)を示している。
【0035】
次に、このような超音波疲労試験機で間欠運転による疲労試験を実行する手順を説明する。
図3は、予備試験の手順を示すフローチャートである。
図4は、予備試験における間欠運転の手順を示すフローチャートである。また、
図5は、休止時間bにおける試験片温度の冷却曲線Cを示すグラフであり、
図6は、加振時間aにおける試験片温度の発熱曲線H1を示すグラフである。
図5および
図6のグラフの縦軸は、試験片温度(試験片Sの内部温度)であり、横軸は時間(秒)である。なお、
図5および
図6においても、
図2と同様に、波形の周期が横軸のスケールに対して極めて短いため、連続する波形の外形を示している。
【0036】
まず、この超音波疲労試験機においては、疲労試験を実行する前に、予備試験を行っている。試験片Sをホーン12に取り付け、端面ギャップdの変化量を求めるための基準となる基準端面ギャップdiを、加振を開始する前に計測して決めておく(ステップS11)。
【0037】
次に予備試験における間欠運転を実行する(ステップS12)。予備試験では、予め任意の時間を加振時間aと休止時間bとして設定しておき試験片Sを加振する(ステップS21)。加振中に変位計21が検出した端面ギャップdの計測値は、温度変換部31の作用により試験片Sの内部温度に変換される(ステップS22)。
【0038】
設定した加振時間aが経過すると(ステップS23)、加振を停止する(ステップS24)。休止時間bが経過し(ステップS25)、必要な回数に到達していない場合には(ステップS26)、ステップS21〜ステップS25の動作が繰り返し実行される。なお、予備試験においては、少なくとも加振と停止が1回(1セット)行われればよい。ここで1セットは、加振の開始と停止の動作が各1回行われることをいう。
【0039】
次に、予備試験により取得した加振時間aと試験片Sの内部温度の変化との関係、および、加振を停止した後の休止時間bと試験片Sの内部温度の変化との関係を求め、記憶部35に記憶させる(ステップS13:記憶工程)。そして、予備試験を終了する。
【0040】
試験片Sを一旦加振すると、端面ギャップdの値が変動するため、この変位計21の計測値に基づいて算出される試験片Sの内部温度も、周期の短い波形の連続となる。しかしながら、熱慣性などから考えて実際の試験片の温度は短い周期で変動することはないので、温度を算出する際には以下のように考えることが適当である。予備試験により取得した加振時間aと試験片Sの内部温度の変化との関係、および、加振を停止した後の休止時間bと試験片Sの内部温度の変化との関係は、
図6および
図7に示すように、周期の短い波形の連続として現れる温度の測定データの近似曲線で表すことができる。
【0041】
図5に示すグラフは、休止時間bにおいて、試験片温度が曲線的な温度変化を示す場合を示している。試験片Sが冷却されて試験片Sの内部温度が外気温度まで下降していく場合には、推定する冷却曲線Cは、例えば、熱収支を表した下記の式(1)を用いて推定される。
【0043】
C
pVは熱容量、Tは試験片温度、tは経過時間、T
0は外気冷却温度、hは試験片‐外気伝達係数、Aは試験片表面積である。予備試験で得られた温度の測定データから、最小二乗法を用いて係数C
pV/hAを求めることができる。これにより、冷却曲線Cは休止時間bと試験片Sの内部温度の変化との関係を表す関係式として、記憶部35に記憶される。記憶部35に記憶させた関係式を用いて、加振を停止してから加振を再開する基準となる試験片温度の下限値に到達するまでの時間、すなわち休止時間bが算出可能となる。
【0044】
図6に示すグラフは、加振時間aにおいて、試験片温度が曲線的な温度変化を示す場合を示している。
図5に示した冷却曲線Cの場合と同様に、発熱曲線H1は、例えば、熱収支を表した下記の(2)を用いて推定される。
【0046】
C
pVは熱容量、Tは試験片温度、tは経過時間、T
1は外気冷却温度、T
2は内部発熱温度、h
1は試験片‐外気伝達係数、h
2は試験片内部伝達係数、Aは試験片表面積である。予備試験で得られた温度の測定データにより最小二乗法を用いて係数C
pV/h
2Aを求めることができる。なお、係数C
pV
1/h
1Aは、冷却曲線Cで求めたC
pV/hAと同じである。これにより、発熱曲線H1は、加振時間aと試験片Sの内部温度の変化との関係を表す関係式として、記憶部35に記憶される。したがって、加振を停止する基準となる試験片温度の上限値に到達するまでの時間、すなわち加振時間aが算出可能となる。
【0047】
なお、式(1)および式(2)における外気冷却温度T
0、T
1は、予備試験を行うときの試験片S周辺の温度、例えば室温であり、外界温度が一定の場合を想定している。
【0048】
上述した
図5および
図6では、試験片Sの内部温度が曲線的に変化する場合を示したが、材料によっては、加振による試験片Sの内部温度の上昇と時間との関係に、比例関係が成立するものもある。
図7に示すグラフは、加振時間aにおいて、試験片Sの内部温度が直線的な温度変化を示す場合の温度変化の関係式を説明するグラフである。このグラフにおいて、縦軸は試験片温度であり、横軸は時間(ミリ秒)である。試験片Sの発熱による内部温度が加振時間aとともに単調増加すると仮定すると、加振時間aと試験片Sの内部温度の変化との関係は下記式(3)を用いて推定される。
【0050】
Tは試験片温度、k(σ)は温度上昇係数、tは経過時間、T
0は初期試験片温度である。予備試験で得られた温度の測定データから係数kを求めることができる。これにより、加熱直線H2は、加振時間aと試験片Sの内部温度の変化との関係を表す関係式として、記憶部35に記憶される。なお、試験応力σにより温度上昇係数k(σ)は変化することから、温度上昇が発生する最低応力と、試験を行う最高応力とでそれぞれ1セット分の温度データを取得することで、その範囲内の応力の温度上昇係数(比例定数に相当)を内挿することができる。
【0051】
なお、この実施形態では、予備試験により取得した測定データに基づく試験片Sの内部温度の時間的変化を表す関係式を、式(1)〜(3)を利用して導出しているが、他の近似式を導出する手法を用いて関係式を求めてもよい。また、上述した例では、1セット分の温度の測定データを用いて関係式を求めたが、複数セット分の温度の測定データの平均値を用いて関係式を求めてもよい。
【0052】
図8は、この発明に係る超音波疲労試験機による疲労試験の手順を示すフローチャートである。
【0053】
まず、試験片Sをホーン12に取り付け、端面ギャップdの変化量を求めるための基準となる基準端面ギャップdiを、加振を開始する前に計測して決めておく(ステップS31)。次に、試験片Sの内部温度の変動として許容する温度範囲、すなわち、繰り返し負荷を与える疲労試験において試験片Sの内部温度として許容できる上限温度と、加振を停止した後に加振を再開する目安となる下限温度を温度範囲設定部32に設定する(ステップS32:温度範囲設定工程)。
【0054】
上述した予備試験により得られた温度の測定データにより各係数の値が定まった関係式を用いて、設定した温度範囲内における加振時間aと休止時間bが時間推定部33の作用により推定される(ステップS33:時間推定工程)。推定された各時間は時間設定部34に設定され、(ステップS34:時間設定工程)。しかる後、間欠運転による疲労試験が実行される(ステップS35:試験実行工程)。間欠運転による疲労試験は、それまでの加振時間aの合計が目標とする総加振時間に到達するまで行われる。
【0055】
このように、上述した実施形態では、予備試験により得られた温度の測定データから求めた関係式を記憶部35に記憶させることから、疲労試験を行うときには、試験実行前に温度範囲を設定することで、関係式を呼び出し、自動的に適切な加振時間aと休止時間bを設定することができる。なお、予備試験は、試験する材料の種別やサイズごとに、1回行われていればよく、材料の種別やサイズに対応付けて関係式を記憶させておけばよい。これにより、間欠運転による疲労試験において、材料の種別やサイズに応じた適切な加振時間aと休止時間bを、試験実行前に設定することが可能となる。
【0056】
上述した実施形態では、制御部30に機能的構成として温度変換部31を備え、変位計21の計測値を試験片Sの温度に変換する構成を採用したが、これに限定されない。この発明における「試験片の温度の時間的変化」を示す温度データは、例えば、熱電対などを利用した温度計測装置により収集してもよい。
【0057】
さらに、この発明に係る超音波疲労試験機では、試験実行前に、材料の種別やサイズに応じた適切な加振時間aと休止時間bを決めることができ、制御部30からの加振開始と加振停止を指令する信号の出力を加振時の試験片Sの急激な発熱による温度上昇に遅れることなく制御できる。したがって、試験中に試験片Sの内部温度が許容上限温度を超えることを防ぎ、疲労試験を確実に行うことが可能となる。