特許第6168093号(P6168093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6168093
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】消臭性繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/507 20060101AFI20170713BHJP
   D06M 13/207 20060101ALI20170713BHJP
   D06M 14/14 20060101ALI20170713BHJP
   D06M 15/71 20060101ALI20170713BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20170713BHJP
【FI】
   D06M15/507
   D06M13/207
   D06M14/14
   D06M15/71
   D06M101:32
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-80713(P2015-80713)
(22)【出願日】2015年4月10日
(62)【分割の表示】特願2011-514957(P2011-514957)の分割
【原出願日】2011年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-180788(P2015-180788A)
(43)【公開日】2015年10月15日
【審査請求日】2015年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-69769(P2010-69769)
(32)【優先日】2010年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 留美
(72)【発明者】
【氏名】木村 知佳
(72)【発明者】
【氏名】池山 正己
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恵司
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−105674(JP,A)
【文献】 特開昭61−232855(JP,A)
【文献】 特開平04−174765(JP,A)
【文献】 特開昭57−059538(JP,A)
【文献】 米国特許第04583980(US,A)
【文献】 特開平01−227759(JP,A)
【文献】 特開平01−238866(JP,A)
【文献】 特開平05−125668(JP,A)
【文献】 特開平04−024220(JP,A)
【文献】 特開2009−091676(JP,A)
【文献】 特開2003−247165(JP,A)
【文献】 特開2011−042642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
A61L 9/00− 9/22
A61F 13/00−13/84
A61L 15/00−15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維構造物に、ヒドロキシ酸誘導体からなる物質が加熱によって、ヒドロキシ酸のヒドロキシ基およびカルボキシル基と反応し、ポリマー化することにより固着され、またはポリエステル系繊維の末端に存在するヒドロキシ基およびカルボキシル基と反応することにより、固着されてなる繊維構造物であって、
該ヒドロキシ酸誘導体からなる物質がクエン酸、リンゴ酸および酒石酸から選ばれる少なくとも1種の物質の誘導体であり、
家庭洗濯50回後のアンモニア消臭性が60%以上であることを特徴とする消臭性繊維構造物。
【請求項2】
該ヒドロキシ酸誘導体からなる物質がクエン酸の誘導体である請求項1記載の消臭性繊維構造物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の消臭性繊維構造物の製造方法であって、ポリエステル系繊維構造物をヒドロキシ酸水溶液に浸漬した後、乾燥し、次いで熱処理することを特徴とする消臭性繊維構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯耐久性に優れた消臭性ポリエステル系繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生活の多様化に伴い、健康および衛生面に関する意識が高まり、衣食住の各分野において消臭、抗菌機能などを有する製品が実用化されている。特に、健康増進の観点から屋内外で様々な運動が活発に行われており、運動で生ずる多量の汗を吸収、消臭する容量が大きい繊維製品の要望が高まっている。また、老齢化に伴う介護や医療現場においては消臭だけではなく吸水や撥水のような多様な機能を複合した機能が必要であり高度な消臭機能を有する製品の要望が高い。
消臭性を付与する方法としては、金属フタロシアニンなどの金属錯体を用いる方法(特許文献1)、植物などからの消臭性抽出物を繊維に付着させる方法(特許文献2)、ポリカルボン酸樹脂と光触媒を用いる方法(特許文献3)等が提案されているが、いずれも洗濯耐久性が低く、洗濯後の消臭性を高めるために消臭剤やバインダーの使用量を増やすと風合いなどの品位を損ねるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64−20852号公報
【特許文献2】特開平9−271484号公報
【特許文献3】特開2004−052208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、消臭容量が高く、かつ洗濯耐久性に優れた高度な消臭性と良好な風合いを兼ね備えたポリエステル系繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用するものである。
(1) ポリエステル系繊維構造物にヒドロキシ酸誘導体からなる物質が加熱によって、ヒドロキシ酸のヒドロキシ基およびカルボキシル基と反応し、ポリマー化することにより固着され、またはポリエステル系繊維の末端に存在するヒドロキシ基およびカルボキシル基と反応することにより、固着されてなる繊維構造物であって、家庭洗濯50回後のアンモニア消臭性が60%以上であることを特徴とする消臭性繊維構造物。
(2) 該ヒドロキシ酸誘導体からなる物質がクエン酸、リンゴ酸および酒石酸から選ばれる少なくとも1種の物質の誘導体である上記(1)に記載の消臭性繊維構造物。
(3) 該ヒドロキシ酸誘導体からなる物質がクエン酸の誘導体である上記(1)または(2)に記載の消臭性繊維構造物。
(4) ポリエステル系繊維構造物をヒドロキシ酸水溶液に浸漬した後、乾燥し、次いで熱処理することを特徴とする消臭性繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、消臭容量が高く、かつ洗濯耐久性に優れた高度な消臭性と、良好な風合いを兼ね備えたポリエステル系繊維構造物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、前記課題、つまり消臭容量が高く洗濯耐久性に優れた高度な消臭性と、良好な風合いをポリエステル系繊維構造物に付与することについて鋭意検討した結果、ポリエステル系繊維構造物にヒドロキシ酸誘導体からなる物質を固着させることによりかかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0008】
本発明においては、ポリエステル系繊維構造物をヒドロキシ酸水溶液に浸漬した後、加熱処理を行うことによってポリエステル系繊維構造物に付着したヒドロキシ酸が化学反応し、ヒドロキシ酸誘導体が生成することにより、ポリエステル系繊維構造物にヒドロキシ酸の重合体の形態で固着すると考えられる。ヒドロキシ酸の化学反応の形態に関して定かではないが、加熱によってヒドロキシ酸のヒドロキシ基とカルボキシル基が反応しポリマー化することによって疎水化するため親和性の高いポリエステル系繊維表面に強固に付着する、すなわち固着するか、あるいは一部ポリエステル系繊維の末端に存在するヒドロキシ基、カルボキシル基と反応、またはエステル交換のいずれかの反応によりポリエステル系繊維と固着した形状となり、非常に高い耐久性が得られるものと考えられる。
本発明で言う固着とは、上記のような疎水化したポリマーが親和性の高いポリエステル系繊維表面に固着する場合、繊維末端に存在するヒドロキシ基、カルボキシル基との反応等によりヒドロキシ酸が固着する場合をいう。
この強固な固着によって、家庭洗濯を10回、50回、さらには工業洗濯を行っても消臭性の低下がほとんど見られず、洗濯10回後のアンモニア消臭性が70%以上となる(社)繊維評価技術評議会の繊維製品消臭加工認証基準に合格する繊維構造物を得ることができる。この付着の強固さは洗濯50回後のアンモニア消臭性が60%以上と洗濯耐久性に優れていることからもわかる。
【0009】
本発明におけるヒドロキシ酸としてはグリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、シトラマル酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、サリチル酸、クレオソート酸、バニリン酸、シリング酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸などが挙げられるが、食用としても用いられていることからわかるように安全性の高さと入手の容易さからクエン酸、リンゴ酸、酒石酸を好ましく挙げることができる。さらには一分子当たりのカルボキシル基の数が多いことからクエン酸がより好ましい。
ポリエステル系繊維構造物100重量部に対するヒドロキシ酸誘導体の付着量は0.01〜100重量部が好ましいが、さらには0.1〜10重量部がより好ましい。付着量が0.01重量部より少ないと十分な消臭性能が得られない場合がある。また100重量部より多いと固着しないヒドロキシ酸が増大するためコスト面で望ましくなく、加えて堅牢度の低下、風合いの硬化も起こる傾向がある。
ポリエステル系繊維構造物をヒドロキシ酸水溶液に浸漬する方法としては特に限定されないが、パッド処理、浴中処理、コーティング処理など一般的な方法が挙げられる。
パッド処理の場合にはヒドロキシ酸および、またはヒドロキシ酸塩水溶液にポリエステル系繊維構造物を浸漬し、マングルで絞り、乾燥後、好ましくは70〜200℃の温度で0.1〜30分間の乾熱処理または湿熱処理するものであるが、乾熱処理の方が、付着性が良好であるため好ましい。より好ましくは100〜190℃の温度での乾熱処理が好ましい。乾熱処理または湿熱処理の後には水洗を行うことが好ましい。
浴中処理の場合には染料とヒドロキシ酸および、またはヒドロキシ酸塩を同浴、または染色後にヒドロキシ酸水溶液にポリエステル系繊維構造物を浸漬することができる。ヒドロキシ酸および、またはヒドリキシ酸塩水溶液にポリエステル系繊維構造物を浸漬し、好ましくは100〜140℃の温度で5〜60分間加熱処理することが好ましい。また、加熱処理後には水洗を行うことが好ましい。
ヒドロキシ酸および/またはヒドロキシ酸塩水溶液濃度としては、最終的に得られる繊維構造物におけるヒドロキシ酸誘導体の付着量が好ましい範囲となるよう適宜調整すれば良く、例えば、5g/L〜200g/L程度が好ましい。
本発明の消臭性繊維構造物には一般的な機能性を有する加工剤を付与しても良い。
本発明の繊維構造物はピリジン系抗菌剤を含むものであることが好ましい。
ピリジン系抗菌剤としては特に限定されるものではなく、例えば、5−クロロ−2,4,6−トリフロロイソフタロニトリル等のニトリル系化合物、2−クロロ−6−トリクロロメチルピリジン、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−メトキシピリジン、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−(2−フリルメトキシ)ピリジン、ジ(4−クロロフェニル)ピリジルメタノール、2,3,5−トリクロロ−4−(n−プロピルスルフォニル)ピリジン、2−ピリジルチオール−1−オキシド亜鉛、ジ(2−ピリジルチオール−1−オキシド)等のピリジン系化合物、N−トリクロロメチルチオフタルイミド、N−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオテトラヒドロフタルイミド、N−トリクロロメチルチオテトラヒドロフタルイミド、N−トリクロロメチルチオ−N−(フェニル)メチルスルファミド、N−トリクロロメチルチオ−N−(4−クロロフェニル)メチルスルファミド、N−(1−フロロ−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオ)−N−(フェニル)メチルスルファミド、N−(1,1−ジフロロ−1,2,2−トリクロロエチルチオ)−N−(フェニル)メチルスルファミド、N,N−ジクロロフロロメチルチオ−N’−フェニルスルファミド、N,N−ジメチル−N’−(p−トリル)−N’−(フロロジクロロメチルチオ)スルファミド等のハロアルキルチオ系化合物、1−ジヨードメチルスルフォニル−4−クロロベンゼン、3−ヨード−2−プロパルギルブチルカルバミン酸、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール、3−エトキシカルボニルオキシ−1−ブロム−1,2−ジヨード−1−プロペン、2,3,3−トリヨードアリルアルコール等の有機ヨード系化合物、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンズチアゾール、2−メルカプトベンズチアゾール亜鉛等のチアゾール系化合物および1H−2−チオシアノメチルチオベンズイミダゾール、2−(2−クロロフェニル)−1H−ベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール系化合物等を使用することができる。
かかる中でも、高い洗濯耐久性とヒドロキシ酸誘導体による消臭性能を両立させるためには、特定の分子量、無機性/有機性値ならびに平均粒径を有するものが好ましく、本発明の抗菌剤は、分子量200〜700、より好ましくは300〜500であり、無機性/有機性値が0.3〜2.0の範囲のものであり、かつ、平均粒径2μm以下、より好ましくは1μm以下であるという特定の抗菌剤を使用するものである。
分子量が200未満のときは、かかる抗菌剤がポリエステル系繊維に付着または吸尽・拡散するが洗濯耐久性は低い。一方、分子量が700を超えるときは、抗菌剤がポリエステル繊維に付着または吸尽しない。好ましくは、抗菌剤の分子量は300〜500である。
上記「無機性/有機性値」とは、藤田稔氏が考案した各種有機化合物の極性を有機概念的に取り扱った値であり〔改編 化学実験学−有機化学篇−河出書房(1971)参照〕、炭素(C)1個を有機性20とし、それに対し各種極性基の無機性、有機性の値を表1の如く定め、無機性値の和と有機性値の和を求め両者の比をとった値をいう。
かかる有機概念で、例えばポリエチレンテレフタレートの無機性/有機性値を算出すると0.7となる。本発明は、かかる有機概念で算出された値をもとにして合成繊維と抗菌剤との親和性に注目し、無機性/有機性値が所定の範囲内にある抗菌剤をポリエステル系繊維に付着または吸尽・拡散させたものである。
無機性/有機性値が0.3未満の場合は有機性が強くなりすぎて、逆に1.4を超える場合は無機性が強くなりすぎて、ポリエステル系繊維に付着または吸尽・拡散しにくくなる。無機性/有機性値は0.35〜1.3であることが好ましく、0.4〜1.2であることがより好ましい。
かかる抗菌剤の繊維構造物への付与は、ヒドロキシ酸が繊維構造物に固着される前であっても、後であっても、また同時でも良い。ヒドロキシ酸、ピリジン系抗菌剤のいずれもがポリエステル系繊維と固着していることで、両者が高い洗濯耐久性を示し、消臭性能および抗菌性能を両立できることとなる。
また、本発明においては繊維表面に吸水剤が付着していることも好ましい。
吸水剤については、特に限定されるものではないが、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂など通常の吸水剤を用いることができる。中でも親水性ポリエステル系樹脂が好ましく、親水性ポリエステル系樹脂としては酸成分、グリコール成分からなるポリエステルセグメントにポリエチレングリコールを共重合せしめたポリエステルエーテル共重合体が好ましく使用できる。酸成分としてはジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸などから選ばれる少なくとも一成分が挙げられる。グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールなどから選ばれる少なくとも一成分が挙げられる。ポリエチレングリコールの分子量としては800〜3000のものが好ましく使用できる。具体例としては、ジメチルテレフタレート/エチレングリコールのモル比が7〜9/3〜1で繰り返し単位が5〜8であり、ポリエチレングリコールの分子量が8000〜30000の共重合ポリエステルや、テレフタル酸ジメチル/5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル/エチレングリコールが250/200/330部の反応混合物と分子量2000のポリエチレングリコール100部の共重合ポリエステル樹脂が例示できる。
【0010】
親水性ポリエステル系樹脂を繊維構造物に付与する方法としては、繊維構造物にヒドロキシ酸および、またはヒドリキシ酸塩水溶液を付与し、ヒドロキシ酸誘導体とした後に、親水性ポリエステル系樹脂を付与する方法や、親水性ポリエステル系樹脂とヒドロキシ酸および、またはヒドリキシ酸塩とを混合した状態で繊維構造物に付与する方法、繊維構造物に親水性ポリエステル系樹脂を付与した後に、ヒドロキシ酸および、またはヒドロキシ酸塩を付与する方法等が挙げられる。中でもヒドロキシ酸誘導体が最表面にあると臭気が接触しやすく高い消臭性が得られるので、繊維構造物に親水性ポリエステル系樹脂を付与した後に、ヒドロキシ酸誘導体が固着させる形状がより好ましい。
ヒドロキシ酸と親水性ポリエステル系樹脂とを混合して繊維構造物上に設ける場合、その混合比は、ヒドロキシ酸誘導体の固形分と、ポリエステル系樹脂の固形分との重量比で、ヒドロキシ酸誘導体の固形分/ポリエステル系樹脂の固形分が100/0〜100であり、好ましくは100/0〜40である。
また、本発明の繊維構造物は繊維表面に撥水剤が付着していることが好ましい。撥水剤としては特に限定されるものではなくシリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤、パラフィン系撥水剤等、通常の撥水剤を用いることができるが、耐久性の面からフッ素系撥水剤が好ましい。また、耐久性向上の面から撥水剤にメラミン樹脂、多官能ブロックイソシアネート基含有ウレタン樹脂を併用添加しても良い。かかる撥水剤は基本的にはヒドロキシ酸誘導体と同時、またはヒドロキシ酸誘導体が固着した後に、撥水剤を付与することが好ましい。
その他、機能性を有する加工剤としては無機系消臭剤、中性または塩基性有機系消臭剤、光触媒、防汚剤、吸湿剤、帯電防止剤、着色剤、増摩剤などが挙げられる。
本発明におけるポリエステル系繊維構造物としては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系繊維、芳香族ポリエステルの酸性分あるいはアルコール成分として、例えば、イソフタル酸、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸などを用いた共重合体からなる繊維、ポリエチレングリコールなどをブレンドした芳香族ポリエステル系繊維、L−乳酸を主成分とするもので代表される脂肪族系ポリエステル系繊維などが挙げられる。本発明ではこれらの繊維を単独または二種以上の混合物として使用することができる。
【0011】
また、本発明で用いられる繊維は、通常のフラットヤーン以外に、仮撚り加工糸、強撚糸、タスラン糸、太細糸および混繊糸などのフラットヤーンであってもよく、ステープルファイバーやトウ、あるいは紡績糸などの各種形態の繊維であってもよい。
本発明の繊維構造物には、前記繊維を使用してなる編物、織物または不織布などの布帛状物、あるいは紐状物などが含まれる。
本発明の繊維構造物は、耐久性ある消臭性を有することから、衣服や寝装具、具体的には、スポーツシャツ、学生服、介護衣料、白衣、ブラウス、ドレスシャツ、スカート、スラックス、コート、ブルゾン、ウインドブレーカー、手袋、帽子、布団側地、布団干しカバー、カーテンまたはテント類など、衣料用途品、非衣料用途品などの用途に好適に使用されるものである。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により、本発明の繊維構造物について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。実施例中の品質評価は、次の方法で実施した。
(洗濯方法)
JIS L0217「繊維製品の取扱いに関する表示記号及びその表示方法」(1995)の付表1の103に規定されているように家庭用電気洗濯機に、浴比1:30となるように40±2℃の水を入れ、弱アルカリ性合成洗剤を添加して溶解し、強条件で5分洗濯した。次いで排水・脱水し、2分間水洗・脱水後、再び2分間水洗・脱水した。この工程を1回としてこれを10回あるいは50回繰り返した後、つり干しし、評価に用いた。
(工業洗濯方法)
ドラム型洗濯乾燥機(Miere製 WT946wps)に、浴比1:10となるように60±2℃の水を入れ、無リンダッシュ 2g/Lとメタ珪酸ソーダ 2g/Lを添加して溶解し45分間洗濯した。次いで排水・脱水し、40℃の水で9分間水洗・脱水後、再び5分間水洗・脱水した。さらに100℃で46分間乾燥を行った。この工程を1回としてこれを15回繰り返し、評価に用いた。
【0013】
(消臭性)

10cm×5cmに裁断した試料を入れた500mlの容器に初期濃度が300ppmになるようにアンモニアガスをいれて密閉し、30分間放置後、ガス検知管で残留アンモニア濃度を測定した。このとき、試料を入れずに同様の操作を行い残留アンモニア濃度を測定したものを空試験濃度とし、下記の式に従い消臭率(%)として算出した。
消臭率(%)=(1−(ガス検知管測定濃度)/(空試験濃度))×100
数値が大きいほど、消臭性が良好なことを示す。
(抗菌性)
JIS L 1092「維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果の定量試験法(菌液吸収法)」により肺炎桿菌に対する評価を行った。
【0014】
0≦L(殺菌活性値)を合格とする。 (吸水性)
JIS L 1096に規定される方法で、布地上に水滴を落とし、それが完全に吸収されるまでの時間を測定し、(秒)で表示した。
【0015】
(撥水性)
JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(1998年)に規定される方法でスプレー法により評価を行い、級判定を行った。
(実施例1〜2)
84デシテックス、72フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維と84デシテックス、36フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維を用いて編物を編成し、これを常法に従い精練、乾燥、中間セットした。次いで液流染色機を用いて常法により染色し、湯水洗、乾燥した。これを下記に示したヒドロキシ酸水溶液に浸漬し、絞り率91%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。
【0016】
実施例1;クエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級)
18g/L
実施例2;クエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級)
100g/L
得られた加工布は、表1に示すとおり、消臭性、耐洗濯性に優れるものであった。
(実施例3)
実施例1で用いた布帛と同様の編物を実施例1と同様の処理を行った後に60℃で湯洗したのち、続いて水洗、脱水、乾燥後に150℃で1分間仕上セットした以外は実施例1と同様の処理を行い、実施例3の布帛を得た。得られた加工布は、表1に示すとおり、消臭性、耐洗濯性に優れるものであった。
(実施例4,5、6)
実施例1で用いた布帛と同様の編物を下記に示したヒドロキシ酸水溶液に浸漬した以外は実施例1と同様の処理を行い、実施例4,5、6の布帛を得た。得られた加工布は、表1に示すとおり、消臭性、耐洗濯性に優れるものであった。
【0017】
実施例4;DLリンゴ酸(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級)
30g/L
実施例5;L-(+)-酒石酸(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級)
30g/L
実施例6;乳酸(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級) 30g/L
(比較例1)
実施例1で用いた編物について、染色、湯水洗、乾燥後に消臭剤水溶液による処理を行わないものについて、実施例1と同様の性能評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例2〜4)
実施例1で用いたと同様の編物を下記に示した薬剤水溶液に浸漬した以外は実施例1と同様の処理を行い、比較例2〜4の布帛を得た。得られた加工布は、表1に示すとおり、特に耐洗濯性に劣るものであった。
比較例2;アジピン酸(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級) 30g/L
比較例3;マロン酸(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格1級) 30g/L
比較例4;ポリアクリル酸樹脂((株)日本触媒:製、アクアリックHL415
(固形分45%) 40g/L
(比較例5)
綿100%織物(金巾3号)を比較例5とし、洗濯前後の消臭性の評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例6)
比較例5で用いた綿100%織物(金巾3号)を表1に記載のヒドロキシ酸水溶液に浸漬し、絞り率60%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布は、表1に示すとおり、耐洗濯性に劣るものであった。
【0018】
(実施例7)
経糸に72デシテックス、60フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維、緯糸に56デシテックス、24フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維を使用して経糸密度118本/2.54cm、緯糸密度70本/2.54cmのツィル織物を製織した後、常法に従い精練、乾燥、中間セットした。次いで下記のヒドロキシ酸と抗菌剤の溶解・分散液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。次いで60℃で湯洗したのち、続いて水洗、脱水、乾燥後に150℃で1分間仕上セットした。
得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、抗菌性の耐洗濯性に優れるものであった。
クエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格一級) 18g/L
“MR−T100”(大阪化成(株)製、ピリジン系抗菌剤、固形分19%) 15g/L
(実施例8)
実施例7と同様の織物を、下記の抗菌剤の水分散液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。
“MR−T100”(大阪化成(株)製、固形分19%) 15g/L
次いで下記に記載のヒドロキシ酸水溶液に、得られた織物を浸漬し、絞り率55%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした後、60℃で湯洗し、続いて水洗、脱水、乾燥後に150℃で1分間仕上セットした。
【0019】
クエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製、ナカライ規格一級) 18g/L
(実施例9)
実施例7と同様の織物を、常法に従い精練、乾燥、中間セットした。次いで液流染色機を用いて吸水剤(親水性ポリエステル系樹脂:“TM−SS21”(松本油脂製薬(株)製))6%owf、浴比1:10、pH5の液中に浸し、130℃、60分間の条件で染色加工の常法に従って処理した。これを下記に記載のヒドロキシ酸水溶液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、吸水性に優れるものであった。
【0020】
クエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製 ナカライ規格一級) 18g/L
(実施例10)
実施例7で用いた布帛と同様の織物に、吸水剤を付与した後ヒドロキシ酸水溶液に浸漬する実施例9と同様の処理を行った後に湯水洗を行ない、150℃で1分間仕上セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、吸水性に優れるものであった。
(実施例11)
実施例7と同様の織物を常法に従い精練、乾燥、中間セットした。次いで液流染色機を用いて常法に従って染色した。これをクエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製 ナカライ規格一級)18g/Lの水溶液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。さらに下記の吸水処方に従って調液した加工液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、吸水性に優れるものであった。
<吸水処方>
(a)“SR1800”(高松油脂(株)製 親水性ポリエステル系吸水剤):60g/L
(b)“SR−CA−1”(高松油脂(株)製) 吸水剤用触媒):6g/L
(実施例12)
実施例7で用いた布帛と同様の織物をクエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製 ナカライ規格一級)18g/Lの水溶液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。次いで湯水洗を行ない130℃で乾燥した後、さらに下記の吸水処方に従って調液した加工液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、吸水性に優れるものであった。
(実施例13)
実施例7と同様の織物を常法に従い精練、乾燥、中間セットした。次いで液流染色機を用いて常法に従って染色した。これを下記の処方に従って調液した加工液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、吸水性に優れるものであった。
<処方>
(a)クエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製 ナカライ規格一級):18g/L
(b)“SR1800”(高松油脂(株)製 親水性ポリエステル系吸水剤):60g/L
(c)“SR−CA−1”(高松油脂(株)製) 吸水剤用触媒):6g/L
(実施例14)
実施例13と同様の処理を行った後、湯水洗し、150℃で1分間仕上セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、吸水性に優れるものであった。
(実施例15)
実施例7と同様の織物を常法に従い精練、乾燥、中間セットした。次いで液流染色機を用いて常法に従って染色した。これをクエン酸(無水)(ナカライテスク(株)製 ナカライ規格一級)18g/Lの水溶液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。さらに下記の撥水剤および架橋剤を調液した加工液に浸漬し、絞り率53%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性、耐洗濯性、撥水性に優れるものであった。
<撥水処方>
(a)“FX860”((株)京絹化成製 フッ素系撥水撥油剤):60g/L
(b)“ベッカミンM−3”(大日本インキ化学工業(株)製 トリアジン環含有化合物)
:3g/L
(c)“ベッカミンACX”(大日本インキ化学工業(株)製 触媒):1g/L
(比較例7)
実施例7で用いた布帛と同様の織物に、一時帯電防止剤として“エレナイト139”(高松油脂(株)製) 10g/L溶液に浸漬し、マングルで絞り、130℃で乾燥した後、160℃で1分間セットした。得られた加工布は、表2に示すとおり、消臭性は無く、洗濯後は吸水性にも劣るものであった。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、消臭容量が高く、かつ洗濯耐久性に優れた高度な消臭性と良好な風合いを兼ね備えたポリエステル系繊維構造物が得られ、消臭性および洗濯耐久性が要求される一般衣料用、産業資材用として広範に渡って利用することができる。
【0024】
また、抗菌加工や吸水加工、撥水加工との併用によっても各々の機能を両立させることができる多機能を有するポリエステル系繊維構造物として活用できるものである。