(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気記録装置の記録方式として、磁気記録媒体の磁気記録層(磁化膜)の表面に対して垂直に磁化する垂直磁気記録方式が用いられている。垂直磁気記録方式に用いられる磁気記録媒体(以下、垂直磁気記録媒体)は、非磁性基板および磁性材料で形成されている磁気記録層等から構成されている。
【0003】
垂直磁気記録媒体の記録密度を向上させるため、その特性の変更および改良が継続的に行われてきた。その主なものは、磁気記録層を構成する磁性結晶粒のサイズの漸進的な縮小化である。その結果、今日の磁性結晶粒のサイズは、周囲の熱の影響により磁化を安定に保つことができなくなる超常磁性限界と呼ばれる物性限界に近づきつつある。
【0004】
垂直磁気記録媒体の熱安定性は、強い磁気異方性を有する材料を磁気記録層として使用することにより改良可能である。この垂直磁気記録媒体の熱安定性指数は、磁気異方性定数をKu、磁性結晶粒の体積をV、k
bをボルツマン定数、Tを絶対温度としたとき、KuV/k
bTで表わされる。記録情報を10年間安定に保つためには、KuV/k
bTは60以上であることが必要であると見積もられている。上述の超常磁性限界の問題を克服する手段として、高い磁気異方性定数Kuを有する材料を使用することが求められている。
【0005】
さらに、磁気記録層を高密度化するための一方式として、磁性結晶粒の周囲を酸化物や窒化物のような非磁性結晶粒界で囲んだグラニュラー構造を用いる方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、合金の結晶粒の間に非磁性物質を介在させて磁性薄膜をグラニュラー膜とした構成が記載されている。このグラニュラー膜を形成するために用いられる非磁性物質として、SiO
2、Cr
2O
3、ZrO
2、及びAl
2O
3などが挙げられている。これらの非磁性物質は、Co−Pt−C系合金の結晶粒を磁気的に分離する可能性が高い。
【0007】
特許文献2には、グラニュラー構造を備えた磁性薄膜が記載されている。このグラニュラー構造は、L1
1型の原子の規則構造を有するCo−M−Pt合金(前記Mは単一若しくは複数のCo,Pt以外の金属元素を示す。)を主成分とする強磁性結晶粒と、それを取り囲む非磁性粒界とからなる。前記合金は、グラニュラー構造を持つCoFePt等の3元系規則合金である。
【0008】
このようなグラニュラー構造を有する磁気記録層においては、非磁性結晶粒界が磁性結晶粒を物理的に分離して、磁性結晶粒間の磁気的な相互作用を低下させている。磁気的な相互作用の低下は、記録単位の遷移領域に生じるジグザグ磁壁の形成を抑制して、低ノイズ特性の実現を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の垂直磁気記録媒体の構成例を示す概略断面図である。
【0026】
垂直磁気記録媒体10は、非磁性基板11上に、密着層12、下地層13、シード層14、磁気記録層15、および保護層16をこの順に有する。なお、本発明において、密着層12、下地層13、シード層14、および保護層16は任意選択的に形成される層である。
【0027】
非磁性基板11として、表面が平滑である様々な基板を使用することができる。たとえば、磁気記録媒体に一般的に用いられる材料(NiPメッキを施したAl合金、強化ガラス、結晶化ガラス等)を用いて、非磁性基板11を形成することができる。なお、以下に示す実施例においては、非磁性基板11として用いた基板は全てガラス基板である。しかしながら、以下に示す実施例が本発明の非磁性基板の材料を限定するものではない。
【0028】
密着層12は、密着層を挿入する2層間の密着性を確保するための層である。
図1の構成例では、非磁性基板11と下地層13との間に挿入している。密着層12を形成するための材料は、Ta、Ni、W、Cr、Ruなどの金属、前述の金属を含む合金から選択することができる。密着層は、単一の層から形成されていてもよいし、複数の層の積層構造を有していてもよい。
【0029】
密着層12上に軟磁性裏打ち層(不図示)を任意選択的に設けてもよい。軟磁性裏打ち層は、磁気ヘッドからの磁束を制御して、垂直磁気記録媒体の記録・再生特性を向上させる。軟磁性裏打ち層を形成するための材料は、NiFe合金、センダスト(FeSiAl)合金、CoFe合金などの結晶質材料、FeTaC、CoFeNi、CoNiPなどの微結晶質材料、CoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料を含む。軟磁性裏打ち層の膜厚の最適値は、磁気記録に用いる磁気ヘッドの構造および特性に依存する。他の層と連続成膜で軟磁性裏打ち層を形成する場合、生産性との兼ね合いから、軟磁性裏打ち層が10nm〜500nmの範囲内(両端を含む)の膜厚を有することが好ましい。
【0030】
下地層13は、上方に成膜する磁気記録層15の結晶性または結晶軸方位の制御を目的として形成される層である。下地層13は、単層であっても多層であってもよい。下地層13は、Crまたは主成分たるCrにMo、W、Ti、V、およびMnのうちの少なくとも1種以上が添加された合金またはこれらの混合物から形成される非磁性膜であることが好ましい。また、下地層13を構成する材料は、磁気記録層15の結晶格子間隔に近い結晶格子間隔を有することが好ましい。磁気記録層15の組成に応じて下地層13の構成材料を適宜選択することが好ましい。下地層13は、DCマグネトロンスパッタリング法、電子ビーム蒸着法等の慣用の方法により形成することができる。
【0031】
シード層14は、下地層13と磁気記録層15との間の密着性を確保し、上層である磁気記録層15の磁性結晶粒15aの粒径および結晶配向を制御するための層である。シード層14は非磁性であることが望ましい。シード層14の材料は、磁性結晶粒15aの材料に合わせて適宜選択される。たとえば、磁性結晶粒15aがFePt、CoPtなどのL1
0型規則合金で形成される場合、シード層14はMgO、TiN、NiW、Cr、SrTiO
3、MgAl
2O
4またはそれらの混合物から形成することができる。シード層14は、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリングなどを含むスパッタ法、真空蒸着法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。
【0032】
図2は、本発明の垂直磁気記録媒体中の磁気記録層の構成例を示す概略平面図である。磁気記録層15は、磁性結晶粒15aの周りを非磁性結晶粒界15bで取り囲んだグラニュラー構造を有している。
【0033】
磁性結晶粒15aは強磁性材料から形成されることが好ましい。磁性結晶粒15aとしては、FeおよびCoから選択される少なくとも一種の元素と、PtおよびPdから選択される少なくとも一種の元素とを含む規則合金であることが好ましい。例えば、FePt、FePd、CoPt等のL1
0型規則合金を用いることができる。磁性結晶粒15aの特性変調を目的として、磁性結晶粒15aに対してNi、Mn、Cr,Cu、Ag、Auなどの金属を添加しても良い。Ni、Mn、Crを添加することにより、磁気的相互作用が低減して磁気異方性やキュリー温度などの磁気特性を変化させることができるため、所望の磁気特性に調整することができる。また、Cu、Ag、Auを添加することにより、規則化温度を低減し、磁気異方性を向上させる効果を得ることができる。
【0034】
磁性結晶粒は必ずしもすべての原子が規則構造を有していなくてもよい。規則構造の程度を表わす規則度Sが所定の値以上であれば良い。規則度Sは、磁気記録媒体をXRDにより測定し、測定値と完全に規則化した際の理論値との比により算出される。例えばL1
0型規則合金の場合は、規則合金由来の(001)および(002)ピークの積分強度を用いて算出する。測定された(00
2)ピーク積分強度に対する(00
1)ピーク積分強度の比の値を、完全に規則化した際に理論的に算出される(00
2)ピーク積分強度に対する(00
1)ピーク積分強度の比で割
り、その平方根をとることで規則度Sを得ることができる。このようにして得られた規則度Sが0.5以上であれば、磁気記録媒体として実用的な磁気異方性定数Kuを有する。
【0035】
非磁性結晶粒界15bとしては、Ge酸化物が用いられる。Ge酸化物は、Ge(M
1、M
2、…)Oxで表される酸化物である。M
1、M
2、…は例えばSi、Alである。典型的なGe酸化物は、例えばGeO
2、GeSiO
2、GeAlO
2である。好ましくは、Ge酸化物はGeを主として含む酸化物であり、これはGe、M
1、M
2、…のうちGeが50%以上であることを意味する。好ましくは、磁性結晶粒15aおよび非磁性結晶粒界15bの組成比は、磁性結晶粒15a:非磁性結晶粒界15b=80:20〜50:50である。磁性結晶粒15aの比率が50vol%以上かつ非磁性結晶粒界15bの比率が50vol%以下であると高い磁気異方性を有するという理由で好ましい。磁性結晶粒15aの比率が80vol%以下かつ非磁性結晶粒界15bの比率が20vol%以上であると磁性結晶粒の分離が十分になされるという理由で好ましい。なお、ビットパターンドメディア(BPM)の構成を採用して記録ビット間の磁気的な相互作用の低減を優先する場合には、磁性結晶粒15aの比率を50vol%未満とすることもできる。
【0036】
Geは電気陰性度が高いために、Ge酸化物、好適にはGeを主として含む酸化物は、従来のグラニュラー材料よりも共有結合性が高い。そのため、規則合金を構成する例えばFeおよびPtへの酸素の影響を少なくすることができる。Ge酸化物は、規則合金の規則化を阻害することがなく、これにより低温成膜での規則化が可能となる。更に、Ge酸化物は融点が低く、表面エネルギーが小さいため、Ge酸化物が磁性結晶粒の粒界に形成されて、磁性結晶粒を十分に分離させることが可能である。
【0037】
非磁性結晶粒界15bは、Mn酸化物、Si酸化物、Al酸化物、Zn酸化物、B酸化物およびTi酸化物からなる群から選択された少なくとも1つをさらに含んでも良い。これらの酸化物を含むことで、共有結合性および表面エネルギーを調整できるため、磁気異方性をさらに向上し、および/または、磁性結晶粒の分離性をさらに向上することが可能になる。
【0038】
ここで、特にMnが添加された磁性結晶粒と、Ge酸化物を含む非磁性結晶粒界とを有する磁気記録層を採用すると、キュリー温度の低下により反転磁界を低下させることができ、熱アシスト記録が容易となる。すなわち、磁性結晶粒にMnを添加してGe酸化物を含む非磁性結晶粒界と組み合わせると、反転磁界Hswの温度依存性がキュリー温度付近で大きく変化し、磁気ヘッドが発生する記録磁界以下となり、従来よりも大幅に低い温度で熱アシスト記録が可能となる。また、この温度領域で反転磁界の温度勾配が大きくなり、熱アシスト記録時の記録分解能を向上することが可能となる。
【0039】
磁気記録層15の膜厚は、好ましくは4〜16nm、典型的には10nmである。磁気記録層15の膜厚が4nm以上であると信号再生に必要な磁気モーメント量が確保できるという理由で好ましい。磁気記録層15の膜厚が16nm以下であると磁化の一斉反転がなされるという理由で好ましい。特に、磁気記録層15が単層で形成されると磁性結晶粒の連続性が保たれるという理由で好ましい。
【0040】
保護層(保護膜)16は、磁気記録媒体の分野で慣用的に使用されているカーボンを主体とする材料などを用いて形成することができる。また、保護層16は、単層であってもよく、積層構造を有してもよい。積層構造は、たとえば、特性の異なる2種のカーボン系材料の積層構造、金属とカーボン系材料との積層構造、または金属酸化物膜とカーボン系材料との積層構造であってもよい。保護層16は、CVD法、スパッタリング法(DCマグネトロンスパッタリング法などを含む)、真空蒸着法などの当該技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。
【0041】
また、任意選択的に、本発明の垂直磁気記録媒体は、保護層16の上に設けられる液体潤滑剤層(不図示)をさらに含んでもよい。液体潤滑剤層は、垂直磁気記録媒体の分野で慣用的に使用されている材料(たとえば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤など)を用いて形成することができる。液体潤滑剤層は、たとえば、ディップコート法、スピンコート法などの塗布法を用いて形成することができる。
【0042】
図3は、本発明の垂直磁気記録媒体の更なる構成例を示す概略断面図である。
【0043】
垂直磁気記録媒体20は、非磁性基板11上に、密着層12、下地層13、シード層14、第1磁気記録層25、第2磁気記録層35、および保護層16をこの順に有する。なお、なお、
図3において
図1の層と同一の材料を用いた層に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0044】
第1磁気記録層25は、第1磁性結晶粒25aと、第1磁性結晶粒25aを取り囲む第1非磁性結晶粒界25bとを有するグラニュラー構造を有する。第1磁性結晶粒25aは規則合金を含み、第1非磁性結晶粒界25bはCを含む。
【0045】
第1磁性結晶粒25aとしては、FeおよびCoから選択される少なくとも一種の元素と、PtおよびPdから選択される少なくとも一種の元素とを含む規則合金であることが好ましい。例えば、FePt、FePd、CoPt等のL1
0型規則合金を用いることができる。第1磁性結晶粒25aは強磁性材料から形成されることが好ましい。第1磁性結晶粒25aに対してNi、Mn、Cr、Cu、Ag、Auなどの金属を添加しても良い。これらの金属を添加することによって得られる効果は、第1磁性結晶粒15aの場合と同様である。
【0046】
第1非磁性結晶粒界25bとしては、C(カーボン)を含む材料が用いられる。好ましくは、第1磁性結晶粒25aおよび第1非磁性結晶粒界25bの組成比は、第1磁性結晶粒25a:第1非磁性結晶粒界25b=80:20〜50:50である。第1磁性結晶粒25aの比率が50vol%以上かつ第1非磁性結晶粒界25bの比率が50vol%以下であると高い磁気異方性を有するという理由で好ましい。第1磁性結晶粒25aの比率が80vol%以下かつ第1非磁性結晶粒界25bの比率が20vol%以上であると磁性結晶粒の分離が十分になされるという理由で好ましい。なお、ビットパターンドメディア(BPM)の構成を採用して記録ビット間の磁気的な相互作用の低減を優先する場合には、第1磁性結晶粒25aの比率を50vol%未満とすることもできる。
【0047】
第1磁気記録層25の膜厚は、好ましくは1〜4nm、典型的には2nmである。第1磁気記録層25の膜厚が1nm以上であると磁性結晶粒の規則化が十分になされるという理由で好ましい。第1磁気記録層25の膜厚が4nm以下であると磁性結晶粒の再成長が発生しないという理由で好ましい。特に、第1非磁性結晶粒界25bがCからなる第1磁気記録層25は、その上方のGe酸化物を含む第2磁気記録層35に対して磁性結晶粒の成長が連続的になされるという理由で好ましい。
【0048】
第2磁気記録層35は、第2磁性結晶粒35aと、第2磁性結晶粒35aを取り囲む第2非磁性結晶粒界35bとを有するグラニュラー構造を有している。第2磁性結晶粒35aは規則合金を含み、第2非磁性結晶粒界35bはGe酸化物を含む。第2磁気記録層35、第2磁性結晶粒35a、および第2非磁性結晶粒界35bは、それぞれ磁気記録層15、磁性結晶粒15a、および非磁性結晶粒界15bと同様な構成を採用できるので、その説明を省略する。なお、第2磁気記録層35の膜厚は、第1磁気記録層25を形成することを勘案して第2磁気記録層35を単層で形成する場合よりも薄く設定することが好ましい。
【0049】
第1磁性結晶粒25aと第2磁性結晶粒35aは異なる材料とすることができる。例えば、異なる材料を用いてキュリー温度Tcを上下の層で異なる温度とすることで、積層磁気記録層全体のグラニュラー構造や磁気特性を保持しつつも、熱アシスト記録温度を低くし、かつ、記録時の反転磁界を小さくすることができる。また、反転磁界の勾配を大きくすることができる。例えば、第1磁性結晶粒25aをCoPtからなるL1
0型の規則合金とし、第2磁性結晶粒35aをFePtからなるL1
0型の規則合金とすることができる。あるいは、各磁性結晶粒に添加するNi、Mn、Cr、Cu、Ag、Auなどの金属を各磁性結晶粒で異なる材料とすることができる。例えば、第1磁気記録層25をFePtと、FePtのキュリー温度Tcを制御する目的で添加される材料Yと、C(カーボン)を主とした粒界材料とからなるFePtグラニュラー層を形成する。更に、第2磁気記録層35をFePtと、FePtのキュリー温度Tcを制御する目的で添加される材料Xと、Geを主として含む酸化物からなるFePtグラニュラー層を形成する。この場合、添加材料Xと添加材料Yを異なる材料として、キュリー温度Tcの制御効果を上下の層で異なるようにすることができる。
【0050】
ここで、特に第2磁気記録層にMnを添加すると、キュリー温度の低下により反転磁界を低下させることができ、熱アシスト記録が容易となる。すなわち、磁性結晶粒にMnを添加してGe酸化物を含む非磁性結晶粒界と組み合わせると、反転磁界Hswの温度依存性がキュリー温度付近で大きく変化し、磁気ヘッドが発生する記録磁界以下となり、従来よりも大幅に低い温度で熱アシスト記録が可能となる。また、この温度領域で反転磁界の温度勾配が大きくなり、熱アシスト記録時の記録分解能を向上することが可能となる。
【0051】
上述した磁気記録層15、第1磁気記録層25、第2磁気記録層35に付加して、他の磁性層を配置することで磁気記録媒体の性能をさらに向上することができる。以下では、磁気記録層15、第1磁気記録層25、第2磁気記録層35から構成される層を総称して単に磁気記録層と称する。
【0052】
磁気記録層とは異なるキュリー温度Tcを有するTc制御磁性層をさらに配置し、両者のTcに合わせた記録温度を設定することで、記録時に必要とされる磁気記録媒体全体としての反転磁界を低減することができる。例えば、Tc制御磁性層のキュリー温度を磁気記録層のキュリー温度より低く設定する。記録温度を両者のキュリー温度の中間に設定すれば、記録時にTc制御磁性層の磁化は消失して記録を反転するために必要な磁界は低減する。このようにして磁気記録ヘッドに要請される記録時の発生磁界を低減して良好な磁気記録性能を発揮することができる。
【0053】
Tc制御磁性層の配置は、磁気記録層の上下いずれとしても良い。Tc制御磁性層はグラニュラー構造とすることが好ましい。磁気記録層とTc制御磁性層の磁性結晶粒を概ね同じ位置に配置することが特に好ましい。概ね同じ位置とすることで信号対雑音比(SNR)等の性能を向上することができる。
【0054】
Tc制御磁性層を構成する磁性結晶粒はCo,Feのうちのいずれかひとつを少なくとも含む材料とすることが好ましく、さらにPt、Pd、Ni、Mn、Cr、Cu、Ag、Auのうちの少なくともいずれかひとつを含むことが好ましい。例えば、CoCr系合金、CoCrPt系合金、FePt系合金、FePd系合金等を用いることができる。磁性結晶粒の結晶構造は、L1
0型、L1
1型、L1
2型等の規則構造、hcp構造(六方最密充填構造)、fcc構造(面心立方構造)等とすることができる。
【0055】
Tc制御磁性層を構成する非磁性結晶粒界の材料としては、前述したGe酸化物、あるいはSiO
2、TiO
2等の酸化物、SiN、TiN等の窒化物、C、B等を用いることができる。
【0056】
Tc制御磁性層としては、磁気記録層と同様の材料を用いて、異なる組成とした層を用いてもよい。例えば磁気記録層中のGe酸化物の比率を変更した層、非磁性結晶粒界に添加するMn酸化物などの材料を変更した層、規則合金に添加するNiなどの元素を変更した層等としてもよい。
【0057】
磁気記録層とTc制御磁性層の間の磁気的な交換結合を調整するために、磁気記録層とTc制御磁性層の間に交換結合制御層を配置することが好ましい。記録温度における磁気的な交換結合を調整することにより、反転磁界を調整することができる。交換結合制御層は、所望する交換結合に応じて磁性を有する層、非磁性の層を選択することができる。記録温度における反転磁界の低減効果を高めるためには非磁性層を用いることが好ましい。
【0058】
磁気記録層とは異なる一軸結晶磁気異方性定数Kuを有するKu制御磁性層を配置し、両者の間に適切な磁気的な交換結合を設定することで、記録保存時に必要とされる磁気記録媒体全体としての熱的な安定性を向上することができる。
【0059】
Ku制御磁性層の配置は、磁気記録層の上下いずれとしても良い。Ku制御磁性層はグラニュラー構造とすることが好ましい。磁気記録層とKu制御磁性層の磁性結晶粒を概ね同じ位置に配置することが特に好ましく、概ね同じ位置とすることで信号対雑音比(SNR)等の性能を向上することができる。
【0060】
Ku制御磁性層を構成する磁性結晶粒はCo,Feのうちのいずれかひとつを少なくとも含む材料とすることが好ましく、さらにPt、Pd、Ni、Mn、Cr、Cu、Ag、Auのうちの少なくともいずれかひとつを含むことが好ましい。例えば、CoCr系合金、CoCrPt系合金、FePt系合金、FePd系合金等を用いることができる。磁性結晶粒の結晶構造は、L1
0型、L1
1型、L1
2型等の規則構造、hcp構造(六方最密充填構造)、fcc構造(面心立方構造)等とすることができる。
【0061】
Ku制御磁性層を構成する非磁性結晶粒界の材料としては、前述したGe酸化物、あるいはSiO
2、TiO
2等の酸化物、SiN、TiN等の窒化物、C、B等を用いることができる。
【0062】
Ku制御磁性層としては、磁気記録層と同様の材料を用いて、異なる組成とした層を用いてもよい。例えば磁気記録層中のGe酸化物の比率を変更した層、非磁性結晶粒界に添加するMn酸化物などの材料を変更した層、規則合金に添加するNiなどの元素を変更した層等としてもよい。
【0063】
磁気記録層とKu制御磁性層の間の磁気的な交換結合を調整するために、磁気記録層とKu制御磁性層の間に交換結合制御層を配置することが好ましい。記録保存時における磁気的な交換結合を調整することにより、熱安定性を調整することができる。交換結合制御層は、所望する交換結合に応じて磁性を有する層、非磁性の層を選択することができる。記録保存温度における熱安定性の向上効果を高めるためには非磁性層を用いることが好ましい。
【0064】
他の磁性層として、キャップ層を配置してもよい。磁気記録層の上または下に、磁性層の層内で磁気的には連続な層を配置することができる。この連続磁性層を配置することにより、磁気記録媒体としての磁化反転を調整することができる。
【0065】
連続磁性層を構成する材料はCo,Feのうちのいずれかひとつを少なくとも含む材料とすることが好ましく、さらにPt、Pd、Ni、Mn、Cr、Cu、Ag、Au、希土類元素のうちの少なくともいずれかひとつを含むことが好ましい。例えば、CoCr系合金、CoCrPt系合金、FePt系合金、FePd系合金、CoSm系合金等を用いることができる。連続磁性層は多結晶あるいは非晶質のいずれで構成してもよい。多結晶で構成する場合の結晶構造は、L1
0型、L1
1型、L1
2型等の規則構造、hcp構造(六方最密充填構造)、fcc構造(面心立方構造)等とすることができる。
【0066】
上述した各磁性層は、記録を保存する温度において磁気記録層と協働して記録したい情報(例えば、0、1の情報。)に対応する磁化を保持する作用を有するか、および/または、記録する温度において磁気記録層と協働して記録を容易にする作用を有する。この目的に資するために、上述したTc制御磁性層、Ku制御磁性層、連続磁性層以外の磁性層を付加することができる。例えば、反転磁界を制御する磁性層、保磁力Hcを制御する磁性層、飽和磁化Msを制御する磁性層等の磁気特性を制御する磁性層、マイクロ波アシスト磁気記録に向けた強磁性共鳴周波数を制御する磁性層等を付加してもよい。また、付加する磁性層は単層で良く、あるいは異なる組成を有する等の異なる層を積層した構成としてもよい。
【実施例】
【0067】
非磁性基板、その上に順次設けられるTa密着層、Cr下地層、MgOシード層、規則合金型FePt系磁気記録層、およびC保護膜を有する垂直磁気記録媒体を、下記の手順に従って形成した。
【0068】
[実施例1]
非磁性基板は、化学強化ガラス基板(HOYA社製N−10ガラス基板)を用いた。Ta密着層からC保護膜までの成膜は、大気開放することなくインライン式の成膜装置を用いて行った。Ar雰囲気中で純Taターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法により膜厚5nmのTa密着層を成膜した。更に、Ar雰囲気中で純Crターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法により膜厚20nmのCr下地層を成膜した。次に、基板を300℃に加熱した状態で、MgOターゲットを用いてRFスパッタリング法により膜厚5nmのMgOシード層を成膜した。MgO層を成膜する際に、Arガス雰囲気の圧力は0.02Paであり、RF投入電力は200Wであった。次に、磁気記録層としてFePt−GeO
2層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとGeO
2を含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により膜厚10nmのFePt−GeO
2層を成膜した。FePtとGeO
2を含むターゲットは、成膜時の組成が75vol%FePt−25vol%GeO
2になるように調整した。ここで、FePtの成膜時の組成は50at.%Fe−50at.%Ptであり、また、vol%は体積分率を表し、at.%は原子数分率を表す。特に明示しない限り、以下も同様である。FePt−GeO
2層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。最後に、膜厚3nmのC保護膜をスパッタリングで成膜した。
【0069】
[実施例2]
第1磁気記録層としてFePt−C層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとCを含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法により膜厚2nmのFePt−C層を成膜した。FePtとCを含むターゲットは、成膜時の組成が60vol%FePt−40vol%Cになるように調整した。FePt−C層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。次に、第2磁気記録層としてFePt−GeO
2層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとGeO
2を含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により膜厚7nmのFePt−GeO
2層を成膜した。FePtとGeO
2を含むターゲットは、成膜時の組成が75vol%FePt−25vol%GeO
2になるように調整した。FePt−GeO
2層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。上記以外は実施例1と同様な手法を採用した。
【0070】
[実施例3]
実施例2のFePt−GeO
2層が膜厚3nmを有すること以外は実施例2と同様な手法を採用した。
【0071】
[比較例1]
実施例1のFePt−GeO
2層に代えて、FePt−SiO
2層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとSiO
2を含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により膜厚10nmのFePt−SiO
2層を成膜した。FePtとSiO
2を含むターゲットは、成膜時の組成が77vol%FePt−23vol%SiO
2になるように調整した。上記以外は実施例1と同様な手法を採用した。
【0072】
[比較例2]
実施例1のFePt−GeO
2層に代えて、FePt−TiO
2層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとTiO
2を含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により膜厚10nmのFePt−TiO
2層を成膜した。FePtとTiO
2を含むターゲットは、成膜時の組成が77vol%FePt−23vol%TiO
2になるように調整した。上記以外は実施例1と同様な手法を採用した。
【0073】
第1表に実施例1〜3および比較例1、2の実験条件を示す。磁気異方性定数Kuは、PPMS装置(Quantum Design社製;Physical Property Measurement System)を用い、自発磁化の磁場印加角度依存性を評価し、非特許文献1、2に基づき算出した。第1表中、MO
2はGeO
2、SiO
2、またはTiO
2を意味する。FePt−GeO
2/FePt−Cの表記は、FePt−GeO
2層が上層であり、FePt−C層が下層であることを意味する。また、実施例1〜3および比較例1、2の磁気記録層が目的のL1
0規則構造を有していることをX線回折(XRD)による超格子線(001)の有無によって確認した。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1において、比較例1、2の場合にくらべて磁気異方性定数Kuが1.0×10
7erg/cm
3(=1.0×10
6J/cm
3)と高くなった。また、保磁力Hcも増大しており、これらは磁性結晶粒の微細化および規則化の促進によるものである。このように、非磁性結晶粒界としてGe酸化物を用いると、磁気異方性定数Kuおよび保磁力Hcが両方とも高い値を示した。このようなGe酸化物による効果は、他の酸化物と比較して優れた効果であり、他の文献によって予測困難なものである。実施例2において、FePt−C層の上にFePt−GeO
2層を形成した結果、磁気異方性定数Kuが2.2×10
7erg/cm
3とさらに高くなっており、さらに保磁力Hcが増大し、微細化がさらに促進されている。実施例3では、FePt−GeO
2層の膜厚を薄くしたことにより磁気異方性定数Kuが2.1×10
7erg/cm
3となって実施例2と同等であり、保磁力Hcも増大している。これは磁性結晶粒の分離がさらに促進されたためである。このように、FePt−C層の上にFePt−GeO
2層を形成すると、磁気異方性定数Kuおよび保磁力Hcが両方とも顕著に高い値を示した。このようなCを含む磁気記録層およびその上方のGe酸化物を含む磁気記録層による効果も、他の酸化物と比較して際立って優れた効果であり、他の文献によって予測困難なものである。
【0076】
[比較例3]
比較例3は、第1磁気記録層としてのFePt−Cテンプレート層上に、第2磁気記録層としてのFePt−酸化物層を形成した例である。酸化物層を構成する酸化物は、SiO
2、TiO
2、Ta
2O
5、Al
2O
3、NiOまたはMnOである。層構成は上層が膜厚3nmの75vol%FePt−25vol%酸化物層であり、下層は膜厚2nmの60vol%FePt−40vol%Cである。比較例3においては、第2磁気記録層として膜厚3nmのFePt−酸化物層を成膜した以外は実施例3と同様な手法を採用した。
【0077】
【表2】
【0078】
比較例3においては、いずれも実施例3に比べて、低い磁気異方性定数Kuしか得られておらず、Ge酸化物を用いた効果を実証する結果となった。
【0079】
[実施例4]
第1磁気記録層としてFePtMn−C層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtMnとCを含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法により膜厚2nmのFePtMn−C層を成膜した。FePtMnとCを含むターゲットは、成膜時の組成が60vol%FePtMn(35at.%Fe−50at.%Pt−15at.%Mn)−40vol%Cになるように調整した。FePtMn−C層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。次に、第2磁気記録層としてFePt−GeO
2層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとGeO
2を含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により膜厚7nmのFePt−GeO
2層を成膜した。FePtとGeO
2を含むターゲットは、成膜時の組成が75vol%FePt(50at.%Fe−50at.%Pt)−25vol%GeO
2になるように調整した。FePt−GeO
2層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。上記以外は実施例1と同様な手法を採用した。
【0080】
[実施例5]
第1磁気記録層としてFePt−C層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtとCを含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタ法により膜厚2nmのFePt−C層を成膜した。FePtとCを含むターゲットは、成膜時の組成が60vol%FePt(50at.%Fe−50at.%Pt)−40vol%Cになるように調整した。FePt−C層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。完成した膜のFePtの組成分析を行なったところ、組成比は50.5at.%Fe−49.5at.%Ptであった。次に、第2磁気記録層としてFePtMn−GeO
2層を次のように成膜した。具体的には、基板を450℃に加熱した上で、FePtMnとGeO
2を含むターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により膜厚7nmのFePtMn−GeO
2層を成膜した。FePtMnとGeO
2を含むターゲットは、成膜時の組成が80vol%FePtMn(35at.%Fe−50at.%Pt−15at.%Mn)−20vol%GeO
2になるように調整した。FePtMn−GeO
2層を成膜する際は、Arガス雰囲気の圧力は1.0Paであり、DC投入電力は25Wであった。完成した膜のFePtMnの組成分析を行なったところ、組成比は36.9at.%Fe−50.4at.%Pt−12.7at.%Mnであった。上記以外は実施例1と同様な手法を採用した。
【0081】
磁気特性の測定結果を第3表に示す。反転磁界の温度依存性の測定結果を
図4に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例5の保磁力Hcは実施例4とほぼ等しく、FePtグラニュラー構造や磁気特性に大きな違いが見られないことを示している。実施例4の反転磁界Hswの温度依存性は、熱アシスト記録を行うには350℃以上が好ましいことを示している。なお、反転磁界Hsw(kOe)の各値は、当該各値に1/4πを乗じることにより×10
6A/mの値を算出できる。実施例4においては、高温時の反転磁界の温度変化が小さいため、熱勾配に伴う反転磁界勾配が小さくなる。一方、実施例5の反転磁界Hswの温度依存性は、FePtMnのキュリー温度(280℃)付近で大きな変化を示しており、磁気ヘッドが発生する記録磁界(12kOe)以下になる。したがって、280℃以下で熱アシスト記録が可能である。また、反転磁界の温度変化が急激なため、温度勾配による反転磁界勾配が大きい。
【0084】
実施例5から分かるように、FePt−GeO
2層にMnを添加することによって、磁気記録層の反転磁界の温度変化を、磁気ヘッドによる記録が容易になるようにすることができることがわかった。一方、実施例4においては、FePt−C層の反転磁界の温度変化に関してMn添加効果は存在するものの、Mnを添加した第1磁気記録層の膜厚が2nmと薄いために、全体の磁気記録層の温度変化についてはMn添加の効果が少なかった。膜厚を増加したFePt−C層へMnを添加することにより、温度特性に対する効果が顕著となる。