特許第6168056号(P6168056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168056
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20170713BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   B01D63/02
   B01D63/00 500
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-523700(P2014-523700)
(86)(22)【出願日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2013067655
(87)【国際公開番号】WO2014007138
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-151041(P2012-151041)
(32)【優先日】2012年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金井 大昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 純二
【審査官】 天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−234200(JP,A)
【文献】 特開2010−234198(JP,A)
【文献】 特開2000−037616(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/035593(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に少なくとも1つのノズルを有する筒状ケース、該筒状ケース内に備えられた中空糸膜束、および、前記ノズルの少なくとも1つのノズルと前記中空糸膜束の外周との間に設けられた複数の整流孔を有する整流筒を有し、前記中空糸膜束が、一端が開口され、他端が封止された複数本の中空糸膜、あるいは、両端が開口されたU字状の少なくとも1本の中空糸膜からなり、前記各中空糸膜の前記開口されている端部を固定する中空糸膜開口端部固定部材を有し、前記中空糸膜開口端部固定部材の側周面が、前記筒状ケースの内周面に接合され、前記各中空糸膜が前記中空糸膜開口端部固定部材を貫通し、前記各開口が、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記筒状ケースの外方に位置する外側表面に位置し、前記整流筒が、前記中空糸膜開口端部固定部材に固定されている中空糸膜モジュールにおいて、前記整流筒が、大内径部と、その軸方向の少なくとも一部に、前記大内径部の内径よりも小さい内径を有する小内径部を有し、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記外側表面とは反対側の前記筒状ケースの内方に位置する内側表面が、前記整流筒の前記小内径部に位置しており、前記小内径部と前記大内径部との間に段差を有し、前記整流筒の前記整流孔と前記中空糸膜束との間に、間隙が形成されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記中空糸膜束が、前記一端が開口され、他端が封止された複数本の中空糸膜からなり、かつ、前記各中空糸膜の前記封止されている端部が、中空糸膜封止端部固定部材に固定され、該中空糸膜封止端部固定部材の側周面が、前記筒状ケースの内周面に接合されて、前記中空糸膜封止端部固定部材の前記筒状ケースの内方に位置する内側表面と前記中空糸膜封止端部固定部材の前記筒状ケースの外方に位置する外側表面を有する請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記小内径部の前記中空糸膜開口端部固定部材の前記内側表面から前記大内径部側に向かう前記筒状ケースの軸方向における長さが、3mm乃至40mmの範囲にある請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記整流筒が、前記小内径部における横断面積をSAとし、前記大内径部における横断面積をLAとしたとき、これらの比が、0.6≦SA/LA≦0.9の関係を満足している請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記整流筒における前記複数の整流孔の全てが、前記大内径部に設けられている請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記整流筒が、前記小内径部と前記大内径部との間に、前記小内径部の前記横断面積SAを満足する内径から前記大内径部の横断面積LAを満足する内径へと前記筒状ケースの軸方向に変化する内径長遷移区間を有する請求項4に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記整流筒が、前記大内径部の内径をLDとし、前記小内径部の内径をSDとし、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記内側表面と前記中空糸膜封止端部固定部材の内側表面との間における中空糸膜長さをFLとし、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記内側表面と前記中空糸膜封止端部固定部材の内側表面との間の前記筒状ケースの軸方向における距離をCLとしたとき、(LD−SD)>(FL−CL)/2の関係を満足している請求項2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
前記小内径部に位置する前記中空糸膜束における中空糸膜の充填率が、30%乃至80%の範囲にある請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記小内径部が形成されている部分における前記整流筒の外径が、前記大内径部が形成されている前記整流筒の外径よりも小さい請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水処理、工業用水製造、排水処理、逆浸透膜前処理などの水処理に用いられる中空糸膜モジュールに関する。中空糸膜モジュールにおいて用いられる中空糸膜は、例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜からなる。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜の外側から内側の中空部へと水をろ過する外圧式中空糸膜モジュールは、膜ろ過前の原水と膜ろ過後のろ過水とを隔てるシール構造が単純であること、運転管理が容易であることなど種々の利点を有している。その最大の特徴は、モジュールの単位容積当りのろ過膜面積を非常に大きく取れることにある。そのため、近年では、河川水、湖沼水、地下水、海水、生活排水、工業用排水から、工業用水や上水を製造する水処理プロセスへの外圧式中空糸膜モジュールの適用が進められている。
【0003】
中空糸膜モジュールを用いて原水を膜ろ過すると、原水中に含まれる濁質物質や有機物等の除去対象物が膜の外側表面に堆積し、膜の閉塞現象が起こる。そのため、膜のろ過抵抗が上昇し、やがてろ過を行うことができなくなる。そこで、膜ろ過性能を維持するため、定期的に膜ろ過を停止し、ろ過膜の物理洗浄を行うのが一般的である。
【0004】
通常、ろ過工程と物理洗浄工程とは、自動的に互いに繰り返して実施される。物理洗浄には、膜モジュール下部に空気を吹き込んで膜を水中で振動させることにより、膜の外側表面に付着した懸濁物質を震い落とす空気洗浄や、膜モジュールのろ過方向とは逆方向、つまり中空部側から膜の外側表面に向かい、ろ過水などの水(洗浄水)を加圧して押し込み、膜などに付着した懸濁物質を排除する逆圧水洗浄(逆洗)、あるいは、空気洗浄と逆圧水洗浄を同時に行う空気・逆圧水同時洗浄等がある。
【0005】
中空糸膜モジュールは、一般的に、筒状ケースと筒状ケース内に収納された中空糸膜束からなる。中空糸膜束の一方の端部は、一方のポッティング材によって、筒状ケースの一方の端部に注型固定され、また、中空糸膜束の他方の端部は、他方のポッティング材によって、筒状ケースの他方の端部に注型固定された構造を有する。ここに用いられる中空糸膜束は、通常、数百本乃至数万本の中空糸膜の束からなる。
【0006】
外圧式中空糸膜モジュールの場合には、一方のポッティング材により固定された各中空糸膜の一方の端部は、該一方のポッティング材の外側表面において、中空部が開口することにより形成された開口を有する。原水が中空糸膜を通過することによりろ過されて得られるろ過水は、中空部を流れて前記開口に至り、該開口を通過したろ過水は、筒状ケースに設けられたろ過水出口へと流れる。他方のポッティング材により固定された各中空糸膜の他方の端部は、通常、該他方のポッティング材の内部において中空部が封止されることにより形成された閉塞を有する。
【0007】
ポッティング材を注型固定するための方法としては、静置法、遠心法がよく知られている。静置法とは、中空糸膜束の下方より、液状のポッティング材、例えば、流動性を有する樹脂を定量ポンプ等にて供給し、各中空糸膜の先端およびその近傍において、ポッティング材を固化(硬化)させる方法である。遠心法とは、液状のポッティング材を遠心力によってケース端部に移動させ、ポッティング材を固化(硬化)させる方法である。固化したポッティング材は、各中空糸膜をポッティング材の内部に固定するとともに、中空糸膜束を筒状ケースに固定する固定部材となる。
【0008】
しかし、いずれの方法でも、中空糸膜とポッティング材との界面では、流動性を有する樹脂が、数ミリメートルから数センチメートル程度、中空糸膜の外側表面に沿って立ち上がり、不均一な樹脂表面を形成し、この状態で固化する。このような状態で固化した樹脂(固定部材)に固定された中空糸膜が、空気洗浄時に発生する振動を受けると、不均一な樹脂表面において、中空糸膜に局所的な応力が加わり、中空糸膜の破断が生じる場合がある。
【0009】
中空糸膜束を収容する筒状ケースの上部側の側面には、循環水や排水の排出に用いられるノズルが設けられている。上部ポッティング材(上部固定部材)の筒状ケースの軸方向に関して内側の樹脂表面(上部固定部材の下面)は、効率よく循環水や排水の排出が可能となるように、上部排水ノズルの内部流路の上端とほぼ同じ高さの位置に形成されている。
【0010】
各中空糸膜を固定する上部固定部材の筒状ケースの内側の樹脂表面(上部固定部材の下面)が、上部排水ノズルの内部流路の上端よりも上方に設置された場合、上部固定部材の下面と上部排水ノズルの内部流路の上端との間の空間に、空気や濁質物質が溜まることがあり、この場合、中空糸膜モジュールの排濁性の悪化や、中空糸膜のろ過のための有効膜面積の減少の問題が生じる。
【0011】
中空糸膜束の上部の周りには、整流孔を有する整流筒が配され、上部排水ノズルに連通する排出流路が形成されている。
【0012】
前記空気洗浄効果をより高めるため、特許文献1には、筒状ケースに収容された中空糸膜に弛みを持たせることが提案されている。中空糸膜の両端の接着固定部間において、中空糸膜に弛みを持たせて、中空糸膜の両端を接着固定部に固定することで、空気洗浄時に、中空糸膜が適度に振動し、効果的な洗浄が可能となるとされている。しかし、高流量での排水時には、中空糸膜が排水や空気の流れに押され、中空糸膜が整流孔を閉塞することで、圧力損失が発生し、また、中空糸膜が整流孔に押し付けられて、損傷する問題があった。
【0013】
この問題を解決するために、特許文献2には、排水ノズルと中空糸膜束の間に設けた整流筒の内側の面に、整流孔間を連通する溝を設けた中空糸膜モジュールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】JP10−000339A
【特許文献2】WO2008/035593A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の整流筒を用いた場合の中空糸膜モジュールを例にとって、図4を参照しながら、以下に従来技術の課題を説明する。なお、図4に示す従来の中空糸膜モジュールの構造と同様の構造を有する中空糸膜モジュールは、多くの文献に記載されている。その一例として、特許文献2の図1に示される中空糸膜モジュールがある。
【0016】
図4において、従来の中空糸膜モジュールM4における筒状ケース1は、筒状のケース本体3、ケース本体3の上端部の外周面に装着された上側ソケット4aとケース本体3の下端部の外周面に装着された下側ソケット4bからなる。上側ソケット4aには、原水の排出口9が設けられ、下側ソケット4bには、原水の供給口10が設けられている。筒状ケース1に、両端を切断して一定長にした中空糸膜束2が挿入されている。中空糸膜束2は、多数本の中空糸膜2aの束からなる。
【0017】
多数本の中空糸膜2aの上端部は、樹脂により接着固定され、この樹脂により、中空糸膜束2の上部固定部材13aが形成されている。上部固定部材13aの側周面は、上側ソケット4aの上端部の内周面に固定されている。上部固定部材13aに固定された多数本の中空糸膜2aの上端は、上部固定部材13aの上側表面13aUSにおいて外部に対し開口され、各中空糸膜2aは、開口2aOを有する。上部固定部材13aの下側表面13aLSは、筒状ケース1の内側に位置する。
【0018】
多数本の中空糸膜2aの下端部は、樹脂により接着固定され、この樹脂により、中空糸膜束2の下部固定部材13bが形成されている。下部固定部材13bの側周面は、下側ソケット4bの下端部の内周面に固定されている。下部固定部材13bに固定された多数本の中空糸膜2aの下端における中空部は、下部固定部材13bの内方において、下部固定部材13bの形成に用いられた樹脂により閉塞され、各中空糸膜2aは、閉塞2aCを有する。下部固定部材13bの上側表面13bUSは、筒状ケース1の内側に位置し、下部固定部材13bの下側表面13bLSは、筒状ケース1の外側に位置する。
【0019】
供給口10に向かい合う位置における中空糸膜束2の周面には、多数の整流孔8bを有する下側整流筒6bが設けられている。また、下側ソケット4bの内周面と下側整流筒6bの外周面との間に、下側環状流路7bが形成されている。
【0020】
原水は、下側ソケット4bに設けられた供給口10から筒状ケース1の内部へと供給され、次いで、下側環状流路7bから、下側整流筒6bに設けられている整流孔8bを通過して、各中空糸膜2aの外側表面に沿って、流れる。
【0021】
原水は、筒状ケース1の下端に設けられた下側キャップ5bに形成されている第2供給口12から、筒状ケース1の内部へと供給されても良い。この場合には、第2供給口12から供給された原水は、上下方向に貫通して下部固定部材13bに設けられた貫通孔14を通過して、各中空糸膜2aの外側表面に沿って、流れる。
【0022】
各中空糸膜2aの外側表面に沿って流れる原水は、各中空糸膜2aの膜壁を透過して中空糸膜の中空部に至り、ろ過水となる。ろ過水は、各中空糸膜2aの開口2aOを通過して、筒状ケース1の上端部に設けられた上側キャップ5a内に集められ、次いで、上側キャップ5aに設けられたろ過水出口11から、中空糸膜モジュールM4外へと取り出される。
【0023】
全量ろ過式の場合には、原水の排出口9は、閉じられ、ろ過水のみが、ろ過水出口11から取り出される。一方、クロスフロー式の場合には、中空糸膜を透過しなかった残りの原水(濃縮水)が、原水の排出口9に向かい合う位置における中空糸膜束2の周面に設けられた多数の整流孔8aを有する上側整流筒6aの整流孔8aを通過し、次いで、上側ソケット4aの内周面と上側整流筒6bの外周面との間に設けられた上側環状流路7aを通過し、原水の排出口9から、中空糸膜モジュールM4外へと排出される。
【0024】
従来の上側整流筒6aを用いた場合には、各中空糸膜2aの外側表面に沿って流れる原水が、上側整流筒6aの内側から整流孔8aを通過し、上側環状流路7aを経て排出口9から排出されるとき、単位時間当たりの排水量が多すぎると、上側整流筒6aの内周面の近傍に位置する中空糸膜2aが排水の流れに押され、整流孔8aおよびその付近に押さえつけられて整流孔8aが閉塞され易い問題がある。
【0025】
また、一定時間のろ過工程の終了後に、空気を第2供給口12から供給し、中空糸膜モジュールM4内に蓄積した懸濁物質を震い落とす空気洗浄と、ろ過水をろ過水出口11側から原水側へ流す逆圧水洗浄を連続して実施したり、両者を同時に実施したりするが、これらの洗浄工程の場合にも、排水や空気を排出口9から流出させるときに、上記と同様に、中空糸膜2aが整流孔8aおよびその近傍に押さえつけられて整流孔8aが閉塞され易い問題がある。
【0026】
特許文献2に示される中空糸膜モジュールでは、そこに記載されている構造を用いることで、排出口9の近傍における中空糸膜が上側整流筒6aに設けた整流孔8aを閉塞することを防止できる。しかし、特に高流量の排水を行ったときに、中空糸膜束2の外周部に位置する中空糸膜と上側整流筒6aの内側表面に設けられた溝が接触することにより、中空糸膜が削れ、損傷するという問題があった。
【0027】
本発明は、高流量排水時の圧力損失を低減させつつ、中空糸膜の損傷を防止することを可能にした中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記目的を達成するための本発明の中空糸膜モジュールは、次の通りである。
【0029】
側面に少なくとも1つのノズルを有する筒状ケース、該筒状ケース内に備えられた中空糸膜束、および、前記ノズルの少なくとも1つのノズルと前記中空糸膜束の外周との間に設けられた複数の整流孔を有する整流筒を有し、前記中空糸膜束が、一端が開口され、他端が封止された複数本の中空糸膜、あるいは、両端が開口されたU字状の少なくとも1本の中空糸膜からなり、前記各中空糸膜の前記開口されている端部を固定する中空糸膜開口端部固定部材を有し、前記中空糸膜開口端部固定部材の側周面が、前記筒状ケースの内周面に接合され、前記各中空糸膜が前記中空糸膜開口端部固定部材を貫通し、前記各開口が、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記筒状ケースの外方に位置する外側表面に位置し、前記整流筒が、前記中空糸膜開口端部固定部材に固定されている中空糸膜モジュールにおいて、前記整流筒が、大内径部と、その軸方向の少なくとも一部に、前記大内径部の内径よりも小さい内径を有する小内径部を有し、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記外側表面とは反対側の前記筒状ケースの内方に位置する内側表面が、前記整流筒の前記小内径部に位置しており、前記小内径部と前記大内径部との間に段差を有し、前記整流筒の前記整流孔と前記中空糸膜束との間に、間隙が形成されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。
【0030】
本発明において、前記中空糸膜束が、前記一端が開口され、他端が封止された複数本の中空糸膜からなり、かつ、前記各中空糸膜の前記封止されている端部が、中空糸膜封止端部固定部材に固定され、該中空糸膜封止端部固定部材の側周面が、前記筒状ケースの内周面に接合されて、前記中空糸膜封止端部固定部材の前記筒状ケースの内方に位置する内側表面と前記中空糸膜封止端部固定部材の前記筒状ケースの外方に位置する外側表面を有することが好ましい。
【0031】
本発明において、前記小内径部の前記中空糸膜開口端部固定部材の前記内側表面から前記大内径部側に向かう前記筒状ケースの軸方向における長さが、3mm乃至40mmの範囲にあることが好ましい。
【0032】
本発明において、前記整流筒が、前記小内径部における横断面積をSAとし、前記大内径部における横断面積をLAとしたとき、これらの比が、0.6≦SA/LA≦0.9の関係を満足していることが好ましい。
【0033】
本発明において、前記整流筒における前記複数の整流孔の全てが、前記大内径部に設けられていることが好ましい。
【0034】
本発明において、前記整流筒が、前記小内径部と前記大内径部との間に、前記小内径部の前記横断面積SAを満足する内径から前記大内径部の横断面積LAを満足する内径へと前記筒状ケースの軸方向に変化する内径長遷移区間を有することが好ましい。
【0035】
本発明において、前記整流筒が、前記大内径部の内径をLDとし、前記小内径部の内径をSDとし、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記内側表面と前記中空糸膜封止端部固定部材の内側表面との間における中空糸膜長さをFLとし、前記中空糸膜開口端部固定部材の前記内側表面と前記中空糸膜封止端部固定部材の内側表面との間の前記筒状ケースの軸方向における距離をCLとしたとき、(LD−SD)>(FL−CL)/2の関係を満足していることが好ましい。
【0036】
本発明において、前記小内径部に位置する前記中空糸膜束における中空糸膜の充填率が、30%乃至80%の範囲にあることが好ましい。
【0037】
本発明において、前記小内径部が形成されている部分における前記整流筒の外径が、前記大内径部が形成されている前記整流筒の外径よりも小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の中空糸膜モジュールによれば、高流量排水時の圧力損失を低減させつつ、中空糸膜の整流孔への接触によって生じる中空糸膜の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、本発明の中空糸膜モジュールの一例の概略縦断面図である。
図2図2は、図1に示す本発明の中空糸膜モジュールの中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)およびその近傍の縦断面拡大図である。
図3図3は、本発明の中空糸膜モジュールに使用される上側整流筒の一例の左右の内径部のそれぞれの横断面を付記した概略縦断面図である。
図4図4は、従来の中空糸膜モジュールの一例の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の中空糸膜モジュールの一実施形態を、図1および図2を参照しながら以下に説明する。ここに説明する中空糸膜モジュールは、上水(飲料水)を製造するための原水のろ過装置として用いられる。
【0041】
図1および図2に示す本発明の中空糸膜モジュールを構成する各要素で、図4に示す中空糸膜モジュールを構成する各要素と共通する要素には、図4に用いられている要素に付されている記号と同じ記号が、図1および図2においても付けられている。
【0042】
図1に示す中空糸膜モジュールM1は、筒状ケース1と筒状ケース1内に備えられた中空糸膜束2からなる。筒状ケース1は、筒状のケース本体3、ケース本体3の上端部の外周面に装着された上側ソケット4aとケース本体3の下端部の外周面に装着された下側ソケット4bからなる。
【0043】
上側ソケット4aは、その周面の一部に、原水の排出口(ノズル)9を有する。上側ソケット4aと中空糸膜束2の外周面との間に、複数の整流孔8aを有する上側整流筒6Aが設けられている。上側整流筒6Aの外周面と上側ソケット4aの内周面との間に、上側環状流路7aが形成されている。
【0044】
中空糸膜束2は、多数本の中空糸膜2aの束からなる。各中空糸膜2aの中空部は、その一端が開口され、その他端が封止されている。各中空糸膜2aの開口されている端部は、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aに固定されている。中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aは、その側周面が上側ソケット4aの内周面に接合されることにより、筒状ケース1に固定されている。
【0045】
各中空糸膜2aは、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aを貫通し、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの上側表面(外側表面)13aUSにおいて、各中空糸膜2aの中空部が開口され、開口2aOが形成されている。上側整流筒6Aの上側端部は、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aに固定されている。
【0046】
上側整流筒6Aは、その下側部に、大内径部LDPを有し、その軸方向の上側部に、大内径部LDPの内径LDよりも小さい内径SDを有する小内径部SDPを有する。中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの上側表面(外側表面)13aUSとは反対側の筒状ケース1の内方に位置する中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面(内側表面)13aLSが、上側整流筒6Aの小内径部SDPに位置している。
【0047】
上において、各中空糸膜2aの中空部が、その一端で開口され、その他端で封止されている中空糸膜束2の場合が説明されているが、各中空糸膜2aは、U字形状、あるいは、ループ形状を有し、その両端部が、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aに固定され、その両端が、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの上側表面(外側表面)13aUSにおいて、開口されている中空糸膜束2を用いることもできる。このループ形状の中空糸膜からなる中空糸膜束の一例は、特許文献1の図4に示されている。
【0048】
上に説明した大内径部LDPと小内径部SDPを有する上側整流筒6Aが、筒状ケース1に組み込まれることにより、本発明の目的である高流量排水時の圧力損失を低減させつつ、中空糸膜の損傷を防止することを可能にした中空糸膜モジュールM1が提供される。
【0049】
一方、上において、各中空糸膜2aが、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aから下方に垂下され、それらの下端部が封止されている中空糸膜束2を説明したが、この場合、筒状ケース1の下端の開口から供給される原水の動きにより、筒状ケース1内における各中空糸膜2aの下端部の位置が不安定となる場合がある。そこで、通常は、各中空糸膜2aの下端部を筒状ケース1に固定する手段が施されている。この手段は、多くの従来の中空糸膜モジュールにおいて採用されているので、ここでは、その手段を、図1を参照しながら、簡単に説明する。
【0050】
すなわち、筒状ケース1は、その下端部に設けられた下側ソケット4bを有する。下側ソケット4bの外周面の一部に、原水の供給口10が設けられている。また、各中空糸膜2aの下端部は、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bにより固定され、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの内部において、各中空糸膜2aの下端の中空部が、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bを形成する樹脂により封止され、閉塞2aCが形成されている。
【0051】
中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの外周面は、下側ソケット4bの下端部の内周面に接合されている。下側ソケット4bの供給口10と供給口10と向かい合う中空糸膜束2の外周面との間に、多数の整流孔8bを有する下側整流筒6bが設けられ、下側整流筒6bの下端部は、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bに固定されている。
【0052】
下側ソケット4bの内周面と下側整流筒6bの外周面の間には、下側環状流路7bが形成されている。中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの筒状ケース1の内方に位置する表面に、上側表面(内側表面)13bUSが形成され、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの筒状ケース1の外方に位置する表面に、下側表面(外側表面)13bLSが形成されている。
【0053】
原水は、原水の供給口10から筒状ケース1内へと供給され、下側環状流路7bを流れ、下側整流筒6bの整流孔8bを通り、各中空糸膜2aの外側表面に沿って流れる。一方、筒状ケース1の下端に下側キャップ5bを設けた場合は、下側キャップ5bの設けられた第2供給口12から、原水を筒状ケース1内に供給することが可能となる。この場合には、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bに、原水を通過可能とする貫通孔14が設けられる。第2供給口12から供給された原水は、貫通孔14を通過して、各中空糸膜2aの外側表面に沿って流れる。
【0054】
各中空糸膜2aの外側表面に沿って流れる原水は、各中空糸膜2aの膜壁を透過して中空糸膜の中空部に至り、ろ過水となる。ろ過水は、各中空糸膜2aの開口2aOを通過して、筒状ケース1の上端部に設けられた上側キャップ5a内に集められ、次いで、上側キャップ5aに設けられたろ過水出口11から、中空糸膜モジュールM1外へと取り出される。
【0055】
全量ろ過式の場合には、原水の排出口9は、閉じられ、ろ過水のみが、ろ過水出口11から取り出される。一方、クロスフロー式の場合には、中空糸膜を透過しなかった残りの原水(濃縮水)が、原水の排出口9に向かい合う位置における中空糸膜束2の周面に設けられた多数の整流孔8aを有する上側整流筒6Aの整流孔8aを通過し、次いで、上側ソケット4aの内周面と上側整流筒6Aの外周面との間に設けられた上側環状流路7aを通過し、原水の排出口9から、中空糸膜モジュールM1外へと排出される。
【0056】
この実施態様において、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13a、および、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bは、先に説明した従来用いられている流動性のある樹脂を用いたポッティング手法により、形成される。
【0057】
各中空糸膜2aを、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの上側表面13aUSにおいて、開口状態とするには、ポッティング前に、中空糸膜束2の端面に接着剤を塗布し、ポッティング材が各中空糸膜2aの中空部内に入らないようにし、遠心法にてポッティング材を供給する。次いで、ポッティング材が硬化した後、成形された部材の開口側端部を切断すればよい。中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bに貫通孔14を形成するには、金属製のピン等をポッティングする位置に配列し、遠心法にてポッティング材を供給する。次いで、ポッティング材が硬化した後、ピンを引き抜けばよい。
【0058】
図1に示す中空糸膜モジュールM1は、上側整流筒6Aの整流孔8aが設けられている内面と中空糸膜束2の外面との間に間隙が設けられているため、高流量排水時の圧力損失を低減させつつ、中空糸膜2aの損傷を防止することができる。本発明の中空糸膜モジュールM1に使用される上側整流筒6Aの形状について、以下に詳述する。
【0059】
上記目的を達成する本発明の中空糸膜モジュールに用いられる上側整流筒6Aは、図3にその一例を示す通り、大内径部LDPと、大内径部LDPの内径LDよりも小さい内径SDを有する小内径部SDPを有し、小内径部SDPの内径SDと大内径部LDPの内径LDとの間に段差を有する。小内径部SDPにより、中空糸膜束2の外径が大きくならないようにされていることで、上側整流筒6Aの整流孔8aと中空糸膜束2との間に、間隙が形成されている。これにより、中空糸膜2aが整流孔8aを塞ぐことが防止され、圧力損失が低く維持される。また、中空糸膜2aが整流孔8aに接触し難いため、中空糸膜2aの損傷が防止される。
【0060】
さらに、小内径部SDPにおける内側の横断面積をSA、大内径部LDPにおける内側の横断面積をLAとし、その比、SA/LAが、0.6≦SA/LA≦0.9の関係を満足していることが好ましい。その比が0.6未満では、単位面積当たりの中空糸膜2aの面積が低下する。また、その比が0.9を超えると、上側整流筒6Aの整流孔8aと中空糸膜束2との間の間隙が小さくなるため、排水時に、中空糸膜2aが整流孔8aと接触し、圧力損失の増加、および、中空糸膜2aの損傷が生じる場合がある。
【0061】
さらに、小内径部SDPの内経と大内径部LDPの内径との間に段差を有し、この段差により、横断面積の比SA/LAが形成されることが好ましい。
【0062】
ここで、段差とは、上側整流筒6Aの内側表面部分において、小内径部SDPの大内径部LDP側の端(下端)と大内径部LDPの小内径部SDP側の端(上端)とを結ぶ、縦断面における線分SL(図3において、一点鎖線で示される)が、上側整流筒6Aの軸方向に対してなす勾配θが、45°以上である場合の小内径部SDPの内経と大内径部LDPの内径との間の差を云う。線分SLの小内径部SDP側の始端と大内径部LDP側の終端との間の上側整流筒6Aの軸方向における区間が、内径遷移区間である。内径遷移区間において、上側整流筒6Aの内径の値が、小内径部SDPの内径の値から大内径部LDPの内径の値へと、連続的に、あるいは、段階的に変化する。
【0063】
勾配θは、60°以上であることがより好ましい。勾配θが45°未満のなだらかな勾配の場合は、中空糸膜2aと上側整流筒6Aが接触し、中空糸膜2aが損傷する場合がある。60°以上の勾配θを有する段差により、横断面積の比SA/LAが形成されることで、中空糸膜2aと整流筒6Aとの接触が、より好ましく防止される。
【0064】
小内径部SDPでの中空糸膜束2における中空糸膜2aの充填率を30%以上80%以下とすることが好ましい。充填率が30%未満では、小内径部SDPでのおける中空糸膜2aの充填率が低いため、高流量排水時に、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面13aLSにおいて、中空糸膜2aが過度に揺れ、下側表面13aLSにおける中空糸膜2aの切断が発生する場合がある。
【0065】
充填率が80%を超えると、中空糸膜モジュールM1の製造工程において、筒状ケース1内に中空糸膜束2を挿入する作業が困難となる場合がある。ここで、中空糸膜束2における中空糸膜2aの充填率とは、小内径部SDPでの中空糸膜束2の最外周に位置する中空糸膜2aにより囲まれた横断面積に対する、中空糸膜束2を形成している各中空糸膜2aの横断面積の合計横断面積が占める割合を云う。
【0066】
小内径部SDPには整流孔8aを設けず、大内径部LDPに整流孔8aを設ける、すなわち、整流孔8aの全てが大内径部LDPに設けられていることが好ましい。かかる構造とすることで、高流量排水時に、中空糸膜束2の外周部に位置する中空糸膜2aが水もしくは空気によって押され、整流孔8aに引き込まれることが防止される。
【0067】
本発明の中空糸膜モジュールにおいて、筒状ケース1の上側端部に中空糸膜束2および上側整流筒6Aを固定する中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面13aLSが、上側整流筒6Aの小内径部SDPの内側空間内に位置していることが好ましい。この構造により、中空糸膜2aの過度な揺れが防止される。その結果、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面13aLSにおける中空糸膜2aの切断が防止される。
【0068】
小内径部SDPの内側表面は、下側表面13aLSからの長さSDPLが3mm乃至40mmの範囲で、筒状ケース1の軸方向に関して内側(下方)に延設されていることが好ましい。すなわち、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)の下側表面(内側表面)から小内径部の下端面までの、上側整流筒6Aの軸方向における長さSDPLが、3mm乃至40mmの範囲にあることが好ましい。
【0069】
中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aが遠心法ポッティングにより形成される場合には、ポッティング材(流動性を有する樹脂)の中空糸膜2aの外表面に沿う浸み上がりを3mm未満とすることができる。しかし、静置法ポッティングの場合、ポッティング材(流動性を有する樹脂)の粘度が低い場合には、この浸み上がりが20mm以上になる。小内径部SDPを、下側表面13aLSの浸み上がり高さ以上に内側(下方)に延設することで、不均一な樹脂表面での中空糸膜2aの切断が防止される。浸み上がり高さから3mm以上、小内径部SDPが、内側(下方)に延設されていることがさらに好ましい。
【0070】
一方、下側表面13aLSが、小内径部SDPの下端面から40mmを超える位置にあると、下側表面13aLSと小内径部SDPの下端面との間隙に空気がたまりやすくなる。その結果、中空糸膜2aの有効膜面積が減少する。
【0071】
小内径部SDPが位置する部分の整流筒6Aの外径を、大内径部LDPが位置する部分の整流筒6Aの外径よりも小さくすることで、中空糸膜モジュールM1内から水を排出するための上側環状流路7aを広く取ることができる。その結果、原水の流れにおける圧力損失が低減される。
【0072】
中空糸膜束2を形成する中空糸膜2aの素材は、特に限定されない。素材としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンなどや、これらの複合素材がある。なかでも、ポリフッ化ビニリデンは耐薬品性に優れているため、中空糸膜モジュールM1を定期的に薬品洗浄することで中空糸膜2aのろ過機能を回復させる場合、中空糸膜モジュールM1の長寿命化につながる。従って、ポリフッ化ビニリデンは、中空糸膜の素材として好ましく用いられる。
【0073】
中空糸膜2aの外径は、0.3乃至3mmの範囲であることが好ましい。これは、中空糸膜2aの外径が小さすぎると、中空糸膜モジュールM1を製作する際の中空糸膜2aの取り扱い時や、中空糸膜モジュールM1を使用する際のろ過、洗浄時などにおいて、中空糸膜2aが折れて損傷するなどの問題がある。逆に、中空糸膜2aの外径が大きすぎると、同じサイズの筒状ケース1内に挿入できる中空糸膜2aの本数が減って、ろ過面積が減少するなどの問題が生じる場合がある。
【0074】
さらに、中空糸膜2aの膜厚は、0.1乃至1mmの範囲であることが好ましい。これは、中空糸膜2aの膜厚が小さすぎると、中空糸膜モジュールM1の使用中に、中空糸膜2aが圧力で折れるなどの問題が生じる場合があるからである。逆に、中空糸膜2aの膜厚が大きいと、中空糸膜モジュールM1の使用中の圧力損失や原料代の増加につながる場合がある。
【0075】
中空糸膜2aの物性値として、縦弾性係数、断面2次モーメントを考慮することが好ましい。例えば、外径1.5mm、内径1mm、断面2次モーメント0.2mm、縦弾性係数200MPa、膜長さ2000mm、排水時の膜間差圧100kPaの中空糸膜2aが用いられる場合、中空糸膜束2と整流孔8aの間に、10mm程度の間隙を設ければ良い。
【0076】
中空糸膜2aが、縦弾性係数および断面2次モーメントが小さい弱い中空糸膜である場合においても、次の関係が満足されている場合は、高流量排水時に圧力損失を低減させつつ、中空糸膜の損傷を防止することができる。
【0077】
すなわち、小内径部SDPの内径をSD、大内径部LDPの内径をLD、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面(内側表面)13aLSと中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの上側表面(内側表面)13bUSとの間における中空糸膜2aの長さをFL、および、中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面(内側表面)13aLSと中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの上側表面(内側表面)13bUSとの間の筒状ケース1の軸方向における距離をCLとするとき、LD−SD>(FL−CL)/2の関係が満足されていることが好ましい。
【0078】
ケース本体3、上側ソケット4a、下側ソケット4b、上側キャップ5a、下側キャップ5b、上側整流筒6A、および、下側整流筒6bを形成する材料としては、例えば、次のものが用いられる。
【0079】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィンや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、エチレン・三フッ化塩化エチレン(ECTFE)、フッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、そしてポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素樹脂、さらにポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂。これらの樹脂は、単独または混合して用いることができる。
【0080】
樹脂以外では、アルミニウム、ステンレス鋼などが好ましく、さらに、樹脂と金属の複合体や、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂などの複合材料を用いることができる。
【0081】
ケース本体3、上側ソケット4a、下側ソケット4b、上側キャップ5a、下側キャップ5b、上側整流筒6A、および、下側整流筒6bは、同一の材料でも、それぞれ異なる材料で形成されていてもよい。
【0082】
中空糸膜モジュールM1のサイズは、特に限定されない。すなわち、例えば、外径や軸方向の長さは、特に限定されない。しかし、一般的に大口径、かつ、長尺のモジュールの方が、単位面積当たりのろ過面積を大きくすることができるため、好ましく使用される。大口径、かつ、長尺のモジュールの場合、単位時間当たりの水処理量が増えるため、本発明の効果が十分に発揮される。
【0083】
中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13a、および、中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bを形成するためのポッティング材(樹脂)は、初期状態が液状の熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。
【0084】
ポッティング材(樹脂)は、中空糸膜束2の内外を仕切る管板としての強度が必要であるため、D硬度が50乃至85であることが好ましい。D硬度は、JIS−K−6253に準じて、タイプDデュロメーターを用いて10秒加圧した後の測定値である。具体的な樹脂としては、例えば、エポキシおよびポリウレタンがある。また、これらの固定部材は、1種の樹脂からなる単層である必要は無く、複数層で構成されていてもよい。
【0085】
中空糸膜束2として、各中空糸膜2aが上下方向にストレートに位置して、両端部のそれぞれが、固定部材13a、13bにより、筒状ケース1の上部と下部に固定された態様について説明したが、中空糸膜束をU字状に曲げた上で、開口端部を固定部材13aに固定した中空糸膜モジュールであってもよい。さらに、中空糸膜束からなる中空糸膜カートリッジをハウジング内に装着する、いわゆるカートリッジ型の中空糸膜モジュールでもあってもよい。
【実施例1】
【0086】
長さ約2000mmのポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜(内径1.0mm、外径1.5mm)を約9000本束ねて、内径約200mmのポリ塩化ビニル製のケーシングに挿入し、変性ポリイソシアネートおよび変性ポリオールを原料として形成したD硬度75のウレタン樹脂を遠心法にて開口側、封止側ともに樹脂厚み約100mmとなるよう、両端を注型固定させた図1に示される外圧式中空糸膜モジュールM1を製作した。
【0087】
中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの下側表面13aLSと中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)13bの上側表面13bUS間における中空糸膜2aの長さFLは、1810mm、下側表面13aLSと上側表面13bUS間の筒状ケース1の軸方向における距離CLは、1800mmであった。上側整流筒6Aにおける小内径部SDPの内径SDは、175mm、大内径部LDPの内径LDは、195mmであった。これらの値は、LD−SD>(FL−CL)/2の関係を満足する関係にあった。
【0088】
大内径部LDPに、直径5mmの整流孔8aを350個設けた。整流孔8aのピッチは、中空糸膜の挿入方向(上側整流筒6Aの上下方向)と平行方向において、10mm、垂直方向(上側整流筒6Aの円周方向)において、15mmとした。上側整流筒6Aの小内径部SDPは、下側表面13aLSから5mm、筒状ケース1の軸方向に関して、内側(下方)に延設した。
【0089】
この中空糸膜モジュールM1を用いて、ろ過水の製造運転テストを行った。原水として、琵琶湖水を、膜ろ過流束3.0m /(m・d)で、定流量ろ過した。ろ過開始から30分後、ろ過水出口11から、膜ろ過流束4.5m /(m・d)にて、逆圧洗浄用の洗浄水を供給し、さらに供給口12から空気を100L/minにて供給し、排出口9から、逆圧洗浄水および空気を流出させる空逆同時洗浄を1分間行った。前記ろ過工程、空逆同時洗浄工程を繰り返し行った。
【0090】
その結果、中空糸膜モジュールM1の空逆同時洗浄時の膜ろ過差圧は、運転開始直後は70kPaであったのに対し、1年後も90kPaと安定運転を行うことができた。
【0091】
また、モジュールM1の内部にて中空糸膜2aの切断が発生しているかを確認するため、エアリーク検査を実施した。エアリーク検査は、原水側、ろ過水側ともに水を満水にした後、中空糸膜の外側から0.1MPaの圧縮空気を送り込み、中空糸膜の開口2aOからの気泡発生の有無を、目視で観察した。エアリーク検査の結果、中空糸膜の開口2aOからの気泡発生は観察されず、モジュールM1内の中空糸膜2aが損傷してないことを確認した。
【0092】
また、運転後のモジュールM1を解体したところ、整流孔8a付近の中空糸膜2aは、整流孔8aに接触した跡は見られなかった。
【実施例2】
【0093】
上側整流筒6Aの小内径部SDPの内径SDを、189mm、大内径部LDPの内径LDを、195mmとした。これらの値は、これらの値は、LD−SD>(FL−CL)/2の関係を満足する関係にあった。これらの変更以外は、実施例1と同様として、中空糸膜モジュールM1を作製し、実施例1と同様の運転テストを行った。
【0094】
その結果、中空糸膜モジュールM1の空逆同時洗浄時の膜ろ過差圧は、運転開始直後120kPaであったのに対し、6ヶ月後は、150kPaとなり、安定運転を行うことができた。
【0095】
エアリーク検査の結果、中空糸膜2aの開口2aOからの気泡発生は観察されず、モジュールM1内の中空糸膜2aが損傷してないことを確認した。
【0096】
また、運転後のモジュールM1を解体したところ、整流孔8a付近の中空糸膜2aは、整流孔8aに接触した跡は見られなかった。
【比較例1】
【0097】
中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)13aの厚みを約110mmとし、下側表面13aLSを大内径部LDPに設置した以外は、実施例1と同様の中空糸膜モジュールを作製し、実施例1と同様の運転テストを行った。
【0098】
その結果、中空糸膜モジュールの空逆同時洗浄時の膜ろ過差圧は、運転開始直後70kPaであったのに対し、1年後も95kPaと安定運転を行うことができた。
【0099】
しかし、エアリーク検査の結果、中空糸膜2aの開口2aOから8カ所のリークを確認した。
【0100】
運転後のモジュールを解体したところ、整流孔8a付近の中空糸膜2aには整流孔8aに接触した跡は見られなかったが、下側表面13aLSにおいて、中空糸膜2aの切断が発生したことを確認した。
【比較例2】
【0101】
内径195mmのストレートな整流筒を用いた以外は、実施例1と同様の中空糸膜モジュールを作製し、実施例1と同様の運転テストを行った。
【0102】
その結果、中空糸膜モジュールの空逆同時洗浄時の膜ろ過差圧は、運転開始直後200kPaであったのに対し、3ヶ月後は300kPaとなり、安定運転を行うことができなかった。
【0103】
エアリーク検査の結果、中空糸膜2aの開口2aOから10カ所のリークを確認した。リーク発生箇所はいずれも中空糸膜束の外周部であった。
【0104】
運転後のモジュールを解体したところ、整流孔8a付近の中空糸膜2aが整流孔8aと接触し、削れた跡が見られ、当該箇所からリークしていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の中空糸膜モジュールは、高流量排水時の圧力損失が低く、膜の損傷が少ない中空糸膜モジュールであり、浄水の処理、工業用水の製造、排水の処理、逆浸透膜を用いた水処理の際の原水の前処理に好ましく使用される。
【符号の説明】
【0106】
1:筒状ケース
2:中空糸膜束
2a:中空糸膜
2aO:開口
2aC:閉塞
3:ケース本体
4a:上側ソケット
4b:下側ソケット
5a:上側キャップ
5b:下側キャップ
6A:上側整流筒
6a:上側整流筒
6b:下側整流筒
7a:上側環状流路
7b:下側環状流路
8a、8b:整流孔
9:排出口(ノズル)
10:供給口
11:ろ過水出口
12:第2供給口
13a:中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)
13aLS:下側表面(内側表面)
13aUS:上側表面(外側表面)
13b:中空糸膜封止端部固定部材(下部固定部材)
13bLS:下側表面(外側表面)
13bUS:上側表面(内側表面)
14:貫通孔
CL:距離
FL:中空糸膜の長さ
LA:大内径部の横断面積
LD:大内径部の内径
LDP:大内径部
M1:中空糸膜モジュール
M4:中空糸膜モジュール
SA:小内径部の横断面積
SD:小内径部の内径
SDP:小内径部
SDPL:中空糸膜開口端部固定部材(上部固定部材)の下側表面(内側表面)から小内径部の下端面までの長さ
SL:内径遷移区間を示す線分
θ:勾配
図1
図2
図3
図4